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2021年10月 

 

 

 

 

 

 

寒暖差対策

今号は寒暖差に関する特集ということで、私からは畜舎環境の改善と維持という側面から、寒暖差対策についてアイディアをいくつかご紹介します。
まず豚は家畜の中では暑さよりも寒さに弱い動物です。

1に示したのは豚を飼育する上で最低限必要な環境指標です。
例えば哺乳中の子豚や離乳直後の子豚では必要最低気温が23℃です。
これ以下になると死んでしまうわけではなく、発育しないか、病気になってしまうと言うことです。
母豚ではそれが10℃です。子豚は母豚よりも皮下脂肪が薄いですし、体積が小さいので体が冷えやすいのです。

 人間もそうですが豚でも徐々に暑くなったり、徐々に寒くなる分には、ある程度からだが慣れる物です。
しかし急激な温度変化、特に急激な寒さは大きなストレスとなります。
春や秋など、日中の気温は高いが朝方に冷え込んだ時など、子豚や肉豚が突然死したり、母豚が流産することがあります。

これは、図2に示した様に、気候が良いときは病原菌があっても豚の自己免疫で発病が抑えられています。
それが急な寒さなどのストレスが加わると、免疫力が弱って発症するからです。
ですから豚が生活する空間の温度変化を少なく保つことが管理者の仕事になります。
その対策をケースごとに見ていきましょう


 図3をご覧下さい。豚の体に直接寒い空気を当てないことが重要です。
まず古い豚舎で気をつけなければいけないのが隙間風です。
特に陰圧ウインドレス豚舎では強制的に外気を引き込みますから、隙間風が当たるところにいる豚には強いストレスになります。
まずは隙間風が入る場所を見つけることからはじめましょう。
最も多いのがネズミに囓られた穴ではないでしょうか。
古い豚舎では内壁に使う断熱材は表面に金属板やプラスチック板が張られていないタイプを使っていることが多いでしょう。

写真1はネズミに囓られて内壁断熱材が剥がれ落ちてしまったところです。
このような状況の豚舎では、内壁を張り替える事が得策です。
その場合は片面あるいは両面に金属板やプラスチック板が張られているタイプのものにしましょう。
外壁がトタン板で、それが錆びている豚舎では、外壁を断熱付きガルバ鋼板、内壁をNFボードのようなプラパネルにするとネズミ被害防止になります。

 次に多い隙間風はカーテンの破れやドアの破損などによるものです。
カーテンの小さな破れなどは、カーテン専用の補修テープがありますので、それを購入して使うのが良いでしょう。
カーテン生地自体が全体的にもろくなっている場合は、カーテン全体を交換した方が良いです。
入口のドアは豚がぶつかったりして歪んでしまっている農場が散見されます。
破損がひどい場合は、頑丈な断熱ドア(写真2)に交換するのがベストです。
 

 次にウインドレス豚舎での隙間風で多いのが、入気口の破損(写真3)や換気扇のシャッター破損(写真45)です。
  
これは見た目ですぐ分かるはずですから、交換すべきです。
破損したまま交換していない農場にその理由を尋ねてみると、「どこに依頼したら良いのかがわからない。」とか、「高額だから」などと答えが返ってきます。
輸入物で取扱が終了していたり、製造中止になって同じ物が手に入らない事も多いです。
そんな時は機転を利かせて代用可能な類似品を取り寄せて、現場合わせで加工するしかないでしょう。
そのぐらいの努力を払ってでも飼育環境は改善した方が利益に繋がります。
これらの隙間風対策は、CSF予防にも役立ちます。それはネズミや小鳥が場外からウイルスを持ち込むのを防ぐことが出来るからです。
是非とも隙間を埋める補修は最優先でやって頂きたいものです。

 また、意外に見落としがちな隙間として、給餌ラインや水道などの配管穴の周りの隙間です(写真6)。
 
これらの隙間はコーキング材などで埋めて下さい。また、配管を変更して以前の穴が空いたままになっているところ(写真7)なども見逃しがちです。穴埋めを行ってください。

 次に室内の温度環境の急変を防ぐ管理手法です。
まずはカーテン豚舎の場合は、夕方にカーテンの開口部をどのぐらいに調節すれば良いか。
ここが重要なポイントです。空けすぎていると翌朝急に寒くなったときに豚が具合悪くなります。
かといって閉めすぎると、翌朝にムレムレ状態でアンモニア臭がキツイ状態になっていたりします。
ここは勘に頼らずにデータを積上げていって利用する事です。
まずは各豚舎に最高最低温度計を取り付けて、毎日記録を付けて下さい。


