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A.I. Artificial Intelligence
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 環境の激変による人口の激減に伴って、精巧な人型ロボットが人間社会に溶け込んだ未来の地球。そんな中、初めて『愛情』の概念を組み込まれて作られた一体の少年型アンドロイドが、母親の愛を求めて苦闘する――という作品です。

 まず、この映画における特撮技術の素晴らしさは、手放しで褒めるにじゅうぶん値するものでしょう。CGを駆使していると分かってはいても、思わず目を疑ってしまうようなシーンの連続で、アンドロイドの描写など、ナマナマし過ぎてグロテスクに思えることもしばしばありました。実際、先日観た『ハンニバル』などより、よっぽど残酷で恐ろしい場面も多かったほどです。

 役者の中では、色男ロボット「ジョー」を演じたジュード・ロウが抜群でした。表情といい動作といい、いかにもメカっぽい雰囲気をうまく出していて、さすがに巧いなぁと感心させられることしきり。どこまでCGなのか分からないくらいでしたよ。この物語の、もう一人の主人公と言ってもいいでしょうね。
 メインの主役であるハーレイ・J・オスメントくんも、相変わらずオトナ顔負けの演技力を見せてくれていたのですが……今回はいささか新鮮味に欠ける感じがしてしまったかな。『シックス・センス』『ペイ・フォワード』と、こうも似たような役柄ばかり続いては、さすがに食傷気味にもなろうというもの。末恐ろしいほどの才能を持っているのだから、次回作では何か新境地にチャレンジしてみてほしいとこです。

 と、ここまで表層部分の感想ばかりを述べてきましたが、さて肝心の物語の出来はというと――

 正直なところ、私にはかなり物足りない内容でした。腑に落ちない、納得のゆかない部分が多すぎます。
 前述の主役二人と、クマのぬいぐるみ型ロボット「テディ」を除くと、登場人物はどれも通り一遍の描写しかされておらず、魅力や存在感に欠ける人ばかり。主人公が最終目標として追い求める母親のキャラクター描写さえ曖昧なせいで、ドラマが盛り上がらない事この上ありません。そのくせ上映時間ばかりが長いので、後半などはかなり間延びした印象を受けてしまいました。

 そもそも――
(以下、枠内ネタバレにつき、反転してお読み下さい)

 ――この物語の主人公である少年型ロボット「デイビッド」に、ほんとに『愛情』なるものが組み込まれていたのかが、私には大いに疑問なのです。私の目には、彼の行動原理は『母親を占有したい』『愛している、と言ってもらいたい』というだけの、極めて単純なエゴイズムにしか映りませんでした。何しろ、あれだけ世話になったジョーとお別れする時に平然としていたり、自分とそっくりのロボットを半ば衝動的にぶっ壊して(意味的には“ぶっ殺して”)みたり、挙げ句の果てには、母親と再会したときに父親も兄もいない事を素直に喜んでいたり……。彼の行動からは、およそ『愛情』と呼べるようなものは感じ取れません。あるのはただ、母親たるモニカという女性の占有欲、それだけです。母親を手に入れさえすれば、彼はもうそれで満足なのですから。これはとうてい『愛情』と呼べるようなものではありませんね。ただ単に、母親を求めるようプログラムされていた、というだけのことです。
 私としては、そこからもう一歩踏み込んだところまで描いてくれることを期待していました。つまり、『人間と“モノ”とを分けるラインはどこにあるのか』、あるいは『“自分という存在”とは何なのか』といったような、それこそ哲学の根本となるようなテーマを、です。そうでなければ、わざわざ人型ロボットという設定を持ち出してきた意味がないでしょう。単なる母親探しだけのストーリーなら、現実世界の人間でも出来るわけですから。
 確かにラスト、唐突に現れた正体不明の異星人(あるいは、進化したロボット?)が、そういうテーマを若干持ち出しては来ます。しかしそれも“ほのめかし”程度のものに過ぎず、ぼんやりとした問題提起として空に放り出されたまま、作品中では何らの答えも、方向付けさえも示してくれないのです。

 そういった深遠なテーマは抜きにして、単純に『母と子の再会のドラマ』として観た場合でも、この作品の脆弱さはやはり否めません。前述したような理由に加え、何より、親子の結びつきの深さを描くエピソードが、決定的に不足しているためです。母と子が親密に触れ合うシーンはごくわずかで、その後は、復活した「実の息子」に苛められた挙げ句に捨てられるまでが、一気に語られてしまいます。これでは、この母子に同情や感情移入をする暇もありません。このあたりがもっと濃密に描かれていれば、デイビッドが懸命に母を追う姿にも、そしてラストでの再会にも、きっとずっと深く胸を打たれたことでしょうに。

(以上)

 各種パーツごとの出来はいいだけに、脚本を煮詰め切れていないことがよけい残念に思えてしまうような、観ていてイラだちを禁じ得ないような、そんな作品でした。今まであれだけ勿体ぶってた映画なんだから、もうちょっと期待に応えて欲しかったとこです。SFXと俳優の力ばかりに頼った映像ショーじゃ悲しいですぞ……スピルバーグ様。



(01.07.05)