Text - Diary - Past - September,2001
| 01.09.01 | ・ | 回る原理 |
| 流れるプールがどうやって流れているか、その仕組みが未だによく分からない。 たぶんどこかから進行方向に向かって水が放出されているんだろうとは思うが、この日の探索で、そういった放出口はついぞ見つけることが出来なかった(てゆうか何つまんないもの探してんだ俺)。 あるいはもしかしたら、遊泳客がみんな同じ方向に泳ぐことで、初めて水流が生まれてるのだろうか。だから変に立ち止まったり逆行したりすると監視員に怒られるのか。そんなわけはもちろんないので、皆さんは客に扮したペースメーカーなどを探したりしないようにね。 この日行ったのは、お台場の船の科学館、その中にあるプールである。 もう夏もだいぶ終わりに近付き、裸で陽に当たっているより水の中のほうがむしろ暖かいくらいだったが、まあそれは別にいい。 問題は、何が悲しくて男二人で流れるプールなんぞに行かなくてはならなかったのか、とゆーことである。しかもK氏と。あ〜、男むさい。まあ、タダ券を提供してくれたのはK氏なんで文句は言えないんですけど。って、さんざん言ってるけど。 もっとも、いったん泳ぎ始めてしまえばなんだかんだで楽しめちゃう私がいるのも事実なんだが。K氏に水中ドロップキックとか水中ベアークローとかかましてはしゃいでる姿は、あまり他の人には見られたくない姿かもしれない。 それにしてもここの入場料の高さには目を疑った。1800円ですよ1800円。先日行った区民プールはたったの500円だというのに。それでいて設備はほとんど変わらないというのだから、タダ券がなければ絶対こちらは選びません。たぶんもう一生来ることはないと思う。 なので、お別れついでに、船の科学館本体のほうも見てきてしまった。……えーと……当然ながら、男二人で。ほっといて下さい。なんだかんだ言いつつも、軍艦の精緻な模型とかを見てはしゃいでる姿は……(以下略)。 |
| 01.09.06 | ・ | 今さらながら |
| 巷で噂のファンタジー小説『ハリー・ポッターと賢者の石』を読み終わった。 正直なところ、私はあまり楽しめなかった。期待していただけに、残念。 いろいろ詰め込んである細かなガジェットにはわくわくさせられるものの、それを肝心の物語に反映し切れていない。キャラクターは類型的で魅力に乏しいし、何より、いろんなファンタジーのおいしいパーツをつぎはぎしたような内容には、この作品ならでは、と思えるような独創性があまり感じられない。 翻訳も拙い。元来児童向けの物語であるはずが、わりと難しめの漢字や言い回しも平然と使われており、物語そのものの幼稚さと相まって余計に違和感がある。ふりがなを振っていればいいというものじゃないはず。せめて語尾は「です・ます」調にしておいてほしかったところ。 先にも書いたがアイデアだけは豊富なおかげでさほど退屈はせずに読み終えることができたが、読後の満足感は乏しい。 これをトールキンやエンデらの作品と比肩させる向きがあるようだが、それはさすがに無理があるだろ。世界中で大ヒットらしいが、多くの人に受け入れられることが必ずしも質の高さを表してはいないのだと、改めて感じた。 ……いつもながらテキトウなまとめかただな。 |
| 01.09.08 | ・ | それは夏の終わり |
