れいな1/2
935 :れいな1/2 :05/01/26 21:43
まいったな…雨かよ…
急に降り出した雨に、俺は空を見上げて呟いた。
まったく今日はろくなことがない。
つきあっていた美貴にフられ、ヤケになってパチンコ屋に入ったら
見事にハマリ台にあたってもらったばかりのバイト代をほとんどすってしまった。
あーあ、俺の人生ってこんなもんなのか……
どっかに新しい彼女になってくれるようなかわいい女の子でも道に落ちてないかな…
いや、部屋に帰ったら引き出しや押入れの中から女の子が…ってそんなことあるわけないよな。
マンガの中だけだ。そんなの。

そんなことを考えながら雨の中を歩いていたら通りの方から
「にゃんっ!」という悲鳴のような鳴き声が聞こえてきた。
俺がその方角へ行ってみると、一匹の白い猫が道に横たわっている。
どうやら車にはねられたらしく、そいつは動かない。
かわいそうに……成仏しろよ…
普段の俺ならそう思っただけですぐにそこを通りすぎてしまうところだったが、その時はなぜだかその猫がとても気になった。
そばによって触ってみると、どうやらまだ生きているらしく、はねられたショックで気を失っているようだった。
確かこの辺に医者あったよな…
俺はその猫を抱き上げると医者へと向かった。

936 :れいな1/2 :05/01/26 21:44
「あー、足折れますね。でも他は大丈夫ですよ。ショックで気を失っているだけですね。」
医者が俺に言う。
「とりあえず添え木しとくから、この子が暴れても外さないように。
ま、痛みでそんな元気もないかもしれないけど、とりあえず麻酔射っときますね。」

会計で治療費を払い、俺はその猫を抱いて病院を出た。
そいつは俺の胸の中で寝息を立てている。
どういうわけでこいつを助ける気になったのか俺にもわからなかったが、これも何かの縁だ。
……確かメスだったよな……けっこういい顔立ちしてるな。きっと飼い主いるんだろうな…
とりあえず元気になるまで置いてやって、もし飼い主がいないようだったらそのまま俺が飼ってやってもいいかも……
幸いうちのアパートはペットOKだし、俺の部屋は1階だから外にも出してやれるしな…

俺はそんなことを考えながら家へと向かった。

937 :れいな1/2 :05/01/26 21:45
しまった…傘忘れちゃった…まいったな…
急に降り出した雨に、店の前で空を見上げながられいなはつぶやいた。

れいなは中学三年生。快活な女の子だ。
だがれいなには人には言えない悩みがあった。
それは…実はれいなは人間ではなかった。
いや、正確に言うと「完全な人間ではなかった。」

実はれいなには特異な体質があった。
それは、水をかぶると猫に変身してしまうというもの。
はるか昔のご先祖様が猫を虐待したための呪いだとかいう話を以前に親から聞いた。
それ以来、れいなの家系はそういう体質を持ってしまってそれが現在まで続いているらしい。
ただ、一族全員がそんな体質を持っているわけではなくて、時折誰かにそれが現れる。
れいなの親も、おじさんおばさんも普通の人間だった。
おじいさんも普通の人間だったが、おじいさんのお兄さん、れいなからいうと大おじさんにあたる人がそういう体質だったらしい。
大おじさんはそれでたいそう苦労したそうだ。
なんとかその呪いみたいなのを解く方法はないの?
れいなは何度も親に聞いてみたが、親もそんな方法は知らないと言っていた。
確かに、そんな方法があればこれまでに誰かが解決しているに違いなかった。
結局うちの一族はその体質とうまくつきあっていくしかないのよ……
とれいなは母親に言われた。
…それに……お湯をかぶると人間に戻れるんだし。
と、単なる気休めともとれるようなことも言った。

938 :れいな1/2 :05/01/26 21:46
なんで…あたしにその体質があらわれたんだろう…
ご先祖様がなにやったか知らないけど、その呪いがあたしにあらわれるなんて理不尽だよね…
れいなは何度もおのれの身の上を呪い、そして嘆いた。
…だからといって普通の人間に戻れるわけもなかったのだが…

幼稚園・小学校・中学校とプールは全部見学。
理由を言っても先生はもちろん信じてはくれない。
そのたびに水をかぶって自分でそのことを証明しなければならなかった。
ごく限られた親しい友人はれいなのその体質を知っているが、それでも人に知られる事はなるべく避けなければならなかった。
実際、知られたら何をされるかわかったもんではない。
世界びっくり人間大集合のネタにされるぐらいならまだしも、
ヘタをすると家族ともどもこの街から引っ越さなければならなくなるかもしれなかった。


だかられいなは雨にはひときわ気をつかう。
日常生活で水をかぶる可能性は、雨が一番高いからだ。
どこへ出かけるにも傘は必需品。

それが…
今日は一日晴れのいいお天気。にわか雨もないでしょう。
テレビでそういっていた天気予報をつい信用してしまったことを後悔した。
電話して迎えに来てもらおうにも、家には誰もいない。
どうしよう……なんとかここで雨宿りしなくちゃ…

939 :れいな1/2 :05/01/26 21:47
ここから自宅はそんなに遠くない。
よしんば猫になっても自宅でシャワーを浴びれば元の姿に戻れる。
でも…

そう、もしここで猫になってしまったら、今着ているものがこの場所に脱ぎ捨てられてしまうのだった。
洋服も、スカートも、そして下着も。
自分が恥ずかしいのはまだしも、たいていは残された衣服の周囲が大騒ぎになる。
誰か親しい人が一緒にいれば、自宅まで持ってきて(ついでに自分も抱いて連れて帰って)もらえたりもするが、
一人で外出しているときはそういうわけにもいかない。
まさか後で回収に来るわけにもいかないから、結局その時着ていたものは捨ててしまわざるをえなかった。
中にはお気に入りの服もあるので、できればそういうことは避けたい。

あ〜あ、なんでこんな体質に生まれちゃったんだろうな…

れいながそう思ってもう一度店の中に入ろうとした時、自動車が目の前を通り、道路の水をはね上げた…

940 :れいな1/2 :05/01/26 21:47
店の前に脱ぎ捨てられた女の子の衣服。
次第にそれを取り巻くように人々が集まってざわめき出した。
その衣服の中から、一匹の猫が飛び出しいずこへともなく駆けだしてゆく。

あ〜あ、また洋服一着捨てるハメになっちゃった…
あの服結構気に入ってたのにな…


そんなことを考えながらその猫…いや、れいなは路地から塀の上、そしてまた路地へと自宅に向かって駆けてゆく。

そして…路地の角を曲がった瞬間、一台の自動車がれいなに迫ってきた。
逃げる間もなく鈍い衝撃がれいなを襲う。
…あたし…猫のまま死んじゃうのか…お父さん、お母さんごめんなさい…
悲しむんなられいながこんな身体に生まれてきたこと自体を悲しんでね…
うらむんなら呪いを受けたご先祖さまを…
薄れゆく意識の中でれいなはそんなことを思った…

19 :れいな1/2 :05/01/27 21:26
……ここは……どこ?
れいなはふたたび目を開けた。
…どうやらまだ生きているらしい。
れいなの目に入ってきた景色。それはどこかアパートかマンションの部屋の一室のようだった。
部屋の中の家具や調度品が大きく見え、しかもそれを見上げているような状態だった。
れいなは今度は自分の手の方を見る。
猫の手。
…あたし…まだ猫のままなんだ……
帰らなくちゃ……帰って人間に戻らなくちゃ…
れいなが歩きだそうとした瞬間、足に激痛が走り、れいなはその場にふせってしまった。
れいなが足のほうへ目をやると足には包帯が巻かれ、添え木がされていた。
そんなれいなに向かって
「気がついたか?じっとしてろよ。お前はケガしてるんだから。」
と、天のほうから声がした。

れいなが顔を上げると、そこには若い男の姿が見えた。
年はそう…大学生ぐらいだろうか。
男はミルクの入った皿を持ってれいなのほうに寄ってくる。
れいなの前にその皿を置くと、頭をなでながられいなに話しかけた。
「でもお前も運が強いなー。よく足のケガぐらいで済んだもんだ。普通はあそこでぺしゃんこの毛皮になってるとこなんだぞ。」

20 :れいな1/2 :05/01/27 21:27
男の話かられいなは自分の身に起こったことを理解した。
車にはねられたところをこの男が通りがかり、医者(もちろん獣医だ)に連れて行って手当てをしてくれたこと。
はねられた時から丸一日気を失って眠っていたこと。
ケガはどうやら足の骨が折れていてしばらくは安静にしていなければいけないこと。
そしてどうやらここはその男の自宅で、男は一人で暮らしていること……

ひととおりれいなが現在の状況を理解したら、急にお腹が減ってきた。
皿に口をつけ、ミルクをなめる。

……本当は猫のままでは食べたくないんだけどな……味覚も変わっちゃうし……第一直接食べ物に口をつけるなんてみっともない……
とは思ったものの、空腹には勝てない。
れいなは皿に入っていたミルクをすべて飲んだ。

「いい食べっぷりだなー。まる一日寝てたからよっぽどお腹すいてたんだなー。
元気になるまでここに置いといてやるから。早く元気になれよ。…昨日も思ったけどお前なかなか美人さんだよな。」
男が言う。
「それに全然物おじしないけどどっかで飼われてたのか?名前あるのか?なんて名前だ?」
その問いかけにれいなはぴくりと反応し、
「れいな。」と答えたつもりだったが男の耳にはただ
「にゃん」と聞こえただけだった。

21 :れいな1/2 :05/01/27 21:29

ミルクを飲み、とりあえず腹を満たしたれいなは再び眠りに…つくわけではなかった。
…どうしよう…きっとお母さん心配してるだろうな…帰らなきゃ…でも足が…
ここでお湯かぶって人間に戻って…そうするとこの人びっくりするだろうな……
それより…もしこの人がヤバい人だったら人間に戻ったとたん乱暴されちゃうかも…だったら
しばらくはこのままのほうがいいかな…でもせめて家に連絡くらいできたら……

いろんな考えがれいなの頭の中をかけめぐる。
とりあえず…この人だっていずれ外出して留守にするだろうから、そのときを見計らって自宅に連絡するしかない。
そういう結論に達した。

結論が出たとたん、急に安心して眠くなる。
そういえば…猫は一日のうち半分は寝てるって…
あたしも猫になるとやたら眠くなるのはそのせいなのかな…
そう思いながられいなはふたたび眠りに落ちた…

65 :れいな1/2 :05/01/28 21:42
「もしもし、おかあさん?あたし。うん、れいな。」
「ちょっと、あんたどうしてたのよ、一週間も!心配してたんだから!」
電話口の向こうで母親の声が聞こえる。
「…ごめん…雨に濡れて…それで家に帰ろうとしたら車にはねられて…」
「えっ!それで?無事だった?ケガはないの?」
「足が折れてて…それで親切な人が病院へ運んで…それからその人の家に連れてってくれて…今その人のところにいるの。」
「で、そこどこ?迎えにいくから。」
「…わからない……だって足折れてて部屋から出られんもん…今だってその人が留守にしてる間にお湯かぶって電話したんよ。
まさか裸では表に出られんし…それに杖ないと歩けんし…」
「その人に頼んで家に連れてきてもらえないの?」
「…まだその人のことよくわからんもん…悪い人には見えんけど、もしその人の前で人間に戻って何かされたら…」
「……それも…そうね……でもれいなが無事でよかったわ。あんたあの日から帰って来ないし、
駅のほうでは女の子の衣服が脱ぎ捨てられてるって騒ぎがあったからたぶんそうじゃないかと思って……
お父さんといっしょに電柱にあんたの写真貼ったりお医者さんやペットショップ回ったりして大変だったんだから…」

……おいおい、それはちょっと違うだろ……
とれいなは思ったが、ともかく家に連絡できてほっとしたのか、涙がこぼれ落ちる。
「じゃ、なんとかそこで元気になるまで頑張って。幸い夏休みだし。場所わかったらすぐ教えてね。迎えにいくから。
もしそれが無理でもまた電話ちょうだい。」
とりあえずれいなが無事…いや、決して無事ではないのだが…なことがわかって安心したのか
母親は涙声になりながらもそんなれいなに言うことだけ言って電話を切った。


