妊娠・授乳中の母豚へ飼料の給与方法

【はじめに】

 安定した高い繁殖成績を維持している農場では、飼料の成分や給与方法に細心の注意を払っているものです。まずは、理論的なおさらいをしておきます。ここを押さえずに、ただ作業だけを覚えてもだめだからです。哺乳中の子豚は、主に母乳で育ちます。母豚は食べた餌から母乳を作りますが、子豚の成長が早いために、それだけでは足りません。それで自分の皮下脂肪を削って母乳を作ります。ですから、妊娠期間中には十分な皮下脂肪を蓄えておく必要があるのです。

 妊娠期間中の餌は皮下脂肪の蓄積ともう一つ、子豚(胎児)の発育にも使われます。しかし実際に胎児の大きさがグングン大きくなるのは妊娠80日目頃からなのです。ですから、分娩予定の30日前から給餌量を増やすのが一般的です。

 授乳期間中の給餌管理の1つは子豚を元気に大きく育てることですが、次の妊娠に備えることがもう一つの大きな目的です。給餌管理如何で次回の発情再起日数や、産子数に影響が出ます。痩せすぎても駄目ですし、太りすぎても駄目です

図1

 図1は妊娠期母豚の給餌量調節の一例です。給餌量は飼料の成分や、母豚の品種、農場の立地条件(北海道と九州では異なる)、豚舎形式(開放とウインドレスでは異なる)に応じて最適になるように調節が必要です。

【給餌量を決める物差し】

 母豚の給餌量のコントロールは詰まるところ母豚の皮下脂肪の調節なのです。ではそれが適性かどうかをどうやって判断するかと言いますと、最も簡単で手軽なのがボディーコンディションスコア(BCS)を記録することです。BCSの測定方法は紹介されているところが多いので、ここでは割愛させて頂きます。また、リーンメーター(皮下脂肪計)を用いて直接測定している農場もあります。私が以前勤務していた農場では、分娩舎受入時と離乳時に母豚の体重測定をして、BCSと併せて利用していました。

図2

図2に母豚の交配〜離乳までのBCS管理の一例を示します。ここで注意が必要なのは、BCSの測定には、担当者の違いによる誤差が付きものである事です。繁殖部門の担当者が複数いる農場では、目合わせを時々行って下さい。

【妊娠期の飼料給与】

 もう一度図1を見て下さい。夏用と冬用に分かれています。これは冬になると自分の体温維持のために必要なエネルギーが増えるので、給餌量を全体的に増やしています。この図は経産豚用ですが、候補豚の場合は生後6ヶ月例から妊娠期用餌に切り替えて、交配前までは1日2.5kg前後与えます。経産豚では離乳直後は乳房炎にならない範囲で1日2.8kg前後与えます。中には離乳のストレスで食欲が落ち、餌を残す母豚がいます。残すからと言って最初から1kg程度しか与えないと、発情再起日数や排卵数に影響しますので、良くありません。しかし、離乳後1週間以内に発情が来なかった母豚は、8日目からは2.2kgに減らします。ここで減らさないと母豚が太りすぎ、ますます発情再起が悪くなってしまいます。

 交配後3週間は受精卵が子宮に着床する期間です。この時に脂肪の多すぎる(太りすぎた母豚)は着床が悪くなると言われています。ですから、BCSが2ぐらいの痩せた母豚でもこの時期は給餌量を増やしません。図1には示しませんでしたが、交配時にBCSが3.5〜4の太り気味の母豚の場合は交配直後から2.0kg程度に減らして下さい。

 交配後4週目から分娩前30日までの妊娠中期は、BCSの調整期間と位置づけます。BCSが2.5〜3.0の標準的な母豚は分娩前までにBCSを1増やす目標で給餌量を調節していきます(図2参照)。BCSが2.0ぐらいの痩せた母豚は2.5kgぐらいに増やします。

 分娩前30日(交配後85日)以降の妊娠後期は胎児が大きくなる期間ですので、給餌量を3.0kgぐらいまで増やします。増量が足りないと子豚の生時体重は小さくなりますし、逆に給餌量が多すぎると胎児が大きくなりすぎて難産になる確率が高くなります。自分の農場での給餌量が最適なのかどうかを判断するには、子豚の生時体重を測って下さい。大型種(中ヨークやバーク以外)の場合は1頭平均で1.4〜1.5kgを目標にすると良いでしょう。

