「電気」を知って事故を防ぐ

はじめに】

 電気事故を防ぐためにはまず、農場でどんな電気器具が使われているかをおさらいしておきしょう。

まず、事務所では一般家庭と同じような家電製品がありますね。
パソコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機、掃除機、コタツ、給湯器、照明器具、エアコンなどです。

豚舎ではまず、照明器具、保温ランプ、ガス温風ヒーターなどの単相100Vまたは単相200V器具。
それから三相200Vで動くモーターを使ったさまざまな設備があります。主なものを挙げると、換気扇、給餌ライン、給水ポンプ、洗浄機、動噴、除糞機械、コンポスト、浄化槽などです。

特に豚の生命に係わる、餌、水、換気はトラブルで長時間止まってはならないものであります。これらの設備は特に重点的にトラブル防止策を講じなければいけません。


 また、図表1は近年に起こった電気事故に起因する火災です。ご覧のように季節を問わず発生しています。
火災を起こしてしまえば、豚と建物合せて数千万円の被害になることもめずらしくありません。
火災保険を掛けていれば建物は再建できても、生産に穴が空いてしまいますので、大きな減収になってしまいます。

 電気事故を防ぐにはどのような箇所にどんな危険が潜んでいるかを知り、その情報を農場従業員の全員で共有することが大事です。次の章でそこを詳しく説明していきます。

 

起こりうる電気事故とその対策】

 ・漏電とトラッキング」現象

新聞報道で見ると漏電が疑われるケースが多いですが、トラッキング現象が実は最も多いのです。
漏電とは似て非なるものです。図表2がトラッキング現象と漏電を図解したものです。
商用電源は100V(電灯線)も3相200V(動力線)もどちらか1端がアースされています。
アースされていない側の線を「ホット」と呼びます。
電気設備や機器の内部でホット側からアースへ電気が流れる現象が漏電です。人が感電した場合も漏電と同じ電気の流れですから、漏電ブレーカーが設置されていれば感電してもすぐに漏電ブレーカーが下がりますので、大けがや死亡は免れます。

 漏電は主に古くなった電気機器や電線が水に濡れて起こる事が多いのです。
屋外で使われることが多い給餌ラインや糞尿処理施設で多く発生します。
豚舎の洗浄水がかかったり、保温ランプに母豚の尿がかかって漏電するケースもあります。
漏電ブレーカー働かなかったり、付いていなかった場合は、漏電箇所が過熱して火災にまで発展しかねません。
漏電ブレーカーには動作テストボタンが付いていますので、なるべく毎月テストするようにしましょう。

 また、汚水処理施設の水中ポンプが老朽化して漏電し、漏電ブレーカーは下がったものの、作業者が漏電に気づかずに汚水が場外に流出してしまった。という事例があります。特に夜間にこのようなトラブルが発生すれば、対処が遅れて保健所へ通報される、ということもあり得ます。警報接点付きの漏電ブレーカーに交換して警報を発せられるようにすることをお勧めします。

 一方トラッキング現象は図表3のように抜けかけたプラグの隙間にホコリが溜まり、それが湿気を吸って電気を通した状態です。

図表2でわかるとおり、ブレーカー側から見ると、通常の電力消費と変わりありません。で
すから、漏電ブレーカーでは遮断出来ません。それゆえに最も怖い現象なのです。
例えば100Vコンセントで起きたトラッキング現象で2アンペアの電流が流れた場合、電力は100×2200ワットになります。200ワットの保温電球の熱が1点に集中したらどうなりますか?

