Text - Diary - Past - 2000 Selected the 2nd Half


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00.07.12

 青空の下、まさに焼けるように熱い日差しを受けながら、私はSSG氏と二人、近くの公園でキャッチボールしてました(会社にも行かずに何やってんだ、俺……)。

 しかし、たかがキャッチボールとあなどってはいけません。これが思いのほか難しいのです。ボールを受けて相手のところへちゃんと投げ返す、たったこれだけのことなのに、私はコツをつかむまでえらく苦労してしまいました。……まあ、もともとの運動神経の鈍さは否定できませんけど。
 とにかくボールがまっすぐ飛んでくれません。気持ちはSSG氏へとまっしぐらに向かっているのに、どうしてもあらぬ方向へ飛んでいってしまうのです。そのたびに首をひねり、自分なりに投げ方を考えたり、SSG氏の教示を受けたりして、少しずつフォームを改善してゆきました。その甲斐あってか、最終的には、始めたばかりの時よりだいぶマシにはなっていたようです。

 さて、1時間かそこらも投げ合い、二人ともすでに汗びっしょり、息もあがりかけていた頃のことでしょうか。ここで、まったく思いも寄らぬことが起こったのです。
「あの〜、すみませんけど……」
 背後から、私を呼びかける声がします。振り向くとそこに、私たちよりいくぶん若く見える感じの女性が一人、笑顔を向けて立っていました。見たところ買い物帰りか何からしく、手にはバッグのほかに、スーパーのビニール袋などを下げています。
 なんだろ、道でも尋ねられるのかな? などと思いつつ、とりあえず「なんでしょう?」と応えたら、
「よかったら、私にもやらせてもらえませんか……?」
「えっ、キャッチボールを……ですか!?」
「……ハイ」
 まるで予想だにしないこの展開。心底驚きながらも、私もSSG氏も、内心では大喜びです。当然、彼女の申し出を断る理由など、あろうはずもありません。二つ返事で、
「ええ、もちろん大歓迎ですよ!」
「わぁ、よかった〜。見てたら、楽しそうだったんで……」
 ニコニコ顔で近寄ってきたその女性は、話し方も顔立ちもかわいらしくて、女性というより『女の子』と呼ぶほうが合っているような、明るい雰囲気の人でした。要は、『文句ナシ』ということです。

 その後しばらくの間、彼女を含めた三人で、白球を応酬しあいました。グラブが二人分しかなかったので、ときどき交代したりしながら。
 正直に言います。これ、かなーり、楽しかったです……。やっぱり女のコが入ってくると、楽しさの度合いが全っ然違うんですよ。しかも彼女、キャッチボール自体がうまいのです。コントロールもいいし、こちらがちゃんとしたボールさえ投げれば捕球もしっかりしてくれるし。だからこそ「仲間に入れて」となったのでしょうが、少なくとも私よりよっぽど腕前は上でしたね。

 そうして至福の時は過ぎ、やがて彼女は「じゃあ、そろそろ……。ありがとうございました〜」と言い残し、去ってゆきました。うーん、なんともラッキーな経験をしたものです。こんないい事が転がり込んでくるなんてことが現実にあるんですねぇ。まるでゲームみたいです。

 それにしても、まったく見ず知らずの男二人組に声をかけて、「まーぜーて」と言えてしまう彼女の社交性の高さには、ちょっと敬服いたします。それとも、私とSSG氏のコンビって、女性にまるっきり警戒心を与えないような雰囲気を発してたのかな。おそらくはその両方が重なって、今回のような展開となったのでしょうね。

 ただ惜しむらくは、彼女の名前も携帯の番号さえも、何一つ聞いていなかったってことですね……もう二度と会える事もないんだろうな、ちぇーっ。


00.07.13

 本棚の修理をしました。
 蔵書数が多くなりすぎて、その重みに耐えられず、移動式棚の留め具がダメになってしまったのです(←『蔵書』とか聞こえのいいコトバ使ってるけど、棚からあふれてんのはほとんどマンガです……ご想像どおり)。
 仕方がないので、L型の固定金具を買ってきて、ドライバーでがっちり固定しちゃいました。にわか大工マンですな。これだけやっておけば、そうそう棚が崩壊することはないでしょう、うん。

 作業自体は楽しかったですよ、なんだか新鮮で。それに、黙々と木工作業に精を出す大工マンって、けっこうストイックでカッコイイかも。何しろ、

ダイナミィック、ダイクマ〜ン!!

