Text - Diary - Past - February,2002


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02.02.01 それは読めません
 以前からその店のことは気になっていたのだが、入ったのはその日が初めてだった。韓国直輸入、を表看板に掲げた食料品店。駅間から歩いてほどなくの、ゲームセンターの2階にある、こぢんまりとした店である。

 私はキムチ好きである。刺激的な辛み、凝縮された様々なうまみ、白菜本来のみずみずしさとしゃきしゃき感などが、ひとくち噛むごとに渾然一体となって口腔内をじゅうたん爆撃する素晴らしさ。たまりません。しかし普通のスーパーやコンビニなどでは、美味しいキムチに出会えることはまずないので、私は常にキムチに渇望した状態にあると言ってもいい。

 そこで韓国直輸入、である。なにしろ本場だ。『各種キムチ』と電光板で謳ってもいる。これは期待できるだろうと、期待に胸膨らませつつゲーセン裏の細い階段をとことこ上っていった。

 店内は外から想像する以上に狭かった。私のアパートとそう変わらないくらいの売り場面積しかない。ぐるっと見回してみると、棚に並んでいる商品は、期待に反して、そう珍しいものが並んでいるわけではなかった。インスタント食品やスナック菓子、調味料など、確かにどれもハングル文字のラベルが貼られてはいたが、品揃え自体は日本の一般的な小売商店と大差ない。
 そして肝心なことに、目当てであるキムチが見当たらない。いや、正確には、あるにはあったのだが、白菜キムチのみ、それも日本のスーパー同様のパック入りのものが数個、ぽつねんと並べてあるだけ。しかも1パック700円と、存外に高い。間違いなく美味しいという保証があるなら700円でも厭わないが、賭に出るには勇気のいる金額である。だいたい見た感じもさほど旨そうじゃないし。
 なんかなー、もうちょっと他の種類とか、小さいパックとかないのかしら。救いを求めるように、レジの所にたった1人いる店員に目をやると、彼は何やら電話口に向かって、明らかにネイティブな発音の韓国語(らしき言語)で、一心不乱にまくし立てている。あまり声を掛けやすい状況とはいえない。弱ったな、と思いつつ陳列棚に戻ったところ、そこにあった貼り紙に気が付いた。

『お気軽に店員にお問い合わせ下さい 日本語で応対いたします』

 私は思わず目を疑った。
 書いてある内容が問題なのではない。
 この貼り紙が、天地逆に貼ってあるのである。思い切り。『すましたい対応で語本日』って何だよ。日本語OKの貼り紙が、すでに間違っちゃってるよ。
 それが追い打ちとなって気勢を削がれてしまった私は、結局なにも買わずにその店を後にした。キムチ探索行も容易ではない。


 そういえばジャスコの前にあった弁当屋、あれが潰れて跡地に何ができるのかと思ったら、『すき屋』だった。今このタイミングで牛丼屋を新規オープンするというベンチャー心も凄いが、特に開店キャンペーンもやってないのに妙に盛況な店内で、嬉々として牛を食らう住民たちも凄い。どういう町だよ。
 そしてなぜかそれに混じってチキンカレーなんぞを食っている私。あ、サイドメニューにキムチがある。80円。なんでもいいや辛ければ、すいません追加でキムチ下さい。


02.02.13 21世紀のスキツォイド・マン
 なんとなく暇つぶしに『心理学辞典』をパラパラめくっていて、“分裂性格”の項目がふと目に付いた。それによると――

「疑い深く、他人を恐れ、密接な社会的関係を結ぶことができない」
「反面、非常に依存的になり、従順であり、」
「そのため少しのことで傷つき、わけの分からない怒りを爆発させたりする」

 ――やばい。これ、俺じゃん! 俺そのものだよ。そうか、俺の性格って、分裂的だったのか……。
 愕然と、へこみながら読み進めていくと、その先にささやかながらフォローが。

「優れた知的創造的能力を示すことがある」

 おおっ。とりあえず、ここだけは好材料だ。ちょっとだけ復活〜。
 ……と思う間もなく、それに続けて、

「……を示すことがあるが、一時的に終わり、孤独で不幸な生活を送ることが多い」

 ……。
 ええと。


02.02.18 音の記憶
 各種mp3データを集めるのに、ちょっとハマっている。
 それをWinampで、内蔵のぐねぐねスクリーンセイバー画面にしてぼーっと聴く。幸せ。

