暑さを防ぐ豚舎の工夫

【はじめに】

 昨年の夏は記録的な猛暑が続き全国的に夏から秋へかけての受胎率低下が見られました。今年は冷夏になるか、それとも暑い夏になるか予想は付きませんが、今から暑熱対策をきちんと準備することで、生産性を維持していきましょう。暑熱対策の基本はまず現有設備の点検から始めます。夏場しか使わない設備がその能力を100%発揮してくれるよう、清掃と試運転を早めに行いましょう。不具合があったら修理の必要がありますが、昨年までも思わしい結果が得られなかった設備については、設備の更新または異なるタイプの設備導入も検討すべきです。

 それでは具体的に暑熱対策として、ここでは大きく次の3つに分けて考えてゆきます。

@.外部の熱を入れないという観点から、ハウジング関係

A.豚の体感温度を下げる観点から、送風及び換気について

B.冷房・その他の工夫

【ハウジング】

 対策の一覧は表1をご覧下さい。

昨今の養豚を取り巻く事情ではなかなか設備投資には消極的にならざるを得ない農場が多いことと思いますので、なるべく設備投資の少なくて済む方法を最優先に解説していきます。

 まずは屋根が熱せられて発生する輻射熱をどのようにして減少させるかです。天井を貼ってない豚舎や天井が一部壊れて落ちているような豚舎では、断熱材を張ることを最優先に考えるべきです。これは最低限必要な設備投資と私は考えています。天井や壁の断熱は冬の暖房費節約にもつながります。また、屋根板も痛んでいる農場で、張り替えも検討しているならば、断熱材付きのガルバニウム鋼板を現在の屋根の上に被せて施工する方法もあります。材料コストは高くなりますが、古い屋根板を外して撤去せずに済むぶん、工賃を安くできます。ただし、タルキやC型鋼などの下地が痛んでいる場合は補強または交換が必要になります。

【豚の体感温度を下げる】

 まず換気扇について。カーテン式開放豚舎では換気を自然の風任せにしている農場がまだありますが、是非順送ファンを設置することをお勧めします(図1参照)。

インバーターと温度調節器でコントロールすれば、夏の日中は全速運転で換気を助け、気温が低くなると自動的に最低限のミックスファンとして働いてくれます。また、換気扇の羽やシャッターにはホコリがこびりつくものです。そのままにしておくと換気効率が半分近くまで落ちることがありますし、消費電力も多くなってしまいますので、暑い季節がやってくる前に清掃して下さい。また、換気扇の電線や接続ボックスにキズやひび割れがあると豚舎を洗浄している時に漏電事故を引き起こしますので、その点検も必要です。

 さらに、ウインドレス豚舎では換気コントローラーのメンテナンスもぬかりなく行って下さい。よくあるトラブルは、コントローラーボックス内がネズミやゴキブリの糞で汚れていたり蜘蛛の巣だらけだったりして不調を来すことや、コントローラーボックスの入気口にホコリが詰まってインバーターが熱くなりすぎてダウンすることです。電気の保安点検時にコントローラーボックス内も点検してもらうと良いでしょう。また、インバーターがダウンした時に手動で全速運転する方法などを、農場主び担当者がきちんと理解しておくことも、非常時の被害防止に役立ちます。ダクトファンの場合も羽やコントロールボックスの点検は同様です。ダクトファンをサーモでコントロールしているところはあまり見かけませんが、ファンが止まった時にホースをかじられない高さに設置しておけば、サーモでON−OFFさせた方が管理も楽ですし、節電にもなると思います。

また、換気扇類にはモーター個々にヒューズが付いている場合があります。正しい規格のものを買い置きしておきましょう。切れた時に在庫がないからと言って容量の大きなものや銅線を入れたりすると重大な電気事故につながりますので注意して下さい。