電話を終えたれいなはまた足を引きずりながらバスルームへと向かう。
ようやく添え木が外れてだいぶマシになったとはいうものの、まだ歩くたびに足が激しく痛む。
それはむしろ猫の時より人間の時のほうが痛みが増している気がした。
いつまでここにいることになるんだろう……
とれいなは思った。

66 :れいな1/2 :05/01/28 21:43
れいながこの部屋に連れて来られてからさらに一週間が経った。
足も徐々に回復してきたらしく、猫のときは歩いてももうそんなに痛みはなくなってきた。
さすがに野生に近いだけあって回復力は人間とは比べ物にならないほど強いな…とれいなは思った。
…そろそろ帰らなきゃ…
そう思ってはいるが、れいなには別の感情が湧いてきた。
それは、この部屋の主、つまりれいなを助けてくれた人に対する興味。
ここ二週間ほどこの部屋で同居してみて、れいなには次第にその人のことがわかってきた。
まず、その人は大学生で一人暮らしをしていること。
決して悪い人ではなく、むしろやさしい人であること。
そして…どうやら最近彼女と別れ、今は彼女はいなさそうであること。

67 :れいな1/2 :05/01/28 21:45
その人はケガをしたれいなをとても大事に扱い、可愛がってくれる。
帰宅するとすぐれいなの側にやってきて声をかけ、頭をなでる。
「お腹すいたろ?ご飯あげるからな。」
そう言って水を換え、餌箱にキャットフードを補給し、さらに砂箱の砂を取り替える。
その餌箱も砂箱も、全部れいなのために買ったものだった。

正直れいなとしては、いいかげん人間に戻って人間の食べ物を食べたいのだが、
ろくに身体も動かせない状態とあってはやむを得なかった。
それに、水を飲むぐらいならまだしも、変に冷蔵庫にある食べ物を食べたりしたら
空き巣に入られたと誤解されてまた騒ぎになることは間違いない。
トイレだって……年頃のれいなとしてはたとえ猫になったとはいえ、
自分の排泄物を見られることは顔から火が出るほど恥ずかしい。
その人が外出して誰もいなくなったときには人間に戻って用を足すこともあったが、
そうそういつも都合のいいときに外出して留守にしてくれるわけでもない。

いや、実は人間用のトイレで用を足すテクニックも持っているのだが、いかんせんケガをした足で便座から飛び下りると痛みが走る。
だから我慢してキャットフードを食べ、砂箱に排泄するしか仕方がなかった。
それに…猫の味覚ではキャットフードもそれなりにおいしい。いや、むしろ猫の時は人間の食べ物のほうが口に合わない。

68 :れいな1/2 :05/01/28 21:45
そんなれいなの心の内を露とも知るはずもなく、その男の人はキャットフードを食べるれいなに向かって話しかける。
「なあ、お前本当にどこにも飼われてないのか?そうだったらこのままうちの猫になるか?ん?あ、もしそうなったら名前つけなきゃな…」
「名前どうしようか…チビ…シロ…う〜ん、なんだかな〜。どうもしっくりこないんだよな〜。」

れいなはそのたびに「れいな、れいな、あたしの名前はれいな。」
と言ってはいるのだが、悲しいかなその人の耳にはただニャーニャー鳴いているだけにしか聞こえなかった。
「お前俺が名前のこと言うと決まってニャーニャー鳴くよなー。
ひょっとしてお前自分の名前返事してるのか?もしそうだったとしたらかしこいよなー。」
「じゃあ変に名前つけないほうがいいかな。当分お前って呼ぶことにしようか。」
食べ終わったれいなを抱え上げ、自分の胸の中に抱いてその人は言った。

……仕方ないか……変に別の名前で呼ばれるよりは……
れいなは男の人の胸の中でそう思った。

69 :れいな1/2 :05/01/28 21:46
俺がこいつを連れて帰ってから半月以上が経った。
さすがに猫は人間と比べて回復が早く、傍から見てももう治りかけているように見えた。
それよりも…俺が感心したのはこいつのことだ。
こいつは実に頭がいい。
しつけもちゃんとされているし、人にも慣れている。
さすがにここに連れてきた当初は俺のことを警戒していたようだったが、それも日が経つにつれて徐々に慣れてきたようだった。
いや、普通の飼い猫でもそのぐらいと思うかもしれないが、俺の感じではそれよりももっとこう…そう、むしろ人間に近いような気がした。
……まだ大人じゃないみたいだから人間に直したら10代半ばくらいかな……こいつが人間の女の子だったら……
いや、人間の女の子に変身でもしないかな……
などと思ってみては俺の理性が現実に引き戻す。

バカ言ってるんじゃない。妄想に陥ってないで現実を見ろ。
マンガみたいなそんな都合のいい話あるわけないじゃないか。お前、大丈夫か?
そんなことを思えてしまうほどこいつは愛くるしい。
こんなに可愛く、人にも慣れているこいつが野良猫だとはとても思えない。
多分どこかで飼われていたに違いなかったが、俺には飼い主を探す手だてもなかった
…いや、積極的に探すつもりがなかったといってもいいかも知れなかった。
もちろん、飼い主がわかれば返さざるをえないんだろうが、できればこのままわからないほうが…と、正直思った。
家に帰るとこいつがいる。
俺はいつのまにかそんな生活に幸せのようなものを感じはじめていた。

……たまにトイレの紙が不自然に減っていたり、今月の電話代が少し多いような気がするのは…気のせいだろうな、多分…

89 :れいな1/2 :05/01/29 21:34
「お前、そろそろ足も治った感じだな。一度病院へ行って診てもらおうか。」
それからさらに数日が経った日、その人は言った。
久々に吸う外の空気。
バスケットの中でれいなは懸命に目をこらし、外の景色を眺める。
この部屋がいったいどこなのか、れいなの自宅からどれくらいの距離があるのかを知りたかった。
れいなにとってはこの部屋に来てから初めて外に出ることができる機会。
いや、これまでにも外に出ようと思えば出れないことはなかったのだが、まさか裸で表に出るわけにはいかない。
仮に猫のままで出てゆくにしても、自宅までの位置も距離もわからず、ましてやケガをしている足では無事にたどりつけるかどうか不安だった。
……それに……何も言わず黙ってこの部屋を出て行ったら、その人にお礼も言えない。
自分を手当てしてくれ、部屋に連れ帰って毎日情愛をこめて大切に接してくれた人…
その人を置き去りにしてゆくようなことは、今のれいなには堪えられなかった。
…このままずっとこの人といっしょでもいいかな……
そんなことすら思えるようになってきた。

90 :れいな1/2 :05/01/29 21:35
「ああ、もう大丈夫ですね。ほとんど治ってますよ。」
「そうですか、ありがとうございます。よかったな、お前。」
医者の言葉にその人がうなずく。
れいなにもその声は聞こえていた。
多分もう大丈夫だろうとは思っていたが、やはりお医者さんの口から言われるとうれしい。
その人が治療の終わったれいなを再びバスケットに入れようとしたとき、
「あら…この子田中さんちの子じゃないかしら。ほら、この間ここに猫探しに来てた人。れいな…ちゃんだっけ?」
助手の女の人が言った。
「…この子…確か車にはねられてここへ連れてこられたんですよね?」
「…ええ。もしどこの家の猫でもないのならうちで飼おうかと思って。けっこう美人だし、かしこいみたいですから。」
助手の女の人は診察室の奥へ入ってゆくと、手にチラシをもって出てきた。
それを見たとたん、れいなは急に興奮して叫んだ。
あたし!あたし!それあたし!
そこにはれいなの写真と、れいなの家の連絡先が記載されていたからだ。
れいなのそのさまにその人も助手も医者も顔を見合わせる。
「どうやらこの子みたいですね…」
「なんか自分のことだってわかってるみたいだな。」
「一度田中さんに連絡取ってみようか。」
口々に言い合い、助手が電話口に走る。
その様子を見ながらその人は
「…お前…どうやら家に帰れるみたいだな。よかったな…」
とれいなに向かって言った。
だが…その表情には少し寂しさが浮かんでいたのをれいなは見逃さなかった。

91 :れいな1/2 :05/01/29 21:36
しばらくして病院へ人が駆け込む音がした。
飛び込んできたのはれいなのお母さんだった。
「れいな!れいな!」
その姿を見るなりれいなはお母さんの胸に飛び込んでゆく。
おかあさん!おかあさん!おかあさん!
電話で何回か話したことはあるが、会うのはほぼ1か月ぶりだ。
お母さんの胸の中で泣きじゃくるれいな。
その姿は傍から見ると猫がようやく飼い主にめぐり合えた姿にしか見えなかった。
「よかったな、お前。…あ、れいなっていうのか。かわいい、いい名前だな。まるで人間の女の子みたいだ。」
その人がれいなの頭をなでながら言う。
「でも、ちょっと残念だったな。もし飼い主が見つからなかったらうちで飼おうと思ってたのに。」
「ほんとうにありがとうございました。ケガしたれいなを助けていただいてその上今まで……もしこの子に何かあったらどうしようかと……」
れいなのお母さんは何度も何度もその人に頭を下げ、お礼を言った。
「いえいえ、でもちゃんとしつけもできてるしかしこいから結構ラクでしたよ。な、れいな。」
その人は笑ってれいなにそう言ったが、その笑顔は心なしか寂しげに見えた。

92 :れいな1/2 :05/01/29 21:37
こうして元通り自分の家に帰ることができたれいなだったが、それからもどうしてもその人のことが気になる。
あの人は今どうしてるだろう……自分がいなくなって寂しいんじゃないかな……
それに、その人の家はれいなの自宅から案外近いこともわかった。
人間の足で歩いて10分ほどのところ。
ただこれまではれいなの行動範囲の中になかったためにその近くに足を踏み入れることはなかっただけだった。
行ってみようか……いや、もう一度行きたい。
一度そう思ってしまったらもういても立ってもいられなくなった。


れいなはメモを残すと裸になってバスルームへと入って水をかぶり、その人の部屋へ向かった。
だが…たどりついたその人の部屋には、まだ誰もいなかった。
仕方ない……せっかく来たのに、このまま帰ってしまうのももったいない。
そう思ったれいなはそのまま部屋の前で待っていることにした。
しばらくまどろんでいると、部屋の中にあかりが灯った。

109 :れいな1/2 :05/01/30 21:34
今日もバイトを終えて、俺は家に帰る。
誰もいない部屋に帰るのは寂しい。
ついこの間までは待っていてくれる人、いや人じゃないが…がいただけに、余計にその感が強い。
あのチビ…れいなだっけ、がこんなに大きな存在になるとはまったく思っていなかった。
そんなさびしい思いをしながら部屋の電気をつけてメシを食おうとすると、なにやら窓のほうからカリカリと音がする。
何者かが外にいるようだった。
俺が窓際に行ってカーテンを開けると、そこにはあの猫…いや、れいながいた。
「れいなじゃないか。なんでまた…」
俺がそう言って窓を開けたとたん、れいなは「にゃん!」と鳴いて俺に飛びついてきた。
俺の肩のあたりに爪を立てて懸命に俺にしがみつく。
俺が胸に抱いてやるとさかんにニャーニャー鳴いて頭を俺に擦り寄せてくる。

……こいつ……俺のこと覚えてるんだな……

俺は少しうれしくなった。

110 :れいな1/2 :05/01/30 21:35
とはいえ、このままにしておくわけにはいかない。
とりあえず田中さんに連絡しなくては……
なにせ病院でれいなと再会したとき、まるでわが子のように慈しんでいたくらいだから、
今もきっと心配しているに違いない。
俺は受話器を取って田中さんに電話をした。
「……そうですか、わざわざありがとうございます。でもれいなはきっとあなたのことをとても気に入ったんだと思います。
せっかくですからしばらくれいなと一緒にいてやってください。
あの子もかしこい子ですから帰りたくなったらうちに帰ってくると思います。
これからもちょくちょくあなたのところにおじゃますることもあるかと思いますので、その時はよろしくお願いいたします。」

