Text - Diary - Past - November,2001
| 01.11.03 | ・ | モラル崩壊 |
| 狭い台所でじゃがいもを剥き、玉ねぎを刻んで涙を流すそのかたわらで、客人たるK氏は居間で寝そべって漫画を読みふけっている。そんな土曜日。 「俺の学校は男より女の方が圧倒的に多いんだけどさ」私が作った肉じゃがをつつきつつ、ビール片手にK氏が言う。 「年齢的にも女の子は二十歳前後がほとんどなんだけど、まったくいろんな女の子がいるもんだよ。世代の差を感じるというか……」 「面白そうだな」 「例えばね、ある子が高校時代、友達同士で夜の海に遊びに行ったんだって。水着持ってなかったもんだから、下着姿になって泳いだとか」 「なんか大胆だな。でもまあ、女の子同士だったらそんなこともあるか」 「それがさ。友達同士っていうのが、実は男子の運動部で、彼女は唯一の女マネージャーだったとか言ってるんだよ」 「なんだってえ?! そんな中で下着姿?」 「そう、俺も耳を疑って、何度も確かめたよ。でも彼女はけろっとした顔で、んー、でもあたし、女扱いされてなかったから。それに、夜だったし。とかって、平気で言うんだよね。ヘーキで」 「そういう問題じゃないだろ。K氏から見て、その女の子の外見は?」 「普通にかわいい子だよ。そりゃ、女扱いしなくていいタイプの女が俺たちの仲間内にも何人かいるけどさ、だからって下着姿になられても平気かっていったら話は別ですよ、これ」 「まして海だろ。泳いで濡れてるわけだろ。下着なんて着てないも同然だよ」 「だよなあ。いくら彼女自身は平気だっつったって、男子部員たちも全員そうだったとは思えないよな」 「男子はむしろ平気な方が不健康のような気もする」 「あと、これは別の女の子なんだが……何歳の時まで父親と一緒に風呂に入ってたか、っていう話題の時に、中2まで、って答えた子がいた」 「中2! っていったら、もうカラダ的には、ものすごいことになってるだろ。むしろお父さんのほうが恥ずかしくなっちゃうんじゃないのか。普通は小学校高学年でも嫌がるだろ」 「と思うんだけどねえ。でも、その子にとってはそれが普通だったから、特に疑問も抱かなかったらしい」 「考えてみると、家庭内でオッケー、っていうのは、その個人の倫理観だとか常識だとかってものを形成する上で、重要な要素だよね」 「うん。世間と多少ずれてようと、家庭って領域がまず第一だから、その中で許されているかどうかってことが判断基準になる」 「大抵の人は、少なくとも自分自身は常識を持っている、という自覚があって、その視点から世界を見ている。でも世の中には、いかように考えたとしても非常識と言わざるを得ない事を躊躇なく行える人間があまた存在する。それは、その個々人なりの閉じられた生活圏の中では了承を得ているということになる。コモンセンスという言葉を我々は軽々に用いるが、その境界線は存外に曖昧であり、人によって変成する可能性を孕んでいるということを肝に命じておく必要がある」 なんとなく小難しいことを喋ってるように見えるかも知れないが、実際は酔っ払いが思い付きで言ってるだけなので、内容はまるでない。酒の席の話などそんなものだ。 K氏は肉じゃがその他を完食し、漫画5冊を読破して帰っていった。 |
| 01.11.05 | ・ | カメラ目線 |
| いよいよ本格的に寒い日々がやって来てしまったようだ。今日は特に朝の冷え込みが厳しく、寒風にさらされた私はただただ身をすくめるばかりだった。冷えた手先がちぎれそうなほど痛んだ。同じフレーズを毎年書いているが、今のところ本当にちぎれたことがないのが幸いといえる。 寒いのは大の苦手だ。暑いのももちろん苦手だ。こんな朝でも自転車をこがなきゃならないのだからまったくたまらない。日本もそろそろ四季の変化という旧態依然な制度を廃止して、常春の国にするという法案を通してもらいたい。でも、夏休みとか冬休みとか夏冬のボーナスなどの楽しいイベントまで無くされるとすごく困るので、スーパー春とかマイナー春などの期間を設けて、その時期は暑かったり寒かったりしてもよい。 そんなマイナー春な今日、コンビニでノリ弁当などを買っていると、店の奥に人だかりが出来ているのに気付いた。