 CDレンタルで手に入れられるような物より、聴いてて楽しいのはやはりレアな音源の方。
 桑田佳祐の歌う『夜空ノムコウ』とか、aikoの歌う『(山崎まさよしの)One more time, One more chance』とか。もともとが名曲なだけに、実力のある歌い手が新解釈で歌うと、また新鮮な味わいと感動がある。
 aikoは自身がパーソナリティをしていたAMラジオの番組で、いろいろ他のミュージシャンとのセッションとかを精力的にやっていたようで、ゆずやKiroroと組んだものなど、どれもすごく楽しい。そういう遊び心っていいな。

 あとは、むかし好きだった曲を久しぶりに聴いて、それとともに蘇ってくる当時の思い出に、年甲斐もなく(いや、トシだからこそ、か)グッと来てみたり。
 音楽ってやっぱり偉大。音の記憶の中に、いっしょに刻み込まれてる何かがある。脳じゃなくてココロで覚えてるって感覚を実感する。


02.02.20 歪んだ客引き
 自動車免許の更新のために、東陽町の免許試験場に行って来た。基本的にしち面倒なばかりのこの手続きであるから、試験場が電車で二駅のところにあるのは非常にありがたい。
 ところで、駅を降りてから試験場にかけての通り沿い商店街、その風変わりな様相には少々驚かされる。ここには証明写真店が、何軒も何軒も、びっしりと立ち並んでいるのである。「写真すぐ出来るよー」との盛大な呼び込みまで掛かっている。需要があるからこそ商売も成り立つのだろうが、普通の街ならせいぜいひとつある程度なはずの写真店がつらつらと軒を連ねているのは、一種異様な光景といえる。
 私はこの時点で自分の新しい写真を持っていなかったが、しかしどの店にも入らず通り過ぎ、試験場へと急いだ。なぜなら――

『試験場なら、無料で写真を撮ってもらえる』

 ――からである。
 つまり、今まで通過した写真店、その全てが罠なのである。
 うっかり写真店に入ってしまった人だけが、全く無駄な出費を強いられることになる。そのシステムを写真店の人々が知らないわけはない。知っていて、その上でなお客引きをしているのだ。なんつうあざとさだろうか。
 まあ実際にはどの店もほとんど客が入ってなかったようだったから、騙される人もまず皆無なのだろうけど、それにしたってこの商売の姿勢には不快感を覚えずにはいられない。やってて嫌になんないのか、実際。

 免許の更新手続きは、おざなりな視力検査と、30分の講義だけ。ほんと意味ないよなあ。しかもそのたった30分の間にも、居眠りしちゃう人が何人もいたりする。のび太かよ、あんたら。
 そして出来た新しい免許。自分の顔写真は、3年前のそれより、明らかに血色が悪かった。……やっぱトシなのかのう。


 更新が終わったあと、渋谷に移動した。今週の土曜に予定している飲み会の場所を予約するためである。自分で企画して色んな人に声を掛けているうち、いつの間にか10人以上というけっこうな人数が集まるということになった。懐かしいメンバーが多く、かなり楽しみ。
 小洒落た店でも手配できればと思っていたのだが、結局はチェーン店の居酒屋になってしまった。そこらへんが私の限界です。いいのさ、お酒が飲めて騒げるとこなら。メンバーも濃ゆいし。


02.02.21 「いっしょに走りませんか?」
 映画系の、とあるチャットに、初めて参加をした。そこを訪れている方々は皆さん知識も豊富で、マナーも良く、実に模範的なチャットである。粗忽な私としてはかなり緊張しつつ挨拶などを書いた。ちなみにそこで私は『まき』を名乗った。
 さすがに親切な人が多く、気さくに挨拶を返して下さる。一緒に慣れていきましょう、といった暖かい言葉が届く。心底ありがたかった。
 そうして何度か言葉のやりとりをしているうち、ランニングが趣味だという男性に出会った。映画で心を、ランニングで体を磨いてるなんていいことですね。羨ましいです。私はそんなふうに答えた。すると……

「では、今度いっしょに走りませんか? 冗談です、そんな場じゃ無いですね(笑)」

 これはもちろん友好的な言葉である。だが、なんとなく違和感があった。『そんな場じゃない』というのはなんだろう。ここは映画のチャットだから、ということだろうか。だとしても、別に冗談めかすようなことでもない。もし近所なら、ぜひ一緒に走りましょうとこちらからお願いしたいくらいだ。
 しかし私も、この時点ではさほど気に留めてもいなかった。
 決定的だったのは、別の男性からの、この書き込みである。