 ところで、大抵の農場では妊娠期の給餌はストックホッパーによる自動計量になっていると思います。ホッパーのメーカーにより目盛りの単位はまちまちですから、定期的に実重量を量って下さい。特に餌の銘柄を変更した時は必ず実測して、目盛りとの誤差補正を行って下さい。

 次に実際の給餌量調節の作業ですが、分娩舎へ母豚を送り出した日は、空いたストールの餌を止めると同時に給餌量を2.2kgに戻すように習慣づけると良いでしょう。また、分娩前30日からの増量とBCSに合わせた給餌量の増減は、離乳日に行うなど、曜日を決めて定期的に行いましょう。妊娠中期に入ったらBCSに応じて増減すると書きましたが、一度合わせたらおしまいではありません。毎週定期的に見直すことが肝心です。

【授乳中の飼料給与】

 授乳中の給与管理は子豚を大きく育てるのが目的の一つですが、BCSを整えて次産の交配に備えることも大きな目的です。妊娠中期をBCS調整期間と書きましたが、繁殖成績を上げるには授乳期でBCSをコントロールすることが最重要です。ですから、分娩舎では給餌ラインを使わずに手給餌することをお勧めします。そして図3に示した様な給餌カードを付けることをお勧めします。給餌カードは用箋バサミに挟んで分娩柵または通路壁に下げておき、給餌の度に記録していきます。繁殖成績の良い農場では必ず給餌カードを使用しています。図4の様な給餌カードを使っている農場もありますが、私はこちらはお勧めしません。

図3

 では、給餌カードを使った良い給餌管理の方法を述べていきます。図3の記入例を見て下さい。この給餌カードの特徴は給餌目標量と実給餌量の変化が一目瞭然であることです。例えば、分娩5日目の給餌量は朝に2.0kg(○印)夕方の2.0kg(丸印が合計の4kgの位置に書かれている)与えたことがわかります。次の日は朝に2.5kg与えたのですが約1kg残したので、2.5kgの位置に書いた○印に×印を付け、1.5kgの位置に○印を書き直しています。夕方は1.5kg与えたので、合計3.0kgの位置に●印を書いています。前日より食下量が減ったのが誰が見ても分かりますから、即検温や治療に入ります。そして、母豚が著しい不調になることを未然に防ぐことができるのです。また、複数の担当者で作業をする場合や、場長または経営者が管理をチェックするのにも役立ちます。

図4

給餌量ですが、基本的には分娩当日は0〜1kgで、その後徐々に増やしていきます。品種や哺乳子豚数にもよりますが7〜9日目からは飽食にします。哺乳頭数が11頭を超えるような多産系の品種では、いかにして食下量を多くするかが勝負所になります。特に夏場には食下量が落ちますので、様々な工夫が必要になります。私がトライして良かったことを幾つか列記します。全ての農場でうまくいくとは限りませんが参考になれば幸いです。

@     給餌回数を増やす。朝、昼、夕、夜(8〜9時頃)

A     給餌後、ホースで水を入れてやり、どぶ餌にする。

B     給餌して1時間後に、残った餌は捨てて餌箱を水洗いし、新鮮な水を入れてやる

C     餌箱をドライ&ウェットタイプに変更する(ミナギのドラウエが良かった)

D     食欲を増進させる補助飼料を、トップドレスで追加給餌する

E     クーリングパド等を設置し部屋の温度を下げてやる

【まとめ】

 母豚の給餌管理は、繁殖成績を左右する重要な要素でありますが、母豚の品種や豚舎環境によって調整レベルは異なってきます。ですからここで私が例に挙げた図表の通りにやったからと言ってうまくいく保証はありません。一番重要なのは記録を付けることです。何月何日から餌を変更したとか、給餌量をどのように変更したとか、分娩舎の給餌カードを保存しておくこともしかりです。そのデータに基づいて自農場のベスト管理を築き上げて行って下さい。

 

この Web サイトに関するご質問やご感想などについては、お問い合わせフォームからお送りください。
Copyright (C) 2016 (株)「マックプラニング
最終更新日 : 2022/01/23