 次にドリップクーリングです。これは母豚に水滴を間欠的に垂らし、水の気化熱によって母豚の体感温度を下げるシステムです。コントローラー、減圧弁、太ホース、細ホース、ストップバルブ、ノズルがセットになったものが販売されています。どうしても設備投資を抑えたい場合は、細ホース、ストップバルブ、ノズルを省略することも可能ですが、水を落とす針穴を空ける時に、穴が太くなりすぎない様に注意が必要です。使い方は約30〜60秒水を落下させ、10分程度休む(垂らした水が蒸発する時間)というタイマー設定にします。連続的に水を落としても効果は上がりませんので注意して下さい。

また、ペットボトルクーリングは簡易的なドリップクーリングの一種です。2リットル入ペットボトルに水を入れて全体を凍らせ、それを母豚の首上辺りの柵に逆さまに固定します。(写真1参照)

氷が少しずつ溶けて冷たい水が母豚の首筋に落ちる仕掛けです。導入コストは、冷凍庫の購入と豚柵にペットボトルを取り付ける部分の加工費のみです。ただ、毎日の取り替え作業が必要なので、分娩舎向きだと思います。設置本数が多くなる交配妊娠ストールでの使用には向かないと思います。妊娠ストールや規模の大きい農場の分娩舎では、ドリップクーリングシステムを導入する方が手間が省けて効果が出ます。

【冷房・その他の工夫】

開放豚舎で天井や屋根断熱材の施工上の問題や予算の問題がある場合は屋根散水を選択します。屋根散水もドリップクーリングと同じ原理で、間欠散水にします。屋根を満遍なく濡らしてその水が気化する時に奪われる気化熱によって冷やします。ですから水を出しっぱなしにすると効果が上がらないばかりか、水の無駄になってしまいます。この基本原理を忘れないで下さい。園芸用の散水ノズルとじゅんぐりタイマーを使うと自前でも簡単に施工できます。要は豚舎全体の屋根に一斉に散水するには水量が不足する場合が多いので、複数のブロックに分けて散水するようにします。ポンプの水圧が弱い農場の場合は、1〜2㎥のフローとバルブ付き貯水タンクを設置しそこから水道ポンプでスプリンクラーに送水すればうまくいきます。散水時間と休止時間の設定は気候条件や豚舎によって異なります。基本的に屋根が満遍なく濡れる程度散布し、乾いたらまた散布するという繰り返しにします。

オプションとして、外気温センサーを付けて温度が高い時間帯だけ自動で動くようにすると便利です。また、冬の前には配管の水抜きを忘れないようにしましょう。高い部品を凍結で破裂させるともったいないですから。

 次にクーリングパドですが、この原理は水が気化する時に空気から気化熱を奪うことによって気温を下げるものです(図3参照)。

ですから入気の湿度が少ないほど水の蒸散量が多くなりますので、効果が大きいのです。私の経験では外気温よりも5℃ぐらい低い入気温温度を確保できました。逆に梅雨時などの外気の湿度が高い時期は効果が少なくなります。長期間使用しているとパドの表面にカビや苔類が発生して通気抵抗増してきます。これを予防するためには、毎年の使い始めと使用中の月に一度は水タンクへ消毒剤を添加します。薬剤は金属腐食の少ないタイプを使用して下さい。パドの材質は紙なので、5〜7年で交換が必要になります。

 また、クーリングパドの近くほど涼しい場所なので、種雄豚などの暑さで悪影響が出やすい豚は入気側に置くようにレイアウトを工夫すると良いです。

 そのほか、意外に見落としがちなのが夕陽の直射です。ストールに入った母豚は逃げ場がないので、このストレスで総流産することがあります。よしずなどの日よけの設置や植栽によるが必要です。

【まとめ】

 いろいろな方法を紹介してきましたが、農場の立地条件や豚舎形式は様々ですので、ご自分の農場に合った方法を見つけて頂ければ幸いに思います。ただ、目先の投資額だけで設備投資に消極的になるよりは、3年や5年のスパンで費用対効果を計算し、良い設備には積極的に投資する姿勢も大切ではないかと思います。

 

 

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最終更新日 : 2022/01/23