そうです、発火しますね。

トラッキング現象が起こりやすいところはコンセントだけではありません。
天井裏や壁の間などの配線がネズミにかじられて芯線がむき出しになってしまうと、そこでも発生します。
図表1の一番下、韓国の養豚場の例では『天井裏漏電か?』と新聞発表になっていましたが、従業員の証言では「突然天井から火花が散って発火した」ということです。私が思うに、ネズミにかじられた電線でのトラッキング現象ではないかと思います。
ネズミ駆除対策を全然していない農場もあるようですが、養豚場においてはネズミが関係する電気事故が多いのが特徴です。
豚舎とキューピクルを繋ぐ電線管をネズミが通っていき、キューピクルで感電して農場内全電源が落ちた。
という事例もあります。経費を惜しまずに専門の業者と定期駆除契約を結ぶことをお勧めします。

 ・プラグやコード

次に延長コードの使い方ミスによる過熱です。

図表4の例では延長コードの許容電流が10Aなのに13A流しているので過熱します。
また、許容電流が15Aコードリールを巻き取ったまま使うと許容電流以内であっても過熱します。
それは、巻き取ってあるので放熱が悪くなるから過熱しやすくなるのです。

図表5の例では延長コードを延ばして使っても容量オーバーです。

 次は電源プラグです。消費電力が多いプラグは、高圧洗浄機や保温ランプです。


図表6は防水型4極プラグです。高圧洗浄機などはこのようなプラグが使われています。
抜き差しする時にひねることが多いので、内部の電線の被覆が剥けたり、芯線がほつれたりしてショートして発火する事があります。
電極ベースが変色していたら内部が焦げている可能性が高いので、新しいプラグと交換しましょう。
この4極プラグは許容電流に応じてサイズが異なります。
一般的に20Aタイプが取り付けられていることが多いのですが、ハイパワーの高圧洗浄機では30Aタイプのプラグが使われています。このプラグが合わないからと行って、20Aタイプのプラグに交換して使ってはいけません。
この場合はブレーカーから配線、壁コンセントまで、30A許容のものに交換工事を行ってください。

 ・マグネットスイッチ



図表7はマグネットスイッチが過負荷で焦げた様子です。
モーターが過負荷の状態でマグネットスイッチがON-OFFすると接点に火花が飛んで接点が溶けていきます。
その状態が進むと3相電源の内の1本が通電しなくなる、いわゆる「欠相」が起こります。
この状態を放置するとモーターが焼けてしまいます。
大きな修理代がかかったり、火事になったりしますから、制御盤内のマグネットスイッチも定期的に点検してください。
過負荷で時々止まる機器が有りましたら要注意です。
しょっちゅう止まるからといってサーマルリレー(図表7中の丸くて数字が書いてあるもの)のダイヤルを最大に回したままで使うのは本末転倒です。
過負荷の原因を取り除いてやることが肝腎です。

 

【事故が起きてしまった時の対応】

電気設備から煙が出たり異音がした時はまずもって電源を切る。そしてプラグをコンセントから抜く、あるいはブレーカーを下げることが第1です。
そして異常箇所はどこなのかをよく観察することです。
電源を切らずに点検すると突然動き出してケガをします。

これは基本中の基本なのですが、トラブルで慌てるとつい忘れがちなことです。

ですから、例えば制御盤なら、扉に『点検のために開けたら、まず電源ブレーカーを下げる事』と注意書きを貼っておくことです。
高圧洗浄機などには、『カバーを開けて点検するにはまず、電源OFF』と大きな字で書いておきます。

機器が突然止まった場合は、テスターで電源が正常に来ているかどうか調べましょう。

3相交流は3本線の内のどの2本間も200Vになっています190210Vの間でしたら正常な範囲です。
電気が来ていない線があればどこかで断線していますので、テスターと目視で探してください。

 テスターの使い方を知っているのと知らないのでは、原因究明の時間と精度に大きな差が出ます。
是非とも農場にはテスターを配備して、2名以上が使えるように教育しておきましょう。

まとめ】

以上のように電気事故を防ぐことは難しいことではありません。
意識の欠如が最も危険な要因です。
是非、電気の点検簿を作って、毎月決まった日に点検するように決まり事を作ってください。

また、電気は目に見えないものですから、『電気が見える』従業員を確保しましょう。
つまり、従業員の誰かに電気工事師の資格を取って貰う。
または、電気工事師の資格を持っている人を雇用することです。
電気工事師がいれば、電気事故防止の意識が高まるだけではなく、配線や機器の修理も迅速に対応できることも大きなメリットになります。

 

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最終更新日 : 2022/01/23