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2019年8月 

 

 

 

 

 

 

「豚舎・設備のお悩み解決!」(76)「浄化槽の管理と改善方法」
 
今年の7月から窒素の暫定排水基準値が600g/Lから 500g/Lに引き下げられたことはご存じの方が多いこととおもいます。
水質汚濁防止法による浄化槽排水の一般河川放流の基準値は
pH5.88.6BOD120mg/LSS200mg/L、窒素含有量が120mg/L、りん含有量が16mg/Lと決まっています。
但し、放流先の河川が東京湾や瀬戸内海、霞ケ浦など、環境省が指定する地域へ流入する場合は上乗せ基準があります。
この機会に自社の排水が基準値をクリヤーしているかどうか。
また、超えているのならどうすればよいかを再確認していただければ幸いです。
 
【用語のおさらい】

BODとは、生物化学的酸素要求量のことです。
養豚排水の汚れ物質は、主に豚の糞尿やこぼし餌、豚毛などの有機物です。
これらの有機物を微生物が分解するときに必要な酸素の重量を用いて表しています。
有機物そのものの重量ではありません。
単位はmg/L(ミリグラムパーリットル)で表します。
ppm
Parts Per Million)という単位で表すこともあります。
100
万分の一の事ですから同じです。

SSとは浮遊物質のことです。
水中に浮遊する粒子径2 mm以下の不溶解性物質の総称のことで、こちらも単位はmg/Lで表します。
養豚排水では主に糞やこぼし餌の分解物です。
前処理工程で豚舎汚水からSSを取り除くとBODのもとになる物質は主に豚尿だけになり、BODが下がります。
浄化槽を管理する上ではMLSSSVDOが出てきます。
MLSSとは瀑気槽内に生息する微生物・(汚れを食べてくれる)活性汚泥の濃度です。
単位はmg/Lです。これも少なすぎても多すぎても浄化はうまくいきません。

SVとは、活性汚泥の沈降度合いで、30分静置後の沈降度をSV3060分後の沈降度をSV60と言います。
DOは溶存酸素量の事で、水中に溶けている酸素濃度です。
バッキレーターの種類や散気管の形式によって酸素を溶け込ませる効率が違います。

【水処理基本のおさらい】

一般的な養豚汚水処理は、活性汚泥法という生物処理によって行われます。
「汚泥」という名が付いていますが、中身は微生物の固まりです。
つまり曝気槽の中で微生物を飼っているのです。豚舎で豚を飼っているのと同じ感覚で取り扱う必要があります。

1は活性汚泥法の基本概念です。
微生物の数はMLSS濃度という数値で表されます。
豚の飼育密度と同じで、薄すぎても多すぎてもうまくいきません。

酸素はブロワーやバッキレーターによって供給されます。
これは豚舎の換気と同じで、不足すると豚が病気になるように、浄化処理が悪くなります。
ブロワーやバッキレーターが古くなると送風量が減るので浄化能力が落ちます。
微生物の餌になるのが豚の糞尿です。これが多くなると微生物が食べきれなくなり、処理水の水質悪化になるわけです。

豚舎が古くなるとスクレーパーの糞尿分離が悪くなり、排水中に糞が混じってくるようになります。
ですから、浄化槽を作ってから年月が経つと浄化処理がうまくいかなくなることが多いのです。

【日常の浄化槽管理】
@  前処理がうまくいっているかどうかのチェック。前処理には図2のような方式があります。
前処理方式の違いによる除去率の比較      
           
  BOD除去率 SS除去率 設備投資 ランニングコスト 特徴  
流下式
スクリーン
10〜15% 20〜30% 最安 最安(ポンプの電気代のみ) シサ(除去有機物)の含水率が多い  
振動篩 10〜15% 20〜30% 安い 安い(ポンプと篩の電気代のみ) 流下式スクリーンよりも目詰まりが少ない  
高分子凝集剤
+脱水機
約40% 70〜95% 高い 高い
脱水機の電気代
+凝集剤
脱水機の形式の違いにより、除去率やコストの違いが大きい  
高分子凝集剤
+ポリ鉄
+脱水機
40〜50% 70〜95% より高い より高い
脱水機の電気代
+凝集剤+ポリ鉄
ポリ鉄は無機凝集剤なので、曝気後の排水の脱色に効果がある  
高分子凝集剤
+リセルバー
+脱水機
約60% 99.9% 最も高い より高い
脱水機の電気代
+凝集剤+リセルバー
脱水ケーキの含水率が70〜75%と低く、堆肥化が容易  
           

