もしも朝起きたとき、となりでれいなが寝ていたら
258 :名無し募集中。。。 :04/06/12 05:30

アラームが鳴る前に目が覚めた。不思議な目覚めだった。
何日も寝ていたような、1〜2分しか寝ていないような。
朦朧としているのは、睡眠不足だからなのか、過剰睡眠だからなのか、分からなかった。

だから寝返りを打った時に、隣で寝ているれいなを見ても、すぐには驚かなかった。
わー、モーニング娘。の田中れいなが俺の横で寝てるー、という浅い反応から始まり、それは徐々に俺の顔を驚愕の色に変えた。
俺は一周回って青ざめた。

当然こう考える。
「なぜ俺の部屋にれいなが?」頭が混乱する。
しばらく動くことができなかった。呆然としていたというのももちろんんあるけれど、

それともう一つ。俺はれいなの顔に見とれてしまった。
れいなの寝顔は無垢でかわいくて、まるで子守唄そのものだった。
その規則正しい寝息はとても優しく、湖を飛び立つ白鳥がそこに残す、あの放射線状の波紋を思わせた。
国民的アイドルの顔が、今俺の顔の数cm先にある。夢だ、そう思わなければこの状況の説明がつかない。
ああ夢でもいい、夢でもいいからもう少し覚めんなよ。

そう思った時、れいなの長くて綺麗なまつ毛が微かに動いた。
同時に開く黒くて大きな瞳、そこに映る俺の顔。
俺達は目が合った。
ああ、れいな・・・れい・・・

「ぎゃああああああーーーー!!!!」

259 :名無し募集中。。。 :04/06/12 05:31

れいなは日本刀で斬られたような叫び声を上げて、毛布とともにベッドから滑り落ちた。
「え?え?」
俺は戸惑った。

「ど、泥棒?!痴漢!?何しよっと!?誰!?おかあさん!!」
れいなは毛布を掴んだまま怯えた。

ちょっと待て。勝手に人の家にあがり込んだのはお前だ。
痴漢呼ばわれされる覚えはなしいし、不愉快だ。
だいたいこの金切り声、さっきのあの安らかな寝顔を作っていた女の子と同一人物とは思えない!
俺は憤りを覚え、反論した。

「ちょっと待てよ。ここは俺ん家だぜ?びっくりしたのはこっち・・・」
そう言いかけて俺は言葉を失った。
部屋のかわいい装飾、スヌーピーのぬいぐるみ、ピンク色のベッド・・・

ここ、俺の部屋じゃない!!!

俺の顔から血の気が引いて行くのが分かったた。
するとれいなが部屋を見渡して、困惑した表情をした。
「あ、あれ?ほ、ほんとだ・・・ここ、私の部屋じゃない・・・」

・・・え?れいなの部屋でもない?じゃ、じゃあ一体・・・
「あ、あんたの部屋と?な、なんて悪趣味なん!変態ね!変態だ!れいなを誘拐しよったんね!」

れいなのヒステリーが俺の思考を妨げる。考える間を与えてくれない。
とりあえずれいなを落ち着かせなきゃ。
俺はベッドから起き上がり、れいなに近づいた。

「いや!来んな!」
「ちょっと落ち着けって!ここは俺の部屋でもねーよ!れいなの部屋じゃないのかよ」
「れいなって呼ぶな!」

ついついれいなと呼んでしまった。
だってアイドルだし・・・ファンだし・・・どこか初対面という気がしない。
そんなことより、俺の頭はパンクしそうだった。考えることが多すぎてどれから手を付けていいのか分からない。

260 :名無し募集中。。。 :04/06/12 05:31

「私の部屋じゃなかと!どういうこと?あんたの部屋でもないの?じゃあ何で私ここにいるんだよ!」

どこなんだ?ここは。なんで俺こんなとこに・・・
確か今日は0時に家に帰って、前日徹夜だったから飯は食わずにそのままベッドに横になって・・・
そうだ、服も家に帰った時のままだし。
0時頃にちゃんと俺のアパートの、俺のベッドで寝たはずだ。
なのになんでこんなとこに・・・
こんなとこってかここはどこだ?ってか何でれいながいんだよ!

部屋の時計はAM1時を指していた。
記憶の糸を辿ってみたものの、何も解決しなかった。
疑問がはっきりと浮かび上がっただけだった。
余計混乱した。

それはれいなも同じようだった。
れいなは俯いたまま何かぶつぶつ独り言をしていた。
しかし急に顔を上げたかと思うと、またヒステリーを起こして怒り始めた。

「やっぱおかしい!れいなちゃんと家で寝たもん!
やっぱり誘拐だ!警察呼ぶから!捕まるよ!懲役七ヶ月だから!罰金とかじゃ済まないから!」
「な、七ヶ月ってなんだよそのリアルな数字は・・・。
違うっつってんだろ!俺だってわけわかんねーんだよ!家で寝てたらこんなとこに・・・」
「シッ!」

れいなが俺の言葉を遮って言った。人差し指を口元に持って行って。
「何か聞こえる・・・」
そう言って部屋のドアを見た。トントントン・・・階段を上がる足音がする・・・
誰か来る!

261 :名無し募集中。。。 :04/06/12 05:31

俺は咄嗟にれいなの手を引いて彼女をクローゼットの中に押し込んだ。
「きゃっ!何すると!」
「うっさい、静かにしろ」

毛布と枕、それにベッドのシーツを綺麗に直してから、俺もクローゼットに入る。
中から扉を閉めた。クローゼットはとても狭く、れいなと肌が密着した。

Tシャツを着ているれいなは二の腕が露出していて、それが俺の手に触れる。
柔らかくて張りがあって、冷たいようで暖かい。そして掴むと折れてしまいそうなほど細い。

普段なら俺はもうそれだけで・・・アレだろう・・・アレっつうか、その、つまり・・・アレになっちゃうだろう。
ところが今は状況が状況だ。俺は扉ごしに、部屋の中に神経を集中させた。

「なんで隠れると?やっぱり誘拐ね・・!」
れいながささやき声でそう聞いた。
吐き出した息が俺の腕にかかり、暖かかった。それくらい密着していた。
真っ暗で表情は分からなかったが、声が震えていたので、怯えているのが分かった。

「違うよバカ。ここは俺の部屋じゃない。お前の部屋でもないんだろ?これって不法侵入だぜ?捕まっちまうよ」
「ちゃんと説明すればいいじゃん・・!」
「バカ。『目が覚めたらいつの間にか侵入してました』なんて誰が信じるか」
「でもでも!」
「シッ」

俺はれいなの口を塞いだ。
れいなは肩をびくんと震えさせた。
部屋のドアが開いたのだ。

何故かは分からないが、俺は言い知れぬ恐怖感に襲われた。
ひょっとすると入って来た足音のせいかもしれない。
ギシ・・・ギシ・・・と、ひどく遅い足取りだった。
それが、目に見えないということもあって、とても重く陰鬱に聞こえた。

足音は部屋を徘徊しているようだった。
小さかった音が段々大きくなる。俺は大きく息を呑んだ。

足音はクローゼットの前で止まった。
しばらくの沈黙の後、扉がガタンと音を立てた。
れいなが両手で俺のTシャツの裾をギュッと掴んだ。
・・・やばい!!!開けられる!!!

280 :名無し募集中。。。 :04/06/12 23:52

どれくらい固まっていただろうか。嫌な汗が吹き出した。
俺のシャツを掴むれいなの手は震えていた。
やがて足音は再び遠ざかって行き、部屋から出て行った。
どうやら見つからずに済んだようだ。

部屋のドアが閉められる音がすると、俺はほっとして胸を撫で下ろした。
それからゆっくりとクローゼットの扉を開け、そこから出た。
クローゼットの中は二人の二酸化炭素でサウナ状態になっていたらしく、外気はその汗を冷やした。
続いてれいなも出た。まだ少し怯えているようだった。

「ふぅ、危なかったな。とりあえず、ここから出よう。窓から出るのがいいかな」
「あんた、ほんとに変態じゃなかと?」
「違うっつってんだろ。・・・あ!」

俺は窓を開けて仰天した。
よく考えれば当たり前のことなのだが、そこは二階だった。
下の道路までは6メートルほどある。

281 :名無し募集中。。。 :04/06/12 23:52

「やっべぇなぁ。俺だけだったらパイプ伝って降りれるけど・・・」
俺はそう言ってれいなをちらりと見た。
最初れいなはそれにハテナマークを浮かべていたが、やがて理解し、怒った。

「れいなだってこんぐらい降りれるよ!バカにすんなよ!」
「ホントかよ。まあでもこれしか手はないしなぁ、じゃあ俺から先に降りるから、ついて来な」

俺はレスキュー隊がロープでビルから降りるように、パイプを伝って道路まで降りた。
そして窓から不安げに覗いているれいなに「降りて来い」と手で合図した。

れいなは少し躊躇ったあと、自分に言い聞かせるように一度大きく頷いてから、パイプに乗り移った。
しかし地面まで2メートルほどのところで手を滑らせて落ちた。
俺が両手で受け止めてやると「余計なことすんな!ジャンプしたんだよ!」と俺の腕を振り解いた。

それから一度家の全景を二人で見た。
何の変哲もない普通の二階建ての一軒家だった。
表札には「浜村」と書かれてあった。
住宅街らしく、周りには同じような家が立ち並んでいた。
俺達は「お邪魔しました」と浜村家にお辞儀をしてから、そこを離れた。

左右を一軒家に挟まれた長い通りをしばらく歩くと、電柱があり、『西東京市○○××』と書かれてあった。
西東京市ぃ〜?なんでこんなとこに・・・」
「れいなの家からずいぶん離れとう・・・」

それから広い通りに出るまで俺達は無言で歩いた。
俺はこのおかしな現象について考えた。
れいなも何か考えているようだった。
しかしいくら考えても答えなんか出るわけなかった。
ワープなんかどうしたって説明がつかない。

282 :名無し募集中。。。 :04/06/12 23:53

れいなは俺の先を歩いていたが(というか無理して俺の前を歩こうとしていた)時々足を止めては「痛いよ・・・」と呟いた。
俺達は裸足だったので、道路の凹凸は相当痛かった。
一度「おぶってやろうか?」と聞いたが、凄い顔で睨まれた。
Tシャツと短パンのれいなの後姿を見ながら、やっぱりこれは夢なんじゃないかと思った。

どれくらい歩いただろう、俺達はようやく大きな通りに出た。
看板には甲州街道と書かれていた。

それから俺はタクシーを捕まえて、れいなを乗せた。
送って行こうかと聞こうとして止めた。また睨まれるのが関の山だ。
着替えていなかったので、ズボンの中には財布が入ったままだった。
運転手に一万円を渡して「お願いします」と言った。

札を出す時に、財布を落とし、車内に小銭をばら撒いてしまった。
まだ動揺してるのか、それともただ単に眠いだけか。
運転手は裸足の二人を見て訝しそうに首をかしげた。

「じゃあな、今日のことは忘れな。おやすみ」
俺は笑顔でそう言ったが、れいなは前を見たままシカトした。
ドアが閉められ、タクシーは走り去って行った。
俺はそれを見送ったあと、自分用のタクシーを拾って、家まで帰った。

ちっ・・・かわいくないな全く。今日からさゆヲタになろう
アパートに辿り着いた俺は、密かにそう決心した。

電気を付けると、部屋には何の異常もなかったが、ベッドには布団がかかっていて、それが少し浮いていた。
まるで誰かがそこに寝ていて、突然音も立てずに消えてしまったような・・・。
ほんとにワープしたのか?
いやまさかな・・・寝よう寝よう、寝たら全部夢だったってオチかも。

俺は重い体をベッドに投げ出し、目を閉じた。
すぐにれいなの顔が浮かんだ。

かわいかったなぁ・・・バカだな俺、サイン貰っときゃ良かった・・・
まあ夢だしな、いや、どうせ夢なら色んなことしてやればよかった・・・あーあ
でも性格悪かったなぁアイツ、やっぱこれからはさゆだなさゆ、エコモニー・・・

くだらない妄想を頭に浮かべたまま、俺は本日二度目の、深い眠りに落ちた。

283 :名無し募集中。。。 :04/06/12 23:53

しつこいインターホンで目を覚ました。
一回のピンポンが鳴り終わる前に次のピンポンを押す。
それを延々何回も。新聞の勧誘だって5〜6回で諦めるぞ・・・
俺は重いまぶたをこすりながら、仕方なく起き上がった。
時計の針は13時を指していた。すげえ、12時間くらい寝てたのか。

ピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン

「はいはい!聞こえてますよ!ちょっと待って下さい」
半ば切れ気味でそう答え、鍵を開けた。
新聞の勧誘だったら怒ってやろう、宗教の勧誘だったら怒鳴ってやろう、NHKの受信料だったら殴ってやろう。
さあ、どいつかな。
俺は不機嫌な顔を作ってドアを開けた。

しかしそこに立っていたのはどの予想にも当てはまらない人物だった。
帽子を目深に被ってはいるが、分かる。華奢な体、白い肌、低い身長。

れいなだった。

「よっ!」

「れ、れいな????!!!!」

308 :名無し募集中。。。 :04/06/13 21:48

れいなは軍隊の敬礼みたく右手をおでこのところに持って行って「よっ」と言った。
その背筋をピンと伸ばした仕草が、ありえれいなくらいかわいかった。
思わず驚くのも忘れて顔がにやけてしまいそうだった。
でもリアクションを間違えちゃいけない。俺は目を丸くして驚いた。

「お、おおおお、お前??? なんで?? なんでここが??」
「へっへ〜、これ」
そう言うとれいなはバッグから一枚のカードを取り出し、それを自慢げに俺に差し出した。

「な、何?・・・あ!俺の免許証!」
「昨日あのあとタクシーの中で拾ったの。感謝してね、れいな自ら持って来てあげたんだよ!」
あ、そうか、昨日財布落とした時に・・・、ってか昨日の、やっぱり夢じゃなかったんだ・・・
呆然として免許証を受け取る俺を尻目に、れいなはするりと俺の横を抜けて部屋に入って来た。

「お邪魔しま〜す」
「ちょ、おい!勝手に入んなよ!」
俺の制止を無視して、れいなはずかずかと中に入って行く。

309 :名無し募集中。。。 :04/06/13 21:49

「何?届けてあげたんだよ?そんな言い方なくない?ってか何ここ、きったねー」
部屋は確かに汚く、そして狭かった。
6畳のワンルーム、まさに貧乏男の一人暮らしといった感じだ。

そこにあのアイドル・れいなが立っているというのは、恐ろしいくらいの違和感だった。
れいなは帽子を取ってバッグの中に入れた。黒くてしなやかな髪が露になった。

れいなは茶色のミニスカートを履いていて、そこから伸びる真っ白で細い足は、まるで作り物のように綺麗だった。キレイナだった。
またしばらく見とれてしまったが、部屋の中央で振り返ったれいなと目が合ったので、俺は咄嗟に視線を逸らした。

「ああ・・・、免許証は、助かったよ、ありがとう。でも部屋に上がることはないだろ?お礼でもしろってのかよ」
「お茶でも入れてよ、それくらいできるでしょ?」
「しょうがないなぁ・・・」
俺はわざと煙たがったが、内心は、言うまでもなく嬉しかった。

またれいなに会えた。
でも普通わざわざ自分で届けに来るかぁ?
ひょっとして、俺が恋しくなったのかな・・・
パックのオレンジジュースをコップに淹れながら、俺は携帯を弄るれいなの横顔を見ていた。

310 :名無し募集中。。。 :04/06/13 21:49

小さなちゃぶ台を挟んで、俺はれいなの向かいに座った。
座布団の上に無防備に足を崩して座るれいなは、ミニスカートがめくれてその中が見えそうだった。
しかし俺は言いようの無い罪悪感に襲われて目を逸らしてしまった。

ってかもうちょっと気を使えよ。まあまだ子どもだしな・・・、意識してる俺がおかしいんだよな・・・
いや、おかしいのはこの状況だろ!なんでアイドルが俺の部屋にいるんだよ

れいなはオレンジジュースを一口飲んでから黙り込んでしまった。
二人の間に気まずい空気が流れる。
な、なんなんだこれは・・・意味深な沈黙・・・れいな、やっぱり、俺のこと・・・
そう思いかけた時、れいなが真っ直ぐ俺を見て、とても真剣な目で切り出した。

「話が、あるとよ・・」

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!!