テレビカメラを担いでいる人あり、ライトをかざしている人ありで、どうやら何かの撮影のようだ。 離れた所から様子を伺ってみると、タレントっぽい外見の女の子がワイン棚の前に立ち、どうやらワインの先生らしい妙齢の女性においしい飲み方を教えてもらう、というシーンを撮っているようだった。たぶん情報番組か何かなのだろう。 それにしても、あのテレビならではの、抑揚の誇張された喋り方というのは奇妙なものだ。テレビの枠の中に収まっていれば気にならないのに、現実世界で直接耳にすると、何ともいえないむず痒さが背筋を走る。 「うう〜ん、ワインも種類がいーっぱいあって、困っちゃうなぁ〜。せんせぇ〜、何をポイントに選んだらいいんでしょぉか〜?」 こんなことをこんな調子で、ほっぺたを膨らまし小首を傾げ、腕を組んだポーズで言っているのだ。やはり相当変だ。私だったら、知り合いの見てる前であんなこと絶対出来ない。タレントさんって凄いと改めて思った。 しかし、彼らの様子に目をやるたびに必ず、照明係の人がとても怖い目で睨み付けてくるのには閉口した。通常営業している店の中で撮影しているのだから、多少好奇の目で見られるのは仕方ないだろうし、私だってそんなにしげしげ眺めていたわけではない。そんなに「見んなよ」とばかりに威嚇してこなくたっていいじゃないかよう。 私もその場でインスタントカメラでも買って、自分自身の姿でも撮って対抗してやろうかと思った。やらなくてよかったと今では思っている。 |
| 01.11.10 | ・ | イートマニア |
| 「このライス、普通盛りにしてはけっこう量多いなあ……」 とあるファミレスで夕食をとりつつ、私は普通サイズの野菜炒めとライスさえ持て余し気味にしていた。 すると、正面に座っていたナギ氏が、 「そうですか? じゃ、僕はバニラアイスを」 デザートに注文するという。確かキミはつい今しがたまで、ステーキと大盛りライス、さらにオニオングラタンスープまで平らげていたのではなかったか。相変わらずよく食べるなあ……と変に感心している脇で、 「それじゃ俺はこのピザを」 注文すると言い出したのはYoshio氏だった。こちらはトンカツ定食(もちろんご飯は大盛り)を食べ終わったばかりである。デザートにピザ丸ごと一枚……。あまりのことに私が言葉を失っている一方、もう一人の同席者であるアラー氏は平然としていた。「いやあ、いつものことだから」。そ、そうですか……。 聞いたところによるとナギ氏は以前、2kgのカレーを完食したことがあるらしいし、そこまで極端ではないにせよ大食漢の多い彼の仲間内では、 「320gのハンバーグステーキに、ライスの代わりにマグロ丼とか、平気でやってましたからね」 この日、私は焼き肉でも食べに行きたいなどと思っていたのだが、割り勘だったらどんなことになっていたやら。命拾いしたといえよう。 それにしても私の身の回りにはなぜか、無尽蔵の胃を持つ人間が多い。例えばファイティング越後氏は、Coco壱番屋の1300gカレーを食い尽くしたあとの感想として、 「ルーが足りない」 などと言い放ったツワモノである。もっともそんな彼も最近では、そこまで爆発的な食欲を見せることは少なくなったが……。 なんにせよ、食べてこその健康である。私みたいな、パン一枚で一食を終えてしまうような不健全人間に、その食欲をちょっと分けてもらいたい。こんだけしか食べてないのに、なぜか少しも痩せないしなぁ……ちぇ。 |
| 01.11.17 | ・ | パーフェクト。 |
| なんだかんだで秋葉原に行く機会のけっこう多い私だが、かといってパソコンに詳しいのかというと、全然そんなことはない。むしろその方面にはまるで音痴であると言っていい。何しろ自分のマシンのスペックすら正確に把握していないというのだから(自作機なのに!)、我ながら呆れてしまう。 それでも秋葉原に縁があるのは、友人たちがほとんどみな、パソコンにすばらしく精通した人物ばかりだからである。半ば秋葉原に住んじゃってるんじゃないかと言われる人もいるほどだ。まぁ、周りが詳しいというより、私自身があまりに不勉強だということもあるのだが……。 この日は、ビールオオワダさんと浅野花梨さんの二人が、ななめ氏のパソコン修復&パワーアップのためのパーツを買いに行くというので、分かりもしないくせに無謀にもくっついていったのであった。 