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豚舎の内部でのエネルギー削減
消費エネルギーの削減が地球環境保全に必要であることが叫ばれてから久しいですが、今年は特に原発事故時より供給電力が間に合わないという事態が目前に迫っています。
私からは消費エネルギーの削減そしてコスト削減を、光熱費の削減の観点から見ていきます。
【電気代の削減】
どの養豚場も換気扇や冷房関係で夏場に消費電力がピークを迎えます。
また、1日の中でも正午から午後2時頃がピークになります。
ここをいかに抑えるかがカギとなります。
現場でできることはまず第一に換気扇の羽根やシャッターパネルに付いたホコリを落とし、清掃することです。
ホコリの重さで排気効率が落ちるとともに消費電力は増えてしまいます。
負荷がが多くなると消費電力が多くなるのが交流モーターの特徴なのです。
交流電源は1秒間に50回(50ヘルツ)または60回(60ヘルツ)+と−が入れ替わっていますが、電圧の変化と電流の変化にタイミングのずれが生じてしまいます(図1)。
このことによりモーターの回転力に利用されない無駄な電流が流れてしまいます。これを無効電流と呼び、有効電流と無効電流の比率を力率と呼びます。高圧受電をされている農場では電力会社の検針票に力率が載っていますので見て下さい。
95%以上ならOKです。例えば力率が80%だったとすると消費電力2.2kwのモーターが2.2÷0.8=2.75kwの電力を消費していることになります。
ですから電気料金にも「力率割引」という項目があります。
当然、力率100%が最も割引率が良いのです。高負荷運転になりがちなものには、他に集糞スクレーパーや給餌ライン、コンポストなどが挙げられます。高負荷になりすぎるとサーマルリレーが働いてモーターは止まりますね。
サーマルが直ぐに飛び出すからと言って、サーマルの目盛りを最大にして運転してはいませんか。
これは結構有ると思いますよ。でもそれがエコには逆行して無駄な電力を多く使っていることになるのです。高負荷の原因を取り除くように努力して下さい。
また、力率の改善のために進相コンデンサというものが付いているのですが電気設備や換気扇を増設した場合にコンデンサの容量不足になって力率が悪化する場合もありますので、心当たりの方は電気工事店に相談して下さい。
また、高圧受電の基本料金(契約電力)はデマンド(最大需要電力)で決まります(図2)。

30分単位で農場全体の消費電力(Kwh)を量ったものです。
ですから1日のピーク電力を抑えることは電気の基本料金節約にもなります。
例えばスクレーパーや給餌ラインを換気扇のピーク時間帯には動かさない。糞尿処理が間欠運転できるならば、やはりピーク時間帯は休ませる等の工夫が必要です。
私はこのような工夫で基本料金を3万円×12ヶ月節約したことがあります。
電気の知識が無くて難しいという方にはデマンドコントローラーという機器もあります。
これはデマンドを監視して、設定以上に高くなりそうな時は指定した機器の電源を遮断する装置です。
必要な方は電気工事店に相談して下さい。
もう一つの工夫として夏場の暑い時期だけ動かす換気扇や冷房設備を自家発電機で動かすという手もあります。
自家発電は万が一の停電時に備えて是非とも設置をお勧めします。
今年の正月には岩手県で大雪のために2日間停電しましたし、3/11の東日本大震災時には、約1週間前後停電した農場が多数あります。この時はリースの発電機が一瞬にして在庫切れになりました。
自家発電設備のメンテナンスのためにも、時々使うことが有効です。
また、最近はLED照明器具の価格が下がってきました。
消費電力が少なく寿命が長いLED照明器具への交換も有効なエコ手段です。
最近はLED照明器具が安くなってきました。蛍光ランプを買い換える時はLED蛍光ランプにすると電気代が安くなります(図3)。
蛍光灯とLED蛍光ランプのコスト比較 |
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蛍光ランプ |
LED蛍光ランプ |
白熱電球 |
LED電球 |
ランプ価格 |
¥250 |
¥9,800 |
¥100 |
¥1,950 |
寿命 |
10,000時間 |
50,000時間 |
2,000時間 |
50,000時間 |
消費電力 |
40W |
20W |
60W |
8W |
1万時間当りコスト |
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1万時間当りコスト |
ランプ価格 |
¥250 |
¥1,960 |
¥500 |
¥390 |
電気代 |
¥9,600 |
¥4,800 |
¥14,400 |
¥1,920 |
コスト合計 |
¥9,850 |
¥6,760 |
¥14,900 |
¥2,310 |
差額(節約額) |
※2 |
¥3,090 |
※3 |
¥12,590 |
※1:電気代は1kwh単価24円で計算 |
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※2:高圧受電の場合は節約額が1,090円〜630円位になります |
※3:高圧受電の場合は節約額が7,400円〜6,100円位になります |
40W蛍光灯を100台使っている農場なら、年間約10万円の節約になります。
通常の蛍光ランプの寿命は1万時間です。1日10時間点灯させると1000日つまり2年9ヶ月です。 LED蛍光ランプは寿命が5倍なので13年8ヶ月になります。
蛍光器具自体が10年経っているならば、ランプだけの交換よりも器具を含めた交換が必要です。
その場合初期費用がかからないようにリース対応している照明器具メーカーもあります。
【ガス代の削減】
ガスの利用はガスブルーダーとガス温風ヒーターでの利用が主なものです。