311 :名無し募集中。。。 :04/06/13 21:50

「来た・・って何が?キモイ!」
しまった。声に出してしまった。
「い、いや、違くて・・・でもまずいよ。フライデーされちゃうよ。それでもいいって言うんなら、俺は・・・」
「は?何言っとー?やっぱり変態ね!昨日のあれは誘拐だったん!?」
「ち、違うよ!・・・え?話って・・・何?」

どうやら俺の妄想は超フライングだったらしく、れいなは怒り出してしまった。
俺はさっきの発言に適当な言い訳を付けてごまかした。
しばらくして落ち着いてから、れいな嬢はそれでも少し気分を害したまま、声を荒げて喋り始めた。

「何って、うちらが話すことなんて一つしかなかと?何であんたとJ-POPの今後について議論しなきゃいけないの!
昨日の話に決まってんじゃん!ありえなくない?うちら、瞬間移動したとよ?すごくない?気にならないの!?」
れいなは頬を赤らめて興奮した。

俺は「ああ、そのことか・・・」と力なく言った。
それがまたれいなのお気に召さなかったようだ。
「は?何そのリアクション?興味ないの?呑気なもんね!れいな・・・昨日怖くて眠れなかったんだよ・・・」
そう言って俯いてしまった。

れいなにしてみれば、昨日の驚きはあの出来事だけだったのだろうが、
俺にしてみれば、それにもう一つ、田中れいなとの会話という、ぶっちゃけそっちのが驚くわ!というまでの衝撃があったのだ。
気にはなっていたが、テレビ以外で見るれいなの方がよっぽど興味を挽かれた。

312 :名無し募集中。。。 :04/06/13 21:50

れいなが下を向いたまま泣きそうになっているので、俺は慌てた。
「い、いや、もちろん俺だってビビってるよ。お、おい?泣くなよ?
そ、そうだ。親は何て言ってた?心配してたでしょ?深夜に娘が裸足で帰宅なんかしたら」
「うん、すごい心配してた・・・『どうしたの?』って・・・
だかられいな、『ごめん、なんか私夢遊病みたい』って言ったの・・・そしたら『そうか』って納得してた。れいなアッタマいいな〜」

夢遊病の方が心配するだろ、と思ったが、本当に泣くといけないので心の中だけで突っ込んでおいた。
「まあ確かに、改めて考えてみると、すごいことなんだよなぁ。俺は確かに0時にここで寝たんだ。
で、1時にはあそこで寝てた・・・無理なんだよ、1時間であそこまで行くなんて、どんなに車で飛ばしても。というか飛ばした覚えもないし・・・」
「でしょ?でしょ?」

れいなは機嫌を直したようで、目を輝かせながらちゃぶ台に乗り出してきた。
「すっごいミステリーでしょ?気になるでしょ?もしかしたられいな、すっごい超能力とか持ってるかもしれないんだよ?」
「はぁ・・・」
「このまま何も無かったことにする気?」
「はぁ?」

れいなは体を後ろに引くと、ニヤリと笑って親指を立てた手を俺の前に突き出した。

「二人でこの謎を解明しよっ!超常現象解明!うちら有名になれるかも!

「はぁ〜????」

357 :名無し募集中。。。 :04/06/14 22:31

しかしいざ解決モードに頭を移行すると、何をどうしたらいいのかさっぱり分からず、いきなり行き詰った。

「でもさー、どうするの?図書館行って調べるの?俺バカだから難しいこと分かんないよ。」
「本に載ってるわけないじゃん!」
「じゃあどうすんだよ・・、超能力・・・医者行く?」
「バカ?ほんとにバカ? とりあえずあの家にもう一回行くんだよ!あの部屋に瞬間移動機でもあるのかも!」
「・・・・・・」
「あ!分かった・・・たぶんあの家にいた人、すっごい偉い博士なんだよ。
瞬間移動機の発明に成功したんだ!うちらはその実験台になったとよ!あそこは研究所だったんだ!」
「・・・・・・」

れいなは興奮して立ち上がり、あらん限りの妄想を捲くし立てた。
俺は呆れながらも、頬を赤らめて喋るれいなに見とれていた。
その後も目を丸くして何かを一生懸命話していたが、俺はほとんど聞いていなかった。

「すごい!ノーベル賞ものだよ!・・・って聞いてる?!」
「・・・え?ああ、聞いてるよ、そうだね。ノーベル賞だよ。アカデミー賞だよ」
「よし!そうと決まったら早速行こう!はい!立って立って!着替えて!」

れいなはそう言うと俺の手を引っ張り、無理やり立ち上がらせた。
俺はわざと面倒くさそうにして、「しょうがないな、じゃあシャワー浴びるから待ってて」と言って浴室に入った。

浴室から「そういえばお前仕事は?」と聞くと

「今日休みー!」

と大声で答えが返って来た。

358 :名無し募集中。。。 :04/06/14 22:31

シャワーから出ると、れいなはCDラックに入っている娘。のCDを見てニヤニヤしていた。
俺は恥ずかしさをごまかすようにさっさと支度を済ませた。

「はい準備完了、行くぞ」
「ふ〜ん、娘。ファンかぁ」
「うっせ!早く出ろ!」

俺はれいなの手を引いて部屋から追い出した。
外に出るとれいなは慌てて帽子を被った。
「バレたら大変たい!」と怒られた。

ドアの鍵を閉めて時計を見ると、14時過ぎだった。
空には雲ひとつなく、太陽がこれでもかというくらい光っていた。

「どうやって行くと?」
「あれ、俺の車、あれで行こう」
そう言って、アパートの駐車場にあるマイカーを指差した。

ダイハツMIRA。
30万で手に入れた中古車。
れいなは待ちきれないといった様子で車に駆け寄った。

ボロボロの軽自動車に、国民的アイドル・・・絵にならないなぁ。
俺は苦笑した。

「早く早く!」
だらだら歩く俺をれいなが急かした。

359 :名無し募集中。。。 :04/06/14 22:32

助手席に座ってシートベルトをするれいなが、何故だかとても面白く見えて、笑ってしまった。
案の定「何笑ってんのキモイ」と睨まれた。
キーを回してもオンボロ車のエンジンはなかなかかかってくれず、数回目でやっと車は安定した振動を得た。

突然れいなが「そうだ!」と言って俺を見た。
「ねぇ、『お前』って呼ぶの止めてくれない?なんかむかつく!」
「じゃあなんて呼べばいいんだよ。田中?」

れいなは口をへの字にして腕を組み、しばらく大袈裟に考えるフリをしてから、「れいな」と言った。

「れいなって呼んでいいよ」
「昨日呼ぶなっつったじゃん」
「いいから!お前よりマシ。よし、それだけ!じゃあ行こっ!しゅっぱぁ〜つ!」
そう言って右手を上げたれいながとても可愛くて、俺はまた吹き出しそうになった。

それから俺は、浜村家に向けて車を出した。

れいなは目を輝かせていた。
それを見ていると、自分までワクワクしてきた。
れいなと二人っきり、怪奇現象の謎を解くためのドライブ。

駐車場の隅にいた黒猫が一匹、じっと俺達を見ていた。

23 :名無し募集中。。。 :04/06/16 05:00

オンボロ車は揺れが激しく、れいなはまた機嫌を損ねてしまった。

「ちょっと!もう少し優しい運転はできないと?」
「しょうがないだろ、ボロなんだから。これでもローン組んだんだぜ?愛車ローンだよ、へへ」
「やっすい愛車たい!」

上手い具合にボケたつもりがその上に皮肉を被せられて、俺はちょっと頭に来た。
こいつホントに14歳か?ずいぶん老けたこと言うな・・・

「あ!また娘。のCD!聴こうよ。シャボン玉シャボン玉」
車内を漁っていたれいながベスト2を発見した。
俺の了解を得る前に、れいなは勝手にCDをセットしてかけ始めた。

「娘。好きなの?」
「ま、まあ好きな方かな」
「ふ〜ん」

それから目的地に着くまで、れいなのカラオケタイムだった。
これほどの幸せがあるだろうか。
あの癖のある甘くてシャープな歌声を、隣で聴けるなんて!
『助手席でれいながカラオケしてくれる券』・・・ヤフオクに出したらいくらで売れるだろう。

時々俺の肩を叩いては「一緒に歌おっ!」とごねてきた。
俺は「事故るから」と言って断った。
本当はれいなの声だけを聴いていたかったからなんだけど。
れいなは窓を開けて風を受けながら、本当に気持ち良さそうに歌っていた。

目的地に着きそうになったが、俺はまだずっと聴いていたかったので、遠回りしようかと思った。
だけどそうはしなかった。別の目的があったからだ。

24 :名無し募集中。。。 :04/06/16 05:01

「1時間40分だね。」

浜村家のある通りと、甲州街道との合流地点に着いた俺は、時計を見てそう言った。
アパートを出てすぐにれいなが、念のために家からどれくらいかかるか計っておこうと言ったのだ。

「じゃあやっぱり無理と?」
「今はちょっと渋滞に引っかかっちゃったけど、まあどっちにしても一時間じゃ無理だね。
というか、だから俺は車使った覚えもなけりゃ、昨日夜家から出た覚えもないんだよ。だいたいこの車はずっとアパートにあったし」
「れいなも、全然家を出た覚えはなかとよ・・」

街道を少し行ったところのコンビニに車を置き、俺達はそこから歩いた。
しばらく歩くと閑静な住宅街に入った。浜村家のある通りだ。人通りはかなり少ない。

通りの入り口から200メートルほど歩いたところだろうか。
浜村家はあった。昨日のまんま。当たり前だが。
俺達はしばらく家を眺めていた。

本当にごく普通の二階建ての家。
やや小さめ。木造式だ。かなり古い建物のようだった。
昨日れいなとここで出会ったんだよなぁ、まだ信じられないけど、でもこうして今横にいるわけだしなぁ。

俺は昨日のことを思い出していた。何だかとても不思議な気持ちになった。
れいなも黙って家を見上げていたが、何を考えているのかは分からなかった。

25 :名無し募集中。。。 :04/06/16 05:02

しばらくして俺はそういえば、と思った。
「そういえば、これからどうするの?」
そう聞くと、れいなは一度大きくため息をしてから、バカにするように答えた。
「頭悪かねぇ。入るとよ。中に。あそこに行かなきゃ。あの部屋」

そう言って二階の窓を指差した。
昨日二人で降りた、あの窓だ。
今日はカーテンが閉められていた。

「いや、何て言って入るんだよ?入れてくれるわけないだろ?」
「男の癖にいちいちイチイチ・・・勇気ないのね!」
「あのな、ゲームじゃねぇんだよ。こういうのはちゃんと計画立てて・・・」
「あー!もううるさい!いざとなったられいなが顔見せればいいじゃん!
番組の収録だとか何とか言って。それでオッケー?ほら、じゃ行くよ」

俺の反論を聞く前に、れいなはさっさと両開きの門を開けて、中に入って行った。
仕方ないので俺も付いて入った。何だか主導権を握られてるみたいで悔しかった。

26 :名無し募集中。。。 :04/06/16 05:02

玄関のドアの前に立つと、れいなは一度俺を振り返り、「行くよ」と目で合図した。
俺が頷くと、れいなはインターホンを押した。その手は震えていた。
なんだよ。何だか言って、やっぱれいなもビビってんだな。強がっちゃって、カワ・・・

ピンポピンポピンポピンポピンポーン

「おい!連打すんな!バカかお前は!失礼だろ!」
れいなが凄まじい勢いでインターホンを連打するので、俺は焦った。

鳴らし終わると、れいなは満足げな顔をして半歩下がり、ドアが開くのを待った。
心臓がバクバクし出した。俺は頭をフル回転させて中に入れてもらう方法を考えた。

「宅配便でーす」
違う、宅配便は玄関先までだ。

「水道の点検でーす」
だめだ、こんな二人組の点検屋がいるか。

「おい、中に入れろ、早くしねぇと刺し殺すぞ」
犯罪だ。

27 :名無し募集中。。。 :04/06/16 05:03

結局何も思いつかなかった。
緊迫した空気が流れていたが、やがてそれも消えた。なかなか出て来ないのだ。

1分くらい固まっていただろうか。
一向にドアの開く気配がしない。
れいなは「いないのかなぁ」と、再びインターホンを連打した。 ピンポピンポピンポピンポピンポーン
俺もさすがに拍子抜けして、緊張の糸が切れた。

俺はドアを手で叩きながら「浜村さん?浜村さ〜ん?」と呼んだ。
しかしやはり反応はなかった。

「留守か」
「え〜、無駄足かよー。どうする?帰って来るまで待っとーお?」
「めんどさいよ。また日を改めて・・・」

俺がそう言いかけると、右隣の家のドアがガチャリと開いた。
この辺一帯の住宅はそれぞれがとても密着していて、浜村家の玄関の前にいても、その両隣の家の玄関の様子は簡単に見られた。
隣家を隔てる壁も、とても低いものだった。

28 :名無し募集中。。。 :04/06/16 05:09

別に後ろめたいことはしていないのだが、何故か俺とれいなはビクっとしてしまった。
ドアからは、40歳くらいのおばさんがムッとした顔で出てきた。

「あんたら、浜村さんに何か用?」
おばさんは訝しそうに俺達を見ながら、とても不機嫌な声でそう聞いた。
話しかけられるとは思っていなかったので、俺は少し戸惑い、返答が遅れた。

「え・・・ああ、はい。いや、別に用ってわけじゃないんですけど・・・」
曖昧な答えを返すと、おばさんにジロリと睨まれた。
その目つきがあまりに怖かったので俺は身震いした。

れいなも怯えているようで、俺の腕を掴んできた。
その手はとても暖かく、少し汗ばんでいた。俺は余計に冷静さを失った。

「あ、うるさかったですか?すみません、お留守らしいので、もう帰ります、失礼します・・・」
おばさんがなかなか視線をはずさないので、俺は我慢できなくなり、れいなの手を引いて門から出ようとした。

門に手をかけたその時、後ろからおばさんの低い声が聞こえた。
そしてその言葉は、一瞬にして俺達をパニックに陥れた。

「浜村さんは半年前に引っ越したよ。今その家には誰も住んでないよ」

・・・え?

51 :名無し募集中。。。 :04/06/16 23:58

俺達は車を停めたコンビニの向かいにあるファミレスで、遅い昼食を取った。
微妙な時間帯だからなのか、幸い客も少なく、れいながバレる心配はなかった。
それでも用心深いれいなは、店内でもキャスケットを目が見えないほど深く被っていた。

俺はミラノ風ドリアを、れいなはリブステーキを頼んだ。
「ず、ずいぶん高いの頼んだね、お金あるの?」
そう聞くとれいなはフォークを置き、帽子の影に隠れて微かにしか見えない目を、じっと俺に向けた。
俺はぞっとした。

「わ、分かってるよ!俺が払うよ!・・・ちっ、高額納税者のくせに・・・」
それを聞くと、れいなはにっこりと笑ってまた食べ始めた。
俺の眼下で290円のドリアが寂しそうに泣いていた。

食べ終わってしばらくマッタリしてから、俺は切り出した。
「しっかし・・・驚いたな」
「驚いたぁ・・」
「でもおかしいよね」
「おかしかね・・」

おばさんの話によると、浜村家は半年ほど前に引っ越し、それ以来あの家には誰も住んでいないらしい。
でも俺達は見た。あの部屋にはベッドやクローゼット、その他の細かい装飾もなされていて、明らかに人が住んでいる様子だった。

そして何よりあの晩、あの家には人がいた。
姿を見たわけじゃないけれど、俺達は確かに人の足音を聞いたんだ。

「泥棒、かな」と俺が言った。
「・・・かな。それか家のない人が勝手に上がり込んだとか」
「おかしいだろ。ホームレスがベッド買う金なんてあるか?電気も来てるみたいだったし」
「う〜ん・・・・・・」
二人とも黙り込んでしまった。

俺はしばらく眉をしかめて考えた。
あの日、あの家に居たのは誰なんだ?
それが分かれば、俺達が何故あそこで寝ていたのかも分かるかもしれない。

あの時咄嗟に隠れなければ良かったな。
でも見つかってたら俺はともかく、れいなはなぁ・・・有名人だし
どうしたものか、俺は思案に暮れた。

52 :名無し募集中。。。 :04/06/16 23:59

「唯一の手がかりは浜村さんか。まあ会ったところで何が分かるってわけでもなさそうだけど。
せめて話せればなぁ、何か分かるかもしれないね。でもおばさんも引っ越し先知らないっつってたし・・・」
「・・・・・・あ!!!!!

