暇だから
304 :暇だから :04/06/05 17:40
「ワァー!」「キャー!」
 祭の最中、突然降り出した雨に、避難所を求めて人々は逃げ惑った。
「こっちこっち」
 人波にもみくちゃにされながら、れいなは裕也に手を引かれて、どうにかその場から抜け出す事ができた。
「はぁはぁ」
 人ごみを抜けて一息ついたが、相変わらずの雨がれいなの身体を打ち続けている。
「こっちに小さなお堂があるんだ。そこで雨宿りしよう。このままじゃ風邪ひいちゃうよ」
「う、うん」
 れいなが頷くと、裕也はれいなの手を引いて雑木林の奥へと入って行った。
林の中を2分ほど歩くと、古い、小さなお堂があった。若干雨が弱まったように感じたのは、木々に遮られたためだ。
相変わらず、ザァー、と轟音を立てて雨は降り続いている。
「入ろう」
「入ってもよかと?」
「大丈夫だよ。こんな時だから、許してくれるよ」
 裕也は軋む木の戸を開けて、入り口付近に腰を下ろした。
「田中もこっち来いよ」
れいなは多少渋ったが、いっそう強くなる雨に、そうも言っていられなくなった。
「よいしょ、っと」
 れいなは裕也の隣にチョコンと座った。
「しかし、ひどか雨たいね〜」
「まあ、もうすぐ梅雨だしな」
「そういえば、なんでこんな中途半端な時期に祭やらやると?5月の終わりに祭とか、あんまり聞いたことなか」
「さあ、なんでだろうなぁ?俺が生まれる前からやってるし」
「ふ〜ん」
 れいなが気のない返事をすると、そこで会話が途切れた。裕也はなんとなく手持ち無
沙汰になって、辺りをキョロキョロと見まわし、濡れた髪が目に落ちかかるのを鬱陶しそうに掻き揚げるれいなに目を留めた。
「!」
裕也はギョッとして、さっと目線を外した。5月下旬という事で、当然、薄着になる。
濡れた衣服はれいなの下着(と言ってもスポーツブラだが)を透かせていた。
「?」
不信に思ったれいなは、正面にまわって裕也の顔を覗き込んだ。
「!!」

305 :暇だから :04/06/05 17:40
目の前にれいなの顔が現れて、裕也は慌てて顔を背けた。
「れいなの顔、なんかおかしか?」
 裕也はフルフルと顔を横に振った。
「変なの」
 よっ、とれいなは裕也の隣に座りなおした。
「みんな何処行ったとかねぇ?」
「さ、さあ」
 二人はぼんやりと祭の行なわれている広場のほうを眺めていた。
100mほど離れているにもかかわらず、目の前にあるかのように、明かりが二人を照らしている。
「騒がしかねぇ」
ボソッとれいなが漏らす。大雨にもかかわらず、大雨だからこそ、よりいっそう人々の気分は高揚したのだろう。
一度濡れてしまえば、あとはどれだけ濡れても同じこと、
そんなお祭気分に毒された人々が、遠く離れたれいなたちにも伝わるほど、大騒ぎをしている。
 10分ほど、会話もなく、二人はただただ林の先の喧騒を眺めていた。
ふいにれいなは立ち上がって、お堂を出た。
「雨、上がっとーとよ」
れいなは両手を広げてクルクルッと回転した。裕也は座ったまま、ジッとれいなの姿を眺めていた。
「帰らんと?」
「・・・・いや、うん、帰ろっか」
 裕也はのっそりと立ち上がった。
「早くせんと先に帰るっちゃけんね」
 れいなは裕也に背を向けて歩き出した。裕也がその後を追う。
一言も発さぬまま数十秒、ふいに裕也は立ち止まった。
「田中」
「ん、どしたと?」
振り返ったれいなの顔に、裕也の顔が重なった。
「!?」
祭の明かりに照らされて、重なった二人の影が林の奥へと伸びた。
「え、な?」
「俺、田中のこと好きなんだ」
「え、え?」
 れいなは突然の事に、何が起こったのか理解できずにいた。裕也も、自分のしてしまったことに後悔しはじめていた。
「ご、ごめん。なんか、その、なんていうか・・・」
 裕也は言葉を探そうとして失敗した。

306 :暇だから :04/06/05 17:41
「と、とにかくごめん。じゃあ、また明日、学校でな」
 そう言うと、裕也はれいなを置いて駆け出して行った。

「ちょっと、お嬢ちゃん?」
トントン、と肩を叩かれ、れいなははっとして振り返った。初老の男が不思議そうにれいなの顔を覗き込む。
「こんなところで何してんの?もうお祭は終わったよ」
「えっ?」
男の肩越しに広場のほうを見やると、ついさっきまで近くにあったはずの祭の明かりは遠ざかり、喧騒は鎮火へと向かっていた。
「いつの間に・・・」
どれだけの時間、立ち尽くしていたのだろう?男に声を掛けられなければ、きっと、いつまでもこうしていたに違いない。
「ほら、もう帰りなさい。子供がこんな時間に外にいるもんじゃない。それに、濡れたままだと風邪をひくよ」
そういえば、濡れたシャツが肌に張り付いて気持ち悪い。もう5月の終わりとはいえ、濡れた身体は体温を失い、寒気を感じる。
「クシュン!!」
と小さなくしゃみをすると、れいなはブルブルと小さく震えた。
「ほら、早く帰りなさい」
「はい」
会場の入り口まで男に付き添われ、最後まで祭に残っていた人々に混じって、れいなは帰路に着いた。