そして実際、何が安いのやら高いのやら、何が高性能なのやら型遅れなのやらチンプンカンプンのまま、二人と一緒にあちこちの店を歩いて回り、結局、荷物運びくらいでしか役に立てなかったのである。まったく情けない。 とはいえ、分からなくても分からないなりに、未知のゾーンの知識を吸収するのは楽しかった。 それに、店内に売っているのは尋常なものだけではない。女性のハダカを模したマウスやハンドレストなどは、奇妙とはいえまだしもパソコン用品だ。しかし、それに並んで、見たこともないメーカーのインスタントラーメンが置いてあったり、果ては正真正銘のいわゆる大人のオモチャなどまで売っているのはどうしたことだ。何屋だよ、ここはっ。一軒の店であらゆる欲望が処理できそうである。 そういうものを買いに来たわけではないので、私たちはあくまで真面目に、成人向けDVDのコーナーで論議を交わすのだった。「某有名アダルトアニメはパート1と2だけ面白い」という点で私と花梨さんが意気投合する一方、オオワダさんは「やっぱり巨乳に限る」と実写ものを吟味していた。これでこそ秋葉原ツアーである。 それにしても花梨さんは相変わらずいじめっ子で困った。 「しっかしまきひささんて凄いよねぇ」などといきなり言い出すので、何かと思ったら、 「どのへんが、とか、何%、とかじゃなくて、完全にガチャピンなんだもの!」 また、彼女との会話で気の利いた返事を返せずにいると、 「レスが遅い上に、つまんない」 一刀両断である。アドリブに弱いことは充分自覚しているので、ぐうの音も出ず。クヤシイ。 ……しかし、「レス」て。 買い物は満足のいく結果に終わったようだ(もちろん私はまったく理解していないのだが)。 その後、夜から別の用事があるという花梨さんと別れ、私とオオワダさんは、錦糸町にある居酒屋に向かった。 その居酒屋は、オオワダさんが古くから馴染みのある店とのことだった。店主の老夫婦などとも親しく、そのおかげで非常に居心地が良かった。 それに何より、オオワダさんが勧めるだけあって、食べ物が非常に美味しい! どういう味付けなら酒が進むか掴んでいる味なのである。揚げ物も炒め物も絶品で、思わず片端から注文して食べたくなってしまった。ううむ、そうそう行ける場所でないのが非常に残念。あの豆腐ステーキは是非とも真似してみたいなあ。 いい感じに酔っぱらって西葛西の駅まで帰ってきた私が、ストリートミュージシャンのお兄ちゃんと仲良くなって一緒に歌っていたら、通りがかりの見知らぬおばさんからオニギリをもらってしまいました。 |
| 01.11.18 | ・ | 死に至る病 |
| 狂牛病がどーのこーのと言われても、オージービーフよりやっぱり和牛のほうがおいしいのである。食材の買い出しにジャスコ(略称)まで来て、食肉売場に並んでいるパックを手に取りつつ、私はその出身地と値段と量のことなどを考えていた。 その時、向こうから若い夫婦がやってきた。そしてその妻のほうが、おもむろに牛肉を取り上げると、 「ねー、これ食べると死ぬかなあ?」 「ああ、死ぬだろ」 それだけの言葉を交わすと、肉のパックを放り出して、若夫婦はどこかへと去っていった。 あとには、肉を片手に言葉もなく立ち尽くす私がいたのだった。 ……私は結局買ったけどね、和牛。 次に私が向かったのは野菜売場だ。 一人暮らしの私は、大型の野菜を丸ごと買っても持て余してしまうので、1/2カットのものなどを買うようにしている。 レタスを求めてそのコーナーに行くと、しかし今日は、いつもあるはずの1/2カットがない。ちょうど近くで作業をしていた店員のおばさんにダメもとで尋ねてみた。 「ああ、今日はね、もう売り切れちゃったのよー」 「そうですか……」 「それにね、あれって、丸ごとが98円、半分のが88円で、10円しか違わないのよねー。だから、あまり数も用意してないの」 「そ、そうですか……」 「でも、なんなら今、この丸ごとのを半分に切ってあげようか?」 「……でも、半分にしてもらっても、10円しか安くならないんですよね?」 「うん、そうよ」 「……」 さすがにここで、じゃあお願いします、私には言えなかったのだった。10円引きで量半分にして下さい、などとは。 |