そんな田中さんの返事だった。
……なんだ、えらくあっさりしてるな。この間病院で会った時とは大違いだ。
そんなことを考えていたら、れいなが受話器に近づいてきて「にゃん」と鳴いた。
「…れいな?そしたらちゃんといい子にしてるのよ。決して間違いのないようにね。おかあさんあなたを信頼してるからね。」
なんて会話だ。まるで人間の親子の会話じゃないか。
れいなはそれに返事するかのようにまた「にゃん、にゃん。」と鳴く。
こいつ、電話の向こうで何言われてるのかわかってるのかな……まさかな。
「…そしたられいなのこと、よろしくお願いしますね。」
そう言って田中さんは電話を切った。

111 :れいな1/2 :05/01/30 21:36
ま、それはそれとして俺はとりあえずの義務を果たして田中さんの了解ももらった。
「よかったな、飼い主のお許しがでたから今晩はここにいるか?」
俺がそう言うとれいなはまた
「にゃん」
と鳴いた。
「あ、そしたら寝床とかの用意しなくちゃな。ちょっと待ってろ。」
そう言って俺はタオルを出してれいなの寝床を用意すると、押し入れから砂箱と餌箱を取り出す。
まだ捨てなくてよかったと思った。
するとれいなはまた「にゃん」と言ったかと思うと部屋の中を駆けだした。
「おい、どこへ行くんだ。」
れいなはそのままトイレの前まで走ってゆくとノブに飛びついて体重をかけ、ドアを開けたかと思うと便座の上にちょこんと座った。
そしてそのまま用を足したかと思ったら今度はタンクのレバーを持ち上げて水を流した。
俺が半ば呆然としてその様子を見ているとれいなはおもむろに便座を降りてまたこちらにやって来る。

「へえー……お前……そんなことまでできるのか。ほんとよくしつけられてるなー」
俺はれいなのあまりのかしこさにむしろあきれてしまった。

112 :れいな1/2 :05/01/30 21:37
それから俺とれいなは特に何をするということもせず、部屋の中に2人…いや、1人と1匹か…で過ごした。
れいなは特に一人遊びするでもなく、俺の側でじっとしていては時折俺に体をすり寄せてくる。
子猫ならいざ知らず、れいなぐらいの大きさになるとなんということはない猫の仕草なんだろうが、それだけで俺の心は満たされた感じがした。
やがて夜も更け、俺はベッドへと入る。
「おやすみ、れいな。」
俺がそう言って寝ようとすると、れいなは寝床を飛び出してベッドの上に乗り、俺の隣にやってきて体を丸くする。
「…なんだ…一緒に寝たいのか、そうかそうか。」
俺はもう一度れいなの頭をなででそのまま眠りについた……


翌朝俺はいつものように身支度をして学校へ向かう。
本当なられいなを田中さんの家まで連れて行ってやるべきなんだろうが、残念ながら俺は田中さんの家の場所までは知らなかった。
それに夕べ田中さんはれいなは帰りたくなったら帰ってきますから、
とも言っていたから、とりあえずれいなが出入りできるように庭に面した窓だけ開けておくことにした。
れいなはそんな俺を玄関まで見送ってくれた……ように見えた。
いや、単に玄関まで俺についてきただけにすぎなかったのだが、俺にはれいなが見送ってくれたように感じられた。

113 :れいな1/2 :05/01/30 21:38
れいなはそれから何度もその部屋に通った。
その都度その人はれいなを慈しみ、大切に可愛がってくれる。
その部屋に通うたび、その人を見るたびにれいなの胸が高鳴る。
その人の胸に抱かれると、れいなの胸があたたかさでいっぱいになる。
れいなにとって、それは幸せなひとときだった。

ひょっとして……これが恋ってものなの…かな……
れいなはふとそんなことを考える。

でも……れいなには不満があった。
確かに、その人といっしょにいると幸福を感じるし、その人もれいなのことをいとおしんでくいていることはわかる。
でも…それはあくまで猫のれいなとして。
本当の自分は猫なんかじゃない…人間なんだ…
人間の自分を、人間として感じ、そして…できれば愛してほしい。
れいながそう感じるのはむしろ当然なことと言えた。

人間のままで、あの人に会いたい。
そう思うれいなの気持ちは段々高まっていった。
その一方で不安も募ってゆく。
でも…人間の自分を果たして猫の時と同じように慈しんでくれるのだろうか。
猫だからこそ受け入れてくれるものの、人間のときに拒絶されたらどうしよう……

…ええい…ままよ…そうなったらそうなったとき。
失恋を恐がってちゃ女がすたるたい。
そう腹を決めて、れいなは一つの決心をした。

131 :れいな1/2 :05/01/31 22:13
あれ以来、れいなはちょくちょく俺の部屋にやって来る。
続けて毎日来るときもあれば2、3日間が開くこともあった。
れいなは特になにをするでもなく、ただ部屋の、俺のそばにいて時折俺に身体をすり寄せてくる。
猫は家につく、と言うがれいなは俺とこの部屋がとても気に入ったようだった。
それに、れいなは手がかからない。
きっと小さいころに田中さんにきちんとしつけられたんだろう。
なにより人間用のトイレで用を足すことができるのにはびっくりした。
そんなこんなでれいなは田中さんのところの猫だが、ここしばらくは俺の家の猫みたいな感じだった。

そんなある日、
今日はれいな来てるかな……
俺はそう思いながら家に帰る。
すると、玄関の前に一人の女の子が立っていた。
見たところ中学生ぐらいだ。小柄だが結構かわいい顔だちをしている。
「…あ…あの…」
女の子は俺に向かって口を開いた。
「…あたし…田中っていうたい…いえ、いいます。」
田中?どっかで……ああ、れいなの……ひょっとしてこの子…
「…あの…いつもうちのれいながお邪魔してお世話になっているそうで…」
…やっぱり。田中さんちのお嬢さんでれいなの飼い主か。
「いえいえ。こちらこそ。れいながちょくちょくうちに来てくれるんで俺もうれしいんですよ。この通り一人暮らしなもんで。」
俺はその子に言う。

「…あの…せめてものお礼にと思ってこれ持ってきたたい…きたんですけど…お口に合うかどうか…」
「ああ、すいません。わざわざどうも。せっかくだから中へどうぞ。」
中学生ぐらいの、しかも初対面の子をいきなり部屋の中に入れるのは少しまずいかなとも思ったが、
別に取って食うわけじゃないし構わないだろう。
俺はその子を部屋の中に招き入れた。

132 :れいな1/2 :05/01/31 22:14
部屋の中で、その子が持ってきてくれたお菓子をいただきながらいろいろと話をする。
その子もれいなという名前だった。
いや、猫のれいなのほうがその子の名前から取った、というか同じ名前をつけたみたいだ。
それに…その子と話をしていると俺は不思議な感覚に包まれた。
そう、それこそ猫のれいなが人間になって話をしているような感覚。
それほどその子とれいなは醸しだす雰囲気が似ている。
犬が飼い主に似るというのはよく聞くが、猫もそうなのかな…と、俺は思った。

「あの…また来てもいいですか?」
帰り際、その子が聞いてきた。俺は
「ええ、いつでも来てもらっていいですよ。今度はれいな…あ、猫のほうね。と一緒に来てくださいよ。」
とその子に言った。

その子が帰ってもしばらく、俺は暖かい気持ちに包まれたままだった。
そもそも普通に考えれば、大学生と中学生とではすむ世界が違う。
いや、確かに中学生の女の子と二人きりで会話なんて、それこそ中学卒業以来したことがない。
だが、単純にそれだけではない何かがあった。

俺がしばらくその余韻に浸っていると、窓のほうから にゃあ と猫の鳴き声がした。
れいなだ。
俺はれいなを抱いて部屋の中へと連れて入る。

「…今日お前の飼い主が来てたの知ってるか?結構かわいい子だったよな。」
俺がれいなにそう言って頭をなでるとれいなはまた
にゃん
と鳴いた。

134 :れいな1/2 :05/01/31 22:16
田中さんちの娘さん…れいなちゃんはそれから何度かうちに遊びに来、また二人で遊びに出かけたりもした。
いや、いっそデートと言ってしまったほうがよかったかもしれない。
彼女には兄弟がいないので、俺のことを「お兄ちゃん」と呼び、慕ってくる。
俺は少し照れくさかったが、そう呼ばれることに幸福を感じないでもなかった。
それに…彼女のいない俺は、考えちゃダメだと思いつつ、次第にれいなちゃんをまるで彼女みたいに見ていることに気がついた。
年齢も離れ、普通なら接点のない俺とれいなちゃんがこうしていられるのも、元はといえばれいなのおかげだ。
そのことを知ってか知らずか、れいなは以前にもまして俺になついてくる。
俺が翌日学校やバイトにでかけるまで部屋に居ることもしょっちゅうだ。
ここしばらくは、もはや田中さんの飼い猫というより俺の家の猫みたいな状態だった。
俺はそんなれいなにますます愛着がわき、以前よりもっとれいなを慈しみ、可愛がった。

135 :れいな1/2 :05/01/31 22:18
そんな日々がしばらく続いていたが、次第に俺は奇妙なことに気がついた。
れいなちゃんと、猫のれいながいっしょにいるところを俺は見たことがない。
れいなちゃんには何度も「今度れいなも連れてきてよ。」と言ったのだが、そのたびに
「うん。こんど連れてくるね。」と言うばかりで一向に実現する気配がない。
れいなちゃんにしてみれば、れいなを連れてくることで俺の関心がそっちに向いて面白くないのかも知れないし、
れいなのせいで行動を束縛されることを嫌がっているのかもしれなかった。
何度かれいなちゃんを家に送っていったこともあるが、そのたびにれいなはどこかに外出しているとのことで会うことができない。
そのくせ、しばらくして俺が帰ろうとすると窓から俺を見ていたりする。
一方れいなはれいなでちょくちょく俺の部屋へやって来るから、別にれいなちゃんと一緒に来てくれなくても
気にしないでもよさそうなものだったが、俺は次第に疑念が湧いてきた。

156 :れいな1/2 :05/02/01 22:12
「お前、雪女の話知ってるか?」
大学の友人の寺田が俺に言う。
「なんだそれ。まさかれいなちゃんが…ってことか?そんなバカな。今の時代にさ。」
「いや、あながちそうともも限らんで。世の中にはまだまだ人智の及ばん世界があるんや。
だいたい変や、思て俺に言うてきたんはお前のほうやろ。」
「…そりゃそうだけど…でも家に電話したこともあるけど親御さんはちゃんとれいなちゃんに取り次いでくれたし電話にも出たんだぜ。
それに何度か送って行ったこともあるし、学校にも行ってるしれいなちゃんは確かに実在してるんだよ。」
「…そうか…いや、ひょっとしたらその親御さんも実は幻である日お前が尋ねていったら家もろとも忽然と消えてたり……
それにあのぐらいの子が学校にも行かんとずっと家におったらそれこそ怪しまれるからな。
そのへんはうまいことあちこち騙くらかして…」
「まさか。そんなことあるもんか。」
「そのれいなとかいう猫が実は化け猫でいずれお前をとり殺…」
「もういいって。お前に聞いたのが間違いだったよ。」

俺は寺田に強い口調で言った。いくら友人でも言っていいことと悪いことがあるってもんだ。
「…わかったわかった。ゴメンゴメン。冗談やんか。ちょっと言いすぎたわな。でもお前もそんなにムキになることないやないか。
……ははん……おまえひょっとしてそのれいなちゃんって子に惚れたんか?」
俺は寺田に言い返せなかった。

れいなちゃんは確かにかわいい。女の兄妹のいない俺にとっては妹のような存在に感じていた。
だが惚れたと言われると……いや、ひょっとしてそうなのか?
「……ま、それはそれでええけど、相手まだ中学生やろ。ヘタに手出したりしたら淫行で捕まるから気いつけとかんとあかんで。」
寺田はそう言うとその場を立ち去って行った。
……なんだ、言いたいことだけ言って去って行きやがって。あんなやつに話を振った俺がバカだったよ。
俺はそう思ったが、俺の頭の中にあった疑念は晴れるどころかますます大きな澱となっていくのを止められなかった。

157 :れいな1/2 :05/02/01 22:12
「ねえ、次あれ乗りたか。」
観覧車を指さし、俺の腕を引っ張ってれいなちゃんが言う。
「ああ、わかった、わかったから。そんなにひっぱらないで。」

