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2020年7月 

 

 

 

 

 

 

農場の防災対策

 

 近年は地球温暖化の影響でしょうか、自然災害が増えてきました。
超大型台風やゲリラ豪雨、大地震など、大きな自然災害が毎年起こっています。
また、相変わらず豚舎の火災も毎年数件発生しています。
今回は、このような災害発生時の対応や予防対策についてまとめてみました。

【豪雨対策】

最初にチェックして頂きたいのが防災マップです。
これは各市町村が作成しています。
ネットで「防災マップ ○○市」のようなキーワードで検索してみて下さい。
そうすると、水害編や土砂災害編がヒットするはずです。

図1は、私の自宅がある角田市の防災マップ(水害編)です。
1000年に一度の水害による冠水被害予測です。
私の自宅前の水田は3m以上の冠水予測でしたが、今回の台風19号では約2mの冠水でした。

図2は角田市の防災マップ(土砂災害編)です。
このように、皆さんの農場でも災害予測区域に入っているかどうかを確認してみて下さい。
そしてその防災マップを農場事務所に貼っておき、避難先や避難経路を定期的に確認しましょう。

 実際に農場で水害が発生した場合、自宅へ帰れなくなることが予想される場合は、浮き輪やゴムボートを備えておくことが有効だと思います。

実際に丸森町で水没して孤立化した住民が、倉庫にあった断熱材のウレタンボードを浮き輪代わりに使って脱出し、命を取り留めた例がありました。
この方の家は平屋建てで、やがて完全に水没しました。

また、敷地の広い農場では、事務所と豚舎との往来用にナンバーのない車やバイクを使っているところがあります。私がお薦めしたいのは、オフロードタイプのバイクやジムニーなどのクロスカントリータイプの車です。これですと、車よりも冠水した道路を走れますし、土砂崩れして狭くなった道路でも走れます。

普通の乗用車が走れるのは20〜30cm水深までです。
排気口が冠水すればエンジンはストップします。オフロードタイプのバイクは吸気口も排気口も高い位置に付いていますから、エンストはしません。
しかし、横からの水流には弱いので、冠水して水が流れている道路は走れません。

車でも同じです。水が横切っている道路は、水流でえぐられて陥没しているかもしれません。

写真3がその例で堤防から水が溢れて道路を横切っているところです。
福島県でこのような道路に突っ込んで、田んぼに流されて死亡した事例がありました。

 
   写真4                               写真5

 次に牽引ワイヤーやフックなど写真4、5。これらは動けなくなった車を牽引して脱出させるためには必須道具です。
養豚場ではホイルローダーを持っているところが多いですが、牽引ワイヤーをローダーに常備しているところは少ないです。
これは、冬に従業員の車が雪で動けなくなったときも威力を発揮します。
是非とも、ホイルローダーやトラクターには牽引ワイヤーとフックを常備しておきましょう。

 次に土砂災害に備えるには、排水溝の整備が有効です。
農場の回りの排水溝やヒューム管は土砂が堆積して有効面積が小さくなっていることがあります。
そうすると大雨が降ったときにたちまち氾濫することになります。

農場に裏山を抱えているようなところでは、敷地境界の排水溝を年に1度は泥上げしておくことをお薦めします。
私の自宅裏は市の防災マップによると、土砂災害危険区域に指定されていました。
しかし、
2年前にソーラー発電を作った際に排水溝も整備しましたし、今年の梅雨前にU字溝の泥上げもしておいたので、今回の豪雨でも土砂崩れは起きませんでした。

 また、電動工具などは、浸水被害を受けにくくするように床に直置きはせず、棚の上に置くことも重要です。発電機の設置場所も農場の中で水害や土砂災害にあいにくい場所を選んで設置する事が大切です。

それから、停電に備えて発電機も必須アイテムです。発電機については詳しく後述します

 【強風対策】

昨年の台風15号では最大風速60mの強風が千葉県を襲いました。
一昔前に建てた建物は風速
40mまでしか想定していない物が多いですから、屋根が剥がされる被害が多く発生し、倒木による停電も1週間以上続いた地域がありました。
やはり発電機を備えていたかいなかったかで明暗が分かれました。
風害対策として、屋根の補強工事をするのがベストですが、なかなか費用の面で二の足を踏むことでしょう。

また、復旧工事をする費用を保険で対応できるかどうかでも経済的ダメージの明暗が分かれます。
皆さんのところで掛けている火災保険は、自然災害特約が付いていますか。
今すぐにでもここをチェックし、自然災害特約を付けておくことをお薦めします。

【地震対策】

地震対策の第1は、自分や従業員の命を守るための教育と地震保険です。
農場で、月1回ぐらい防災の日を設けて、防災について従業員で確認ミーティングを行いましょう。

例えば分娩舎にいた場合はどこに避難する、事務所にいた場合はどこへ、豚舎外にいた場合はどこへ、などと具体的にシミュレーションしておくことが、実際の安全な避難行動に繋がります。

地震保険も東日本大震災後は多くの方が書ける様になってきました。
しかし、大震災から10年経ちますので、最近建てた建物に地震保険が抜け落ちていることも考えられますから、チェックが必要です。

【停電対策】

停電対策の要は何と言っても発電機です。
ウインドレス豚舎とセットで停電時自動スタート型の発電機を備えている農場であっても、発電機で動く電気系統が換気扇だけの場合もあります。

まず、すでに発電機が備わっている農場では、停電時に自動スタートするタイプなのか、人間が始動して切り替えをするタイプなのかを確認してください。
わからない場合は、電気保安協会などの電気設備の定期点検を依頼している会社へ問い合わせてください。