| 01.11.19 | ・ | 天体観測 |
| 18日の深夜、友人たちとのチャットに耽っていると、にわかに、いま地球に降り注いでいるというしし座流星群の話題になった。 友人たちが画面の向こうから口々に「見えた!」と興奮気味の報告をしてくる中、私ひとりが冷めていた。東京、しかも23区内ではどうせ見えまいと諦めきってしまっていたのである。それに流星群ったってどうせ大したものじゃないだろと、この深夜の寒空の下、見えるか見えないかさえ分からないものを待ち続ける気にもならなかった。 しかし続々と入ってくる目撃談を聞いているうち、さすがの私も興味が沸いてきた。寝間着を簡単に着替え、寒風を堪えつつ外に出て、とりあえず空を見上げてみる。雲はあまりなく、星や月もしっかり見える。このぶんなら何かあればまず視界に飛び込んでくるはずだ。私はとりあえずしばらく観察してみることにした。 とはいえ……他に人の気配もないこんな深夜に、男1人が路傍に突っ立ってるというのは、あまり居心地のいいシチュエーションではない。私は適度に移動したり、立ったり座ったりして、できるだけ自然さを演出せねばならず、これがけっこう鬱陶しかった。 さほど期待もせずにいたその時、 「おおっ!」 思わず声を上げてしまった。流星だ! 一瞬のことではあったが、流星が見えたのである。すごい! その後もほんの数分の間に、5〜6個の流星が光の尾を引きつつ現れては消えするのを見届けることができた。まさに瞬く間の出来事だったから、願い事などはとても無理だったが。 あちこち歩いていると、近所の大きな駐車場で、親子連れがやはり流星に見入ってるのに出くわした。母親のほうに話しかけてみると、この1時間で数十個も見られたとのこと。東京と言えど、そして23区内と言えど、かなりの天体ショーが展開されていたことは確かなようだった。 しかし、今日の日記のタイトル、バンプ・オブ・チキンの曲のタイトルから安直に付けちゃったのだが、同じことした人、日本中だと何千人単位でいることだろうなあ。ストレートすぎて、かえって私ぐらいだったりするだろうか? ……ま、いいや、好きだし。 |
| 01.11.21 | ・ | それは起こった |
| 『さよなら、小津先生』がいい感じになってきた。秋の連続ドラマで見ているのはこれだけなのだが、正直なところ、今まではもうひとつ物足りなく思っていた。人間らしい苦悩とはほど遠いところにいるような、超然としたキャラクターの田村正和は、このドラマではミスキャストではないかと感じていたほどだ。 しかし、彼以外の登場人物たちにもスポットが当たるにつれ、感情移入の度合いが高まり、ドラマとしての幅も増してきたように思う。昨日の放送などは、ストーリー的には言ってしまえば非常〜にベタなのだけれども、でも今までで一番と言っていいほどすごく気持ちよく楽しめた。これから佳境に差し掛かっていくわけだが、ぜひこのテンションを保ち続けていって欲しいな。 駅前のレンタルビデオが100円セールだったので、また後先考えずにいっぱい借りてきてしまった。でも最低3本見れば元は取れるからいいや(←毎回こんなこと言ってるな……ひでえ客)。 まず観たのは『マグノリア』。人間関係がこんがらかるばかりで一向に先の見えない展開に、観客も登場人物もしびれを切らし煮詰まったころ、突拍子もないラストが訪れる。それまでの悩みも苦しみも蹴っ飛ばし、一笑に付すかのように。当然、皆が呆れるのだが……それが逆に、なんだか心地よいという、変な映画。とはいえ長いのは確かなので、評点は○x4つ。Movieに感想を書くかどうか考え中。 岩井俊二の『PiCNiC』も観た。内容がありそうに見せかけて、実際はほとんどないとしか思えない映画だった。映像は確かに綺麗だったけども。1時間少しという短い映画だが、おかげで助かった。この調子でもし2時間もあったら死んでいた。○x4つ。 さーて、これから(ただいま深夜の12時半……)あと1本観なきゃならないんだけど、どうしたものか……。 |
| 01.11.22 | ・ | 一杯のコーヒー |
