養豚場の節電 省エネ大作戦

 今年は原発事故の影響で、国内の原発稼働ゼロの状態で夏を迎えることとなりました。

電力会社によっては電気料金の値上が迫っており、節電目標も設定されました。予期せぬ停電や計画停電にならないようにするためにも、具体的な節電の工夫が必要とされています。そこで今回は、農家養豚、あるいは企業養豚で取組み可能な節電対策をまとめてみました。

 

@    環境改善〜暑さを和らげる工夫
豚は汗をかかない動物ですので、暑くなると呼吸を早めたり、水分の多いところに体をこすりつけたりして体温を下げようとします。ですからまずは、豚の居る場所を暑くさせないように、断熱が重要です。次に豚が呼吸によってはき出した熱と水蒸気を排出するための換気が重要です。また、昔の庭先養豚では、放牧場に水溜まりを作ってやり、水遊びをさせたりしましたが、現代の集約化された養豚ではそれは合理的な方法ではありません。水を使って豚の体熱を発散させるシステムとして、ドリップクーリングがあります。
 省エネを優先的に考えるならばハウジングを見直すのが一番です。今から暑さ対策のハウジング改良工事では夏に間に合わないかも知れませんが、冬の省エネにもなりますので解説しておきます。古い豚舎では屋根の断熱材や壁の断熱材が入っていなかったり、天井の無い豚舎を見受けることがあります。このような豚舎では断熱材の施工が最も効果的です。
 図1と図2は天井の無い豚舎の改造例を模式図にしたものです。

  図1は西日本などの温暖な地方に適した構造です。屋根裏の暖まった空気を自然対流で排出する構造です。間口の狭い片屋根の豚舎でも理屈は同じです。
 一方、図2は水平に断熱材天井を施工する方式で、東日本や高冷地に適した構造です。天井に入気口を取付け、冬場は天井裏の暖まった空気を豚舎内に引き込む換気方法にすれば、冬場の環境も大幅に改善されます。
 また、スレート葺きや波トタンの屋根板が更新時期を迎えた豚舎には、その上から断熱材付ガルバリウム鋼板を被せて施工する方法もあります。この方法は工期が短くて済むのと建物の耐用年数が延びるメリットがあります。
 その他の環境改善策としては、豚舎の南側に落葉樹を植樹すると良いです。夏は木陰を作り出し冬は日当たりを良くしてくれます。
 また、夏は肥育豚の発育が落ちるために出荷日令が伸び、結果として肥育舎が密飼いになることが多いです。これを解消するにはオガコハウス豚舎の利用をお勧めします。オガコ豚舎の連続使用には、寄生虫や敷料確保等の問題がありますので、夏場のみの使用なら問題が少なくて済みますし、出荷枝重も大きく出来ますから販売金額も稼げます。

 

A    電気を使わない工夫とコスト削減
暑さ対策というと、まず換気扇やダクトファンがメインになると思います。これらは直接または、間接的豚に風を当てて涼しく感じさせる方法ですが、電力もかなり消費します。もっと涼しくしたいのだが換気扇を増設するスペースが無かったり、受電設備の容量がいっぱいだったりする場合には、にクーリングパドやドリップクーリングなどの設備導入が有効です。屋根や天井の断熱効果が低い豚舎では屋根散水も効果が有ります。


図3がクーリングパドです。紙製の波板を90度交互に貼り付けた構造のもので、ここに水を流し、そこを通過した空気を豚舎へ引き込む設備です。水の気化熱によって入気を冷やすもので、湿度の低い晴れた日には46℃も温度が下がります。この設備を開放豚舎で導入するには、カーテンで豚舎の両サイドを塞ぎ、片方の妻側にパドを設置し、もう一方の妻側に排気ファンを設置します。このような換気方法をトンネルベンチレーションと呼びます。
 次にドリップクーリングですが、これも水の気化熱を利用した方法です。クーリングバドよりも導入コストが安く、工事も簡単です。ドリップクーリングを使用するときは1分間滴下して1030分間休止するパターンにして下さい。連続滴下では水が無駄になるだけで、あまり効果が上がりません。要は滴下した水が乾ききる頃に次の滴下時間になるタイミングがベストです。
 ビニールホースに針穴を空けて蛇口へ直結した自作ドリップクーリングを見かけることがありますが、前記の理由で好ましくありません。この場合は間欠的に水を出し止めできる散水タイマーなどのコントローラーを組み合わせることで実用的になります。
 また予算の限られている農場では自作のペットボトルドリップクーリングをお勧めします。

