Reina_Express_
- 40 :Reina_Express_ :04/09/03 00:09
- 午後10時30分。
普通の会社員なら、当然のように仕事を終えている時間だ。
しかし、俺の仕事はそうではない。
これからの30分が、俺の仕事の本番と言っても過言ではない。
「こんばんは、ニュースエクスプレス2230の時間です。
きょうの特集は、横浜市で行われているゴミ分別の取り組みです」
キャスターが第2スタジオで喋りはじめた。
これはやばい、時間が無い。
「編集さん、とりあえずそこまではOKです。
あとは市長のインタビューを使います、15秒くらいで」
「はいはい、大丈夫ですよ・・・(放送まで)あと何分?」
俺は腕時計を見る。「・・・えっと、7分です」
編集はつぶやく。「余裕だな・・・」
薄暗いテレビ局の編集室では、至る所で今放送中のニュースの編集が行われている。
俺の仕事は、記者。
東京で主に「News Express2230」という番組を担当している。
去年までは警視庁担当であらゆる事件を追いかけていたが、現在は環境省の担当。
まあ、平和なニュースのほうがいいよ、俺には。
きょうもゴミ処理の問題を取材して、3分ほど放送に入れる。
「はい、出来たよ、持っていって」
「はい、ありがとうございます!」俺は編集テープを持って、副調整室に走った・・・。
- 41 :Reina_Express_ :04/09/03 00:10
- 「きょうもお疲れー」
ニュース後の反省会。きょうは大きな問題も無く、放送が終わった。
報道局のフロアに番組のスタッフが揃う。
デスクが記者陣に対して総評を述べる。
そして、俺の番だ。
「ま、ゴミ問題。無難に出来たんじゃないの。あ、あと、ちょっと後で俺のところに来てくれ」
「・・・は、はい」
???何だろう。反省会後、俺はデスクの元に向かった。
「あの、デスク、何でしょう?」
「あー、あのな、ちょっとお前にやってほしい特集があってな」
「はい」
「えっとな、モーニング娘。って知ってるか?」
「ええ、まあ」
「それ。モーニング娘。の特集」
え????
「で、デスク、それは文化芸能部がやるものでは・・・?」
「いやな、最近モーニング娘。は環境問題についての活動を多くやってるらしいんだ。
環境省も一枚噛んでるらしいじゃないか」
「ま、まあ、それは知ってますが・・・」
「結局、芸能部が環境について勉強するより、報道部が芸能を勉強したほうが早いって判断らしいがな。
スポンサーの意向もあるし、ちょっとお願いできないか。環境に取り組むアイドル、って切り口で。まあ、時間の余裕はあるんで」
「そうですか、そういうなら・・・・」
俺は早速文化芸能部の担当スタッフから話を聞き、取材の準備に入った。
- 42 :Reina_Express_ :04/09/03 00:11
- とりあえず、モーニング娘。に話を聞かなければどうしようも無い。
しかしどうも忙しいらしく、スケジュールの調整に難航した。
スポンサーの名前を出すと、事務所は「インタビューには応じます」と答えてはくれるが、
時期は未定らしい。
「とりあえず彼女たちが参加する環境関係のイベントをつぶさに取材しながら、インタビューの許可を待つことにします」
こうデスクに報告し、俺は報道フロアから廊下に出た。
テレビ局の廊下には訳の分からない小道具が散乱し、ADが行き交っている。
いつものようにぶらぶらと玄関に向かっていると、スタジオのほうから声がした。
「お疲れ様でしたーーーー」
・・・この声の輪唱。多分、12人の輪唱。
モーニング娘。が番組の収録を終えて、出てくるところだった。
うちの局の歌番組だろう。やっぱり、歌番組優先だよな、ニュースより・・・
俺がそんなことを考えていると、12人がこちらに向かってきた。
仕事柄背広着用の俺に、モーニング娘。はきちんと挨拶をしてきた。
- 43 :Reina_Express_ :04/09/03 00:11
- 「お疲れ様でした!」
きちんとした挨拶、そうでもない挨拶、疲れてそうな挨拶・・・
まあ、12人もいればそれぞれだ。
12人に会釈を繰り返していると・・・
「お疲れ様でした!!!」
一際元気な挨拶が俺の耳に飛び込んできた。
声の方向を見ると、小さな女の子が俺の眼をしっかりと見ている。
俺と眼が会うと、女の子はにこりと笑みを浮かべ、会釈をして歩いていった。
すごいな、社会人生活4年の俺よりも、いい挨拶が出来るよ。
スタイルもいいし、小さくて可愛いし、さすがトップアイドルだよな・・・
・・・あ、でもあの子って何て名前だっけ???
俺はバックを探り、芸能部から貰った雑誌をめくる。
「田中、れいな、か・・・最年少なんだ・・・」
俺はぶつぶつ呟きながら、社屋から自宅に向かった。
きょうは歌番組でも見ようか・・・・
- 44 :Reina_Express_ :04/09/03 00:12
- その後、1ヶ月が経った。
モーニング娘。は環境万博のPRを精力的に行っていた。
俺は各所に取材に行ったが、芸能担当者の厚いガードもあり、
せいぜい一辺倒の取材とぶらさがり(共同インタビュー)程度しか出来なかった。
これじゃ、単なるPRで、ニュースの価値がないじゃん・・・
俺が困り始めたころ、事務所から連絡が来た。
「インタビュー、日程が決まりました。12人を3日に分けて行いますけど、大丈夫ですか?」
「あ、いいですよ、そちらのお望みどおりに・・・」
2日後、事務所からFAXが届いた。
9月1日(20時〜)矢口真里→吉澤ひとみ→紺野あさ美→高橋愛(21時まで)
3日(14時〜)道重さゆみ→田中れいな→小川麻琴→新垣里沙(16時まで)
4日(20時半〜)亀井絵里→石川梨華→藤本美貴→飯田圭織(22時まで)
・・・・・。
不満を言ったらきりが無いが、まあしょうがないか・・・
1日目の時間が短いけど、まあ最後がリーダーってのは希望が通ったのか・・・
とりあえず、俺は質問項目の確認に入った。
事務所には一通りの項目は伝えてあるが、それだけじゃ面白くない。
なにか、面白いコメントが取れれば・・・俺はそう考えていた。
- 45 :Reina_Express_ :04/09/03 00:14
- そして、9月1日。
俺は社内の小さなスタジオで、彼女たちを待っていた。
時間が短いので、カメラや照明のセットは完璧に終わっている。
すると、廊下から賑やかな声がした。
「ニュースの取材って、いつもと違って緊張するーーー!きゃはは」
「矢口さん、なんか悪いことでもしたんですかあ?」
「そんなことないよ、よっすぃーこそ・・・」
俺はスタッフと顔を見合わせて苦笑する。ま、仕方ないか。
ドアが開く。
4人の可愛い女の子が姿を表した。
「おはようございます!よろしくお願いします!」
「はい、こちらこそ。ニュースだからって緊張しないで、お願いしますね」
「はい!!」
「それじゃ、矢口さんから・・・」
・・・・・。
- 46 :Reina_Express_ :04/09/03 00:15
- 次の日。
俺は報道部の自分の机で頭を抱えていた。
見かねて、同僚が声をかける。
「おい、大丈夫か?取材、そんなにうまくいかなかったのか?」
「いやー、うまくは行ってるんだが・・・」
「・・・それじゃ、なんだ?また体調が悪くなったのか?」
「いや、身体は落ち着いてるが・・・どうもつまらないんだよ」
「つまらない??」
「モーニング娘。の皆さん、確かに話はうまい。こちらが欲しいコメントはくれるんだけど、
はっきり言ってそれはこっちの予想の範囲なんだよ。
何か、あっと驚くような、どこでもまだ喋ってないようなコメントが欲しいんだが・・・」
「ふーん、まあ、同じ記者として気持ちは分かるがね。それにしても、お前真面目だな。
別に流してもいい取材だろ」
「はは・・・まあ、いつまで記者やってるかも分からないしね、異動とかいろいろ・・・」
同僚は苦笑しながら取材に出かけていった。
昨日のことは仕方ない、あすのシミュレーションでもしよう。田中ちゃんも明日だし・・・
- 47 :Reina_Express_ :04/09/03 00:16
- 次の日。インタビューは道重ちゃんから。
「そうですねえ、私も娘。の中の環境副大臣って呼ばれてますんで、責任みたいなのは・・・」
・・・・・・。
「はい、ありがとうございました、これで終わりです」
「お疲れ様でした。次はれいなですね、ちょっと呼んできます」
まあ、こんなものかな。多少良いコメントも取れたし。
よし次だな。
「おはよーございますーーー!!!」
耳をつんざく元気な声が、スタジオに響いた。
「・・・よろしくお願いします。田中さん、元気ですね・・・」
「はい、元気ですよー。あ、記者さん、最近よく娘。の取材に来てる人ですよね」
「あ、ああ、うん、そうだね・・・」
よく覚えてるな・・・
「それで、どんな話なんですか?私、ニュースの取材って初めてなんです」
「あ、別にいつものとおり普通に答えていいですよ。環境についての話で」
そして、インタビューが始まった。
- 106 :Reina_Express_ :04/09/04 00:28
- そして、インタビューが終わった。
うん、この子のコメントは使える。なかなかいい受け答えだな。
すると、事務所の担当が神妙な顔でこちらに近づいてきた。
「あとの2人、小川と新垣はちょっと遅れるみたいで・・・前の仕事が押して・・・
30分ほど待ってもらえますか?」
「あ、はいはい・・・」
俺は事務所の担当から顔の向きを戻す。
・・・すると、田中れいながいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
さっきまでの仕事の表情とは、ちょっと違う。
???
