餌付けのメリットデメリット〜餌付けの費用対効果を考える

【はじめに】

 多くの皆さんの農場では餌付けを実施されていると思います。しかし、その方法や開始タイミングは農場によってまちまちです。ここで改めて餌付けのメリットとデメリットを整理し、費用対効果までを考えたベストの方法を探ってみましょう。

 まず、餌付けの目的は大きく分けて3つあります。

@     子豚の離乳体重を大きくする

A     離乳後の人工乳の食い込みを良くし離乳後の発育停滞を防止する

B     母豚の損耗を少なくし発情再起を良くする

これを達成すればそれが餌付けのメリットと言えます。

一方、デメリットとしては人工乳の使用量が増え、飼料コストが上がる事と、作業が増え、手間がかかることが挙げられます。このデメリットを上回る効果を出さなくてはなりません。

【離乳体重と出荷日令】

離乳体重が大きければ出荷までの日数も短くなり、飼料コストも下がります。

図1は、ある農場で調査した離乳体重と30kg到達日令の相関グラフです。
右下がりに引いた直線は近似直線です。このデータでは離乳体重
6.0kgの時30kg到達日令は66日ですが、離乳体重が5.0kgでは78日かかることがわかります。
30kg時点での12日の差は、出荷時には
1521日に拡大します。この出荷遅延によるコスト差を計算したものが図2です。離乳体重5.0kgの群は、餌付け用飼料を体重6.0kgになるまで与えますので、1.0kg多く給与します。
また、肥育仕上げ用飼料は約
20kgぐらい多く必要になります。その結果、肉豚1頭当り飼料代(種豚飼料を除く)の差は975円となります。
 

図2: 離乳体重の差による飼料コスト差              
      離乳体重 6.0kg 離乳体重 5.0kg
  飼料単価 肉豚1頭当り給餌量   肉豚1頭当りコスト 肉豚1頭当り給餌量   肉豚1頭当りコスト
餌付け 215.0 円/kg 1.0 kg/頭 215 円/頭 2.0 kg/頭 430 円/頭
人工乳前期 150.0 円/kg 8.0 kg/頭 1,200 円/頭 8.0 kg/頭 1,200 円/頭
人工乳後期 50.0 円/kg 35.0 kg/頭 1,750 円/頭 35.0 kg/頭 1,750 円/頭
子豚用 40.0 円/kg 150.0 kg/頭 6,000 円/頭 150.0 kg/頭 6,000 円/頭
肥育用 38.0 円/kg 130.0 kg/頭 4,940 円/頭 150.0 kg/頭 5,700 円/頭
    小計 324.0 kg/頭 14,105 円/頭 345.0 kg/頭 15,080 円/頭
注:出荷体重118kg   肥育FCR 2.75   肥育FCR 2.92  

2に示した肉豚1頭当りの給与量は各農場によってバラツキがあります。
このような集計を取っていないのでしたら、是非集計してみることをお勧めします。銘柄ごとの年間購入数量を年間出荷頭数で割り算すると誤差が少なく計算できます。改善経過を見たい場合は当月から過去
12ヶ月または6ヶ月の飼料購入量と出荷頭数を用いて毎月集計していきます。この方法を12ヶ月(6ヶ月)移動平均と言います。

また、出荷日令の差は肥育豚舎の回転率の差となり、年間出荷可能頭数の差にもなります。例えば母豚200頭一貫経営で21日令離乳、出荷日令185日、年間4,400頭出荷している農場の場合、週平均84.6頭出荷しているわけです。この農場で出荷日令が164日なれば、肥育豚舎を増設することなく年間600頭多く出荷できるのです。もちろんその分を母豚増頭か繁殖成績アップで増産しなければいけませんが。

 離乳体重は母豚の泌乳能力や子豚の下痢の有無にも影響を受けますが、餌付けをうまく行うことによって増加させることが可能です。

【離乳後の発育停滞防止】

離乳は子豚にとって大きなストレスです。今まで飲んでいた母乳が飲めなくなり、人工乳を食べ、水を飲むだけで生きていかねばなりません。ですから餌付けによって人工乳を食べ慣れていることが重要になってきます。

4は離乳後の発育曲線の例です。上の線が餌付けがうまくいき、順調な発育例です。下側は離乳後に餌の食い込みが悪く体重が一度落ち込んでいる例です。母豚の泌乳量が多いほど、子豚は人工乳に興味を示さず、離乳後の体重落ち込みが発生しやすいものです。一度体重の落ち込みが発生すると、発育は3〜7日遅れてしまいます。それにより飼料コストがアップするのは前述の通りです。

