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2019年11月 

 

 

 

 

 

 

豚舎の防寒対策

 

地球温暖化の影響で暖冬が多くなったとはいえ、豚にとっては室内温度が15℃を下回ると発育が遅くなります。九州や沖縄などの温暖な地方では防寒対策は不要なのかもしれませんが、
最低気温が
10℃以下になる場所にある農場では防寒対策が必要と思います。

例えば比較的温暖な地方で、薄いカーテン1枚だけで保温が間に合うような豚舎であっても、屋根に断熱材が入っていなければ夏場の暑さが防げません。

つまり、断熱材などの防寒資材をどのように豚舎へ取り入れていくかが、夏も冬も豚にとって快適な環境を作るカギになります。

 

【断熱材の有効な使い方】

豚舎全体の防寒資材としては、屋根と天井と壁の断熱材が要となります。
豚舎を新築する場合は屋根や壁の断熱材をケチらないようにしてください。

東北や北海道などの寒冷地では、外壁には50~100ミリ、屋根には50ミリ、天井には30ミリの断熱材の使用をお勧めします。
関東以西の本州の低地では、外壁に
50ミリ、屋根に30ミリぐらいで良いでしょう(予算が許せば暑い方がベターです)。

ウインドレス豚舎の場合は、屋根と天井でどちらの断熱を重視すればよいか迷うところだと思います。

1は陰圧式ウインドレス豚舎の空気の流れの例です。
離乳舎など夏も冬も天井入気をする豚舎では、屋根の断熱を厚くして天井は薄くした方が良いです。
それは夏場に屋根からの輻射熱で天井裏が暑くなるのを防ぐためです。
離乳舎以外で、夏以外は天井入気で夏は
図2のようにトンネル換気として使う場合は、屋根断熱を薄く天井断熱を厚くした方が建築コストを安くできます。

次に、断熱材が乏しい既存豚舎の改装についてです。建築当時は断熱材を張ったけどもネズミにかじられて効果がなくなったところもあるでしょう。

例えば写真1のようにスレートだけの屋根でしたら、カバールーフを被せて施工することで断熱効果を高めることが出来ます(写真2)。

スレートを固定している下地材(
C型鋼:Cチャン)が錆びてしまって補修が出来ない場合は、スレート屋根を剥がして新しい下地材から施工する必要があります。


写真3と写真4は、既存の開放豚舎をトンネルベンチレーション式ウインドレス豚舎に改造した例です。
以前は天井があったもののベニヤ板
1枚で、あちこち抜け落ちて効果がなくなっていたところです。
壁面には豚舎の中外ともにネズミにかじられない材質を使い、かつ、壁の間にネズミが侵入できないように施工してあります。
ここまで予算が掛けられないということでしたら、ネズミに穴をあけられた断熱材の上からコンパネやパネコートを重ね張りするだけでも保温効果は上がります。

写真5は壁と天井にコンパネを重ね張りした例。

写真6は壁断熱材にコンパネを重ね張りした例です。

 

【暖房器具と省エネ効果】

豚舎の暖房器具としては、ガスブルーダーやガス温風ヒーター、コルツヒーター、電熱保温マット、温湯式床暖房が主な方式です。
いずれの暖房方式でも共通に言えることは、豚舎の断熱がしっかりしているほど暖房費が安くなるということです。

例えば写真
5の豚舎は東北地方北部にある農場の子豚舎(体重25kg50kg)の例です。
補修前は天井はベニヤ板で、ところどころが無くなっていました。
壁の断熱材はネズミに食い荒らされて面積の半分以上が無くなっていて、外壁のトタン板が見える状態でした。
補修前の1冬の暖房費(ガス代)は2シーズン平均で約75万円でした。
コンパネで張り替え後の2シーズン平均は38万円でした。なんと約半額になりました。
工事費は200万円弱だったと伺いましたので、5年で元が取れる計算ですね。
また、関東地方のある農場の肥育豚舎では、スレート屋根
1枚で天井がありませんでした。
スレートは傷んでいませんでしたので、内側に断熱材を張り付けました。
これだけで冬の最低室温が
15℃を割らなくなりました。

離乳舎では以前はガスブルーダーやガス温風ヒーターが主流でした。
しかし、ガスブルーダーは強弱の調節が面倒ですし、ガス温風ヒーターは部屋全体を温めますが、上の方が温かく、豚が寝ている下の方は温度が低くなります。ですから暖房費がバカになりません。
最近は部屋全体を温めるのではなく、子豚の寝るスペースだけ部分的に温める方式を採用する農場が増えてきました。

写真7は、温湯式床暖房と跳ね上げ式カバーを組み合わせた豚舎です。
この方式ではカバーパネルの下側に温湯式デルタパイプを設置するオプションもあります。
この方式の方が暖房費を安くできます。
床暖房の方式にはプラスチックスノコの下に温水パイプを設置する方式と、スノコの代わりに温水を通したプラスチックパネルを施工する方式があります。
一昔前はコンクリート床に銅管を埋め込んでお湯を通す方式がありましたが、暖房効率とメンテナンス性の面から不利なので、最近は使われなくなりました。

