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2021年6月 

 

 

 

 

 

 

夏場を乗り切る豆知識

  

間もなく、また夏がやってきます。養豚経営のキモはいかにして猛暑の中で成績を落とさず乗り切るかに掛かっています。
今回の記事では、@クーリング設備の効果的な設置方法と利用方法、A分娩舎で母豚の食下量を下げない工夫、B種付頭数を落とさない工夫、C肥育豚の食下量を落とさない工夫、についてご紹介します。

 まず、暑さ対策の第1番目は体感温度を下げることです。
体感温度は気温(室温)、湿度、風速で決まります。
ただし、ここで注目すべきは、豚は人間に比較して汗腺が少なく、発汗量も少ないと言うことです。
家畜の中でも豚は牛や羊よりも汗腺が少ないのです。ですから、湿度や風速の影響よりも温度の影響が大きくなります。
例えば人間なら暑いとき扇風機などの風に当たると涼しく感じますが、豚は人間ほど快適に感じないことでしょう。
とは言っても、暑いときの豚舎内では風は重要です。
それは、豚の呼吸や体熱で起こる室温上昇と屋根や天井からの熱を豚舎外に排出して豚舎内涼しく保つ役割です。
温度に関して もう一つ重要な指標は、豚の呼吸数が限界に達してパンデミック(あえぐような状態)が発生する気温です。
(社)畜産技術協会の資料によると豚の場合それは
32℃です。
つまり、外気温が
32℃を超えたら、いくら換気しても豚舎内の室温は32℃以下にはならないと言うことです。

【クーリング設備】

では、室温を下げるにはどうすれば良いでしょうか。
一番コストが掛からないのが水です。水が蒸発するときに気化熱を奪うので気温が下がる現象を利用します。
その具体的方法は、細霧システムとクーリングパド(クールセルとも言う)と順送ファン
+ミストの3つです。


1が肥育豚舎の細霧システム設置の例です。
細霧は夏には冷房と消毒、冬には加湿と消毒の一石二鳥の役割を果たします。
1の例では噴霧ノズルは噴霧角85°のものを採用して水平から45°下向きに取付ています。
これはより広い範囲に霧を拡散するためです。
細霧で冷やされた空気を順送ファンでさらに拡散させることを狙っています。
噴霧ノズルを下向きに設置している農場もありますが、その場合は
120°以上の広角噴霧パターンのノズルをお薦めします。
噴霧角度の狭いものを下向きに取り付けると、噴霧口の下だけがびしょびしょになります。

また、細霧ノズルにもたくさんの種類があります。
水滴の大きさや、単位時間当りの噴水量、使用圧力、定圧弁の有無などです。
定圧弁内蔵タイプは、一定の水圧が掛かってから噴霧が始まりますので、動噴(ポンプ)の始動時や停止時に液だれが発生しません。
広い豚舎ですと、動噴が回り始めても豚舎の端の方の豚房では水圧が上がるまで時間が掛かりますから、定圧弁の無いノズルを採用すると、豚舎の端の方の豚房では噴霧時間が短くなります。
定圧弁付きノズルを採用すれば、配管の中に水が行き渡って水圧が一定以上に上がってから一斉に噴霧されます。
細霧によって一時的に気温は下がりますが、換気をしなければやがて気温はあがります。
ウインドレス豚舎では換気扇で換気をしますからそれで良いですが、カーテン豚舎の場合は、順送ファンや排気ファンも併用して、豚舎外が無風状態の時でも換気が出来るように設計してください。

 次にクーリングパド利用のトンネル換気(図2)細霧システムはクーリングパドよりも安く設置出来ますが、
どうしても涼しい場所と暑い場所のムラが出やすいものです。
また、人間が作業中に顔に掛かると煩わしかったり給餌器に水滴が付いて餌が詰まったりという問題が起こることがあります。
その点クーリングパドを使うと冷やされた空気が均一に流れますし、冷却効果も高いです。
但し欠点は、豚舎の長さが長くなるほど入気側の豚房と排気側の豚房の温度差が大きくなります。