「田中さん???」
すると、れいなは俺に言った。
「記者さん、れいなのこと好きなんでしょ?」
「ええ???」
「だっていつもれいなのこと見てたし・・・取材の時・・・」
- 107 :Reina_Express_ :04/09/04 00:29
- れいなはにひひ、と笑う。このお子さんは、まったく・・・大人をからかっちゃいけないよ。
「田中さん・・・」
「はい??」
「そのとおりです、好きです」
「えええ???」
れいなは途端に真っ赤になって、俯く。
俺は心の中では笑っていたが、真面目な顔をしていた。
れいながさらに焦る。
「そんな、お互いのことをまだよく知らないし・・・困るたい・・・」
焦りが、普段使わない訛りになって出てきたようだ。俺の悪戯心がさらに疼く。
「大丈夫ですよ、時間なんて関係ないですよ、愛情には」
「え?え?・・・」
さらに挙動不審になるれいな。落ち着かない様子で顔を動かし、スタッフを見たり俺を見たり。
「もうそこらへんにしましょうよ、田中さんも困ってるし・・・」
・・・さすがにカメラマンが、れいなに助け舟を出した。
「は、はい??」
れいなは意味もわからず返事をする。
・・・そして、俺の悪戯がバレたようで、むくれてしまった。
- 108 :Reina_Express_ :04/09/04 00:29
- 「記者さん、冗談きついばい。乙女の心をもてあそんで・・・」
「ごめんなさい田中さん。田中さんへのあまりの愛情が、俺の心を狂わせたんで・・・」
俺の更なるアホ発言に、カメラマンはもう呆れて何も言わなかった。
「もう、記者さん困るたい・・・」
れいなはもうさすがに動揺はしなかったが、赤い顔でむくれた様子を見せていた。
「ホントすみません・・・さすがにやりすぎました」
俺はとりあえず謝り続けた。
・・・30分後、れいなは機嫌を取り戻して帰っていった。
「記者さん、またねー!!・・・ちょっと面白かったですよー」
危ない危ない。
俺、子供の頃から可愛い子や好きな子をからかいたくなるんだよな・・・
まったく、成長してないよな・・・ホント。
ほっとした俺に、カメラマンがにやにやしながら近づいてきた。
「今のやりとり、全部撮っておきましたから」
・・・オイ!!
- 222 :Reina_Express_ :04/09/06 00:12
-
さて、インタビューも佳境に入った。
最終日、最後の相手は、リーダーの飯田さん。
総括的なこと、個人的なことを質問する。
・・・時間が余ったので娘。のメンバー各自についても質問してみた。
「藤本さんって、どんな人なんですか?」
「うーん、見た目は怖くて適当に映ることもあるけど、真面目な子だと思いますよ。
環境についても勉強してたし、表敬や取材の相手にもきちんとしてますよ」
「そうですね、さっきもそうでしたね・・・田中さんは?」
「元気で、熱心ですよ。なんか、私よりも大人みたいなところもあるし、
やっぱり子供みたいなところもあるし・・・あ、そうそう」
飯田さんは身を乗り出して、俺に言った。
「これは放送に使っちゃだめですよ・・・
れいな、記者さんをいたくお気に入りですよ。何か、面白い人だって。何かしたんですか??」
「いや、別に、特には・・・」
- 223 :Reina_Express_ :04/09/06 00:13
- 飯田さんは、にやっと笑った。
「そうですか?なんか私、れいなに『飯田さん、あの記者さんに惚れちゃだめですよ』って
言われましたよ・・・」
飯田さんの大きな瞳が、俺を捉えて離さない。
「え、え、そうですか??」
「・・・ふーん・・・でも記者さん、れいなに変なことしちゃ駄目ですよ」
飯田さんは意味深ににこっと笑った。
「は、はい・・・」
インタビューが終わると、カメラマンがにやにやしながら近づいてきた。
「全部、ばっちり撮っておきましたから」
オイオイ・・・
- 304 :Reina_Express_ :04/09/08 00:41
-
それからも、俺はモーニング娘。の環境関係の取材を続けた。
田中れいなは、取材の合間によく話し掛けてくれた。
他愛の無い話だが、俺も楽しかった。
俺の、モーニング娘。関係の取材は大目になった。
「お前、一体何時間の特集を作るんだよ・・・」
そんなことを同僚からは言われたが、
「素材がいまいち足りないんだよ」みたいなことを言って誤魔化した。
- 305 :Reina_Express_ :04/09/08 00:42
- そんなある日。俺は病院に行った。月2回の定期検診だ。
状態は、よくないらしい。
診察室から待合室を通り、病院から出ようとする。
すると、病院の前にタクシーが停まった。
車の中から、サングラスと帽子をかぶった小さな女の子が出てくる。
上から下まで、服は全身原色の黄色だ。派手だな・・・でも、もしかして?
「あ、あれ、れいなさん?」
れいなも驚いた様子だ。
「あ、記者さん。どうしたんですか?」
「いや、ちょっと風邪ひいたみたいで・・・」
俺は薬の袋を隠しながら、嘘をついた。
「で、れいなさんはなんで?」
「ダンスで軽く足を捻挫して・・・って、駄目ですよ芸能部の人に言っちゃ」
「いや、別に言わないけどさ。大丈夫なの?」
- 306 :Reina_Express_ :04/09/08 00:43
- れいなは思いついたように、にひひ、と笑った。
「ぜんぜん、駄目ですよおおお。記者さんにおぶって欲しいなあ・・・」
れいなはわざわざふらつきながら、俺に近づく。
「いやいや、それはどうでしょ・・・」
俺は当然、断りたい。が、れいなはさらに近づいてくる。そして
「新東京テレビの記者さんが、とても冷たい様子たい・・・」
・・・社名を出すなよ。
俺はれいなをおんぶして、病院に再び入った。
派手な服装と、おんぶは、嫌でも目立つ・・・。
まあ、そんなに人もいないので大丈夫か。
「軽いね、れいなさん。ちゃんと食べてる??」
「さすが記者さん、レディへの対応、分かってるう」
いや、単純な感想だけどね。胸の感触もあまり伝わってこないから・・・
受付に事情を話して、俺はれいなを外科に連れて行った。
「ありがとうお兄ちゃんーー」
れいなは手を振って診察室に入っていった。いつの間に俺は君のお兄ちゃんになったんだ?