次の土曜日、俺たちは遊園地に遊びに来ていた。
れいなちゃんは子供のように…いや、子供なんだが…はしゃいでいる。
順番を待って観覧車に乗ると、俺はれいなちゃんに聞いてみた。
「…なあ…れいなちゃん。俺といて楽しい?」
「なんでそんなこと聞くと?ひょっとしてお兄ちゃんはれいなといっしょだと楽しくないん?」
顔を曇らせてれいなちゃんが言う。
「いや、そうじゃなくて…れいなちゃんぐらい可愛かったらクラスの男子たちが放っておかないんじゃないかな…って。
それに俺とれいなちゃんは年も離れてるし…俺なんかといっしょにいてどこがいいのかなって……」
「何でそんなこと言うの?れいなお兄ちゃんと一緒にいるととても楽しくてハッピーたい。
年だって……あと10年経ったられいな25でお兄ちゃんは30だからちょうどいいとよ。」
そう言われりゃそうかな…って、なに納得してんだ、俺。

「それに……お兄ちゃんとってもやさしいたい。ケガしたれいなの面倒見てくれて…
れいなは実は人見知りであんまり他の人になつかんとよ。
そのれいながしょっちゅうお兄ちゃんのところへ行くってことはよっぽどいい人なんやろうなって……
それで会ってみたらお兄ちゃん実際やさしかったたい。」

れいなちゃんの口からそう言われると、俺にはまるで猫のれいながそのまま人の姿を借りてしゃべっているような気がしてきた。
ひょっとして寺田の言う通り…いや、まさか。
だが目の前にいるれいなちゃんは、あまりにも猫のれいなと受ける感じが似ている。
それこそまるで同じ人物…のようだ。

そんな俺の戸惑いをよそにれいなちゃんは言った。
「……お兄ちゃん……今彼女いる?」
「…いや…いないけど。」
俺はれいなちゃんに答える。
れいなちゃんはそんな俺の目を見つめると俺に向かって言った。
「……ね……れいな、お兄ちゃんの彼女になれんかな……」

158 :れいな1/2 :05/02/01 22:13
いきなりの言葉に、俺は一瞬固まった。
いや、れいなちゃんからそう言われて正直うれしい。
しかし、れいなちゃんはまだ中学生だ。
人が俺とれいなちゃんを見たら変に思わないだろうか。
それに……もしかしたられいなちゃんは実は……
「……ダメ?」
れいなちゃんは上目遣いに俺を見つめてくる。
俺はそんなれいなちゃんに魅入られたかのように
「……俺でよければ……」
と返事をしていた。

その瞬間、れいなちゃんの表情がみるみる緩む。
よく見るとその目は少し潤んできている。
そんなれいなちゃんの瞳を見つめると、俺は吸い込まれそうになる。
……そう、まるで猫の目のように深い深い輝き。
互いに見つめ合い、その雰囲気に飲まれるかのようにれいなちゃんはゆっくりと目を閉じて顔を前に突き出す。
ゆっくりと近づいてゆく顔と顔。
……そして……唇が触れ合った……

俺は……もしかしたらもう化け猫にたぶらかされ……
いや、仮にそうでもかまわないと、そのときの俺は思った……

…その夜…れいなちゃんを家まで送り、部屋に帰って俺がそのことを思い出していると窓のほうから にゃん という声がした。

れいなだ。

れいなは中へ入るなり、俺の胸に飛び込んで頭を擦りつけてくる。
俺はそんなれいなを抱えて頭をなでてやる。
「……なあ……おれ…あの子とキスしちゃったよ……お前、どう思う?」
そんな俺に返事をするようにれいなは にゃん にゃん と鳴き、俺に身体をすり寄せて甘えてきた。

159 :れいな1/2 :05/02/01 22:14
その夜、俺は夢を見た。
俺はベッドの上で横たわっていた。
トランクス1枚だけで両手両足を大の字に広げている俺。
なぜか身体を動かそうとしても動かすことができない。
足元にはれいな…猫のれいながじっとこっちを見ている。
れいなは俺のその姿を見つめると、次第にその姿を変えてゆく。
そして……一糸まとわないれいなちゃんが俺の前にあらわれた。
肝心なところこそぼやけていたたものの、その細い肢体、そして小ぶりが胸ははっきりと見える。
れいなが変身したれいなちゃんは、裸のまま俺のほうにゆっくりと近づいてきた。
その表情には妖しい微笑みが浮かんでいる。
れいなちゃんはそのまま俺の身体に覆いかぶさると、その唇で俺の全身を上から下へと愛撫をはじめる。
首筋から胸へ、そして腹へ。
れいなちゃんが俺の身体に唇を這わせる。
唇と……柔らかな胸の感触が俺に伝わる。
そして…ついにれいなちゃんは俺のトランクスに両手をかけるとゆっくりとそれを降ろした。
むき出しになる俺の下半身。
れいなちゃんはまた妖しい微笑みを浮かべながら俺の分身にその唇を近づけた……

その瞬間、俺は目を覚まし、飛び起きた。
俺はあわてて自分の下半身に目をやる。
……どうやら夢精はせずにすんだようだったが、俺は全身汗まみれになっていた。
ふと足元へ目をやると、籠の中の寝床でれいながすやすやと眠っている。
……こいつ……今夜も俺の部屋で寝ているんだよな……
俺はそんなれいなを見てその次の言葉を言おうとしたが、声には出せなかった。

……なあ…おまえ……ほんとうにあの子…れいなちゃん…なのか?

181 :れいな1/2 :05/02/02 21:25
れいながその人と知り合ってしばらくの日々が流れた。
また、れいなが悩む季節がやってきた。
そう、それは猫の恋の季節。
春と秋の猫の恋の季節になるとれいなにもその兆候が現れてしまうことだった。
人間のときはそうでもないが、その時期になんらかのはずみで猫になってしまうととたんに身体が熱くなる。
そして、そのれいなを狙っている近所のオス猫が猫のときはもちろん、人間の時にもまとわりついてきていた。
…もし、今後ちょうどその頃に猫になってしまい、本能のおもむくままオス猫を受け入れてしまったら…
いや、むしろ受け入れてしまいたい衝動にかられている自分がそこにいることがわかっていた。
想像するだけでれいなの全身に悪寒が走る。
実際に、今年の春もやっとのことで近所のオス猫を振り切ったことがあった。
そして……今年、その人と知り合い、その人のことを好きになってからその本能は以前にも増して強くなっていることにれいなは気づいた。
春のときはこんなじゃなかったのに……

……しばらく猫になるのやめなきゃな……あの人の家には行けなくなるけど……
れいなは一人ベッドの中でそんなことを思う。

182 :れいな1/2 :05/02/02 21:26
にゃーお にゃーお にゃーお

部屋の外で猫の声がする。
れいなを呼ぶ近所のオス猫たちの声だ。
恋の季節を迎え、れいなを求め、れいなと交わって自分の子孫を残そうとするオス猫たち。
その甘く、切ない声が、れいなの猫の本能を刺激し、欲望を呼び覚ます。

……身体が……熱い……

れいなは右手をパジャマの中から下着の中に滑り込ませてゆく。
この年になっても未だにそこに繁みがないことはれいなにとってコンプレックスではあったが、
れいなの手はそこを通過してその先へと伸びてゆく。
れいなにとって一番大切なそこ。
まだ誰にも知られていない、もちろん触らせてもいないれいなの女の子そのものの部分。
れいなの指はゆっくりとそこを這ってゆく。

「……お兄ちゃん……」

れいなの頭の中には、いつしかその人の顔が浮かんできていた。
いつか…れいなにそうしてくれるのを想像するかのようにれいなは指を動かせる。

183 :れいな1/2 :05/02/02 21:26
……んっ……んんっ……

自らの指の刺激にれいなは吐息を漏らす。
その人のことを思うたび、次第に指の動きが早くなってゆく。
れいなの身体は徐々に快感に包まれ、頭の中はもやがかかったようになる。

……ダメ……こんなことしちゃ……いやらしい子たい……でも…気持ちいい…
れいなの理性は懸命にその行為を押し止めようとするが、一度火のついたれいなの本能は止まらなかった。

……んんっ……んあっ……

やがてれいなの吐息は喘ぎ声を含んだものに変わってゆく。
そして、れいなを包んでいたパジャマも、下着も自分で脱ぎ捨てた。
ベッドの上で生まれたままの姿にれいなはなっていた。
指先からは、快感の証である湿った音がするようになってきた。
……お兄……ちゃん……
指の動きはさらに早くなり、それと同じくするようにれいなの頭の中にその人の顔が浮かぶ。
そして…同時に浮かんだのはいつか来るその時のこと……
れいなは中指を立ててゆっくりと自分の中に沈めていった。
……んんっ……
れいなの細い指が、徐々にれいなの身体に侵入してゆく。

184 :れいな1/2 :05/02/02 21:27
……痛っ!
指先から第一関節ほどまでが入った時、れいなは痛みで指を抜く。
……また…ここまで……やっぱりこれ以上は怖くってできんたい……

指を入れたのは今日が初めてではなかった。
だが、いつも痛みのため途中で指を抜いてしまい、奥まで入れることはできなかった。
お兄ちゃん、お兄ちゃん…
れいながその人のことを思うと、中にこそ入れないものの指の動きは余計に早くなる。

…んっ…はあっ…んあっ…はあっ…んあっ…

れいなのもう片方の手は、自然にそのわずかに膨らんだ胸を撫でている。

……お兄ちゃん……お兄ちゃん……お兄ちゃん……
れいなの頭の中にその人の顔ばかりが浮かぶ。

…んっ…はあっ…んあっ…はあっ…んあっ…
……んっ……んんんんんんっ………

……やがて……れいなはひときわ大きく全身を痙攣させたかと思うと、ぐったりと力なくベッドに横たわった……

……また……しちゃった……
お兄ちゃんが…悪いんよ……れいなに…こんなこと覚えさせて……

指先に絡みついた自分の体液を見つめながられいなは思った…
窓の外では、れいなを呼ぶオス猫の声がまだ続いていた……

205 :れいな1/2 :05/02/03 22:06
「どうした?れいなちゃん。ぼーっとして。」
俺はれいなちゃんに問いかける。
とあるファーストフード店の一角。
俺とれいなちゃんは向かい合って座っていた。
「……ううん、なんでもないたい。」
れいなちゃんは俺にそう言った。
「それよりお兄ちゃん、いつも言ってるたい。れいなちゃんじゃなくてれいな、って呼んでって。彼女なんだから。」
「…いや…でも呼び捨てにしちゃうと悪いし…それに猫のほうのれいなとごっちゃになっちゃいそうでさ……」
俺はそう答える。
「…そういや最近れいなうちに来ないんだけど元気にしてる?」
俺はれいなちゃんに聞いた。
それは俺にとっては少し意地の悪い問いかけだった。
なぜなら、俺にはまだれいなちゃんと猫のれいなとが同一人物…というのか…ではないかという疑念が吹っ切れないでいた。
なら直接本人に聞いてみたらいいじゃないか、ってなりそうだが、俺にはそれはできなかった。
もしれいなちゃんが寺田の言うように人智を越えた存在だったら…というおそれもあったし、
なによりも俺がそのことを口にすることでれいなちゃんとの関係が終わってしまったら……
そのことがこわかった。
こういう問いかけで反応を伺おうなんで我ながらずるいよな…と思いつつ、俺は口にせずにはいられなかった。

206 :れいな1/2 :05/02/03 22:07
「……あ……うん……元気にしとるよ。」
れいなちゃんは少し口ごもりながら答える。
その表情には明らかに動揺とも当惑とも言えないものが浮かんでいたのを俺は見逃さなかった。
「そう、それならいいんだけど。なんかれいながいないと寂しくてさ。」
「……そう?」
俺の言葉にれいなちゃんがぴくりと反応し、こちらを見る。
「……それに……ひょっとしたら俺、れいなに嫌われちゃってそれでれいなが来ないのかな、とか思っちゃってさ。」
俺がそう言うとれいなちゃんは
「ううん、そんなことない。きっとれいなもまだお兄ちゃんのこと大好きなんだと思う。でも…多分なんか事情があって行けないだけだと思う。」
と頭を振った。

