「決断」
456 :名無し募集中。。。 :04/09/26 03:39

夢を見た。
とても悲しい夢。
1人の男の子が、女の子を腕に抱いて泣いている夢。
「ごめん・・・ごめんよ・・・・・」
「泣か・・いで・・・仕方な・・よ。・・・なんだ・・ら」
2人の周りには、赤い・・・とても赤い染み。
「ごめん・・・ごめん・・・僕は君を・・・・・」



ふっと目が覚める。ホテルの部屋・・・
「そうだ、今日ツアーの最終日で・・・・・疲れて寝ちゃってたんだ」
瞼を閉じて夢を思い出してみると、夢で見た男の子の悲しそうな顔が浮かんできた。
「誰なんやろ?なんか知っとるような気がする」
見た感じ同じくらいの年格好の男の子・・・
「なんで気になるんやろ!?夢に出てきただけで本当にいるのか分からなかのに・・・」
明日は朝からレコーディングやけん、こんな事考えてる暇なんてなかはずなんやけど・・・・・

時計ば見てみると、まだ夜の7時になりよったばかり。
「・・・歌練習でもしようかな」

♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

出来る限り小さな声で歌ってみると、ちょこっと開けておいた窓から声が聞こえる。
「なかなかいい歌声だね、お嬢さん」
「!!?・・・だ、誰ねあんた?もしかして、ストーカー!?変質者?」
気づかなかった、いつの間にか部屋の中に誰かが入ってきとると!?

457 :名無し募集中。。。 :04/09/26 03:44

「まったく、失礼なこと言ってくれるね。まぁ、いいや。初めまして僕の名前は月島っていいます」
「・・・・・月島・・君?」
「うん!そうだよ。でも意外だね、もっと驚くと思ったんだけど」
「うん、不思議なんやけど落ち着いてる・・・」
「ま、そんな事はどうでもいいか。田中れいな、僕は君に運命の選択を迫りに来たんだ」
「え・・・?」

コンコン!!
「れいなぁ、夜ご飯食べに行こう!!絵里の部屋で待ってるから早く来てね」
「あ・・・さゆ」
「仕方ない、また後で来るよ。それじゃ」
「え!?あ・・・ちょ、ちょっと・・・・・消えちゃった?」
今までそこにいた男の子は・・・一瞬で消えていた。
寝惚けとったんやろうか?
ただ、覚えとるのは夢に出てきた男の子に似とったとゆう事だけ・・・・・
「あ、絵里の部屋に行かなきゃ」
考えるのばやめて部屋から出ると、同じホテルの絵里の部屋に行く事にした。

553 :名無し募集中。。。 :04/09/27 23:13

そいから3時間後―――――絵里とさゆと一緒に夜ご飯ば食べた私は、2人と別れて自分の部屋へ戻った。
「やっぱり寝惚けてたのかな?普通に考えたら、鍵のかかってる部屋に入ってこれるわけなかし・・・・・」
ドサッとベットに転がり込む・・・・・妙な気分。
なんでかさっきの男の子の顔が頭に思い浮かんでくる。
「本当に来るのかな?運命の選択ってなんやろ?・・・なんかバカみたい、来るわけなかのに」

窓から風が入ってくる。
涼しい・・・優しい風が部屋の中に。
「こんばんは、田中さん」
不意に声をかけられる。そこには男の子――――月島君がいた。
「い、いつの間に?どっから入ってきたと!!?」
「まぁ、細かい事は気にしない気にしない」
「・・・で、またれいなになんの用ね?」
「言っただろ、君に運命の選択を迫りにきたって」

554 :名無し募集中。。。 :04/09/27 23:13

そう言えばそうやったと。
さっきまでそれがどうゆう意味なのか考えとったのに。
「それで・・・運命の選択って?」
「君の運命は今大きく外れていこうとしている。それを食い止めるか、食い止めないか・・・君は選択しなければならない。
まぁ、それと違う道を選ぶのなら・・・ま、こっちはどうでもいいか」
「ちょっと待ってよ!!なんで、そぎゃん事が分かるの?大体、れいなの運命はれいなが自分で決めるものやん」
「・・・僕の両目は少し特別でね、他人の運命を見ることが出来るんだ。まぁ、信じられないかもしれないけどね」
話についていけないったい。運命とか・・・・・訳分かんなか
だけん、信じられる気がするとよ。
月島君の目はえらい綺麗で、嘘ばついてるようには見えなかから。