| やや逆説的な物言いになるが、一年というのは実際には長いものだ。私自身、日記を読み返しつつこの一年を振り返ってみると、実に様々な事件があったことに我ながら驚く。 ところが、何か特定の出来事を基準に考えると、急に一年が短く感じられたりする。その出来事がインパクトの強いものであればなおさらだ。特に出会いや別れのイベントにはその傾向が強い。そして改めて時間の経過に気付いて、その流れの速さにショックを受ける。 私は去年の9月末、一生忘れられない別れを体験した。 SSG氏の死である。 SSG氏の一周忌を間近に控え、私はK氏やししょう氏といった大学時代の友人たちと共に、茨城まで墓参りに行ってきた。彼の元を墓参するのはこれが初めてだ。 墓前に花を添えながら、私の心の中は、悲しみより何より、あれからもう一年も経ってしまったのか、という気持ちが強かった。 正直に言って、私は未だにSSG氏の氏を現実のものとして受け止めきれていない。何かにつけて彼の不在を肌で感じることは多いし、頭では理解しているつもりなのだけど、それでもどこか絵空事のような気持ちを拭い去れないでいる。極端な話、いま突然SSG氏から電話がかかってきたとしても、さして驚かないような気さえするのだ。もう一年も経ったというのに、である。 一年前、彼の葬儀に出向いた時から、この気持ちにはほとんど変化がない。葬儀そのものもまるで茶番のようだった。棺に横たわるSSG氏の死に顔はあまりに綺麗で、まったく眠っているようにしか思えなかったのを覚えている。それこそ、揺り動かせば簡単に目を覚ます、そんなふうに感じさせるほど。 その当時は、彼の境遇に同情するよりもむしろ怒りを感じるという声が、私の周囲には多かった。その中には私自身も含まれる。やはり、彼の取った行動をどうしても納得することが出来なかったのだ。人一倍真面目で責任感が強いと思っていた彼がああいうかたちでその人生に幕を下ろしてしまったことが、どうしても釈然としなかった。そんなんありかよと、裏切られたような気持ちにさえなったものだ。 彼を救うことはたぶん誰にも出来なかっただろう。だけど、「もしかしたら救えたかも」の気持ちは、彼と関わりを持っていた人間なら誰しもが思うだろうし、きっと一生引きずり続ける。彼と縁が深ければ深いほど、その思いも強いだろう。それを考えるにつけ、彼の選んだ道はやはり罪深いものだったと言わざるを得ない。 今でこそ、当時ほどの怒りなどはないものの、それでも強いしこりが残っている。会えないことが単純に淋しいと思えるようになるまでは、まだしばらくかかりそうだ。キミはそういう別れかたを自分で選んだんだぞ、SSGくんよ。いいからちょっと戻ってこい、お説教してやるから。 |
| 01.09.09 | ・ | スタジオ入り |
| 今度の月末のライブは、今までの二人組に加えて、何曲かバンド形式でもやることになった。先輩の仲間たちも助勢してくれるというのだ。 そのため、今日は渋谷のスタジオを借りて音合わせをおこなった。今まではカラオケボックスでしか練習したことがなかったから、ちょっと本物っぽくて格好いい感じである。 とはいえ、先輩たちの年期の入った演奏に比べて、私のへっぽこボーカルが添え物的存在なのは相変わらず。箱が替わったからといって簡単に格好良くなると思ったら大間違いなのである。当たり前だが。とりあえず歌詞を覚えるのが先決か……(っていつから言ってるんだこの男は)。 |
| 01.09.10 | ・ | ワンダフルなライフ |
| ビデオで『素晴らしき哉、人生!』という映画を観た。‘47年製作のモノクロ作品である。 泣いた。みっともないくらい泣いた。あ〜、たまらん。 どんなに感動しても滅多に泣いたりしない私だから、これは相当だ。モロにツボに炸裂したらしい。それも悲しみの涙じゃなくて、大ハッピーエンドでの涙だというのがまた珍しく、そして嬉しい。 涙を流すという行為には心の浄化作用があるそうだが、それをいいかたちで実感した。思い切り気持ちよく泣かせていただきましたです、ええ。一人で観てて助かった……。 あ、やばい、書きながら思い出してるだけで、また涙腺がゆるまってきたぞ。ううう。どうなってんだ。トシか、俺も。 |
| 01.09.14 | ・ | レジスタンス |
