The summer in the bottle
219 :The summer in the bottle :04/07/08 04:33

射し込む光りの眩しさに目を覚ました。
朝とはいえ真夏の太陽は強烈だ。
「―――」
頭の上で聞こえる寝苦しそうな声が、薄手のタオルケットを蹴飛ばした。

220 :The summer in the bottle :04/07/08 04:34
「起きろ、れいな」
「―――」
「お前なぁ、おれのベッドで勝手に寝るな」
「―――ん」
何度か寝返りをうったれいなが、うっすらと目を開ける。

目を覚ましたれいなの表情は、なぜか不安そうで、戸惑うようなものに見えた。
「なんだよ?」
わずかに顔を歪めたれいなは、「ううん」と小さく首を振る。

「……それよりおまえ、変な事しとらんやろうね?」
ころっと表情を変えて、れいなが疑わしそうな視線をおれに向けた。
「は? 誰が、誰に?」
「おまえが、れいなに」
れいなは真剣な顔で、体のあちこちをペタペタと触りながら言う。
「多分」
これだけころころと変わる表情を、いちいち気にしてもいられない。

221 :The summer in the bottle :04/07/08 04:35
じっとしていても汗が吹き出るような蒸し暑さ。
窓の外から、うるさいくらいの蝉の声が聞こえてくる。

「今日花火大会やろ?」
むくっと体を起こしたれいなが口を開いた。
カレンダーに目をやると、今日の日付の上に大きく『花火大会』の文字。
ご丁寧にカラフルな花火のイラストまで付いている。
「あぁ、今日だっけ」
「かぁー、これだからアホは嫌ったい。おまえはニワトリ以下やね」
れいなが呆れ顔でため息をつく。
「夕方また来るけん、準備しとって」
それだけ言うと、れいなは立ちあがって部屋を出て行った。
おれはその背中をただ見送った。
れいながやりたい放題なのは、なにも今に始まったことじゃない。

222 :The summer in the bottle :04/07/08 04:35

れいなとは家が近所で、小さな頃から一緒に過ごしてきた。
運動神経がいいとは言えないれいなだったけれど、いつも男子に混じって遊ぶ気の強い子供だった。
年はおれより三つ下。今年中学三年生になったはずだ。
そのまま育ってしまったれいなは、今でもたまにおれの部屋に無断で上がり込んだりしている。

昨日も、帰りが遅くなったおれが部屋に入ると、
れいながおれのベッドを我が物顔で占拠していて。
おかげで体の節々が痛い。

223 :The summer in the bottle :04/07/08 04:36
一旦家に戻ったれいなは、赤い浴衣を着て戻ってきた。
「どう? れーなさんの浴衣」
れいなはにひひと笑ってその場でくるっと廻ってみせる。
赤い浴衣には所々に白い花があしらってあって、腰には黄色の帯が巻かれている。
髪もアップにしていて、廻った拍子に白いうなじが見えた。
いつもより女っぽい幼馴染に、少しどきっとした自分に驚いたけど、そんな事は言えない。
「うーん、まぁまぁ」
「はぁ? 毎回毎回、節穴男やね……」
そう毒づきながらも浴衣が余程うれしいのだろう、顔は笑顔のままだった。
「それにしても……おまえは風情って言葉知っとぉと?」
いつも通りジーンズにシャツのおれの格好を一瞥してれいなが言う。
「いいだろ別に。もう行くぞ」
「言われなくても行く!」
れいなはくるっと背を向けると、無理矢理大きな歩幅で先を歩きだした。

224 :The summer in the bottle :04/07/08 04:37

まだ小さかった頃、初めてれいなが浴衣を着せてもらった時のことを思い出す。
慣れない浴衣と下駄に苦戦しながら、とてとて歩いていたこと。
すぐに転んで泣いたこと。

今はもうそんなこともない。
先を行くれいなの向こうで、夏の長い日がようやく沈もうとしている。

266 :The summer in the bottle :04/07/08 21:15

会場の河原が近くなるにつれて、道行く人の数が増えていく。
楽しげに歩く浴衣や甚平姿の人々に、なんとなくおれの気分も昂揚してきた。
暗くなりかけた道端には出店の明かりも目立ち始めて、れいなの目が輝く。
「お好み焼き! はこないだ食べたし……じゃがバタ? うーん……」
「なぁ、れいな。お面とかあるけど」
「いらん!」
れいながにらむような視線を投げてよこした。
冗談ですよ……れいなさん……。

「あ、絵里! さゆー!」
前を行く人波の中に友達を見つけたらしいれいなが、大声をあげて走り出した。

267 :The summer in the bottle :04/07/08 21:15

「れーなぁ!」
「あー赤い浴衣かわいい!」
人波の中から現われたれいなの友達、たしか絵里ちゃんとさゆみちゃん。
三人はその場に立ち止まるとおしゃべりを始めた。

紺色の落ち着いた浴衣を着た絵里ちゃん、ピンクの浴衣が可愛いさゆみちゃん。
……二人とも、れいなよりずいぶん大人っぽく見えるなぁ。
特に絵里ちゃん……おっとりした雰囲気、上気した頬が夕暮れに映えて綺麗だ。
れいなと一つしか違わないはずなのに、なんなんだこの差は……。

見蕩れていると、二人もおれに気付いたらしくぺこっとお辞儀をしてきた。
おれもあわてて会釈を返す。
「れいなはデート?」
「いや、あれは付録。気にせんでよか」
絵里ちゃんの問いに、れいなはこちらを振り返りもせずに答えた。
おいおい、付録って―――

