母豚への給水で気をつけること
マックプランニング 熊谷隆
《はじめに》
 水の与え方、餌の与え方一つで、繁殖成績や肥育成績は大きく変わる物です。筆者も以前勤務していた農場で、様々な工夫を凝らし改善を経験しました。本来豚に限らずほ乳類は、溜まり水を飲むのが習性ですから、体の構造もそれに適した物になっています。養豚が産業として発展し集約的な大規模経営が多くなった今日、豚の給水器は人間の都合で改良されてきました。その改良目標を大きく分けると、@人手がかからず、Aこぼし水や無駄水が少なく、B豚が十分な飲水ができること。につきると思います。
 成績を上げるためにはBが最重要であると私は考えます。@、Aはコストに影響しますから、こちらを優先させる方がけっこういらっしゃいますが、成績アップでコストダウンができます。詳しくは本誌先々月号に大久保先生が執筆されていますのでご参照下さい。

《飲みやすさ》
 豚に十分に水を飲んでもらうには、豚が飲みやすくなければいけません。特に授乳中の母豚は、泌乳のためにたくさんの水を必要とします。図1は、母豚の食下量と離乳子豚体重の相関グラフです。

食下量が多くなれば当然飲水量も増大します。分娩後7日以降の母豚は1日に15〜20リットルの水を必要とします。特に夏場は母豚の体力消耗も激しいので、飲みやすくないと疲れて十分な飲水ができません。
 では豚にとって飲みやすさの条件は何かを見ていきます。まず第一は給水器の吐水量です。特に分娩舎では1分あたり2リットル以上を目安にして下さい。分娩舎に母豚を受け入れる前には必ず吐水量をチェックするようにしましょう。
 次は給水器の形状です。大きく分けて、噛んで水を出すタイプと鼻で押して水を出すタイプ

(図2)がありますが、豚の飲みやすさの点から見ると後者の方が勝っています。さらに食下量を増加させる奥の手は、ゴムホースで餌箱に直接水をためてやることです。まず給餌中に餌に直接かけて液餌にして食べやすくしてやります。また完食後には飼槽に溜めてやります。豚は喜んでガブガブ飲みます。人間でもストローでビールを飲んでもおいしくありませんね。やはりジョッキでグイッといかなくちゃ。
 ここで少し話はそれますが、給餌器の形状も関係が深いので触れておきます。ウェットフィーダーは食下量が上がるのは周知の事実ですが、分娩舎では食べ残しの腐敗が問題となります。腐敗を抑え豚が好きな時に好きなだけ飲んで食べられる餌箱、ドライ&ウェットタイプ

(図3)がお勧めです。分娩舎の母豚用給餌器をこのタイプに交換したことで、省力化(食べ残しを捨てる手間)と離乳子豚体重増加の両方の改善ができました。飼槽がステンレスなので水を溜めておいても錆びないので、前記した使い方に最適です。
 
 《水質》
 水源で分類すると、水道水、井戸水、沢水に分けられます。水道水は一番安全ですが、コストが高いので採用している農場は少ないでしょう。井戸水、沢水を利用している場合は必ず塩素滅菌を行いましょう。簡易型の残留塩素測定キットを用意して、毎日1回濃度をチェックして下さい。また、年に2〜3度は水質検査を行って下さい。水質検査は、保健所をはじめ、各種検査機関で扱っています。最低限必要な検査項目を図4に示します。

検査項目 基準値 単位
色度 5以下  
濁度 2以下  
臭気 異常でないこと  
異常でないこと  
水素イオン濃度(pH) 5.8〜8.6  
硝酸性窒素及び
亜硝酸性窒素
10以下 mg/L
塩素イオン 200以下 mg/L
過マンガン酸カリ消費量 10以下 mg/L
0.3以下 mg/L
一般細菌 100以下 個/mL
大腸菌 検出されない  
残留塩素 (※) 0.1〜1.0 mg/L