| おしりが痛い。 最近またおなかの出っ張りが気になり始めたので、それに対するささやかな抵抗として、地道に腹筋とかやってる私。 聞いたところによると、あきゅっぽさんは毎日腹筋60回をノルマにしているらしい。60という回数が言うほど楽じゃないことは、やってみれば判るはず。しかし女のコがこなせているノルマであるからして、これに負けるわけにはいかん、とわけのわからないライバル意識を燃やした私は、当面の目標を60回に設定することにした。 初めのうちは翌日必ず筋肉痛に苦しめられたが、毎日やっていればさすがに慣れてくるものだ。とりあえずノルマをクリアすることはさほど苦でもなくなってきた。 しかし、ここで予想もしない難敵が訪れた。筋肉痛の代わりに、とんでもないところが痛くなってきたのである。 尻だ。 最初に気が付いたのは、シャワーを浴びていたときだった。背中を伝う湯が臀部に到達する際になぜか、ピリッとした痛みが走る。手で探ってみると、ちょうど尾てい骨に当たる部分に、何か小さな傷のようなものがあるらしいことが判った。だがこの時点では、せいぜい吹き出物が潰れた程度だろうと、大して気にも留めていなかった。 しかしその後、改めて腹筋を始めてみて、その認識が甘かったことを知った。腹筋をする際の、臀部と床との接点、いちばん力が加わる部分にその傷はあったのだ。よって、上半身を起き上がらせるたびに、その部分にかなりの痛みが走る。――というより、そもそもその傷が出来たのは腹筋のためらしい。板の間でおこなっていたせいで、接点の部分の皮膚がこすれ破れてしまったのである。たぶん確認すればかなり痛々しい姿になっていることだろう。 おかげで腹筋をするのも辛いが、シャワーを浴びるのがさらに辛くなった。ピリッどころではなく、傷にしみて飛び上がるほど痛い。参った。こんなところを鍛えるつもりは毛頭なかったのだが……。 最近はプールに行けてないので(単にサボってるとも言う)、せめて部屋の中でできる運動くらいは恒常的に続けていきたい。当面は妙な部分の痛みをこらえつつ、おそるおそる腹筋していくことになるだろう。 おなかと別にもうひとつ気になっているのは、おでこの後退具合なんだが……こればっかりは抵抗しようにも、いかんともし難いからなあ。運命に身を任すほかないのか。
世界貿易センターとペンタゴンが破壊されて数日。 正直に言うが、ジェット機突撃やビル崩壊のシーンを見て、私の脳裏に浮かんだのは、ただ「すげえ」の一言だった。 そこで失われたであろう多数の人命の重さを、リアルなものとして即座に感じることが出来なかった。 株価が1万円を大きく割り込んだときも、私は日本経済がどうなるかより、まず「会社はどうなるのか」「冬のボーナスは大丈夫なのか」程度のごくミニマムなことにしか思い至らなかった。 自分の視野や心の狭さを改めて感じ、自己嫌悪を覚えた。 |
| 01.09.15 | ・ | 筋肉大移動 |
| 部屋のカーペットを取り替えた。4年以上前にこのアパートに住みはじめて以来ずっと同じカーペットだったから、さすがに薄汚れてカビ臭くなってしまったのだ。 マンガのぎっしり詰まった本棚を動かすのがとにかく一苦労だった。最初はマンガをちょっと抜けば本棚ごと動かせると思っていたのだが、物事はそう簡単には行かない。結局は引き出しの中身からなにから完全に空にしないと動かせなかった。カーペットの上には他にもパソコン一式なども載っていたので、それらも全てどかし、カーペットを敷き直して、再び家具を元に戻すには、一日を丸々費やすことになった。 そうして汗だくの疲労困憊になったわりには、カーペットが新しくなっただけなので、実際それほどありがたみがない。こんな報われない作業、この先10年はやりたくない。これからはできるだけカーペットを踏まずに生活するようにしよう。 |
| 01.09.16 | ・ | 古くない |
