『守っていますか、出荷のルール』

出荷を楽にする! 

 

豚の出荷は養豚場の作業の中で最も重労働の部類に入るのではないでしょうか。
商品として送り出す大切な作業であり、その扱い方次第で枝肉の格付けや販売金額にまで影響する重要な作業です。
それにもかかわらず、楽をしたいという思いがつい先行してしまい、手荒に扱われていることもしばしば見受けられます。
今回の特集で私からは、『無駄な手間や余計な作業動線をつくっていないか?』『出荷の際の人員配置のコツや豚が自主的に動くための工夫やトラックへの誘導方法』などを中心にご紹介します。

 

【優しく、丁寧に、素早く出荷することの重要性】

本誌の読者さんは主に経営者の方が多いと聞いておりますが、今回の記事は出荷に係わる社員の方全員と運送業者の方にも読んで頂き、頭に入れて頂きたいです。

枝肉格付け書と精算書を見て頂くと、格落ち理由に『仕上げ』や『外傷』、『内出血』、『アタリ』という標記を見つけることがあります。この原因の多くが出荷時に発生しています。
そしてその多くが『並』や『等外』にまで格下げされますので、損失金額が大きくなるものです。
この格落ち理由が多い農場は出荷作業手順を早急に見直す必要があります。

ロースの内出血の多くは出荷時に豚の背中を棒などで叩いたことにより発生します。
また、外もも内出血は、長靴で豚を後から蹴った時にも発生します。
「豚を叩くな」と言われている従業員が、豚が動かないからといって蹴っていたのを目撃したことがあります。
「長靴は硬くないから大丈夫」と思っていたらしいですが、先端が小さいですし、豚の腿は脂肪が薄いので、筋肉へのダメージは想像以上に大きいものです。
内もも内出血は、出荷台とトラックの隙間に豚が足を落としてしまい圧迫されて発生することがあります。
出荷台の形状や高さを出荷トラックに合せられるような工夫と、ぴったり合わせてトラックを止める運転技術が求められます。

また、積み込みに時間がかかってしまうと、時間のロスだけにとどまらない場合があります。
夏の暑い時に、さんざん豚と格闘して追い回していると、輸送中のトラックの中で心不全により死亡してしまうことがあります。
あるいは、締まりの悪い枝肉になって格落ちしたり、という損失が発生するのです。

 

【まず豚の本能を知る】

では、効率よく優しく出荷するためには何が必要かと言いますと、まずは豚の本能を知り、うまく利用することです。

@    豚は基本的に好奇心が旺盛なので、柵を開くと出たがります。

A    一方で警戒心も強く、匂いの変化、光の変化に対して臆病になります。

B    猪突猛進(まっすぐ走るのは得意)

C    行く手が見えない通路の角は警戒して止まる

D    右回りが苦手で左回りが得意(陸上のトラックも左回りです。心臓が左にあるから左に傾いて走る方が自然なのでしょう。:筆者の勝手な想像です)

E    単独行動よりも集団行動を好む

F    段差を上るのは得意だが下るのは苦手

G    鼻を押さえられると動けなくなる。または、抵抗出来なくなる。

H    人の殺気を感じ取ることが出来る

I    前からの危険を感じると横に逃げる。後からの危険を感じると前に逃げる

以上10項目を挙げました。細かい事を言えばもっとあるかもしれませんが、これだけは覚えておきましょう。

 

【本能を利用して効率よく力を使わずに出す】

では、まず、豚を豚房から出す時の手順を追って説明していきます。

豚舎のレイアウトによって出しやすさが違います。図1をご覧ください。


a)は豚を左回りに動かしますので最も出しやすいパターンです(本能D)。
b)は右回りですが方向転換が無いので出しやすいのです。
c)やd)のレイアウトでは通路に出る時に方向転換をしなければいけないので、出口で止まる豚が多くなります。

豚房の豚を全部を出す場合は、まず、図1a)印のところに立って扉を開け、豚が自然に出てくるのを見送ります(本能@)。
豚房の出口から顔を出して止まった豚には、手を伸ばしてその豚の尻を軽く平手で叩きます(本能I)。

一方、豚房から選びながら出す場合は、1人または2人が豚房に入りますが、ここで注意です。
「さあ、さっさと出やがれよ。豚どもめ!」などと意気込んで入ってはいけません。
その殺気を豚は敏感に感じ取り、出たがらなくなってしまいます。
豚移動の下手な人は最初の気持ちの持ち方から間違っているのです。
自然体で「さあ、豚ちゃんたち、お出かけだよ。」ぐらいの軽い気持ちで入ると豚もリラックスして出ていくものです(本能H)。
スムーズに出すためには、図1の○印のところに立って豚追い板を点線のように立てます。
これは、本能I、出口のところで危険を感じて横にそれるのを防ぐためです。
そして立ち止まった豚には、○印のところに立った人が豚の尻を軽く平手で叩けば出ます。
出荷にかかわる人数が少ない場合は、図2のような板を点線の場所に立てかけます

板を自立させるためには、板に図のような切り欠きを入れて、そこを豚柵の横筋に引っ掛けます。
豚柵の種類は農場によってまちまちなので、現場に合せて加工して下さい。
このあて板があるのと無いのでは、作業時間が驚くほど違います。
板の持ち歩きが面倒でもそれ以上の価値があります
よ。