会場を出てしばらくは同じ方向に帰る人が幾人かいたが、5分も経つと、れいなは一人きりで夜道を歩いていた。
静けさにふと、十数分前の出来事が頭をよぎる。あの時は突然の事に、唇が触れたことさえ分からなかったが、
今になって、裕也の感触を生々しく思い出す。湿った、生暖かいあの感触・・・。
れいなにとって特別な意味を持つキス、ファーストキスだった。
れいなはブンブン、と頭を振った。奪われた、という被害意識はれいなにはない。
ただ漠然と、恥ずかしい、という想いがある。
その後も、思い出しては頭から振り払い、数歩歩いては思い出す、と繰り返してるうちに、
いつの間にか、れいなは家のドアの前に立っていた。
「にいちゃん、もう帰っとーやろか」
なんとなく、兄と顔を会わすのが気恥ずかしくて、れいなは音を立てないよう、そっとドアを開けた。

307 :暇だから :04/06/05 17:43
「こら、れいな!」
「!?」
 ビクッと肩をすくめて、れいなはおそるおそる顔を上げた。玄関口に、兄の直人が仁王立ちしている。
「お前、何時やと思っとーと?」
怒られる、とれいなは目を瞼をギュッと閉じた。が、
「お前に何かあったら福岡の父さんや母さんに申し訳なか」
意外にも、それは優しい声だった。
「うん・・・」
れいなは小さく頷いた。直人はいつもと違ってしおらしい妹の姿を見て、照れくさくなった。
「ま、まあお前みたいな奴に手を出す物好きなんかそうおらんやろうけどな」
フイっと、顔を逸らした。
「そ、そんなことなかっ!今日だって・・・」
 れいなの顔がボッと赤くなった。
「今日だって?何かあったとか?」
「な、何にもなかっ!!」
直人は不安げにれいなの顔を覗き込んだ。
眼前に迫った直人の顔を見て、記憶がフィードバックし、れいなはますます赤くなった。
「な、お前、顔赤かぞ。熱でもあるんか?」
 直人は額をそっとれいなの額に当てた。
「――――――――!」
 れいなの心臓が所有者の意思を無視して激しく暴れた。
「ん〜、熱はないな。そのままだと風邪ひくけん風呂入ってこい」
 額を離した直人がポンと軽く背中を押すと、カクン、と膝が落ちてれいなはその場にペタリと座り込んだ。
「な、れいな、どうしたとか?ほら立って」
れいなは立とうとして失敗した。足だけではなく、全身に力が入らない。
「に、にいちゃん」
「ん?」
「・・・立てん」
「な、立てんってお前」
「腰抜けた・・・」
「ったく、世話の焼ける奴たいねー。ほら掴まって。よっ」

308 :暇だから :04/06/05 17:43
直人はれいなの腕を自分の首にまわさせて、ちょうどお姫様抱っこの形で抱え上げた。
れいなの心臓はさらに激しく踊り始めた。直人はれいなの様子にまったく気付いていない。
「うわっ、お前ビショビショやなかね。とりあえず風呂入って着替えんとな」
「は、入れん」
れいなは鼓動を無理やり抑えつけて、蚊の鳴くような声を絞り出した。
「入れんってお前」
「だって身体に力入らんもん」
「仕方のないやっちゃねー。俺が入れさせてやるけん」
「変態!」
れいなは耳まで真っ赤にして言った。
「な、なんが変態か!お前の裸なんか別に見たくなか」
「・・・・」
「スネんなや。じゃあ、とりあえず着替え持って来てやるけん、その間に服脱いで、バスタオル巻いとけ。
そしたら俺が湯に入れてやるけん、温まったら呼べ。それでいいな?」
「・・・うん」
「じゃあ準備できたら呼べよ」
 言い残して直人はバスルームを出て行った。
「・・・・にいちゃんのバカ」
 口の中で小さく呟くと、れいなは少しだけ力の入るようになった身体で服を脱ぎ始めた。

515 :暇だから :04/06/07 06:47
「ん・・・・、眩し・・・」
 開けっ放しの窓から柔らかな風が吹き込み、揺れたカーテンの隙間から優しい朝の陽光が枕元に差し込んだ。
れいなは軽く目をこすって起き上がり、机に置いた目覚ましに目をやった。
(6時45分か・・・)
どうも頭がすっきりしない。靄がかかったように不透明で、重い。家に帰った後のことを思い出す。
(お風呂に入って、のぼせたんだっけ・・・)
れいなは風呂であれこれと考えているうちにのぼせて、溺死寸前(多少オーバーだが)のところを、
時間がかかりすぎる、と不審に思った直人が入ってきて救い出したのだ。
それからベッドに運ばれ、扇いでもらっているうちにれいなは眠ってしまった。
(何を考えとったっちゃろ?)
ぼーっとする頭で、ぼんやりと記憶を探る。
(・・・・・・・・!)
れいなはそっと唇に手を当てた。
(キス・・・、したんだっけ)
突然の大雨、ファーストキス、裕也の告白。思い出すと、トクントクン、と胸が脈打つ。
「どう・・・、しようかな」
 れいなはベッドに身体を起こした体勢のまま、しばらく考え込んでいた。
いや、何かを考えているようで、何も考えていないような感覚。
考えようとするが、それを無意識のうちにやめようとしているようだった。

516 :暇だから :04/06/07 06:48
 ふと時計を見ると、7時30分を回っていた。
「着替えて学校行かなきゃ・・・」
 れいなは立ち上がると、パジャマを脱いで制服に着替え、部屋を出た。
「おう、れいな、おはよう」
 ダイニングに入ると、ちょうど直人が、朝食をテーブルの上に並べているところだった。
自分が会社に行く用意はすでに出来ている。
「おはよ・・・」
れいなはぼんやりと、半ば意識的にぼんやりしたフリをしていた。なんとなく直人と目を合わせて話すのが気恥ずかしかった。
いつも活発な妹の、珍しく元気のない様子が、直人を不安がらせた。
「れいな?大丈夫か?調子悪いとか?」
「うん・・・、大丈夫」
普段からすると、やや張りを欠いた声。直人はそっとれいなの額に手を当てた。
「うーん、ちょっと熱があるな。調子悪いようなら、学校に連絡入れとってやるけん今日は休め。な?」
「・・・うん」
 れいなはコクリと頷いた。
普段ならこの程度の微熱では休んだりしないのだが、昨日の一件のせいで、なんとなく学校に行きたくなかった。
裕也と、どんな顔をして話せばいいのか、れいなには分からなかった。
直人も、そんなれいなの事情を知ってか知らずか、無理に登校させようとはしなかった。
「じゃあ会社行って来るけん、ちゃんと寝とけ。冷凍庫の中に鍋焼きうどんが入っとるけん、腹減ったら食えよ」
 れいなを部屋に連れて行き、ベッドに入れてから、直人は家を出た。
「にいちゃん、かぁ・・・・」
 れいなはベッドの中で一人、呟いた。微熱の影響もあるのだろうか、ひどく眠い。れいなはそれほど時間を要すことなく眠りに着いた。

