Text - Diary - Past - April,2001


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01.04.01 夢の終わりと始まりと
 今朝、目覚めるなり私はすぐさま着替え、コンビニへと直行しました。猛烈にケーキを食いたい衝動に駆られていたのです。理由は単純、ついさっきまでそういう夢を見ていたから。しかも、いざ食べようというその直前に、目が覚めてしまったからです。
 漫画などで、ごちそうを目の前にして「いっただきまーす!」の瞬間に夢から覚めてしまってガッカリ、なんていうベタな展開がありますよね。私はなぜか、そういうパターンを実体験することがやたらと多いのです。というより今まで、夢の中で物を食べたり飲んだりを出来た試しがありません。
 まあそういうときは大抵、目が覚めてみると、実際に腹が減ってたり喉が渇いてたりしていて、その反映だったんだなと分かるのですが。今朝も例外ではなかったようで、お腹ぺこぺこになってました。考えてみれば昨日の夕食はコーンフレークだけだったんで、無理ない事ではあります。

 しかし、いざコンビニでケーキ類の物色をしてみると、その高いこと高いこと。大きさと値段がまったく一致していません。そりゃもちろん、大きいからっておいしいとは限らないのだけど、でも春巻1個分くらいの大きさのケーキに200円も300円も出す気にはなれませんよ、さすがに。そんなこんなしてるうちにだんだん夢の余韻から醒めてきてしまって、結局ケーキは買わずに帰ってきちまいました。なんなんだか。
 でもその代わり、180円で買った大福5個セットをおいしくいただいて満足したんですけどね。ケーキ買うよりよっぽど正解でした。帰ってくる途中、並木道の桜が綺麗で、その下で自転車止めて花見しつつ大福立ち食いでもしちゃおうかと思いましたよ。


 西澤保彦『解体諸因』を、今さらながら読み終わりました。やー、楽しかったー。
 もともと西澤氏のミステリは好きなのが多いのですが、デビュー作である本作はなぜか読んでなかったんです。本棚にはずいぶん前からあったのに。く〜、今まで読まずに腐らせてたことがクヤシイ。それぐらいお見事な、パズラーに徹したミステリでした。笑える文体も好みだし、キャラクターも活きてるし、かなりいい感じでした。
 実はまだあと『麦酒の家の冒険』と『幻惑密室』も積んだままになってたりします……。これはもう、最優先で読んじゃうしかないですな。


 生まれて初めてだった。「別格の人」だ、なんて言われたのは。
 今の僕に、その言葉がどれだけ嬉しかったか、どれだけ救いになったか。
 それだけでも、僕が気持ちを伝えた事は無駄じゃなかったって思える。
 ありがとう。――ほんとうに。


01.04.02 どこエッグ
 ちょっとコンビニに寄った際にふと、卵を買って帰る事を思い立ちました。
 本来ならコンビニでなく、もっと安いスーパーなどで10個まとめ買いするのが普通なのですが、時間はすでに夜の9時過ぎ。それに最近自炊をサボり気味のせいで、賞味期限に食べ切れぬまま半分くらい残ってしまうことが多いのです。それだったらとりあえず今回はコンビニで、割高だけど4個か6個入りくらいのを買っとけばいいかなと思ったわけです。
 しかし、食品売場を見渡してみても、なぜか卵が見当たりません。売り切れかな? と思いつつ、私は店員さんに尋ねました。
「あの、すみませんが……卵、ありませんか?」
「え? ……あぁ、それだったらー、店内には置いてないんですよー」
 幼い顔だちの女の子店員さんが、舌足らずな口調で答えます。
「ええとー、その扉を出てちょっと右に行ったところにある建物にー、自動販売機がありますから――」
 ……えっ、自販機ぃ? 卵の?
 不思議なものもあるもんだなあ、とは思いつつも、私は素直に彼女の言葉に従い、外に出ました。今考えてみれば、その時点でもっとギモンに感じるべきだったのかも知れません。その時私の考えたことといえば、せいぜい――いつも新鮮な卵をということで、生協か何かが設置してるのかしら、世の中、パンやお米の自販機もあることだし――程度のことだったのです。
 で、行った先にはありましたよ、確かに自販機が。
 でも、卵の、ではなかったんです。そしてそれは、たぶんもうオチ読めちゃってると思いますが……

 タバコの自販機だったのでした。

 ここでさらに私がオロカモノなのは、ちょうどその近くにいた別の店員さんに、確認で聞き直しちゃったことですね。「あのー、ここらへんに卵の自販機があるって聞いたんですけど……」
「卵の!? いやー、そういうのはちょっと聞いたことないですねー」、当たり前です。

 私はいったん店内に戻りましたけど、かえって自分が恥ずかしく思えて、さっきの女の子店員さんに結果を話すなんて事はせず、テキトウに他の食料品を買い込んでそのまま帰ってきちゃいました。

 ……でもさー、タマゴとタバコを聞き違えるか? 字は似てても、アクセントが全然違うじゃん!
 俺も俺で、「そんな自販機あるわけねーだろ」とか、少しは疑えよ!