268 :The summer in the bottle :04/07/08 21:16

「じゃあさ、花火一緒に見ない?」
「でも、やっぱりピンクが―――」
「あー……でもあいつのお守りせんと。二人で見てきなよ」
おれのほうが年上だった気がするけど、今更何を言っても無駄なんだろうな。
「あはは、わかった。行こ、さゆ」
「やっぱりあたしが一番だと思―――」
「わかったわかった、さゆが一番かわいかよ。じゃあまたね、絵里、さゆ」
「えへへ。ありがと、れいな」
「またねー」
可愛く手を振って絵里ちゃんとさゆみちゃんが行ってしまう。
浴衣の後姿がなんとも色っぽい。
ああ、おれの絵里ちゃん。一緒に見るって言えよ、れいな。

269 :The summer in the bottle :04/07/08 21:17

「何見とぉと?」
いつの間に戻ってきたのか、れいなに冷ややかな目つきで見上げられていた。
「いや、絵里ちゃんかわいいなーって」
「……れいなよりも絵里のほうがよかと?」
顔を伏せて、しおらしくうなだれるれいな。
「いや、れいなのほうがいい……です」
「じゃーOK。問題なし」
れいなはあっさり顔を上げ、満足そうに頷いた。

その時、ドーンと大きな音がして夜空がぱっと明るくなった。
れいなが空を見上げる。
「あー、見て見て!」
頬を花火色に染めたれいなが、口の端をきゅっと上げて笑う。
勝気な性格と、薄い唇からのぞく無邪気な八重歯が絶妙にアンバランスで。
また少しどきっとした。

270 :The summer in the bottle :04/07/08 21:18

出店で食べ物と飲み物を買い込んで、混み合っていない場所を探して歩く。
頭上ではひっきりなしに花火が輝き、普段は暗い河川敷を明るく照らしている。
なんだかんだで時間をくってしまい、プログラムは半分以上進んでいるみたいだ。
「あ、あそこがよか」
れいなは、ゆうに四人は腰掛けられそうな大石を見つけ
そこにペタンと座り込むと、早速たこ焼きに手をつける。
「うーん、これなられいなが作ったほうが美味かねぇ」
おれにたこ焼きの皿を突き出し、空いたほうの手で焼きそばをつつく。
「あ、こっちはまぁまぁ」
「お前何しに来たんだよ? 花火も見ろ」
「ふぁいふぁい」
焼きとうもろこしをくわえたれいなが、気のない返事を投げてよこす。
おれはため息をついて対岸を眺める。
仕掛花火が鮮やかな文字を作っていた。

れいなが食べ物に飽きて花火を見始めるまで、しばらく時間がかかるだろうな。

275 :The summer in the bottle :04/07/08 21:20

一際大きな音と共に、あるだけ全部を打ち上げたかのような花火が夜空を飾る。
花火大会も大詰めだ。
「はぁ……何回見てもすごかー」
感嘆の声をあげたれいなの瞳から、突然涙がこぼれた。
「れいな?」
「あれ、なんで……?」
溢れた涙は止まることなく、れいなの頬を濡らしていく。
「あはは……止まらん」
れいなはちょっと困った顔で無理矢理笑ってみせた。
「どうしたんだよ?」
花火の光の中で、れいなの顔からゆっくりと笑みが消えて行った。


「……もう、どこも行かんで」
いつもの強気な態度とは裏腹の涙が、花火に照らされてキラキラと色を変える。
言葉の意味は全くわからないけど、その姿が綺麗だと、素直に思った。

最後の花火がゆっくりと空に溶けて、遠くの方から拍手と歓声が聞こえてくると、
行き場を探すように動いたれいなの指先が、わずかにおれの手に触れた。

276 :The summer in the bottle :04/07/08 21:21

「夢……うん、夢見たと。おまえが死んじゃう夢」
れいなが口を開いた。
「夢って、お前」
「……なんかリアルやったけん」
「勝手に殺すなよ」
そう言いながら、今朝起きた時のれいなを思い出した。
あの時の不安そうな表情は、その夢のせいか。
れいなの涙を前に「ただの夢だろ」と笑う気にはならなかった。
「それでね、思ったと」
「うん」
「夢の中やけどね、おまえが死んじゃってわかった」
れいなが顔を伏せた。
「れーなは、おまえのこと」

微かに吹いた風がれいなの髪の匂いを運んでくる。
夏の夜と花火の煙、それにれいなの匂いが混ざり合って、吸い込んだ胸が何故か痛い。

477 :The summer in the bottle :04/07/09 21:56

何度もためらったけど、右腕でれいなの肩を引き寄せた。
華奢な体は小さく震えていて、さっきよりずっとはっきりとれいなの匂いがした。
「ん」
れいながびっくりしたように小さな声をあげる。
黒目勝ちなれいなの綺麗な瞳からは、まだ涙が流れていた。
「なんでもないけん、平気」
無理に笑ったれいなが、おれのシャツの肩の辺りでぐしぐしと涙と鼻水を拭う。
「おい……」
「にひひ」
れいなはおれを見上げると、悪戯っぽく笑った。

478 :The summer in the bottle :04/07/09 21:57

「で、れいなはおまえのこと、なに?」
「……しらん」
れいなは真顔になって、ぷいっと横を向いた。
腫らしたまぶたのおすまし顔が少し可笑しかったけど、
そんなれいながあまりにも可愛かったから。
れいなの唇に、唇を重ねた。
ふれあうだけのぎこちないキスだったけど、れいなが息を飲んだのがわかった。
少し、涙の味がした。

