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sherko@アフガニスタン('93)


第3章:神と剣の夜(Fri, 24 Jul 1998 21:31:23 +0900)

   アジマールの食卓には友人たちも集まってきた。
中には少々の英語を話すものもいる。
私は英語とダリー語の片言を混ぜて彼らと話した。
彼らの母語はパシュトゥー語だが、
公用語のダリー語も皆理解できる。
ダリー語はペルシア語の古いスタイルを残した言語で
アフガニスタンを中心とした
中央アジアの諸民族の共通語だ。
   アジマールの友人アティクッラーは実は
今のジャララバードに大きな不満を感じている。
ぷくぷくした小柄な体を揺すって訴える。
ジャララバードが伝統的な「男女隔離」を復活させたのは、
ムジャヒディンがソヴィェト・ロシアを追放した後だ。
「学校には女の子の友達もいたんだぜ。
今では頭から例のやつを被って誰だか分からない。
それっきり、話もしていない」
   アティクの従兄弟ハリールが引き継ぐ。
「ナジブラの頃は大学でパシュトゥンもタジクも
一緒に勉強していた。ところがムジャヒディンは
それをできなくしてしまった。
民族別の学校を作ったからだ。
他民族の友達もいたのに」
ムジャヒディンに対しては批判的だ。
「ダウド政権は良かった。ナジブラも良かった。
共産政権だったが、パルチャミ・ハルキを改革し
カブールにはモスクも作った。
大学では勉強もできた。
それを皆、愚かで無教養なムジャヒディンが
ぶち壊したんだ」
   2人はソ連を追い出したのに
未だ内輪もめを続けているムジャヒディンに対して
大いに不満だ。
「今じゃ彼らはジハードをしていない。
あいつらは変わってしまった」
   私が問う。
「アジマールもムジャヘッドだろう」
「アジマールは良いムジャヘッドだよ。
立派なモスレムだ」
ムジャヘッドとなる人は
出身地の町や村でも特に敬虔なモスレムで、
かつ知力・体力に秀でていなければならない。
多くの若者は地域にとって労働力として重要な存在なのに、
なお戦士として出て行こうという人は
その地域のジハードを代表して行う
責任ある立場でもあるから。
アジマールは席を外していたが、
2人は口々に友人を褒めた。


   アジマールに尋ねたいことがあった。
「なぜ、ムジャヒディン同士が闘う?
どの党もイスラム政党だろう。
モスレム同士は決して闘ってはならないと、
コーランに書いてある」
敬虔なモスレムたるアジマールが
自分の戦いをどう見ているのかを知りたかった。
実はこの質問を私は旅先で会った
モスレムというモスレムに投げ掛けていた。
アジマールの答えはあっさりしていた。
「この国で有利なポジションが欲しいだけだ」
「ではアッラーのために闘っているとは
言えないではないか?」
「そうだ。アフガニスタンのイスラム政党は
イスラムの道を歩んではいない」
「君がヘズビ・イスラミのムジャヘッドとして
闘っているのはなぜか?」
「ヘズビ・イスラミは共産主義者に妥協しない。
無神論の共産主義者と闘うために
俺はヘズビに入った」
   アジマールは大統領派のジャミアテ・イスラミが嫌いだ。
対ソ連戦の英雄アハマド=シャー=マスードが
共産主義者に妥協的だからという。
確かにカブールで見たムジャヒディンの中には
元のナジブラ政権軍らしい制服を身に着けたものも
多く見掛けた。
しかし、旧勢力を体制に取り込むことは
新体制の運営に不可欠だったに違いない。
その点連立政権を担当しているとはいえ、
事実上の批判勢力ヘズビ・イスラミは
遠慮なく政府と旧共産勢力との繋がりの深さを
非難できる。
   アジマールはソヴィェト・ロシアが
いかに残酷だったかを話した。
「奴らは人の顔をしていない。ケダモノだ」
アジマールはシャルワールの胸をはだけた。
「見ろ!」
右の胸にケロイドがある。弾痕だ。
「ロシアが俺にくれたプレゼントはこれだけだ」
   ソ連軍がカブールに侵攻したとき、
アジマールはまだ5歳だった。その小さい子供を
ロシア兵は撃った。
アジマールの両親は負傷した息子を連れて
ペシャワルへ逃げた。アジマールはペシャワル郊外の
難民キャンプで育ち、
そこで英語とコーラン、戦闘の技術を身につけた。
ジャララバードへ戻って
町の防衛を担当するようになったのは
カブール陥落の後だったので、実戦経験はない。
「考えてくれ。奴らが来たとき
俺達は何にも持っていなかった。
クワだの、鋤だのを持って立ち上がったんだ。
だが今では戦車も戦闘機もある。
全て奴らから奪ったものだ。
どうしてそんなことができたと思う?
信仰は力になるんだ。アッラーが手を貸したんだ」
   ハリールの思想とアジマールの思想は
ほぼ180度違う。でも二人は仲良しなのだった。


   アジマールの家にはアティクやハリール以外にも
友人たちが集まっていて
私たちはそれぞれのお気に入りの歌を
歌って聞かせたり、
ハリールが持ってきたヌンチャクで
空手の真似事をしたりして騒いでいたが、
やがて一人、また一人とその場で眠ってしまった。
アジマールも静かになったと思うと、
いつの間にか寝ていた。

寒気が部屋の中まで忍び込んで
昼間の暑さが嘘みたいだったが、
皆毛布もろくにかけずに
眠り込んでいた。
   ハリールひとりがいつまでも眠くならない様子だった。
同じくなかなか眠らない私と話し込んでいた。
彼はカブール大学の医学生で
今は休暇で帰ってきている。
口髭を生やし、憂いを帯びた切れ長の目をした彼は
ガンダーラの彫刻に似ていた。
強い口調で私に訴える。
「アフガニスタンは弱い。核戦力が必要だ。
パキスタンもイランも核を持っている。
インドもイスラエルも持っている。
もちろん中国もロシアも持っている。
アフガニスタンは今までずっと
大国の侵略にさらされてきた。
どうやって闘うんだ」
私は反論した。
「核保有国同士が核を使えば共倒れになる。
君たちは核を持つロシアを追い出したじゃないか」
それから祖父が被爆したときの話をした。
   ハリールはしばらく考えてから言った。
「本で読んだんだが、CIAのプロジェクトって
ものがあるんだ。奴らのプランはこうさ。
パキスタンとアフガニスタンの間にもう一つ国を作る」
彼は図を描いた。
「いいかい。こっちがパキスタン。
ここがアフガニスタン。ここに2つの国にまたがって、
パシュトゥンとバルーチーが住んでいる。
この2民族をまとめて国家にしようというのさ。
何のためか?知れたことだ。
アフガニスタンはイスラム革命を進めている。
イランも前からそうだ。
アメリカは防波堤が欲しいんだ。
親アメリカのパシュトゥン・バルーチー国家を作って、
イスラム勢力に対抗させたいのさ」
   ハリールがいきなり客間を飛び出した。
しばらくして、暗い戸外から手に何か持って戻ってきた。
小さな額縁にモノクロの写真が収まっている。
顔立ちの整った幼い少年が写っていた。
「11歳の弟だ」
ハリールの家の中庭にソ連軍のロケット弾が
飛び込んできた。
それを受けて、この子はシャヒードになった。
私は何も言えなくなった。


アジマールの胸の弾のあと






右より2人目がハリールその隣ヌンチャクを持つアティクッラー
左より2人目は元戦車兵






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