 あー、恥ずかしかった……。


01.04.03 ホット・メール
 先月初めの日記で書いたSさんから、再び手紙をいただきました。前よりもちょっと大きめの封筒で、中に何やら入っている様子。何だろと首を傾げつつ開けてみると、これがなんと、誕生日プレゼントだったのでした。ひゃー、嬉しい〜。思いがけない時ほど嬉しさも増すのが、プレゼントというものです。

 内容は、高級そうな入浴剤でした。Sさん曰く、「これ使ってリラックスすべし」との事。うーむ、よっぽどストレス溜まってると思われてるんだなあ…って、『思われてる』じゃなくて、事実その通りですね。最近の日記はそんな事ばかり書いてるんだから、そういう心配かけてしまって当然です。ありがたいことです……うう、人の情けが心にしみまする。

 というわけでさっそく使わせていただきました、入浴剤。うちのアパートはチープなユニットバスなので、普段はシャワーだけで済ますことがほとんどで、バスタブに湯を張るのは久しぶりのことになります。
 入浴剤を溶かしこみ、ざぶん、と湯船に入ります。思わず「うい〜」と、オヤジのような声をあげそうになります。いやー、やっぱり、たっぷりのお湯に浸かるっていうのは気持ちいいもんですねえ……。上品な香りと綺麗な色の湯にたゆたい、体の芯まで暖まって、しばし極楽気分にひたりましたよ。友人の真似して、浸かったまま本なんて読み出したりして。なんだかすごく贅沢してる気分になれちゃいました。
 残りの入浴剤、使い切ってしまうのが勿体ないので、しばらく先のお楽しみとして取っておくことにします。Sさん、重ねてお礼申し上げます。ほんとにアリガト!

 前にも書いたように、Sさんはネット端末を持っていないので、もっぱら郵便局やNTTの無料コーナーを利用しているそうな。海外ミステリマニアのSさんは、ネットでの洋書通販にすっかりハマっているとか。洋書が読めちゃう英語力ってのも相当だなあ、スゴイや(……でもね、いくら無料とはいえ、1日3時間とか使うのはさすがにやり過ぎですぜ……)。
 その合間をみて私のサイトを覗いてくれてるようなのですが、無料ゆえリードオンリーの宿命、その事にかなりのもどかしさを感じているご様子です。今回いただいた手紙にも、私の日記の感想などをいっぱい書いて下さってましたし。どうやらこの流れだと、Sさんがネット仲間として掲示板などに登場するのも、そう遠くない未来のような気がしますな。ネットは楽しいぞ〜、楽しみにお待ちしておりますぜ〜、ふふふ。

 たぶんこれも見てくれてるでしょうから、せっかくなので最後に私信を少しばかり。
 最近の音楽は、ガーネットクロウ、m-flo、くるり、スク−プオンサムバディといったあたりが割とお気に入りです。あとは鬼束ちひろとエブリリトルシングの、好きなシングル曲のためにアルバムを買おうかどうしようか悩み中なり。
 十二国記の新刊が5月ですか。秋ごろ、と聞いていたんですけど、ちょっと早まったんですね。しかし、あまりにブランクが長すぎて、今までのストーリーをほとんど忘れてしまってる私……。今のうちに復習しておかねば。
 ――以上、私信でした〜。

 すっかり電子メールばかりの世の中になりましたが、手書きの手紙の味わいも、やはり捨てがたいものですね。ポストを開けて手紙を見付けたときの嬉しさや、封筒を開くときのわくわく感など、かつてやり取りしていた頃の気持ちが甦ってきましたよ。
 あとは、いつまでたっても下手で読みにくい「字」そのものをなんとかするのが、私の課題ですな。……って、それこそ10年も前からおんなじ事思い続けてるんですけど。ううう。


01.04.04 オーライ。
 ミーハーだと言われてしまうかも知れませんが、まあ今日はとりあえず、メジャーリーグの話をしないわけにはいかないでしょう。
 日本人の野手としては初めて、メジャーの公式戦デビューを果たしたイチロー、そして少し遅れて新庄。タイプはまったく違うこの二人の選手が、それぞれ実に「らしい」活躍を見せてくれました。
 同じ国の人間として、なんだか我が事のように嬉しくなっちゃいますね、こういうのは。思わずスポーツ新聞まで買っちゃいましたよ。いやー、痛快痛快。