| ビリー・ワイルダーの映画をまとめて観た。『お熱いのがお好き』『あなただけ今晩は』『アパートの鍵貸します』の3本である。 どれも面白かった。50年近く前の映画だというのに、テンポが実に良くて退屈しない。心に残るようなタイプの作品ではないけれど、観ている間はたっぷり楽しめる。すっかりジャック・レモンのファンになってしまった。 各作品の感想を簡単に。 『お熱いのがお好き』……いやー、笑った笑った。観ている間じゅう、そんな女装バレないわけないだろとつっこみ入れっぱなし。マリリン・モンローも評判通りの可愛さだった。セクシー女優というパブリックイメージが強そうなモンローだけど(私がそう思い込んでただけかもしれないが)、少なくともこの映画では違っていた。今回観た3本の中ではこの作品がいちばん好きだ。 『あなただけ今晩は』……バレないわけないだろシリーズ第二弾。最後まで正体を明かさずじまいなのがちょっと不満ではある。 『アパートの鍵貸します』……不遇にもめげずひたすら健気なレモンが可哀想で可哀想で、観ていて相当フラストレーションがたまった。そのぶんラストシーンではじんわり。シャーリー・マクレーンの笑顔がいい。 しかしどうして、タイトルだけ聞くと変なお色気ものみたいな作品ばっかりなんだろう。内容は全然違うのに。好きな映画はなんだと聞かれたときに、こういうタイトルはちょっと答えにくいなあ。 |
| 01.09.19 | ・ | コール |
| ここ何日か、友人たちと毎晩のように電話していた。 まず、お久しぶりの宮崎のSさん。 パソコンを持っていないSさんは、今までずっと郵便局の無料端末からアクセスしてたそうなのだが、 「その端末が壊れちゃったんで、最近ネット見れてないんですよ」 「壊れた? なんでまた」 「よく分からないんですけど、私が使ってたら急にボンって音がして、それきり動かなくなって。『壊れました』って名乗り出るのも変な感じだったので、そのままこそこそ帰ってきちゃったんですけど」 ……それは壊れたじゃなくて、破壊したと言うのではないか。 その後も会話は続き、 「ところで、宮崎まで電話してたら、電話代が大変でしょう」心配そうにSさんが切り出した。 「いや別にそんなことないですよ」 「でも申し訳ないですよ。そうだ私、テレホンカードお送りしましょうか?」 「そんな、大丈夫ですって。それに正直なとこ、せっかくテレカもらってもあまり使う機会がないですし……」 「そうなんですよねー、使いませんよね、テレカって。私、雑誌の全員プレゼントなどがあるとつい絵柄目当てで貰っちゃうんですけど、全然使わなくて、いっぱい余っちゃってるんですよ」 自分でも使ってないんじゃん! いやプレゼントしてくれるのはもちろんありがたいんですけど。 携帯電話の普及で、テレカもめっきり見かけなくなった。Sさんのように死蔵している人もけっこういるはず。家の電話料金もテレカで払えるようにならないものだろうか。 ところでSさんは桃の紅茶さんのファンだそうな。やったね桃さん。 次はこれまたお久しぶり、やはねちゃん。 私が彼の留守番電話に「返事くれ」と入れておいたら、かかってきたのが夜の11時半。 「いま帰ってきたんですよ〜」 以前と変わらぬやはね口調だ。彼を知っている人は、あの独特な気の抜けた口調で読んでみよう。 「大変だね、いつもこんな遅くまで仕事なの?」 「いや、仕事は定時で終わって、パチスロやってました〜。もう毎日パチンコかパチスロやってますよ」 「なんだそれ。そんなんじゃ、金かかってしょうがないだろ」 「ん〜、でも時には、プレステ2を5、6台買えるくらい儲かることもあるから」 「ヘー、そんなに儲かるのか、すごいな」 パチンコの類はまったくやらない私が本気で感心していると、 「いや、中にはそういう人もいるらしい、って話ですよ」 「人の話かよ! 自分はどうなんだ自分は」 「ん〜、たま〜に、プレステ1台分くらいかな〜」 雲泥の差である。そもそもPS1と2でも3倍くらい値段が違うのに、そのさらに5倍、つまり15倍の差があるというのだ。