まあ、病院の中で『記者さん』は変だからか・・・
- 419 :Reina_Express_ :04/09/09 23:40
-
そんなふうに、季節は流れていった。
でも、いつからだろう。
れいなを、単なる妹と見られなくなったのは・・・
俺の症状は、悪化の一途を辿っていった。
毎朝、痛みと共に起きる。
起きた時に最初に思い浮かぶ顔と言えば、れいなだ。
こんなこと、今までなかった。たとえ、隣に女性が寝ていたとしても、こんなことはなかった。
俺は、れいなを愛してしまった。
そして、れいなも徐々にそれを知っていったようだ。
ティーンエイジャーらしい不器用な表現ながら、俺の感情を受け入れてくれた。
しかし、それはあくまで「心」の関係であった。
もし、この関係がワンステップ進めば、法令にかかる。
俺は仕事柄解雇は免れないだろうし、れいなもただでは済まないだろう。
確実に芸能生命を絶たれる。
俺たちは、電話と、取材と、そしてたまのお忍びで愛を深めていった。
- 420 :Reina_Express_ :04/09/09 23:40
- れいなから電話が来た。いつものように、他愛のない話だ。
「へー、北海道に取材に行ったんだ・・・」
「まあ、環境の取材とかばかりやってるわけにもいかないし・・・ちょっと手伝いでね」
「どこが良かったの?」
「そうだな・・・室蘭の近くに、母恋(ぼこい)って駅があるんだけど、そこかな・・・」
「え?聞いたこと無いけど・・・安倍さんなら知ってるかな?」
「たぶんね。そこ、母の日に限定切符とか売ってるんだけど、それを取材したんだ」
「へえ・・・」
「でもさ、結局ド田舎だから半日待っても1人も買いに来る人いなくてね・・・」
「にひひ・・・・大変だあ・・・」
「だからずっと売り場のおばちゃんと話してただけなんだ」
「・・・」
「・・・れいな?」
「お兄ちゃん、その売り場の人に浮気しちゃダメたい」
- 421 :Reina_Express_ :04/09/09 23:43
- ・・・・・・プッ。俺は思わず吹き出した。れいなが怒る。
「何?笑いごとと違うったい、れいなは真面目に言ってるたい」
「・・・ごめんごめんれいな。だって、おばちゃんって、もう60過ぎのおばあちゃんだよ。浮気なんて出来ないよ」
「60?・・・れいなの若さなら、大丈夫?」
「当たり前だろ、俺はれいなだけだよ。今度会えたら、人形買ってあげるよ」
「れいな、子供じゃない・・・違うもの、買ってもらうたい・・・」
子供だよ、俺にとっては・・・そう思わなきゃ・・・
話題は、家族の話になった。れいなはお母さんの話を嬉しそうにする。
俺もうれしい。
しかし・・
「お兄ちゃんのお母さんはどんな人?」
「ん?・・・ああ、両親とも死んでるよ」
「え?あ、そうなんだ・・・ごめん・・・」
「いや、別に。俺の歳くらいになると、両親とも死んでたりすることは珍しくないよ」
「あ、そうなの?」
俺の嘘に、れいなは騙されたようだ。
ホント、子供だな。俺は三十路前なんだよ。
大きな病気さえ煩わなければ、親は普通、生きてるから・・・・
煩わなければ、ね。
でも、俺の考え、ちょっと甘かったのかな。
- 569 :Reina_Express_ :04/09/11 21:42
-
1週間後、俺とれいなの休みのスケジュールが偶然一致した。
しかし、待ち合わせ場所に現れたれいなは不機嫌な顔をしていた。
「どうしたの、れいな?」
「・・・・」
れいなは話そうともしない。
・・・??
俺は無理に笑おうとした。もしかして、あの日??
「仕事で疲れてるの?ごめん、そうだよね・・・」
「・・・そんなんじゃ、なか!!」
れいなが叫ぶ。街角の人ごみの一部が俺たちに注目する。
「れ、れいな、いったいどうしたの?ちょっと、変だよ・・・」
「変なのは兄ちゃんのほう!!なんで、れいなに隠し事すると!!」
- 571 :Reina_Express_ :04/09/11 21:43
- !!!
俺は、冷や汗がどっと身体に噴き出すのを感じた。
「な、何言ってるんだよ・・・」
「まだそんなこというの?男らしくないたい!」
標準語と博多弁がぐちゃぐちゃになりながら、れいなは俺を睨みつける。
「い、いや、もっと具体的に言わなきゃ・・・」
「・・・・・」
れいなは、少し考えている様子だった。
俺は、寒気がするのを感じた。
れいなは、小さな声で、言った・・・
「・・・・病院、行ったよ・・・」
俺の胸の鼓動が、さらに早くなった。
「兄ちゃん、一体何の病気?先生も教えてくれないし、兄ちゃんも隠そうとしてるし、絶対おかしいばい!!」
「えーっと・・・・・・・切れ痔かな」
「冗談はやめるったい!!!!!!!!!!」
れいなが大声で叫んだ。
・・・これはやばい、さすがにモーニング娘。だとバレる。
俺はれいなをなだめ、とりあえず静かな喫茶店に入った。
- 572 :Reina_Express_ :04/09/11 21:45
- 俺は、テーブルの向かい側に座っているれいなを見た。
少しつり上がった半円形の2つの眼が、俺をじっと見つめている。
その眼は、多少潤んでいる。しかしその潤みが、彼女の美しさを引き立たせているようだ。
俺を見つめる瞳の奥は、すべてを見通せるほど澄んでいた。
すべての虚飾が存在し無い、まっさらな眼だ。
・・・俺は、この眼に対してこれ以上、嘘を付けるのだろうか。
・・・いや、出来ないだろう。俺には、出来ない・・・
「れいな・・・」
「・・・」れいなは俺をじっと見つめている。
「・・・確かに俺は、病気に冒されている、それも、死に至る病気。
俺の両親もこの病気で早く死んだし、俺も長生きは出来ない、
薬に頼らなきゃいつどうなるかも分からない、確かにそうだ」
俺は、一気にまくしたてた。一気に言わなければ、気持ちが萎えてしまいそうだった。
俺は、恐る恐るれいなを見た。
俺を見つめるれいなの眼から、一筋の涙が流れた・・・
- 573 :Reina_Express_ :04/09/11 21:47
- 「・・・・・」
「・・・・・」
れいなは、声を上げずに泣いていた。
俺には、ただ謝ることしか出来なかった。
俺みたいなやつと付き合っても、何もいいことなんかない。
どうせ、死ぬんだから・・・居なくなるんだから・・・・
でも、俺はれいなへの愛情を抑えきれなかったんだ・・・
それが、すべての間違いだった。
「ごめん・・・・俺みたいなやつと・・・・」
すると、れいなが、つぶやいた。
「・・・・・ちがう・・・・」
???
俺は顔を上げた。
「なんで、もっと早く、言わなかったの・・・」
「それは・・・・」
「もっと早く、助けてあげたかったのに・・・」
「え?」
俺は予想外の言葉に驚いた。・・・助ける?