517 :暇だから :04/06/07 06:49
「はぁはぁ」
 ひどく寝苦しくて、れいなは目を覚ました。布団がやけに重い。
起き上がって布団をどけると、襟元がグッショリと濡れていた。
「喉・・・、渇いたな・・・」
 ベッドから降りると、軽い立ち眩みがした。
フラつく足で何とか冷蔵庫までたどり着き、リンゴジュースにそのまま口をつける。
「っ!」
ジュースが胃に流れ込んだ瞬間、れいなは激しい嘔吐感に襲われた。
流しまで行こうとして足がもつれ、れいなはその場に倒れこんだ。
「うえっ」
 れいなは床に胃液とジュースの混ざった液体を吐き出した。
立ち上がろうとして床に手をついたが、身体を浮かせることさえできない。
昨日とは違い、エネルギー自体が身体に残っていないようだった。
(服・・・、着替えたいな)
 パジャマが嘔吐物を吸収して、皮膚に不快感を与える。
しかし、指一本動かせないれいなには、どうする事も出来なかった。
(このまま死んじゃうのかな・・・)
 薄れていく意識の中で、誰かが名前を呼ぶ声が聞こえたような気がした・・・・。

518 :暇だから :04/06/07 06:49
 熱くなった額に、ひんやりとした感触があるのをれいなは知覚した。
(気持ちいい)
 うっすらと目を開けて、辺りを見回してから、そこが自分の部屋だということに気付いた。
「お、目が覚めたか」
 声のするほうに目を向けると、お盆を手に直人が立っていた。
「にいちゃん・・・」
「おう、お粥作ったっちゃけど、食えるか?」
 直人は椅子をベッドの脇に置いて座った。
「にいちゃん、なんで家におると?」
ちらりと時計を見ると、まだ午後2時を回ったばかりで、普段なら直人が家にいる時間ではない。
「営業でたまたま近くに寄ったけんね。様子を見に帰ったらお前が倒れとったけん、ビックリしたったい」
 直人はフーフー、とお粥を冷ましてれいなの口元に持っていった。
「ほら、」
 れいなは力なく首を横に振った。
「食べたくないか・・・。なんか欲しいものあるか?」
 れいなは先ほどと同じように首を振った。
「そっか」
 直人は片付けようとして立ち上がると、グイッと引っ張られて、危うくお盆をひっくり返しそうになった。
れいなの小さな手が直人の服の裾をギュッと掴んでいる。
「れいな、どした?」
「にいちゃん・・・、ここにいて・・・」
 弱々しい、力のない声でれいなは直人を引き止めた。

519 :暇だから :04/06/07 06:51
「ちょっと片付けてくるだけやけん、な」
 あやすようにれいなに言いかけるが、れいなはなおも掴んだ手を離そうとしない。
「・・・・・・・・」
 直人はお盆を机の上に置いて椅子に座った。左手でれいなの手を握り、右手でそっと顔を撫でた。
「ここにおるけん、安心しろ」
 れいなの頭を撫でながら直人が囁くと、れいなは安堵の表情を浮かべた。
寂しい思いをさせてたのだろうか、と直人は思う。
13歳で親元を離れ、直人と暮らしていると言っても、いつも傍にいてやれるわけではない。
学校から帰った時、夕食の準備をして直人の帰りを待つ時、れいなはどんな気持ちだったのだろう?
「にいちゃん・・・」
「うん?」
「れいなも女の子やけんね・・・。にいちゃんの知らん秘密があるったい」
「どんな?」
「えへへへ」
 れいなは照れくさそうに笑った。直人は無言でれいなの頭を撫で続ける。数分間、部屋の中を沈黙が支配した。
「・・・れいなね、キスしたと」
 れいなの声は弱々しく、かすかに聞こえる程度のものだった。
「そっか」
 直人の声はなおも優しい。れいなはうっすらと目を開けて直人を見たが、逆光で、直人の表情は見えなかった。
「ホントはね、ファーストキスはにいちゃんとしたかったと・・・」
「俺たち兄妹だぞ」
「でも・・・、れいな、にいちゃんが好きやけん・・・」
「・・・・・」
「キス、してくれんね?」
「馬鹿なこと言ってないでもう寝ろ」
「・・・うん」
喋っているだけで、れいなはかなり疲弊していた。直人が布団を掛け直すと、れいなは瞼を閉じた。
ふと鼻先を、暖かい風がかすめるのを感じながら、れいなは眠りの世界へと落ちていった。