 まずはイチロー選手。
 初出場からいきなりスタメンです。それは良かったんですが、最初の3打席は残念ながら音なし。でも相手は、昨シーズン20勝もあげた、リーグ最強のピッチャーの一人で、しかも「ルーキーのジャップごときにやられてたまるかい」とばかりに滅茶苦茶気合い入れて投げてたっぽいですから、無理ないことかもしれません。何しろ次の打者には全打席フォアボールですもん。なんて分かりやすいパワー配分。
 初めてイチローのバットが火を吹いたのは4打席目。甘い球を見逃さずセンター前へヒット。それがきっかけとなり、後続の選手にも連打が生まれ、試合は2点差から一気に同点へ。さらに続く5打席目ではバントを成功させ、1点勝ち越しにつなげ……結果的には、それを決勝点としたわけです。
 初試合にしてこの貢献度ですよ。日本最強のバッターとして、野球ファンの多大な期待を背負い、そしてそれにこれだけ応えられるなんて、ほんとにスゴイとしか言いようがありません。
 さらに嬉しかったのは、最後を締めくくったのが、これまた日本最強の抑え投手・佐々木だったということですね。9回1イニングをきっちり三人でピシャリ。イチローが打って逆転し、佐々木が締める――オールスター戦でも見られないこの夢の組み合わせ、もう、ゾクゾクするほどカッコイイじゃありませんか。こんな燃える展開、まるきり漫画の世界ですよ。興奮するなってほうが無理ってもんでしょう。
 あちらの報道では、『王貞治のホームラン世界記録達成に匹敵する、歴史的な出来事』とまで言う人もいたそうです。それはさすがに大げさな気がしなくもないですが、でもそれに近いインパクトは確かにありましたね。
 叶うことなら、あの球場に居合わせて、生の熱狂を観客たちと共有したかったものです。うーん、生で観られた人、アンタ幸せもんだよ。羨ましい〜。
 とにかくイチロー選手には、この調子でガンガンやってって欲しいですね。期待してますぞ。どうかくれぐれもケガだけはしないように。
 
 さて一方の新庄選手。こちらもいろいろやっちゃってくれてます。
 スタメン出場こそならなかったものの、8回にピンチランナーとして登場し、その後は走塁・守備・打撃ともに見せ場を作って、大車輪の活躍でした。いやいや、こちらもスゴイ。オープン戦でもかなりの結果を残してましたし、実際、彼がここまでやってくれるなんて想像してた人、ほとんどいないんじゃないでしょうか。もちろん私も想像してなかったクチです。
 ……とはいえ、今日の新庄のプレイぶりは、いささか張り切り過ぎといった感もありましたけどね。暴走に近い盗塁をしてみたり、派手なダイビングキャッチをしてみたり。どちらも成功したから良かったようなものの、失敗してたら『やり過ぎ』のそしりを受けかねない類のものでしたよ。いわゆる結果オーライってやつであって。
 もっとも、それがいかにも目立ちたがり屋さんな新庄らしい、といえばその通りでもあるわけで。そういう意味じゃ彼もまた、自分の持ち味を、デビュー戦から思い切りアピールできたと言えるのかも。
 新庄の方も、これからどう化けてゆくか、イチローとは別の意味で期待しております。

 しかし、あのイチローですら手こずる様を見ていると、メジャーの世界ってものがどれだけ桁外れか実感できますね。
 何にせよ、スタメンに入ってるって事はつまり、ほぼ毎日、彼のメジャーでの活躍ぶりを見られるって事。スポーツ観戦の楽しみが、また一つ増えましたな。


01.04.05 コウモリ都市
 4月からさくら銀行と住友銀行が合併していたということを、今日になって初めて知った私です。日経新聞購読してる人間の発言だとは思えませんね。

 ともあれ、おかげで駅前に支店が出来て、かなり便利になりました。今までなぜかさくら銀行だけがなく、さくらをメインバンクにしていた私は、何かの手続きのたびにわざわざ隣り駅まで行かなければならなかったのです。
 西葛西駅前には、これで大手銀行がほとんど揃った事になります。ますます栄える西葛西、その発展スピードには戸惑いすら覚えてしまうほどです。いったいどうなってんだ。私が住むようになったからって、張り切り過ぎなんじゃないかしら。

