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2017年4月 

 

 

 

 

 

 

養豚糞尿処理の新たな方向性

〜窒素排出規制強化と堆肥余りの解決策

昨年から畜産排水に含まれる窒素の暫定基準が引き下げられました。

暫定基準の適用期間は3年間ですから、その後は一般基準の100ppmが適用されるかもしれません。

ですから、養豚家の中ではいかにしてその基準をクリヤーするか。しかも低コストで。

と言うことが関心の的となっています。

 

また、規模拡大を計画している養豚家もたくさんいらっしゃいますが、堆肥のはけ口が限られているために、糞処理の方向性も問題となっています。

今回の企画では、筆者と株式会社リセルバーが情報を共有しながら
これらの問題に取り組んできた中から、現時点で最良の取組と思える方法をご紹介いたします。

 

【窒素除去】

 まず、窒素規制ですが、通常の連続式活性汚泥法で、曝気→沈殿槽(またはMF膜処理)で得られる水質は
BOD
SS2ppmになりますから、基準をクリヤー出来ます。

しかし、窒素はなかなか100ppm以下にはなりませんし、暫定基準の600ppmもクリヤー出来ていない施設もあります。

3次処理としてRO膜を使っている施設では窒素基準もクリヤー出来ます。

しかし、RO処理の欠点は、電気代、薬品代のランニングコストがかかることと
設備の維持メンテナンス費用も高額となることです。

さらに、RO透過液は放流基準に合致していますが、膜を透過せずに残った濃縮液が
投入量のおよそ1/31/4出てくることです。

これは堆肥発酵施設に散布して処理するなどの方法を取る必要があります。

一方、回分式活性汚泥法では管理が良好であれば窒素排出は100ppm以下になっています。
 
回分式とは1つの曝気槽で、曝気沈殿上澄み放流 をする浄化槽のことで、
神奈川式、オキシデーションディッチ式、複合ラグーンなどがあります。
 
では回分式では何故窒素が少なくなるかをちょっと解説しておきます。
BODSSは曝気によって好気性細菌が分解するので低減できます。
しかし、窒素は曝気だけではなくなりません。
 
畜産汚水中の窒素は、糞中に含まれる未消化のタンパク質とアミノ酸及び尿中に含まれる尿素が主なものです。
これらがピット中で酸素が少ない状況ではアンモニア態窒素(NH4)に変化します。
それを曝気槽内で酸素を送り込むと、酸化されて硝酸態窒素(NO3)になるだけです。

しかし、硝酸態窒素は曝気を止めて酸欠状態にすると、脱窒菌が働いて気体の窒素になって抜けていきます。

この脱窒菌は酸素がある状態では働かずに眠っています。

ですから、窒素を低減するためには、間欠曝気にするか、回分式にすることが必要です。

しかし、大抵の連続曝気式活性汚泥浄化槽ではBOD負荷が高いために、
間欠曝気にすると曝気不足になってしまうことが多く、間欠曝気運転が出来ないケースが多いわけです。

このような状況で窒素を削減するには、曝気槽の後に脱窒槽を設置するか
または、前処理として高分子凝集剤を使った脱水処理を入れることにより、
曝気槽に流入する窒素分を低減させる方法が考えられます。

脱窒槽を利用する方法は、脱窒反応によって生じた硫酸化合物や硝酸化合物の処理という新たな問題を生みます。

ですから私は前処理の方を推奨します。

例えば前処理施設によってBODSSそして窒素分も半分以下の出来れば、曝気時間を半分に出来るわけです。

そうすれば、今まで24時間連続曝気をしていたところを、3時間曝気して3時間休止するという運転が出来ます。

この曝気休止中に脱窒菌が活動して硝酸態窒素を減らしてくれます。

 

前処理施設にもさまざま他タイプがあり、複数のメーカーから販売されていますが、
中でもリセルバー式脱水が優れている点は、SS除去率が99%と非常に高いことです。

それにより、窒素除去率も50%以上となっています。

つまり、汚水中に含まれる糞の粒子が除去されるので、糞に含まれている未消化タンパク質のほとんどが除去されるわけです。

また、養豚場の汚水処理施設が、建設直後はうまく浄化処理が出来ていたものの、
年月が経つにつれて処理がうまく行かなくなってくることが多いわけですが、
施設の老朽化だけが原因とは言えません。