温度計はホコリまみれになると誤作動したり、見にくくなるので、写真8のようなペットボトルを切ったカバーを取り付けて下さい。
あとは午後の休憩時間に天気予報をチェックして翌朝の最低気温を調べます。
その気温に応じてカーテンの閉め具合を決めます。
翌朝の最低気温とカーテンの閉め具合も記録しておくと、そのデータと経験の積み重ねで上手な温度管理が出来るようになります。

 ウインドレス豚舎では制御盤のセンサーで室温は分かりますが、それでも各部屋に最高最低温度計を設置して下さい。
センサーが正しい温度を表示しているかの確認にもなりますし、最高最低温度の記録に対応していない制御盤の場合にはその記録のために必要です。
最低気温が図1に示した必要最低温度以下になっていないことを確認しましょう。
ただし、センサーや温度計の位置が床面から1m以上高いところにある場合は、豚の寝床は温度計の表示よりも寒いことが多いです。
ですから、温度計の表示と実際豚が寝ている高さの温度差が何度あるかも把握しておく必要があります。
私の経験では12℃の差があることが多いです。また、ウインドレス豚舎で、夏場はクーリングパド入気でトンネル換気、それ以外の季節は天井入気と切り替える豚舎では、夏場に閉じていた天井入気口(写真9)の導風板を開放して下さい。

 カーテン豚舎でどうしてもうまく調整できないと言う場合は、自動カーテン、巻上げ式を巻下げ式に改造、または二重カーテン化をお薦めします。
自動カーテンとは、室温に応じてカーテンの開口幅を自動で増減調整してくれる物です。
カーテンメーカーに問い合わせれば改造可能かどうかや見積をしてくれます。
また、巻上げカーテンは開口部が下から広がっていくので、どうしても寒い空気が豚舎の下に溜りがちですし、豚にも寒い空気が当たりやすいです。
これを巻下げ式に改造すれば開口部が天井付近から開き始めるので、豚に寒い空気が当たりにくくなります。
この改造も結構金額が掛かりますので、巻上げカーテンのみの豚舎では、その内側(柱の豚舎内側)に巻下げカーテンを新設する方が保温効果も換気効果も向上します。

 

写真10が二重カーテンの様子です。
さらに写真11のように排気ファンを取り付けて、それを温度制御にしておけば、換気不足でムレムレになる状態を回避出来ます。
写真10と写真11は同じ肥育豚舎です。
建築コスト、ランニングコスト(電気代)を安く抑えながら快適な飼育環境を実現しています。

       写真12                            写真13                           写真14
   
 しかし、なるべく低コストで寒さ対策をしたいという向きには、手作り保温箱の設置(写真1213)や豚柵の上に保温蓋設置(写真14)する方法もあります。
写真1214は私のクライアント様農場で実施した物で、事故率の低減と発育の改善になりました。

ほかに、カーテンの閉めすぎによる換気不足を解消する方法として、ダクトファン利用があります。
一般的にダクトファンをON-OFF制御やインバーター制御にしていると、止まったときや風量が少ないときは写真15のようにダクトが垂れ下がってしまいます。

その時にネズミに囓られてダクトがボロボロになってしまうことが往々にしてあります。



ダクトファンを利用する場合は図4、図5のようにファンモーターの取付け場所に工夫を凝らします。
5は取付け場所を上から見た図ですが、壁とファンの間に隙間が出来るように設置します。
さらに壁に穴を空けスライド板で外気の導入量を調節できるようにします。
ダクトの風量はインバーター制御にして、ダクトチューブが垂れ下がらない程度に保ちます。
そして外気温に応じてスライド板で開口面積を調整します。
寒いときは外気の吸入量を減らし、室内空気の循環量を増やします。
ダクトの穴から吹き出す空気量は変わらないので、室内の空気の攪拌も出来て、快適な環境を保つことが出来ます。

 

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最終更新日 : 2022/01/23