 図4が設置例です。まず、2リットルのペットボトルに水を入れて冷凍庫で凍らせます。キャップには小さな穴を空けておきます。そのキャップをして母豚のストールの上へ逆さまに設置します。滴下場所は母豚の首筋にします。ペットボトルは豚にかじられないようにまた、振動などで落下しないように固定するか吊すなど工夫して設置して下さい。
 次に、換気扇メンテナンスですが、羽根の清掃や、入気口の清掃を1ヶ月に一度ぐらいの間隔で実施して下さい。これでエネルギーロスを少なくし、換気効率アップと節電につながります。

 

B    節電とピークカット対策
まず、換気扇の節電ですが、サーモスタットや手動によりON-OFFのみの運転をしている換気扇では、往々にして回し過ぎや換気不足が起こりやすいものです。このような設備には温度調節器とインバーターを組み込んで下さい。畜産機材販売店や電気工事店へ相談すれば改造工事もやってもらえます。温度の上下に応じて換気扇の回転数を自動で増減してくれますので、飼育環境の最適化と節電効果が期待出来ます。
 さらに、ウインドレス豚舎で、換気扇が温度に合わせて3段階ぐらいの運転になっているならば、夏場だけしか回らない3段目の換気扇系統を自家発電機で回す方法もあります。工事現場用のディーゼル発電機を備えておけば、この夏場のピークカットと、万が一の停電時に活躍します。東日本大震災時は、リースの発電機が瞬く間に貸切になってしまい、調達できなくて困った農場がいくつもありました。備えあれば憂い無しです。
 次に消費電力のピークカットですが、夏場の電力不足への協力のみならず、デマンド(最大需要電力)の減少にもなり、電気料金の基本料金が下がる効果も出てきます。

 

図5はデマンドと基本料金の関係をしましています。養豚場に於いて最も電力を消費する設備は糞尿処理施設です。これらの運転タイムシフトを検討してみて下さい。例えばコンポストの場合、早朝と夕方、あるいは夜間に動かすように、作業ローテーションを工夫して下さい。汚水処理施設の場合は正午から午後4時までの間は曝気を止める様にターマープログラムを変更します。連続曝気が必要な設備ではなかなか難しいかも知れませんが、回分式の場合は12時〜16時の間を沈殿、放流行程になるようにセットするだけですから、簡単の出来るはずです。
 

C    作業時間の工夫
夏の暑い日には豚だけではなく、作業する側の人間様も大変ですよね。農家養豚では夏は5時から仕事をして、昼休みは3時間取り午後7時まで仕事をするのがあたりまえです。豚も暑い昼下がりは人間が誰もいないのでゆっくり昼寝できますね。これを企業養豚でもタイムシフト勤務を取り入れることで実現している農場があります。特に自然交配や肉豚出荷は、早朝に行うことで作業効率や受胎率を良くし、事故を減らすことが出来ます。また、分娩舎では早番と遅番に分担することで、涼しい時間帯に給餌することが可能となりますし、分娩介護できる時間も広がります。

 

D    まとめ
様々な節電や省エネ対策を紹介しましたが、予算と農場の立地や豚舎構造を踏まえた上で対策を実施して下さい。なかなか判断に迷う場合はコンサルタントの先生にお願いして、費用対効果のシミュレーションを出してもらった上で決めると良いでしょう。この記事が読者の皆さんへ届く頃には既に猛暑になっているかも知れません。すぐに出来ることは遅滞なく実施し、収益アップにお役立て頂ければ幸いに思います。

 

この Web サイトに関するご質問やご感想などについては、お問い合わせフォームからお送りください。
Copyright (C) 2016 (株)「マックプラニング
最終更新日 : 2022/01/23