| すこぶる眠い。 昨日は結局、夜中の12時半から、ビデオを2本も観てしまったのであった。当然の帰結として、睡眠時間は極端に少ない。こうして書いてる今も、意識は半分眠っている。というより、今まで持っているのが奇跡だ。とにかく書くことだけ書いたら速攻で寝ます。なにしろ明日は餃子なので。 観たビデオ(1)『シェイディー・グローヴ』。青山真治監督。 これまた映像は非常に美しく、統一された色調が目に心地いいし、1シーンごとが絵画的。だけど、基本はラブストーリーなのに、登場人物にまったく感情移入できない。ネクラ男とストーカー女が最後にくっついたからって、感銘も何もないなぁ……。 観たビデオ(2)『キッズ・リターン』。北野武監督。 メリハリの利いた演出で、最後まで飽きさせない。たけし映画の中では見やすい部類だと思う。でも別に主人公たちに共感するほどではなかったし、肝心のラストも弱い。何でもかんでもヤクザ持ち出すのやめようよ。 3ヶ月ぶりに、例のデカい病院へ行く。 11時半に受付したのに、診察は3時過ぎだと言われた。相変わらずここは待たせかたが半端じゃない。仕方がないので、昼食ついでに時間のつぶせるところを探すことにする。 しかし、信濃町というところは奇妙なところで、何しろ町というものがない。時間は充分余っていたのでてくてく歩いたのだが、駅前以外、ほとんどと言っていいほど店がないのだ。住宅街はあるのに商店街はなく、ファーストフードも、コンビニさえもない。たまにあるのは、しなびた定食屋か、べとついたスナックのような店くらいなものだ。迎賓館とその広大な緑地がある影響のようだが、それにしたって、このあたりに家を持ってる人は不便で仕方ないだろうと思う。 さんざん歩いた末、ようやく喫茶店らしき店を見付けた。店構えはなんとなく上品で、それに広い。このぶんだと、アイスティーで500円とか取られちゃうのかな、しかし他に選択の余地もないしな……。まあ、仕方ない。おずおずと店に入り、テーブルにつく。ウェイトレスの応対は非常に丁寧で気持ちがいい。こうでなくっちゃ。受け取ったメニューに視線を走らせ、価格を確認する。 “アイスティー 700円” ななひゃくえん?! なんだその値段は。いくらなんでもそんな法外な値段がありますか。じゃあ、この店で一番安いのは―― “ブレンドコーヒー 500円” 最低でも500円……。 ま、まあ落ち着け、俺。これだけならしかし、このブレンドで妥協して粘る、という作戦もなくもないではないか。 だが、メニューに書いてあった別の注意書きに、私は改めて目を疑うこととなった。 “チャージ料 100円/30分 当店では滞在時間に応じてチャージ料をいただいております” あり得ない。風俗じゃあるまいし。そう判断した私は即刻席を立ち、店を出た。ウエイトレスが何か言っていたが、適当にうやむやとごまかして振り切った。 その後、やむを得ず駅前まで戻り、安全策の喫茶店で時間を過ごしたのであった。意味のない冒険はやはりするべきではなかった。 さて、このデカい病院では会計の時、本人の名前を1人ひとりフルネームで呼ばれるのだが、私の名が呼ばれた2人くらいあとに、 「柳田国男さーん」 といきなりアナウンスされたのには驚いた。思わず御本人を確認してみたが、何の変哲もない小太りの中年男性でしかなかった。当たり前だが。だいいち、柳田翁が亡くなってから何十年経ってると思ってるんだ。確認してみるなよ、俺! |
| 01.11.23 | ・ | chaos |
| 見慣れぬ駅において、待ち合わせ場所が東口だったか西口だったか判然としなくなることが、私の場合しばしばある。そんなものはあらかじめしっかり書き留めておけばいいと指摘されるかも知れないが、そもそもそういうことが事前にしっかり出来る性格であるなら、東か西か程度の、たかだか二者択一の問題を記憶せずにいないわけがないのであるから、前述のような批判はまるきり笑止千万なのであって、ましてやこの日は、来たのが初めてである柏駅という場所。ゆえに私はこの日も当然のごとく、東と西とを文字通り右往左往しながら、半ば涙目になりつつも、本日の会合の幹事たるビールオオワダ氏の携帯に電話をかけるが繋がらない。なぜだ。しかも、もう予定の待ち合わせ時間になろうというのに、東と西のどちらにも、来るはずの人が誰1人来ていないではないか。おいおいどうなっちゃってるんですかこれ。不安が募り、焦燥感がさらに高まる中、再びオオワダ氏に電話してみたところ、「どうもですー」とようやく繋がる。ここで慌てたところを見せてはいけない。あくまで平静を装いつつ、さっそく東西を確認し、