突然れいなが大声を上げた。
数人の客と店員がこっちを振り返った。
俺は引きつった笑顔を作って「何でもないです何でもないです」と頭を下げた。

「バカ!びっくりするだろ、どうしたんだよ!」
「あの部屋・・・スヌーピーのぬいぐるみとか、ピンクのベッドとか・・・ひょっとして、子ども部屋?
だとしたら、この辺りの学校とか幼稚園行けば、子どもの転校先とか、引っ越し先が分かるかも!」
れいなは興奮してそう言った。

「子どもだって何で分かるんだよ。スヌーピーのぬいぐるみとか、ピンクのベッドとか、別に大人でも使うだろ」
「スヌーピーはともかく、あんなド派手なピンク、大の大人は絶対使わないよ!絶対子どもだよ!」
「さゆ・・・道重とか石川とか、ピンク好きじゃん」
「さゆは子どもだし、石川さんは・・・ほら、アレだから。絶対子ども部屋だって!
そういえば置物とかも子どもっぽい感じだったじゃん!あんま覚えてないけど」

言われてもみれば、何だか子どもらしい部屋だったような気がしてきた。
あの時は気が動転してて・・・でも・・・そうだ、俺は最初れいなの部屋だと誤解したくらいなんだ。

「どうせ他にすることないんだから!暇でしょ?面白そうじゃん!行こ、この辺の学校行ってみよ!」
「いや暇ではないけど・・・」

もちろん暇だった。

「他に手がかりはないもんな、じゃあ行ってみっか」
「よっしゃ〜!行こう行こう、急ごう! あ、ごちそうさま〜」

何か違う、何か間違ってると思いながらも、結局俺がお金を払った。
まあいいか、年上だし・・・

53 :名無し募集中。。。 :04/06/16 23:59

ファミレスを出てから、俺達はコンビニで西東京市の地図を買った。
車に乗り込んでそれを広げた。
幼稚園児が一人部屋を持っているとは思えないので、とりあえず近くの中学校と小学校を当たってみることにした。

コンビニから車で20分ほどのところに、M中学校はあった。
17時前。校内からは部活動に励む生徒の、怒声や笑い声が聞こえて来た。
そんな若者の微笑ましい姿を見ながら、俺達は事務室に向かった。

「あれ?そう言えばれいな、お前学校は?」
「学校?ダルかぁー」
「お、おい、いいのかよ」
私服の俺達を、すれ違う子ども達は不思議そうに見た。

事務室のドアをノックすると、高音の弱々しい声で「はい?」と返事があった。
中にはいかにも新人ぽいお姉さんが、オドオドしながら、しかも一人でいたので、俺はしめたと思った。
ごまかしが効きそうだ。

「あの、ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが」
「え?あ、はい。な、何でしょうか・・・?」
「ええ。実はこの子が、この学校の元生徒さんと幼馴染でしてね。でもその子、半年前に転校しちゃったらしいんですね。
だからよろしければ連絡先を教えて頂きたいのですが。電話も繋がらなくて困ってるんです。あ、僕はこの子の親戚なんですけどね」
「はぁ・・・そうですか・・・。分かりました。え・・・と、その生徒さんのお名前は何とおっしゃるんですか?」
「浜村です」
「浜村、何さんですか?」
「浜村・・・・・・え?」

しまった。
俺は何て浅はかなんだ。名前知らないじゃないか!

54 :名無し募集中。。。 :04/06/17 00:01

「あ、浜村君ですか?男の子ですか?」
「あ、いや・・・え〜と・・・」

性別も知らねぇよ!
だいたい実在するかどうかも分かんねぇーのに!バカか俺は!
さっきまではオドオドする事務員を半ば見下すような感じで喋っていたが、もはや立場は逆転してしまった。
今やオドオドしているのは俺だ。
もっとも、彼女には俺が嘘を付いてるなんて、知るわけもないのだけれど。

俺は迷い果てた末、大人としてあるまじき言動を起こした。
子どものれいなにゲタを預けたのだ。
「あ、ああ、おい。何っていうんだ?下の名前」

俺はれいなにそう聞いた。
ごめんれいな!何とかして!
しかしれいなはとても澄ました顔で、とても落ち着いた声で、さらっと言ってのけた。

「知らんとよ。小さい頃だったから。浜ちゃんって呼んでたし。女の子です。
半年前に引っ越した浜村って子を調べてもらえますか?ここにいた時は、市内に住んでいたと思います」
「分かりました。少々お待ちください」
事務員のお姉さんはそう言うと部屋の奥にあるパソコンを弄り始めた。

俺達は入り口のドアの前で立って待っていた。
待っている間、れいなに足を蹴られた。
「何キョドっとると?バッカみたい!役立たず!」
「・・・・・・」

俺は言葉がなかった。俯いて、ひたすら謝った。
「まじごめん・・・。でもさ、何で女の子って言ったの?違ったらどうすんだよ」
「は?信じらんない!ピンクのベッドにスヌーピーだよ?女の子に決まってんじゃん!」
「あ、そうか・・・あははは・・・・・・・・・・・ごめん・・・」

もっともだった。れいなが少し大人に見えて悔しかった。

55 :名無し募集中。。。 :04/06/17 00:02

ドキドキしながら待ったが、結果は残念ながら望んでいたものではなかった。

「え〜と・・・すみません。転校した生徒に浜村という苗字の子はいませんでした。
在校生にもいませんし・・・ひょっとしたら名前を間違ってらっしゃるんじゃ・・・」
「あ!そ、そうですか!分かりました。ありがとうございました、お手間取らせちゃって」
「え?い、いいんですか?」
「はいもういいです!ありがとうございました、失礼しまーす」

俺達は逃げるようにして事務室を出た。
お姉さんはぽかーんと口を開け、呆気に取られているようだった。

「だめかぁー」
「次小学校行こ、小学校!」
「れいな時間大丈夫?親心配しない?」
「まだ6時にもなってないじゃん、余裕だよ、よゆー。」

M小学校は、そこからさらに浜村家から離れて、20分ほど行ったところにあった。
中学校とは違い、校内には人の気配がほとんどなく、静まり返っていた。
何となく入りにくい雰囲気だったので、俺達は閉められた門の隙間から、しばらく中の様子を見ていた。
傍から見たら、その姿は明らかに怪しかっただろう。

「あんた入ったら捕まるとよ。最近色々あるみたいだから」
「生徒はもう帰ってるんだから別にいいだろ。ってか俺は怪しくないっつの!」
俺達は学校の外を半周して、来客用の出入り口から校内に入った。

56 :名無し募集中。。。 :04/06/17 00:04

ノックして事務室に入ると、そこには40代前半くらいの、ベテランの雰囲気をかもし出す女の人がいた。
俺はひるんだが、れいなを見返してやろうと、無理してキリっとした表情を作った。

「すみません。ちょっとお尋ねしたいことが・・・」
「後ろの女の子、あなたここの生徒?室内に入る時は帽子を取りなさい。いつも言っているでしょう?」
俺の話を無視して女の人はれいなを怒った。俺はびくっとした。
れいなは渋々帽子を取った。
バレるかなと思ったが、大丈夫そうだった。

れいなが注意に従うと、女の人は今度はにっこりと笑って満足げに頷いた。
それは七福人のように優しい笑顔だった。
どうやらいい人そうだ。少し安心した。

「で、何か用ですか?」
「ああ、あのですね・・・」
俺は今度は抜けのないように、落ち着いてしっかり嘘事情を話した。
最後まで噛まなかったよれいな!よしよしして!
というのはもちろん言わなかった。

しかし話すうちに、事務員の女の人の顔から、笑顔が消えて行くのが分かった。
恵比寿様のようにふくよかな笑顔は崩れ、眉の間に皺が寄った。
俺はやばいと思った。嘘がバレる・・・のはいいとして、またれいなに怒られる・・・。

「その子の、以前の住所は分かりますか?」
とても堅い口調でそう聞かれた。
「え?え・・・と、確か、西東京市の、○○××・・・辺りだったと思います」
俺は電柱に書いてあった住所を、うろ覚えで答えた。

それを聞くと、事務員の人は意味ありげに顔を強張られせたまましばらく黙り、やがて真っ直ぐ俺の目を見た。
あまりに真剣なその視線に、俺はたじろいだ。何かを決心した目だった。

女の人は、ひどく沈んだ、しかしはっきりとした口調でこう言った。

「浜村恭子ちゃんは、半年前に亡くなりました」

れいなの手から、キャスケットが滑り落ちた。

83 :名無し募集中。。。 :04/06/17 23:33

『17日午後3時頃、市内の小学校に通う浜村恭子ちゃん(11)が、マンションの7階から飛び降り、即死した。
飛び降りには目撃者もおり、警察は自殺の詳しい動機について調査を進めている。』

図書館は閉館時間ギリギリで、俺達は慌てて駆け込んだ。
目当ての記事は奇跡的に早く見つかった。
係員に「もう時間ですので」と急かされたので、俺達は慌ててコピーを取って車に戻った。

「ホントに・・死んじゃってたんだ・・・」
「うん、さすがにビビるよな。しかも自殺って・・・」
「動機は分かったのかな・・」
「学校の人はイジメって言ってたな」

車内は重い空気に侵されていた。
俺達は前方を見つめながら、お互いの顔を見ることなく会話をした。

小学校の事務の女性は色々話してくれた。
恭子ちゃんは当時小学5年生で、生きていれば今年6年生だった。

自殺の原因について詳しいことは分かっていないが、クラスの中で少なからずイジメがあったようだ。
一人娘の恭子ちゃんを失った両親は哀しみに暮れ、一時期母親の方は精神的にもやばかったらしい。
動機がはっきりしないということもあってか、学校を訴えるようなことはしなかった。

残された両親は池袋に引っ越したものの、西東京の家は売らずにそのまま残している。
娘の思い出を残すためか・・・それならあの部屋の様子も理解できる。生前のままにしてあるのだろう。
あの日家にいたのは両親のどちらかか、または二人ともか。そのいずれかだろう。

84 :名無し募集中。。。 :04/06/17 23:33

池袋の引っ越し先も教えてもらった。
事務員の女の人は
「わざわざ会いに東京に?とても残念ね・・・何て言ったらいいか分からないわ」と、苦痛そうな顔で言った。
心から同情してくれているようだった。
胸が痛んだ。だって俺達が彼女に言ったことは、全部嘘なのだから・・・

ともあれ、抱えていたいくつかの謎は解けた気がした。
ただ一つ、最大の問題を残しては・・・。

俺とれいなは何故あの部屋でベッドを共にしていたのか?
解決されたいくつかの謎は、その巨大な謎の輪郭をさらにぼやけさせた。

でも・・・、と俺達は思った。
「もういいんじゃないかな、分かんなくても」
「れいなも今そう思っとった・・」
「とてもじゃないけど、俺は浜村さんに会う気にはなれないよ。
彼らは娘を亡くしたんだ。それは他のどんな問題より重くて悲しいよ、きっと。
俺達は確かにワケの分かんない現象を体験したかもしれないけど、でも俺達は生きてるんだ。
上手く言えないけど、それでいいんじゃないかな」
「何言っとーか分かんないけど、れいなももういい・・」
「・・・・・・」

「・・・ってかさ、11歳の子が自殺しちゃったんだよね?それ結構ニュースになったはずだよね?
新聞にも大きく載ってるし。何であんた知らないと?普通知ってるじゃん!」
「知らないよ、俺新聞取ってないし。ニュースなんてハロプロアワーくらいしか見ないもんなぁ」
「頭悪そ!」
「れいなに言われたくない」

85 :名無し募集中。。。 :04/06/17 23:35

それから俺達は黙った。
俺は俺で今回のことについて考えていたし、れいなもれいなで何か考えているようだった。
でもいくら考えても頭はすっきりしなかった。
別に分からなくてもいいんだ、という諦観にも似た結論でしか、俺達は納得せざるをえなかった。

しばらくしてれいなが「帰る」と言った。
俺が「送ってくよ?」と言うと、一度睨んでから「じゃお願い」と無愛想な声で返事をした。

れいなの家に着くまで、俺達はほとんど会話をしなかった。
だが別に気まずいというわけでもなかった。
要は半日動き回った疲れが一気に出たので、二人とも喋る元気がなかったのだ。
CDもかけなかった。
オンボロ車のガタガタ揺れる音や、対向車とすれ違う時に起こる風音だけが車内のBGMだった。

あと数百メートルほどで到着という所で、れいなは「あ、待ってここで停めて!」と言った。

「なんだよ、ここでいいの?」
「こんな怪しい車で帰宅したらお母さん心配しちゃう」
「おめぇ〜、家の場所は教えたくないってことかぁ?俺はどんだけ変態なんだよ!」
れいなはフフッと笑って車から出た。
運転席まで回って来たので、俺は窓を開けた。

「じゃあ・・・ありがとね、送ってくれて」
「ああ・・・うん・・・」

俺は「またね」と言おうとして止めた。
きっともう会うことはないだろうと思ったからだ。
かと言ってさよならとは言いたくなかった。

俺はとても小さな声で「おやすみ」と言った。
「うん、おやすみ。コンサート来てね」
「ぜ、絶対行くよ!おやすみ、れいな・・・」

れいなはにっこり笑うと、家に向かって歩いて行った。
俺はれいなが通りの角を曲がるまで、その後姿を見送った。

時刻は20時前だった。辺りは真っ暗だった。
れいなの姿が見えなくなっても、俺は何もないその真っ暗な空間に、れいなの笑顔の残像を見ていた。

それから俺は自分の家に戻った。

86 :名無し募集中。。。 :04/06/17 23:36

駐車場の隅には、昼間いた黒猫が全く同じ場所に、全く同じ格好をして座っていた。

俺は死んでるんじゃないかと思い近づいた。すると黒猫は走って逃げていった。
まったく・・・気味悪いな・・・

部屋に入り電気を点けると、狭っ苦しくて汚い部屋が露になった。
俺は言いようのない寂しさに襲われた。

あーあ・・・、番号とか聞けば良かったな・・・
いや何言ってんだか、あれはやっぱり夢だ、良い夢見させてもらったな・・・

夢だと思わなければ気持ちを落ち着かせることができなかった。
常温で保存してあった焼酎を、氷も入れずにそのままがぶ飲みした。
美味くも何ともなかったが、作戦通り酔いはあっという間に回り、俺は現実逃避気味に眠りに落ちた。

次の日からまたつまらない日常が始まった。
これが普通なんだ、れいながいる日常なんて、ありえれいななんだ、自分にそう言い聞かせた。

でもできることなら・・・もう一度夢を、れいなといる夢を見たいなぁ・・・

その夢は意外にも早く叶った。

87 :名無し募集中。。。 :04/06/17 23:38

二週間が立ったある晩のこと。
外は雷が狂ったように鳴っていて、強風で流された大粒の雨が、部屋の窓を激しく叩いていた。
肌寒い夜だった。

23時を回っていたので、そのインターホンは誰か特別な人間によるものだろうとは思ったが、まさかれいなだとは少しも考えなかった。

だけど俺がれいなを見た時に笑顔になれなかったのは、そのためだけではない。
彼女は傘を持っていなく、ぐっしょり濡れていた。帽子も被っていなかった。
髪の毛は水気を含んでぐったり垂れていて、毛先からぽたぽたと水が滴っていた。
そしてその顔は、真っ青だった。

「れいな??」
「私・・・私・・・」
そう言うと、れいなはわーっと泣き出して俺の胸に飛び込んで来た。

俺はどうしていいのか分からず、彼女をそっと抱きしめた。
体と体を触れ合ってみて、改めてれいなの体の小ささに気がついた。
細くて、しなやかで、かわいくて・・・強く抱くと壊れてしまいそうだった。

俺は両手をれいなの背中に回して、優しく抱いた。
その体は冷えきっていて、がくがく震えていた。

しかし震え方が普通ではなかった。
寒さによるものだけではなくて、まるで、何かにひどく怯えているような・・・
れいなは俺の胸の中で声を張り上げて泣いた。

「どうしたの?れいな、大丈夫だよ、大丈夫だから・・・」
「私・・・怖い!助けてッ・・!・・れいな、どうしよう!怖いよ・・っ!」
れいなは涙でつっかえながら意味の分からないことを叫んだ。