適正に設計されたクーリングパドでは晴天時、外気温よりも入気温度が56℃下がります。
例えば外気温が
35°の猛暑日になっても、入気温度は2930℃になりますから、豚のパンデミック温度の32℃以下に抑えられます。
豚舎の排気側では途中で豚の排熱により暖められるので
12℃高くなります。
実際に私のクライアント様農場の
60m長の豚舎で実測したデータでは2℃高くなっていました。
もう一つの注意点は、カーテン豚舎の場合、カーテンを閉めた状態でどれくらい気密性があるかです。

カーテンの隙間からどんどん空気が入って来るようでは効果が上がりません。
そのようなカーテン豚舎には、順送ファンにミスト装置をプラスする方が良いでしょう。
これについては詳しく後述します。
クーリングパドを設置する時には基本的な設計基準があります。
これに照らし合わせて十分な換気が出来る換気扇の選定とクーリングパドの面積を決めて下さい。
まず豚1頭当りの必要換気量(最大換気)は、ストール豚舎で
810/分、分娩舎で1215/分、肥育豚舎で56/分です。
例えば全面スノコ、幅
9.2m長さ60m、600頭収容の肥育豚舎で計算してみましょう。

必要換気量は、5㎥×600頭=3,000/分です。

これに対応できる換気扇は、ソーワテクニカのトンネル換気用メーターファン(492/20Pa)ならば3000÷4926.16台必要。

パナソニックの120cmトンネル換気用では(550/20Pa)なので、3000÷5505.456台必要です。
ここで用いた換気扇の換気量ですが、ウインドレスでさらにクーリングパドを通すと、空気抵抗のため豚舎内の気圧が下がります。
この気圧差(静圧と言います)をパスカル(
Pa)で表します。換気扇は静圧が掛かると換気量が落ちます。
換気の設計をするときには静圧
20Paで計算するのが通例です。
換気扇のカタログを見ると、静圧
0の時の換気量が数字で書いてあり、静圧が掛かったときの換気量はグラフになっていますので、そこから読み取る必要があります。

次にクーリングパドの面積です。
同じ風量の場合、パドの面積は大きいほどパドを通過する時間が長くなるので、冷却効果が高くなります。
しかし、大きくすればコストも大きくなります。
では最低限どれくらいの面積を確保すれば効果が得られるのでしょうか。
この辺のデータは空調メーカーでは企業秘密として公表していません。
私の経験値から行きますと、パドの通過風速を
2m/秒以下にするのがベストです。

では上記の600頭収容肥育豚舎で計算してみましょう。
風量は
3,000/分、これを60で割って秒単位に換算すると50/秒。
これを風速
2mで割算すると25uになります。
パド
1枚の高さは2mですから、25÷212.5mとなります。
残念ながら豚舎の幅が
9.2mなので12.5mは取れません。
実際に私のクライアント様農場では、めいっぱい
9m設置しました。
換気扇はパナの
120cm×5台です。この場合の通過風速は45.8/秒÷2m÷9m=2.55/秒となります。
千葉県にあるこの豚舎でも十分な効果は出ています。

次に順送ファン+ミストの例です。


3がそのレイアウトです。これはカーテン豚舎向きのシステムです。
使う換気扇は順送用の
80cmまたは100cm型です。
クーリングパドの説明で紹介した換気扇は有圧換気扇と言って静圧が掛かっても風を送り出す力のあるものです。
こちらの順送タイプとは静圧が掛からない場所で使うタイプです。
同じ消費電力でも風量が多く出せるタイプを使います。
ミスト付きの送風機(冷風扇)は家庭用の物は市販されていますが、豚舎用は見当たりませんので、順送ファンの正面ガードにミストノズルをインシュロックで取り付けて自作します。
ミストノズルは水道直結型とポンプで加圧するタイプがあります。
時間当りの吐水量が同じならば加圧式の方が霧の水滴が細かくなります。