「れいなは・・・どうすればよか?運命から外れなかようにするには」
「自分の信じたことを決して変えない事!それと、何があっても悲観的にならなければ大丈夫。
これを守れば後は1ヵ月位で僕が外れた部分を修正していくよ」
「じゃあ・・・そん間、れいなは普通に暮らしてよかの?」
「まぁね。ただ、僕が監視させてもらうけどね。それと、この件に関しては事務所には言っておいたから大丈夫だよ」

こうして、れいなと月島君の不思議?な生活が始まることになりよったと。

689 :「決断」 :04/09/30 04:23

あん日―――――月島君に会った日から3日が経ったと。
けれど、れいなはなんも変わらず・・・本当にいつもとなんも変わらなか生活ばしとると。
スケジュールに追われ、新曲のレッスンばこなし、番組の収録ばして、笑顔ば絶やさなか・・・・・どんなに辛くても。

一方、月島君は、あん日からいつも決まった時間にれいなの家に監視に来とると。
時間にして、ほんの1時間足らず。
だけん、こん時間が今のれいなにとってはなんよりも楽しみな時間になっとったとよ。
そいで今日もそん楽しみな時間が来よると。

「今日は遅かったとね」
「まぁ・・・色々ありまして」
3日間、少しの狂いもなく、同じ時間に来とった月島君が今日は珍しく遅く来よると。
それだけなら、まだ良かった。ただ、遅れただけなら対して気にすることもなかったと。
だけん、今日の月島君は少し様子が違った。
いつも通りの笑顔・・・だけん、なんか悲しい雰囲気と――――ほんの少し血の臭いがしたと。

690 :「決断」 :04/09/30 04:24

今思えば、れいなは月島君のことばあまり知らなか。
月島君がれいなの運命ば知っとるように、れいなは月島君の運命ば知っとるわけやなか。
年齢も、下の名前も、どこに住んでいるのか・・・・・考えれば考えるほど知らなか事だらけやけん。
「ねぇ、聞いてもよか?」
「何ですか?」
優しい声、笑顔で振り向く・・・だけん、そん仕草がどっか切なか。
『どうしてそぎゃん悲しそうなの?』
そう言いかけて、唇が止まるとよ。

それば聞いてどうなるやろう?
家族でもなく、恋人でもなか。
赤の他人のれいなが聞いたところで、月島君は答えてくれるんやろうか?
そぎゃん、考えが頭に浮かび・・・れいなは違う言葉ば紡いやけん。
「運命から外れると・・・・・どうなるの?」
「・・・・・運命から外れた人間は、幽霊、妖怪、天使、悪魔等と言われているものに姿を変えます。そして、そうなった人間は僕が・・・・・」
月島君の表情が・・・変わった。
「待って!!言わないでいい・・・分かったから。言わないで・・・・・」

れいなはそれで理解した・・・月島君が悲しそうな理由。
それは―――――今日、誰か運命から外れた人を殺したから・・・・・

80 :「決断」 :04/10/08 01:32

「・・・もう慣れたよ」
月島君はそうゆうと、笑顔でれいなに話しかけてくれた。
さっきの顔ば見せなかように。
そん顔は、もう、全部諦めた様な・・・すごく悲しい笑顔。
「月島君・・・そぎゃん顔しなかで!れいな、そぎゃん顔見たくなか!!」
「僕は・・・僕は君の事も殺すかもしれない。その時は・・・」
「寂しい生き方してきたんだね・・・可哀想・・・・・」
れいなは、月島君ば抱きしめたと。

「同情なんかしないでくれよ・・・こんな僕に」
「同情する事ができるから・・・人の気持ちや痛みば知る事が出来るんばい」
「分かってるよ!!でも・・・分かっていても出来ないんだ!僕は・・・」
「嘘ばい!!月島君は、本当は誰かに同情してほしがってるとよ。そうやなきゃ・・・そぎゃん顔できなか・・・・・」
そぎゃん悲しそうな顔・・・
やけん、余計に・・・心から『笑っている』笑顔が見たい、いろいろな月島君が見たい。
月島君の事が・・・好きだから。

「でも、僕は・・・んっ!?」
やけん、月島君に口付けばしたと。
れいなの気持ちば知ってほしくて・・・そぎゃん顔してほしくなくて。
「ん・・・ふにゃ・・・・・」
「・・・なんで僕に・・・・・?」
初めて見る驚いた顔。初めて見る照れとる顔。