 あとはこれで、駅に快速が停まってくれるようになれば完璧なんだけどなー。そうなればきっと、友人たちから『エセ千葉』だの『エセ東京』だのと言われることも減る……と思う。そう願いたい。
 そりゃ確かに、県境ギリギリのとこにある街なのは認めるけどさ。荒川越えちゃってるけどさ。これでも東京なんだってば、と・う・きょ・う〜。みんな、どうして分かってくれないんだろう……。私ですら半信半疑なのがいけないんでしょうか。江戸川区って東京だよね、確か。


01.04.06 そこにあるフィールド
 秋葉原そばの職場から東京ドームのある水道橋まで行くのに10分かそこらしかかからないということを、今日になって初めて知った私です。でもこれは、日経新聞購読とはまったく関係ありませんからね。って、何の言い訳にもなってませんね。単に無知(てゆうか常識知らず)な私です、はい。

 そんなわけで、K氏とともにドームへと、『西武vs日ハム』のナイター戦を観に行ってまいりました。たまたまK氏が懸賞で招待券を当てて、せっかくだから一緒に観に行こうと誘われたのです。
「せっかく観るなら、派手な打撃戦がいいね」
「そだね、『強えぇ〜!』とか、思い切り言いたいもんね」
 などと話しつつ、特にどちらのチームのファンでもない私たちは、とりあえず西武側の席から観戦することにしました。
 そして、これが大正解。西武はしょっぱなから3ランと2ランを連発し、初回でいきなり5点を奪う猛攻を見せてくれたのです。まさに『強えぇ〜!』状態で、私たちも観客席も大興奮。いやーほんと、西武側来てて良かった……。もし日ハム側行ってたらどうなってたかなんて怖い想像、したくもありませんよ。
 西武はその後もさらに点を重ね、3回までで8点取って、早々に試合を決定づけてしまいました。こりゃ、今年の西武は強いぞ。もともと投手力と機動力はあるチームだったところへ、新しく入団した二人の外国人選手が、打撃面でかなりの破壊力を見せているのです。今日の試合でも大活躍でしたし。おかげで非常にバランスの取れた、弱点の見当たらないチームへと進化したわけですね。
 メジャーリーグにばかり目を向けられ、今ひとつ地味な存在になってしまった感のある日本プロ野球ですが、こちらはこちらで盛り上げてくれることを期待してますぞ。

 それにしても球場内は、気持ちのいい空間でした。ドームゆえの綺麗な空気の中、高いところから広大なグラウンドを見下ろすというのは、ただそれだけで、何ともいえない爽快感と開放感を与えてくれるものです。ライティングのおかげか、遠くまでくっきり見えるのもいいですね。職場から近いことは分かったし、機会があればまた行ってみようっと。


01.04.07 うたよ、ひびけ
 以前にも書いたストリートライブ計画は、着々と進行しております。今日は、西葛西まで来てくれた先輩と歌合わせなどしつつ、実際に歌う曲を確定させていきました。

 しかし、そうして最終的に決まった曲目を見ると、これがもう見事なほどにジャンルがバラバラ。ゆずとブルーハーツはまあいいとして、そこへ山崎まさよし、奥田民生、ラルク、さらには懐メロやアニソンまで入るという節操のなさ。一体どんなバンドなんだ、って思われること間違いなしですね。演奏して気持ちいい、を最優先で決めてったらこうなっちゃったのさ。
 そのうえ先輩は、オリジナルを1曲作ってみよう、なんてことまで言い出しました。私が作詞、先輩作曲で。先輩、なんかもう完全にノリノリです。もちろん私は作詞の経験なんてないですから、いきなり作詞しろとか言われても、一朝一夕に出来ようはずもありません。なので今回は、「もし出来たら」くらいの感じで収めておきました。
 でも、もしうまいこと出来たとして、果たしてどんな曲になりますやら。そういう意味では興味はありますね。

 で、肝心の実行日なのですが、どうやらゴールデンウィーク中のいつか、ということになりそう。それまでになんとか歌詞を丸暗記しなくちゃならないし、歌そのものの練習もやっぱり必要みたいです。せっかくやる以上には出来るだけいい形でやりたいですから。