611 :暇だから :04/06/08 16:14
 熱も下がり、3日ぶりにれいなは学校に行った。
どうやら裕也も風邪を引いていたらしく、れいなと同じく、登校するのは3日ぶりということだった。
その日1日、れいなは裕也と話す機会がないまま、放課後を迎えた。
れいなはなんとなく裕也を避け、裕也もどうやられいなを避けていたようだ。
「れいな、いっしょに帰ろう」
 後ろから肩を叩かれて振り向くと、道重さゆみが立っていた。
「あ、さゆ。いいよ」
「じゃあ、ちょっと用事済ませてくるからロッカーで待ってて」
「うん、分かった」
「じゃ、また後でね」
 軽く手を上げてさゆみは早足で去って行った。
 いったんさゆみと別れた後、れいなはそのまま下足ロッカーに向かった。
「あっ」
 れいなは、ロッカーにもたれかかっている裕也の姿に気付いて、思わず声を上げた。その声に、裕也の視線がれいなに向く。
「よ、よう」
「う、うん」
 ややぎこちない挨拶をした後、2人は話すきっかけを見出せずに黙ってしまった。
れいなは靴を履き替えると、裕也と同じようにロッカーにもたれかかった。
「待ち合わせ?」
「あ、うん。田中は?」
「こっちも待ち合わせ」
「そっか」
 会話が途切れ、2人の間に再び気まずい空気が流れかかったその時、
「れいなー」
 ロッカーにさゆみが姿を現した。
「さゆ」
 れいなはホッとしてさゆみに手を振った。

612 :暇だから :04/06/08 16:15
「れいなごめん。いっしょに帰れなくなった」
「えっ?」
「ちょっとこの前の中間のことで呼び出されちゃって・・・」
「な、じゃあ」
「あ、そうそう、裕也君に伝言。『呼び出しくらったから先に帰ってくれ』だそうです」
「えっ!?」
「もう行かなきゃ。遅いとあの先生うるさいし。じゃあ」
 そう言うと、さゆみは2人に背を向けて駆け出した。
「さゆ、ちょっと待って!」「ちょっと、道重!」
  角を曲がるさゆみの背中に向けて二人は声を投げかけた。
さゆみの姿が消えた角をジッと睨んで、れいなは、ハァ、とため息をついた。
「・・・・」
 れいなはチラリと裕也を見た。裕也は無言で首筋を掻いている。
れいなはもう一度小さなため息をついて、視線をさゆみの消えた角に戻した。
「!?」
 ひょっこりと、さゆみが角から顔を覗かせている。れいなはあっけに取られて、一瞬、言葉を失った。
さゆみはいたずらっぽい笑顔で手を振った。
(な・・・・)
れいなの様子に気付いた裕也が、れいなの視線の先を追った。
さゆみはすでに頭を引っ込め、裕也は角に誰の姿も認めることは出来なかった。
「どうかした?誰かいたの?」
「う、ううん」
 首を振るれいな。再び2人の間に静かな時間が流れる。
「・・・・・・帰ろっか」
「・・・・うん」

613 :暇だから :04/06/08 16:15
校門を出てからも、相変わらず、2人は無言だった。
れいなは重い空気に耐えられず、目をキョロキョロとさせて話題を探した。
先に沈黙を破ったのは裕也だった。
「この前は、その、ごめん」
 正直、謝られても困る、というのがれいなの気持ちだった。 
「き、気にせんでよか」
「・・・・ありがとう」
「も、もう忘れたったい」
「俺は忘れないよ」
「え?」
「この前言った事、全部、本当だから」
 鼓動が速くなるのを感じる。れいなは何も言えなくなった。
「俺、田中のことが好きだから」
 裕也の声には、冗談の一欠けらも入っていない。ごまかすのは不可能だった。
「相手が田中だったから、キス、したんだ」
「・・・・・」
れいなはうつむいたまま黙り込んだ。先ほどまでとは比べ物にならないくらい深刻な、沈黙。
「付き合ってくれないかな」
「・・・・・」
裕也の告白を聞いてから、れいなの脳裏に浮かんでは消え、消えては浮かび上がる顔がある。
「他に好きな人、いるのか?」
れいなは心を見透かされたように思えて、焦った。
「お、おらん!好きな人なんかおらんばい」
「そっか」 
動揺したれいなの態度をテレと見たのか、裕也は余裕を取り戻したように見える。
「じゃあ、俺と付き合ってくれるか?」
 れいなは脳裏に張り付いて消えない像を、思い切り頭を振って払い、コクリとうなづいた。

918 :暇だから :04/06/10 17:20
 裕也の告白から3ヶ月ほど経ったある日の事、終わりつつある夏休みを精一杯遊ぼうと、れいなたちは遊園地に来ていた。
メンバーは、れいな、裕也、さゆみ、そしてさゆみの幼馴染で裕也の悪友の健二、の4人。
れいなは裕也に誘われた時、てっきり2人きりだと思ったのだが、どうやら裕也はいまだに2人きりになるのが照れくさいようだ。
「はぁ〜楽しかぁ。遊園地なんて来るの久しぶりたい」
 屋外のカフェでジュースを飲みながら、れいなたちは一休みしていた。
「れいなは地方育ちだから、遊園地なんて滅多に行けなかったんだよね」
 さゆみは無意識に毒を吐く癖がある。本人に悪意がない分、余計に性質が悪い。
「な、なんゆーと。さゆだって生まれは山口やなかか。お隣さんたい」
「そうなのよね。育ちがいいのか、そんな風には見られないんだけど」
「ぅ゛・・・・・」
 れいなは言葉に詰まった。さゆと話すといつもこうだ、と口の中でモゴモゴと呟く。
「これからどうする?」
 れいながさゆみに言い返す直前、健二が口を挟んだ。健二は、放っておけば不毛な言い争いになるのをよく知っていた。
言い争いと言っても、れいなが一方的に喚くだけだが。
「そうだな、そろそろ日も傾いてきたし、帰ろうか」
「え〜!!」
 裕也の言葉に、れいなとさゆみは同時に声を上げた。
「まだ帰りたくなか」
「そうだよ、まだ全然大丈夫だよ」
「でも、お金も無くなってきたし・・・」
「うっ・・・」
 言われてみれば、確かに、財布の中が心もとなくなっていた。
「じゃあさ、お土産屋さんに寄ってから帰ろう」
「賛成」「・・・・」
 さゆみの案に男2人が賛同して、4人は土産物屋に行った。