私は呆れて、 「それはいわゆる『パチスロ貯金』を下ろしてるだけじゃないのか、単に」 「うっ。どうしてそういうこと言うんですか〜。いいんですよ、趣味なんですから。ゲーセンだと絶対儲からないけど、パチンコなら儲かることもあるじゃないですか。だから大丈夫です〜」 何が大丈夫なんだかさっぱりわからないが、そういうものなのだろうか。 それから、じーぷら氏とも話した。いたって普通の会話であった。とはいえ、20代後半の男二人が、1時間以上もゲームやプラモやガンダムやらの話題で盛り上がり続けるというのも、冷静に考えてみればそれはそれでどうかと思う。というかそれは「普通の会話」とは言わない。 一時期チャットを盛んにやってたこともあるが、最近はICQに繋いでもあまり友人をみかけない(以前ほど流行ってないのだろうか)。他に友人との接点があまりない私にとって、電話での交流は貴重なのであった。 |
| 01.09.21 | ・ | ポンキッキーズ |
| 仕事のあと、館長と西船橋で飲み。今日はオヤジの付き合いらしく、二人だけの飲みである。 二人きりというのは初めてだったので、なんだか妙に緊張してしまった。たぶん館長の方も、急に私に呼ばれたはいいものの、何を喋っていいやら困ってたんじゃないだろうか。つい黙りがちになる私にいろんな話題を振ってくれて、なんだかずいぶん気を使わせてしまったような気がする。うう、申し訳なかった。 救いだったのは、飲みに入った居酒屋の料理がおいしかったことである。肉にしろ野菜にしろ、そこらのチェーン店とは比べものにならないくらいしっかりしたものが出てきた。実はこの店も事前に館長がリサーチしておいてくれていたのだ。何から何まで、かたじけない。ともあれすっかり気に入った私と館長は、西船なら次回以降もここで飲むことを決定した。 食欲旺盛な館長のことだから、もっとボリュームのある食べ物を選ぶかと思っていたら、彼のお気に入りは意外や『きぬかつぎ』というものであった。私は初めて知ったのだが、これはひとくちサイズの山芋にちょっと塩を付けて食べるという実に素朴な料理である。それをすごく幸せそうに口へと運ぶ館長の笑顔が印象的だった。 とはいえ、「きぬかつぎ大好きマン」とか名乗りつつ1人で3皿もたいらげていたし、仕上げにさっぱりしたものを食べたいと、ざるそばかバニラアイスか悩んだあげくに結局両方食べたりもしていた(本人の名誉のために言っておくが、さすがに完食はできなかった)。比類なき食欲はやはり健在のようだ。 ネット上では分からないような話もいろいろ聞けて、私としてはすごく楽しい飲みだった。ほんとはまだいろいろ話したいこともあったんだけど(「ポンキッキのひらきかた」とか)、それはまた次回のお楽しみということで。 連休中も仕事漬けだという忙しいところわざわざ来てくれて、ほんとにありがとう、館長。愛してるぜ。 |
| 01.09.22 | ・ | 視野狭窄 |
| ガラガラのシートに座り、渋谷へと向かう地下鉄に揺られているときのことだ。 目の前を横切った女性に、不意に視線を奪われた。最初はまずその脚の長さに、次にそのスカートの短さにである。 他の多くの男性同様、私も女性のスカートの短さにはひとかたならぬ関心を抱く。こういう事を書くとスケベだのなんだのと言われてしまいそうだが、関心がない、と書いたところで、今度はムッツリスケベと言われてしまうのだ。それであればむしろ無印のスケベのほうが潔いというものである。 いや、そんなことはどうでもいい。私は別にここで自分のスケベさの正当性を主張したいのではない。 問題なのは、その時点での私の目の高さである。私はとりたてて人より座高が低いわけでも身長が低いわけでもない。むしろ身長に比すれば座高は高めであるといっていい(この事が何を意味するかは深く追求しなくてよい)。 そういう私の視点と、その女性のスカートの裾の高さが、ほぼ同じだったのである。 