全面スノコ豚舎など、濡れても構わない豚舎なら、水道直結タイプで良いでしょう。
床を濡らしたくないケースでは加圧式を使うのが良いでしょう。
ミストノズルは複数メーカーから出ていますが、私がお薦めするのは、
TASCOの『フレッシュ.ミスト.リングTA180RGB』と『フレッシュミストポンプTA180MP』の組み合わせです。
ネット通販でも販売されており、ミストリングは
\22,000ぐらい、ポンプは\95,000ぐらいです。

【分娩舎で母豚の食下量を下げない工夫】

管理の基本は@.1日の給餌回数を多くする。A.なるべく涼しい時間に給餌するB.水を十分に飲ませる。の3点です。
@とAを手作業で行おうとすると
8時〜17時の勤務態勢では無理です。
もし、早番遅番の2交代制が可能ならば、
5時、10時、17時、22時の4回給餌をお薦めします。
交代勤務が無理ならばタイマーでストックホッパーを開閉する装置を導入して下さい。

「不断給餌にすれば良いのでは?」と思う方もいらっしゃるでしょう。確かにボールフィーダーを使えば不断給餌も可能です。
しかし、マッシュ餌のままでは母豚は食べづらく、食下量は上がりません。
ウェットフィーダーにすれば食下量は上がりますが、夏場は食べ残しが腐敗しやすいですし、どのくらい食べたのかも分かりません。
ですからウェットフィーダーで不断給餌もお薦めできません。
ベストの組み合わせはウェットフィーダーと回数を分けた制限給餌です。


4が分娩舎用ウェットフィーダーの例です。
給水器はサイフォンバルブを飼槽の中に取り付けてあります。
水が溜る深さを
35cmにするのがベストです。
この調節ですと、餌が落ちたときに水と混ざってドブ餌になり、母豚は食べやすいです。
食べ終われば、水を十分に飲めますので、Bの条件をクリヤーできます。
しかし、それでも餌を残す母豚は出ますので、その時は残り餌を捨てることと、母豚の体温測定を欠かさずに行いましょう。

【種付頭数を落とさない工夫】

夏場の種付は受胎率が下がりやすいものです。
また、離乳母豚で発情が来なくて種付出来ないものも増えがちです。
まずは分娩舎で母豚を痩せすぎさせないことです。
例えば通常
25日〜28日令で離乳している農場であれば、哺乳中に痩せた母豚は早期離乳することです。
大抵の品種では分娩後
17日経っていれば離乳しても発情再起には影響が少ないものです。
もし早期離乳する母豚の子豚がまだ小さい場合は、廃豚予定の母豚を里親に入れて再ほ乳させるのが良いです。
里親に出来る母豚がいない場合は、ミルキーウィーンフィーダーなどを利用して人工保育しましょう。

また、種付頭数を確保する意味では、候補豚を多めに準備しておき、通常の週間種付頭数よりも1割ほど多く種付することです。
産歴オーバーで廃豚予定の母豚にも種付し、妊娠が確定した頭数を見てから廃豚にすることも良いです。

【肥育豚の食下量を落とさない工夫】

まず第1番目は暑熱対策をしっかりすることです(本記事の前半参照)。
次に餌の形状と給餌器の組み合わせを再検討する。
ドライフィーダーにマッシュ餌の組み合わせならば、豚にとって食べづらいので改善が必要です。
ドライフィーダーをそのまま使うなら餌をペレットに変更する。給餌器が買い換え時期に来ているならウェットフィーダーにしましょう。
ウェットフィーダーを選ぶ時の注意点は、飼槽に呑みこぼし水が溜ったり、豚が水遊びして餌を濡らしたりしにくいタイプを選ぶことです。

また、豚房のどの位置に給餌器を置くかも重要です。
全面スノコ豚舎ならば豚房の中央に円形ウェットフィーダーを設置するのがベストです。
これですと飼槽を糞尿で汚されません。
柵設置で両側から食べるタイプや、角形ウェットフィーダーは豚房の角からなるべく離すことが汚されないポイントです。



5と図6は昨年11月号でも紹介した例です。


7と図8は角形ウェットフィーダーの設置例です。

養豚生産費の比率1である飼料費を無駄にしたいように、給餌器は良い物を選んで、豚の生理に合った場所に設置しましょう。

 

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最終更新日 : 2022/01/23