タカラモノ
- 250 :タカラモノ :04/04/17 02:45
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今日で二人の夏休みも終わる。
明日の昼の新幹線で二人は実家に帰らなければならない。
つまり、今日が三人の、この夏最後の夜。
あいの提案で最後の夕食は二人の手作り料理。
「愛情一杯ったい。」
「れいなは料理作れないじゃない。」
「そんなことなかよ!…ぐちゃぐちゃタマゴなら作れるたい。」
「もう…。教えてあげるから、ね?一緒に作るやよ。」
- 251 :タカラモノ :04/04/17 02:46
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「ここで塩、コショウをして…っと。」
料理上手なあい。
「塩〜コショウ〜♪」
「きゃあああ!れいなっ!それは砂糖〜!」
横で手伝ってるのか邪魔してるのかわからないれいな。
缶ビールを片手に出来上がるのを待つおれ。
きっと『幸せ』ってのはこんなことを言うんだろうな。うん。
- 252 :タカラモノ :04/04/17 02:48
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うん、うまい。
「ほんと?うれしい!」
「これはれいなが作ったたい!」
…う、うん。あ、た、食べられるよ。見た目はともかく、ね。
愛情いっぱいの夕食を食べつつ、おれたちはいろんなことを話した。
おれが記憶を無くしたのも今ではいい思い出だ。
二人ともヴェェェェン!なんて泣いたりしてたよな。
「言わないでよ〜!」
「そうやよ!あの時は必死やったんやし!」
アハハ…
「あ、そうそうみんな小さい頃のこと覚えてると?あいがおにいちゃんのお嫁さんになるって言ったったい?」
「れ、れいなっ!や、やめてよ!」
覚えてるよ。そのあと「れいなも〜!」ってケンカになったんだよな。
「あれ?そうだったっけ?」
アハハハ…
- 254 :タカラモノ :04/04/17 02:54
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「れいなも飲みたい。」
あれ?れいなお前ビール飲めるの?
「お父さんの晩酌にいつも付き合ってるったい!」
よーし、今日は特別に飲んじゃおうか!
「え、だめやよ!」
まあまあ。さ、一杯どうだ?お?いい飲みっぷりだね。よし、もう一杯…
気が付くとれいなはすっかり酔っ払ってクッションを抱えて眠り込んでいる。
しかたないなぁ。そんなカッコじゃ風邪ひいちまうぞ。
ほら。起きろって…。
ダメか。
じゃあれいな部屋まで連れてくから寝かせてあげてくれる?
「うん。わかったやよ。」
さあお姫様抱っこでお部屋まで参りましょうかね、姫様。よいせっと…
「あっ…」
ん?どうした?
「ううん、なんでもない…」
- 255 :タカラモノ :04/04/17 02:57
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…れいなは寝ちゃった?
「うん。いびきかいてるよ。ん?なに飲んでるの?」
コーヒー。おれもちょっと飲みすぎちゃったからね。酔い覚まし。
飲む?って飲めないんだっけ。
「…飲む。一口ちょーだい。」
「…ニガイ。」
あはは。じゃあカフェオレにしてあげようか?
ミルクと濃い目のコーヒーを半々にして…っと。砂糖無しで飲んでみな?
「…あ、おいしい。苦くないね。」
だろ?
そういえばさっきどうしたの?
「ん?」
ほら、れいなを抱っこしたとき。何か言おうとしてなかった?
「…ウラヤマシカッタノ…」
え?何?
「ううん。なんでもないやよ。」
- 256 :タカラモノ :04/04/17 03:00
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「…おにいちゃん。」
ん?
「あたしたち明日帰らなきゃいけないんだよね。」
そうだね。
「寂しい?」
…ちょっとな。
「そっか。」
…ぽろっ。
あいの大きな瞳から涙がこぼれる。
…あい。
「…帰りたくないやよ…。」
「…好き…」
えっ…?