 とかってテーマソングもありますしね!

 ――すみません、今のは聞かなかったことにしてください……。
 元ネタが分かる人がどれだけいるかも怪しいし、そもそも。


00.09.06

 私は自分自身を、かなり常識的で人畜無害な、模範的一般市民であると自負しております。それは、こうしてあえて自己申告する必要もないほど周知の事実でもあるはず。その容姿と身体能力と性格以外には、これといった欠点が見つかりません。

 それなのに私の友人たちは、どうしてこう一風変わった人ばかりなのでしょう。特に最近は、携帯に奇妙なEメールを送ってくるという遊びを彼らが覚えてしまい、困惑しています。ほんの一例としては、

『これもおツマミですわね』
『鬼畜になりました。ヒントは尻』
『元気になるなりよ、ウッホホウッホホ(ゴリラバージョン)』
『どうか』

 ――など、など。しかもこれらは全部、別々の人から送られてきたものです。こういった、明らかに常軌を逸したメール群に対して、一般人である私に、どう対処すればよいというのでしょう。私の出すメールは至って真面目なのになぁ……。ねえ、みなさん。


00.09.07

「『ウルトラマン』についての知識って、かなりどうでもいいことまで覚えてたりするもんだよね、意外に。別にオタクな人じゃなくても」

 唐突ですが、以下はK氏との会話です。

「ツインテールって怪獣が、『食べるとエビのような味がして美味い』とか?」
「そうそう。グドンの餌になるんだよな。当時、“ウルトラマンかるた”っていうのがあってさ、それの“つ“が、『ついんてーるは ぐどんのえさだ』だったのを覚えてるよ、一字一句間違いなく」
「餌になるってくらいだから、あんなのが実は地球上のどこかに、うじゃうじゃ棲んでるって事なんだろうね」
「そういうことになるよな。そういえば、ケムジラって怪獣も、バードンの餌って設定だったよ」
「それは知らなかった。両方ともどんな怪獣だか俺は知らないけど、その名前からすると、毛虫と鳥が元になってるっぽいな」
「うん、そのまんま。でもさ……このケムジラってのが、イメージと全然逆で、とにかくものっすごい強さなんだよ。目を疑うくらいに。ウルトラマンタロウがボッコボコにされちゃうんだ、まるっきり手も足も出ないような感じで。まだ物語の序盤のほうなのにいいのかよ、と思ったくらいだったもん」
「それは大ごとだな。すると、そんなに強いケムジラを餌なんかにしちゃうバードンってのは、それに輪をかけて強いってことになるね」
「そうだよ。実際、タロウは、バードンにくちばしで胸をグサッてやられて、殺されちゃってたからね」
「殺された、のか? それで、いったいどうやって復活したんだよ」
「そこら辺はよく覚えてないんだが……確かゾフィーあたりが助けてくれたんじゃないかなあ。蘇った後は、いろいろ策略使って、なんとかバードン倒せたんだけどね」
「いつもながら使えるやつだな、ゾフィー」
「とりあえずゾフィー出しとけばなんとかなる、みたいなところあるからな。そのゾフィーの撃つM87光線ってのがまた、めちゃくちゃ強くてね。宇宙の光線コンテスト、みたいなので優勝したこともあるんだって。その温度が87万度あって、コンテストの最高記録だったらしいんだ。……でもさあ……」
「何? 87万度って相当だぜ。太陽の表面だって6千度しかないのに」
「87万度どころで驚いてる場合じゃないよ。初代のウルトラマンに出てきた、ゼットンって怪獣いるじゃん。あいつの撃つ火の玉って、1兆度あるんだよね……」

 一時期はシリーズの怪獣の名前を全部覚えていたというK氏。そんな彼のウルトラマン知識には、ただただ脱帽するしかありませんでした。しかも今でも、覚えすぎてるほど覚えてるし。