 ところで、先輩と練習しているとき、こんな事がありました。
 ノックの音が聞こえた気がして、ドアの窓越しに廊下を見てみると、何やら青年が一人、立ってこちらを見ています。最初はてっきり店員さんだと思ったんですよね。あ、やっぱりボックスの中でアコギを弾きまくるのはマズかったのかな、それで注意しに来たのかな、と。
 でも、違ったんです。おずおずといった感じで入ってきた、ストリート系のファッションに身を包んだ茶髪の若き青年は、こう言ってきたのです。
「あの、外からギターが見えたんで……できたら、目の前で見せてもらいたいな、と思って。……いいですか?」
 予想外の展開に、私も先輩もびっくりです。彼が言うには、彼自身もバンドをやっていて、それで興味を惹かれたんだそうな。もちろんこちらとしては、断る理由はありません。彼を招き入れ、まだ練習中の曲を何曲か歌わせてもらいました。聞いてくれてる人がいるな、と意識すると、こちらとしてもハリアイが出るし、なにより嬉しいものです。
「いいですねー、これならすぐストリートデビューできますよー。葛西あたりだったら、客の食いつきもいいですしねー」
「いやいや、練習始めたばっかしだから、まだ無理だよ〜」お世辞だと分かっていても、つい顔がニヤけてしまう私。それをなんとか抑え込みつつ、「で、キミはライブやったことあるの?」
「いえ、自分もまだバンド始めたばっかりなんですよ。去年の11月ごろからで……ラルクのコピーとかやってるんですけど」
 なるほどねえ。やっぱり今、男がコピーバンドやるとしたら、とりあえずラルクが一番カタいとこなのかも。「そっか、ラルクはいいよね〜。……で、キミは今、歳はいくつなの?」
 何気なく訊いてみただけのこの問い。……しかし、彼の答えに、私と先輩はさらにびっくりさせられることになってしまったのでした。

「――16です」

 わ、若えぇ〜〜!!
 私と先輩は同時に叫んでました。その青年――いや、16なら少年というべきか――は、いかにも今風のいでたちではあったものの、どこか落ち着いた雰囲気があったので、私は20前後だと見当を付けていたのです。それが16! ひえー、物凄い若さ。そうだったのか……。
 先輩は、実はもう30代後半という年齢なので、「親子ほど歳が離れてる」と言っても過言ではありません。「俺が20ぐらいの時に子供作ってたら、ちょうど今ごろ16になってるな」って、先輩自身も認めてましたし。

 よく考えてみると、相手がただ16歳だというだけでなんであんなに驚いたのか、その理由をうまく説明出来ません。たぶんもう私たちにとって、10代半ばだなんて年齢は遥か彼方のものになってて、意識の外にあったからかも知れないです。
 16からギター始めて、ちゃんと練習重ねてれば、20代に入る頃には立派なギター弾きになってることでしょう。その若さが羨ましいぞ、少年。

 少年はその後すぐ、自分の仲間たちにいる部屋に戻ってゆきました。
 その際の挨拶とかもしっかりしてたし、すごく爽やかでかわいい感じのする少年でした。いや、人は見た目じゃ判断付かないもんですね、ほんとに。


 私と先輩はその後もさらに歌い続け、結局5時間あまりもボックスを占領してました。カラオケセットもマイクもほとんど使わずに、です。私も、5時間なんて長時間、しかもずっと一人で歌いっぱなしなんて経験、初めてでしたよ。どうなんでしょう、こういう客って。


01.04.08 笑えない映画
 連休も間近ということで、映画も話題作が次々公開されてますね。
 まあとりあえず、『トラフィック』『ハンニバル』『ザ・メキシカン』あたりは、多少ミーハー入ってますがやっぱり外せないとこでしょう。
 あと、『スターリングラード』も観ておきたい。これは戦争映画なんだけど、狙撃手役を演じてるのが、ドイツ側は“薄幸の美青年を演じさせたら最高”のジュード・ロウ、ソ連側は“苦みばしったオヤジを演じさせたら最高”のエド・ハリスなのです。そんな卑怯なキャスティングされたら、そりゃ観に行かざるを得ないじゃありませんか。


 でもまあ、今の私の場合、連休もなにも関係ないんですけどね……。
 なにしろ、フレッシュな新社会人が街に溢れているこの時期、私はまた、プーな生活を送る事になってしまったのですから。

 日記には全然書かずにいましたが、実際に会社を辞めた(というか、解雇された)のは、もうずいぶん前の話なんですよ。2月に病気で倒れて1週間ほど会社休んだ、その直後のことです。
 解雇の原因は、「健康上の理由で」だそうです。そういう理由だそうですよ。ほんとの病気で休んでたってのに、「やる気がないせいだ」だの「覇気が感じられない」だのと言われて。
 私は素直に辞職勧告を受け入れました。もちろん不当解雇だと思ったし、反論したいこともあったけど、でもそれ以前に、ああこの会社は結局そういうレベルでしか人を評価しない所なんだなと悟り、いっぺんに気力が萎えてしまったんです。

 全くのところ、「やる気が見えない」とか、よく言えたもんだと思いますよ。何か仕事させてくれって毎日お願いしている私になんの指示も与えず、それでいて自分はろくに新入社員教育もしないで外に出っぱなし。そうして社内にほったらかしにされた私は、それでも私なりに、事務の仕事などを積極的に請け負って内勤に励んでいたつもりです。それを何ですか、私の仕事ぶりを見てもいない人間が、どうして「やる気がない」なんて判断できちゃうんでしょうか。正直、怒りを通り越して呆れちゃいましたよ。