479 :The summer in the bottle :04/07/09 21:58

「スケベ」
唇を離すと、れいなが口を尖らせて言う。
強気な視線はもういつものれいなだった。
「これ以上ここにいたら犯されてしまうけん、帰ると」
「誰に、誰が?」
「お・ま・え・に、れ・い・な・が」
れいなは立ちあがって浴衣のお尻をぱんぱんとはたいた。


来た道を逆に辿るだけの帰り道。
違うのはおれの手とれいなの手がしっかりと握られていることくらいで、
人通りの少なくなった通りを無言で歩く。
それでも直に感じるれいなの体温が心地よくて、遠回りでもしたい気分だった。

480 :The summer in the bottle :04/07/09 21:58

目の前の交差点を、赤い浴衣を着た子供が駆けて行く。
慣れない下駄が走りにくいのだろう、とてとてとした走り方は昔のれいなにそっくりだ。
「れいなみたいだな」
「あぁ、かわいいとこがそっくりやね」
「……うん」
「なんか文句あると? あっ」
交差点の中ほどまで走った女の子がつまづいて転んだ。
痛そうにヒザをさすっている。
「あ、やっぱ似てる」
そう笑って振り返ると、れいなの顔に笑顔は無かった。
それどころか、青褪めた顔を痛そうに歪めている。
その視線の先を目で追う。

481 :The summer in the bottle :04/07/09 21:59

大型トラックが交差点へ向かってくるのが見えた。
いやにスピードが速い。
止まる気配を全くみせないトラックは、子供との距離をぐんぐん縮めていく。

れいながおれの手をぎゅっと握った。
「……行かんで」
おれは一度その手を握り返す。
巡り来る思考を一瞬でなだめると、ゆっくりとその手を離した。

別にかっこつけたわけじゃないし、体が勝手に動いた、なんて言う気もない。
ただなんとなく、その子がれいなに似ていたから。

後でれいなの声が聞こえた、気がする。

715 :The summer in the bottle :04/07/11 01:30

射し込む光りの眩しさに目を覚ました。
朝とはいえ真夏の太陽は強烈で、おれは一度開けた目を細める。
「―――」
頭の上で聞こえた寝苦しそうな声が、薄手のタオルケットを蹴飛ばした。

716 :The summer in the bottle :04/07/11 01:30

「起きろ、れいな」
「―――」
「お前なぁ、おれのベッドで勝手に寝るな」
「―――ん」
何度か寝返りをうったれいなが、うっすらと目を開けた。
れいなはおれを認めると、はっと息を飲む。
顔色が良くないように見えた。
「……どうかしたのか?」
れいなの指先がゆっくりと動いて、おれの手に触れる。
普段のれいなからは考えられないその行動。
「なんだよ、お前……」
少し上ずったおれの声に、わずかに顔を歪めたれいなが小さく首を振る。
目元が光ったように見えたけど、気のせいかもしれない。

717 :The summer in the bottle :04/07/11 01:31

「……今日花火大会やろ?」
むくっと体を起こしたれいなが口を開いた。
カレンダーに目をやると、今日の日付の上に大きく『花火大会』の文字。
ご丁寧にカラフルな花火のイラストまで付いている。
「あぁ、今日だっけ」
おれはそう言ってれいなを振りかえった。

いつもなら辛辣な言葉の一つでも返ってきそうな状況なのに、
れいなは下を向いたまま、何も答えない。

黙り込んだれいなの代りに、蝉の声がやたらうるさく部屋に響いた。

718 :The summer in the bottle :04/07/11 01:32

「もう……つかれたと」
搾り出すような声で、れいなはそう言った。
「は?」
おれの声が何故か滑稽に部屋に響く。
伏せられたままのれいなの顔からこぼれた雫が、静かにベッドを濡らしていく。
「おい……どうしたんだよ?」
れいなは何も言わず、ただ小さく肩を揺らしていた。

れいなの泣き声はだんだん大きくなっていく。
その泣き方は親とはぐれた子供みたいで、
それがいつも強がってばかりいるれいなとは思えなかった。

おいおい、どうしたんだよれいな?
全然意味わかんないぞ……お前。
勝手に部屋に上がり込むのはまぁいいとして、
起きていきなり泣き出すなんてお前のキャラじゃないし。

おれは涙を流すれいなを、ただ見ていた。

719 :The summer in the bottle :04/07/11 01:33

どれくらい時間が経ったか、れいなの泣き声は少しずつ小さくなっていく。
やっと落ちついたみたいだ。
「大丈夫か?」
れいながかすかに頷いた。


そして、れいなは話しだした。


にわかには信じられないような話。いや、絶対信じられないような話。
何度も繰り返す一日の話を。

109 :The summer in the bottle :04/07/12 22:17

「で、毎回花火大会の後におれが死んで、気が付くとこの部屋にいるのか」
「うん」
「……」
ありえない話だ、と思う。そんなの嘘に決まってる。
あれだけ泣いて何を言うかと思ったら……。
「あのなぁ―――」
「やっぱり、信じれん?」
れいなの瞳が、不安そうに揺れていた。
信じられるわけないだろ、とは言えなかった。
でも、本当にそんな事がありえるんだろうか。
「……わかっとぉ。れーなやって突然こんな話されても信じんもん」
れいなが自嘲気味に笑う。
「……アホみたいな話っちゃけど、ホントの話やけん」
小さくため息をついた。