……俺は……その時確信した。
そう、目の前にいるれいなちゃんは……実はれいなでその仮の姿なんだと。
れいながどういう存在なのかはわからないが、そのれいなが人の姿を取っているのがれいなちゃんなんだということを俺は理解した。
寺田の言うように人智を超えた存在。
不思議なことに、俺の頭はその信じられない事実を素直に理解することができた。
なぜなら……そう、俺はもうれいなに魅入られ、虜にされてしまったのだから。
それに、雪女の話にしても夕鶴の話にしても秘密を知り、約束を破ってしまったから破局が訪れたもの。
幸いにして俺とれいなの間にはそのような約束は存在しないし、
今目の前にいるれいなちゃん……れいなだって俺がまさか自分の正体に気づいているとは露とも思ってはいないはずだ。
だったら……
俺が気をつけてさえいれば、俺たちの関係は今後とも続けていくことができる……
俺はそう思った……

207 :れいな1/2 :05/02/03 22:08
「ねえ、次どこへ行く?」
れいなちゃん…れいなが聞いてきた。
「どこでもいいよ。れいなに任せるから。」
「……お兄ちゃん、今れいなって呼んでくれたと?」
ん……ああ、そうだっけ……
「えへへ…うれしい。」
れいなはそう言うと俺の腕に自分の腕を巻き付けてくる。
「ねえ、れいな映画行きたいと。ね、行こっ。」
俺はそう言われながらも正直多少戸惑っていた。
今俺の隣で腕を組んでいる女の子。
だがその正体は……猫。
化け猫なのか普通の猫がそういう能力を身につけたのかはわからないが、
現実にその猫が人間の少女の姿をして俺と腕を組んで歩いている。
これかられいなにどう接していけばいいのだろう……
いや、まがりなりにも今は人の姿をしているんだから人間の女の子として接すれば問題ない……んだよな……
さまざまな考えが俺の頭の中をよぎる。

「どうしたと?お兄ちゃん。ぼーっとして。」
れいなが俺に言った。
「…いや…あ、ゴメン。なんでもないよ。」
「……ふふっ……お兄ちゃん、さっきお店でれいなに同じこと言ったと。」
「そうだっけ……」
れいなは俺の腕にからめている自分のそれに力をこめた。
「れいな……お兄ちゃんに出会えて良かったと…」
「どうしたんだ?いきなり。」
「ううん…さっ、映画行こっ。」
れいなはそう言うとまた俺の腕を引っ張った。
……なんか今日はやけにくっついてくるな……やっぱり猫だから体を擦り寄せて来るんだろうか…

俺はそんなことを思った。

208 :れいな1/2 :05/02/03 22:09
「どうした?れいなちゃん。ぼーっとして。」
その人がれいなに問いかける。
とあるファーストフード店の一角。
その人とれいなは向かい合って座っていた。
「……ううん、なんでもないたい。」
れいなはそう言った。

猫の恋の季節を迎えて、れいなを包む熱は収まらなかった。
いや、もっと下卑た言葉を使うなら、

……したい……

そうとしか表現しようがない感覚。
無論、れいなにはまだそんな経験はなかったが、猫の本能がれいなの欲望を呼び起こす。
その火照りを今日までなんとか我慢してきたものの、まだ身体が疼いている。
…夕べもしちゃった……れいな、イヤらしい子たい……
幸い、あと数日でその時期が終わりを迎えることはれいなにもわかっていた。
なんとかあと少し我慢すれば……
「それよりお兄ちゃん、いつも言ってるたい。れいなちゃんじゃなくてれいな、って呼んでって。」
「…いや…でも呼び捨てにしちゃうと悪いし…それに猫のほうのれいなとごっちゃになっちゃいそうでさ……」
「…そういや最近れいなうちに来ないんだけど元気にしてる?」
その人はれいなちゃんに聞いてくる。
少し意地の悪い問いかけ。

209 :れいな1/2 :05/02/03 22:09
「……あ……うん……元気にしとるよ。」
れいなは少し口ごもりながら答える。
その表情に動揺とも当惑とも言えないものが浮かぶ。
れいなにしてみればそう答えるのが精一杯だった。
無論、れいなだって猫になってその人の部屋に行きたかった。
だが……その途中、もしれいなを求める雄ネコに出会ってしまったら……
雄ネコの誘いを振り切る自信は正直れいなにはなかった。
もし、本能に任せて雄ネコと交わってしまったら……
そう思うと猫に変身することなどとてもできない。
「そう、それならいいんだけど。なんかれいながいないと寂しくてさ。」
「……そう?」
「……それに……ひょっとしたら俺、れいなに嫌われちゃってそれでれいなが来ないのかな、とか思っちゃってさ。」
「ううん、そんなことない。きっとれいなもまだお兄ちゃんのこと大好きなんだと思う。でも…多分なんか事情があって行けないだけだと思う。」
とれいなは頭を振った。

……その時、その人の表情にかすかに変化があらわれたことにれいなはまだ気がつかなかった……

210 :れいな1/2 :05/02/03 22:10
「ねえ、次どこへ行く?」
れいながその人に聞いた。
「どこでもいいよ。れいなに任せるから。」
「……お兄ちゃん、今れいなって呼んでくれたと?えへへ…うれしい。」
れいなはそう言うとその人の腕に自分の腕を巻き付けてくる。
「ねえ、れいな映画行きたいと。ね、行こっ。」
れいなは言い、二人は道を歩いてゆく。

ふと
「どうしたと?お兄ちゃん。ぼーっとして。」
れいながその人に声をかける。
「…いや…あ、ゴメン。なんでもないよ。」
「……ふふっ……お兄ちゃん、さっきお店でれいなに同じこと言ったと。」
「そうだっけ……」
れいなは腕にからめている自分のそれに力をこめた。
今、その人と一緒にいるこの幸せ。
れいなはそれをかみしめていた。
そして…れいなはその人に自身の身体をすり寄せる。
それは、れいなの中の猫の本能がそうさせていたと言っても良かった。
この人にだったら……あげてもいい……
いや……この人に自分を求めてきてほしい…
そしたら……こんな我慢をする必要もないのに……
「れいな……お兄ちゃんに出会えて良かったと…」
「どうしたんだ?いきなり。」
「ううん…さっ、映画行こっ。」
れいなはそう言うとまた腕を引っ張った。

234 :れいな1/2 :05/02/04 22:07
俺とれいなは映画館を出て街を歩いていた。
もう日も暮れている。
「…そろそろ帰ろうか。送るよ。」
俺がそう言うとれいなは
「…ね…これからお兄ちゃんの部屋、行っていいかな…」
と言った。
……そういえばここしばらくれいなは俺の部屋に来ていない。
さっき俺がそのことを言ったから気にしたのかな…
なんとなくそんなことを考えながら俺とれいなは部屋へ向かう。
「…ん…ああ、いいけど家の人心配しないのか?」
「平気たい。それにそんなに遅くまではいないもん。
あっ、ひょっとしてお兄ちゃん、れいなに泊まってほしいとか思っとると?いやらしか〜。」
そう言ってれいなは笑う。

…かわいい…

俺は心底そう思った。
年は少し離れているが、俺の…彼女。
その表情はコロコロ変わり、まるで猫のように愛くるしい。

まさか…本当に猫だったとは思いもしなかったが。
だが俺はもうれいなから離れることはできなくなっていた。

れいなが猫でも魑魅魍魎の類でもどうでもよかった。
正体がなんであってもれいなはれいなに違いないのだから。

やがて…俺たちが部屋の近所まで帰って来ると、どこからともなく猫の泣く声が聞こえてきた。

235 :れいな1/2 :05/02/04 22:08
にゃーお、にゃーお、にゃーお。

その声を聞いた途端、俺の腕をつかむれいなの手に力が入った。
「どうした?」
「ううん、なんでもないと。」
れいなは言った。

にゃーお、にゃーお、にゃーお。

その泣き声は次第に大きくなり、それに伴ってれいなの腕にも力がこもってゆく。

そして…泣き声とともにどこからともなく一匹のキジ猫が現れ、れいなの足元にまとわりついてきた。

にゃーお、にゃーお、にゃーお。

その猫はまるでれいなを求めるかのように泣き声をあげ、その身体をれいなに擦り付ける。
「もう、うるさいたい。あっち行くたい。」
れいなはそう言うと片足を振ってキジ猫を追い払うが、その猫はまたすぐにれいなのところに戻って来て再び足元にまとわりつく。
「お・・・おい、そんなに邪険にしなくたって・・・」
俺はそう言おうとしたが、れいなは
「いいかげんにするとよ。さっ、お兄ちゃん、行こっ。」
と俺の腕をつかむと早足で歩き出した。
背中ではなおも

にゃーお、にゃーお、にゃーお。

という名残惜しげな、未練とも取れる猫の声が聞こえていた。

236 :れいな1/2 :05/02/04 22:08
「なにもあんなに足げにしなくてもいいんじゃないか?」
俺はれいなに言った。
「別にかまわんたい。あいつ、好かんたい。」
「いや…そんなこと言わなくても…生きとし生けるものすべて兄弟、って言うし…
 それにれいなだって猫飼ってるんだから猫好きなんだろ?」
俺はさらに言う。

…れいなだって同じ猫…だったら仲間どうし仲良くしたって…

とはさすがに口には出せなかった。

「…だって…あいつ、うちのれいなのこと狙ってるんよ。」
れいなが言う。
「狙う?どういうこと?」
俺はれいなに問いかけた。
「だって…今…その時期だし…」
れいなのことばに俺は思い当たった。

…そうか…今、猫の発情期なのか…それでれいなを…
いや、まてよ…そうするとれいなもひょっとしてこの時期……

「…それでれいな…家から外に出せんと…だって…出たらきっとあいつと…」

れいなが言う。
…そうか…それでこのところれいなは俺の部屋に来なかったのか…
いや…待てよ…今こうして俺とれいなが一緒にいて俺の部屋に向かっているということはもしかして…

237 :れいな1/2 :05/02/04 22:10
そう考えてゆくうちに俺の頭の中を妄想が走る。
そして…次第に血液が下半身に集中していくのが自分でもわかった。
さすがにそれをれいなに感づかれるのはまずい。
それにれいなはまだ中学生…
立派な淫行…いや、そのまえに獣姦になってしまう。
俺は努めて冷静になろうとした。

「そうか。確かにれいな美人だもんな。オスたち放っておかないだろうな。」

…俺もその中の一人なのかも…
ともふと思ったが、さすがにそんなことは言えはしない。
「やっぱ飼い主としたら心配だもんな。」
俺がそう言うとれいなはちらっと俺の顔のほうを向いた。
そして俺は少し意地悪心を出してれいなに言った。
「…でも…れいなもそろそろお年頃みたいだからそのうちいいお婿さんでも…」
「…うん…そうかも…ね…」
れいなはそう言うと俺の腕をつかむ手に、さらに力をこめた…

258 :れいな1/2 :05/02/05 21:56
「おじゃましまーす。」
俺が部屋の玄関を開けるなりれいなは中へ入っていった。
「ひさしぶりっちゃー。」
…そうだな。確かにそうかも。
でも最後に来た時からまだ一週間ぐらいしか経ってないんだが。
「1ヶ月ぶりぐらいだっけ?ここへ来たの。」
俺は白々しく言う。
「…え…あ、うん。そうだっけ。前いつ来たか忘れちゃった。」
すこし当惑した返事。
そりゃそうだ。少し前まで毎日のようにここに来てたなんて言えるわけがない。
別に俺に対しては隠す必要はないんだが、やっぱりれいなにしてみれば自分は人間ではなく
猫だってことは隠しておきたい秘密なんだろう。
それに…その事実を俺に知られたとわかったら俺とれいなは…
まさかとり殺されるとまでは思わなかったが、それこそ雪女や夕鶴のような結末を迎えてしまうかも知れない。
俺もそれだけは避けたかった。
今さられいなと離れることはとてもできなかった。

259 :れいな1/2 :05/02/05 21:57
れいなはテーブルの横に座って雑誌などを眺めている。
俺はそんなれいなをいつしか頭の先から足の先までなめるように見つめていることに気が付いた。
無論、れいなに気づかれないように、だ。