夢は叶った。またれいなに会えた。
でもそれは、悪夢の始まりだったんだ。

118 :名無し募集中。。。 :04/06/19 01:45

俺はとりあえずれいなを部屋の中に入れ、タオルとシャツとジャージを渡した。
れいなはトイレで着替えた。

ダボダボのTシャツを着たれいなはとてもかわいかった。
乾ききらない髪が光っていて艶かしい。
だが顔は相変わらず蒼白で、クチビルも紫色に変色していた。

れいなは座布団の上に座り、ずっと目線を落としていた。

「夢を・・・見たの・・・」
「夢?」
れいなは口をわなわなさせながら喋った。

「恭子ちゃんが・・・いたの。れいな、恭子ちゃん見たことないのに・・・顔がはっきりしてて・・・
笑ってた・・・すごい・・・怒るように笑ってた・・・夢じゃないみたいにはっきり見えた、えくぼまで・・・」
「れいな、落ち着けよ」

「ほんとなんだよ!赤い色したプールに、恭子ちゃん顔だけ出してて・・・笑ってたの!
私怖くなって逃げようとした・・でも、あの子の手が伸びて・・・蛇みたいな手が伸びてきて・・れいなを捕まえるの!
『行かないで行かないで』って!れいな泣いたんだから!ほんとなんだからっ!」

れいなはまた泣き出し、震えだした。俺は横に座って肩を抱いてやった。

「もちろん信じるよ。でも夢は夢だろ?そんなに怖がることはないよ・・・」
「それだけじゃないのッ!」

れいなはそう怒鳴ると、俺の腕を振り払い立ち上がった。
そしておもむろにTシャツを脱いだ。

「・・・・・・何だ?それは・・・」
俺は驚きと戸惑いで、妙に抑揚のない声を出した。

Tシャツを脱いだれいなは白いブラを着けていた。
その小さな(というかほとんど凹凸のない)二つの胸のちょうど真ん中辺りに、“それ”はあった。

まるでタトゥーのような、絵を描いたような、輪郭のはっきりした、青紫色の痣だった。

119 :名無し募集中。。。 :04/06/19 01:46

「それは一体・・・傷?・・・いつから・・そんな・・」
俺は呂律が回っていなかった。

「さっき寝て、夢でうなされて起きたら、できてた・・・寝る前には絶対になかったとよ・・・」

半径3センチほどの丸いその痣は、明らかに皮膚とは性質が異なり、浮いて見えた。
作り物のようだった。口には出さなかったが、それは俺に吐き気を催すほどの不快感を与えた。

「どうしよう!もう胸の開いた衣装着れないよ!水着も着れない!ねぇどうしよう!ねぇッ!」

そう叫んで、れいなはまた抱きついて来た。
痣のあまりの気味悪さに一瞬逃げそうになったが、何とか踏みとどまり、裸同然のれいなを受け入れた。
れいなはまた震えていた。

「ごめんね、れいな気持ち悪いよね、ごめんね、でもこんなこと、話せる人がいないの、他にいないとよ・・・
家を飛び出して、気づいたらここに向かってた・・・ごめん迷惑だよね・・・」
俺はそんなことないよと言って、れいなをぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫、俺が何とかするよ」
「何とかするって、何を?これは消えるの?もし消えなかったら?消えなかったらどうするの?れいな嫌だよ!こんなの嫌だよ!」
「大丈夫だよ、きっと消える、大丈夫・・・」

俺は何の根拠もなくそう言った。それ以外にれいなを安心させる言葉を、俺は知らなかった。
れいなは俺の腕の中でわんわん泣いた。

かわいそうに・・・一体何故れいながこんな目に・・・
俺はその答えのヒントを知っているはずだった。
だけどそれは明らかに常識を逸脱していて、普通じゃなかった。
だから心のどこかで考えまいとしていたんだ。あの日、れいなと出会った日から・・・。

でももう逃げられない。
れいながこんなに怯えて、体に異常を来たしているんだ・・・

れいなの夢の話、他人が聞いても笑い話にしかならないだろう。
だけど俺は違う。俺は体験した。ありえない現象を、この身でれいなと共に体験したんだ。

俺は使命感のようなものにかられていた。
れいなを助けられるのは俺しかいない。俺がれいなを助けるんだ。
それはうぬぼれだったろうか。

120 :名無し募集中。。。 :04/06/19 01:47

ひとしきり泣いたれいなは、かれた声で「シャワー使っていい?」と聞いた。
俺は新しいバスタオルを渡し、足下のふらつくれいなを浴室まで連れて行った。
れいなはくしゃくしゃの顔で「覗かないでよ」と無理をして笑ってみせた。

静まり返った室内に、窓を打ちつける雨音とシャワーの流れる音だけが響いた。
俺はそれらを遠くに聞きながら、グジャグジャの頭の中を整理した。

自殺した恭子ちゃん・・・気づいたら彼女の部屋にいた俺とれいな・・・
れいなの夢・・・青紫色の痣・・・
もう霊的な世界の話でしかこの問題は解決されない、俺はそう思った。

とてもバカバカしい話だけど、これは浜村恭子の仕業だ。
彼女の霊がれいなに奇妙な夢を見させて、れいなの体を汚したんだ。
だってそれ以外に考えられない!

じゃあ俺はどうすれば・・・天に向かってお祈り?バカげてる。
もう一度あの部屋に行くんだ。両親のことを想って一度は諦めたけど、もう他人事じゃない。
れいなが酷い目にあったんだ。れいなも言ってみれば他人だけど、でも・・・それでも俺は・・・

シャワーから出たれいなにそのことを伝えた。
「それで何が分かるってわけじゃないけど。それしか手がかりはないんだ。やれることをやろう。あの部屋に行くんだ」
「うん・・・」
れいなは小さく頷いた。

それから横にやってきて、俺の胸の中に顔をうずめた。
「ありがとう・・・」
泣きそうな声でそう言った。

俺は堪らずにれいなを抱きしめた。
そうだ、れいなは赤の他人だ。
でも俺は、れいなが好きなんだ。
絶対助けてみせるぞ。

窓の外の雨はさらにその勢いを増した。
遠くの方で、真っ白な稲妻が音もなく走った。

242 :名無し募集中。。。 :04/06/23 02:57

結局その晩れいなは家に泊まった。
「また夢を見るかもしれない」となかなか寝ようとしなかったので、俺は1時間くらいずっと肩を抱いてやっていた。
やっと寝息を立て始めたれいなを布団に寝かせて、俺は部屋の隅で毛布にくるまって眠った。

翌朝早くに、俺達は家を出た。
れいなの手には小学校で聞いた浜村さんの住所のメモが握られていた。
「でもれいな、午後から仕事があるし、どうしよ」
「それまでにはちゃんと送るよ。とりあえずあの家入るにしても、浜村さんに会わなきゃ。もう一回ワープできればいいんだけど・・・」

池袋に行く途中、俺達は朝食を取るために小さな喫茶店に入った。
選ぶのが面倒くさかったので、二人で同じサンドウィッチセットを頼んだ。

れいなは前日放心状態で家を出たため、帽子を持って来るのを忘れたらしい。
それでその時は俺のニット帽を被っていたわけなんだけど、どうやらあまり気に入ってないようだった。
店内の鏡を見ては「だせぇ〜」と文句を言った。

俺は大きめのニットを被ったれいなをとてもかわいいと思ったが、センスを疑われるのが嫌だったので黙っておいた。

243 :名無し募集中。。。 :04/06/23 02:57

恭子の夢は見なかったようで、れいなは昨夜に比べてだいぶ元気になっていた。
おかげで落ち着いて夢や痣のことを話せた。

「恭子ちゃんの怨念か何かってこと?」
「分かんないけど、自殺もイジメとかが原因らしいし・・・そう考えるのが自然じゃないかな。バカみたい?」
俺がそう聞くと、れいなは難しそうな顔した。

「ううん・・・バカみたいはバカみたいだけど・・・夢を見たのはれいなだし、瞬間移動もしちゃったし、この変なのだって・・・」
れいなは胸に手を当ててうつむいた。
「バカみたいなんて、そんなこと、れいなには言えんと・・・」

それから俺達は店を出て、池袋に向かった。

244 :名無し募集中。。。 :04/06/23 02:58

そのアパートはJR池袋駅から少し離れた、とても静かなところにあった。
一軒家を二つも持てないのは分かるけど、何もこんな酷いところに住まなくてもいいのに・・・
そう思えるほど、アパートは小さく古い建物だった。

「どうすると?」
「何かまた嘘考えないとな。あの家入りたいんですけど鍵貸してくれませんか?なんて言ったら、ソッコー追い出されるだろうし・・・」

車の中で話し合った結果、れいなが恭子の先輩という設定で何とか取り合ってもらうことにした。

「203号室・・・ここか」
「小さいね、こんなところに二人で住んでるんだ」
「じゃあ・・・行くよ」
俺は一度れいなを見てから、インターホンを押した。

245 :名無し募集中。。。 :04/06/23 02:58

間もなく「カンッ」と鍵の開けられる音がして、ゆっくりとドアが開けられた。
姿を現したのは母親の方だった。ひどく虚ろな目をしていた。
肌の感じはまだ30代後半くらいなのだが、目元のクマや乱れた髪が、その容姿をずいぶんと老けて見えさせた。

「・・・どなたですか」
母親はぼそっとそう聞いた。感情が感じられなかった。
しかし俺が「恭子ちゃんのことで・・・」と切り出すと、その無表情は一変し、眉を吊り上げて一気に感情的になった。

「もういい加減にして下さい!!!どれだけ私達を苦しめれば気が済むんですか!!!
せっかく引っ越して気持ちの整理が出来初めていたのに!!!一体どうしてあなた達に私達を不幸にする権利があるんですか!!!」

母親は激昂し、目に涙を浮かべながら叫んだ。それは発狂に近い叫びだった。

「ち、違います。この子が恭子さんの友達・・・・・・」
「帰って下さい!!!」
「あ、あの・・・」
俺の言葉を遮ってドアはバタン!と勢いよく閉められた。

「・・・ま、そうだよな」
「テレビとか色々来たのかなぁ」
「どうだろうな。かなり参ってるみたいだったね。そういえばちょっと精神的に不安定になってたとか言ってたしな」
仕方がないので俺達は車に戻った。

246 :名無し募集中。。。 :04/06/23 02:58

「どうする?」
「親父の方は話聞いてくれるかもね、帰って来るまで待とうか」
「れいな今日はもう時間ないよ」
「じゃあ俺一人で待ってみるよ」
「それはダメ!れいなも一緒じゃなきゃイヤだ」
「えー。じゃあどうすんだよ・・・次いつ暇なの?」
「分かんない、でも無理やりでも空けてもらう。仕事どころじゃないもん」

まだ時間があるようだったが、一人で父親の帰りを待つにしても夜になるので、俺はとりあえずれいなを家まで送った。

例によって数百メートル先で停めた。
れいなはドアを開けてから「そうだ!」と言ってまた閉めた。
「ねぇ、また連絡するから番号教えてよ」
「ああ、そっか」
俺が携帯を取り出すと、れいなはさっとそれを奪い、自分の携帯とを両手で持ちながら手際よく番号を交換した。

「はい。なるべく早く連絡するね。それまで一人で行ったりしないでよね」
そう言って降りて行った。

俺はしばらくメモリに入った「れいな」という字を見つめていた。
思わずにやけてしまったが、「ダメだダメだ」と頭を振って真顔を作った。
俺しかれいなを助けられないんだ、俺がこんなのでどうすんだよ・・

247 :名無し募集中。。。 :04/06/23 03:00

それから俺は漫画喫茶に行った。
恭子について調べようと思ったからだ。

しかしネットで得られる情報は思った以上に少なく、大したことは分からなかった。
イジメが原因ということでとりあえずの決着はついているものの、
イジメを行っていた生徒の特定ができず、捜査はずっとグダグダ状態らしい。

飛び降りたのは学校から少し離れたマンションの6階。
救急車が到着した時には、既に彼女の顔と体はめちゃくちゃになっていて、手のほどこしようがなかったようだ・・・
目撃者は同級生の女子で、生前は恭子とも仲が良かったらしい。

俺はまたいくつかの疑問を持った。
どうして学校の帰り道でもないマンションから?
同級生の女子?友達?その子は何でそこにいたんだろうか。
彼女は何か知っている?

しかしそれらのことも、最大の疑問の前にはとても小さな問題だった。
もしこれが恭子の怨念だとしたら、何故その矛先がれいなに?
何故俺とれいなはあの部屋に?

れいなには一人で行動するなって言われたけど、じっとしてなんかいられない。
俺は漫画喫茶を出て、一人で池袋に向かった。

307 :名無し募集中。。。 :04/06/24 19:40

池袋のアパートの前でぼーっとしていると、20時頃になって一台の車が駐車場に停まった。
HONDAのマークU。中から出てきた男は、そのまま真っ直ぐ203号室に入って行った。
お父さんかな?

俺は車を降りて部屋の前に立ち、インターホンを押した。
しかし出てきたのはやはり母親の方だった。

「あなたは朝の・・・」
「お願いです。話を聞いて下さい」
「もう話せることは話しました。今さらお話することはありません!」
「違うんです!僕は・・・・・」

俺がそう言いかけると、母親の後ろから大きな人影が現れた。四十歳くらいの男だった。
長身でがっちりした体型、綺麗な二重まぶたが頑強そうで、それが俺に威圧感を与えた。
母親は顔を伏せてその場を男に譲った。

男は「下がってなさい」と母親の肩を叩いた。
「お、お父さんですか?実は僕・・・・・・」
「君はルポライターか何かかね?いや、そんなことはどうでもいい」
父親は見た目通りの厳格ある声色と口調で俺の言葉を遮った。

「私達は誰が娘を自殺に追い込んだかなんて、そんなことはどうでもいいんだ。娘は死んでしまったのだからね。
分かったところで娘はもう戻って来ない。それなのに君らマスコミが興味本位に事を荒立てて・・・
私達がどれだけ苦しんだか、君に分かるかね?いや分からんだろうね。妻は心の病に侵されてしまった。
君らの悪ふざけが、彼女をそこまで追い込んだよ。さあ、もう私達に関わるのはやめてくれ。帰りたまえ」
「お父さん聞いて下さい。娘さんはきっと・・・」
「帰りたまえ」

俺はゆっくりと閉められるドアを、ただ見ているしかなかった。
父親の正義感の塊のような態度は、少し後ろめたさのある俺に発言の余地を与えなかった。
要するにビビっていたんだ。

俺はしばらくドアの前に佇んでいたが、やがて諦め、車に戻った。

308 :名無し募集中。。。 :04/06/24 19:41

運転をしながら、俺はイラついていた。
ひょっとしたら恭子の怨みは、未だにイジメの首謀者が明らかになっていないところから来ているのではないだろうか。
それなのに両親があんな調子では・・・。

しかしそんなことを二人に言えるはずがない。
二人だけじゃない、世界中の誰に言ったって、信じてくれるはずがないんだ。
それで俺はイラついていた。言いたいことがあるのに、それが言えない。

だけど幽霊とか死んだ人間の恨みとか、そういうことを落ち着いて考えた時に、
やはり俺でさえバカバカしく思えることがあるのだった。

そりゃ信じないよな・・・
俺は自嘲気味に笑い、苛立ちを忘れた。

本当はその日のうちに目撃者の女の子に話を聞きたかったのだが、夜も遅かったので次の日に聞くことにした。
だいたい住所も知らないければ名前も知らない・・・

俺は自分の家に帰った。
前日あまり眠れていなかったので、睡魔はすぐに俺の意識を呑みこんだ。

れいなの話を疑っていたわけではない。
普通の怯え方ではなかったし、痣も見た。

だけどやっぱり“それ”はまだ、俺にとって現実的ではなかったんだ。
その夜までは・・・

309 :名無し募集中。。。 :04/06/24 19:42

その晩、俺は夢を見た。
どこかの小さな室内プール。俺はそこに上半身だけ出して浸かっていた。
プールは赤色に染まっていた。俺の5メートルほど先に少女が顔だけ出して、やはりプールに浸かっている。
少女はうっすらと笑みを浮かべてこちらを見ていた。