110 :The summer in the bottle :04/07/12 22:18

れいなには小さい頃からよく騙されてきた。
今考えるとありえないような嘘に何度もひっかかった。
「マジ信じたと? ありえねー。やっぱおまえはアホやねぇ」と、
馬鹿にしたように笑うれいなの顔をはっきりと思い出せる。

でも、さっきの涙は信じてもいいような気がした。
もし嘘でも、また笑われるだけだし。そんなのたいしたことじゃない。

「……信じるよ。なんとなくだけど」
おれの声にれいなが少し驚いた顔をした。
「―――」
「なんだよ?」
れいなはおれの肩に頭をこつんとぶつけて「ありがと」とつぶやいた。

信じると言った理由は、ここにもある。
普段のれいなは絶対にこんなことはしない。
何かあったことだけは確かみたいだ。

111 :The summer in the bottle :04/07/12 22:19

「おれが死ぬことと、おまえの時間が繰り返すことって関係あんのかな」
「よくわかんないけど、あると思う」
「じゃあ、おれが死ななきゃいいのかなぁ。
 ……つーかなんでおれアホみたいに何回も何回も死ぬんだよ」
「アホやけん」
れいながいーっと舌を出してみせる。
ずいぶん落ちついたみたいで良かったけど、むかつく。

れいなの話によると、
毎回花火大会で感動して(なんで毎日見て感動できるんだ?)
その後色々あって(色々の部分は教えてもらえなかった)
その帰りにトラックにひかれたり暴漢に襲われたり、
とりあえずあの手この手を駆使しておれが死ぬらしい。
なんだよそりゃ……。

112 :The summer in the bottle :04/07/12 22:19

「死に方は色々なんだな」
「そうやなかったら、いくらなんでも助けられるたい」
れいなが口を尖らせる。
「……なぁ、花火大会行かなきゃいいんじゃないのか?」
「え?」
宙に視線をさまよわせたれいな。
「あ」
「あ、じゃねぇよ。少しは考えろ」
「うー……」
一瞬口篭もったれいなは小さな声で言った。
「でもでも、花火楽しかったけん。絵里もさゆもいて、おまえと一緒で、綺麗で」
れいなはおれを真っ直ぐに見つめて言う。
「おまえは知らんかもしれんけど……楽しいことがいっぱいあったと」
「……」
「何回でも行きたかったと」
痛みに耐えるような顔で笑うれいなが、なんだか急に大人っぽく見えて、せつなかった。

113 :The summer in the bottle :04/07/12 22:20

「でも今回は同じ過ちは繰り返さんよ! 花火が駄目なら海やね、海」
「はぁ? 家でじっとしてたほうが―――」
「こんな天気いいのに家にいたら脳みそ腐る!」
いつも通りのテンションに戻ったれいなは、やっぱりれいなだった。
「あ! せっかくだし友達誘ってもよか?」
言いながら、すでにれいなは携帯を取り出していた。

やっぱり騙されたのかもしれない。
まったく、なんつー女だ。こいつは……。

263 :The summer in the bottle :04/07/14 01:43

おれ達が住む街から海までは、電車で一時間半ほどかかる。
乗り換えの必要はないから、移動は結構楽なんだけど。
「れーな、そのチョコあたしの!」
「もう全部食ったったい」
れいなにお菓子をとられて不機嫌そうなれいなの友達。
「海……焼けたら困るの」
つばの広い白い帽子を目深にかぶったもう一人。
結局三人に増えた同行者がやたらうるさい。
電車の中で始終はしゃぐれいなは、もう今朝のれいなとは別人だった。

264 :The summer in the bottle :04/07/14 01:43

「どう? れーなさんの水着」
海の家で着替えを済ませたれいなが、その場でくるっと廻ってみせる。
赤いビキニ。肌の白いれいなによく似合うんだけど……。
細いな、お前。胸も。
「うーん、まぁまぁ」
「はぁ? ……少しは気の利いたこと言えんと?」
そう毒づきながらも海が余程うれしいのだろう、顔には笑顔がのぞいている。
確かにすごくかわいいんだけど、おれにはそれ以上に気になることがある。
さっきかられいなの肩越しに見える二人。

青の水着が爽やかな絵里ちゃん、ピンクのビキニが可愛いさゆみちゃん。
……二人とも、れいなよりずいぶん大人っぽく見えるなぁ。
特にさゆみちゃん……ビキニから伸びる白くて長い手足が、真夏の太陽を浴びて輝いている。
れいなと一つしか違わないはずなのに、なんなんだこの差は……。

「やっぱれいなの赤もかわいいねー」
「えへへ。そう?」
絵里ちゃんに誉められたれいながうれしそうにポーズをとる。
「でも、やっぱりあたしが一番だと思―――」
「わかったわかった、さゆが一番かわいかよ」
「えへへ。知ってるけどありがと、れいな」
可愛く口に手をあてて笑ったさゆみちゃん。
それにしても発育良すぎないか……?
ああ、おれのさゆみちゃん。最高だなぁ、海って。

265 :The summer in the bottle :04/07/14 01:44

「さゆばっか見んな」
いつの間にそこにいたのか、下かられいなに冷ややかな目つきで見上げられていた。
「え? あ、え? 何言ってんだよ」
「……毎回毎回、おまえはホントにエロい」
呆れた表情で、れいながため息をつく。
「毎回ってなんだよ……」
「変態」
れいなはおれを睨みつけると、おれの薄い胸板にパンチした。
おれが何したっていうんだよ……。
「早く泳ご! あ、浮き輪いらんと? 浮き輪!」
はしゃいで走り出すれいなを、頂点まで昇った太陽がまぶしく照らしている。