凝集剤を使った脱水処理をしている場合は、凝集剤と反応させて汚水を脱水機に入る直前で透明な容器に採って観察してください。

図3のようにフロック(有機物の塊)が浮いて(沈む場合もあり)液体が透明に近い状態が正常です。
フロックが細かくて液体部分が濁っている場合は凝集反応が合わない状態です。
前処理がうまくいかないと瀑気槽に流入するBODの量が増えますので、浄化槽も不調になります。
A  豚舎からの排水量が多すぎないか。浄化槽の設計よりも排水量が多くなっていれば当然、浄化処理も追いつかなくなります。
回分式浄化槽の場合は11回の投入ですから、調整槽(前処理後の汚水をためておく槽)にたまった量を見ればわかります。
しかし、連続式瀑気槽の場合は測定が難しいです。
確実なのは各豚舎の量水計を取り付けておき、それを読んで合算することです。
B  浄化槽の日常点検。
    浄化槽管理記録簿         農場:      
                         
月日 時刻 天候 気温 水温 SV30 SV60 DO pH 備考 記録者  
                         
                         
                         
                         
                       

図4が点検簿の例です。農場には1リットルのメスシリンダーとpH計とDO計は最低限備えておきましょう。
MLSS計は高価ですし、SVを見ればだいたい見当が付きます。
SVの測定は、瀑気槽の水をひしゃくで汲み取り、メスシリンダーの1000L目盛りまで入れて30分静置します。
沈降した活性汚泥と上澄みの境界の目盛りを読んで10で割ります。

図5  図6 図7

例えば図5の場合は850辺りなので“85”となります。
正常な値は、浄化槽の処理方式にもよりますが、SV307090SV605070ぐらいです。
図5は雨水が大量に入って活性汚泥が流出し、SV20まで下がっています。
図7はほとんど沈降していません。これですと綺麗な排水は得られません。

もうひとつ大切な値がDOです。
酸素の供給量が足りなければ微生物がBODを分解できません。
DOの正常値は0.51.0mg/Lです。多すぎても過曝気になって沈降しなくなります。
しかし、DOは微生物が使って余っている溶存酸素の量なので、もっと正確に曝気状態を管理するにはORP計(酸化還元電位計)を使います。
例えばDOがゼロでも、微生物への空気がちょうど間に合っている場合と、不足している場合があるからです。
ORP計ですと不足している酸素の量までわかります。
1台でpH、水温、ORPを測定できる機器が通販で4万円弱で買えますので、これを備えておくと便利です。
【浄化槽の改善策】
@  前処理を強化する。
BOD除去率の高い機器に替えるか機器を追加する方法です。
A  酸素供給量を増やす。
ブロワーやバッキレーターは経年劣化で酸素供給量が減少しますので、水中曝気レーターは5年ぐらいで買い替えが必要です。
陸上のブロワーで送風する設備では、散気のズルノ劣化の方が早いです。
散気ノズルを微細気泡タイプに買い替えるだけでも酸素供給量が格段にアップし、瀑気槽が生き返ります。
B  3次処理(後処理)を追加する。
水量が増えて沈殿槽での沈降分離が間に合わなくなったならば、MF膜等の膜処理設備を追加すると、活性汚泥の流出が防げます。
ここでは詳しくは書けませんので、設備改善に当たっては複数の水処理業者さんと相談することをお勧めします。

 

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最終更新日 : 2022/01/23