俺が「誰だ?」と聞くと、少女はクスっと笑って答えた。
「知ってるくせに」

それは夢と呼ぶにはあまりにリアルだった。
少女が口を開いた瞬間、俺は背筋の凍る思いをした。
肌は真っ白で、作ったように綺麗な二重まぶたは、どこかのアイドルかとも思えるほど可愛かった。

310 :名無し募集中。。。 :04/06/24 19:44

そう、俺はその少女の名前を知っていた。
もう一度同じ質問をする必要はなかった。
俺には他にもっと聞かなければならないことがあったのだ。

「・・・何故、れいなにあんなことを?お前の目的は、一体なんだ・・・?」
恭子はその問いには答えず、急に表情を変えたかと思うと、顔をぶるぶる震えさせた。
彼女を中心に広がる波紋が、俺のところまで届いた。
とても夢だとは思えなかった。

「あいつら、許せない・・・!」
この世のものとは思えない(実際この世の者ではないのだが)激しい怒りを顔全体に現して、恭子は押し殺した声を出した。

「君の自殺を目撃した子は、何故あの場に?あいつら?一体誰なんだ?俺が捕まえてやるから・・・」
俺は恐怖で後ずさりした。身の危険を感じたのだ。

「逃げるの・・・?行かないで・・・」
「逃げない、逃げないから・・・頼むから落ち着いてくれ。君の望むとおりにしてやるよ。だから、だかられいなは・・・」

そう言いながらも、俺は後ずさりする足を止めなかった。
だが水の中では思うように進まず、恭子との距離はほとんど広がらなかった。

次の瞬間、恭子の周りから無数の腕が現れて、俺に向かって来た。
「や、やめろ!何を・・・!」

蛇のように伸びてくるそれらの腕は、俺の体を捕らえ、体中にまとわり付いた。
腕は氷のように冷たく、そのくせ人肌のブヨブヨした感触がした。
俺は恐怖と気味の悪さで自分でも耳を塞ぎたくなるような叫び声を上げた。

「うわあああああぁぁぁぁぁ!!!!」

311 :名無し募集中。。。 :04/06/24 19:45

その叫び声で目を覚ました。
汚くて狭い部屋、間違いなく自分の部屋だった。

俺は息切れをしていて、マラソンをした後みたいに汗を掻いていた。
布団と服は汗でびしょびしょだった。それが夢の内容と相まって、吐き気を催した。

なんて夢だ・・・いや、夢なのかどうかも・・・れいな・・・
俺は服を脱いでシャワーを浴びようと浴室に入った。

右目に違和感を感じて咄嗟に手で押さえた。
洗面台の鏡には、右目を押さえて険しい顔をする俺がいた。
俺はゆっくりとその手をはずした。

右目の、眉毛と目の間辺りだった。


青紫色の小さな痣ができていた。


92 :名無し募集中。。。 :04/06/26 23:19

それがれいなの胸の痣と同じものであることは、もはや考えるまでもなかった。
間近で見る“それ”は本当に気味が悪く、胃液が煮え返るような感覚に陥った。

手で触ってみるとそこだけ感覚がなかった。
逆に手の方には痣の奇妙な感触が伝わってきて、俺は軽く眩暈がした。
人間の肌とは思えなかった。

それはまるで腐った、死人の皮膚だった。

93 :名無し募集中。。。 :04/06/26 23:20

れいなからは次の日にすぐ電話があった。
「時間できたよ。あのアパート今日行こー」

昼を過ぎてから家まで迎えに行った。
れいなは車を見つけると笑顔で手を振りながら走って来たが、
車に乗り込み俺の顔を見た途端、その表情を崩してしまった。

「それ・・・」
「へへへ、俺も見ちゃったよ、夢。起きたらできてた。れいなと一緒だね」
れいなは不安そうに俺の顔を見ていたが、やがて俯き、黙ってしまった。
俺も何と言えばいいのか分からなかったので、特に声をかけることもなく黙っていた。

しばらく車を走らせていると、れいなが「停めて」と呟いた。
ウィンカーを出して道の端に寄せると、れいなは車を出て目の前にあった薬局に入っていった。

何だろう?と不思議に思っていると、小さなビニール袋を手に持ってすぐに出てきた。
そして黙ってまた車に乗り込んできた。

「何?どうしたの?」
れいなは袋の中からバンソウコウを取り出した。

「こっち向いて」
俺が顔を向けると、れいなは両手でバンソウコウを広げ、俺の右目のまぶた、つまり痣の上に、それを優しく貼った。
れいながあまりに顔を接近させてそれをやるので、俺はドキっとした。

「あんまり見たくないの・・・ごめんね、勝手で。それ貼っといて」
「い、いや全然・・・、ありがとう。へへ、ボクサーみたいでかっこいいな」
俺はふざけて笑ってみせたが、れいなはまた俯いてしまった。

94 :名無し募集中。。。 :04/06/26 23:20

痣のことをれいながどう思っているのかは分からなかったが、俺自身はそれほど動揺していなかった。
むしろ喜んでいたくらいだ。

れいなと同じ境遇にある、れいなと同じ悩みを抱えているということが、何故か無性に嬉しかった。
同じ傷を負った人間が近くにることで、れいなの痛みが少しでも和らげばと思った。
そんなこと、れいなに言ったら怒られるだろうけど・・・。

落ち着いてから夢の話をした。
れいなは「私の見たのとほとんど同じだ・・・怖すぎ、もう眠れん・・・」と、泣きそうになっていた。
しかし俺が一人で池袋のアパートに行った話をすると、今度は声を荒げて怒り始めた。

「なんで勝手に行くと!?れいなも一緒に行くって言ったのに!」
「ごめんごめん。じっとしていられなかったんだよ。でもダメだった。
オヤジ超怖い人でさ・・・俺びびっちゃったよ。二人ともかなりこたえてる様子だった。当たり前か」
「え、だめだったの?じゃあどうするの?今どこに向かってるの?」
「恭子ちゃんが飛び降りたっていうマンション。あと、それを目撃したって子が、彼女の同級生らしいんだ。
その子にもちょっと会って話聞いてみたいな。また小学校の事務室行って住所とか聞かなきゃだけど」
「飛び降り自殺の現場・・・・・・怖いな・・・」

俺も怖かった。
だってもう、何が起こっても不思議じゃないから・・・。

95 :名無し募集中。。。 :04/06/26 23:21

少し迷いながらも、ネットで調べた情報を頼りに何とかそのマンションに到着できた。
いたって普通の建物だったが、脳裏にあの夢を焼き付けられた俺達には、それはとても陰惨で、不気味なものに見えた。

俺達はエレベーターで6階まで昇った。恭子が飛び降りた階だ。最上階らしかった。
エレベーターが開くと、れいなは身を屈めさせて、露出した腕を両手でさすり始めた。

「何か・・・寒気しない?」
「気のせいだろ・・・。あんな夢見ちゃったから。それに風もあるしな・・」
俺も背筋がぞっとしたが、気のせいだ気のせいだと自分に言い聞かせた。

エレベーターから降りると、目の前に細長い通路があって、その左手に601〜605号までの部屋、
右手にれいなより少し背の低い壁があって、そこからはるか下の道路が覗けた。

「飛び降りるとしたらここからか・・・」
俺は両手で壁をしっかり掴み、道路を見下ろした。
あまりの高さにぞっとした。

「花とかないんだね。よく交通事故で死んじゃった人とかさ、事故現場に花が置かれてるじゃん。ここにはないね。何だか寂しいね・・・」
「そういや、そうだな・・・。まあ自殺だしな」

後ろから誰かに押されるんじゃないかというバカみたいな恐怖心で、二人とも腰が引けていた。
当たり前だが特に新しい発見もなさそうだったので、俺達は逃げるようにその場を去った。

マンションに入ってから出るまで俺達は誰にも会わなかった。
それがまた不気味だった。

96 :名無し募集中。。。 :04/06/26 23:23

それから俺達は小学校に行った。
れいなが「目撃者の女の子のことについては一人で聞いてくる」と言って聞かなかった。

どうやら浜村宅に俺が一人で行ったことを根に持っているらしかった。
確かにれいな一人の方がかえって怪しくないかなと思い、俺はその案にオッケーした。

れいなは遊園地にでも行くかのようにルンルンで学校に入って行った。
何がそんなに楽しいんだか・・・探偵ごっこかよ
その後姿を見て、やっぱりまだ子どもだなと、俺は微笑ましく思った。

俺が車で待っていると、れいなは15分ほどで玄関から出てきた。
満面の笑みで車に向かって来ながら、拳を握って親指を突き立てていた。

「へっへ〜、やりました。こないだと同じ女の人で良かったぁ。
でも『あなた学校は?』って聞かれて超焦った!テスト期間ですって言っといたけど。れいなあったまイイなぁ〜」
「わ、分かった分かった、偉い偉い。で?どこまで聞けたの?」
「目撃者の女の子は、佐藤恵美ちゃん。今6年生ね。写真見せてもらった。住所も聞こうと思ったんだけど、
『校内放送で呼ぼうか?』って言われたから、ヤバイと思って、断って住所聞かずに逃げてきちゃったよ」
「は?おい!住所聞かないでどうすんだよ!それなら放送で呼んでもらった方が・・・」
「大丈夫だって。れいな、写真で顔見たから。校門に回って出て来るまで待とうよ。もうすぐ下校時間でしょ?」
「しょ、しょうがねぇな・・・」

れいなが意外にも計画的だったので、俺は文句の付けようがなく、言葉に詰まってしまった。

時刻は3時過ぎだった。俺達は下校時刻まで、車の中で待つことにした。

143 :名無し募集中。。。 :04/06/27 22:12

「あいつら許せないって言ってたな、恭子ちゃん」
「イジメ・・・誰なんだろう。でも警察にも分かんなかったんでしょ?うちらに分かるわけないよ・・・。
分かったとしても、それで恭子ちゃんが生き返るわけでもないし・・・」
「よく言うだろ?現世に未練があると成仏できないって。
そいつらが捕まらないで、のほほんと生活してるのが許せないんだよ、きっと。
ほんっとに夢みたいな話だけど、俺達なら信じられるはずだぜ?俺とれいなの手で恭子ちゃんを救ってやるんだ。
警察には幽霊が見える?見えないよな。これは俺達にしか解決できない問題なんだ。 ・・・まあ俺らも幽霊見たわけじゃないけど・・・」

俺達はしばらく車の中で、そんな他人が聞いたら間違いなくバカにするような話をした。

やがて話は逸れて行き、れいなの世間話になった。
仕事のこと、家族のこと、最近聴いている音楽、最近作った料理・・・

生二人ゴトだ・・・れいなとあなた、れいなと俺だ。
俺は黙って聞いていたので、ほぼれいなの一人ゴトだったが・・・。

144 :名無し募集中。。。 :04/06/27 22:13

俺は楽しそうに話すれいなの顔を、適当に相槌を打ちながらじっと見ていた。
もう本当にありえれいなくらい愛らしかった。

俺は胸が熱くなって、ワケの分からないことを聞いてしまった。
「れいなは・・・どうなの?どんな人がタイプなの?」
「え?何て?」
「いやだから・・・その・・・同じくらいの年齢の人じゃないとダメとか・・・」
「あー!何これー!かわいい!」

俺の質問をそっちのけで、れいなは助手席の引き出しから円錐の形をした、つららのようなキーホルダーを見つけてはしゃいだ。
プラスチックでできたそれは透明なエメラルドグリーンで、縦が3〜4センチほどの、少し大きめのものだった。

「ああ、それ会社で貰ったんだよ。何かの景品だったと思う。
良かったらあげるよ。 俺キーホルダーとかストラップとか、あんま使わないし」
「まじ!?くれるの?ありがとー!」

れいながあまりに喜んでくれるので、俺は嬉しかった。
ただ「かわいいかぁ?」とは思った。
女の子の感性はよく分からない・・。

「まじでありがとー、キレ〜イ。どっかに付けるねっ。で?何だっけ?何か言いかけてなかった?」
「え?ああ・・・いや、何でもない」
俺は恥ずかしくなって聞くのを止めた。

会話もなくなり、何気なく窓の外に視線を向けていると、校内でチャイムが鳴った。

145 :名無し募集中。。。 :04/06/27 22:13

間もなくして生徒達がぞろぞろと下校し始めた。
「お、おい。こんな大勢の中から見つけられるのかよ」
「ちょっと黙っとって!集中するから」

れいなはそう言って身を乗り出し、校門を凝視し始めた。
車は校門から20メートルほど離れたところに停めてあったので、あまり目のよくない俺には生徒の区別はほとんどつかなかった。

それから5分ほど経った頃、れいなが「あ!」と叫んだ。

「いた?」
「うん。あの茶色い鞄の子。恵美ちゃん」
れいなはそう言って指差した。鞄の区別は俺にも付いた。

「ど、どうすると?」
「どうしよう。俺が行ったら誘拐だと思われちゃうよ」
「じゃあ二人で行こ」
「うん。ちょっと大通りに出てからのがいいな」
俺は広い通りに出るまで徐行で恵美の後を付けた。怪しさ全開だった。

幸い恵美は独りで歩いていた。
適当な場所に車を停め、俺とれいなは彼女に走り寄った。
そして後ろから名前を呼んだ。

「佐藤、恵美ちゃん?」
恵美は驚いた顔で振り返り、俺達の顔を交互に見た後、今度は怯えた表情をした。

146 :名無し募集中。。。 :04/06/27 22:13

「怖がらないで、俺達は別に怪しい者じゃないよ」
「恭子ちゃんのことでちょっと聞きたいことがあるんだけど、今いい?」
「恭子・・ちゃん・・?警察の人ですか?」

恵美はれいなよりも身長が高く、顔も声もおっとりしているため、小学生にしてはずいぶん大人びて見えた。

「違う違う。違うけど・・・まあそんなとこかな。恭子ちゃんの自殺の原因について調べてるんだ。 知ってることがあったら教えてくれないかな」
「え・・でも、あたし・・・もう全部話しました・・・」
「嫌だとは思うけど、もう一度知ってることを全部話してくれないかな」
「いや本当に何も・・・。」
「恭子ちゃんはイジメが原因で、その・・・じ、自殺しちゃったんでしょ?一体誰が恭子ちゃんを?」
「イジメなんて・・・そんなもの・・。恭子ちゃんを妬んだ何人かがシカトしようって言ったくらいで・・・」
「妬んだ?何を?」

「恭子ちゃん可愛くて、人気者だったから、あんまり、そういうのを面白く思ってなかった子達がいて・・・
でもそれで自殺だなんて、そんな・・・イジメなんて呼べるものではなかったです。
恭子ちゃんは友達が多かったから、そんな2〜3人に無視されるくらい、どうってことないと思ってた・・・」

「他に原因は考えられない?恵美ちゃんは親友だったんでしょ?もっと陰でイジメてる人がいたとか」
「恭子ちゃんとは仲が良かったですけど、そんな話は一度も・・・」
「よく思い出して。ほんのささいなことでもいいんだ。学校で変わったこととかなかった?」
「あの・・・歩きながらでもいいですか?あたし、塾があるんです」

恵美はそう言ってスタスタ歩き出した。
俺とれいなは、恵美を挟むような形で後を付いて行った。
歩きながら恵美は話した。

147 :名無し募集中。。。 :04/06/27 22:14

「変わったこと・・・半年も前のことだから、あまり覚えてないですけど・・・
特に変わったことはなかったと思います。あの日の前日も、普通に一緒に下校したし・・・」
「あの日・・・そうだ。あの日、12月17日。君はなんであのマンションにいたんだ? 恭子ちゃんの自殺に居合わせたのは偶然?」

俺は親友を自殺で亡くした若干12歳の少女の気持ちも考えず、ずけずけと無神経な質問を投げかけた。
れいなに睨まれ、反省したが、恵美はそれでもちゃんと答えてくれた。

「あの日、ってゆーか、あのマンション。二人でよくあそこで遊んだんです。
あそこは去年の11月頃まで普通の人でも簡単に屋上まで上がれたんです。
11月に入ってから、危ないからって鎖の鍵で入れないようになったんですけど。
あたし達二人で遊ぶ時はだいたいあそこの屋上で歌を歌ったりしてました。」

