<地球温暖化の防止策として原子力発電所は効果的か?>

原子力発電所は温暖化対策に有効と言われています。

それは、原子力発電所の燃料であるは、火力発電所のように化石燃料(石油や石炭など)を燃やさないため、発電時に二酸化炭素(CO2)を発生しないからです。

しかし、原子力発電所を建設する時、ウラン燃料を作ったりする時、運んだりする時に化石燃料を使用すると、そこでCO2が発生します。このため、原子力発電であってもCO2を発生します。

これは原子力発電所だけの話ではなく、発電時にCO2を発生しない、太陽光発電、風力発電でも同様です。

温暖化対策に有効である為には、発電時のCO2の発生量多い・少ないだけではなく、発電所の建設、運転、廃棄から燃料の生産、運送など全てにかかるエネルギーで、発生するCO2が少なければなりません。

その視点で考えても、原子力発電所は温暖化対策に有効なのでしょうか??

<温暖化に有効? 無効?>

まず、有効であるとの主張は、日本政府を始め、原子力推進側の主張です。
実際、エネルギー源によって、どのくらいCO2の排出量があるのか、データとして示されている一例を上げます。

 

出典)電力中央研究所報告 発電システムのライフサイクル分析 研究報告:Y94009 

これは、(財)電力中央研究所が1995年に発表しましたデータで、発電時だけではなく、トータルでのCO2発生量です。

このデータからは化石燃料による火力発電(石炭、石油、LNG)の、CO2排出量は圧倒的に多く、風力や太陽光発電でもCO2の排出があります。
原子力発電の場合、ウラン燃料の製造方法によって、CO2の排出量が異なってきますが、それでも、様々な発電方法の中でも、CO2排出量は少ない方です。このため「原子力は温暖化対策に有効」と言われるのです。

次に、「原子力は温暖化対策に有効ではない」との主張です。
同様に、どの発電システムがどのくらいのCO2を排出するかのデータを、2000年4月にWWF(世界野生保護基金)が発表したものです。これでは、原子力発電が水力、風力発電よりもCO2排出量が多くなっています。

出典)Mycle Schneider“Climate Xhange and Nuclear Power”(日本語訳:「気候変動と原子力発電」WWF温暖化防止キャンペーン) 

先のデータと違うのは何故でしょう??


まず、原子力発電所を考える時の前提をどのように考えるのか?

大きな違いは、ウラン燃料の製造過程の“ガス拡散法ウラン濃縮”と“遠心分離法ウラン濃縮”の違いです。

電力中央研究所のデータにも、原子力では燃料の使い方・製造法で3つのケースが考えられています。

ガス拡散法は大量の電気(エネルギー)を消費するため、燃料を作る段階で多くのCO2を排出します。そのため、水力や風力よりもCO2排出量が多くなっています。
一方、遠心分離法はガス拡散に比べ効率が良く、その分CO2の排出量は少なく、結果、水力よりも少なくなっています。

WWFの報告書の原子力については、燃料製造法が書かれていません。ドイツの原子力発電所を考えていることが想定できますが、ではドイツの原子力発電所の燃料の製造法法は何でしょうか?

現在、世界で動いているウラン濃縮工場は下記の表になります。

濃縮方法

所在地

設備能力

アメリカ

ガス拡散法

ポーツマス、バディーカ

計 19,200tSWU/year

ユーロディフ
(仏を中心とした五カ国の国際合弁企業)

ガス拡散法

トリカスタン(フランス)

10,800tSWU/year

ウレンコ
(英独蘭の合弁企業)

遠心分離法

カーベンハースト(イギリス) 

アルメロ(オランダ)

グロナウ(ドイツ)

カーベンハースト/1,150tSWU/year
アルメロ/1,550tSWU/year
グロナウ/750tSWU/year  

総計 3,450tSWU/year(4,000tSWU/yearの規模に拡大予定あり)

日本

遠心分離法

青森県六ヶ所村

1050tSWU/year(最終的には1,500tSWU/yearの計画)

*中国・蘭州にガス拡散法にウラン濃縮工場、ロシアに遠心分離法による工場があるが、規模など詳細は不明。

*SWU(Separative Work Unit)=天然ウランを濃縮する際に必要となる仕事量を表わす単位で、一般にウラン濃縮度を高めるほど分離作業量は大きくなる。100万kWの原子力発電所1年間運転するのには、約120tSWUが必要となる。

欧州・日本の原子力発電所設備容量

単位:万kW (1998.12.31.現在)

必要なウラン濃縮設備容量(推定)

フランス

5979.3

7175.16

日本

4508.2

5409.84

ドイツ

2220.9

2665.08

イギリス

1417.3

1700.76

スウェーデン

1043.7

1252.44

スペイン

763.8

916.56

ベルギー

599.5

719.4

スイス

327.9

393.48

フィンランド

276.0

331.2

オランダ

48.1

57.72

この条件から考えると、ドイツの原子力発電所は、遠心分離法の濃縮とガス拡散の濃縮の燃料を両方使っていると考えられますが、やや遠心分離法ウラン濃縮の方が多いと思われます。なので、WWFの報告書は、遠心分離法ウラン濃縮の原子力と考えても良いでしょう。

