豚舎の臭気を抑える工夫

 

【はじめに】

 近年、養豚場に対する臭いの苦情が多くなってきたようです。中には住民運動に発展しているところもあり、経営者の頭痛のたねとなっています。臭気対策は、収益にはつながりませんのでどうしても後回しにされてきた嫌いがありますが、今後も養豚経営を続けていく上では何らかの対策が必要になってきました。現在の技術では低コストで完全に臭いを消す事は不可能に近いと思います。今回はできるだけコストを掛けない方法で悪臭を抑える工夫をいくつかご紹介したいと思います。

【悪臭の種類と発生源】

 養豚場から発生する悪臭は、豚糞中に含まれる未消化の栄養素や尿に含まれる尿素が嫌気性微生物によって分解されて発生します。悪臭防止法で規定されている特定悪臭物質で養豚場に関係するものは表1の通りです。

「特定悪臭物質」とは、不快なにおいの原因となり、生活環境を損なうおそれのある物質であって政令で指定するものです。現在22物質が指定されています(悪臭防止法施行令第1条参照)。また、同法で規制されている基準値は表2の通りです。

県によっては条例で臭気物質ごとの臭気指数の規制値を定めているところもありますので、詳細は各県のホームページ等でご確認下さい。

おもな臭気物質の特徴は次の通りです。

@    アンモニア系:タンパク質に由来:空気よりも軽く水に溶けやすい。

A    低級脂肪酸系:炭水化物に由来:無色の液体で水に溶けやすい。

B    メチルカプタン系:硫黄分に由来:空気より重い気体で水に溶けやすい。

これら悪臭の大部分は嫌気状態つまり酸素が少ない状態で発生します。酸素が沢山ある状態では、好気性微生物によって無臭の物質にまで分解されます。

【悪臭の発生を抑えるには】

  豚舎からの悪臭発生を抑えるには、糞尿を豚舎に溜めないことが第一です。スクレーパー式豚舎ならば、1日2回以上運転するようにします。豚舎にたまったままだと、どんどん嫌気発酵が進んでいきますので、平床の部分も朝晩2回除糞することです。スクレーパー式豚舎でも豚房から通路へはみ出した糞を放置しておくと、これも悪臭やハエの発生原因となります。単純で手間のかかることですが、やはりこれが養豚管理の基本ではないでしょうか。

 次に、溜め込み式ピットの場合ですが、方法は2つあります。1つ目は微生物資材を使う方法です。嫌気性微生物の中には悪臭を発生させないものもあります。これらを投入することにより、悪臭発生菌の活動を減少させることができます。粉末の製品や液体の製品まで複数の製品が出回っておりますので、一概にどれが良いとは言えません。その農場の立地条件や豚舎構造により相性の善し悪しもあると思います。ちなみに筆者の前勤務先農場(宮城県、ウインドレス豚舎)では、EM菌とゼロ菌が効果がありました。

EMは、原液をそのまま使うとコスト高になるので、培養器を購入し、購入した原液を培養して100倍に増やし、飲水投与で与えておりました。飲水投与を行うには、ドサトロンやドスマチックという、水圧で動作する添加器があると便利です。ゼロ菌は、原液は液体ですが、ボカシにした製品が販売されていますのでこれを飼料に混ぜて給与します。給餌ラインに添加装置が無い場合はバルク車からタンクに入れる時に混ぜます。菌体資材を購入する時は、防疫面も考慮して製造工場の立地条件や原材料も事前にチェックすることをお勧めします。

 もう一つの方法は、浄化槽の活性汚泥を返送する方法です。正常に運転されている浄化槽の最終瀑気槽は、pHが5.5〜6.5になっているはずです。悪臭を発生させる嫌気性微生物は、たいてい酸性に弱い性質がありますので、その性質を利用します。ただしここで注意が必要なのは、浄化槽が不調でpHが高くなっていたり、大腸菌が含まれていたりすると弊害が発生します。また、瀑気槽水の返送とピットの引き抜き間隔も重要で、できれば毎日がベストです。間隔が長くなるほど効果は少なくなります。