 3月の日記にある、いろんな会社でのお話は、つまり就職活動の話だったわけです。あのあたりを読んで、「もしや」と勘づいた方も多かったのではないでしょうか。極力「明らかなウソ」にあたる記述はしないよう、心掛けてはいましたけどね……。
 でもさすがにもうごまかしが利かなくなってきたので、このあたりで白状しておくことにしました。

 そんなこんなで、とにかく3月中は、精神的にはボロボロでした。29歳になってしまったという焦りがある上、10社以上受けた会社も全滅し、半ば自暴自棄になっていたような向きもあります。
 今もまだ状況自体は少しも好転していないのですが、気持ちの方はようやく落ち着いてきたかな、といったところです。

 状勢ははっきり言って厳しいです。とはいえ、泣き言ばかり喚いていても始まらないので、また明日から仕事探しの毎日、気合い入れて頑張っていきたいと思ってます。

 しかし、何でこんなに波乱ばっか起きるんだろ、俺の人生……。まったく笑えないコメディ映画みたいです。なにも高望みはしてないつもりなんだけどな。ただ平穏無事でさえあればいいと、それだけ。……それが一番の高望みってやつなんだろうか。


01.04.09 日記の意味
 今ごろになって、2年も前の日記を更新したりしている私です。すでに“日記”でもなんでもありませんね。いつまでも「工事中」にしておくのが気持ち悪い、ただそれだけの理由で、あくまで自己満足のためにやってます。さいわい、時間だけはたっぷりあるし。

 でも昔の日記を読み返していると、当たり前ですが、時の流れというものを如実に感じて、なんだか溜め息が出てきてしまいますね。人との関わり方や周囲の生活環境はどんどん変わっているのに、肝心の自分自身は大して変化も成長も出来ていない(少なくとも自分にはそう思える)。その事を再認識させられてしまうのは、けっこう精神的に堪えるものがあります。
 もっとも、そうやって反省することが、日記を書くという行為にある意味の一つでもあるわけで。せめてこれを材料にして、今の自分を少しでも良い方向に変えていければいいんですが。

 とはいえ、己の思惑や希望とは関係なく、自分を取りまく状況は、時に容赦なく変わってしまうもの。2年前の私は、今のような境遇にやがて晒されるということを、果たして想像できたでしょうか。そして、さらに2年先の私は、一体どんな日記を書いているのでしょうか……。


01.04.10 読書する男
 ちょっとした時間つぶしのつもりで本を読み始めたはずなのに、思わず最後まで読破してしまい、ふと時計をみたら夜の12時を過ぎていました。すっかりハマってしまって、途中で止めるに止められなかったのです。
 読んでいたのは西澤保彦の『麦酒の家の冒険』。先日の『解体諸因』以来、すっかり“西澤モード”に入っちゃってます、私。今回のこれも、かなりのクオリティでした。

 ――山奥に建っていたその無人の家には、2つのものだけがあった。1階にベッドが一つ、2階に冷蔵庫が一台。しかも冷蔵庫はわざわざクローゼットの中に隠してあり、さらにその中には、冷えた缶ビールがぎっしり詰められていたのである。
 いったいどうして、こんな家がこんな所に? 奇妙な状況のみを手がかりに、主人公たちは様々な推論を重ねてゆく。論議の果てに、やがて彼らが行きついた驚くべき真相とは――

 この作品の優れた点は、積んでは崩す論理展開の面白さにあります。一見もっともらしい答えが出されたかと思った直後、反証によってあっさり覆されてしまう、その繰り返し。それがあくまでも論理的な思考によって行われるため、高度な頭脳ゲームを見ているような快感があるわけです。
 こういった論理の積み重ねだけで事件を解いていく作品としては、ハリイ・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』がつとに有名です。また、海外なら『隅の老人』や『黒後家蜘蛛の会』、国内なら『退職刑事』や、北村薫の一連のシリーズなど名作は多数あります。いわゆる“安楽椅子探偵”と呼ばれるジャンルですね。
 しかし、それらはいずれも短編。それに比すると、「空き家にビール」というネタだけで文庫本まるまる1冊分、まったく飽きさせずに最後まで引っ張ってしまう西澤氏の筆力には、やはり唸らされざるを得ません。こやつタダモノではない、との感が改めて強まりました。いやー、すごいすごい。