…れいなが今日ここ、俺の部屋にこの時間に来たということは…
それに…今れいなは発情期だって……
さっきと同じように俺の頭の中を妄想が走り、欲望が頭をもたげてくる。
あとは…いつそのタイミングを…
いつしかおれの頭の中はそのことでいっぱいになっていた。

そんな俺の思惑を知るでもないれいなはさっきと変わらず雑誌を眺めている。
やがてそれも飽きたかに見え、
「ね、ビデオ見ていい?どんなのあると?」
とテレビの電源を入れるとラックの下のビデオをごそごそとかき出し始めた。
「あっ、そこは…ちょっと。」
俺が止める間もなく、れいなは一本のビデオを取り出すと
「やだあ〜お兄ちゃん、こんなの見とると?」
と声をあげた。

260 :れいな1/2 :05/02/05 21:58
それはいわゆるアダルトビデオ
しかも無修正の裏モノだ。
まさか今日れいなが部屋に来るとは思ってなかったのでそのままにしておいたものだ。
れいなが猫でいるときも俺は見たことはないはずだが、れいなもひょっとして存在は知っていたかもしれない。
「こらっ、返せ。子供が見るもんじゃない。」
俺は取り上げようとしたが
「れいなもう大人たい。返さんもんね。」
と小脇に抱え込んでしまった。
「もう。返しなさい。」
俺はさらに言うとれいなは
「…ね、れいなこういうの見たことなかとよ。アダルトビデオっていうの?いっぺん見てみたか。」
と少し甘えた表情で俺に言ってきた。

その時、俺は何かを期待したかのように無言でいるとれいなはさっさとビデオをデッキに入れ、
再生スイッチを押した。
画面には女の喘ぎ声とともに女優が男と絡み合っている姿が映しだされた。
裏モノだからもちろん局部もしっかり映し出されている。
れいなはあっけにとられた表情でなかば呆然とした様子で画面に見入っていた。
多分こういうビデオを見るのも初めてなのなら、男女のその部分を見るのも初めてなのだろう。
…まだ中学生…いや、それ以前に猫だから仕方ないのかもしれないが…

261 :れいな1/2 :05/02/05 21:59
「さ、もういいだろ。消すぞ。子供が見るもんじゃありません。」
俺はテーブルの上にあったリモコンを奪い取ると停止ボタンを押した。
画面が消え、同時に女優の喘ぎ声も途絶える。

そして…部屋の中にはなんともいえない沈黙が訪れた…

「…ジュースあったかな。ちょっと待ってて。」
俺はなんとかその沈黙を破ろうと台所へと立ち、冷蔵庫からペットボトルとコップを持ってきて
テーブルの上に置いた。
れいなは無言のままコップにジュースを注ぐとこくんと飲み干す。
再び部屋の中を沈黙が覆う。
やはりさっき見た映像はれいなには刺激が強すぎるようだった。

「…ねえ…お兄ちゃん…」
れいながおもむろに口を開く。
「お兄ちゃんも…ああいうの見てるの?」
「あ、あれは友達の寺田がここに置いてったんだよ。俺がちょっと興味があるって言ったらさ。
まったく寺田も困ったやつなんだぜ。」
…見え見えの嘘。
そんなことはれいなだってわかっているはずだ。
「…お兄ちゃん…ああいうのしたことあるん?」
れいなが聞いてきた。
「…んん…そりゃ…大学生だし…」
と俺は言葉を濁す。
するとれいなは
「…したいん?」
と俺に言ってきた。

262 :れいな1/2 :05/02/05 22:00
…これは…もしかしたらお誘いのサインか?
そういやれいな今発情期だし、そもそもここに来たのだって…
再び俺の頭の中を妄想と煩悩が駆け巡る。

これはチャンスだ。向こうから誘ってくれたんだからこんなラッキーなことはない。
据え膳食わぬは男の恥だ。抱け!抱いてしまえ。お前だってチャンスがあれば抱きたいと思ってたんだろうが!

いや、ここは自制だ。なによりれいなは中学生…いや、それ以前に猫…ひょっとしたら妖怪かもしれないんだぞ。
淫行の上に獣姦だぞ、獣姦。自制しろ、自制。

頭の中での葛藤とは裏腹に、再び俺の全身の血液が下半身に集中していく。
まずい…冷静にならなければ…
とは頭ではわかっていても俺の身体は、その欲望はもう止まらなかった。
「れいな…」
俺はそう言いながられいなのほうににじり寄ってゆく。
多分、その時の俺の目は欲望で血走っていたに違いなかった。
(後でれいなに聞いたらその通りだったそうだ)

そんな俺のただならない様相に、逆にれいなのほうは冷静さを取り戻していたようだった。

263 :れいな1/2 :05/02/05 22:00
「お兄ちゃん…どうしたと?ちょっと怖い…」
そう言ってれいなは少し身体を引こうとした。
だが俺はそんなれいなを逃がさないかのように両肩を掴む。
れいなの表情に少しおびえが浮かんでいたのを、その時の俺は気づかなかった。
「…お兄ちゃん……怖いと……」
れいなはさらに身を引こうとする。
俺は…れいなの肩をつかんだ手に力をこめ、さらに体重をかけてついにれいなを押し倒した……
「いやっ…やめて…お兄ちゃん……」
れいなは弱々しい声を吐いたが、俺は聞く耳を持っていなかった。
身体を押さえつけ、洋服に手をかける。
「いやっ!やめて、お兄ちゃん。」
身体をよじって抵抗するれいな。
だが、俺の欲望はもう止まらなかった。
俺はれいなに体重をかけて動けないようにすると、洋服のボタンを外してゆく。
れいなは
「やめて!やめて!やめて!」と言って抵抗するが、俺はそんなことに躊躇はしなかった。

264 :れいな1/2 :05/02/05 22:01
……れいなだってそのつもりでここへ来たんだろう……だったら……
そんな考えが俺の頭の中を支配していた。
やがて、抵抗するれいなの膝が俺の腹に入り、俺の動きが一時止まった。
れいなはその隙に身体をよじって俺の支配を逃れると後ろに下がって俺との距離を取る。

……俺はこのとき初めて冷静になることができた……
俺を見つめるれいなの表情には恐怖と嫌悪と侮蔑とが入り交じっている。
そして……その瞳には大粒の涙がにじんでいた……

「お兄ちゃんのバカ!大っきらい!」
れいなはそう叫ぶと、一目散に駆けだして俺の部屋から出て行った。
後には一人残された俺がいた……

286 :れいな1/2 :05/02/06 21:35
「アホやなあ、お前。せっかくのチャンスやったのに。」
寺田が言う。
俺はただ黙っているだけだった。
「美貴ちゃんと別れてずっとご無沙汰やったから溜まってたんやろうけど、ガッついたらあかんで。
しかも相手は中学生…ぐらいなんやろ。そりゃビビルわな。」
「……そうだよな……すっかり怯えた顔してたもんな……」
「大体お前もチェリーボーイでもないのに何でそんなことしたんや。」
寺田の批難に俺は答えることができなかった。
当然だ。自分でもなんであの時そういう行動に出たのか今となっては信じられなかった。
美貴とのときは…いや、そんなことはどうでもいい。
「ま、救いがあるとしたら相手が俺の言うたとおり人間やなかったんやから、
交わったとたんに憑り殺されんかっただけマシかもな。」
「そんなこと言うなよ……れいな……傷ついただろうな……」
「なんや、お前。そんなにその猫……いや、その子に惚れてるんか。ま、それやったら素直に謝ることやな。
こんなあたりまえのこと今さら言うまでもないやろけどな。
もしその猫…その子がお前のこと嫌いになってなかったらきっと許してくれるで。」

寺田の言うことももっともだ。
いや、寺田に言われるまでもなくあれから何度もれいなに電話したりメールを送ったりしてみたが一向に返事がない。
そもそもここまでに解決していたらわざわざ寺田に相談する必要もないし、悩む必要もない。

……よっぽど怒っていて…嫌われたんだろうな……

そんなことが容易に想像できるだけに気が重い。

287 :れいな1/2 :05/02/06 21:36
そんな思いを引きずりながら俺は部屋へと戻る。
今日もれいなにメールを打ったが、相変わらず返事はなかった。
失ってみてあらためて俺の中でのれいなの存在の大きさに気づいた。
……俺は……もうれいななしではいられなかった。

そんな気の重いまま俺が部屋に戻ると、玄関の前になにやら固まりのようなものがあった。
……れいなだった……
どうやら俺が帰ってくるまで玄関の前で待っていたようだ。
俺を見たれいなは にゃん と一言鳴くと、俺の胸に飛び込んでくる。
……どうしてれいながここに……俺…嫌われたはずじゃ……
そんな俺に考える暇を与える間をなくすかのように、
れいなは何度も にゃーん にゃーん と鳴き、俺の腕の中でその身体を擦りつけてきた。


俺はれいなを抱き上げて部屋へと連れて入る。
「もう外に出て大丈夫なんだな。恋の季節終わったのか。」
そう言ってれいなの頭をなでてやるとれいなは

にゃーん にゃーん  

と甘えたような声を出した。
やがて俺はそのまま壁にもたれかかると
「なあ…俺バカなことしちゃったよなあ……」
と、れいなに語りかけた。
端からみれば俺が猫を抱いて独り言を言っているようにしか見えない。
だが、俺は腕の中の猫が実はあの子だということを知っている。
そして…れいなは俺がそのことを知っているという事実に多分気づいてはいないはずだ。
この状況は俺にとってありがたかった。
たとえそれが同一人物で目の前にいようと、ワンクッションをおくことができる。

288 :れいな1/2 :05/02/06 21:37
「れいなちゃん……怒ってるだろうな……そうだよな……」
そんな俺の謝罪と反省の弁……いや、独り言をれいなはじっと聞いていた。
自分でも情けなく、女々しいぐらいの懺悔の言葉が飛び出してくる。
「な……俺たちまたうまくやっていけるかな……おまえ、どう思う?」
最後に俺がそう言うと、腕の中のれいなは俺のほうを見て

にゃん にゃん

と答えると、俺の腕の中から飛び出して玄関から出て行った。

その日の夜遅く、俺の携帯に1通のメールが入った。


今まで連絡しなくてごめんなさい。
あたし、気にしてないからお兄ちゃんも気にしないでね。 れいな



それからさらに数日が経った。
その間、れいながうちに来ることはなかったが俺は不安を感じることはなかった。
そう、れいなが俺を許してくれたのだから。
またうまくやっていけるさ。
なんとなくそんな安心感があった。
そして…いつものように部屋に帰ると、玄関の前にれいなが立っていた。
人間の姿。そう……学校の制服を着てれいなはそこにいた。
「お兄ちゃん、おかえり。」
れいなが言う。
「……れい……な……」
俺は言葉が出なかった。

289 :れいな1/2 :05/02/06 21:38

「寒いたい。ほら、早く中に入れるたい。かよわい女の子をいつまでも玄関の前に立たしといちゃいかんたい。」

……良かった……元のれいなだ……

俺はふとそんなことを思う。
待てよ……この前は部屋で襲ったからまた部屋に入れようとしたら警戒されるんじゃないか……
俺は玄関の鍵を開けようとして考えた。
「あ…部屋でいいのかな……どっかファミレスでも行こうか。」
俺なりに気を遣ったつもりだったがれいなは
「何言ってると。玄関の前で待たせた上に寒い中歩かせるつもり?早く部屋に入れてよ。」
と言った。

ドアを開け、またれいなを迎え入れる。
れいなはあの時と同じようにテーブルの横に座った。
「寒かっただろ。今コーヒー入れるから。」
そう答える俺は、自分でもわかるくらい浮かれている。
コーヒーを二つ入れ、テーブルの上において俺はれいなの向いに座った。