「おにいちゃんが…好き…なの…」
!! …あい…。
おれは今までにない感情が心を埋めつくしていくことに驚いていた。
…いとしい。
- 257 :タカラモノ :04/04/17 03:07
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おれは思わずあいの細い体を抱き寄せる。
少し力を入れたら壊れてしまいそうな細い体を、大切に大切に抱きしめる。
「お兄ちゃんと…ずっと…一緒にいたいの…。」
何か細い糸が切れたようにあいの瞳から大粒の涙がこぼれていく。
あの小さかった妹みたいな女の子が、大人になっておれの腕の中で泣いている。
あい…。
その大きな瞳に吸い込まれるようにおれはそっとあいにくちづける。
「…ん…」
ほんの一瞬の軽いキス。
「ひと夏の思いでやね…」
涙でぐちゃぐちゃの顔であいが微笑む。
いや…二人の『タカラモノ』だよ。思い出になんかさせない。
「おにいちゃん…。 …あたしを、お嫁さんに、してくれるの?」
…あぁ。その時まで『タカラモノ』大事に持っててくれよ。
- 258 :タカラモノ :04/04/17 03:09
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初秋の月明かりが差し込むおれの部屋に、二人の影が長く重なっている。
壊れないように…そっと大切に…二人の気持ちを確かめ合っていく。
「…ん…い、痛っ…」
…だ、大丈夫?
「…うん…平気…うれしいの…」
二人の鼓動が、ひとつに、なっていく…。
- 259 :タカラモノ :04/04/17 03:10
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チュンチュン…チチチ…
…んんっ。…ふぁあ〜ぁ…朝か。
心地良いだるさが残る体を思い切り伸ばす。んんん〜…ふぅっ。
気付くと隣にあいはいなかった。
キッチンからコーヒーのいい香りが漂ってくる。
おはよう…。
「あ、おはよう。じゃあれいな起こしてくるね!」
パタパタ…。
…。なんか照れるな。
「…オ゙バヨ゙ヴ〜。」
…はい、顔洗ってきなさい。あれは飲ませすぎちゃったかな?反省。
- 260 :タカラモノ :04/04/17 03:12
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「んん〜…っと。やっと目が覚めたったい。ゴハンゴハンっと…あれ?あいコーヒー飲めたと?」
「…あ、うん。カフェオレ…ならね。」
「…ふーん?」
ん、ゴホン。やっぱり照れる…な。
- 261 :タカラモノ :04/04/17 03:14
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…お、そろそろ新幹線の時間だ。
忘れ物はないな?母さんたちにもよろしくね。
「うん。本当に楽しかったやよ!」
「また来るったい!」
うんうん。待ってるよ。
プルルルルルル…
「あ、おにーちゃんちょっと…」
なに?…ってイテテテ!ほっぺた引っ張るなってっ!
「あいを泣かしたらただじゃおかんたい。」
…れいな、お前…。
「いくら酔っ払っててもあんな大きな声出してたら起きるったい!あたしの大切なあいを一生大事にすること!いい?」
ちゅっ。
…!!
つねられていたほっぺたに柔らかい感触が触れる。
れいな…。うん。まかせとけよ!
- 262 :タカラモノ :04/04/17 03:16
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プルルルルルル…
れいな、またな!
「また…また遊びに来るったい!今度は悩殺水着見せちゃるけんね!」
あぁ。楽しみにしてるよ!
…あい。またな。
「…うん。また、ね。」
プルルルルルル…
……に……から。
「え?聞こえないよ?」
…今度は迎えに行くから。タカラモノなくすなよ!
「…うん。うんっ!待ってる!」
- 263 :タカラモノ :04/04/17 03:16
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…プルルッ 12番線ホームドア閉まります…ご注意ください…
プシュー…
ドア越しに二人の泣き顔が見える。
そんなに振ったら壊れちゃうよってくらい手を振ってるれいな。
涙をボロボロこぼしながらまっすぐおれを見つめているあい。
今年の夏はこれでおしまい。いろいろあったけど…最高の夏休みだったよ!
またな!
おれは自分でも驚くくらい涙をこぼしながら、いつまでも去っていく新幹線を見つめていた。
- 264 :タカラモノ :04/04/17 03:19
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〜 完 〜