919 :暇だから :04/06/10 17:21
「可愛かぁ」
 どう考えても遊園地とは関係のないイルカのストラップを手に取って、れいなは目を輝かせた。
「ねぇこれ、」
 振り返って、れいなは自分一人であることに気付いた。
「あれ?」
 キョロキョロと辺りを見回しても、さゆみも裕也も健二も、どこにも見当たらなかった。
「うそ・・・・」
 れいなはストラップをフックに掛けると、当てもなくにみんなを探し回った。
「さゆ、みんな、何処に行ったと・・・?」
「田中!」
 聞き覚えのある声がれいなの名前を呼んだ。
「裕也君!あれ、さゆと健二君は?」
裕也は一人だった。散々探し回ったのだろう。ハァハァと息を切らしている。
「分からない。お土産を見てたら急にみんないなくなって。そっちは?」
「おんなじ。さゆと健二君、何処行ったんだろ?」
「携帯は?道重はたしか携帯持ってたはずだろ?」
あっ、とれいなは声を上げた。うかつにも携帯の存在に気付かなかった。
夏休みに入ってから、直人に携帯を持たされたのをすっかり忘れていた。

920 :暇だから :04/06/10 17:21
「・・・・・・・出ない」
「そっか」
 携帯をバッグにしまい込むと、れいなはフウ、とため息をついた。
「ホント、あの2人どこに行ったと?」
「まあ携帯もあるし、そのうち会えるだろ」
「そのうちって、もうそろそろ帰らんと・・・」
 見上げると、いつの間にか遠くの空が朱色へと変化している。あと30分もすれば日は完全に落ちるだろう。
「でも携帯以外、連絡の取りようがないし、道重からかかってくるまで待つしかないよ」
「う〜ん・・・」
「そうだ!道重から連絡あるまで、何か乗らない?」
「えっ?」
「ほら、さっき、お土産買って帰るって言ったら、つまんなさそうな顔してたからさ。まだ遊び足りないのかな、って」
「見てたんだ・・・」
 れいなは自分の子供っぽいところを見られて、恥ずかしくなった。
「観覧車、乗らない?」
「観覧車?」
 れいなは首をひねった。どうせならもう少し迫力のあるのが・・・、というのが本音だった。
「いや?」
「う、ううん、よかよ。観覧車乗ろう、観覧車」

921 :暇だから :04/06/10 17:22
「わぁ・・・・・」
 徐々に高度が上がるにつれ、内心、退屈していたれいなの目が輝き始めた。
遠くの空は朱色と黒に混ざりあい、建ち並ぶビル群の向こうに沈みかけた夕日がわずかに顔を出していた。
地上を見渡せば、灯り始めたネオンが、散りばめられた宝石のようにきらきらと夕暮れを飾っていた。
「綺麗かね〜」
 れいなはため息をつくように呟き、1秒ごとに変わっていく景色をうっとりと眺めていた。
徐々に高度を上げていく観覧車の中で、2人は会話を交わすこともなく、それぞれの視線の先へと釘付けになっていた。
観覧車の外を見るれいなと、そのれいなを見る裕也と。
「ん、裕也君、どしたと?」 
裕也の視線に気付いて、れいなは、窓から目線を外した。
裕也はややためらってから、口を開いた。 
「そっち・・・、行っていいかな?」
 ドクン、とれいなの鼓動が高鳴った。
両手を膝に乗せて何度か組みなおした後、れいなは小さく頷いた。
2人を乗せたゴンドラは頂上を迎えようとしていた。
「・・・・景色、綺麗だね」
「・・・・うん」
 裕也は隣に座ってしまったことを後悔し始めていた。
二人は俯いたまま、目を合わせることさえ出来ない。

922 :暇だから :04/06/10 17:23
「た、田中」
 裕也はれいなのほうに顔を向けると、その肩に手を置いた。
れいなの身体がビクッと震える。
裕也が顔を寄せると、れいなはそっと目を閉じた。
「・・・・・・・・・・・・?」
 何も起こらないまま十数秒が経ち、れいなは目を開けた。
「田中・・・・、なんで?」
「えっ?」
 ポタ、ポタ、と水滴がれいなの頬を伝って手の甲に流れ落ちた。
「あれ?なんで?」
「どうした?何かあった?」
「な、何にもなかよ」
右手でグッと拭って、れいなは笑って見せた。
「ほら、平気・・・・」
言葉に反して、拭っても拭っても、とめどなく涙が溢れ出してくる。
「おかしかね。あはは、れいな、なんで泣いとーと?」
「田中・・・」
裕也はどうする事も出来ず、涙の止まらないれいなをただただ見ていた。
「あははは、はは・・・・」
 乾いた笑いが収まると、れいなは両手で顔を抑えて俯いた。
「ごめん、裕也君、ごめん・・・」
 それっきり何も言わず、れいなは泣き続けた。
れいなのすすり泣く声だけが、いつまでも消えることなくゴンドラの中に響いていた。

419 :暇だから :04/06/12 23:03
 あれから一週間、夏休みもあと二日で終わる。あの日以来、裕也からの連絡はなかった。
れいなもなんとなく連絡を取りづらく、結局、謝ることすら出来ずにいた。
(あの時、どうして泣いてしまったんだろう?)
 今になっても、その理由がれいなには分からない。
ただ、気付いたら涙が溢れ出し、止まらなかった。とにかく悲しくて、辛かった。
(裕也君に謝らないと・・・)
 鳴らない携帯電話を、頬杖をついてれいなは眺めていた。
10分、30分、1時間と経ち、座ったままウトウトしていたところへ、
"ヴーン ヴーン"
という音がれいなの鼓膜を叩いた。ハッとして、慌てて携帯を手に取った。
[裕也君]
ディスプレイに、そう表示されていた。
「は、はい、もしもし!」 
 気持ちが焦り、つい声が大きくなってしまった。
「今日、暇かな?」
「うん、暇たい」
「今日、祭りがあるの知ってる?」
「祭り?」
 れいなは首をひねった。そういえば外がやけに騒がしい。
この一週間、外界からの情報を完全に遮断して自分の中に篭っていたため、気付かなかった。
「そう、田中はこっちに来て1年も経ってないから知らないだろうけど、毎年、夏の終わりに祭りやるんだ」
「へぇ〜」
「いっしょに行かないか?」
 遊園地に行って以来の、裕也からの誘いだった。
「今日は、2人きりで・・・」
「・・・・・うん」
「じゃあ、7時に会場入り口で待ってるから」
 また後で、と言って、裕也は受話器を置いた。
ガチャリ、と受話器を置く音がれいなの耳に残った