148 :名無し募集中。。。 :04/06/27 22:15

「あの日は、冬休み前で学校は午前中だけだったんですけど、恭子ちゃんは来ませんでした。
でも風邪が流行っていて、他の子達も何人か休んでいて・・・だから特別おかしいとは思いませんでした。
でもあたしが家に帰って、遊びに行こうと道を歩いていたら、遠くの方に恭子ちゃんみたいな人が見えたんです。
制服を着ていたのでまさかとは思ったけど、 あのマンションに向かっていたから、あたし、走って後を追ったんです。
そしたらやっぱりマンションにいて・・・。6階からぼーっと空を見てました。制服を着ていたから、あれ?って思いました。
学校に来たのかなって。呼んでも答えないから、あたしも6階に上ったんです。エレベーターが開くと、恭子ちゃんはあたしを見ました。
それでニコって笑って、何かぼそっと言ったんです。よく聞き取れなかったけど、やっぱり屋上には行けなかったよ とか、
そんなことだったと思います。それであたしが近づこうとしたら、恭子ちゃん・・・壁の上に上って・・・そのまま・・・」

恵美はそこまで話すと、泣きはしなかったが、辛そうにして喋るのを止めた。

149 :名無し募集中。。。 :04/06/27 22:16

俺もそれ以上自殺のことを聞くのは悪いと思い、適当に関係のないことを聞いてみた。

「あ、あのさ・・・恭子ちゃんって、どんな子だったの?」
「すっごくいい子。優しいし、頭いいし、人気者だったし。モー娘が大好きでした」
れいなはチラっと俺の方を見てから、帽子を深く被り直した。

「モー娘に入りたいってずっと言ってたなぁ。マンションの屋上で歌う歌も、ほとんどモー娘の曲でした。
特にシャボン玉っていう曲が大好きで、あればっか歌ってました。ダンスも完璧に覚えて。かっこ良かったですよ。
あたしも散々聴かされて、その内に大好きになりました。
いつか一緒にオーディション受けようねって言ってたなぁ・・・かわいそうだなぁ・・・」

バカだった。話題を逸らせても恭子の話をする以上、結局は悲しい話になってしまうのだ。
もう特に聞きたいことはなかったのだが、だらだら歩いている内に結局恵美の家まで来てしまっていた。

「じゃあ・・・家着いたから・・・もういいですか?」
「ああ、ありがとう。話してくれてすごく助かったよ」

恵美は会釈をして玄関に向かおうとしたが、「そうだ」と言ってまたこちらを振り返った。
「あのぉ・・・これはたぶん見間違えだと思うんですけど・・・
エレベーターから恭子ちゃんまで、結構距離あったから・・・ちゃんとは見えなかったし・・・」
「え、何?」

俺がそう聞くと、恵美は自信なさげに話した。

「恭子ちゃん、右目が何かおかしかったような気がするんです。すごい腫れていたような・・・。
あと・・・胸を苦しそうに押さえていました・・・」

俺とれいなは顔を見合わせた。

203 :名無し募集中。。。 :04/06/29 02:22

発見された時には遺体はめちゃくちゃで原形をとどめていなかった・・
飛び降りる前に、既に目と胸には傷があった・・?
右目と胸・・・俺とれいなの痣・・?

恵美の家から車に戻ると、時刻は17時前だった。
れいなの家に車を向かわせながら、俺達は今後どうするかについて話し合った。

もう残す手がかりはあの部屋しかない。
かと言って両親の承諾は得られない。
忍び込むしか他に選択はなかった。

「でも、どうやって中に入ると?」
「父親か母親が定期的にあの家に訪れると思うんだ。
俺とれいなが恭子ちゃんの部屋で寝ていた夜、あの時もあの家には誰かいた。
だからその隙を突いて中に忍び込もう。・・・いや、忍び込むのは俺だけだ」
「なんで!れいなも行く!」
「だめだよ。れいなはトップアイドルだぜ?もし見つかっても、俺だけなら何とかなる。
最悪捕まっても、それで終わりさ。どっかのダメ人間が泥棒して捕まっただけ。でもれいなはそういうわけには・・・」

「イヤだ!どっちにしても、このままじゃイヤ!こんな痣・・・イヤだよ絶対!れいなも行く!
一人で行ったりなんかしたら、今度こそ許さないんだからッ!」
れいなが見たこともない真剣な目でそう言うので、俺は観念した。

「・・・分かったよ。でもちゃんと調べてからな。親があの家に行く日、その時間、帰る時間、
そういうの色々調べてからだよ。俺が家で張り付いて調べとくから。そのくらい俺一人でもいいだろ?」
れいなはそれでも不満といった様子で顔を膨らませていたが、やがて大袈裟にため息をしてから了解した。

家まで送ると、「行く時は絶対連絡してよ!」と念を押してから、れいなは帰って行った。

俺はそのまま池袋に行き、浜村さんのアパートの前で家の様子を見張った。
明らかにストーカー行為だ・・。

20時に父親が帰って来て、23時には電気が消えた。
それからさらに30分待ったが、誰も部屋から出てくる気配がなかった。
俺は諦めて帰った。

204 :名無し募集中。。。 :04/06/29 02:23

次の日からも、俺は仕事が終わるとすぐに池袋に向かった。
そして部屋の電気が消えるまで、ずっとアパートの前に張り付いた。

正直狭苦しい車内で、何時間も同じ場所を見つめているのは思った以上に辛いことだったが、
時々れいなが電話してきてくれて、それがとても励みになった。

「もしも〜し、お疲れー」
「れいな?どうしたの?」
「いや暇だと思ってさ、れいなの声でも聞かせてあげようと思って」
「ははは・・・助かるなぁ」
れいなのためなら、どんな辛いことでも頑張れそうな気がした。

「仕事何やってるの?」
「何って別に・・・普通の」
「彼女とかいるの?」
「いやいないけど」
「そっかぁー。いないんだー、ふ〜ん」
「れいなは・・・」
「え?」
「俺、れいなのこと・・・す・・・」
「え?何て?」
「いやだから・・・す・・・」
「え〜?聞こえない!」
「す・・・き・・・来た・・・。出て来た。お母さんの方だ」

それは張り込みから四日経った水曜日のことだった。
午後9時、母親が花を抱えて部屋から出てきた。
そして駐車場に停めてあった車、HONDAのFITに乗り込み、発車した。
こんな狭い家に住んでるのに、車は二つ持ってるのか・・・、俺は笑いそうになった。

「れいな、切るよ」
「わ、分かった。でも確認するだけだよ!一人で入ったりしないでね!」

205 :名無し募集中。。。 :04/06/29 02:24

俺は適度に間を空けて母親の後を追った。
行き先は分かっているのでそれほどがっつかなくても安心だった。

西東京市の家の近くに着くと母親は有料駐車場に車を停め、そこから歩いてあの通りに入って行った。
俺はその駐車場の向かいに車を停め、そこで母親が戻って来るのを待った。
2時間ほどで母親は戻って来た。遠くからであまりよく分からなかったが、泣いているように見えた。
それから真っ直ぐ池袋に帰って行った。

「もしもし?れいな?」
「どうだった?」
「うん。やっぱりあの家に行ってた。花を添えに行ってるんだと思う」
「そっか・・・」
「あのさ、今そこに去年のカレンダーある?」
「?? 去年の?ちょっと待ってね・・・・・・あった。何?」
「去年の12月17日の曜日を教えて欲しいんだけど」
「17日・・・えっと・・・水曜日だね。・・・あ!!!」
「やっぱり。たぶんお母さんは毎週、恭子ちゃんの亡くなった曜日に、あの家に行ってるんだ」
「そういえば・・・うちらがあの部屋で寝てたのも、水曜日だった・・・」
「うん、間違いないと思う。念のため明日からも見張ってみるけど、忍び込むとしたら水曜日だね。
お母さんが鍵を開けて中に入った隙に、俺達も中に入ろう」
「やっべー、れいな超ドキドキしてきた。犯罪すれすれじゃん!」
「いや犯罪ど真ん中だから・・・。おい、遊びじゃないんだぞ」
「分かっとーって!じゃあれいな明日早いから、もう寝るね」
「うん、おやすみ」
「おやすみー」

れいなの声はとても明るかった。
それだけで俺は幸せな気持ちになれた。

206 :名無し募集中。。。 :04/06/29 02:25

また夢を見たのは、その四日後の夜だった。

しかしその夢は、前に見たあの不気味な夢とはまた雰囲気の違うものだった。

俺はどこかの建物の屋上にいた。
風が強かった。
例によってまるで夢という感じがしなかった。

屋上?あのマンションの・・・?
周りを見渡したが、恭子の姿はなかった。
俺はしばらく屋上の真ん中に座り、そこから見える街並みをぼーっと眺めていた。

やがてどの程度の高さなのか気になり、端まで歩いて道路を見下ろした。
しかし眼下に道路はなかった。
こには舗装のなされていない荒れた地面があるだけだった。

気がつくと、さっきまで見えていた街の景色は全て消え失せ、人も家も木も何もない、砂漠のような大地が永遠に広がっていた。
世界中で建物はここだけしか存在しないような・・・。
振り返ると、屋上の真ん中で恭子がうずくまり、しくしく泣いていた。

俺は何故か、とても絶望的な気持ちで目が覚めた。
恐怖心はなかったが、妙な喪失感があった。
恭子・・・今のは君の夢・・・?

俺はまた右目に違和感を覚えた。いや違和感というより、今度は明らかな異変だった。
右目だけぼやけて見えるのだ。俺は洗面台の鏡の前に立ち、バンソウコウをそっと剥がした。
鏡に映る自分の顔を見て、しばらくその場から動けなくなった。
「・・・何てことだ・・・れいな!」

携帯が鳴った。急いで取った。液晶は見なかった。
誰からの電話かは分かっていた。

「れいな・・・落ち着くんだ・・・」
「・・・・・・くなっとうよ・・・」
「れいな・・・」
「痣が・・・大きくなっとうよ・・・」

もう時間がないような気がした。
次の水曜日まであと三日だ。

207 :名無し募集中。。。 :04/06/29 02:26

れいなに何としてもその日は空けるように伝え、電話を切った。

俺はもう一度鏡を見た。
痣はまぶた全体に広がっていて、右目を塞ぐほど皮膚が垂れ下がっていた。

へへへ・・・何だよこれ・・・これが俺の顔か?ちくしょう!どうなってんだよ!
ゾンビのようだった。もう小さなバンソウコウでは隠し切れないほど大きくなっていた。

俺は財布を持って家を出た。薬局で大きめのバンソウコウを買うためだ。
駐車場に行くと、車の下に黒猫が寝ていた。
俺が近づくと走って逃げていった。
「へへ・・何か起こる前はいつもお前に会うな。勘弁してくれよ・・・くそッ!」

れいなと俺の痣・・・段々大きくなって、その内体全体を覆うとしたら・・・?
そんなことを考えている内に頭痛がした。
同時に妙な予感もした。あの部屋に行くことで、全てが終わりそうな・・・
それは何の根拠もないものだったけれど・・・。

俺は右目を押さえながらアクセルを踏み込み、夜の街道を意味もなく飛ばした。

240 :名無し募集中。。。 :04/06/29 22:55

水曜日───

俺は仕事に集中できなかった。緊張からかたまに手が震えた。
昼休みに職場の先輩がやって来て俺の肩を叩いた。

「おい、今日終わったら飲み行こうぜ」
「いや、すいません今日はちょっと・・・」
「なんだよ、お前最近付き合い悪ぃーぞ?それにその目、どうしたんだよ、喧嘩か?
いいか、相手を殴るとき時はな、両脇をしっかり締めて、腰を思い切り回すんだ。
遠心力ってやつで。身体ひねってあとは拳を突き出すだけだ、それでイチコロよ」
「いや喧嘩じゃないです。今日は大事な用があるんです」
「何だよ、デートか?」

俺は違いますよと笑った。
「もっと大事な用事が、あるんです・・・」

仕事は18時に終わった。
俺は車を飛ばしてれいなを迎えに行った。
家の近くから電話すると、れいなはすぐに出て来て車に乗った。

「れいな仕事大丈夫なの?」
「うん。でももう限界。これ以上は休めないよ。・・・・・・目、見えなくなっちゃったの?」
「え?ああ、これか。平気平気。左だけ見えれば何ともないよ」
俺は白い大きなバンドエイドを、右目全体が隠れるように貼っていた。

「れいなは大丈夫?」
「れいなも平気・・・最初びっくりして泣いちゃったけど・・・泣いてても始まらないし・・・
あの夢、恭子ちゃん泣いてた。きっと恭子ちゃんも辛いんだ」
「うん、俺達で助けるんだ」

俺は車を池袋に向けた。

241 :名無し募集中。。。 :04/06/29 22:56

20時。浜村宅のあるアパートに着いた時、母親の車はまだ駐車場にあった。

「良かった。もう出てたらどうしようかと思ったよ」
ただ父親の車はなく、もしそれに乗って母親が出かけているとしたら・・・
そう思って少し焦った。

「向こうで先に待ってたら?」
「見逃すと大変だよ。家の前で待ってるわけにはいかないし。あの通り、車停められないし」
俺達はしばらく車内で母親が出てくるのをじっと待った。
会話はほとんどしなかった。

21時過ぎ、ようやく母親がアパートから出てきた。手にはやはり花を持っていた。
俺はほっとした。
母親は車に乗り、駐車場を出た。
俺はその5,6台後ろに付けて、西東京まで車を走らせた。

242 :名無し募集中。。。 :04/06/29 22:58

母親は一週間前と同じ有料駐車場に車を停め、そこから歩いた。
俺達も前回と同じコンビニに車を停め、そこから歩いた。

母親がギリギリ見えるか見えないかというところまで間隔を開け、後ろを付けた。
やがて家に着いた母親は中に入って行った。しばらくして一階の窓から明かりが漏れた。

俺達は恭子の部屋の電気が点くまで、家から少し離れたところでじっと待った。
部屋に明かりが点き、窓から人影が見えたのを確認すると、俺は門を開け、玄関の前に立った。
れいなも周囲を気にしながら後を付いて来た。

「お母さんは二階にいる。入るなら今だ。中に入ってお母さんが家を出るまでどこかに隠れていよう」
「うん・・・でも、鍵閉まってたらウケルね」
「い、嫌なこと言うなよ・・・」

俺はドキっとしてドアノブに手をかけた。
ゆっくり回すと、ドアはガチャリと小さな音を立てて開いた。
俺はほっとした。れいなも胸を撫で下ろしていた。

243 :名無し募集中。。。 :04/06/29 22:58

家の中には何もなく、玄関に母親の靴がポツンと置かれているだけだった。
どうやら恭子の部屋以外は綺麗に片付けているようだった。
二階にいる母親の足音さえも聞こえないで、家の中は本当に静まり返っていた。
俺達は靴を脱いでそれを手に持ち、忍び足で部屋を一つずつ見て回った。

「ほんとに何もないな。まずいな。隠れるところがないよ・・・」
「あ。あそこは?」
れいながキッチンを指差した。コンロの下に大きめの戸棚があった。
「れいなはともかく、俺入れるかな・・・」
「でも他にないよ、行こっ」
れいなはそう言って俺の手を引っ張った。

音が出ないように静かにその木製の戸棚を開けると、中で埃が舞って、危うく咳をしそうになった。
埃と木の匂いがきつく、れいなは嫌そうな顔をして「無理無理」と頭を横に振った。

「れいながここがいいって言ったんじゃん。俺も入れそうだし、ここにしよう」
「えー・・・なんかカビ臭い・・・」

俺達は順番に入り、中から戸棚を閉めた。光が全く入って来ない。
静寂の暗闇の中で、れいなの息遣いだけが妙に生々しく聞こえた。俺はどきどきした。
俺の手にれいなの身体が触っていたが、それが体のどこの部分なのかは分からなかった。

「なんか、あの夜のこと思い出しちゃうね・・・」
れいながそう言った。
そうだ、あの日もこうやって二人で隠れたっけ。
あの時は事態がこんなことになるなんて、思いもしなかった。

それから俺達は黙った。
俺は色んなことを考えたが、そのどれもがぼやけた思考で、大した結論は生まなかった。

244 :名無し募集中。。。 :04/06/29 22:59

どれくらいそうしていただろうか。
やがて階段を降りる足音が聞こえ、母親がキッチンを横切って行った。
泣き声が聞こえた。
かなり大きな泣き声だった。誰もいないと思って遠慮せずに泣いていたのだろう。
俺はそれを聞いてしまったことに、大きな罪悪感を覚えた。