「あー、見て見て! でっかいイルカー」
海の家の店先に置かれている大きなイルカの浮き輪に駆け寄るれいな。
「高いよ? イルカ」
さゆみちゃんが値札を指差す。
「やーだー、れーなはイルカー!」
れいなはイルカにまたがって、駄々をこねるように腕をぶんぶん振りまわす。

「あーあ……あいつ言いだしたら聞かないからなぁ」
ため息をついて、絵里ちゃんにつぶやく。
「一途、なんですよね、れーなは」
「一途?」
「はい、色んな意味で」
絵里ちゃんはにっこりと笑ってそう言った。
一途、か。頑固なだけの気もしないではないけど……れいなに似合う言葉な気もする。
視線を海の家に戻すと、イルカにまたがって腕を振るれいなの後に、
さゆみちゃんもちょこんと座って腕をぶんぶん回していた。

266 :The summer in the bottle :04/07/14 01:44

「なぁ、なんかの映画みたいにサメが出てきてパクッとかないよな?」
「さぁ?」
イルカに乗って上機嫌でぷかぷか浮かぶれいな。
……お前本当に心配してるのか?
「……よくわかんないけど命かかってんだろ? おれ」
「まぁ大丈夫やなかと? 今まで明るいうちに死んだことないし」
おいおい、それでいいの?
「それに、変なの出てきたらこのイルカさんが戦ってくれるったい」
れいながイルカの頭をぱんぱんと叩く。
このイルカさんは噛まれたら一発だよ、れいな……。
「それよりほら、押せ」
「押してください」
「押して欲しいの」
れいなが叫び、絵里ちゃんがにっこり笑い、さゆみちゃんが首を傾げて微笑む。
「はぁ?」
「あのブイまで、れっつごー!」
三人が腕を上げた。
仕方なく、はしゃぐ三人の乗ったイルカを押して泳ぎだす。
無理矢理三人乗ったイルカはすこぶる安定性が悪い。
懸命にバランスを取りながら、目指すブイはまだまだ遠い。

その後も、イルカ係、ビーチボールを拾いにいく係、砂浜に穴掘る係と、
すごく楽しい役目を仰せつかったおれはずっと動きっぱなしだった。
でも。
正直なところ、これだけかわいい子達に囲まれて過ごすのはかなり楽しい。
いつのまにか、今朝のれいなの話はおれの頭から抜けていた。

空に浮かぶ真夏の太陽が、徐々に傾いていった。

267 :The summer in the bottle :04/07/14 01:45

日もすっかり暮れた防波堤の上に、はしゃぐ姿が三つ。
まぁ他人から見たら四つだろうけど。
「うわー、それ綺麗! 交換しよ」
「やだ、れーなのそれ、なんか地味だもん」

日が暮れると、れいなが突然花火をすると言い出した。
海沿いのコンビニで花火を買い込んで、この防波堤の上へ。

「れーな、あたしのと交換するの」
「わーい、ありがとさゆ……って、それ煙出てるだけやん!」
さゆみちゃんの足元では、煙玉がもくもくと煙をあげていた。
なんでそんなの買ったの……?

楽しそうに笑う三人を見ていて思う。
なんか変な一日だったけど、楽しかった。

その刹那、強い海風が吹きつけて、花火用のロウソクがぱたっと倒れた。
一瞬で辺りは暗くなる。
「あっ」
さゆみちゃんの声が聞こえて、振りかえる。
月と、街から届くうっすらとした明かりの中、さゆみちゃんは駆け出していた。
伸ばしたその手の先には、風に舞った白い帽子。
「さゆっ!」
れいなの声が響いた時、すでにさゆみちゃんは視界の外に消えていた。

566 :The summer in the bottle :04/07/16 04:11

「さゆみちゃん!」
あわてて防波堤の縁に駆け寄り下を覗き込む。
2メートルほど下の暗い海面に、さゆみちゃんの姿があった。

おれはそのまま飛び込んだ。
もちろん海水は冷たくないが、一瞬視界が真っ黒に染まる。
すぐそばで、さゆみちゃんがたてる水音がばしゃばしゃと聞こえた。
「大丈夫だよ! 落ちついて!」
音のするほうへ向かって叫ぶ。あがる水飛沫と、ばたばた動く白い手が見えた。
さゆみちゃんの元へ泳ぎより、その腰に手を回す。
よほど怖かったんだろう、それでも彼女は冷静さを取り戻さない。
さゆみちゃんは大きく手を動かし、なおも暴れる。
視界のほとんどない夜の海は、おれにだって怖い。
「大丈夫だから! 暴れないで!」
懸命に水を蹴りながら、さゆみちゃんを支える。
すぐ近くに、白い帽子が浮かんでいた。手を伸ばしてそれを掴む。
あとは陸に上がるだけだけど……防波堤は高すぎて登れない。
浜まで泳ぐしかないか……。
浜はそう遠くないし、ある程度泳げば足もつくだろう。
さゆみちゃんを抱えたまま、泳ぎだした。
片手と両足で懸命に水をかく。
でも、服を着たままの体は思うように進んでくれない。ましてや人を抱えたままだ。
ほとんど何も見えない状態で、ただ岸のぼんやりとした明かりだけを目指した。

567 :The summer in the bottle :04/07/16 04:12

どれくらい泳いだろうか。
さゆみちゃんも大分冷静になったみたいで、隣でおとなしくしている。
「っ!」
必死に動かし続けた右足に違和感を感じた。―――つった?
自由の利かない体が、徐々に沈んでいく。
おいおい、ちょっと待ってくれよ。
水を飲んだのか、さゆみちゃんの体が再び暴れだして……。
おれの体は完全に水中に沈んだ。
明かりは見えない。体は思うように動かない。右足が痛い。
海面はどっちだ? どっちだよ!
混乱する頭には上も下もわからない。
今朝のれいなの話が突然頭に浮かんだ。

……おれが死ぬ……?