421 :暇だから :04/06/12 23:03
「ごめん、遅くなった」
 息を切らして裕也はれいなに駆け寄った。時計は19時20分を回っていた。
「ううん、よかよか。そんなに待っとらんたい」
「ホントごめん。入ろっか」
「うん」
  溢れかえるような人ごみが、会場を埋め尽くしていた。3ヶ月前に祭が行なわれたのと同じ場所だ。
「うわー、相変わらず人多かねぇ」
「まぁ祭だしな」
「ぅわっ」
 余所見をしながら歩いていた2人組にれいなはぶつかりそうになった。
「あぶなか〜。ちゃんと前見て歩かんね」
 ブツクサと文句を言ってるうちに、今度は後ろから別の集団にぶつかった。
「痛っ、もう、なんね」
「ほら、ここ入り口だから。移動しよ」
「う、うん」
身体の小さなれいなを、人波に押しつぶされそうになるたび、裕也は庇った。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「・・・・あのさ」
 裕也はなにか言いにくそうに、口をモゴモゴとさせた。
「なに?」
 ややためらった後、裕也は口を開いた。
「あそこに・・・、行かない?」
「あそこって?」
「うん、あの、お堂」
 2人がキスをした場所。れいなの顔がほんの少し熱を帯びた。
「・・・・よかよ。行こう」
れいなは裕也の手を取ると、いつかの林の奥へと入って行った。

423 :暇だから :04/06/12 23:04
「はぁ〜、祭りってやっぱり楽しかねぇ」
「・・・・うん」
 2人はあの時のようにお堂に座り、祭りの行なわれている広場を眺めていた。
燃えさかる炎のように、祭りの灯りが右に左に揺らめいている。
「はぁ〜」
 れいなはため息をついて、祭りの喧騒に見惚れていた。
「楽しそうだねぇ」
 裕也の声はどこか他人事のように聞こえた。
「遠くから見ると、燃えてるみたいで綺麗たい」
 れいなは頬杖をついて、うっとりとした目をしていた。
「のんびりと外から見るのもいいもんだな」
 灯りに照らし出されたれいなの横顔を見ながら、裕也は相槌とも独り言ともつかない口調で言った。
それを聞きとがめたれいなは、ひょいっと立ち上がって裕也の正面に立った。
「何言っとーと?まだ若かったい。そんなんでどうすると?」
 れいなは裕也の手を引っ張って立ち上がらせた。
「ほら、戻ろう、にいちゃん」
「えっ?」
 れいなの手から、裕也の手がポロリと滑り落ちた。
「なんだよそれ・・・」
「ごめん・・・、間違えた・・・・」
「なんで間違えるんだよ!?」
烈しくて、悲しい声だった。

426 :暇だから :04/06/12 23:05
「どうしてこの場所で間違えられるんだよ?」
初めて見る、裕也の悲痛な顔だった。
「ここでキスしたのは、俺と、田中の思い出だろ?なんで他人が・・・・」
 胸が一杯になり、言葉が詰まる。軽く深呼吸をして、
「田中に、俺の他に好きな人がいるの、分かってたよ」
 落ち着いた、と言うよりも、脱力した声を発して、裕也は顔を伏せた。
「この前の観覧車で、よく分かったよ。諦めようって思った。思い出があるからいいや、って」
「裕也君・・・」
「でも、俺はお前の思い出の中にいることさえ許されないんだな・・・」
 裕也はユラユラと立ち上がり、お堂を出た。
ポツ、ポツと水滴が顔に当たったかと思うと、関を切ったかのように大雨が降り始めた。
裕也は気にも留めず、おぼつかない足取りで広場へと歩き始めた。
「裕也君、待って!」
「来るな!!」
 追いかけようとしたれいなに、裕也は声を張り上げた。
「頼むから来ないでくれよ・・・・」
 辛うじて抑制された声で、裕也はれいなを制止した。
2メートル先も見えない豪雨の中、れいなには裕也の肩が震えているのが見えた。
れいなはその場に立ちすくみ、雨のカーテンの向こうへと消えていく裕也の後ろ姿を見送った。
雨はいつまでも衰える様子もなく、れいなの小さな身体と心を打ち続けていた。

910 :暇だから :04/06/15 15:57
「雨、か」
 いくつかの雨粒が窓ガラスを叩いたかと思うと、あっという間に土砂降りになった。
「れいなのやつ、傘持って出たのかな?」
 直人は玄関に出た。2本、紺と赤の傘が傘立てに置いてあった。
「置いたままか・・・。まぁ、友達が持ってるだろ」
 直人は居間に戻ってソファに座り、TVを点けた。
大して見たい番組もなく、なんとなくチャンネルを変えていく。
一通り目を通すと、つまらなそうにTVを消してリモコンを放り投げた。
「電話・・・、してみるか」
 携帯を取り出すと、直人は短縮の1を入れた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・出ないか」
 携帯を切って、同じように放り投げると、直人はソファに寝そべった。
静かな室内に、窓を叩く雨音が響いている。雨はひどくなる一方だった。
「迎えに行ってやるか・・・・」
 ボソッと呟いて、直人は立ち上がった。
傘を手に取り、さあ出ようとした時、ドアが開いた。
「おう、れいな。傘・・・・」
 直人は絶句した。ドアの外に、びしょ濡れのれいなが立っていた。
「お前、この雨の中、傘もささないで帰ってきたのか!?」
 れいなは無言で立ち尽くしたまま、動かない。
「とりあえず入れ、な」
 れいなの背中に手を回して、中に入れた。
「携帯にかければすぐに迎えに行ってやったのに、どうしてだ?」
 直人はしゃがんで、俯いたままのれいなの顔を見上げた。
「!!」
 一瞬、言葉が出なかった。今まで見せたことのないような、れいなの表情だった。
「なんて顔してんだよ・・・」
 悲しみ、不安、困惑、痛み、それらが複雑に入り混じって、今にも溢れ出しそうな、そんな表情だった。