「この前は……ごめんな。あんなことしちゃって…」
「ううん……気にしてないたい。それに…あん時はあたしもちょっとヘンだったと……」

……それは……やっぱり発情……
そんなことを考えた。

290 :れいな1/2 :05/02/06 21:39
「今日はまた…どうしてここへ?」
「ん?彼女が彼氏の部屋来たらいかんと?」
れいなが言う。
「いや…そうじゃないけど…」
「れいながいない間、浮気でもされたら大変たい。」
「浮気って……するわけないだろ。」
俺とれいなは屈託のない話を続ける。
れいなと会話している俺の中に、安らぎと暖かなものが広がってゆく。
「それに…お兄ちゃん……気にしてるんじゃないかなって。」
会話が途切れそうになったとき、ふとれいながそう言った。
「ん……あ……ほんとごめんな。俺あの時どうかしてたんだよ。自分でもわからないくらい……
そんなガキでもないのにさ。」
俺が答える。
「あの…」
「ん?」
「あん時……ちゃんとやさしくしてくれとったらあたし……」
れいなは少し下を向いてそう言った。
「れいな……」
「あはは、なんでもないたい。じゃ、あたし帰るね。また来るから。」
れいなはそう言うと、こんどは明るい表情で立ち上がって部屋を出て行こうとする。
俺は咄嗟にその手を掴んでいた。
れいなは驚いて俺のほうを振り返る。
互いにそのまま時が止まったかのように動かなかった。
「れいな……」
「お兄ちゃん……」

291 :れいな1/2 :05/02/06 21:39
そして…俺とれいなは互いを見つめ合った。
やがて、どちらからともなく顔が近づいてゆく。
触れ合う唇と唇。
短い時間だったが、俺たちにとっては永遠とも思える長い長い時間だった。
しばらくして……俺はゆっくりと唇を離すと今度はれいなを抱きしめた。
華奢で、力を入れたら折れてしまいそうなれいなの細い身体。
俺は、れいなに対する感情を止めることができなかった。

「……お兄ちゃん……苦しいたい……」
俺の胸に埋めた顔を少し持ち上げてれいなが言う。
「……離したくない……帰らないでほしい……れいなが…ほしい…」
俺は言った。

「……今日は……そんなつもりじゃなかったのに……」
れいなが言う。
「……ご……ごめん」
俺はあわててれいなの身体を離す。
この前と同じことをしてしまったら、今度こそ取り返しのつかないことになってしまうに違いなかった。
だが、れいなを手放すことはもう俺にはできない……考えられなかった。
もう猫だろうと人間だろうとどっちでもいい。
だから今日はこれ以上れいなを縛るのはやめよう。
そう思ったとき……

292 :れいな1/2 :05/02/06 21:40
れいなは自ら俺の胸に顔をうずめてきた……
「……お兄ちゃん……さっき言ったと……ちゃんとやさしくしてくれたらって……」
俺たちはまた見つめ合い、そして再び唇を重ねた。
「……帰るの……遅くなってもいいかな……?」
俺はれいなに言った。
れいなはこくんとうなずく。
秋の日暮れは早い。
もうすっかりあたりは夜に包まれていた。

310 :れいな1/2 :05/02/07 20:40
俺はれいなをゆっくりとベッドの上に倒すと、れいなに今日何度目かのキスをする。
左手でれいなの頭を抱え込み、右手で制服の、ブラウスのボタンを外してゆく。
れいなの下着があらわれた。
中学生らしいシンプルなデザインのもの。
俺ははだけたブラウスをそのままに下着に手をかけようとする。
「待って……制服……シワになっちゃう……」
れいなはそう言うと自らブラウスとスカートを脱いで下着姿になり、再びベッドの上に横たわる。
「……れいな……初めてやけん……やさしくしてね……」
俺は今度は両手でれいなの頭を抱え、また唇を重ねる。
絡み合う舌と舌。
俺の右手は、れいなの頭を離れて胸へと降りて行き、下着をたくしあげた。
あらわれたれいなの乳房。
重力でつぶれているとはいえ、それを差し引いてもお世辞にも大きいとは言えない小ぶりな乳房。
「胸…小さいけん、恥ずかしいたい……」
か細い声でれいなが言う。
「……そんなことない……きれいだ……」
俺はそう言ってれいなの乳房に触れる。
その瞬間……れいながぴくりと反応した。
「……冷たい……」
そう小さく声を漏らした。
俺はそのまま手のひらでれいなの胸を撫でる。
指先でその先端にある小さな突起をつまんだ。
また…れいながぴくりと反応する。

俺は手をれいなの背中に回し、ブラのホックを外し、れいなの身体を起こした。
左、そして右と肩紐を外してブラを脱がせ、ベッドの上に置く。
胸を覆うものがなくなったれいなは恥ずかしさのためか手で胸を隠していたが、俺はその腕をつかんでゆっくりと広げた。
そして再び自分の右手でれいなの胸、そして乳首を撫でる。
れいなは目を閉じて懸命にこらえていた様子だったが……次第にその唇から吐息が漏れてきた。

311 :れいな1/2 :05/02/07 20:41
俺は右手を徐々に下ろしてゆく。
乳房から脇腹へ、そして臍の周りへ。
さらに太股の外側から内側に移動させてれいなの両足の付け根に触れた時…
れいなはまたぴくりと身体を反応させ、両足を閉じて俺の右手を締めつけた……

俺はれいなの顔を見る。
れいなもまた、目を開けて俺を見た。
「……ごめん……これまで触られたことないけん……つい……」
「……大丈夫……やさしくするから……」
俺はまた両腕でれいなの頭を抱え、しばらくそのままの姿勢でれいなを抱いていた。
れいなの緊張を少しでもほぐしてやりたかった。
猫なのに、初めて交わる相手が同族ではなく人間。
れいなは今、何を思っているのだろう。
だが、れいなが人間の姿をしている以上、れいなを人間の女の子と同じように扱ってやりたかった。
多分、れいなもそれを望んでいるはず……

やがて…俺の右手は再び動きはじめ、れいなの両足の付け根へと達する。
れいなは今度も両方の足に少し力を入れてきたものの、さっきとは違いすぐに力を抜いて俺の手を受け入れる。
俺は布越しにれいなのそこを何度も何度も撫でていった。
次第に布に湿りけがしてくるのがわかった。
れいなはさっきと同じように目を閉じてこらえているが、次第に吐息が漏れてくる。
俺の肩を掴む手にも力が入る。

徐々にれいなを快感が包んでいっていることは明らかだった。

312 :れいな1/2 :05/02/07 20:43
俺はれいなのそこを撫でていた手を、今度は布の中にすべり込ませてゆく。
そこで俺の指先が感じた感触……
れいなぐらいの年の子なら当然あって然るべき芝生の感触は感じることはできず、ただ子供のような肌があるだけだった。

……やっぱり……人間のここがどうなってるか知らないから他のところと同じようにつるつるなんだ……

と、妙に冷静なことを考える。
だが、そうまでして人間の姿でいようとしているれいなを俺はとてもいとおしく思えた。

そして……指先に触れたれいなのそこは、人間の女の子とまったく同じそれであり、しかも人間と同じように充分に潤っていた……

俺はしばらくれいなのそこを手のひらと指で愛撫する。
れいなの吐息は徐々に荒くなってゆく。
俺が手を回してれいなの履いている下着を取り去ろうとすると、れいなは少し腰を浮かせて外しやすくする。
左足…そして右足をれいなは抜き、ベッドの上にはとうとうれいなの素の姿があらわれた…

れいなは恥ずかしいのか顔を手のひらで覆っている。
……猫のときはいつも裸なのに……やっぱり人間のときだと感覚も違うんだろうか……
ふとそんなことを思う。

「顔よく見せて。」
俺はまたれいなの手を開いてその顔を見た。
「……恥ずかしいたい……」
顔を赤くしてれいなが言う。
「……恥ずかしくなんかないよ…きれいだ……」
俺はれいなに言った。

そう……確かにそのとき、れいなはこれ以上ないほどきれいだった。

313 :れいな1/2 :05/02/07 20:44
俺は自分の着ていたものを脱ぎ捨てる。
ベッドの上に、互いのすべてをさらけだした俺とれいながいた。

俺の身体の下にいるなにも身にまとっていない裸のれいな。
俺はれいなの両足を開き、その間に自分の身体を割り込ませてれいなを抱いている。
俺の唇はれいなの唇や首筋、そしてれいなの胸の先端の突起などにキスの雨を降らす。
俺の右手はさっきからずっとれいなの胸、そしてれいなの大切なところを愛撫していた。
れいなの女の子のその部分を、時には溝に沿って指を這わせ、時には溝の左右にある襞を左右にぷるぷると震わせる。
さらに指の先を少し中に入れてその入り口付近を刺激する。
れいなのそこはすでに充分すぎるほどに熱く潤い、身体の中から出た液体が俺の指にまとわりついてくる。
「…あっ…はあっ…んんっ…あはあっ……」
れいなは俺の愛撫に刺激され、そのたびに喘ぎ声を漏らした。
その両手はある時は俺の背中に巻きつけ、またある時はシーツをつかんで懸命にその手に力をこめた。
時折全身がぴくりぴくりと小さく痙攣し、すでに何度も軽く昇りつめていることがわかった。
れいなの身体は、もう充分に俺を受け入れる準備を整えていた。
「……好きだよ……れいな……」

俺はそう言うとれいなの唇に自分の唇を重ね、両手でれいなの髪をなでてその潤んだ瞳を見つめた。
俺は何も言わなかったが、れいなは俺が何をしようとしているのかわかったらしく、
こっくりと頷いた……

314 :れいな1/2 :05/02/07 20:44
獣姦か……とうとう俺も……
ふとそう思ったが、俺はもう後へは戻れなかった。
猫だから後ろから……いや、人間の姿だからやはり前……
などと妙なことが頭に浮かぶ。

俺はれいなのおしりを抱えて少し上に向けた。
れいなの女の子のそこも一緒に持ち上げられて上を向き、
俺の分身と正面に向き合ってその照準を定め、俺を迎え入れる態勢を整える。
天を向いていたれいなの足は自然に折れ曲がって、あたかも赤ん坊がおむつを
取り替えてもらうときの姿勢になった。

「…力…抜いて……」
そして……俺は手を添えて自分の分身をれいなのそこへあてがうと、ゆっくりとれいなの中へと侵入を開始した……
れいなの表情が苦痛にゆがむ。
破瓜の痛みに懸命に堪えているれいな。
侵入を開始した俺の分身をれいながくるんでゆき、同時に俺の心と身体も溶けそうな感覚に包まれてゆく。

れいなは初めて受ける痛みに少し顔をしかめて低いうめき声をあげるが、
俺の背中に腕を回してしがみつき、懸命にその痛みを堪えていた。
ぶちぶちっと肉が裂け、ちぎれる音が聞こえた気がした。

・・・そして・・ついに俺たちは一つにつながった・・・

315 :れいな1/2 :05/02/07 20:45
「れいな……」
「…痛い…けど…大丈夫…我慢する…」
目に涙を溜め、脂汗を浮かべ、途切れがちの声でれいなが答える。
俺たちはしばらくそのままの状態でいたが、やがて俺はゆっくりと腰を前後に動かしてれいなの中で分身を動かし始めた。
「…ううっ…ううっ…んっ…んんっ…」
れいなはそのたびに、苦痛と快感の入り混じった吐息を漏らす。
「…痛いか…?れいな…」
「…ううん…気持ちいい……」
れいなはそう言うが、俺はそのれいなの言葉が全部本当でないことをわかっていた。
俺の背中を、腕をつかむ手に力が入る。
だが…俺にはもう自分自身を抑えることができない…
れいなが欲しい…れいなをもっと自分のものにしたい…
俺の頭の中はそのことで一杯だった。

次第に俺の動きが早くなり、俺は限界を迎えつつあった。
「…れいな……れいな……」
俺はうわごとのようにれいなの名前を呼ぶ。
れいなは俺の背中と腰に巻き付けている自分の手足に力を込め、俺の身体を離すまいとばかりに懸命にしがみついてきた。
「…れいな…何を…」
「……あたしも…おにいちゃんの全部が…欲しい…」
喘ぎ声に混じりながられいなは言った。
そして…俺はれいなの中に、自身の熱い精を注ぎ込んだ…
何億もの俺の遺伝子たちがれいなの中に放たれ、そして溶けていく…・・・

しばらくして…俺がゆっくりと腰を引いてれいなから分身を抜くと、れいなの中に放った液体が逆流して流れだし、シーツに染みを広げた。
その染みは、れいなの初めての証と交わって赤くにじんでいた……