 私がコンサルしていたある農場で、病気を排除しても肥育日数が長く、成績が上がらないところがありました。井戸水の水質検査をしたところ、塩素イオンと鉄の含有が高すぎました。それで水道水に切り替えたところ、発育成績も改善しました。
 私が勤務していた農場でも、最初は水道水を使っていましたが、コストダウンのため井戸を掘って利用しようとしたところ、同じく塩素イオンと鉄の含有が高すぎて飲用には向きませんでした。そこで豚舎にもう1ライン給水配管して、井戸水は、豚舎洗浄とクーリングパドと屋根散水に使うことにしてコストダウンをはかりました。
 
 《器具の材質と味》
 残飯養豚をしているところもあるくらいだから、豚は何でも飲み食いするのかと思ってる方もいますが、豚は意外とグルメです。人間よりも味覚も嗅覚も優れています。ですからカップ式の給水器を使っている場合は、水の汚れや腐敗に注意が必要です。汚れた水でも豚は飲みますが、他にないから仕方なく飲んでいるだけだと言うことを人間が思いやらねばなりません。
 飼槽や給水器の材質が鉄や亜鉛メッキ環境ホルモンが溶出するプラスチックの場合は、その味や臭いが豚の食欲を落とします。子豚では歴然とした差が出ます(図5)。

給餌器材質の差による食下量
材質 食下量
錆のある鉄製 1.00kg
ステンレス 1.34kg
テスト条件
20日令離乳
離乳日から7日間の子豚1頭当り食下量

健康な母豚では差が出ませんが、体調を崩した時に差が出ます。洗浄のし易さや、耐久性も加味すれば、ステンレスがベストと言えます。
 
 《添加物》
 豚の健康増進や、病気の治療予防薬として様々な飲水添加剤が出回っています。同じ目的で飼料添加物もありますが、こまめに調整が簡単で効果がはっきりするのは飲水投与の方です(一部の豚のみに投与するのには不向き)。図6のような混合器を設置します。水圧のみで動作しますので、設置場所を選びません。
 では、何を投与するかと言いますと、抗菌剤等は問題が生じた時のみとし、普段の利用はお勧めできません。母豚や子豚の食欲増進や下痢の予防には、蟻酸やEM菌がお勧めです。蟻酸はそれ自体殺菌力が強く、飲料水の滅菌効果があります。豚の体内では、消化管内のpHを下げ、大腸菌をはじめとする下痢の原因菌の増殖を抑制する働きがあります。
 一方EMは、乳酸菌を主体とする有用細菌の集合体です。好気性菌も含まれますが大部分は嫌気性菌です。豚の消化管内では前述と同様の働きをします。更に体外に排出されてからも活動を続けて、悪臭を発生させる菌の活動を抑制しますので、ピットの悪臭低減や、堆肥発酵施設の悪臭低減にも効果があります。
 
 《まとめ》
 ここまでは主に分娩舎を中心に記述してきましたので、他のステージでのポイントを簡単にまとめてみます。
@ 交配妊娠ストール
ニップルタイプを使用している農場では、詰まって出ないところの早期発見が重要です。給餌後の見回りでニップルにすがりついて困惑している豚がいないかを注意深く見ることです。雨樋式飼槽で給餌後に水を張る方式では、溜める水量の調節です。次回の給餌時点で1〜2cm深の水が残っているくらいがベストです。その残った水の上に餌を落とすことでウェットフィーディングになります。
A 離乳舎
ニップル式飲水器は収容頭数5頭に付き1個は必要です。パイプフィーダーの場合は収容頭数10頭に付き給水口1個を目安にします。足りない場合は増設しましょう。また、ほ乳中の給水器と異なるタイプの場合は、子豚に給水口を教えてやることが必要です。受け入れ後3日間ぐらいは針金等でニップルの心棒を固定して、水を出しっぱなしにしておきます。
B 肥育舎
肥育舎の場合は、給水口の数よりも吐水量が重要です。1分当り1.5リットル以上を確保しましょう。また、給水器が壊れて交換した場合は、元栓を開けて正常に水が出ることを必ず確認しましょう。元栓を閉めたまま一晩放置すれば、1〜2日分の発育を損なってしまいます。
最後に、豚の身になって考えれば、おのずと問題点や解決方法が見つかるはずです。そして自分のおこしたアクションに対して必ず費用対効果を検証することも大切です。

 

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最終更新日 : 2022/01/23