911 :暇だから :04/06/15 15:57
「・・・・にいちゃん、れいな、最低たい」
 れいなの消え入るような声に、直人はいたたまれなくなった。
「れいなのせいで・・・・、裕也君・・・・・、傷つけて・・・・」
 それ以上、れいなは言葉を話すことが出来なかった。
感情が嗚咽となって溢れ出し、涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「わぁああああああああああ」
 れいなは直人の胸に顔を押し当てて、大声で泣いた。
「・・・・・・」
 直人は無言でれいなを抱きしめた。小さな肩が小刻みに震えている。
そのまま、れいなはいつまでも泣き続けた。
「うっく、ひっく」
 5分ほど経って、れいなはようやく落ち着き始めた。
「れいな、風呂沸いてるから温まって来い。また風邪ひくぞ」
「うん・・・・」
 れいなは小さく頷くと、バスルームに入っていった。
れいなの後ろ姿を見送ってから、直人は居間に戻った。
どうしてあれほど泣いていたのか、なんとなく分かる。
でも、果たしてこれでいいのだろうか?このままでは・・・・。
そんなことを考えてる時だった。気配に気付いてふと顔を上げると、居間の入り口にれいなが立っていた。
「な、お前、」
 れいなは裸だった。生まれたままの、赤ん坊のような、穢れのない透きとおった肌。
凍えているせいか、青白く染まって、彫像のような無機的な印象を受ける。
「にいちゃんに・・・・、温めてほしか・・・・」
「は?」
「れいなの初めて・・・・、もらってくれんね?」
 消えるような、かと言って、絶対に聞き逃しようのないような声だった。
「な、バカな事・・・」
 言いかけて直人は口をつぐんだ。
「分かった。俺の部屋に行こう」
 コクリ、とれいなは頷いて、部屋に行く直人の後を追った。

912 :暇だから :04/06/15 15:58
裸になると、直人はれいなを抱きしめた。れいなの身体が、氷のように冷たい。
「冷たいな。大丈夫か?」
「・・・・うん、にいちゃん、あったかい」
 直人はれいなを抱きしめたまま、ベッドに倒れこんだ。
「にいちゃん、キスして・・・・」
 言われるままに、直人はれいなに唇を重ねた。
「ん・・・、ん・・」
 初めは軽く唇を合わせて、そのうち強く激しく求めるようになっていった。
クチュクチュと舌をからませる音が室内に響く。
「ん・・・、にいちゃ・・・」
 唇を離すと、直人はれいなの首筋に顔を寄せた。
「ふ・・・・、ん」
 れいなの口から吐息が漏れる。直人は首筋にキスをすると、徐々に下方へと移動していった。
「れいな、可愛いいよ」
 直人は膨らみかけた小さな胸に手をかけて、舌を這わせた。
「ひゃん・・・」
 ピクン、とれいなの身体が反応する。
まだ硬さの残るれいなの胸を、直人は優しく、壊れないように手のひらで覆った。
指先で、まだ色素の薄い乳首をそっと撫でる。
「ぅ、ん・・・」
「れいな、気持ちいいか?」
 直人はれいなの一つ一つの反応を確認しながら、愛でるように優しく右手をれいなの胸から下腹部へと這わせていった。
「ぅぅん」
 れいなの口から漏れる、普段のれいなからは想像できない声。女の声。
それを聞いて、直人は嬉しくも、寂しくもあった。小さくて可愛い妹。
直人は少しの間手を止めてれいなを眺めていた。

913 :暇だから :04/06/15 15:59
「れいな、いいか?」
 直人はれいなの耳元で呟くと、そっと足の間に手を滑り込ませた。
「ひゃぁ」
 少し、ほんの少しだけ、濡れている。直人は、産毛一本すら生えていないれいなの秘部に指を這わせた。
「んん・・・」
少しずつ、だが確実に指を湿らせる液体の量が増えていた。
指を動かすたびにクチュクチュと音がなる。
「ひゃぅ」
 れいなが身悶える。直人はいったん指を離した。
指先につぅと糸が引く。
もう一度、今度は割れ目に沿って指を這わせた。
「あっ、はぁ、ぅうん」
 抑えきれなくなったのか、れいなの下半身が浮いている。
「れいな、気持ちいいか?」
 耳元でそっと囁いて、直人はれいなに覆い被さった。
ゆっくりと指を動かしながら空いたもう片方の手で小さな膨らみに触れる。
「ふぁ・・・」
 れいなはシーツをギュッと握り締めた。
直人は小さな乳首を指先で撫でながら、もう片方の指を割れ目にクッと押し込んだ。
「ん!・・・・くぅ」
 れいなは感じながらも苦痛に顔を歪めた。
いくら濡れていようと、身体の小さなれいなに入れるのはまだ辛いようだ。
「ごめん、れいな。痛かったか?」
 直人は挿れかけた指を抜いて、再び割れ目に沿って動かし始めた。
指先に小さな突起のようなものが当たった。