316 :れいな1/2 :05/02/07 20:46
行為が終わり、俺の頭の中は次第に冷静さを取り戻してゆく。

……とうとう俺も獣姦経験者の仲間入りか……
それに確か……猫って交尾の刺激で排卵するから必ず妊娠するんだよな……
だとしたら……れいなも……妊娠期間って2か月だっけ……
いや……人間と猫だとそもそも種が違……いくら人間の姿してるからって……まさかな……
俺たちはしばらくそのまま裸で抱き合っていた。

少しばかりの後悔と迷いが俺を包む。

れいなはそんな複雑な俺の胸のうちを知ってか知らずか、俺の腕に頭を乗せて横たわっている。
しばらくして……れいなはむくりと身体を起こし、制服から携帯電話を取ると
「……うん……今日、友達んとこに泊まるから。大丈夫。明日学校休みやし。うん…心配せんといて。」
とおそらく家にだろう、電話をした。

そして、俺のほうへ向き直り、
「……お兄ちゃん……ごめん……実は……今までお兄ちゃんに内緒にしとったことあるとよ……」
と俺に向かって語りかけた。

317 :れいな1/2 :05/02/07 20:47
「ひっどーい。じゃお兄ちゃん今までれいなのこと化け猫だと思っとったと?」
「ご、ごめんごめん。いや、まさかそんなことが現実にあるなんて。」

れいなから話を聞かされても俺にはにわかに信じられなかった。
昔そういうマンガがあったが、そういうのはマンガの中だけだと思っていた。
それに比べれば化け猫だとか、猫が人間の姿を取ってあらわれるほうがよほどありそうだと思えた。
だが、れいながそう言う以上、そっちが本当なんだろう。

じゃあ俺は中学生の、まだ毛も生え揃ってないれいなに手を出した上、最初1か月近くもこの部屋に軟禁してたというのか?
まんま犯罪じゃんか。
しかも……深く考えずに中に出してしまうというオマケつきだ。
ひょっとしたら…いや、ひょっとしなくても猫を相手にするよりもヤバいんじゃないのか。

「そうたい。お兄ちゃんは立派な犯罪者たい。なんかあったら…
…ううん、なくてもちゃんと責任取ってもらわんと。もう逃げられんとよ。」
笑ってれいなが言う。
「ま……今日は多分大丈夫だと思うけどね。」
ともつけ加えた。
「……でも……れいなだってちゃんと最初に言ってくれれば……」
「だって……帰ったらいきなり部屋に裸の女の子がいたらお兄ちゃんどうすると?」
「そうだな……確かにそれは……」
「それに、服とか黙って着て帰ったらお兄ちゃんきっと泥棒に入られたと思って大騒ぎするたい。なるべく迷惑はかけられんと。
……それに……できたらお兄ちゃんとちょっとでも長くいたかったたい。だから……」
れいなが言う。

318 :れいな1/2 :05/02/07 20:48
「それにしても……いや、家に戻った後からもしょっちゅうここに入り浸ってたろ。よく家の人何も言わなかったな。」
「うん……家出るのはたいてい夜やったし……お母さんも猫のままやったら別にいいって……
でもばれたら大変やからそれだけは気をつけるようにって……」
う〜ん、おおらかというかなんというかよくわからない家族だ。
万一のことがあったらどうするつもりだったんだろう。
人の家族ながらそんなことを思った。

だが、俺にとってはれいなが人間であることがわかってひとまず安心といったところだ。
そりゃ中学生に手を出したということは別だが。

ベッドにもたれかけ、れいなは俺の肩に頭を乗せている。
俺はそんなれいなの肩を抱いてやっていた。

「でも……本当のことがわかったらこれからは膝の上に乗せたり一緒に布団で寝たりできなくなったな……」
俺が言う。
「……残念だと思ってる?」
「……ちょっとな……」
「……れいなは人間たい…」
少し怒ったような声でれいなが言った。
「……そうだよな……ごめん……」
俺はれいなの肩を抱く手に少し力をこめた。
「……でも、お兄ちゃんが望むんならいつでも猫になってもいいとよ。」
そう言うとれいなはにひひ、と笑った。
「そうだな……たまには猫になってもらうかな。」
俺はそう言ってれいなを見て笑い、もう一度れいなの肩を抱いて自分のほうに引き寄せた。

(了)


325 :れいな1/2・おまけ :05/02/07 22:31
やれやれ…っと。
今日もバイトを終えた俺は自分の部屋へと帰る。
食事を済ませ、風呂に入ってテレビを見てくつろいでいると、窓のほうからカリカリという音が聞こえてきた。
俺が窓のほうへ寄ってカーテンを開けると、そこにはれいながいた。
俺が窓を開けてやるとれいなは にゃん と鳴いたかと思うと俺の胸に飛び込んでくる。
俺はそのままれいなを抱くとまたテーブルの前に座ってテレビを見た。
膝の上にはれいながいて、俺はれいなの頭を撫でてやる。
れいなは時折 ううーん ううーん と鳴き声とも甘え声ともいえない声を出し、咽をゴロゴロと鳴らす。
すっかり安心してくつろいでいるようだ。

しばらくするとれいなは俺の膝の上から立ち上がると、バスルームの中に姿を消した。
シャワーの音がして、やがてそれが止まるとれいながバスタオルで身体を拭いながら出てきた。
バスタオルを巻いているとはいえ、その姿はとてもなまめかしく、色っぽく見える。
れいなはそんな俺に頓着する様子もなく、
「お兄ちゃん、パジャマ貸してね。」と言うとバスタオルを外して下着もつけずに俺の寝巻きを着る。
その刹那に視線に入ってくるれいなの一糸まとわぬ姿。
れいなの顔も、胸も、そして…その部分も。
特にれいなのそこは、無毛ゆえにその外形だけでなくともすれば中身までが見えてしまいそうで、見ているこちらのほうが恥ずかしい。
俺はつい視線をそらしてしまう。

れいなは
「えへへー、こんばんわ。お兄ちゃん。」
と言うと俺の隣に座った。

326 :れいな1/2・おまけ :05/02/07 22:32
「…別にわざわざ猫になって来なくてもよかったんじゃないか?」
「だって夜道の一人歩きは危ないたい。こっちのほうが安全だもん。」
そう言うれいなの襟元から鎖骨や胸にかけての部分がちらりちらりと見え隠れする。
「そりゃそうかも…その…いや、別にいいけどさ。下着ぐらい…」
「だって、下着なんて持ってきてないと。というか持ってこれるわけないと。それともお兄ちゃんの部屋に置いといてくれる?」
「いやそれは…それに…もうちょっと恥ずかしがっても…」
「なんで?れいなとお兄ちゃんはもう他人じゃない関係たい。お兄ちゃんれいなの全部を知ってると。」
「そうかもしれないけど…その…無いから丸見えなんだよ…なんかさ…余計にエロく感じて…その…」
「もう!お兄ちゃんのエッチ!」
れいなは顔を赤くして俺の肩を叩く。
「れいなだって…もうちょっとしたら他の女の人みたいにボーボーになると…
と小声で言った。

そうか…やっぱりそのこと気にしてるのか…
と俺は思った。

327 :れいな1/2・おまけ :05/02/07 22:33
しばらく俺とれいなは何をするでもなくテレビを見ていた。
「ね、こないだうちのお父さんと会ったんでしょ?何話したの?」
れいなが聞いてきた。

そう…この前れいなを家に送っていったとき、ちょうどお父さんがいて俺に家に上がれと言ってきたのだった。
その時…正直、俺は緊張した。
年端もいかないれいなに手を出したなんて知られたら、殴られても仕方がないと思っていた。
「…怖かったよ。いきなり表情変わって『秘密を知ってしまいましたね。もうあなたは私たちから逃れられませんよ』
なんて言ってくるんだもんな。それこそ雪女の怪談かと思った。」
「あはは。お父さんそういうの好きだから…いつかそのセリフ言ってやるって昔から言ってたと。
それに…仕方ないたい。れいなの大叔父さん、そのたびに化け猫だ、って言われたり見世物にされそうになったりで何回も引っ越したと。
それで結局結婚もせんかったらしいけん、苦労したみたいよ。」
「…そうだろうなあ…大変だよなあ…」
「でもれいなにはお兄ちゃんがいると。これからずっと一緒にいようね。」
れいなはそう言って俺の肩に頭を乗せてくる。

…いかん…またれいなを襲ってしまいそうだ…我慢我慢…
と思いつつも俺の血液は下半身に集中する。
れいなはそんな俺に気づいたようだ。
「お兄ちゃん、イヤらしか〜。もうこんなにしちゃって。」
「う、うるさいな。その…れいながそんな格好だから…」
「れいなのせいにすると?ずる〜い。」
れいなはそう言うと今度は俺にぴったりと身体をくっつけてきた。
その目には意地悪な光が宿っている。
布一枚を隔てたれいなの胸、そして肌がぴったりと俺にくっつく。
「お…おい、お前今ノーブラだろ…それに下も…そんなにくっついたら…」
「だって、習性たい。仕方ないと。」
…もうダメだ…
俺はパジャマのれいなを抱きしめると、そのままキスをした……
…そう、確かに俺はれいなから逃げられない……

328 :れいな1/2・おまけ :05/02/07 22:33
「…なあ、ほんとにいいのか?こんなに俺の部屋に入り浸っていて。」
髪を撫でながら俺はれいなに言う。
まだ中学生なのに…またれいなを抱いてしまったことへの罪悪感。
「ちゃんとやることはやってると。成績だって下がってないし。
お母さんは妊娠だけは気をつけなさい…って。」
「…なんか理解あるな、れいなのお母さん。ちょっと変わってるのかな。」
れいなが言う。
「早く…ずっといっしょにいられるようになるといいね。」
「でもだいぶ先の話だな、それ。」
「でもあっという間たい。」
「…そうだな。案外すぐなのかもな…」
俺はそう言ってまたれいなの髪をなでてやった。

329 :れいな1/2・おまけ :05/02/07 22:34
「…そろそろ…帰るたい。」
れいなが言った。
「もう帰るのか?」
「…うん。妊娠もそうだけど、わかっちゃった以上お泊りはまだダメだって。だから…」
その表情には少しさびしさが浮かんでいる。
「…なんか、するためだけに来たみたいたい。
ほんとはもっとたくさんお兄ちゃんと話しようと思っとったと。」
「ごめんな…」
「ううん。れいなは今幸せたい。今日だってお兄ちゃんをいっぱい感じることができたもん。
ね、こういうの通い妻、っていうんだよね。」
れいなは言った。

通い妻…か。確かにそうだよなぁ。
いっしょに出かけることもあるけど
たいていれいなが部屋に来て、しゃべって…することのほうが多いよなぁ。
…ちょっと反省…
「な、今度の日曜空いてるか?」
俺はれいなに言う。
「いいよ。じゃあ朝ここに来るね。」
「どっか行きたいとこ考えといてくれよ。」
「考えとく。でも…もしなかったら一日ここにいていい?
今お母さんにお料理教えてもらってるんだ。お兄ちゃんに作ってあげるよ。」
れいなが言った。

330 :れいな1/2・おまけ :05/02/07 22:35
「じゃ、そろそろ送っていくよ。」
「いいよ。ちゃんと一人で帰れるたい。」
「そうはいくか。何かあったらどうするんだよ。
大体初めて会った時だって車にはねられて毛皮になる寸前だったんだろうが。」
「…わかった…」
れいなはそういうとパジャマを脱いで裸になるとバスルームの中へ入ってゆく。
シャワーの音がして、しばらくすると中から一匹の猫が姿をあらわした。

俺はその猫を懐の中に抱いて夜道を歩いている。
「寒くないか?」
俺がそう言うとその猫は にゃん と鳴いた。
やがて俺は一軒の家の前に立つ。
二階の一部屋に明かりがついており、窓が少し開いている。
「ついたぞ、れいな。」
俺は着ていたブルゾンのファスナーを下げてその猫を懐から出してやる。
そして
「おやすみ、れいな。」
と、頭を撫でてやった。
その猫は にゃん と鳴いて俺の顔に頭をすり寄せ、ぺろりと俺の顔を舐めると、
名残惜しそうに二・三度振り向いて俺を見、その後屋根を伝って部屋の中へと消えていった。

(了)

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