 また、オガコが十分に入手できる地域ならば、豚舎をオガ床踏み込み式に改造してしまうのも良いでしょう。十分な発酵を促し悪臭を防止するにはオガ床の堆積厚は50cm以上が必要です。どぶどぶ状態でも発酵が進みませんので、そのような部分へはオガコを追加する等の管理が必要です。

次に堆肥からの悪臭発生を抑制する方法です。強制発酵施設でもローダーで切り返しする方式でも、できるだけ空気を多く送り込んで、嫌気状態を防ぐことです。ブロワーが無い堆肥舎なら設置をお勧めします。良い堆肥作りにもつながります。(図1参照)

前記した生菌剤の利用も相乗効果があります。

【脱臭について】

脱臭方法は大きく分けると@吸着方式、A微生物分解方式、B化学分解方式があります。吸着方式の代表例はオカクズ脱臭施設です(図2参照)。

この方式の利点は初期投資が安価なことです。また、メンテナンスが容易である事です。普段は何もすることはなく、吸着が悪くなったり、エアの通りが悪くなったらオガコを交換すればよいだけです。

微生物分解方式の代表例はバイオ・エアークリーニングです。ヨシモトポール(株)が輸入販売しているものです。この方式の利点は、オゾン、硫酸などの危険物、薬品を全く使用しないので安全なこと。また、通気性がよいのでオガコ脱臭よりも小さなブロワーでよく、ランニングコストが安いことが挙げられます。注意点としては少量出る排水を浄化槽等で処理する必要があること、豚舎内にいるバクテリアがバイオフィルターに定着するまでには1〜2ヶ月必要なことです。全国で20件以上の導入実績があるそうです。

また、土壌脱臭もこの方式の仲間です。場所は取りますが、工事が安価なこと、通りが悪くなったら耕耘するだけでよいことなどのメリットがあります。

化学分解方式の代表例は、オゾン脱臭装置です。オゾンガスを使う乾式と、オゾン水を使う湿式があります。オゾンには殺菌作用と脱臭作用の2つの働きがあり、豚舎の消毒と脱臭や、横型コンポストの脱臭にも使えますが、イニシャルコストが比較的高いので規模の大きな農場向きだと思います。湿式オゾン方式はウインドレス離乳舎の排気の脱臭もできます。

また、消臭剤を使用する方法もあります。豚舎の臭気を吸引して消臭剤と接触させる方法と、豚舎や堆肥舎に細霧システムのような配管をして液体消臭剤を散布して効果を上げているところもあります。

読者の皆さんの農場ではどの方式が最適化というのは、豚舎構造、立地条件、資金計画等を総合的に判断しなければならないと思います。

【公害防止対策】

悪臭の抑制と脱臭対策を施しても悪臭を完全に消すことは不可能です。たとえガス検知器による測定で何分の一になったといえども、畜産業以外の人からすれば“臭いがある”と言う判定になってしまいます。最後はいかにして民家へ臭いを行かなくするかの工夫です。ウインドレス豚舎の排気側には必ず植林しましょう(図3参照)。

図のように交互に2列に植えて、排気をぶつけて拡散させるようにします。解放豚舎や堆肥舎には風下に植林します。ヒバやカヤの木など、臭いを吸着しやすい、または良い香りのする常緑樹が適しています。また、豚舎の周りにはできるだけ多くのハーブや草花を植えましょう。消臭効果もさることながら、周りからの見た目でも良い印象を与えることができます。

臭気を抑えるには、今回紹介しました方法の一つだけではなく、発生源を少なくする対策と、脱臭、そして公害防止対策を組み合わせて実施することにより効果が上がるものです。

 

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最終更新日 : 2022/01/23