- 574 :Reina_Express_ :04/09/11 21:49
- れいなは、泣きながら続けた。
「お兄ちゃん、病気とずっと闘ってるんでしょ・・・
私に、出来ることがあったら、なんでも、助けてあげるのに・・・
少しでも、苦しみを、減らして、あげるのに・・・・
何で、私に言ってくれなかったの・・・?そんなに、れいなが信じられないの?」
違う、違うよ・・・でも、俺の声は、言葉にならなかった。
俺はその言葉を聞いて、涙が止まらなかったんだ。
俺は子供のように、れいなの前で、泣いた。
子供だと思っていたれいなは、俺よりもずっとずっと、大人だった。
俺には、そう感じた。
俺が落ち着くと、無理にいつもの表情を作り、れいなが言った。
「・・・そうだお兄ちゃん、旅行、行かない?」
「・・・旅行?」
- 728 :Reina_Express_ :04/09/13 20:37
-
「そう、旅行。ちょうど私、やっと夏休みが取れるんだ。1ヵ月後だけど。
もう完全に秋休みかな?冬休みって言うかもしれないけどね・・・行かない?」
「いいね・・・俺も忙しくて夏休み取ってないし、調整してみるよ」
・・・とは言ったものの、お互いに忙しい日々で、なかなか調整する時間も難しい。
でも、れいなは電話でも以前と同じように接してくれた。
それが、俺には本当に嬉しかった。
でも・・・・・
- 729 :Reina_Express_ :04/09/13 20:38
- ある日、俺はデスクに呼ばれた。
「モーニング娘。の事務所から電話来たぞ。連絡が欲しいってよ」
いつも愛想の無いデスクだが、きょうは何かよそよそしい。
俺は多少疑問に思いながらも、電話をしてみた。
「あの、新東京テレビの・・・・」
「あ、はいはい、いつもお世話さまです・・・ちょっとですね、会ってお話をしたいのですが・・・」
「??はい・・・」
VTRチェックにしては急すぎる・・・
何だろう・・・・・・
とりあえず、あすの午後に会うことにした。
「そうだ、れいななら何か知ってるかも・・・」
れいなに電話をしても、繋がらない。
「ま、着信履歴が残ってるからあっちからかかってくるかな・・・」
・・・でもその日、れいなから電話は来なかった。
- 730 :Reina_Express_ :04/09/13 21:08
- 次の日、俺は待ち合わせ場所に指定された喫茶店に向かった。
事務所の担当者はもう来ていた。
「あ、すいませんお呼びたてして・・・・」
社交辞令から始まり、今の取材の進捗状況を聞かれる。
俺もそれが本題ではないことは分かっているので、適当に答えていた。
俺の態度を見て、事務所もこれ以上機嫌を取ってもしょうがないことに気づいたようだ。
「あの・・・大変失礼ですが・・・」
「はい、何でも聞いてください。スポンサーとか何とかは、この際もういいですよ・・」
「いやいやそれは・・・実は、うちの田中のことなのですが・・・」
俺の心臓がどくん、と音を立てた。病気の影響ではない。
「記者さん、うちのれいなとかなり親密だと噂に聞いたのですが・・・」
「え、ええ・・・」
「ただ、親密だったらまだいいのですが、それ以上になにか・・・・
そんなことを噂に聞いたのですが、これは本当のことでしょうか・・・」
- 731 :Reina_Express_ :04/09/13 21:10
- 正直、俺は返答に困った。ので、とりあえず無難な回答を選択した。
「・・・れいな、いや田中さんにも聞いたんでしょうか?」
事務所の担当は周囲をちらりと見た。
「え、まあ、多少聞いてますが・・・」
「・・・まあ、田中さんの言うとおりだと思いますけど・・・」
「・・・とりあえず、貴方の口からも聞いてみたいんですが・・・」
まあ、当然か。
正直に答えようか、別に悪いことしてるわけじゃないし。
「えっと、確かにプライベートでも会ってます。
ただ、ご存知のように田中さんも忙しいですから、そんなに頻繁でもないですよ。
あと・・・べつにご心配されているようなことはしてませんから。
俺も職業柄、そういうのはご法度ですから」
・・・事務所の担当は、少し考えてから、言った。
「貴方の言ってることは本当だと思います、うちの田中が言ってることと同じですし。でもですよ・・・」
眼が、鋭い光を一瞬放った。
- 732 :Reina_Express_ :04/09/13 21:11
- 「でも、それも問題になる恐れがあるんですよ。こっち(事務所)に話が通っているっていうことは、
世間にも広がる恐れがあるんですよ、マスコミさんとかでね」
「・・・」
「貴方もわかるでしょ、いろいろあると双方、非常にまずいことになりますよ、将来に関して。
・・・れいなも、貴方がいつまでもくっついているとよくないでしょうし・・・」
事務所の担当は、厳しい声で言った。
くっついていると?よくない?・・・・・俺の中で、何かの糸が切れた。
「あとですね・・・」まだ何か文句を言おうとする・・・
「いやいや・・・あのですね・・・」俺は担当の言葉を遮った。
そして、一際にこやかな顔で、こう言った。サラリーマン経験の成果だ。
「将来とか、いつまでもとか、それは大丈夫ですよ。将来はありませんから」
担当は怪訝な顔をした。
俺は、話をした。
- 733 :Reina_Express_ :04/09/13 21:11
- 「・・・・・・・・」
担当は、はじめは信じられない様子だった。
しかし、俺はたくさんの証拠を挙げた。
担当は、信じざるを得ない様子になった。
「・・・・・・・・」
俺は、俺の決意を述べた。まだれいなにも言っていない、決意。
「・・・・・・・・」
担当は、帰っていった。
「分かりました・・・・今の話、何も聞かなかったことにします。
そして、貴方とれいなとの関係も・・・」
- 872 :Reina_Express_ :04/09/15 21:04
-
晴れて(?)事務所からも許可を得た。
俺は、少し迷った末、れいなに電話をした。非通知で。
「れいな?」
「お、お兄ちゃん??え、えっと・・・」
「あ、切るな切るな。何言われたか知らないけど、事務所にはきちんと了解取ったから」
「ホントに大丈夫?大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫・・・・・・・・ごめんな、俺のせいで・・・」
「そんなのいいけど・・・事務所に何て言ったの??」
「・・・・・・」
「お兄ちゃん?」
- 873 :Reina_Express_ :04/09/15 21:06
-
「・・・れいな、旅行、どこに行こっか?」
「え?」
れいなのぽかんとした様子が電話越しにも伝わってくる。
「そうだな、遠いところに行きたいな。れいなは福岡だから・・・そうだな、
北海道とか。れいなに言ってただろ、前に北海道に取材に行ったこと。面白いかもしれないぞ」
「・・・・」
「・・・れいな?」
「お兄ちゃん、もしかして・・・・」
れいなの考えていること、分かるよ・・・
でも、俺は何も言えなかった。
・・・電話越しのれいなは突然、元気な声を上げた。
「よっしゃ、行きまっしょい、北海道!!もう、お兄ちゃんたら寂しがりやなんだから・・・れいながいないと・・・」
・・・・ありがとう、れいな。
- 874 :Reina_Express_ :04/09/15 21:07
-
次の日、俺は休暇の申請を行った。
突然の申請だったが、何とか許可は下りた。
更に、寝台特急北斗星やら何やら、行きの交通機関の予約をした。
俺が取材していたモーニング娘。の環境のニュースは、休暇中に放送される。
放送テープは完パケ(完全パッケージの略。映像、音声、字幕が完全に入った状態)まで
終了しているので、特に問題は無い。
同僚に、番組のDVDへのダビングを2本頼んでおいた。
10月のある日、俺は机の整理を念入りに行い、退社した。
- 63 :Reina_Express_ :04/09/17 21:23
- 上野駅のホーム、午後5時半。
俺は待ち合わせの1時間前に駅に着いた。
正直、不安でしょうがない。
もし、れいなが来てくれなかったら・・・
れいなが来たくても、事務所がストップをかけてきたり・・・
いきなり仕事を入れてきたり・・・
嫌な想像が俺の頭を駆け巡る・・・
「お兄ちゃん!!」
「はうっ!!」
いきなり後ろから声をかけられ、俺は飛び上がるほど驚いた。
後ろには、帽子を深くかぶった田中れいながいた。
「ごめんお兄ちゃん、驚かせちゃった?何かぼーっとしてたから・・・」
「いやいや大丈夫だよ・・・って・・・ぷっ」
- 64 :Reina_Express_ :04/09/17 21:25
- 俺は思わず吹き出した。れいなは当然、怒る。
「なんで笑うと?お兄ちゃん、レディに向かって失礼たい」
「いやごめん、でも、やっぱりれいなは原色が好きなんだね・・・」
れいなの全身は、黒づくめだ。帽子からジャケット、フレアスカート、ヒールまで黒。
「ばれると困るから、黒にしてみたたい。ホントは全身緑とか、全身豹柄でも・・・」
「いや、それは絶対目立つから・・・」
でも、全身黒って、まるで・・・
ま、言わないけどね。ここらへんは子供かもね。
「にひひ・・・楽しみたい・・・」
その口元だけが、薄赤く染められていた。
- 65 :Reina_Express_ :04/09/17 21:40
- 俺とれいなは北斗星がホームに入るまでの1時間半、ベンチで話をした。
今まで、話したことがなかった、いろいろなことを。
「お兄ちゃんはどうして、今の仕事をやろうと思ったの?」
「うーん、敢えて言えば、自分が向いてないような仕事をしてみたかったから、かな?」
「え?・・・よくわかんないけど・・・」
「やっぱりさ、人生、せっかくだからいろんな体験してみたいじゃない。
俺に合う仕事ってのもあるんだろうけど、それじゃあんまり普通だからさ」
「ふーん・・・」
「それじゃれいなは、どうしてモーニング娘。になったの?」
「もちろん、れいなはスターになる運命だったからですわ!!」
「・・・何言ってんだよ、いきなり変な言葉使って・・・」
「・・・にひひ。ちょっと言ってみたかっただけ。目立ちたがりやだったから・・・」
「ふーーん・・・」
- 66 :Reina_Express_ :04/09/17 21:42
- 俺とれいなが3本目のジュースを飲み干したころ、
北斗星3号がアナウンスとともにホームに滑り込んできた。
想像よりも豪勢な外観だ。
「うわー、大きい・・・はじめて見た・・・・」
「・・・俺も・・・」
俺の隣ではしゃぐ黒づくめのお嬢さんの眼は、きらきらと輝いていた。
まるで、その命の輝きをそのまま表すように。
俺は、その輝きを眩しく眺めていた。
- 172 :Reina_Express_ :04/09/19 19:42
- 北斗星に乗り込んだ俺とれいな。ベットに座り、話を続けていた。
「あ、そうだ、なんで、寝台列車で行くことにしたの?」
「うーん、まあ今まで乗ったこと無かったし、れいなも仕事で北海道に行くときは飛行機だろ?