次は通路から出荷台までです。
出荷の人数が十分確保出来る場合は、図3の○印に人員を配置します。

A
は追い板を持って追い込む人。
B
Cは角に止まった豚を進める人(本能C)。
もし通路が狭い場合は、Bの人は角の豚房の中に入って立ちます(点線○の位置)。
C
の人が立つ場所の通路を塞ぐ資材が板ではなく柵である場合、豚がCの人を警戒してしまう場合があります。
その時はBと同じく豚房内に入って立つ必要があります(点線○の位置)。
D
の人はトラックに豚を押し込む係、Eはトラック等に乗った豚が豚舎に戻らないように見張る係です。
防疫を守るためにはDEには責任感の強い人を当てて下さい

もし、人数が足りない場合は、トラック等が場内移動車の場合に限り、以下の運用も可とします。

まず、場内トラックはデポまでのワンウェイ運行とし、ピストン輸送はしない。
トラックは使用後に洗浄→乾燥→消毒→乾燥の工程を経たものであること。
そうすればDEを一人で兼務可能です。
ただし、前述の方法よりも病気侵入のリスクは高くなりますから、やはりEの人はトラックの荷台とラックの運転のみを担当するのがベストです。
1回の出荷にトラックが2台必要な場合は、必然的にDE別々に2人必要です。

トラックへ積み込み箇所では匂いが異なりますし、ウインドレス豚舎の場合はまぶしさも手伝って豚はなかなか乗りません(本能A)。
ウインドレス豚舎の農場では、トラックごとすっぽり入る出荷台を作り、トラックを暗くして、豚が乗りやすい環境にしている農場もあります。
また、トラックの後部には柵が必要です。
柵が無いと荷台から出荷台へ戻ってしまう豚を防ぎきれなくなります

また、トラックの後部柵の豚出入口扉の幅は90cm以上が望ましいです。
それは、
2頭並んで入れる幅が必要だからです。
1頭だけでは尻込みする豚も、となりの豚が進めばすんなりと乗るものです(本能E)。
また、通路の途中まで戻ってきた豚が数多く固まっている場合は、全部一挙に押し戻すのは大変ですし、1頭ずつでは効率が悪いです。やはり3〜4頭ずつ追い込んでいくのが最も早いものです。

このように、出荷は人出が多い方が楽に出来ますので、出来るだけ農場全員で取り組むのがベストです。
私が以前勤務していた
300頭一貫農場では、出荷のある日は全員出社するシフトを組んでいました。
豚房からマークした豚を選びながら出荷するのですが、
60頭積み込むのに5人がかりで、約20分弱でした(出荷台での生体重測定も含めて)。

しかし、2サイトや3サイト肥育農場では人員が少ないことが多いですね。
そんな時は通路に逆行防止柵を設けてみましょう(図4)。

自分の農場にちょうど良いサイズというのはなかなか無いものですから、お勧めは自作です。
例えば、オートソーティングシステムの部品である一方通行扉や、分娩柵の尻止め柵で一方通行タイプのものを流用して加工するのが簡単でしょう。
通路の壁とはピンで止める形にして、取り外しが出来るようにすると便利です。
通路の交差点を塞ぐ扉もそうですが、ワンタッチで抜き差しできる構造にすると便利です。
それにはちょっとしたコツがあります。

図5のように柵にピンを溶接するのですが、上部のピンは完全に落とさずに、受け金具の上面から1cmほど離して溶接するのです。
こうすることにより、最初に下側のピンを受け金具の穴にいれてから、上のピンを上の受け金具の穴の位置に合せることが出来ます。上のピンも下のピンと同じように溶接してしまうと上下のピンを同時に受け金具の穴に入れなければならず、合せるのが難しいのです。重い柵であればなおさら大変になります。

 次に出荷台の高さ調整です。豚は後ろ足よりも前足が短くて頭が下がっていますので、下がっている段差に恐怖を感じます。逆に鼻が乗るくらいの上り段差は平気でジャンプして上ります。
ですから、出荷台は出荷トラックの荷台より約10cm低く作らなければいけません。
出荷車が複数あって荷台の高さが異なる場合は、トラックのタイヤが着く場所の高さを
2段にするなり、取り外し可能なスロープ台を作って調節できるようにしましょう。

デポの高さも同様に、農場トラックが着く側はトラックの荷台よりもデポが10cmぐらい高くなるように作ります。
反対側、屠場へ行くトラックが着く側はトラックの荷台が10cmぐらい高くなるように作ります。
こうすることで、積み込みや荷下ろしがしやすく、豚が戻りにくい構造になるのです。

 最後に本能Gを利用した離れ業を紹介します。方向転換出来ない狭い通路で豚が戻ってきた場合は、両手で豚の鼻をしっかりと掴んで、バックさせます。
すると、いとも簡単にバックするものです。通路の角まで行ったら鼻を持ち上げて方向転換させてやります。
初めての時は恐ろしく思うかもしれませんが、案外簡単にできるものですよ。

【追伸】

出荷のためのボードは協同インターナショナルさんから発売されている『家畜移動用パネル』が便利です(図6)。

中空プラスチックなので軽いし、指を通して握る穴が3方向に設けてあるので、縦でも横でも使えます。
他社からも同様のものが発売されていますので、お取引の機材販売へお問い合わせ下さい。

 

 

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最終更新日 : 2022/01/23