リセルバー社の研究によると、養豚排水中には油脂分もかなり含まれていますが、
油分由来のBOD10日後も20後も増え続けることがわかったのです。

通常BODの測定は汚水中に含まれる有機物が微生物によって分解されるのに必要な酸素量を5日間かけて計量します。

しかし、図1を見て頂くとわかるように、水溶性BOD5日以降余り増えないのに対して、
SS
系や油系は測定開始10日後も20日後も増えていきます。

ですから、一般的な5日間で測定したBOD値を使って曝気槽の設計をしても
実際は空気量が足りなくなってしまうと言うことです。

ですから、年数が経って浄化処理が間に合わなくなっている浄化槽でも、
リセルバー式のようなSSや油分の除去率の高い前処理施設を追加してやれば、浄化処理が正常に回復するわけです。

 

【糞処理】

養豚場の糞処理と言えば発行処理によりたい肥化するのが一般的です。

耕地面積は減りはしても増えはしませんので、
養豚家にとって堆肥の需要を掘り起こすことは非常に難しい問題となっています。

最近では豚糞ボイラーの改良が進んで来ましたが、
イニシャルコストとランニングコストの面で課題が多いものと思われます。

そこでリセルバー社が目を付けたのがメタンガス発酵施設です。

今までもメタンガス発酵施設は使われてきましたが、
消化液(発行が終わった残液)の処理が問題となって、余り普及しませんでした。

消化液は液肥として畑作物への施肥には適していますが、
発生量が多いだけに利用して下さる農家を確保するのが難しい訳です。

そこで浄化処理するしかありませんが、消化液は、
アンモニア態窒素とSSが多い割にエネルギー源が少ないため、
そのままでは活性汚泥法での浄化が難しいのです。

エネルギー源がメタンガスとなって抜けた後のカスだけですから、
活性汚泥中の微生物の餌になる部分が少ないわけです。

さらに窒素分は、メタンガス発酵槽が嫌気状態な為、アンモニア態になっています。

これが曝気処理されると硝酸態窒素に変化するために酸素を消費します。

ですから、おのずとブロワーも大きいものを装備する必要が出てきます。

リセルバー社ではここをどのように解決したかと言いますと、
まずは多彩なバリエーションのある脱水補助剤リセルバーMTシリーズの中から、
メタン発酵消化液の凝集に最適な品番を選定しました。

それにより図2のように脱離液が透明になるまでにSSを除去できるようになりました。

あとは活性汚泥の餌となるエネルギー源をどうするかが課題でした。

メタンガス発酵プラントに投入する原料は豚糞のみとし、
尿汚水は前処理脱水をせずに、脱水処理した消化液と共に曝気槽へ投入します。(図3、図4)

これで活性汚泥の餌となるBODは確保出来ますが、
投入される窒素分が通常の養豚排水処理よりも多くなります。

ですから曝気槽のタイプは脱窒効果の高い回分式の方が有利になります。

そして曝気槽の容積も通常の養豚排水処理よりも大きく作ります。

それは、メタンガスプラントに投入する糞の量とほぼ同じぐらいの消化液が出るからです。

生糞の水分含量が約85%。
残りの糞成分の内の一部がメタンガスとなり、一部が水となります。

ですから投入した生糞量の約90%量が消化液となって出てくるわけです。

この量と尿汚水の量を合算して浄化槽の容積を計算するのです。

 

メタンガス発酵プラントで発生したメタンガスを使って発電し、
売電までする試みも数年前から取組されております。

再生可能エネルギー利用の発電として20年間の固定価格買取制度の対象となってはいますが、
発電で採算を取るためにはガスの発生効率を高める必要があります。

そのためには動植物油脂系の産業廃棄物を混ぜるのがベストです(鉱物油はNG)。

またある程度プラントの規模も大きくする必要があります。

そのためには産業廃棄物勝処理業者との連携が欠かせませんので、
養豚場単体で取り組むにはハードルが高いと言えます。

ですから養豚場単体で取り組む場合は、メタンガスを豚舎の暖房に使う方が良いでしょう。

このバイオガスプラント消化液の脱水浄化処理設備はスタートしたばかりの取組ですので、
今後も研究改良を続けていく計画との事です。

 

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最終更新日 : 2022/01/23