「凄く好きだった女の子の名前が『まき』なので、『まきちゃん』と呼んでいいですか?(照)」

 …………。
 ここに至ってようやく私は、違和感の正体に気付いた。
 そして、努めて冷静にこう返した。私のことはどう呼んで下さっても構いません。
 ただ、私の性別は男である、と。
 その瞬間、

「まきさんが男性だったとは!!」
「いやぁ〜ビックリしました〜まきさんが男性で」
「超★驚きでした!」

 他の方々からもレスが付きまくった。
 おいおいおいおい、ホントかよ! 勘違いしてたの、ひとりやふたりじゃなかったのか。てゆうかこの様子だと誰ひとり、『まき=男』だとは思ってなかったようだ。驚き具合もただ事ではなく、ちょっとしたパニックのようにさえなっている。
 ……私の文体って、そんなに女っぽいんだろうか? 自分では心当たりはないが、しかし、狙ってもいないのにこんなに大勢の人が間違えるなんて。
 まさかとは思うけど、私の挨拶に積極的にレスが返ってきたのも、私を女性だと錯覚したがゆえ、なんてことは、ないよね? ないよね? ……なんだかもう、基本的なことさえ疑わしく思えてきてしまうほど、私の方まで混乱状態である。
 名誉のために言っておくが、私は断じて、いわゆるネカマを装う気などなかった。もし本気でそのつもりならもっとうまくやる……って違う違う。女扱いされた時点ですぐ事実を述べているし、だいいち女言葉なんて使ってない。無実だっっ。
 ただ、『まき』というハンドルが、一般には女性を連想させるのは確かだし、そう言われて読み返してみると、緊張のため不自然なかたちで丁寧な文章が、自分でも女っぽく見えてくる。先入観って怖い。私本人を知っている人から見れば、お笑い以外のナニモノでもないけれど。

 おかげで多くの人の印象には残ったようで、それはいいといえばいいんだが……。初っぱなからこんな形でキャラを立てたくはなかったなあ。
 もう、こうなったら開き直っていくしかないか?

 はぁーい、まきでーす☆ よろしくネ!

 ……痛すぎる……。前途多難なり。


02.02.23 ネット・デイズ
 今でこそインターネットによって人々の輪は繋がっているが、ほんの4、5年ほど前までは、ネットといえば個人サーバーのネット、いわゆる草の根ネットがほとんどだった。私も当時はいくつもの草の根にお世話になり、そこで培った交流は今でも大事に続けさせてもらっている。
 とはいえ中には、インターネット主体になってから接点が少なくなってしまった人もおり、なかなか会う機会も見つけられずにいた。そこで一念発起した私は、そういった人たちも含めて一堂に会する場を設けようと動きだし、そしてついにこの日、それが実現に至ったのであった!

 ――とか偉そうなことを言っているが、要は単に飲みたかったから飲み会を開いただけである。
 ただ、普段なかなかいっぺんには集まらない面子が揃ったのは確か。その陣容は、

 ・しそ氏 ・やはね氏 ・Yoshio氏 ・アラー氏 ・ナギ氏
 ・やまね氏 ・海神氏 ・水沙希氏 ・艶姿氏

 そして、私。予定ではここに、PLE氏やじーぷら氏、葉月氏なども加わる予定だったのだが、仕事などの都合が付かず断念となった。特にじーぷら氏は、当日ぎりぎりまで合流を試みたのだけど結局会えなかった……振り回してしまって、本当に申し訳なかったです。
 ともかくもこの顔ぶれ、事情に通じている人が見れば、どれだけ濃ゆい人々が結集したか分かって戦慄すること間違いなしである。飲みの会場ごと燃やしたら東京がどれだけクリーンになるか分かりません。たぶんよく燃えるし。
 それより何よりこれ……言いたかないけど……完膚無きまでに、男ばっかしじゃん! ああ、一番痛いとこを突いてきましたね。それはもうしょうがないんです、母体となったネット自体、女性は極端に少なかったですから。しかしそれでも私、数少ない心当たりに声掛けてはみたんですよ。でも今回は残念ながら都合が合わなかったんです……(と、いうことにしといてください)。

 さて、いざ飲みが始まってみて驚くのは、4〜5年ぶりに会った組み合わせもあるというのに、そのブランクを全然感じさせないほど、場が馴染んでいるということ。ほんとにみんな、全然変わってないね。と言ったらすかさず「人のこと言えるか」とツッコミが入る。ああ、いいね、この呼吸。落ち着きます。和みます。
 2時間ばかりの1次会はあっという間に終わってしまい、正直なところ、どんな話題で盛り上がったかよく覚えていない。調子に乗って結構酔っていたのかも知れない。ただ、話題を探す必要が全くなかったのは確かである。どんな話を聞いても面白かったし、どんな話をしてもウケてくれた。
 2次会で人数は半分になったが、やっぱり面白かった。車の話題が多く、ついていけないこともあったけども、それはそれでまた楽しい。