しかし、この報告書を全部読むと、単に、発電源のCO2排出量の多い少ないだけを議論していません。つまり風力より原子力のCO2排出量が多いので、原子力に反対しているからではないからです。
もし、そうであるのならば、CO2排出量の少ない「濃縮方法の原子力」があれば、それには賛成しなければ矛盾です。

WWFの考えとしては、単純にCO2の排出量だけの問題ではなく、エネルギーシステムを考えた上で、原子力システムが温暖化防止には役立たないと主張しているのです。

原子力発電所の運転特性の問題です。
原子力発電所は一度動かすと、一定の出力でできるだけ長い時間、定常運転するようにされています。つまり電気の需要の変動によって、止めたり動かしたりすることが難しいのです。

一般に、夜間より日中の方が電気使用量が多いため、それにあわせて発電しなければならないのですが、その変動に原子力発電は対応しにくいので、どうしても変動に対応しやすい火力発電所が必要となります。ですから、原子力と火力の発電所がセットで必要となり、原子力のCO2排出量だけでなく、火力の分も考える必要があるわけです。

そして我々が使うエネルギーの形態です。

実際、私たちが使っているエネルギーは、電気だけでなく、熱も使っています。WWFの考えでは、電気:1に対して、熱:2となっています。

この条件で、エネルギーを供給することを考えると、「原子力発電所+石油(熱利用)」「LNGコンバインド・サイクル・コージェネレーション」のシステムを考えた場合、CO2排出量は同等と推測しています。

このような点で、原子力発電は実質的に温暖化防止に効果無しと、結論付けています。

結果的に、電力中央研究所とWWFの数値の違いはあまり気にすることはないことになります。

*WWFはこれ以外にも、経済的、政治的などの問題を考えても、原子力発電は温暖化防止に効果なと判断しています。

<<WWFの資料について>>

報告書「気候変動と原子力発電」
 http://wwfjapan.aaapc.co.jp/Katudo/Kiko/genshiryoku000406.pdf

記者発表資料 
 http://wwfjapan.aaapc.co.jp/Press/P0004006.htm


<データの見方>

しかし、同じ原子力なのに、CO2排出量がこれほど違うのは何故でしょうか??

残念ながら、ここに出されている算出根拠の細かいデータは見ていませんし、仮にデータを見ても専門家ではない私には分かるとは限りません。
ただ、データを算出するための前提条件、元になるデータが異なるので、これだけの違いが出てくると思います。

普通、人は「科学技術は中立・公正であり、誰が行っても正しい結果か出るもの」と思われていますが、なかなかそうとは言えません。データの解釈によっては、同じ様な現象でも、異なった見方になります。
また、研究者の立場によっても、出てくるデータが異なってきます。

必ずしも、研究者が所属している機関によって、出てくるデータが異なるとは限らないのですが、原子力に有利なデータは推進側から、不利なデータは反対側から出てくる事が多く、推進側から原子力に不利なデータ、反対側から原子力に有利なデータがでることはまれです。

けれどもこれは、原子力に限らず、例えば、内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)や遺伝子組み替え食品の安全性を巡る議論でも見られることです。推進する側の企業、政府の研究者は安全を主張し、反対側の団体、機関の研究者は危険を訴えます。

当り前といえば当り前なのですが、科学的にきちんとしているのならば、推進側でも反対側でも、自分達に不利なデータが出てきてもおかしくないのですが...。

単純にデータを信じるだけではなく、その研究者が本当に中立の立場で研究しているのか? どのような研究機関に所属しているのか? といったことも、データを見る上では欠かせないのが現実なのです。とっても残念なことですが。


WWFの報告書に対しての、日本の電力業界の反論

WWF報告書 「気候変動と原子力発電」について、電気事業連合会が2000年4月24日に反論しています。

詳細は http://www.fepc.or.jp/wwf_rep.html

ここでポイントになるのは次の点と思われます。 

「電力と熱供給を合わせて考えると、原子力のCO2排出量は天然ガスコジェネレーション並」についてと報告書で主張されていることに対しての反論ですが、

1)報告書では、「原子力発電」と天然ガスよりCO2排出量が多い「石油による熱供給」の組み合わせたシステムを、「天然ガスコージェネレーション」と比較しているのは不公平。
仮に、
「原子力発電」と「天然ガスによる熱供給」のシステムで比較すれば、
“CO2排出量は、天然ガスコージェネレーションに比べて3割程度少なくなる”と推定しています。

2)また、実際に、ロシア、スロバキア、スイス、カナダなどでは、原子力のみで、電力と熱を共に供給するシステムが存在していて、この際の1kWhあたりのCO2排出量は、報告書の中で、「原子力+石油システム」と比べてCO2排出量が7分の1以下とされた「バイオガスコージェネレーション」と同等またはそれ以下になると推定。

つまり、この報告書は、原子力に不利な比較をしているので、誤解を与えると主張しています。

1)の反論は確かに、電力サイドの主張に一理あります。比較をするのならば同等の条件というのが原則ですから。

2)の反論も正しいように見えますが、ただ、日本では原子力発電による熱利用は、実質的にありません。海外で事例があるのは事実でしょうが、日本でこれを実施するの不可能に近いでしょう。
と言うのは、熱利用を考えると、熱の需要がある地域の近くに、原子力発電所を作らなければなりませんが、需要が多い地域とは、都市部。しかし、都市部に原子力発電所を作ることは、今の状況では、まず不可能。
なので、できない物を比較しても、現実的にはあまり意味がないと思います。

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