【母豚の損耗防止】

子豚への餌付けは子豚のためだけではありません。繁殖能力の高い母豚は産子数が多く、泌乳能力も高く改良されています。
分娩後10日を過ぎた頃から、泌乳の元となる栄養は母豚の採食からだけでは足りず、体脂肪を削って乳を出しているのです。
ですから母豚の痩せすぎを防止するには、餌付けによって母乳への依存度を下げるとともに、痩せすぎる前に離乳してしまうことが重要です。母豚が痩せすぎると、発情再起日数が伸びたり、次産の産子数が少なくなったりします。
私がケンボロー母豚で調査した結果では分娩前母豚体重と離乳時母豚体重の比較で
10%〜15%の減少の時が発情再起、次産の産子数ともに最良の成績が出ました。

 例えば分娩前体重が250kgの母豚が平均体重1.4kgの子豚を12頭産んだとしますと、胎盤と羊水を含め約25kgの体重減少が分娩時に起こります。
これで10%の体重減少ですね。ですから離乳までにこの体重を維持するか、又は
12kg以内の減少にとどまれば良いことになります。特に初産母豚は体重も少なく、食下量も少ないので、餌付けと早めの離乳は重要です。
ここを失敗して、
2産目の発情が来なくなる現象がよく見られる農場があります。

 母豚の体重減少を防ぐ技術として分割離乳があります。これは1腹のうち、発育の速い大きな子豚を1718日令で2〜3頭離乳し、残りの子豚を21日令で離乳するやり方です。
2回離乳を実施している場合は、次回離乳予定の腹から大きい子豚を抜き出して一緒に離乳舎へ移動すると効率よく行えます。この場合でも餌付けがしっかり行われていないと分割離乳で早く離乳された子豚が、離乳後に発育停滞を起こしてしまいます。

【餌付けのタイミングと方法】

では具体的に生後何日令から餌付けをはじめれば良いでしょうか。平均離乳日令が20日(1921日令で離乳)を前提に話しを進めます。餌付け開始は5日目、7日目、10日目、14日目と諸説あります。
実際
10日目ぐらいまでは、人工乳をやっても子豚は遊んで散らかすだけで食べてくれません。だから14日目からと言う説も出てくるわけですが、私は10日目からをお勧めします。
図5は餌付けに最適な給餌器の一例です。餌付け開始時は杯
1杯くらいの餌付け用飼料を入れてやります。はじめは食べずに遊ぶだけですから、臭いをや味覚えさせるだけでいいのです。多くやっても餌代の無駄になるだけです。これを朝夕2回やります。その時に前回入れた餌が残っていたり、容器が汚れていたら清掃してから新しい餌を入れて下さい。この作業が面倒だからといって、汚れた餌や糞の上に餌を追加しても、何の効果も得られなくなる上に餌代の無駄を積み重ねるだけです。

 前回入れた餌をすっかり食べるようになったら給餌量を徐々に増やし、給餌回数も13回に増やします。

 初産母豚やボディコンデションスコア悪い母豚に対し餌付けをもっと早くから実施したい場合は、生後7日目からミルク液を作って与えます。ここでのポイントは、人工乳をぬるま湯で溶かし、うすく調整することです。牛乳ぐらいかそれより少し薄いくらいがちょうど良いのです。やはり量は少なく、飲み残しは捨てて新鮮なミルク液を入れてやることが大切です。

【餌付けの成果の検証】

最後に、餌付けの効果が出ているかどうかの検証方法を紹介します。

@     離乳時子豚体重を測定し記録する

A     離乳舎の給餌量を記録する

B     銘柄別給餌量と肉豚1頭当り飼料代を計算する(図2参照)

@     については、なぜうまくいったか、なぜ失敗したかを簡単に母豚カードへメモしておくとスキルアップに役立ちます。

A     については、図6の様な給餌カードを付けると離乳後の発育停滞があったかどうかがわかります。注意すべき点は、毎回の給餌量は次回の給餌時間までにちょうど食べきる量にすることです。少なすぎても多すぎてもいけません。さじ加減は経験を積んで覚えるしかありません。人工乳は風味が落ちやすいので、新鮮な餌を食べさせることが重要なので、このような方法がベストなのです。こうすることにより、1日の給餌量がすなわち1日の増体量と比例するので、発育停滞の有無がわかります。
また、離乳舎から肥育舎へ移動時に、1ペンの内で平均的な大きさの豚を2頭ぐらいずつ体重測定することでも検証できます。

B     については増体とコストのバランスを常時モニターすることで、最大コストである飼料代の低減に役立ちます。

是非、コストを含めた成績分析を実施し実効性のある飼育管理に役立てて下さい。

 

 

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最終更新日 : 2022/01/23