 車を買ったなんて話題がすんなり出てくるし、人によっては月収が50万を超えてたりもする。みんな、キャラクターは変わってないけど、それぞれ頑張ってるんだな……俺も見習わなきゃ。
 奮起材料を得るには十分な、今回の飲み会でありました。この調子で、年に何回かは集まったりしたいね。今回来られなかった人も呼んで。あとはギャルを何とかしなきゃなあ……。


02.02.25 リンクの冒涜
 ソルトレーク五輪にはまったくと言っていいほど関心がなかったのだけど、なぜかフィギュアスケートだけはしっかり見てしまった。以前からフィギュアに興味があったのかというとこれも全然そんなことはないので、正にたまたまという他にない。
 と、言い訳をやたら並べて何が言いたいのかというと……。
 いやあ、サラ・ヒューズ、いいっス。素晴らしい! 16歳か何か知らないけど、とにかくいい。
 金メダルを取ったから言うわけではないが、素人目から見ても、身のこなしが他より明らかに柔らかくて滑らかで、澱みがない。安心して見ていられる。
 エキシビジョンでは、ニューヨークの事件で亡くなった人たちに捧ぐという演出まで入れてみせて、まあベタといえばベタなのだけど、でも全然嫌味じゃない。演技にも本気で見惚れてしまった。
 だけどフィギュアスケートなんて、ファンになったとしても、そうそう見るチャンスあるものじゃない気もするな……考えてみれば。金メダリストということでメディア露出は増えるかも知れないけど。次のオリンピックの時には20歳になってるわけか……うーん。

 そのことと関係あるようで、実際はあまりないのだけど、この日は横浜までスケートを滑りに行ってきた(仕事休んでまで何やってんだ、というツッコミはなしでお願いします)。以前に滑ったのがいつなのか咄嗟には思い出せないほど前ではあるが、まあ何とかなるだろうという実に楽観的な読みに基づく行動である。
 そして、物事はそう都合良くは行かないもので、全く何とかならなかったというのが現実であった。
 転ぶことこそ一回もなかったが、とにかく滑れない。がつんがつんと一歩一歩踏みしめるように、ほとんど氷上を歩いているも同然の、無様な格好を晒すばかり。しばらくやっているうちにそこそこ滑れるようになってはきたものの、体中に力が入って、優雅に滑るのとは程遠い有様である。とてもじゃないが息が続かない。
 リンクの真ん中あたりでフィギュアを舞う人や、高速でトラックで駆け抜ける人を、手すりに掴まりつつ及び腰で恨めしげに眺める情けなさときたら、最高です。今日が勝負のデートとかでなくて本当に良かった。
 そう、書くのが遅れたが、今日のメンバーは、はにぃさん・おどろき氏・Wisp氏という、おとといの土曜日ほどではないものの、それでも充分濃い人々が揃っていたのだった。このままでは私もいつか汚染されてしまいそうな気がする。

 その後カラオケ。私は以前から歌ってみたかったジャンヌダルクに挑戦してみたが、あえなく玉砕。ふだん聴きながら一緒に歌ってると、結構いけそうな気がするものなんだけど、無理なものはやはり無理だった。残念。
 でもWisp氏の異様に熱い『戦士よ起ち上がれ』と、はにぃさんの『地上の星』が聴けたので満足です。

 そして飲み。適当に入った串焼き屋さん、ここが大当たりで、かなり美味しくて幸せだった。肉厚のタン塩も、汁気たっぷりのシイタケ巻きも超美味い。苦手だったはずのビールが進む進む。おかげで妙にしみじみしてしまった。おっさん臭いことをぶつくさ言ってたような気がする。反省。
 飲みが進むにつれて、紅一点のはにぃさんは、「めちゃめちゃかわいい」「ちょう萌え」などと3方向から熱烈なラブコールを送られつつ、野郎3人に翻弄されていた。本人は「コドモ扱いするな〜っ」と憤慨していたが、かといって年長者扱いしたらそれはそれで嫌がるはずである。難しいお人だのう。

 気が付けば、帰りの電車ですでに筋肉痛である。楽あれば苦ありってやつだな。使い方間違ってるけど。



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