玄関のドアが開き、そして閉められる音がした。
俺達は念のため、それからさらに5分ほど待って戸棚を出た。

「うわぁー、息苦しかったぁ・・・」
れいなは大きく背伸びをした。室内は真っ暗だった。

俺は廊下の電気を点けた。キッチンを出てすぐのところに、階段はあった。
俺達は階段を一歩一歩を踏みしめながら上った。

二階には三部屋あったが、どれが恭子の部屋か迷うことはなかった。
その部屋のドアには『恭子』と書かれたカードがぶら下がっていたからだ。
俺はそのカードに、未だ娘を忘れられない、両親の未練にも似た愛情を見て、とても悲しくなった。

ドアの前に立ち、俺はれいなを見た。
「れいな、いい?入るよ」
「うん。大丈夫・・・」

れいなは俺の手をぎゅっと掴み、とても強張った表情で答えた。
俺は一度大きく深呼吸をしてから、そのドアを開けた。

245 :名無し募集中。。。 :04/06/29 23:01

電気を点けると、目の前に恭子の部屋が広がった。
一度しか、しかもあまり見渡さなかった部屋なのだが、何故かとても懐かしく感じた。

ピンク色のベッド、その上に置かれたスヌーピーのぬいぐるみ、れいなと隠れたあのクローゼット・・・
そうだ、ここでれいなと初めて会って、初めて話して・・・

俺は何だか感慨深くなって泣きそうになったが、かっこ悪いので我慢した。
その代わりに笑っておいた。
れいなが「なんか懐かしいね」と言って笑ったからだ。

六畳ほどの部屋で、ドアの正面に窓、左手にクローゼットとベッド、右手に勉強机と本棚があった。
机の上には母親が持っていた花が飾られていた。菊の花だった。
改めて見回してみると、置いてあるぬいぐるみや小物、その他どこを見ても、明らかに女の子の部屋だった。

俺達はしばらく黙って室内を眺めていた。
部屋に来たはいいが、それから何をすればいいのか分からなかったので、黙るより他になかったのだ。
思案に暮れていた俺を、れいなが急かした。

「で、どうするの?」
「・・・分かんない。とりあえず、何か手がかりを探そう」
「え〜。ってかさ、手がかりなんて、そんなもんあればとっくにお父さんお母さんが見つけてるはずでしょ?今さら出てくるわけないじゃん」
「親はあの夢見てないはずだぜ?いいから探せよ。他にどうしようもないんだからさ」

正直言うと、俺は心霊現象に期待していた。
恭子の部屋に来ると、恭子の霊が出てきて・・・とかそんな感じのだ。
ところが恭子が現れる様子はこれっぽっちもなかった。

教えてくれよ恭子ちゃん、あの夜、ここに俺とれいなを呼んだのが君なら、君は一体何を考えていたんだ?
俺達にどうして欲しかったんだ?
俺は心の中でそっと聞いてみた。
もちろん答えは返って来なかった。

246 :名無し募集中。。。 :04/06/29 23:02

俺とれいなは多少テンション下がり気味で部屋の中を物色し始めた。
れいながベッドを隅から隅まで調べて「これ瞬間移動機じゃないよねぇ」と言ったので笑った。
俺は本棚にある大きなCDケースを見つけて、中を開けた。
そこにはモーニング娘。のCDがずらっと並んでいた。

「ちょっと見なよ。すごいよ」
「わっ。すご〜い、そういえば娘。のファンだって恵美ちゃんが言ってたね」
「俺より持ってたんだなぁ。全部あるんじゃない?」

その下の段のケースには、娘。のDVDがぎっしり入っていて、また俺達を驚かせた。

机を調べていたれいなが、引き出しを開けてピンク色の手帳を取り出した。
「あ、これ日記帳だ・・・見ていいのかな、何か悪い気がする・・・」
「日記?!」俺は興奮して言った。
「こ、この際だ、見ちゃおう。何か分かるかも・・っていうか、日記だろ?
すごい重要だよ。それに、俺達には見る権利があると思うぜ?」
「そうだよね・・・じゃあ、ごめんね恭子ちゃん、ちょっとだけ読ませて」
れいなはそう言うと、とても悪そうに日記帳を開いた。


7月20日
夏休み突入ー!エミちゃんと大阪に行く計画を立てる。
エミのおばあちゃんの家に泊まる予定だけど、ほんとはホテルとかに泊まりたいんだよなぁ。
無理かなぁ。吉祥寺のラーメン屋ウマイ!


247 :名無し募集中。。。 :04/06/29 23:03

7月30日
シャボン玉の発売日!朝急いで買いに行く。ちょ〜イイ!
れいながカワイイ!歌声もカッコイイ!まじ最高!
コンサート行けるといいなぁ。



「わ!れいなのこと書いてる!」
「へ〜、れいなヲタか」
「え?」
「あ、い、いや、れいなが好きなんだね」
「なんか嬉しいなぁ〜」

その日記帳にはプリクラが随所に貼ってあって、元は薄いのだろうけど、そのせいでかなりぶ厚くなっていた。
プリクラには夢で見た恭子の顔が映っていた。だが俺もれいなも今さら驚くことはなかった。
夢の中の陰鬱な恭子とは違い、プリクラの中の彼女は心から楽しそうに笑っていて、本当に可愛かった。


8月31日
今日はエミとユキと花火した。そのあと三人でコロッケとプリン作って食べた。
コロッケちょっと失敗・・・。プリンは成功!おいしかった。
夏休み終わり、学校だるい・・・。でも友達に会うのは楽しみ!
あ!娘。のコンサートチケットゲッツ!楽しみ〜。

9月23日
学校休み。エミと噂になってたマンションの屋上に行ってみる。
チョー快適!歌いまくり!娘。の曲モーニングコーヒーから全部歌った。
あと踊った。お手本はれいな!また行きたいな〜。



248 :名無し募集中。。。 :04/06/29 23:04

「俺にも見せて」とれいなから奪おうとすると
「だめ!先にれいなが見る!」と、はねのけられた。
なんだよ、さっきはあんなに見るのためらってたのに・・・。

10月2日
ユウカとマキセさんとリホちゃんにシカトされた。超ブル〜・・・。
なんかみんなにはげまされた。サンキュ〜。ファイト私!(暗〜)


10月5日
横浜アリーナで娘。のコンサート!ミーちゃんに連れてってもらった。
最高!二回見た!れいなやっぱりカッコイイ!あんどカワイイ!
私も娘。に入りたいなぁ。今度オーディションあったら絶対受けよっと。


「イジメのこと書かれてるけど、そんなに悩んでないっぽいよ?」
自分のことが書いてあるのがよっぽど嬉しいのか、れいなはニヤニヤしながら日記を読んだ。
それも、かなり飛ばし読みをしていた。

おそらく『れいな』という文字だけを探して読んでいるのだろう・・・。
仕方がないので俺は他の場所を物色し始めた。

249 :名無し募集中。。。 :04/06/29 23:06

11月3日
今日マンション行ったら屋上行けなくなってた・・・超ショック(泣)
そのままエミとカラオケ。ゴーガールまだ入ってなかった(再泣)
あ、あと髪型れいなをマネてみた。でもちょっと失敗(再々泣)


11月6日
CD買って来た。でもダンス覚えるためにずっとビデオで見てたから、聴きあきてるかも?
イショウがかっこいい。でも私ツナギとか似合わないだろな〜。 


0 俺はクローゼットの中に入っていたポスターを取り出した。
丸めてあったので広げてみると、それはれいなのポスターだった。

「おい、れいな!これ見ろよ。マジでれいなのファンみたいだよ。俺でも持ってないよ」
俺はポスターを見ながらそう言ったが、れいなの反応はなかった。
よっぽど熱中して読んでるんだなと思い、振り返って見てみると、どうも様子がおかしかった。

青ざめていて、日記帳を見たまま瞬き一つしない。表情はひどく歪んでいた。
「れいな・・?」
俺は不思議に思ってれいなに近づいた。
そして日記帳を取り上げ、開いていたページを見た。

俺の顔はすぐにれいなと同じ表情に変わった。
ああ、なんてことだ・・・ちくしょう・・・なんてことだ・・・


11月10日
今日、お父さんにお腹を思いきり殴られた。
何回も殴られた。お母さんは黙って見ていた。
そのあとトイレで吐いた。
痛くて眠れない。

300 :名無し募集中。。。 :04/07/01 02:03

11月27日
またお父さんにお腹を殴られた。
青くなってる。痛い。骨とか大丈夫かな。

12月2日
お風呂場で裸にさせられて、体をさわられた。
そのあとまた殴られた。痛い。お母さんは助けてくれない。

12月6日
エミちゃんと京都に行く予定(おとめ組のコンサート)だったけど、お腹が痛すぎて断った。
エミは残念そうだった。ごめんねエミちゃん。


俺は眩暈がした。れいなが「気持ち悪い」と言って倒れかかった。
俺はなんとか体を受け止めて、ベッドに横にならせた。
れいなは「ごめん」と言った。

虐待?恭子ちゃんが一体何を?
あのオヤジ!くそ!なんで気づかなかったんだ!
あの時アパートで会った父親、厳粛で正義感の塊のようだった父親。
でもあれは仮面だったんだ。くそっ!見抜けなかったなんて!
俺は自分が悔しかった。

「恭子ちゃんは、そのせいで・・・?」
れいなが胸を押さえながら苦しそうに言った。
「分からない・・・。でもたぶん・・・れいな?どうしたの?れいな?」
「胸が痛い・・・痣のとこが・・・痛い・・・」

俺は寝ているれいなに駆け寄り、シャツのボタンを一つはずした。
そして言葉を失った。

「れいな・・・見ちゃだめだ・・・」
「大きくなっとぉ・・・?」

痣は首の根元まで広がっていた。
俺は黙ってまたボタンを絞めた。

301 :名無し募集中。。。 :04/07/01 02:03

そして目に貼っていたバンドエイドをはがし、机の上にあった鏡で今度は自分の痣を見た。
痣は右目全体を覆っていて、左目を隠すと俺の視界は完全に塞がれた。
くそ、どうしたら・・・

俺は再び右目をバンドエイドで覆い、17日の、自殺した日の日記を見ようと、もう一度日記帳を開いた。
しかし16、17日のページが破られていて、そこには15日までしか書かれていなかった。

「そんな!一番大事なページが・・・一体どこに? 親が破った・・?」
「れいな、よく分かんないけど、その日記だけで十分だと思う。それを警察に持って行けば・・・」
れいなは苦しそうに言った。俺は頭を抱えた。

「お母さんは泣いてた・・・。お母さんには良心があったんだ、きっと。
精神が不安定って・・・どうしたらいいか分からなかったんだよ。オヤジが怖かったんだ。
お母さんに言って、自首してもらおう!お母さん、ちゃんと分かってくれるよ。
その方がきっといい!・・・れいなは、どう思う?」
「うん・・・そうだね・・・れいなもその方がいいと思う・・・じゃあ、急ごう・・・」
「大丈夫?れいなはここで待っててもいいよ。俺だけで池袋に行ってくるよ」
「イヤだ・・・また一人で行くの?ここまで来たんだもん、れいなも行く。平気だよこのくらい・・!」
れいなは胸を押さえながら、苦しそうに立ち上がった。

俺はそんなれいなを見て泣きそうになった。
置いて行くべきなのかもしれない。
だけどれいなの意志を拒むことはできない。それが正しいのかどうかは分からないけれど・・・。

俺はれいなの手を引き、家を出た。

302 :名無し募集中。。。 :04/07/01 02:04

車に乗り込む頃には、れいなはかなり息を切らしていた。
その手には恭子の日記帳がしっかりと握られていた。
俺は助手席の椅子を倒し、れいなをそこに寝かせた。

時刻はもうAM.3時だった。俺は全速力で車を走らせた。

303 :名無し募集中。。。 :04/07/01 02:04

池袋のアパートに着くと、母親の車はあったが、父親の車はまだなかった。
俺はほっとした。父親がいない方が上手く事を運べると思ったからだ。
俺はれいなを抱き起こして車を出た。

「立てる?」と聞くとれいなは笑って「うん」と答えた。
しかし明らかに無理をしているのが分かった。
部屋の電気は消えていたが、俺はインターホンを押しまくった。いつかのれいなみたいに。

しばらくして母親が恐ろしく不機嫌な顔で出てきた。
寝巻き姿で、その目は赤く腫れていた。

「またあなた達・・・!警察呼びますよ!」
「呼んでください!そして自首して下さい、お願いします!」

俺は日記帳を母親に差し出した。
母親はひどく混乱した。口を半開きにしたまま、目を大きく見開いていた。

「な、何故あなた達がこれを・・!?一体、恭子は、私は、違うんです、あなた達は誰・・!?」
「あなたは自首するべきです!あなた達が恭子さんを殺したんですよ!?お願いです!」
俺がそう怒鳴ると、母親はその場にうずくまり、恭子、恭子と泣き叫んだ。

明らかに近所迷惑だったが、俺にはそんなことを気にする余裕はなかった。
「分かっています。あなたが望んだことじゃないっていうのは。だからこそ、僕達から警察に言うんじゃなくて、
あなた自身の口で言って欲しいんです。お願いします」
「もう少しで、う・・主人が、帰って来ます、うう、一度主人に話してから・・・」
「話せるような人なんですか!?しっかりして下さい!恭子さんに暴行を加えたのはあの男ですよ!?」

俺は母親の肩を掴み、体を揺らしながら怒鳴った。
母親はいっそう大きな声で泣き始めた。
俺はれいなを見て「だめだ」と首を横に振った。

304 :名無し募集中。。。 :04/07/01 02:04

「お母さん、じゃあこれだけ教えて下さい。この日記帳、あの日、恭子ちゃんが自殺した日のページが破られているんです。
破ったのはあなた達ですか?今どこにありますか?捨てちゃいましたか?」
母親は顔を上げずに、泣きながら「違います違います」と叫んだ。

「私達では、ありません。主人もずっと、それを探していたんです・・!だからあの家は売らずに・・
その日記が、他人の手に渡ったら大変だからって・・・」
「え? あの家にあるんですか?破ったのは恭子ちゃん自身ですか?」
「知らないです!私は知らないです!何も知らないんです!恭子!許して!恭子!」
母親はそう言うと、発狂に近い泣き声を上げ、手の平で地面を叩き始めた。

「だめだ、話にならない・・・どうしよう、れいな・・・」
「破られたページを探しに行こうよ。この人達が持ってないとすると、あの部屋のどこかにあるんじゃないかな・・・」
「そうだな。それがあれば・・・くそッ!二度手間だ。行こう」

俺は母親に「気分が落ち着いたら警察に連絡して下さい」と言ってから、また車に乗り込んだ。
れいながシートを起こして座ったので、俺は「だめだよ、寝てな」と言った。
するとれいなは「大丈夫。なんか慣れちゃった」と言った。
れいなの額からは汗が滲んでいた。

俺はもう何も言わなかった。
アクセルを思いっきり踏み込んで、また西東京に向かった。

305 :名無し募集中。。。 :04/07/01 02:06

俺達が再び西東京の浜村家に着いた頃、時刻は既に6時前だった。

24時間起きているのに眠気はまったく襲って来ない。
それはれいなも同じようだった。

俺達は恭子の部屋に入り、強盗のように中を漁った。
「ないね・・・」
「ここにあるかどうかも分かんないし、だいたい普通のところはもうオヤジが探しただろうしな・・・」
窓の外は薄明かりに照らされていて、右目が見えないということもあってか、白い靄がかかって見えた。

無計画に漁ったために、部屋は元に戻すのが不可能なほどに散らかっていた。
これではもう細かいところを探すのは無理だ・・・
そう諦めかけた時、俺は本棚にあるCDケースに目が止まった。

『特にシャボン玉っていう曲が大好きで、あればっか歌ってました。ダンスも完璧に覚えて』
『シャボン玉の発売日!ちょ〜イイ!朝急いで買いに行く。れいながカワイイ!歌声もカッコイイ!』

「恵美ちゃんが言ってた・・・恭子ちゃんも日記で・・・」
「え?何?」
れいなはふらふらと本棚に歩み寄る俺を、不思議そうに見ていた。
俺はケースを手に取り、その中からシャボン玉のシングルCDを取り出した。
そしてそれを開け、中を調べた。
歌詞カードの間から、四つ折りにされた一枚の紙が出てきた。