その思いから逃れるために、ただ闇雲に動かす体。

怖い怖い怖い―――

かいてもかいても光りは見えない。
必死に動かした体が、空気を欲している。苦しい。
おれは今、浮いてるところなのか? それとも沈み続けてるのか?
それすらもわからない。
体の動きも、思考も、暗くどこまでも続く水に搦め捕られてしまう。
上はどっちなんだよ!

このまま死ぬ? そうださゆみちゃんは? ……れいなは……また泣くんだろうか?

迫り来る恐怖、それから逃げるように、おれの意識は遠のいていった。

568 :The summer in the bottle :04/07/16 04:12


何かにどこかを、ぐいっと掴まれた。それだけは覚えている。
顔から水の気配が消えた。空気?
吸い込もうと大きく開けた口から、逆に思い切り水を吐いた。
「もう大丈夫だからな!」
耳元で、誰かの声が聞こえた。

569 :The summer in the bottle :04/07/16 04:13

おれは頭から毛布を被せられていた。
隣には同じような格好をしたさゆみちゃん。後から絵里ちゃんが背中をさすっている。
良かった……。無事だったんだ。
「ごめん……ごめんね……」
目の前には、そう繰り返しつぶやくれいながいる。
「れーなが海行こうなんて言ったから……おまえも、さゆも……」
れいなはそう言うと、再び「ごめん」を繰り返した。
「れーなが謝る事なんてないの。それより、心配かけて、ごめんね?」
さゆみちゃんがれいなの頭を優しく撫でながら言った。

「落ちついたか?」
声のほうを振りかえると、おっちゃんが数人立っていた。
よく日に焼けた、海の男って感じの人達だ。

ここは海の監視所みたいなところで、おれ達を助けてくれたのは地元の漁師の人達らしい。
さゆみちゃんも、後先考えず飛び込んだおれも、ずいぶんと説教された。
レスキューや救急車が来る騒ぎにまでなったらしい。
申し訳ない……。
おれ達は散々搾られた後、解放された。

570 :The summer in the bottle :04/07/16 04:13

帰り際、おっちゃんの一人がおれに近寄ってきて耳打ちした。
「あのお嬢ちゃんに感謝しろよ」
おっちゃんが指差したのは、れいな。
「え?」
「普通ああいう時はパニックになったりするんだけどな。
 あのお嬢ちゃんは偉かった。
 もう一人に119番頼んでな、自分はおれ達のとこへ走ってきて。
 ものすごい形相で、助けてくれって叫んでな。びっくりしたぞ」
その人の声は、暗い海の中で聞いた声だった。
おれはただ頭を下げる。
おっちゃんにもれいなにも、感謝してもしたりない。


「ありがとう、なの」
さゆみちゃんがおれにぺこっと頭を下げた。
「え? あ、いやなんか……ごめん。なんも出来なかった」
おれは慌てて顔の前で手を振る。
何も出来なかったし、かえって状況が悪化した気さえする。
「何持っとぉと?」
れいなの声で、自分が何かを握っていることに気づいた。
しわくちゃになったさゆみちゃんの帽子だった。
「あ……」
さゆみちゃんはそれを手にとると、もう一度「ありがとうなの」と微笑んだ。

571 :The summer in the bottle :04/07/16 04:13


帰り道、れいなはずっと緊張した面持ちだった。
小さな音にもびくびくして、握ったおれの手を離そうとしない。
あんなことがあったから、おれにももうれいなを疑う気持ちはない。

家に帰り着くまで、生きた心地がしなかった。

607 :The summer in the bottle :04/07/16 23:38


「ただいまー。やっと着いたー」
「ただいまぁ」
おれもれいなももうぐったりだった。
「お帰り。あら、れいなちゃんも一緒?」
「こんばんはぁ」
リビングから顔をだしたおれの母親に、れいなが余所行きの笑顔で答える。
誰だおまえは……。
「ご飯は? れいなちゃんも食べるでしょう?」
「いや、飯はいい―――」
「はい、れーなもいただきます」
どこに食欲隠してたんだよ……。
「ゆっくりしてってね。おうちには連絡しておくから」
「はいっ」
満面の笑みで答えるれいな。そのキャラ怖い。

608 :The summer in the bottle :04/07/16 23:39

食事を終えておれの部屋に戻り、疲れ果てた体をベッドに投げ出す。
「うっ!」
れいなが上に乗ってきた。
「重い、れいな」
「重いわけなか! アホ」
れいなが更に体重をかけてきた。
……でもこのままでも眠れそうだ。
それくらい、体も精神も疲れきっていた。
「もうちょっとやね。今日が終わるの」
「うん」
とても長い一日だった。
壁の時計は、間もなく11時30分をさそうとしている。
「このまま、ちゃんと明日になると?」
「なるよ、あと30分で」
「……そうやね」

それからおれ達は、何をするでもなく、ただそこにいた。
会話らしい会話をすることもなく、かといって眠ってしまうわけでもない。
ただじっと、時間が過ぎるのを待っていた。
おれもれいなも、12時になるのだけをただひたすら待っていた。

12時になればもう大丈夫なんて確信があるわけじゃなかったけど。
でもそう思っていなければやりきれない。
早く区切りが欲しかった。もう大丈夫だと言ってあげたかった。