ちょっと面白そうだったしね。・・・もしかしてれいな、嫌だった?
やっぱりちょっと狭いし・・・ロイヤルシートとかってのもあるらしいんだけど、取れなくてさ・・・」
「ううん、嫌じゃない。狭いから、お兄ちゃんとくっついちゃうけど・・・」
れいなは細い身体を寄せてきた。おいおい、ダメだよ・・・・
「大丈夫、大丈夫。他には見えてないから・・・」
いやいやいや・・・俺の理性がフルスロットルで、悪魔の囁きを抑え込む。
「と、とりあえずれいなのベットは上の段だから・・・」
俺は恋愛に慣れない中学生のように、どきまぎしながられいなに言った。
- 173 :Reina_Express_ :04/09/19 19:43
- 「えー、そんなあああ・・・」
れいなは俺を見上げながら、幾分高い声で囁く。もう、れいな、君は小悪魔だね・・・
その眼が、口元が、俺を狂わせてしまうかも・・・・
表情を柔らかく変え、小悪魔が俺に言う。
「もー・・・・・・・まあ、それもお兄ちゃんらしいかな・・・とりあえずもっと、お話するったい!」
「そ、そうだね・・・・」
しばらく俺たちは、他愛の無い話をしていた。
- 174 :Reina_Express_ :04/09/19 19:52
- 時刻は、午後9時を回った。
北斗星3号の心地よい振動が、俺とれいなを揺らしつづけている。
「そうだれいな、お腹空いただろ?何か買ってこようか?」
「ううん・・・いい・・・・」
・・え?
「れ、れいな、どうしたの、お腹でも痛いの?」
「レディにそんなこと言っちゃいけん・・・」
「それじゃ・・・??」
れいなは俯きながら、俺に告白した。
「れいな、お弁当、作ってきたたい・・・お兄ちゃん、一緒に、食べよ・・・」
れいなは脇に置いていた黒のトラベルバックから、2つの包みを取り出した。
・・・なんか、やたら、自信なさげなんだけど???
俺はれいなに素朴な疑問をぶつけてみた。
「・・・れいなって普段、料理とかするの?」
「・・・ぜんぜん・・・しない・・・」
「・・・・・・・」
命の危険も多少感じるが、食べないわけにはいかないだろう。
恥ずかしそうに調理の説明をするれいなを見ながら、なむさん、俺はおにぎりをかじった。
「ん?」
・・・あ、だいじょうぶだ・・・
- 175 :Reina_Express_ :04/09/19 19:53
- 「・・・やっぱり、おいしくなかった?」
れいなは俺を見上げる。
「い、いや・・・おいしい・・・」
「ほんと?ほんと?」れいなは俺に擦り寄りながら、確認を求める。
「ホントホント・・・」俺は距離を保ちながら、同意する。
「良かった!!!頑張って作ったたい、もっと食べると!!」
俺はウインナーを食べた。卵焼きを食べた。肉じゃがを食べた。
・・・・・・・
俺の眼が・・・涙で・・・滲んできた・・・・
「に、にいちゃん、どうしたと?・・・やっぱり美味しくなかった?」
「ち、ちがうよ・・・ごめん・・・」
ちがうんだれいな、
俺は、死んだ母を君に見たんだ・・・、
ごめん、れいな、
俺は君にもう、
恋人だけじゃない・・・
母親まで見てしまったよ・・・・・
- 176 :Reina_Express_ :04/09/19 19:54
- もう、弁当なんて、反則だよ・・・・
君はなんて女の子なんだ・・・俺は君を・・・・・もうこれ以上、愛しきれないよ・・・
これは病魔に冒された人間の感傷ではない・・・絶対にそう思うんだ・・・
俺の心を見透かしたのだろうか、れいなは微笑みながら、俺に弁当箱を勧めた。
「兄ちゃん、こっちのコロッケも食べるったい・・・」
「う、うん、ありがと・・・」
- 293 :Reina_Express_ :04/09/21 23:27
- 寝台特急北斗星3号は、仙台駅を通過した。
時計を見ると、0時を回っている・・・・・・・
俺たちはあいかわらず、(大概)不毛な話を続けている。
・・・れいな、君が俺の上司の癖を聞いたって何のプラスにもならないよ。
・・・俺がモーニング娘。の藤本さんの普段の様子を聞いても、さほどプラスにもならないし。
でも、それが楽しいんだけどね。
- 294 :Reina_Express_ :04/09/21 23:27
- 時計は遂に、2時を回った。
どこを走ってるのか、列車に詳しくない俺にはさっぱり分からないが、青森県辺りだと思う。
・・・・俺もぼーっとしてきた。
あれ、この列車って、ながーいトンネル走るんだよな・・・
ここって、トンネルなの?
「れいな、眠くない?」
「・・・ねむくない・・・・」
いや、明らかにれいなは眠そうだ。眼がとろーんとしている。
「・・・れいな、もう寝たら??」
「・・・だいじょうぶたい・・・またにいちゃん、れいなをこどもだとおもって・・・」
「いや、大人でももう寝る時間だよ・・・」
「・・・にいちゃんとはなすたい・・・せっかくにいちゃんとりょこうにきたから・・・」
- 296 :Reina_Express_ :04/09/21 23:30
-
れいなはその薄赤い唇で、懸命に俺に訴える。
・・・俺はそんなれいなを、心から、可愛いと感じた。
俺は抑えきれず、れいなの頭をぎゅっと胸に引き寄せた。
「に、にいちゃん・・・・」
れいなはとろんとした眼のまま、俺を見上げた。
「大丈夫、俺はここにいるよ。ずっと付いててやるから、安心してお休み」
「・・・・・ありがとう・・・でも、れいな・・・こどもじゃ・・・・zzz」
よほど我慢していたのだろう、れいなは俺に身体を預け、すぐに寝入ってしまった。
・・・。
俺はれいなの頬をつついてみた。・・・ぷにぷに。
細い腕をつついてみた。・・・ぷにぷにぷに。
太腿も、つついて、みようかな・・・・。
「・・・・むにゃ・・・にいちゃん・・・えっち・・・」
!!!
・・・寝言か・・・・
・・・俺も寝よう。
- 333 :Reina_Express_ :04/09/22 23:11
- ガタン!!ドカン!!
俺は痛みと共に目が覚めた。
「あ、兄ちゃんごめん!!!」
目の前でれいなが謝っている。
どうやら、俺はれいなに寄りかかりながら寝てしまっていたらしい。
れいなが起きて身体を動かしたために、
俺がバランスを崩して頭を壁にぶつけたらしい・・・
頭がじんじんする・・・
「だ、大丈夫??」
「あ、ああ、とりあえずは・・・・それより今、どこらへん?」
「えっと、さっき、おしゃまんべ、とか言ってたけど・・・」
- 334 :Reina_Express_ :04/09/22 23:12
- 俺は持ってきた時刻表をめくりながら、腕時計を見る。
今は8時15分。長万部を出発した直後だ。
れいなが俺の時刻表を覗き込む。
「兄ちゃん、あとどれくらいかかるの?」
「うーんと・・・札幌には11時ごろ着くから・・・3時間くらいか・・・」
「えーーー、もっと早く着きたいよ・・・・」
れいなはむくれて、手をばたばた。君は3歳の子供かい。
「着きたいよって、それは俺に言われてもなー」
「ちょっとそれ、貸して!」
俺はれいなに時刻表を渡した。
しばらく真剣に読んでいたが・・・ふと、俺のほうを見た。
「れいな、この表の読み方、わかんない・・・」
おいおい、なんだそりゃ。
俺はずっこけたが、れいなは続けた。
- 335 :Reina_Express_ :04/09/22 23:15
- 「読めないけど・・・ここ、ここで降りよっ!」
ん?俺はれいなの指差す先を覗き込んだ。
俺とれいなの距離が接近する。顔と顔がくっつくくらい。
・・・いや、そうしなきゃ見られなかったし。
れいなが俺のほうをじっと見てたのに、俺は気づかなかったし。
・・・とりあえず、れいなが指す駅は・・・東室蘭。
「ひがしむろらん??」
「ね?せっかく北海道に来たんだし、早く降りよ!ねえ、お兄ちゃん・・・ちゅっ」
!!!!! え? 今の『ちゅっ』って擬音、何?