ガス温風ヒーターは温度設定が自由に出来ますので、正しい設定をすればガスブルーダーよりもガス代の節約になります。
間違った設定とは豚の快適温度よりも高く設定してしまうことです。
良くありがちなのが付属のサーモスタットの目盛りを目標温度通りに合わせてしまうことです。
サーモ自体に誤差がある上、サーモを取り付ける場所によっても実際の室温との誤差は意外に大きくなるものです。
換気のコントローラーで連動運転している場合もそうです。
換気コントローラーのセンサー取付位置によっては誤差が大きくなります(図4)。

ですからデジタル温湿度計などをなるべく豚の寝床に近い位置に設置し、サーモやコントローラーの誤差を補正した設定をすべきです。
ガスブルーダーで暖房している部屋では夜間と日中で強弱の切り替えが必要になってきます。
ウインドレス豚舎で、日中にもガスブルーダーの火力を“強“のままにして換気扇もガンガン回っている農場を見かけることがあります。
これだとガス代と電気代の2重損をしています。担当者の意識付けが大切です。
また、天井が剥がれたり壁にネズミの穴があったりで隙間風だらけの豚舎で、ガンガン暖房をしているところもあります。
この場合は隙間風を防ぐことや、断熱材の増強が先決です。
ガスに関しては文章にするとごくごく当たり前のことなのですが、実際の現場ではそれが徹底されていないことが見受けられます。
【糞尿処理施設でのエネルギー及び環境負荷の低減】
現在はほとんどの農場で浄化設備が有ると思います。
その多くが活性汚泥方式です。この場合前処理でSSやBODをいかに落とすかがそれ以降の処理の負荷低減に大きく影響します。
多くの農場ではスクリーンや高分子凝集剤を用いた脱水処理を行っていると思います。
高分子凝集剤を用いた脱水ケーキ(絞りかす)は粘性が高くたい肥処理のネックとなります。
ここへリセルバーという植物性繊維加工物を添加することで、脱離液のSSを1桁少なくできます。
さらに脱水ケーキは水分70%いかになりそのままでも発酵するほど堆肥化が楽になります。
また、この脱水方式を3次処理(RO膜)の代わりに使うこともでき、1台2役をこなす設計にもできます。
このようにすれば曝気や膜処理の電気代も大きく節約できます。
そのコスト比較表が図5です。
トータルコストではあまり差がないですが、処理の安定性向上、メンテナンスの手間と費用の低減、消費電力の低減、環境負荷の低減に大きく貢献できます。
コスト比較 |
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(母豚300頭一貫農場;糞尿分離豚舎:1ヶ月当り) |
(母豚500頭一貫農場;糞尿混合豚舎:1日当り) |
項目 |
RO使用 |
リセルバー使用 |
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項目 |
乾燥機使用 |
リセルバー使用 |
硫酸・次亜ソー |
¥23,288 |
¥0 |
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脱水ケーキ量 |
8.2 t/日 |
4.1 t/日 |
リセルバー |
¥0 |
¥125,889 |
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発酵槽投入量 |
9 t/日 |
4.1 t/日 |
凝集剤 |
¥128,000 |
¥180,161 |
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リセルバー使用量 |
− |
45 kg |
電気代 |
¥63,200 |
¥8,100 |
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凝集剤使用量 |
20 kg |
16 kg |
労務費 |
¥40,000 |
¥15,000 |
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乾燥機燃料使用量 |
300 リットル |
60 リットル |
メンテ |
¥56,011 |
¥2,000 |
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水分調整剤使用量 |
3 ㎥ |
0 ㎥ |
合計 |
¥310,499 |
¥331,150 |
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攪拌混合手間 |
0.5 時間 |
0 時間 |
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リセルバーコスト |
− |
11,250 円 |
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凝集剤コスト |
13,000 円 |
9,984 円 |
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乾燥機燃料費 |
10,500 円 |
2,100 円 |
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水分調整剤コスト |
255 円 |
− |
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攪拌混合労務費 |
400 円 |
− |
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コスト合計 |
24,155 円 |
23,334 円 |
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