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恋愛小説家 As Good As It Gets
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 偏屈で人嫌いで潔癖症の小説家が、あるウエイトレスと出会って恋をし、不器用ながらも想いを伝えあってゆくというストーリーです。
 これは楽しい映画でした〜。とにかく役者がいいです。主役の二人はもちろん、脇役の一人一人、ほんのチョイ役に至るまでキャラクターが際立っていて、作品を単なる二人の恋愛ものに終わらせず、味わい深いものにしていました。
 まず小説家を演じたジャック・ニコルソンが、もうこの役はこの人しかできんってくらいのはまりっぷりです。ものすごい性格悪のエゴイスト、しかも顔も怖いし声もデカイので、どうしたって完全な嫌われ者なんだけど、それでいてどこか子供っぽくて愛敬があったりする。何だか憎めない。そんな人物をニコルソンは楽しげに演じ切っていました。
 対するウェイトレス役のヘレン・ハントも良かったです。小説家に対しても物怖じせずずけずけ物を言えちゃう、凛として爽やかな、表情豊かでそして愛情深くもある女性像は、とっても魅力的。「ツイスター」の時はまったく印象に残らなかった女優さんなんですけどねぇ。しっかりした脚本なら、ちゃんとそれに応えられる演技力を持った人なんですね。
 物語は基本的にこの二人を中心に進むんですけど、脇を支えるいい仕事をしていたのが、小説家の隣人である、ゲイの画家を演じていたグレッグ・キニアです。この画家は物語上次から次へと不幸に襲われるかなりかわいそうな役なんですが、それを彼は実に繊細でしっかりした演技で演じ、痛ましい心情を印象的に表現していました。最初は画家の不幸ぶりを馬鹿にしまくってた小説家も、だんだんと彼に同情してきてしまうんですよね。それもキニアの演技力があったから、あの性悪の小説家すら同情する、ということの説得力が生まれてたんだと思います。
 そして忘れてはならないのが「犬」です。もともと画家の飼っていた小犬を、とある事件が元で小説家が預かることになります。初めは面倒がっていた小説家も、次第に情が移ってきて、しまいには画家に返すのを嫌がるほどになる。この犬の演技が絶品なんですね。表情や動作が実に多彩で、「警戒しながら餌ににじり寄る」とか「目をウルウルさせる」とか、これ本物の犬なの? それこそCGかなんかじゃないの? と、あらぬことを想像してしまうくらい、憎い演技をしてくれてました。アカデミー動物賞があったら取らせてあげたかったくらいです。
 その他にもこの映画には芸達者がいっぱいです。画家の友人である黒人男性や、ウエイトレスの母親、彼女の息子の担当医、果てはバーテンやバスの同乗者といった一カットしか画面に登場しないような人々まで、みんなに味と存在感があって、物語に厚みを持たせていました。キャラクターの立っている映画が好きな私は、観てる間じゅう嬉しくてニマニマしちゃってました。
 物語も山あり谷ありで退屈させませんし、ラストも綺麗に締めくくってくれました。かなり良かったです〜。あえて難を言うなら、ウエイトレスの性格付けや行動にちょっと「狙いすぎ」と思える部分があったのが気になったくらいかな。でもそれを差し引いても、この映画の魅力はさほども損なわれません。人生と恋に対する賛美に満ちたこの作品、観ればきっと元気になること間違いなしですよ。
 ところで観てる間はまったく気付かなかったのだけど、この映画の音楽は私の大好きな燃える作曲家、ハンス・ジマーが担当してたんですね〜。アクション映画なんかだといつも音楽を前面に出して、無理矢理に盛り上げてくれる人なのですが、この映画では影に徹してたみたいです。まあ、当たり前ですけど(笑) 



(98.05.31)