れいなは頬を真っ赤に染めて俯いている。そして、俺の頬に残る感触は・・・
れれれれれいな、不意打ちはダメだよ・・・だめだめだめ・・・・
「れれれれれれれれいな・・・」
「ななな・・・なに?」
・・・・・・俺、落ち着け。
「えっと・・・降りるか・・・東室蘭で・・・」
「う、うん・・・」
真っ赤な顔の2人は、北斗星を降りる準備を始めた。
- 487 :Reina_Express_ :04/09/26 17:49
- 東室蘭の駅に、北斗星が滑り込む。
俺にはちょっと残念なことがあった。
「なんか、全然車内の設備とか、見られなかったね・・・」
「ふーん・・・それじゃ約束!帰りにいっぱい見よ!ほらほら、さっさと降りて!!」
俺はれいなに急かされ、ホームに降り立った。
「やっぱり、ちょっと寒いな・・・」
「うん、東京に比べればね。でも、ぜんぜん平気!」
れいなは元気に改札に向かって歩き出した。
いつも、君を見てると、思う。・・・君を見てると、元気になるんだ。
「何、考えてんの?早く行くったい!」
俺はれいなに引っ張られ、歩き出した。
れいな、いつも、感謝しているよ・・・
「また何か考えてる・・・Hなこと?」
・・・違うよ。
- 488 :Reina_Express_ :04/09/26 17:50
-
東室蘭の駅から、外に出る。
あまり、栄えている、というような感触は無い町並みだ。
「えーーっと・・・あのさ、ここで何をしようか???」
別に何の目的もなく降りた駅なので、俺は困ってしまった。
しかしれいなは、俺の質問にすぐに答えた。
「お土産、買う。」
「・・・はい??」
あのさ、お土産って、普通目的地に着いてすぐ買うもんじゃないでしょ??
不思議そうに見つめる俺を完全に無視し、れいなはずんずんと
繁華街(繁華してないけど)に向かって歩き出した。
「おい、れいな・・・」俺は侘しくれいなに付いていくしかなかった・・・
- 489 :Reina_Express_ :04/09/26 17:52
- 数分歩くと、寂れた小さな雑貨屋が見えてきた。
れいなはまっすぐその店に入っていった。
「れいな、この店って・・・?」
「・・・全然知らない」
「はあ・・・」
れいなは無造作で大量に陳列される食品類には眼もくれず、あたりを見回す。
そして、片隅にあったキーホルダーコーナーに行った。
そこには、北海道の形をした鉄の板に「北海道」と書いてあるキーホルダーなど、
何の工夫も無いお土産が少し陳列されている。
うーん・・・これは見た目に陳腐だな・・・
ここはやめようよ、と言おうとした俺は、品物を見るれいなの真剣な表情を見て、口をつぐんだ。
れいなは更に店の人に話を聞いたりしながら、お土産を探す。
10分ほどして、れいなは小さなペンダントを2つ、俺に見せてきた。
「ねえ、これ買おうよ。ペアで・・・」
- 490 :Reina_Express_ :04/09/26 17:56
- それは、雪の結晶のペンダント。
薄いプラスチックの板を直径2センチの結晶の形にデザインした、ペンダント。
プラスチックが室内の照明を穏やかに反射している。
「う、うん・・・」この店にしては良い感じの品物だ。でも・・・
俺が聞きたいことを、れいなが先に答えた。
「私達、今までお揃いのものって、持ってなかったでしょ・・・すぐに、欲しかったの・・・」
・・・・。
そうか・・・。もう時間に迫られていることを、俺と同じように、この小さな彼女は知っていた。
俺は、それ以上何も言わず、ペンダントを2つ買った。
2つで1050円。でも、値段じゃないから・・・
「袋にお入れしますか?」
「・・・いえ、いいです」
- 491 :Reina_Express_ :04/09/26 17:58
- 俺たちは、店を出た。
「このペンダント、お兄ちゃんみたい・・・派手じゃないけど、しっかり、自分を主張してる・・・ちゃんと、光ってる・・・・」
ありがと。俺はそう言って、ペンダントをれいなの細い首にかけた。
室蘭のさびれた通りには、人はいなかった。
俺たちはどちらからともなく距離を寄せ、キスをした。
子供のキスだった。
でも、俺たちにとってはじめての、本当のキスだった。
ありがと。
- 538 :Reina_Express_ :04/09/27 20:26
-
東室蘭から乗り込んだ列車の車窓から、大自然が見える。
「わー、あれ、あれ、馬じゃない??本物??すごーい!!」
れいなははしゃいでいる。
喜んでいるのを見ると、俺も嬉しくなる。
俺たちは母恋から地球岬を訪ねた後、札幌を通過して小樽に入った。
小樽の新鮮な海産物に驚き、ガラス工芸品を俺に買ってとねだるれいな。
俺たちは他の観光客から、どう見られているのだろう・・・
俺はともかく、真っ黒づくめ(昨日と違う真っ黒な服)のれいなはちょっと場違いなような気もするな・・・・
それに、やっぱりダントツで細いし、可愛いし・・・・
「また、何か考えてる?そんなにれいなに見とれてるの??」
れいなが微笑む。
そういえばれいな、北海道に来て、少し大人っぽくなったかな?
博多弁もあんまり出さなくなったし・・・
ま、ちょっと残念だけど、すごく俺に対する言葉が、やさしいよ。
- 539 :Reina_Express_ :04/09/27 20:27
- 「ありがと、れいな」
「ん?何でありがとなの?それより、いこいこ!きょうは小樽のホテルでしょ?」
「うん、そうそう・・・あ、あそこだね」
俺たちは小樽市内の小さなホテルに泊まった。
れいなは一緒の部屋に泊まりたいとか言っていたが、さすがにそれは憚られる。
夜中まで一緒に話をした後、俺はれいなを部屋に戻そうとした。
「もー、兄ちゃん、つまんない・・・」
「大丈夫だって、明日も一緒だから」
「でも・・・」
手をぶんぶん上下にふりまわすれいな。
・・・・。
- 540 :Reina_Express_ :04/09/27 20:27
- 「兄ちゃん、いじわる。もーーーーーーーーーー・・・・・ん!」
ほっぺを膨らませるれいながあまりに可愛くて・・・
俺は、思わずその口を口で塞いでしまった。
・・・・。
始めは驚いた様子のれいなも、俺を許してくれた。長いキスをした。
「・・・それじゃ、お休み・・・」
れいなは赤くなって、自分の部屋にかけていった。
もう、俺、これじゃ、ダメだよな・・・
- 541 :Reina_Express_ :04/09/27 20:28
- 次の日は富良野に行った。さすがにラベンダーの季節でもないのだが、
なぜかれいなは「北の国から」が好きらしく、喜んでいた。
「きょうは札幌に泊まる?まだ予約はしてないんだけど・・・」
富良野から芦別方面に向かう電車の中で、俺はれいなにこう提案した。
・・・?
なぜか、れいなは考えている様子だ。
「うんと・・・札幌はもっと後に行きたいな」
「??・・・そう、それじゃ、どこにする?」
「えっと・・・」
れいなは俺の時刻表を見る。
・・・読めないんじゃなかったっけ?