時間は伸縮するって誰かが言っていたけど、本当にその通りだと思う。
焦れるような長い時間が、ゆっくりと過ぎていく。

609 :The summer in the bottle :04/07/16 23:40

「あと1分……」
れいなが言う。おれが頷く。二人息を潜めて、時計を見つめる。
やけにゆっくりと動く秒針がもどかしい。
しっかりとつないだ掌には、じっとりと汗がにじんでいた。

30秒―――

ドクドクと鳴り止まない心臓の音は、おれのものか、れいなのものか。

10秒―――

呼吸が、止まる。

5.4.3.2.1.―――0

三本の針が重なって、秒針だけが再び動き出した。
「終わった……と?」
れいなが不安そうな瞳をおれに向けた。
「……多分」
念の為、携帯を取り出しボタンを押す。

『午前0時1分30秒をお報せします』

おれは携帯を耳に当てたまま、れいなを見た。
れいなはその大きな瞳いっぱいに涙を湛えていた。

610 :The summer in the bottle :04/07/16 23:41

そこにいるのは、今朝までただの幼馴染だと思っていた女の子。
でも今は、何よりも大切だと思える人。
おれはただ、涙を浮かべるれいなが愛しくて。
ずっとそばにいてくれたれいなの体温が愛しくて。

「もうよかと? もう全部……終わったと?」
れいなの声が震えていた。
「うん、もう大丈夫だ」

今はただ、れいなの全てが愛しかった。
だから。
れいなを抱きしめる。感じる愛情と、感謝を全部腕に込めて。
「……痛かよ」
れいなが泣き笑いでつぶやく。でも力を抜く気になんかなれない。
「ありがとう、れいな」
誰にも嘘だなんて言わせない。
「好きだ」
れいなは濡れた瞳でおれをしばらく見つめて、やがて目を細めた。
「……ん。れーなも」
れいなはそこで一度言葉を区切って。
猫が甘えるような仕草で、おれの肩におでこをぐいぐいと押しつけた。
「好いとぉよ」
そのまま、つぶやくように言った。

612 :The summer in the bottle :04/07/16 23:42

左手でれいなのあごをゆっくりと持ち上げる。
れいなは目を閉じていた。
ゆっくりと近づいて、れいなに口づける。
「んっ」
壊れてしまいそうなほど小さな吐息をもらしたれいなは、
なぜか悲しそうに顔を歪めた。
「嫌だったか?」
「ううん、そんなんやなか。でも昨日の、昨日のキス・・・・・・
 おまえが覚えてないのかなって思ったら、ちょっと悲しくなったと」
れいなが困ったような顔で言う。

なんでれいなにばかりこんなことが起こるんだろう。
おれの記憶も一緒に、残っていればいいのに。何も知らない自分が歯痒い。

「ごめんな……」
「でも、おまえといられるこんな日が続くなら、それはそれでいいかもしれんね」
「ばか。おれは死んでないよ。もう大丈夫だから、そんなこと言うなよ」
「……うん」
れいなが安心したように笑う。
れいなの繰り返した一日を思う。胸が痛かった。
それ以上言う言葉を探せないまま、もう一度唇を重ねた。

719 :The summer in the bottle :04/07/18 01:35

れいなの薄い唇を、舌で押し開ける。
舌先でれいなの舌を探り当て、おれの舌をゆっくりと絡めた。
小さな歯の向こう側で、れいなの舌が戸惑うように動いた。
「は……ぁ」
れいなの口からもれた吐息が、鼻先を生暖かく掠める。

赤いタンクトップの上かられいなの胸に触れる。
その小さな膨らみにわずかな罪悪感を感じたけど、もう理性では抑えられない。
タンクトップの背中に左手を滑り込ませ、ホックをはずした。
「あ……」
直に触れる、れいなの小さな膨らみ。
「んっ」
木目の細かいれいなの肌が、うっすらと汗ばんでいた。
その膨らみの頂点に触れると、れいなの体がぴくっと動いた。
「ぁ……」
れいなから切なげな声がもれる。
れいなの乳首を指の腹でこねた。
「んん……んっ」
指の動きに合わせて、れいなの唇が小さく揺れた。

720 :The summer in the bottle :04/07/18 01:36

れいなのタンクトップをたくし上げる。
白い肌と小さな胸、つんと上を向いた薄いピンクの乳首が顕になった。
ピンクの乳首を唇ではさみ、舌先で刺激する。
「はぁっ……やっ……」
れいなの体は、少し海の味がした。

れいなの太股に手を這わせる。
白いホットパンツから伸びた太股は、予想以上に細い。
内股を撫でるように通りすぎ、足の付け根に触れる。
勢いにまかせてホットパンツのボタンに手をかけた。
「だ……め」
なんのひっかかりもなくするっと脱げたホットパンツを放り、下着に手をあてた。
てらてらとした生地の上を、指先が滑る。
下着の上からでもわかる。れいなのそこはじっとりと濡れていた。
「はぁ……んっ」
下着すらも剥ぎ取り、れいなの溝を指先でなぞる。
くちゅくちゅと湿った音が、おれの耳に届いた。
きっとれいなにも聞こえているはずだ。
「恥ず……か、し……」
いやいやをするように首を振ったれいなが、びくっと体を反らせた。

