Text - Movie


"Movie" Menu] ["All Movies"


アメリカン・ヒストリーX American History X
●●●●●



 白人至上のネオナチズムに傾倒する兄と、彼に影響され憧れつつもどこか冷ややかな視点を持つ弟、この二人が周囲を巻き込みつつ辿る運命を描いて、現代アメリカの暗部を浮き彫りにする作品です。監督はこれがデビュー作だというトニー・ケイ。

 今さら私が言うまでもないほど言われ尽くされていることなんですけど、この映画の見どころといったら何と言ってもエドワード・ノートンです。兄役である彼の演技がとにかく凄い! 迫真という言葉がまさに相応しい熱演ぶりで、それでいて演技過剰にも陥っていません。ネオナチ信仰に狂的なまでにはまり込んだ男の姿を体全体で表現し、映画そのものの構成と相まって、まるでドキュメンタリー映像でもあるかのような錯覚を味わわせてくれます。
 また、弟役のエドワード・ファーロングもなかなかの好演でした。私が彼の名前を聞くのは『ターミネーター2』以来になるのですが、あの当時の綺麗な顔だちのまま、品のある色気まで加えて成長していたようです。そのクールで諦観に満ちたたたずまいが、エネルギッシュなノートンとうまい対比になり、相乗効果で魅力を引き出しあっていたのも良かったですね。

 役者に関してはパーフェクトなこの作品、しかし映画全体として見てみると、いろいろと不満点が浮かんできます。
 まず、物語構成がややギクシャクしていること。とりわけ、兄が自分の思想の誤りに気付いて脱却を図る部分、物語の一番重要なポイントとなるこの部分に、明らかに説得力が不足しているのは問題でしょう。あれだけネオナチに入れ込んでいた彼が、多少のことで思想の転換に至るとは思えません。それ以前のノートンの演技が圧倒的だっただけに、なおさらそう感じてしまうのです。ここで拍子抜けしてしまうために、物語全体のリアリティが一気に失われてしまっています。
 また、映像が「綺麗すぎる」のも気になりました。カラーとモノクロを使い分けた画面は、さすがCM畑出身の監督だというべきか、非常にシャープで美しいものです。しかし、センセーショナルな内容をドキュメンタリータッチで描いたこの作品にとって、綺麗すぎる映像はかえって逆効果。もっとザラついたドライな映像の方が、より生々しさを表現できたはずです。これと同様のことが、音楽にも言えます。音楽自体は美しいもののその使われ方が過剰で、観客の側としては煽られすぎて、かえって気分が醒めちゃうんですね。もっとポイントを抑えて欲しかったところです。

 映画の手法自体は優れているし、役者も抜群に良い。でもそれが肝心の物語と今ひとつ噛み合ってない。もったいないなー、というのが私の感想ですね。とはいえ、デビュー作でこれだけの作品を作り出してしまうトニー・ケイ監督、次作に大いに期待です。



(01.09.21)