実際に点検に来ていただいたときに立ち会って、農場全体のメインブレーカーを切り、発電機でどの設備が動いてどこが動かないのかを調べておくことが、一番わかりやすくて確実な確認方法です。
ここでもし、給水ポンプや給餌ラインが動かなくて困る。という場合は以下で述べます改善対策を実施してください。

 最初に、発電機で動かしたい電気設備のモーターの容量を確認してその合計を計算します。
ここでは、私が今年
9月に千葉県のお客様(成毛様)農場で実際に対応させていただいた例を出して説明しますので、読者の皆さんも自分の農場の場合に置き換えてシミュレーションしてみて下さい。

@          井戸ポンプ・・・15kw×2台=3kw

A          ウインドレス分娩舎の換気扇・・・075kw×8台=6kw

B          全豚舎の給餌ライン・・・04kw×12台=4.8kw

C          スクレーパー・・・04kw×6台=2.4kw

D          汚水ポンプや送糞スクリュー合計・・・約2.2kw

E          曝気ブロワー・・・37kw+75kw

以上の合計が29.6kwでした。次にこの場合の合計電流を計算します。
キロワットをワットに直すために1000倍して200Vで割算すると概算値が出ます(正確にはルート3と力率も掛け算する)。

この場合の最大電流は29.6×1000÷200148A(アンペア)

これを全部動かせる発電機は電流容量を1.2倍の余裕を見て178A以上のものを備えてください。

この農場の場合はすでに購入していた発電機の容量が60KVA3200Vの許容電流が最大144Aのものでした。
全部同時に動かさなければ、ぎりぎり間に合う計算です。

しかし、ギリギリでは危険なので、曝気ブロワーは3.7kw1台だけ回すことにしました。
これで最低限、曝気槽が嫌気状態になるのを防ぐことができました。

次に発電機から豚舎の配電盤への配線方法と切替え方法です。
皆さんの農場でも各豚舎への電源供給がどうなっているのか、メインブレーカーはどこにあるのかを把握しておいて下さい。

増改築を繰り返した農場ではキューピクルが2箇所あったり、豚舎の子ブレーカーから隣の豚舎のメインブレーカーに繋がっていたりと、複雑になっていることが多いものです。
自分で把握できない場合は、電気工事店へ依頼しましょう。

さて発電機からの電線を接続する配電盤が決まりましたら、そこに切替え器を取り付けます。
ここで注意しなければいけないのがメインブレーカーです。

6をご覧下さい。
これは切替え器取り付け前のメインブレーカーの配線図です。

もし、直接メインブレーカーに発電機を繋いで運転中に停電が復旧すると、電力会社からの電気と発電機からの電気が干渉して、電柱にある電力会社のブレーカーが落ちてしまいます。

近隣の住宅まで最低電になる「波及事故」になる恐れがあるからです。

7が切替え器の接続方法です。
取り付け工事が終わったら試運転をしてください。
発電機を起動する前に全ての豚舎の分電盤のブレーカーを全て
OFFにします。

そして、発電機を起動したら、回したい設備のブレーカーを一つずつ上げていきます。
数カ所
ONにする度に発電機の電流計を確認して電流値に余裕があることを確認しながら必要な設備のブレーカーをONにしていきます。

皆さんの農場でも発電機を借りてきて仮設配線をするときは、この記事を参考にして下さい。
そして恒久的な配線は電気工事店に依頼して、図
7のように切替え器を取り付けて配線して下さい。

8が切替え器(CKSとも言う)の写真です。

 さて、発電機を備えておいても、いざ停電時に動かないのでは話になりません。最低でも1ヶ月に1度30分ぐらい運転して下さい。

この機会に発電機をまだ備えていない農場では是非とも購入して下さい。単相100/200Vと三相200Vを同時出力できるタイプがお薦めです。
母豚
200頭一貫以下なら30KVAタイプの新ダイワDGN450MK(税抜約180万円)

母豚400500頭一貫なら60KVAタイプの新ダイワDGN600MKP(税抜約235万円)がお薦めです。

 ウインドレス豚舎がある農場では、発電機を必ず備えて下さい。
換気扇は全部発電機に繋ぐ必要はありません。

例えば、換気扇の回路が2系統以上になっている制御盤ならば、半分が回れば豚は死にません。
それから、糞尿処理の方ですが、堆肥盤があるのでしたらコンポストは動かさなくても対応できると思います。
しかし、汚水処理は環境問題に発展しかねませんので、発電機で動かせるようにしておくのが賢明です。

 【火災予防】

近年の豚舎火災は、漏電やショートなどの電気系統トラブルが原因の大半を占めています。
屋根裏配線がネズミに囓られると、漏電やショートなどに繋がります。時々漏電ブレーカーが落ちるようになったら、配線の修理サインと捉えましょう。
天井裏配線が多い豚舎でしたら、電線管に通した室内配線に交換するのが賢明です。

2番目に多い火災原因がガス器具によるものです。
ガスブルーダ−などの暖房器具の吊り金具を点検しておきましょう。
錆びていたり曲がっていたりして脱落しやすい状態ならば修理して下さい。

また、接続ホースの長さやひび割れ、ホースクリップの状態を点検しましょう。
大きな揺れでガスホースが抜けたり割れたりしないようにしてください。
また、ガス温風ヒーターの温風吹き出し口近くに燃えやすいもの(豚房カードやビニール電線)が無いように管理しましょう。

【まとめ】

物理的な備えも大事ですが、従業員の意識向上も同じぐらい重要です。月1回ぐらい防災の日を設けて、防災について従業員でケーススタディーを交えて確認ミーティングを行いましょう。

 

 

 

 

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最終更新日 : 2022/01/23