血相変えて直行すると、いたいたいましたよ、オオワダ氏と、そしてazureさん。聞くところによれば、参加メンバーのほとんどが遅刻だとか。まったくいけませんね、時間や場所を間違えないなんてのは常識ですよ常識。ともあれその後、アイコさん、ななめ氏、さもん氏と無事合流。ななめ氏は相も変わらず炸裂するが如きテンションの高さで、擦り寄ってきたキャバクラの呼び込みの兄さんとも無闇に意気投合していた。一児の父がこんなでいいのだろうか。アイコさんはちょっといい感じにお色気のあるギャルであり、azureさんはちっこくてかわいい感じのギャルであって、そのバランスがいい雰囲気を出してるところへ突っ込んでくる呼び込みの兄さんも、相当肝が座っているといえる。 メンバーが揃ったところで移動したのが、本日の目的地たる『ホワイト餃子』である。以前からオオワダ氏らが、その旨さを掲示板で喧伝していた代物であって、それが果たしてどんなに旨いものかと、私をはじめ、食に闘志を燃やすものどもが、食欲と好奇心とを同時に満たさんがため、わらわらと集まったというわけである。私はここまで片道1時間、一番遠いazureさんに至っては2時間以上もかかったというのだから恐れ入る。そうこうしているうちに、バイクでやって来たもりへー氏なども着席となり、いよいよ開幕と相成った。 ホワイト餃子というものは、想像していたものとは少々違っていた。何しろ名前のわりに白くない。ホワイトなのに。その代わり大きく、焼き餃子と揚げ餃子の中間のような形態で、ちょうど稲荷寿司と色も大きさもよく似ている。どれどれ、てんで、盛大にかぶりつくと、うわちちち、てな具合に酷い目にあうので、細心の注意が必要である。そう学んだあたり、自分は確実に人間として成長している、と自らを褒めつつ、水餃子などにも手を出している頃、遅れて花梨さんが到着した。アイコさんの横にどっかと腰をおろした彼女は、突然、「今日は○○講座をしようと思ったんだけど」と、まるで脈絡のない事を言い始めた。思わずビールを吹き出すオオワダ氏を尻目に、「わあ、やってやって」と、アイコさんは喜悦に声を弾ませ、目を輝かせる。花梨さんは、おもむろに巾着から小道具を取り出した。柔らかな透明ゴムの、その造形はやけにリアルで、うわぁ、なんだよそれ、あんたそんなもん常備しちゃってんのかよ。周囲の驚きの声にも、花梨さんはいたって平然としている。のみならず、それを使って実演までおっぱじめた。ひいぃ。見たく ねぇ。座敷はちょっとした恐慌状態である。その後もこの人たちは、場所がただの餃子屋だということも忘れ、ものすごくでかい声で、ものすごい内容のことを喋りまくっていた。よく叩き出されなかったものである。柏の人は心が広いのか。私はその様子を眺めて笑った。餃子を食べた。ビールを飲んだ。その一方、別の意味の核となっていたのはななめ氏で、頭のどこから湧いてくるのか、次から次へとギャグを大連発し、女の子たちもひたすらげらげら笑いこけていた。彼は私のことが余程可愛いのか、両手で私の顔を揉みくしゃにしてきたりするし、そのうえ、恐竜の子供だなんだと、さんざんダシに使われた。このネタで、あと10年は食って行ける気がする。 たらふく餃子を食べ、終電まぎわまでカラオケに興じた後は、私はアイコさんやazureさんとともに常磐線に乗り込んだ。二人に甘いカレシ自慢などをたっぷり聞かされ、くそう、やってられねえぜ、と思いつつも、これがもし、二人とも不細工だったりなどしたなら、世の理不尽を呪ったりもしたろうが、二人ともやっぱりちゃんとかわいくできてるので、呪いの言葉をぶつけようにも、そのやり場が見当たらないのであった。アイコさんは途中の駅で、名残惜しくも別れを告げて去っていったが、残った私とazureさんは、なおも事の葉を応酬し合う。話題の中心は、愉快なテキストサイトから、何が悲しくてかカワせんぱいになり、そこから大江健三郎、さらにはお互いの好む文学全般、そしていわゆる推理小説へと移行していった。人体が分解されたり、閉じられた空間に死体が遺棄されるような、そういう小説がazureさんはいい、らしい。「自分が書く文章も、読んでる小説に影響されちゃうんですよね」との言葉で、私はいま、自分が町田康の小説を読んでいることを思い出した。そして、まったく同感だと、何度も首肯した。一人になってからもまた 読んだ。 しばらくの間、げっぷが餃子だった。 |