 知識が豊富、というのは本来尊敬に値することだと思うのですが、それが妙な方向に突出していると、なぜか笑わされてしまうものですな。


00.09.30

 電話の呼び出し音が鳴りました。普通ならあり得ないような深夜です。
 受話器を取ると、落ち着いた感じの女性の、しかし聞き覚えのない声の主が名乗りました。

「もしもし……私、SSGの妹ですけど」

 この時うちにはたまたま、K氏とししょう氏、それに彼の友人が来てくれていました(あの狭い部屋に男が4人も……)。でもSSG氏は来ていなかったし、そもそも妹さんから電話ということ自体、前例のない事です。
 すっかり戸惑いつつ、
「どうかなさったんですか?」
「あのですね、」
 その冷静な口調とは裏腹に、予想だにしない答えが返ってきました。

「――うちの兄が、亡くなってしまったので……」

「はぁ!?」思わず聞き返しました。「どういうことですか、それ!?」
「自殺したんです」

 半ば事務的なやり取りののち電話を切ったあと、私の部屋には、体験したことのない重い沈黙だけがありました。まともなことが喋れる人間は一人もいませんでした。

 現実感など持てようはずもありません。何かの間違いだ、あるいは質の悪い冗談かなにかだ。それぞれがそんなふうに思っていたのでしょう。

 酒の入ったグラスを持ったまま、どこを見るでもない視線も動きも固まってしまい、ときおり誰かから漏れる溜め息が聞こえるばかり。まるで時が止まったかのようでした。


00.10.03

 彼は、綺麗な顔で眠っていました。棺のふたを開けて揺り動かせば、簡単に目を覚ます、そんなふうに思わせるほどに。
 『現実』を目の当たりにしても、私の中での現実感はほとんど変わりませんでした。少しは変わるかと思っていたけど。 

 こんな悲惨な事実を目の当たりにしても、それを平然と、冷静に受けとめている私がいます。自分でも不思議なほど。
 哀しみや淋しさといった気持ちはもちろんあります。現実感が薄い今でこそまだ救われてはいますが、これからは彼の不在ということの意味を、何かにつけて噛み締めることになるはずです。

 自責の念に駆られもします。もしかしたら彼を助けられたかもしれない、彼からのSOSを受け取れていなかったのかもしれない。そしてその思いはきっと、この先もずっと続くでしょう。

 それでも今こうして冷静でいられるのは、彼が死という安易な逃げ道を選んでしまったことに、どうしても納得できていないからだと思います。

 少なくとも私の知っている彼は、自分の人生をこんな形で投げ捨てるような人じゃなかった。むしろまったく逆で、責任感と前向きな意志に満ちた人だった。自分から死を選ぶなんて絶対有り得ないと思わせてくれる人だったんです。

 そんな彼がどうしてこんな行為に走ってしまったのか、やはり釈然としないとしか言いようがない。

 だから、遺体との対面にせよ葬儀にせよ、何かタチの悪い冗談か、茶番のようにしか思えませんでした。  


00.12.04

 なんとか新しい勤め先が見付かったので、これを契機に再びホームページを復活させることにしました。ここ何ヶ月かずっと情緒不安定だったのもようやく落ち着いてきた感じです。またこれからもよろしくお願いしますね。
 空白期間の日記は近日中にアップする予定です。毎度のことながら「予定は未定」なのですが……。

 でも、精神的にかなりこたえる出来事がいくつも重なっていて、正直なとこ、日記に書き残すのが辛いですね。とっとと忘れるべきなのでしょうか。だけど、辛くても忘れちゃいけないことだってあると思うので、人間のオロカシサというものをしっかり書き留めてゆきたいです。99%は私自身のことなんですけど。


 ともかく、今日は新職場でのスタート第一日だったのでした。やはり相当緊張しちゃいました。私も「人の子」だと改めて思いましたよ。「ガチャピン」なんかじゃなかったんだ。
 職場の皆さんは気のいい人ばかりで、和気あいあいと仕事をしている雰囲気があって、すごくいい感じでした。まずは人間関係でストレス溜めることなく済みそうで何より。