 初めて『七回死んだ男』を読んだときの衝撃は未だに忘れられませんが、それ以降、他の作品を読むたびに、西澤氏の評価は上がる一方です。こういうのは珍しいですね。逆にどんどん下がってくパターンはよくあるんですが。
 西澤氏は作品の刊行ペースがかなり速くて、まだ読んでない作品もいっぱいあります。新作が書店で平済みになってるのも見かけちゃいましたし、こりゃしばらくは“モード”が続きそうかな。こういう「当たり」に出会えると、ほんと嬉しい。これだからミステリはやめられんぜ。


01.04.11 ノーカット版
 以前にも書いたかと思いますが、我が街・西葛西の駅前周辺には、美容院が異様なほど乱立しています。ざっと数えただけでも10軒は下りません。どんな髪型にするか以前に、店を選ぶのにまず迷ってしまうほどです。もともと髪型に無頓着な私なんぞは、店を選ぶ判断基準が少ない(というか無いに等しい)ので、余計に困ります。むしろ1,2軒しかないくらいの方が、私にはありがたいのです。

 それでも今は、とりあえずここなら問題なし、という店を2軒見つけたので、用途に応じて使い分けてます。

 一軒目は、とにかく「安い」が取り柄の店。ここでは主に縮毛矯正(要は強力なストレートパーマ)だけかけてもらいに行ってます。なにしろ安い上に長持ちするので文句なしです。ストパかけるのも別におしゃれのためじゃなくて、ひどいクセっ毛なのを毎朝直すのが面倒だからです。
 今日もここで矯正してもらってたんですが、その時に店長さんが、
「近所に新しい店舗を増やすんで、よろしく〜」
 とか言ってました。聞くとこによると、近くにあった美容院が一軒つぶれたので、そこを施設ごと買い取ったんだそうな。ふーん、やっぱりただ増える一方じゃなくて、淘汰されてく店もあるんだなあ。

 二軒目は、値段はそれなりだけど、とにかく「店員さんが面白い」が取り柄の店(――ね、私の選択基準なんて、所詮こんなもんです)。
 もともとは私、髪を切ってもらってるときに話しかけられるのって苦手なんですよ。ぶっちゃけた話、最近の天気だとかのどーでもいいような話題にいちいち対応するのって面倒臭いし、かといって、ぶっきらぼうに答えて印象悪くするのもマズイかなとも思うし。で、結局は適当に愛想良く会話しなきゃならないわけで、無理してるぶん疲れてしまうんですな。いいからとにかく髪切りに専念して早く終わらせてくれって感じです。
 でもその点この店は、なぜか妙に話の合う店員さんが多いんです。特に私の担当をしてくれてる人は相当な映画ファンで、かなりマニアックな話をしても通じるので嬉しくなってしまいます。むしろ私のほうが教えてもらうことが多かったり。そういう実のある会話ならむしろ歓迎ですね。
 他に、こんな店員さんもいました。初めての会話の時に、こう話しかけてきたんですね。
「ふだん、マンガとか読みます?」
 まあ話題としては無難なところでしょう。私はとりあえず、その人とは初対面ということもあって、
「ああ、読みますよ。『はじめの一歩』とか好きですね」
 と、まずは正統派のタイトルを挙げました。完全に猫かぶりです。とはいえ、ここでマイナーな漫画を答えて、寒い空気にするわけにもいかないでしょう。私の対応は間違ってなかったと思います。
 ところがその店員さん、返す刀で、私の予想を遥かに超える、こんな事を言ってきたのです。

「私もマンガ、好きなんですよー。ええと……『ファイブスター物語』とか」

 相手の方が圧倒的にうわてでした。ファイブスターはないやろ、よりによって……。
 いや、ここであの漫画の良し悪しを云々するのはやめときましょう。ただ問題なのは、初対面の客に、あんなカルトな、マニアックの極致みたいな漫画の話して、通じると思ったんかい! とゆう事です。10人いるうち1人か2人に通じればいいほうだと思うぞ。せめてもうちょっと社会的に認知度の高そうなタイトル出そうよ、ねえ。
 だもんで、私も仕方なく、

「あー、知ってますよ。ヤクトミラージュってデカいですよね〜」

 とか答えてあげましたさ。店員さんも大喜び。

 ……もしかして、「この人は通じる相手だ」って見抜かれてたのか? あーはいはい正解、通じますよーだ。……って、なんかクヤシイ気がするのは何故だろう。


01.04.12 即決。
 いきなり会社の内定が決まりました。
 2時に面接に行って、3時に終わり、その帰り道の4時ごろ、携帯に「内定です」との連絡が入ってきたのです。