| 01.11.24 | ・ | たられば |
| 昨日さんざっぱら美味しいものを食べておいて、私はこの日また、さらに美味しいものをもりもり食べてきてしまった。 カニである。友人の家に招かれて、北海道直送のカニというやつを食べてきたのだ。毛ガニとタラバガニ、両方。 ……これが、感極まるほどの旨さだった。特に、毛ガニ。身が締まってて、甘くて、付け根の方までぎっしり肉が詰まってて。カニ味噌も味が濃く、変に舐めちゃったりするのがもったいない感じで。 「なんでこんな美味しく生まれちゃったかねぇ、まずけりゃ食われないのに」 などと、余計な世話ばっかり焼いていた。口の端からカニ肉をはみ出させながら。 そのあとに食べたタラバガニは、毛ガニに比べるとやっぱり大味なんだけども、ぶっとくて肉の量が多いぶん、食べ応えはある。食べる順番としてはこれで正解だったのだろう。 カニのほかにも、生牡蠣であるとか、イクラ(一瓶1500円!)であるとかもたっぷり食べさせてもらった挙げ句、ラストはカニしゃぶ、そしてカニ雑炊で締め。……いや〜、もう、なんというか、いいの? 俺、ここまでして、いいの? って感じでした。 無論タダではなく、みんなで割り勘だったのだけど、でも、店で食べるのなんかと比べたら圧倒的に安いです。間違いない。数人で食べるなら、こうやって家で食べた方がお得だろうね。 ふだんレトルトカレーばっかし食べてる私なので、こうしたごちそうに出会うと、感激の度合いが違う。ふだんからカニばっか食ってる人は、この喜びをきっと知るまい。ふっふっふ。悔しかったら、うちにカニ送ってみろ。カレーと交換してやる。 |
| 01.11.29 | ・ | みが出ない |
| 数日前から、突然プログラムが落ちてしまうことが、頻繁に起きるようになった。 ブラウザやメーラーなど、使ってるソフトに関わらず、とにかく文章を入力してるときに落ちてしまうのだ、ということに気付いたのが第1段階。その次が、何かひらがなを変換しようとスペースキーを押した瞬間に落ちる、と気付いた第2段階である。 これじゃおっかなくて、迂闊に文章入力もできない。そう思いつつ、しかし具体的な原因もわからないまま、びくびくしつつ文章を打っていた。 ところが、日記を書いていて、あるところで必ず落ちる、という変換場所を発見した。 それは、「みが」という部分である。 これを入力し変換しようとすると、100%の確率で落ちる。理由はさっぱりわからないが、とにかくそうなのだ。ふーむ。なんだか謎だが、とりあえずは、「みが」を変換しないようにして様子を見ておこうか。 ……と思っていたのが第3段階。 安心していたのも束の間、今度は「みられる」を変換して落ちてしまったのである。 そう。お分かりのように、「みが」が悪かったのではない。「み」のたった1文字が悪かったのである。現に、「み」で追試験してみたところ、見事に落ちました。 さすがに「み」が変換できないのでは使い物にならない……というわけで、ATOKは死んだという結論に達しました。原因は不明のままだけども。自分のアパートにATOKを置いてないので、今は仕方なくIMEに切り替えて使ってます……。
『ダーククリスタル』という映画の日本版DVDがようやく発売になった。 子供の頃に観て以来、すごーく思い入れの深かった映画だったのだけど、ビデオも絶版になって久しく、DVD化を心待ちにしていたのだった。1時間近いメイキング画像がファンには嬉しい。 この独特のファンタジー映画にはもともと根強いファンが多いのだけど、今回のDVD化でまたその裾野が広がるといいな。 そういえば以前、友人にこの映画のビデオを貸したのだけど、ダビングしてからだいぶ経ってたせいで、画質も音もおそろしく劣化してしまってた……。チェックしないで貸しちゃって、申し訳なかったなぁ。 |