今年こそ結果につなげる雄豚の夏場対策

近年自家採取AIに取組む農場が増えてきました。

その背景には自家採取設備や希釈液等の性能の向上があり、また、価格もリーズナブルになってきました。

コストの面でも母豚300頭規模以上であれば、精液購入よりも経済的メリットが高くなります。

また、オールAIにすれば今まで雄を使用していたスペースが不要になるので、その分母豚数を増やすなどの有効活用ができます。

 

 このように自家採取でオールAIを採用している農場では種雄豚の管理が経営収支にまで大きく影響してきます。

ここでは夏場交配の受胎率低下や産子数低下を未然に防ぐための管理ポイントをいくつかご紹介していきます。

 

【種雄居住スペースの温度管理】

 何を置いても雄豚の居住スペース及び精液採取ルームの暑さを抑える事が肝腎です。

暑ければ人間だってだるくなりますから、雄豚でも暑さでだるくなるのは当然ではないでしょうか。

暑ければ雄豚も擬牝台に乗りにくくなったり、早く降りてしまったり、
射精量が減ったりします。見た目の活力があまり変わらなくとも温度上昇と共に造成能力が落ちますので、
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回射精あたりの精子数の減少や活力ある精子の割合が減少するものです。

 通常、豚舎を1から設計する場合は雄豚の居住スペースが最も涼しくなるように設計できますが(図1)、

増改築した豚舎では雄豚房が暑くなっている農場を見かけることがあります(図2)。

そのような場合は、



図3のように種雄豚の居住スペースを断熱材壁で仕切って、そこだけをエアコンで冷房してやるのが最も効果的です。

改造費がかかるから、と言う理由でダクトファンや冷風扇(細霧しながら風を送る)だけを設置している農場もあります。

そのへんは、各農場の立地条件によっても異なりますので一概には言えませんが、
雄の居住スペースが28℃以上にならないように調整できる設備を目安にしましょう。

 

ここで、オールNSとオールAIで必要な雄頭数を比較してみましょう。

オールNSで1発情2回付けをする場合は種雄頭数:母豚数は、115120です。一方オールAIで1発情3回付けをし、

雄の採精は2週間で3回、1回に採れるドース数は1015とすると、種雄頭数:母豚数は、11001150になります。

 

つまり、オールNSの場合よりも雄の頭数は7分の1で済むわけですから、逆に雄1頭が調子悪くなれば、
NSの場合よりも7倍の影響が出る事になります。

そう考えればエアコンで空調してやっても、夏場の影響が出なければ十分に採算が取れるのではないでしょうか。

 

【雄豚のデータ管理】

 暑さ防止対策をする事で見かけの活力低下は防止できますが、精液の性状までチェックしなければ方手落ちになります。

採取した精液を希釈する時は顕微鏡やGPカウンターを使って精液の性状を確認した上で希釈倍率を決めるのが基本です。

しかし人手不足や、面倒だ、などの理由で画一的に10倍希釈したりしていませんか。

涼しい季節はこの方法で問題ない農場でも、夏場はきちんと精液の性状を確認して記録を付けて下さい。

 

これで、雄個体ごとの造精能力や精子活力の変化や、暑さに強いか弱いかの傾向もわかります。

そのデータを利用して、前年に弱かった雄豚には今年は優先的に涼しい場所に置くなり、
サプリメントを多く与えるなりの事前対策も出来るようになります。

また、年齢的に能力が落ちてきたこともわかりますので、廃豚の目安にもなります。

 

先にも書きましたように、自家採取AIでは種雄1頭の重みがNSの7倍ですから、
ちょっとした手抜きやミスが経営的に大きな穴を開けかねないのです。

自家採取を始めたばかりの農場では、担当者にこの辺の意識付けを、くどいくらいに実施して下さい。

 

また、繁殖データをパソコンソフトで管理しているのであれば、
雄豚ごとの受胎率や産子数、奇形発生率なども集計できます。

これを見ることで夏場の管理が適正であったかどうかの検証もしていけば、さらなる担当者のレベルアップにつながります。

ここで奇形発生率と書きましたが特にヘルニアの発生率は種雄からの遺伝率が高いと言われています。

いままでノーマークだった農場では是非この記録も活用してみて下さい。

 

【雄豚の栄養管理】

次に栄養管理で雄の夏ばてを防止する方法です。

種豚用飼料そのものの設計を夏場用とそれ以外用の2本立てに出来ればベストなのですが、
自家配工場がある企業以外では無理があります。

そこで利用するのがサプリメントの追加(トップドレス給与)です。

ビタミンやアミノ酸、ミネラルを強化するための製品が飼料メーカーや薬品メーカーから発売されています。

私がここで、どれがお勧めと言うわけにはいきませんので、各農場で取引のある業者さんと相談して決めてください。

NSに比べて自家採取AIは雄の頭数が少ないので1頭にかけられる金額は大きく出来ます。

ですから、価格よりも効能がしっかり検証されている製品を選ぶことをお勧めします。

 

【それでも精液活力が下がったら】

以上のような対策を取っていても精液の活力が下がってしまうことがあります。

そうすると精液の供給が不足しますから、1ドース当りの正常な精子数を減らしてしまったり、
1発情の交配回数を減らしたりするのはNGです。

これでは成績が落ちることが目に見えています。

雄を1頭余分に抱えておくことも保険になりますが、AI用の雄は価格が高いのが難点です。

 

 品種構成的に問題が無ければ不足分を購入することも1手段ですが、
急にオーダーしても供給してくれ取引先があるかどうかも問題です。

 

 そこで検討しても良い方法が、深部注入カテーテルを使って1交配当りに注入する精液量を減らす工夫です。

これにはある程度の練習と熟練が必要ですので、今までこの方法をとったことがない農場では、
涼しいシーズンに練習してみて、来年の夏に備える方が無難かもしれません。

いきなり今年の夏から初めて実施して成績を落としたのでは元も子もありませんから。

【最後に】

 この記事が皆さんのお手元に届く頃には猛暑がやってきているかもしれませんが、
出来ることをできる限り早く対策をして、成績アップに役立てて頂ければ幸いです。

 

 

 

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最終更新日 : 2022/01/23