 もっとも、仕事そのものはだいぶキツそうではありましたが……そのぶん待遇は前の会社よりずっといいので、何とか頑張っていけそうです。ファイトだ、俺。


00.12.09

 K氏が家庭教師のアルバイトを始めたそうです。相手は、受験を間近に控えた中学3年生の男の子。

「――で、教科は?」
「とりあえず英語ってことになってるんだけど……これが大変でさぁ」
「自分もだいぶ忘れちゃってるとか?」
「いや、そういうレベルじゃなくて……。なんか、『まさか!』と思うようなことを知らないんだよね、その子。何しろさ、『“I was〜”の“was”ってなんですか?』とか聞かれちゃうんだよ」
「何だってぇ?! だってその子、もう中三だろ?!」
「さすがにびっくりするだろ、これ。過去形だとか三人称だとか、そういう思い切り基本的なことすら分かってないんだぜ。そこで例えば、『am を was にすると過去形になるんだよ』だなんて今さら教えるのも、教えてる俺の方が間抜けな気がしちゃって……」
「む〜、それは相当ヤバいな……」
「でもね、決して頭の悪い子じゃないんだよ。長文を読ませてみると、だいたいの意味は汲み取れるんだから。――要は、文法はまったくダメだけど、語彙力だけはそれなりにあるってことだよね。学校のテストなんかはきっと今までずっと、単純な丸暗記力で乗り切ってきたんだろうね。でも、応用は全然利かない。だから、受験まであと一ヶ月ちょっとぐらいしかないこの時期に、何をどう教えたものか、悩んじゃってるんだよ」
「だよなあ……」

 ちなみにその子、他の教科はさほど出来が悪いわけではなく、一日に二時間前後の自習も欠かさないらしい。それだけに、英語だけがなぜここまでまったくダメなのか、理解に苦しむところです。
「いやー、世界は広いなー、って思ったね」
 K氏の感想はわけが分からないけど、言い得て妙という気もする。


 そうそう、もうひとつニュース。
 この日記にもしばしば登場している、ししょう氏。彼の初めてのお子サマが、無事生まれたそうです。元気な男の赤ちゃんだとのこと。
 名前ももう決まっていて、某有名時代作家の名前を拝借して命名したそうです。いかにも彼らしいですな。何はともあれ、おめでとうです〜。


00.12.11

「はいこれ、○○さんのオミヤゲです〜」
 仕事のさなか、職場にお饅頭やらチョコレートやらといったお菓子が配られます。この会社の人たちは律儀な人が多いようで、どこかへ旅行に行くと必ず何かしらのおみやげを買ってきてくれます。疲れた体と脳に一息つけられて、それが例えほんのちょっとしたものでも、やけに嬉しく感じるものです。

 しかし、こういう時の反応が凄いのが、先輩のTさん。旅行といっても土日を利用したものですから、だいたいは日帰りか、せいぜい一泊がほとんど。それを当然分かっていながら、
「どこ行ってきたの? カンボジア?」
 とか、
「ガラパゴス?」
 などという突拍子もない地名を、瞬時に切り返してくるのです。
 そのネタの質自体はともかく、この『瞬時に』というのは、なかなか真似のできない芸当です。アドリブに強いという事は、とりもなおさず、頭の回転が速く機転が利き、発想の引き出しをたくさん持っているという証拠でしょう。こういうタイプの人は友人の中にも何人かいますが、そういう能力がまったく欠けている私などにとっては、ある意味で尊敬の対象にすらなりますね。

 そんなわけで、意外性の笑いに弱い私は、Tさんには毎回爆笑させられてしまうのでした。行くわけねーだろ、カンボジア! 土産が饅頭なのに!


00.12.25

 なんだか妙にかわいいカップルを、電車の中で見かけました。
 まだ高校生くらいなのか、若いというより幼い感じで、お互い恥ずかしげにしている雰囲気が伝わって来るんですね。人目をはばかる必要のないガラ空きの車内なのに、微妙に間をあけて座ってたり、微妙に視線を合わさないようにしてたり、ほとんど会話もしてなかったりで。
 でもそれでいて、恋人同士特有の「一緒にいる安心感」みたいなものは、見ていてしっかり感じられるのが不思議といえば不思議。その初々しさが、なんとも微笑ましいというか、羨ましいというか。今どきこういう純朴なカップルもいるんだな、なんて思っちゃいました。
 途中の駅で二人一緒に降りていきましたけど、その時も腕を組むどころか、手をつなぐような様子さえもありませんでした。

 でも考えてみれば、二人がカップルだなんて確証、どこにもないんですよね……。もしかしたら兄妹だったなんて可能性もあるわけだし。いやむしろそう考えた方が自然か、あの態度からすれば。うーん……。
 ま、その女の子がかわいかったことだけは間違いないので、それで良しとしましょう!
 ……って、結局落ち着くとこはそこかよ、おい。



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