「あ、ここにしよ!ここ、ここ」
「ここって・・・滝川?まあ、札幌にも近いし・・・そうするか・・・でもなんで?」
「えっと・・・適当」
あ、そう。
俺とれいなが乗った列車は滝川に向かう。
天気は快晴から、いつのまにか曇りになっていた。
でもれいなはそんなこと気にせず、明るい様子を見せていた。
- 580 :Reina_Express_ :04/09/28 19:24
-
それから数十分後。
俺とれいなは、日の暮れた滝川の駅に降り立った。
「俺、この町全然分からないぞ。甲子園に出た滝川西高くらいしか・・・」
「わからないほうがいいんじゃないの?冒険みたいで!」
れいなはホームを駆け出し、俺のほうを振り返ってにこりと笑う。
俺もれいなを追って走り出した。
過疎が進む滝川の町は、駅前でも閑散としている。
駅とバスターミナルくらいしか、大きな建物は見つからない。
いや、建物はあるのだが、空きビルと化しているのがほとんどだ。
いくつかの飲食店を横目に、駅前では唯一と思われるホテルに入る。
きょう宿泊したい旨を伝えると、禿げ上がった主人はにやにやしながらこう言った。
- 581 :Reina_Express_ :04/09/28 19:25
- 「きょうは団体さんが入ってるんで、部屋は1つしか空いてないんですよ。
通常は3人で使っている部屋ですから、2人で泊まるには十分ですけど。・・・ご兄妹ですか?」
「えっと・・・・」
俺は口篭もった。
すると、横にいたれいながカウンターに割り込んだ。
「はい、兄妹だから大丈夫です。ね、お兄ちゃん」
「え?あ、ああ・・・」
主人は一瞬にやりとしたが、「毎度あり」の声と共に記載書類を出してきた。
俺はわざと2人の苗字を変えて書類を書き、義理で偽名の兄妹を演出した。
主人はその書類をちらりと見たが、何も言わなかった。
- 582 :Reina_Express_ :04/09/28 19:27
- 俺とれいなは、部屋に入った。
主人の言うとおり、広い部屋だ。内装はそれなりだが、れいなは喜んでいた。
でも・・・俺はちょっと緊張していた。
はじめての一緒の部屋の夜か・・・俺は学生時代の頃を思い出していた。
「お兄ちゃん、れいな、シャワー浴びるから。・・・お兄ちゃんも一緒に入る?」
れいながにやにやしながら俺に言う。
「え・・・?いやいや、いいよ・・・」
俺は冗談を返す余裕が無く、普通に返答してしまった。
れいなはにこっと笑って、浴室に入っていった。
俺はどぎまぎしながら、薬を飲んだ。
思いっきり水を胸元にこぼしてしまった・・・
・・・全く、何だよ、いい歳してさ・・・・俺は自嘲気味に笑った。
- 583 :Reina_Express_ :04/09/28 19:28
- 「あー、すっきりしたー」
れいながシャワーから出てきた。
俺はれいなを見ないように、つまらないテレビを見ていた。
浴衣を着たれいなは、俺の隣に座った。れいなの甘い香りが、俺の鼻腔を刺激する。
「そ、それじゃ、俺もシャワーに行こうかな・・・・」
俺は懸命に感情を抑え、浴室に行った。・・・れいなはにこにこしながら、俺を見ていた。
シャアアアアアアアア・・・・
熱いシャワーが俺の身体を打つ。
俺の全身に充満するいやらしい思考をかき消すように、俺は長めにシャワーを浴びた。
でも、俺の頭の中には、この旅行中のれいなの顔が浮かびつづける・・・・
・・・・。
「・・・よし、俺も大人だ・・・頑張って、我慢しよ・・・」
俺は気合を入れ、浴室から出てきた。
・・・・ん?
- 584 :Reina_Express_ :04/09/28 19:30
- れいながいない。
・・・・あららら、もう寝てるよ。俺は拍子抜けした。
ま、これでいいのか。子供だね、やっぱり・・・
俺は歯を磨き、髪を乾かして、れいなの隣のベットに入ろうとした、が・・・。
・・・ちょっとだけなら、いいかな・・・
俺はれいなの寝顔を覗いた。れいなは、すやすやと寝息を立てている。かわいいな・・・
俺はれいなの頬にキスをして、右隣のベットに入った。
明日は何をしようかな・・・俺は考えながら、うとうとしていた・・・・
- 585 :Reina_Express_ :04/09/28 19:31
-
すると。
!!!!!!!!!!!!!!
突然、俺の右側に、衝撃があった。
顔を左に向けていた俺は、慌てて振り向く。
田中れいなが、微笑みながら抱きついていた。
「兄ちゃん・・・・ダメだよ・・・寝てるとこ、襲っちゃ・・・・」
れいなの香りが俺に伝わり・・・・俺の中の境界線が音を立てて崩れた・・・
- 635 :Reina_Express_ :04/09/29 21:35
-
俺はれいなを抱きしめ、キスをした。れいなも俺に応える。
これまでの子供のキスではなかった。れいなは少し戸惑いながらも、懸命にキスを絡めた。
れいなの浴衣の胸元から、手を差し入れる。れいなは抵抗しない。
れいなの柔らかい感触が俺の脳をいやというほど刺激し、
俺はたまらず顔をれいなの胸に埋めた。
「あ、あ、兄ちゃん・・・」れいなは小さな声で俺に応える。
浴衣の上をはだけさせ、その小さな膨らみを手で愛しながら、突起を口に含む。
れいなは熱い吐息を漏らしながら、呟く。
「お兄ちゃん・・・赤ちゃんみたい・・・」
そうだよ、俺は君に振り回されっぱなしだよ・・・
俺は子供のように、れいなのピンク色の突起を吸った。
れいなはその腕で俺の頭を胸に寄せた・・・・まるで、母親のように。
- 636 :Reina_Express_ :04/09/29 21:37
-
そして、俺は胸を愛しつづけていた手を、下に伸ばした。
れいなの全身がびくん、と震えた。
「お兄ちゃん・・・」
れいなの声が初めて、不安の色に包まれた。
「・・・だいじょうぶだから・・・」
俺は身体をれいなの下に滑り込ませ、その着衣を除く。
ぴっちりと閉じられた両足を少しづつ開いていくと、子供のようなれいなの女性が見えた。
「はずかしいよ・・・」
れいなは両手で顔を覆う。
俺はれいなに、愛してる、と呟くと、その部分に舌を這わせた。
その1つ1つの衝動に、れいなは小さく身体を逸らせ、感情を表していく。
俺は小さな胸と、子供のような女性を繊細に愛しつづけていった。
長く、愛しつづけていった。俺の愛情に比例するように。
「お兄ちゃん、私も・・・」
思い切ったように、れいなが呟いた。
体制を変え、俺の男性を両手で捧げ持ち、口でそれを愛する。
れいなと俺の音が、ホテルの部屋に静かに響く。
- 637 :Reina_Express_ :04/09/29 21:41
-
俺の衝動も限界に達していた。
れいなに、言う。
「いいかな・・・・」
れいなは黙って頷いた。
再びベットに横になったれいな。両足の間に俺が入り込み、れいなの中に俺が入っていく。
俺はれいなを抱きしめ、さらに俺自身を差し込んでいった。
れいなは苦しそうな表情を見せるが、声には出さなかった。
「大丈夫、れいな・・・?」
「う、うん・・・だって・・・」
「だって?」
「だって、やっと安心できたんだもん・・・れいな、ずっとお兄ちゃんが、私のこと、
女の人として見てないんじゃないかと、思ってたんだ・・・
でも、分かったの・・・お兄ちゃんは・・・れいなのこと・・・・ずっと・・・・想ってくれてたんだ・・・・」
そうだよ。俺はれいなにそう言ってキスをしたあと、れいなをありったけの心で愛した。
れいなもそれに応えてくれた。
・・・・・・
俺たちはやっと、1つになれた。
俺たちは営みが終わった後も、ずっと、そのまま抱き合っていた。
- 638 :Reina_Express_ :04/09/29 21:46
-
朝が来た。
このまま、時が、止まってしまえばいいのに・・・・
時計を見たれいなが、俺に焦ったように言った。
「お兄ちゃん、薬の時間が・・・」
・・・・・俺は答えた。
「・・・・いい、このままでいたいんだ」
「で、でも、飲まなかったら、もしかして・・・」
・・・・・俺さ、なんか、涙が溢れてきたよ。恥ずかしいな・・・俺はれいなに言った。
「もうれいなと離れたくない、絶対に離れたくないんだ。
れいな、俺を離さないでくれ、お願いだよ・・・
寂しいんだ、俺は寂しいんだよ・・・ずっと、ずっと一人だったんだ・・・
怖いんだよ、ここでれいなを離したらどこかにいってしまいそうで・・・
れいな、離れないでくれよ・・・ずっと、居てくれよ、ここに・・・」
- 639 :Reina_Express_ :04/09/29 21:49
- れいなは黙って、俺の話を聞いてくれた。
俺たちは生まれたままの姿で、ずっと、抱き合っていた。
そう、ずっと、抱き合っていた。
言葉は何も、要らなかった。ただ、抱き合っていた。
そのまま、時が過ぎていった。窓から見える日が傾き、沈むまで俺たちは抱き合っていた。
そして、俺たちは再び愛し合った。すべての愛情を傾け、俺たちは夢のような時を過ごした。
更に、再び時は過ぎていった。旅行も、もう終わりが近い・・・俺は空ろに考えていた。