「あった・・・日記だ・・・」

れいなは何も言わずに俺の横に来て、その紙を覗き込んだ。

306 :名無し募集中。。。 :04/07/01 02:07

12月16日
食事が終わった後にお父さんに呼ばれて、また体をさわられた。
そのあと胸をゴルフクラブでなぐられた。いっぱい泣いたけど、お母さんは何も言わなかった。
トイレで3回はいた。1回血がまじってたからこわかった。だいじょうぶかなぁ。


12月17日
胸がすごい痛くて眠れなかった。なんかすごい痣になってる。
学校休むって言ったら、お父さんにムリヤリ制服を着させられた。
テーコーしたら、ゴルフクラブで目を突かれた。それは泣かなかったんだけど、そのあと鏡見て泣いた。
なんかハレちゃってて、超ぶさいく。これじゃあもう娘。に入れないなぁって思った。てか右目見えないし。
もうイヤだよ。あのマンションから飛び降りてみる。死んじゃうだろうな。
日記はどうしよう。エミに渡そうかな。死ぬのに日記とか、バカみたい。

一度でいいかられいなに会いたかったな


日記はそこで終わっていた。
れいなはボロボロ涙を流していた。
俺はれいなを優しく抱きしめた。

「これを持って警察に行こう・・・それで全て終わるんだよ・・・」
俺はれいなの髪を撫でながらそう言った。
れいなは嗚咽で声が出ていなかったが、「うん」と頷いた。

その時、部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
俺とれいなは驚いて反射的にドアの方を振り向いた。
そこにはスーツ姿の中年男が一人、ゴルフクラブを片手に立っていた。
俺は自分の顔が歪むのを感じた。

「そんなにところにあったとはな。ずっとそれを探してたんだよ。さぁ、こっちに渡せ」

それは善人の仮面の剥がれた悪魔、恭子の父親だった。

338 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:09

俺は咄嗟にれいなを後ろにかばった。
父親からただならぬ殺気を感じ取ったからだ。

「なんで、ここが・・!?」
「あいつは俺の言いなりだ。」
「まさか奥さんを!?」
「適当に殴っただけさ。恭子のようにな、ククッ・・。お前らも痛い目にあいたくなければ、大人しくそれを渡せ」
「これを渡したところで、お前は捕まるぞ。俺達が許さない!」
「お前ら何者だ?探偵気取りか?正義のヒーローか?ふざけやがって。その時はお前らを殺すまでだ」
「狂ってる!」

父親はニヤリと笑ってゴルフクラブを左手から右手に持ち替えた。
あの時見た正義感溢れる二重まぶたの目は、今は私欲に満ちたドス黒い悪魔の目にしか見えなかった。
れいなは両手で俺の手を握って震えていた。
俺は紙をポケットに入れ、身構えた。

「やる気か?本当に殺すぞ」
「うるさい!お前はクズだ!お前こそ死ね!死んで恭子ちゃんに詫びろ!」
「赤の他人が偉そうに・・。お前に何が分かる」
「赤の他人だって?・・ちくしょう!お前のことなんか分かってたまるか!ちくしょうッ!」

俺は父親に殴りかかった。 しかし喧嘩をしたことのない俺のパンチはあっさりとかわされ、次の瞬間身体に激痛が走った。
父親の振ったクラブがわき腹にめり込んだのだ。
俺は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

339 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:10

「きゃあああ!!!」
れいなが悲鳴を上げると、父親はれいなの方を向き、またニヤリと笑った。
俺はわき腹を押さえながら「逃げろ!」と叫んだが、その時既に、父親の手はれいなの髪の毛を掴んでいた。
「いやぁっ!離して!離せバカヤロウ!」
「大人しくしろ糞ガキ」
「れ、れいなに手を出してみろ!殺すぞ!絶対殺してやる!」

そうは言ったが、俺の声は震えていた。
俺は自分の非力を嘆いた。
片目しか使えないのと、悔し涙で、二人の顔がぼやけて見えた。

「いいから渡せ。俺も人殺しはしたくない」
父親は腕をれいなの首に回して、ゴルフクラブの先を俺に向けていた。
首を掴まれたれいなは、恐怖で声が出ないようだった。

人殺しはしたくないだって?こいつッ・・!腐ってやがる!
お前が殺したんだ!お前が恭子ちゃんを!
俺はそう言いたかったが、刺激してれいなに何かされたら・・・と考え、口をつむいだ。

そんなこより今はれいなを助けることが先決だ。
俺はためらいながらもポケットに手を入れ、紙を掴んだ。

340 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:10

その時、れいなと目が合った。
それは怯えた目ではなく、何かを決心した目だった。
視線を落とすと、れいなも七分丈のパンツのポケットに手を入れていた。
俺は戸惑い、紙を取り出そうとした手を止めた。
れいな?一体何を?

「おい!早くしろ!首の骨を折るぞ!」
父親がそう怒鳴った直後、れいなはポケットから小さな突起物を取り出し、父親の腕に突き刺した。
それは以前に俺があげた、円錐形のキーホルダーだった。

キーホルダーはバキッという音ともに折れた。
同時に父親が悲鳴を上げた。
「ぐわぁっ!」
その腕かられいなの体が離れた。
父親は腕を押さえながらよろけた。
俺はすっと立ち上がり、右拳を握り締めた。

両脇をしっかり締めて・・・腰を思い切り回す・・・
身体をひねって・・・あとは拳を突き出すだけ・・・
あっという間だった。ほとんど無意識に、流れるようだった。
気がつくと、俺の拳は父親の顔面を捉えていた。

父親は鼻血を出しながら後ろに倒れ、後頭部を壁にゴンッと打ち付けた。
そしてそのまま気絶した。

341 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:11

「や、やった・・・当たった・・・」
俺は自分の右手を見つめながら唖然としてしまった。
しかしすぐに我に返り、倒れているれいなを起こした。

「れいな!大丈夫?」
「うん・・・平気。それより、お腹大丈夫?」
俺は殴られたことを忘れていた。
思い出すと、わき腹にまた激痛が走った。

「あいてててて・・・思い出させるなよ。すっげぇ痛い」
「ご、ごめん。大丈夫?」
「うん。それより警察に連絡しよう。救急車も。こいつ死んじゃうと俺が困るから」
「携帯・・・車の中に置いて来ちゃった」

俺達は一旦車に戻ることにした。

342 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:12

家を出たと同時に、遠くの方からパトカーのサイレンが聞こえた。
その音は段々近づいて来るようだった。

「警察?ここに?なんで?」
「誰かが通報したのかな・・」
甲州街道から通りに入って来るパトカーが見えた。
俺はポケットから車のキーを取り出し、れいなに渡した。

「?? 何?」
「れいなは先に車に戻ってて。すぐに行くから」
「なんで?れいなもここにいる!」
「れいなはアイドルだから。こんなことに関わってたなんてバレたら、普通に仕事できなくなっちゃうよ」
「できるよ!れいな悪いことしてないもん!それにここで逃げたって、絶対バレるよ!
指紋とか・・・よく分かんないけど・・・それに、お母さんにだって会ってるんだし!」
「その時はその時でさ。話せば分かってくれるよ。とりあえず今は先に車に行ってて。
頼むよ。恭子ちゃんだってそう思ってるよ。れいなにはずっとテレビに出てて欲しいんだ」
「恭子ちゃんは死んじゃったんだよ・・・」
「俺は生きてるよ。俺も恭子ちゃんと同じくらいれいなのことが好きなんだ。お願い、頼むよ」

俺がそう言うと、れいなは口をへの字にして下を向いてしまった。
そして少し間を置いてから「分かった」と呟いて、持っていた日記帳を俺に渡した。

「こっから向こうに遠回りしたら、たぶんあのコンビニに行けるから」
「うん。すぐ来てね」
そう言って、れいなは来た道とは逆の方に走っていった。

343 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:13

間もなくしてパトカーが2台到着した。
先頭の一台から男が二人降りて来て、俺に歩み寄って来た。

「浜村、浩介さんですか?」
「俺ですか?勘弁して下さい、違いますよ。浩介かどうかは知りませんが、
恭子ちゃんのお父さんなら中でのびてますよ。殴っちゃいました」
「・・・署の方で話を聞かせてもらえますか?」
「今日は勘弁してもらえますか。帰って寝たいんですけど。眠くて倒れそうなんです。明日じゃだめですか?」
「ホテルならお取りしますけど」
「自分の家がいいんです」
男二人は顔を見合わせて困った顔をしたあと、俺には聞こえないように小声で何かを話し合った。

「失礼ですが、身分証を拝見できますか」
俺は財布の中から免許証を取り出し、男に渡した。
二人はそれを持って一度パトカーに戻った。
しばらくしてから、その内の一人がまた俺のところに戻って来た。

「分かりました。では明日連絡お待ちしています」
「すいません、ありがとうございます。あ、これだけ渡しときます」
「?? なんですか?」
「恭子ちゃんの日記です。そこに全て書かれています」
俺は破かれたページを間に挟んで、日記帳を渡した。
男は興味深そうにペラペラとページをめくった。

「あ、あと・・・」と俺は言った。
「はい?」
「どなたが通報したんですか?」
「奥さんです」

344 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:14

車に戻ると、車窓かられいなが顔を出してとても嬉しそうに手を振っていた。
うんうん、俺が戻って来たのがそんなに嬉しいか、とニヤニヤしながらドアを開けたが、
どうやらその喜びは別のところから来ているようだった。

れいなはシャツのボタンを3つ開けて、ギリギリまで胸をはだけて見せた。
そこにはあの忌まわしい痣はなく、綺麗な、れいなの真っ白い肌があるだけだった。

「あ!!!」
「消えたよ!痣が消えた!ねぇ、それ取ってよ!」

俺は急いでバンドエイドを剥がした。鏡を見る必要はなかった。
れいなの表情で俺は全てを理解した。
れいなは目に涙を浮かべて笑った。
俺達は抱き合った。

「良かった・・・れいな、自分だけ消えたのかと思って・・・もしそうだったらどうしようって・・・
良かった・・・目、見える?」
「見えるよ、れいなが見える。大丈夫、全部終わったんだ」
「良かった・・・ホントに・・・」

れいなは俺にギュッと抱きついて、泣き始めた。
なんだか俺も泣きそうになったが、ぐっと堪えてれいなの頭を撫でてやった。
れいなはわーわー泣いた。

それから俺はれいなの家に車を向かわせた。

345 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:16

おわり の おわり


これは後から聞いた話なんだけど、あの父親は去年の11月に25年勤めた会社をクビになったらしい。
恭子ちゃんに虐待を加え始めたのはそれからで、恭子ちゃんが自殺したあと、
暴行のはけ口はお母さんに移されて、彼女もかなり酷いことをされたそうだ。

父親は捕まってから精神鑑定も受けたらしい。
でも、どんな理由があっても、あんなこと許されるはずがない。
相応の刑を受けるべきだ。
では母親の方はどうだろう・・・。

俺達が自首を頼みにアパートに行ったあと、あのあとすぐに父親が帰って来たそうだ。
俺達のことを話すと、父親は彼女をぼこぼこに殴って家を飛び出した。

母親は意識が薄らぐ中で何かに気づいたのか、警察に電話したらしい。
警察が到着した時、彼女は気を失っていたそうだ。

そんな母親も罪になるのだろうか。れいなは可哀想だと言っていた。
俺にはよく分からなかった。

346 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:16

れいなの家に向かいながら、俺達は今回のことについて色々話した。
真実が明らかになって、俺達の痣は消えたけど、恭子ちゃんはそれで良かったのかな・・・

れいなは「そんなこと恭子ちゃんに聞かなきゃ分かんない」と言った。
俺はそれはそうだと笑った。

死んでしまった人間の想いなんて、結局分かるはずがないんだ。
それでも、俺達は少しでも君の役に立ったのかな、君は安心して天国に行けたのかな・・
俺は答えの返って来るはずのない質問を、心の中でそっと投げかけた。

「でもさ、他のことは何となぁく分かったんだけどさ、一つだけどうしても理解できないことがあるんだよね」
「なーに?」
「俺達あの日、あの部屋で寝てたでしょ?たぶん恭子ちゃんは、あの日記を誰かに見つけて欲しかったんだよ。
だから一度あの家を離れて、謎を解くのを諦めようとしたら、恭子ちゃんは夢に出てきて俺達を引き止めた。
自分と同じ場所に痣を付けて・・・」
「うん。」
「いや、れいなは分かるんだ。恭子ちゃん、れいなのファンだったし。会いたいとかそういうこともあったんだろうから・・・。
でもさ・・・なんで俺なの??? 何で俺もれいなと一緒にあの部屋に連れて来られたの?俺って何でもないよ?」

俺は自分でそう言って笑いそうになった。
れいなは「う〜ん・・・」としばらく難しい顔をして悩んでいたが、やがて「分かんない!」と元気良く言って笑った。
そのれいながとても可愛くて、そんな疑問なんてどうでもいいんだと思えた。

「よく分かんないけど、れいな、恭子ちゃんの分まで頑張るよ」
「じゃあ俺は恭子ちゃんの分までれいなを応援するよ」

俺がそう言うと、れいなは声を出して笑った。
「そういうことじゃん?」とれいなは言ったが、どういうことなのかはよく分からなかった。

347 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:17

家が近づいてきて、俺達は自然と口数が少なくなった。
車のデジタル時計は8時を示していて、道路は通勤の車やらですっかり混んでいた。

れいなが「あ、これ・・・」と言ってポケットからキーホルダーを取り出した。
「ごめんね。壊れちゃった」
「あ、そうか。まじで助かったよ、あの時は。新しいの貰って来るよ」
「ううん。いい。これを持っとく。これ見る度に、今回のことが夢じゃないんだって思えるから・・・」

れいなは先端の壊れたつららのキーホルダーを見つめて、微かに笑みを浮かべながらそう言った。
その横顔があまりにも綺麗だったので、俺は見とれて事故りそうになった。

348 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:18

そうこうしている内にいつもの場所に到着した。
れいなの家から数百メートル離れたところ。
俺は車を停めてエンジンを切った。

れいなは黙ったまま、なかなか降りようとしなかった。
俺も何も喋らずに何となく前方を眺めていたが、やがて視線を感じて隣を見た。
れいながじっと俺を見ていた。

何だろう?と思い、しばらく見つめ合っていた。
ふっとれいなの顔が近づいて来て、そのクチビルが俺の頬にそっと触れた。

本当に一瞬の出来事だった。顔を離したれいなはクスッと無邪気に笑った。
それから「色々ありがと。またね」と言って車から降りて行った。

俺はぼーっとしてしまって何も言えずにいた。
しばらく誰もいない助手席を見ていた。
はっと我に返り、急いで窓から顔を出して

「またねれいな!今度恭子ちゃんのお墓参りに行こう!」

と大声で叫んだ。
れいなはもうずいぶん遠くに行ってしまっていたが、振り返って「絶対だよー!」と言った。
そして大きく手を振ってから、角を曲がって行った。

俺はれいなの姿が見えなくなっても、しばらく手を振っていた。
れいなのクチビルで濡れた俺の頬が、風を受けてひんやりした。

それから俺は自分の家に戻った。

349 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:19

アパートに着くと、駐車場の隅にいつもの黒猫がいた。
俺は逃げないようにそっと歩み寄り、抱きかかえた。

「お前いっつもいるな。家ないのか?」
間近で見ると毛がフサフサしていて可愛かった。

「俺の家に住む?誰もいないからきっと住みやすいぜ?」
猫は俺の目を見て「にゃ〜」と鳴いた。

「へへへ、でも言っとくけど、食事は安物だからな」
そう言って、俺は猫を抱えて部屋に入った。

それから眠いのもそっちのけで部屋を片付けた。
ほとんど隅に物を寄せただけだが、かなりスペースができた。
俺はそこに大の字に寝っ転がった。猫も俺の横に来て丸まった。

「お前も寝るのか?」
猫は薄っすら目を開けて「にゃあ」と鳴いた後、その綺麗な目を閉じた。

警察に何て話そうかな・・・
本当のこと話しても、みんな笑うだけだろうな・・・
だってこんな話、信じられる?


朝起きたら、となりでれいなが寝ていて・・・


俺はそのまま眠った。

雲ひとつない空に、昇りきらない太陽が煌々と光っていた。

350 :名無し募集中。。。 :04/07/01 23:20


おしまい

THANK YOU...



从*´ ヮ`)<モドル