721 :The summer in the bottle :04/07/18 01:38

「ん、電気……明るか……」
懇願するような視線で、れいなが言った。
「暗くしたらつまんない」
「……へんたい……」
れいなが眉間にしわをよせた。

おれはれいなの裸の体を見下ろす。
ほっそりとした白い体。胸の小さな膨らみと、綺麗なピンク色。
女らしいとは言えない体かもしれないけど、これ以上綺麗なものはきっとない。
恥ずかしそうに身をよじったれいなの胸元で、
唯一身につけたままのシルバーのネックレスがカチャっと音を立てた。

722 :The summer in the bottle :04/07/18 01:38

おれはれいなに自分をあてがった。
れいなはしっかりと目を閉じた。
ゆっくりと動いて、れいなに入っていく。
かき分けるような感触と、何かを押し開くような感触にぎりぎりと絞めつけられる。
「い、た……」
れいなの顔が痛みに耐えて歪む。
そんな顔さえ愛しかった。
れいなの指が、不器用におれの肩を掴んだ。
「ぁ……っん!」
深く入れば入るほど、肩を掴むれいなの手に力がこもって。
食い込んだ爪が、すぐそれとわかるほどの跡を残した。

一番奥まで届いたところで、おれはれいなの小さな体をぎゅっと抱きしめた。
「れいなのこと、全部全部好きだから」
涙目のれいなが、幸せそうに微笑んだ。
「……うん」
おれはれいなの体温を、体中で感じた。

723 :The summer in the bottle :04/07/18 01:39

「れーなのこと、忘れんとってね」
仰向けに寝転んだおれの胸に頭を乗せて、れいなが言った。
「ん?」
「もしも……もしも次に来る朝が、また花火大会の朝でも」
言いながら、れいながゆっくり顔を上げて、そっと視線をおれと合わせた。
「今のれーなのこと、忘れんとって」
れいなの瞳にはみるみる涙が溜まっていく。
「今日のこと……初めてのこと……」
くりくりしたれいなの瞳が瞬きをした拍子に、
大きな涙の粒が頬を伝っておれの胸に落ちた。
すごく熱くて、痛かった。
「大丈夫だよ。おれは忘れないし、明日はきっと、明日だから」
もっとちゃんとした事が言えればいいのに。
胸が痛くて、出来なかった。
れいなの頬をつねるようにして涙を拭った。
「ブサイクになってるぞ」
「うるさか」
無理矢理作ったおれの笑顔に、れいなもちょっと笑ってくれた。

724 :The summer in the bottle :04/07/18 01:39

「あっ、これ……」
れいながおれの肩を指差す。そこにはれいながつけたの爪の跡。
「ごめん、痛か?」
「平気だよそんなの。れいなの初めてをもらった記念ってことで」
おれはそう言ったけど、れいなは少し申し訳なさそうな顔をして。
まるでミルクを飲む子猫みたいに、
その傷を舌先でぺろぺろと舐めた後、顔をあげて笑った。
「好いとぉよ、にいちゃん」
れいながその呼び名を使ったのは何年ぶりだろうか。
そんなことを考えながら、誘い込まれるように眠った。

784 :The summer in the bottle :04/07/18 23:24

射し込む光りの眩しさに目を覚ました。
朝とはいえ真夏の太陽は強烈で、おれは一度開けた目を細める。
「―――」
隣で聞こえた寝苦しそうな声が、薄手のタオルケットを蹴飛ばした。

785 :The summer in the bottle :04/07/18 23:25

「起きろ、れいな」
「―――」
「お前なぁ……」
「―――ん」
何度か寝返りをうったれいなが、うっすらと目を開けた。
れいなはおれを認めると、はっと息を飲む。
「なんだよ……」
れいなの指先がゆっくりと動いて、おれの肩に触れた。
確かめるように、指先が小さく揺れた。

「―――花火大会……」
れいなが小さな声でそう言った。
カレンダーには『花火大会』の文字。
そして、カラフルな花火のイラスト。
「あぁ、花火大会」
おれはそう言いながら振りかえる。
れいながぐっと身を堅くしたのがわかった。

786 :The summer in the bottle :04/07/18 23:25

「昨日行けなかったからな。来年、一緒に行こう」
おれの声に、れいなの表情がまるで氷が溶けるように柔らかくなっていく。
気の抜けたような、本当に安心したような顔に。
「……うん、そうやね」
おれの肩に、その小さな頭をこつんとぶつけた。


「今日はどうすると?」
れいなが窓を開け放って振りかえる。
真夏の太陽を浴びたれいなが、大きく伸びをする。
吹き込んだ風が白いカーテンをふわりと揺らし、れいなの黒い髪をするっと撫でた。
その明るい表情に、昨日のような翳りはない。
「もう一回寝る」
「おまえ……おまえが起こしたとやろ!」
れいなが眉間にしわをよせる。

「もういい、れーなが決める! プール? ……は海とあんま変わらん!
 山? でも―――――――――――――――――――――――――――」

きっと普通の一日が始まるんだろう。
でも、れいながそこにいる一日。
それだけのことなのに、とてつもなく幸せな一日になりそうな気がした。

787 :The summer in the bottle :04/07/18 23:26

「聞いとぉ?」
れいなが鋭い視線を送ってきた。
でもそれはほんの一瞬で、ほわっと表情を緩めるれいな。
「でも、たまにはここでぼーっとしとるのもいいかもしれんね」
太陽をいっぱいに浴びたれいなが、にひひと笑う。
そしてれいなは。
悪戯っぽい笑顔で、愛らしい仕草で、少しだけ甘えた声で。
「ね? にいちゃん」
その名を呼んだ。

788 :The summer in the bottle :04/07/18 23:27

The bottle drifted to the beach.


从*´ ヮ`)<モドル