これがどういう事かお分かりだろうか。つまり、座っている私より、その女性の股関節の位置が遥か上方にあったということだ。私は床にしゃがんでいたわけでも、ましてや寝そべっていたわけでもない。まっとうに電車賃を払って外行きの服を着てシートに座っていたのである。その私の視点より高いところをスカートの裾が移動しているのだ。脚が長いどころの騒ぎではない。長過ぎである。ふだんなら気にも留めないスカートが妙に気になった理由はこのためだったかと、私はようやく得心した。 事実の重大さに驚愕した私は、そのまま視点を上の方へずらしていった。後頭部が窓ガラスにぶつかるくらいのけぞって、ようやく女性の全体像を捉えることができた。でかい。間違いなくでかい。頭が吊り広告をかすめるくらいの勢いだ。女性はすでに私の前を通り過ぎて次の車両へ移ろうとしているが、その天空高くそびえ立つ後ろ姿が車内を闊歩する様は、威風堂々という言葉が相応しいとさえ思わせる。パースが狂っているような奇妙な光景でもある。 圧倒された気分から我に帰った私は、改めてスカートの裾の高さを確認しようと視線を落としたが、その時にはすでに視界から遠く離れ、別の車両へと消えていた。身長などに気を取られず、視点を水平に固定しておくべきであった。 帰り道の地下鉄では、また別のタイプのインパクトある女性を見かけた。 こちらは身長はいたって普通だったが、服装がすごいことになっていた。上着からスカートまで全身がピンク色で統一されており、あらゆる所に白いフリルがついている。ストレートの茶髪にピンク色の髪留めをつけ、白のハイソックスにもやはりひらひらがびっしり。ピンクのパンプスにピンクのバッグ、なぜか安っぽいビニール傘までショッキングピンクという徹底ぶりだ。 このコスプレと見まごうばかりのスタイルを着こなすには、まず本体に相当の素養と、加えて相当の若さ(できれば1ケタ台)とが必要とされる。両方合格していてもなおリスクが高いくらいだ。 しかしこの女性はどう見ても20代後半だったし、あごを突き出し背骨を曲げた奇妙な姿勢で座ったまま、しきりに手鏡で自分の顔に見とれていた。ちょっと怖かった。永田生さん言うところのグロテスカル・キューティーという奴である。手鏡以上に広い視野から自分を見つめ直して欲しかった。 この女性がどこから来てどこへ向かおうとしているのか私は非常に興味があったが、残念ながら彼女は途中で降りてしまい、確認はできなかった。もっとも、降りる駅が一緒だったところで確認のしようもないのだが。 もし自分の彼女や親族があんなファッションにある日突然目覚めたら、私としてはどう対抗したらいいだろうか。それこそ着ぐるみでもかぶるしかないような気がする。
渋谷に向かっていたそもそもの目的は、ライブの練習をするためであった。 ライブまであと1週間だというのにまだ歌詞を覚えてない。いつからそんなことを言ってると思ってるんだ、私は。 以前から思ってたのだが、エレキギターを弾いている姿ってなんとなくエッチくさい。いや、なぜと言われてもよく分からないのだけど。繰り返すが私はムッツリスケベではない。 |
| 01.09.26 | ・ | time goes by |
| 仕事がないわけではないんだけど、このところなぜか一日をやけに長く感じてしまう。 でも、あれこれ考えてるうちに無為に時間ばかりが過ぎ、陽は沈み夜になって、気が付いてみれば深夜の一時過ぎ。これで寝てしまえばまた同じような一日が始まるわけだ。不毛すぎる。かといって何か現状を打破できるような方向性も見付けられてない。まったく駄目なオトナを絵に描いて額に入れたみたいな有り様だな。 仕方ないのでせめて腹筋の回数をちょっと増やしてみます。5回くらい。 冬目景『イエスタデイをうたって』を読み返す。3巻が出てる、との情報をSさんからもらったので、その予習のため。 