夕方になった。・・・俺の胸に顔を埋めながら、れいなが思い切ったように、久しぶりに、呟いた。
- 647 :Reina_Express_ :04/09/29 22:31
- 「札幌に、藻岩山って山があるんだって・・・。
すごく、夜景がきれいなんだって。
ずっと、一緒に、行きたかったんだ・・・思い出、作りたいんだ」
思い出って、どんな思い出?・・・俺はもう、何も聞かなかった。
俺たちは互いの手を離さぬように、札幌に向かった。
「旅行、最後の日に、一緒に見たかったの・・・」
滝川の空は、曇っていた。
俺は札幌の空が晴れるよう、最後の願いをかけた。
- 648 :Reina_Express_ :04/09/29 22:34
- 滝川から、列車で札幌市内に向かう。更にロープウェイに乗って藻岩山へと向かう。
俺の最後の願いは、叶ったようだ・・・
かすかに見える俺の眼から、まばゆく光るオレンジの夜景が空ろに見えた・・・・
藻岩山から、札幌の夜景を見る。
細かい光の渦が、眼下に散らばっているようだ。
俺の隣で、れいなは、子供のようにはしゃいでいる。
・・・れいなの声で、喜んでいるであろうことは想像できた。
そして、数分が経った。
れいなは俺の横にじっと座っている。俺の横で、じっと俺を見つめている。
もう、時間は近い・・・
- 649 :Reina_Express_ :04/09/29 22:36
-
「れいな、俺の一番好きな歌、知ってるか?」
「??分かんない・・・」
「言ったことなかったっけ?あの、『人生って素晴らしい』ってやつ」
「あ、娘。のI wish ! へー、そうなんだ・・・」
「うん、人生って素晴らしいって、断言してるとこがいいよな。それが素晴らしいな・・・」
・・・・・。
れいなはなにやら考えている様子だったが、口を開いた。
「ねえ、お兄ちゃんは人生って素晴らしいと思う?」
・・・俺は、迷わず答える。
「ああ、素晴らしいよ」
れいなは、また、考え込んだ。
「・・・でも・・・・」
れいなは、口篭もった。
れいなの考えてること、俺には分かるよ。
れいなはその幼い頭脳で、俺の考えを知ろうとしている。
難しいかもしれないな。
- 650 :Reina_Express_ :04/09/29 22:54
-
そして、れいなは・・・・。
「♪ひとりぼっちですこし、たいくつなよる・・・
わたしだけがさびしいの・・・Ah・・・Um・・・」
藻岩山の夜景に、れいなは歌い始めた。
切ないけれど、やさしくて、心に響く歌。れいなは、歌い始めた。
・・・ありがとう、最高のプレゼントだよ。
贅沢なプレゼントだな、観客は、俺だけか・・・・・
でもね・・・・
「♪じんせいって、すばらしい・・・ほらだれかと・・・・
であったり、こいをしてみたり・・・
ああすばらしい・・・」
ごめん。俺は、最後の歌、最後まで聞けなかった。
- 651 :Reina_Express_ :04/09/29 22:56
- 「お兄ちゃん、お兄ちゃん!大丈夫?」
れいなの声が聞こえる・・・
ここはどこだ・・・あ、札幌のホテルかな・・・
ありがとう、病院で無くてよかった・・・れいな、さすがだね・・・
あれ、でもれいなの姿が見えないよ・・・どうしたの、れいな?
「お兄ちゃん、れいなはここにいるよ!お兄ちゃん、眼が、眼が・・・」
あ、そうか・・・・れいなは輝かしいアイドルなんだ・・・
オーラが強すぎて見えないんだな・・・
俺とは住む世界が違うのかな・・・ははは・・・・
よし、眼を閉じれば見えるかな・・・ほら、見えるよ、れいなだ。
うん、いつものように可愛いよ。俺の大好きなれいなが、そこにいるんだ。
俺は本当に幸せ者だよ・・・
- 652 :Reina_Express_ :04/09/29 22:59
-
ありがとう、れいな。
「お兄ちゃん、一緒に帰ろうって言ったじゃない!また、北斗星乗ろうっていったじゃない!」
・・・・本当にありがとう。これからは、別の道を歩いていってね。
「お兄ちゃん、やだよ!!!やだよ、お兄ちゃん!!!・・・・・・・・」
・・・・さようなら。俺の、最後の恋人。
・・・・さようなら。
- 653 :Reina_Express_ :04/09/29 23:01
-
私は、あの人に対して、何が出来たんだろう。
命の灯がもうすぐ消えることを知りながら、
私に全てを賭け、私に全てを預け、私を愛してくれたあの人に。
私は、何をしたのだろう。
私には、わかりませんでした。
数日後。
私は、あの人の同僚と名乗る人から、DVDと手紙を受け取りました。
DVDは、あの人の最後の仕事となった、モーニング娘。の特集でした。
手紙を読む勇気が無かった私は、はじめにDVDを見ることにしました。
「・・・・な、なにこれ・・・・」私は驚きました。
- 654 :Reina_Express_ :04/09/29 23:03
- 前半は、通常のニュースの特集でした。
モーニング娘。が環境に関するイベントに多数出演して、若い世代にも環境保全をアピールしていること。
そして、環境万博の紹介や、メンバーの想いが伝えられています。
しかし。
後半になって、内容は変わりました。
- 655 :Reina_Express_ :04/09/29 23:05
- 【以下VTRより】
(ナレーション) このモーニング娘。の中で、最年少の田中れいなさん。
田中さんも環境問題を真剣に捉えています。
(インタビュー) 『記者さん、れいなのこと好きなんでしょ?にひひ・・・』
(ナレーション) こんな天真爛漫な田中さんですが、リーダー飯田さんの評価は?
(インタビュー) 『熱心ですよー』
(ナレーション) これを証明してもらうために、サブリーダーの矢口さんに
田中さんの普段の様子を撮影してもらいました。
もちろん、田中さんには内緒です。
(インタビュー) 『矢口です・・・今、田中が楽屋のポットの電源を抜いてます・・・
あ、部屋の電気も消しました・・・私がまだいるのに・・・
ああ、隠れてるから分からないんだ・・・』
(中略)
(ナレーション) このように、最年少の田中さんも真剣に環境に取り組んでいます。
最後に田中さんにメッセージを貰いました。
(インタビュー) 『田中はですね、やっぱり出来ることは何でもやりたいんですよ。
せっかく地球に住んでるんだし、せっかくモーニング娘。に
なったんだから、やるべきこと、やりたいことやらなきゃだめですよ。
ね、記者さんもそう思うでしょ!それに、見てるみんなも!』
- 656 :Reina_Express_ :04/09/29 23:07
- ・・・私は、しばらく唖然としていました。
私が主役?全然、聞いてない・・・・
それに、あの楽屋のシーンって、私にインタビューを取る前の撮影だ・・・・
矢口さんは9月1日にインタビュー受けてたから・・・
2日に楽屋撮影して、
3日に何食わぬ顔で、あの人は私にインタビューしてたの??
もう、冗談きついよ・・・もう・・・・
私があの人を見ていた前から、あの人は私を見てたの?
私は、しばらく泣きながら笑っていました。
- 657 :Reina_Express_ :04/09/29 23:09
- そして、私は手紙の封を切りました。
あの人の、覚悟の手紙が自宅に残されていたそうです。会社宛てと、私宛てに。
手紙の中には、私への想いが、あの人らしいケレン味の無い文章で綴られていました。
もっと先にはっきり言ってよ・・・もう・・・好きだって・・・。
今は、もう、いっぱい、知ってるけどね・・・
手紙の最後には、こう記されていました。
「れいな、多分れいなが聞きたかったことを答えるよ。
俺はこんな短い命、後悔してないのか・・・。答えは・・・後悔していない。
だって、俺が生まれてきた理由は、れいなに逢うためだったって、本当に、そう思えるから。
最後にれいなに逢わせてくれたから、こんな運命だって、俺は愛せる。
だから、れいなも、運命を愛せるほど、人生を素晴らしいって思えるほど、生きてほしい。
そんな前向きなれいなが、俺は大好きだから。
でも、ごめんな。
死んじゃって。だって、無理だったんだよ。ごめん。」
私は、溢れる涙を止められませんでした・・・・
- 658 :Reina_Express_ :04/09/29 23:15
-
田中れいなは、今、モーニング娘。の看板として、活躍を続けています。
あの出来事の後、彼女は一際その輝きを増しました。
最近、メンバーに、彼女はこう言ったそうです。
「私、絶対諦めないんだ・・・私が頑張って、たくさんのことをみんなに伝えて、
生きてるって証を残すんだ。そうすれば、あの人が生きていた証も伝えられるから」
あの人って、どんな人?
そんなメンバーの質問に、彼女は恥ずかしがりながらもこう答えたと言います。
「私の、大好きな人。人生って、素晴らしいって教えてくれた人」
そう答える彼女の胸元には、雪のペンダントが遠慮気味に光っていたそうです。
(了)
从*Tヮ⊂)<モドル