914 :暇だから :04/06/15 15:59
「あうっ!」
 れいなが大きく反応した。どうやらクリトリスに当たったようだ。
ほんの少しだけ、大きくなっている。
「やっ、あっ、ひぁ、あっ」
 れいなは今までと比べ物にならないくらい感じていた。
割れ目から愛液が溢れて、直人の手をしっとりと濡らしていた。
「れいな、きれいだよ」
 直人はれいなの乳首に唇を当てた。
「んぅん」
 小さな乳首を口の中に含み、指先でもう片方の胸を弄びながら空いた手でれいなの太ももをまさぐった。
「やぁ、ふぁ」
 れいなは膝を立ててつま先でシーツを踏みしめた。全身に力を入れて悶えている。
「れいな、そろそろ挿れるよ」
 直人はそう言うとれいなの足の間に座りなおし、自分のペニスを握った。
れいなの感じる姿を見て、それはもう十分すぎるほど勃起していた。
「れいな・・・」
 直人はそれをれいなの秘部に押し当てた。
「ん・・・」
「いいか、いくぞ」
 そう言うと直人はゆっくりとそれを挿入した。
「いっ!―――――――――――っ!!」
 れいなは声にならない叫びを上げた。
「れいな、ごめんな。慣れるまでちょっとだけ我慢してくれ」
 直人は挿入したままピクリとも動かない。
動けばれいなに苦痛を与える事が分かってる。
「あっ、あっ、うぅ」
れいなはギュッと目を瞑り、痛みに涙を滲ませる。

915 :暇だから :04/06/15 16:00
「・・・・・・・」 
 直人の目から涙がこぼれた。
あの日、熱にうなされるれいなに口付けてから、決して消えることのない火が胸の中で燻っていた。
縛られていたのはどっちだったのだろう?直人には分からなかった。
ただ、今この瞬間を直人はかけがえのないモノに感じていた。
たとえそれが、背徳に満ちた行為であったとしても・・・・。
「れいな、ごめんなぁ」
 ポタポタと涙がれいなの胸に落ちる。
「にいちゃ・・・」
 れいなは薄っすらと目を開いた。痛みに少し慣れたようで、直人を心配そうな目で見つめる。
 直人はれいなの頬をそっと撫でた。
「大丈夫か?」
 直人の質問にれいなが小さく頷く。直人はゆっくりと腰を前後させ始めた。
「いっ、うっ、っぐぅ」
れいなの顔が苦痛に歪む。直人はそれを見てすぐに動きを止めた。
「悪い、まだ痛いか?」
 直人はれいなになるべく苦痛を与えたくなかった。れいながフルフルと頭を振る。
「ぃぃょ」
 れいなは濡れた瞳で直人をじっと見つめ、消え入るような声で言った。
直人は一瞬ためらったが、ほんの少しずつ、出し入れを始めた。
「んっ、んっ、んっ、」
 はじめのうちは痛がっていたれいなだが、徐々に慣れて、少しずつ、快感を覚えたようだ。
痛みに耐える声に甘い声が混じり始めた。
直人も、その狭い膣に快感を感じていた。
はじめはゆっくりと動かしていたが、れいなを求めて徐々に激しく動かすようになっていた。

916 :暇だから :04/06/15 16:02
「ぁん、はぁ、ぅん」
 れいなは直人の体に両腕を回し、夢中で抱きついた。
瞳はすでに何も見えておらず、ただ虚空を見つめていた。 
れいなに出し入れしながら、直人は胸の奥から感情が溢れ出した。
「れいな、れいな、れいな」
 いとおしく、何度も何度もれいなの名前を呼ぶ。
「うぅ、はぁはぁ」「んっ、ぁっ、ぁっ、」
 直人は絶頂に近づいていった。
「れいな、イク、俺、イクよ」
「いっ、あぁぁ、くぅ」
 直人は夢中で腰を叩きつけた。
出し入れするたびにクチュ、クチュ、と音がなる。
れいなは痛みを忘れ、ひたすら直人を求め続けた。
「あっ、ああぁ」
「ふぁ、はぁん、やぁ!」
 直人もれいなも限界だった。頭の中が真っ白になり、ついにその時が来た。
「あ、あああああああ!!」「あっ!――――――――――――っ!!」 
ドクッ、ドクッ、とれいなの体内に放出した。直人はそれをれいなから抜くと、ドサッとベッドに倒れこんだ。
「ぁっ、ぁっ、」
 れいなは空虚な目をして、ベッドに横たわっている。
しばらくすると、れいなのぽっかりと開いた割れ目から少量の出血とともに白濁とした液体が流れ落ちた。
破瓜の血が真っ白なシーツを赤く染め上げた。

917 :暇だから :04/06/15 16:03
「おはよう、れいな」
 「あ、さゆ、おはよう」
 2学期初日、登校中に2人はばったりと出会った。
「あれ、れいな髪切った?」
「うん、なんかおかしか?」
 れいなは指先で前髪をクルクルといじった。
「ううん、似合ってるよ。でも、前に伸ばすって言ってなかったっけ?なんかあった?」
「うん、フラれた」
「フラれたぁ?」
「しかも2人同時に」
「2人同時って、あんた二股かけてたの?」
「えへへ」
 れいなはテレくさそうに笑った。さゆみは肩をすくめてれいなを見やったが、
(ま、いっか)
と、追求しようとはしなかった。
「あ〜あ、どっかにいい人おらんとぉ?」
「あんた、フラれたばっかりのくせに何言ってんの?」
 さゆみは、呆れた、とばかりにため息をついた。
「だって、人生長かったい。恋でもせんと暇やけんね」
呆然と立ち尽くすさゆみをおいて、れいなは歩き出した。

9月に入ってもセミは相変わらず自らの存在を全力で主張している。
しかし、あと10日もすれば街は秋の色へと変化し始めるだろう。 
そして冬を越えて、春が過ぎれば、また夏がやってくる。
繰り返される季節に同じ景色を見る人、新たにやってくる季節にまた新しい景色を見る人、
必要とするのは過去か、未来か。
まだまだ先の長い14歳、いつまでも立ち止まったままでは
きっと人生、暇だから・・・・。


从*´ ヮ`)<モドル