 ……すげー人事だなー、なんだか。確か、採用試験は今日からスタートって言ってたはずだぞ? なのに、さっき面接受けたばかりの人間を即日内定って、いくらなんでも早過ぎじゃないのか。
 本来なら素直に喜ぶべきなのでしょうが、このスピード採用に、その会社の余裕の無さというか、いかにも切羽詰まってる感じを受けてしまったんです。ということはたぶん仕事も相当キツいのではないか、と。それに正直なとこ、労働条件もあまり良くありませんでしたし。
 それから実は、他にももう1社受けていて、どちらかといえばそちらの会社の方に魅力を感じているということも、単純に喜べない要因の一つです。

 迷った末、とりあえず先の会社の方には、「少し考える時間が欲しい」と答え、いったん保留というかたちにしてもらいました。でも、リミットは月曜までだとか……。
 もう一つの会社の選考結果が月曜までに出れば、何も問題はないんですけどね……。まったく、今までさんざん苦労してようやく仕事先見つけたと思ったら、こんな事態になってしまうとは。二股かけるのはイケマセンって事ですかね、何ごとにおいても、やっぱり。


01.04.13 匣入り男
 先日に続いて、本に熱中して時間を忘れる、というのをまたやってしまいそうになりました。
 今日読んでいたのは竹本健治『匣の中の失楽』です。これまた、推理小説ファンからは「今まで読んでなかったんかい」と笑われそうなほど有名な作品です。いや、ずっと以前からありましたとも、本棚には。あっただけですけど。
 でもこのボリュームある本を読破するまで読み続けてたら朝になってしまうので、途中でうまいこと切り上げました。で、こんな時間(夜の3時)になって日記を書いてるわけです。全然うまいこと切り上がってないですね。うー、明日は早起きしなきゃならないってのに、大丈夫だろうか……。これだからミステリは困るぜ。


01.04.27 空間の歪んだ会社で
 うちの会社ではなぜか、デスク回りの備品がやたらと無くなります。消費が早い、という意味ではありません。本当に影もカタチもなくなってしまうのです。

 例えば今日など、トイレの前に置いといたセロハンテープが、ほんの5分ばかり目を離したスキに、いつの間にやら正面玄関先にまで移動していました。また、2階の経理部のシャーペンが1階で発見される、なんて事もありました。

 どうやらこの会社では、「自分のモノ」「他人のモノ」という概念がそもそも存在しないようなんですね。とにかく自分の手の届く範囲にあるモノはすべからく「会社のモノ」であり、勝手に持ってって使ったあげく、元の場所には戻さない。その結果、さっき書いたような現象が起こってしまうわけなのです。

 先輩たちはさすがに慣れたもので、
「ああ、うちの会社はそういう会社だから。私物とかは持ってこない方がいいよ」
 ……そういうことはもっと早く言って下さい、先輩……。


01.04.30 どこまで続く……。
 K氏の彼女から電話。しかも声が暗い。
 瞬間的に連想したのは、言うまでもなく、去年の忌まわしきあの事件です。

 しかし、K氏自身の身に何かがあったわけではありませんでした。
 ――K氏の父上が突然、亡くなられてしまったのです。

 それはK氏にとって、ある意味、自分自身が死ぬよりも辛い苦しみかも知れません。
 これでしばらくの間は、K氏の元気な姿は見られそうにないでしょうね……。


 そして、ここへさらに追い打ちです。
 私の数少ない遊び相手といえばあと一人、C氏がいます。特に99年あたりの日記を見ると自分でもびっくりさせられるほど、かつては毎週のように遊んでました。しかしこのところはすっかりご無沙汰で、どうしたものかと思っていたのですが……今日、しばらくぶりにメールが届いたんです。おお、生きていたか、偉いぞ。

 ……と、喜んだのも束の間。

 その内容によれば、やんごとなき理由によって、C氏もまた当分の間――いや、おそらくはこの先もずっと――会えなくなる、ということを伝えられてしまったのです。

 ……なんというか。
 もうコメント不能なくらいにヘコんでるんですけど。


 ここ1年あまり、特に去年の後半あたりからの私の運気は、明らかに最悪です。こと友人運に関して言うなら、超の付く大凶と言っていいでしょう。
 人一人が受け止めきれる精神ダメージにも、いい加減、許容量というものがあります。中には「なんのこれしき」と乗り越えてしまう人もいるのでしょうが、あいにく当方、そこまで強靱な精神力は持ち合わせていないのです。

 自分の努力で何とかなるものなら頑張りようもありますが、自分の意志とは全く無関係に動く運命の車輪には抗いようもありません。私はどこまで孤独に追いやられてしまうのだろう。今はただ、声をあげて泣き出したいのを必死で堪えるのが精一杯なのです、全くのところ。



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