 分娩舎でも以前はガスブルーダーが主役でしたが、火力調整の面倒なことや、火災の危険性を反映して、現在はコルツヒーターが主となっています。
コルツヒーターにしても温度調整は強、弱、切の
3段階しかできませんし、調整しないでつけっぱなしの農場もあります。
省エネを考えるのであれば、気温や豚の成長にあわせて出力調整をこまめに行うべきです。
しかし、それは面倒というのであれば、温度センサーと連動して自動で出力調整ができる保温ランプや、保温箱用の電気ヒーターパネルが市販されていますので、こちらの導入を検討しましょう。
また、温湯式床暖房設備も最近の新築豚舎で採用が増えています。
オールインオールアウトを前提とした分娩舎であれば
1室ごとに温度調節器を設置すればよいので、こちらがお勧めです。
また、同じくオールインオールアウト方式の分娩舎にはコルツヒーター用のコンセント配線に室温センサー連動の電力調整器を設置することで、その系統につながっている全部のコルツヒーターの出力を自動調整できるようになります。
これらの方式を採用することで電気料を下げることが可能です。

 

【火事に気をつけよう!】

毎年、季節を問わず豚舎の火災が起きています。その2大原因は暖房器具と漏電です。

(1)  ガス器具による火災の予防
最も多いのがガスブルーダーによるものです。
何らかの原因でつり下げている金具が外れて落下した場合や、保温箱の材質が燃えやすいものである場合に火災が発生しやすくなります。
保温箱の蓋にコンパネや餌の紙袋を使っている農場を見かけますが、これは危険なのでやめて頂きたいです。
また、ブルーダーが直接可燃物に接触していなくとも、長期間高温にさらされると内部で炭化が進み、発火しやすくなります。
蓋をする場合はガスブルーダーではなく、赤外線保温ランプまたはコルツヒーターを使う方が安全です。
写真
8は燃えにくい素材で保温箱の蓋を製作した例です。

また、古くなるとつり下げチェーンが錆びてもろくなっている場合がありますので、こちらも毎年チェックして下さい。
ガス温風ヒーターでは吹き出し口近くに燃え安いものがあると危険です。
特に空気取り入れ口の網がホコリまみれだった場合、点火した直後に火の粉を吹くことがあります。
定期的に清掃することが必要です。
この他にガス器具全てに共通することですが、ガス管が錆びて穴が空いていたり、ガスホースが経年劣化や豚にかじられたりして、ガス漏れが発生する場合があります。
ホースの引き回しに注意をするとともに、ホースが堅くなっていたり、ヒビ割れを発見したら、新しいものと交換して下さい。

(2)  電気事故による火災の予防

一般的に“漏電”が原因とされることが多いのです。
しかし、実際は漏電ブレーカーが設置されている豚舎がほとんどですから、漏電があれば漏電ブレーカーが作動しますので、火災にまで発展することはほとんどありません。
しかし、古い豚舎などでは漏電ブレーカーが付いていない豚舎や事務所がありますから、この機会に全ての建物に漏電ブレーカーが付いているかどうかを調べてみて下さい。

また、一般的に養豚場では建物が複数ありますので、最も電力メーターに近いメイン配電盤と、各豚舎の配電盤に漏電ブレーカーが付いていなければいけません。
そうすれば、メインブレーカーと豚舎の間の配線が漏電した場合も検出できます。

さて、実際の火災原因の多くは漏電ではなく、トラッキング現象またはショートによるものと私は踏んでいます。
トラッキング現象ということばが一般的にまだ認知されていないから、“漏電”とひとくくりにされてしまうのだと思います。

では、図3を見て下さい。漏電の場合は、電気設備から漏れた電気がアースに流れていきます。
ですから漏電ブレーカーに流れる電流が
2本(または3本)の電源電線間で差が出ます。
この電流差を漏電ブレーカーが検知するのです。

一方、トラッキング現象はコンセントとプラグの間や、ネズミにかじられて銅線がむき出しになった電線間などで起こります。
端子間や銅線間に溜ったホコリが湿気を吸うと電気を通しやすくなります。
そうすると発熱してホコリが炭化していきます。そしてさらに電気を通しやすくなり、ついには発火するのです。
この現象はブレーカー側から見ると、通常の電気使用状態と見分けが付かないので、漏電ブレーカーは働きません。
例えば端子間に溜ったホコリに
1アンペアの電流が流れたとします。
すると、100
V の場合は100ワット、200Vの動力線だったら200ワットの発熱が起こるわけですから、それでホコリが発火するのです。コルツヒーター1台分の熱が1点に集中するわけですから。

一般に豚舎の保温効果を高めるとネズミも住みやすくなります。
ですから、断熱材を施工するときは、少々金額が高くなってもネズミにかじられない素材を使ってください。
また、施工方法もネズミが入り込む隙間を作らないように注意してください。

 

 

 

 

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最終更新日 : 2022/01/23