以前にも書いたかと思うけど、それにしてもこの話は読んでてほんとに身につまされる。男女間に友情は成立するか、というのがこの漫画の大きなテーマなんだが、自分の過去の体験がいやでもオーバーラップして、1話読み終わるたびにうーむと唸り、溜息を吐くことの繰り返しだった。 友情……かあ。うーむ。……ふう。(←再現ビデオ)(いや、特に意味はないですハイ) 近鉄バファローズの優勝が決まった。最後は逆転サヨナラ満塁ホームランという、チームカラーを象徴するような決着であった。カッコ良すぎる。あまりにも出来すぎていて、いまどき漫画でもこんなエンディングはないぞとさえ思わせられるほどだった。まったく事実はフィクションより何とやらですな。 特に近鉄のファンというわけではないけれど、もともと強いチームが当たり前に勝つより、たまにはこういう番狂わせがあった方がドラマチックで面白いよね。 ローズと中村の大阪弁での掛け合いが、いい味出してて好き。黒人と大阪人のノリって基本的に同根なのかも。 |
| 01.09.28 | ・ | チャイルド・プレイ |
| 大学時代からの友人であるM氏が誕生日ということで、川口にある彼の家まで遊びに行ってきた。やはり同級生である彼の奥さんから直々にお呼びがかかったのだ。ほんとはもっと大勢呼びたかったらしいのだが、当日になって突然だったこともあって、結局来られたのは私一人だけだった。当然、会社帰りのスーツ姿のままである。 駅から歩いて10分ほどのところにある新築のマンション、彼はそこに自分の妻及び子供二人と一緒に住んでいた。来たのは初めてだったが、綺麗で立派な部屋だった。凄いよなあ、ちゃんと自分の家持って、しかも家族を養えちゃってるんだもの。俺なんか一人暮らしの生活を維持するにもぴーぴー言ってるというのに。同い年だというのにこの差は一体なんだろう。頑張りの差ですね。 彼の子供は3歳と1歳。二人とも男の子だが、これが実に可愛い。躾がいいのだろう、聞き分けがいいし、それに人なつっこい。M氏たちと酒を飲みながら話していると、トコトコ歩きで寄ってきて、あぐらをかいた私の脚の中にすぽっと座り込んだりする。可愛いなあ。 3歳くんの方は今、特撮のヒーローものに夢中のようだった。ビデオを繰り返し見ては、真剣な顔して変身ポーズを決めたりしている。世代が変わっても、子供に受けるものは不変のようだ。私が怪獣の真似をすると、それはもう活き活きした顔で襲いかかってくる。でも子供のパンチって手加減なしだから、本気で痛かったりするんだよね……。子供の正義心はいたずらにくすぐらない方が無難らしい。あいたたた。 M氏は大学の頃はそのどっしりした風格から『ボス』というあだ名を付けられ、半ば畏れられていて、その雰囲気は今でもほとんど変わっていなかったのだけれど、そんな彼も子供の前になると破顔して「だめでちゅよー」などと言いつつほっぺを膨らましたりしていた。子供の力って偉大だなあ。 奥さんのほうも以前と変わらない調子で、なんだかほっとした。この二人はほんと、大学時代のいい恋人関係のまま家庭を作れたという感じで、羨ましく思う。もちろん私の知らないところではいろいろ苦労もあるのかも知れないけれど、お互いがお互いを思いやってる空気がすごく伝わってきた。それがいちばん大事なことなんじゃないかな。 なにはともあれM氏一家、これからも末永くお幸せに。くうー、妬けるぜ。 |
| 01.09.30 | ・ | 羊のうた |
| 足柄サービスエリアという、わけのわからないところでライブをやってきた。その名が示す通り、高速道路上である。リーダーの考えることはよくわからん。あまりに遠いため、私と先輩などは前日から御殿場のビジネスホテルで待機することになったほどだ。 さて当日。設営の段階から、売店のおばちゃんたちに興味津々でいろいろと声を掛けられた。 「ねえ、有名人が来るの?」 うっ……。そ、そんなプレッシャー掛けないで下さいよう。あくまで余興なんですから。 「演歌やってよ、私が歌うからさぁ」 おばちゃん、なんか勘違いしちゃってますね? 昼から始まったライブは、相変わらずのことだが、ほとんど誰も聴いていなかった。 まあ、逆の立場で考えてみてもこれはある意味当たり前の話で、どこかへ旅行中にせいぜいトイレ休憩くらいで立ち寄ったサービスエリア、そこでなにかバンドが演奏してたからって、よっぽど上手くもない限り、足を止めて聴くようなことはないだろう。はずだ。……ええと、たぶん。 しかしいくら観衆がいないとはいえ、屋外で歌うことにまだまだ慣れてない私は、やはり相当あがってしまった。歌詞のほうはなんとかなったものの、声も足も震えて大変だった。先輩たちのしっかりした演奏に比べて、私の歌が添え物的存在なのも相変わらず。そろそろなんとかせねばならんのう。 ひととおり演奏が終わったところで、ちょうど雨がパラついてきたので幕引きとなった。時間だけは充分あったので、同じ曲を2、3回ずつやろうというプランもあったところだったから、ちょっと残念。 片付けがてら、近くの売店のおじさんにお礼を言いに行くと、 「やめちゃうの? なんだい、雨の中でもやってこそ意味があるんじゃないかい」 おじさんもなにか勘違いしちゃってるみたいでした。反体制派バンドじゃないんだから。 片付けの際にもちょっとしたハプニングが起きた。先輩が車に荷物を積み込んで後部ハッチを思い切り閉じたところ、アンプが若干外に飛び出していたらしく、接触したリアガラスが木っ端微塵に砕け散ってしまったのだ。アクション映画でよくあるような光景だが、現実にここまで粉々になるものだとは思わなかった。メンバー全員が雨でびしょ濡れになりながら、段ボールとビニール袋、それにガムテープで強引に応急処置をした。 夏休みの工作みたいなその状態のまま、先輩と二人、雨の高速を走って帰ってくるのはかなりスリリングだった。ビニールが風にバサバサとなびく音を聞くたびに心臓が縮み上がり、新聞で報道される様子が脳裏をよぎったものだ。皆さんにはあまり真似しないことを薦めたい。 しかし、あるいはだからこそなのかもしれないが、車中での会話は至って呑気なものであった。 先輩は最近、狂牛病の話題に凝っている。もともとそういうセンセーショナルな話題には目がない人なのだ。とにかく牛はヤバイと連呼する先輩に私は、 「でも、特に危ないって言われてるのは脊髄と脳と目玉で、それ以外のところは大丈夫なんでしょう?」 「いやそれがさ、日本の牛解体はずさんで有名らしくて、背骨ごとブッた切ったりするもんだから、他のところにも髄液がかかっちゃったりしてるらしいよ。日本に限ったことじゃないらしいが」 「じゃあ牛は全部ダメってことじゃないですか。それなら豚とか鳥とかを食べるしかないですね」 「いやいや、それだってエサに骨粉が混ざってる可能性もある。そもそも狂牛病は羊の病気で、伝染らないと言われていた牛や人間にまで伝染っちゃってるんだから、他のあらゆる家畜が大丈夫だという保証はどこにもない」 「肉は全滅ってことですね」 「あと、ビーフエキスなんてのもダメだ。あれが入ってるカップラーメンとか、スナック菓子とかも」 「だとするとラーメンどころじゃありませんよ。洋食のコンソメやらブイヨンやらフォンやらってのもダメです。困ったな。じゃあ魚は」 「それも養殖物はダメだな」 「野菜は」 「肥料に混ざってるからダメ」 「こうなると、食えるものなんてほとんど何もありませんね」 「そうだな。だいたい潜伏期間が10年くらいとか言われてるんだから、今さら慌てたところで、すでに感染してるってことだって考えられる」 「なんてこった……」 日もとっぷり暮れた頃、なんとか無事に帰り着いた私と先輩は、夕食にフォルクスのステーキを食べた。 「やっぱり美味いですね、牛肉は」 「ああ、俺は先週もステーキ食ったよ」 |