81 :「決断」 :04/10/08 01:34

「えへへへ・・・キス、しちゃったね」
「なんで・・・・・?君は!?」
「笑ってほしいから、いろいろな顔が見たいから・・・なにより好いとぉやけん」
「でも、僕は・・・それになんで僕なんだ!?出会って間もない、得体も知れないのに」
悲しい目・・・やけん、なんとかしたい。
「れいなは、月島君といるこん時間が楽しい。一緒にいたいし、一緒に笑いたい、月島君の事はなんでも知りたい・・・人ば好きになるのに時間なんて関係なかよ!!」

目に浮かぶのは涙、もういっぺん触れ合うのは唇、涙の味・・・月島君が初めて見せる涙。
「ありがとう・・・ありがとう・・・・・」
繰り返される『ありがとう』、そいで・・・少し赤く染まった眼ばした月島君の笑顔。
涙が、れいなの頬にも伝って流れると。
「僕は、君と一緒にいても・・・君に居場所を求めても・・・・・いいのかな?」
「うん!!れいなも月島君と一緒に居たいから。やけど、そぎゃん笑顔見せるのは、れいなにだけやけんね。約束ばい!
それと・・・もう、誰の事も・・・・・」
「分かってるよ。もう、誰も殺さない」

82 :「決断」 :04/10/08 01:36

繋がった心、笑顔、暖かい手・・・
そして、目の前には疲れたのか、寝てしまった少女。
「抱きついたまま、寝るのは反則だよな・・・」
「・・・んんっ、むにゃ・・・月島くん・・・・・好いとぉけん」
癒される、例えるなら心が軽くなる感じだ。
いつか、君に全てを話すときが来るだろう・・・僕の犯してきた罪達を。
その時に見ることになる君の顔が・・・僕の罪に対する罰だというのなら・・・
だから、今はこのまま・・・君の横で。
「おやすみ」

306 :「決断」 :04/10/12 03:46

それから、何日が経っただろう?たぶん、2週間くらいだろうか
結局、僕は彼女に自分の居場所を求めてしまった。
自分より年下の女の子に居場所なんてものを求めてしまったのは、可笑しいかもしれないけど・・・自分としては満足している。
もちろん、ちゃんと彼女の運命を修正する事は忘れていない。

「ほらほら、早く起きて!!朝食冷めちゃうよ」
「・・・あと、3時間寝かせて」
「ダ〜メ!今日はれいなのオフやけんどこでも付き合うって言ったやん」
「そんなことも言ったような、言ってないような・・・・・」
「言ったっちゃ!!!!」
「は、はい・・・言ってました」

まぁ、なんと言うか・・・そのおかげでこう、昔の様なのんびりした性格に戻れたわけで・・・・・
「ふわぁぁ〜〜、それにしても・・・これが朝食ですか?」
テーブルにはいい感じに黒焦げの卵焼きと、これまた絶妙な位に真っ黒なパン。
「田中さん・・・成長しないね」
「むぅ・・・ムカつく!今の時代、女やけんってみんなが料理上手いわけやなかもん」
「それはそうだけど、これは・・・ねぇ?」
「れいな1人で食べるからよかよ!月島君は勝手になんか作れば」
「食べないなんて言ってないですよ。せっかく、田中さんが作ってくれたんだから」

すると、田中さんの顔が赤く染まった。どうしたんだろうか?
「田中さん、熱でもあるの?顔赤いけど」
「な、なんでもなか!!それより早く食べちゃってよ」
「それもそうですね」

307 :「決断」 :04/10/12 03:48

朝食を誰かと一緒に摂る。
僕が忘れていた事のひとつ・・・別に1人で食べてもいいんだけど、彼女がそれを許さない。
ほとんど忙しい時以外は、2人で食べる。
僕と一緒に住んでいるなんて、事務所にバレたら大変じゃないかと聞いたときも田中さんは笑ってこう答えた。
『なんで?月島君がれいなの運命ば修正するのば許したんやけん、
こうなるかもしれなかって事考えなかった事務所が悪いから、文句言わせなか』
なんて、ご都合主義。ある意味・・・彼女は僕より大人なのかもしれない。


「ご馳走様。美味しかったですよ」
「お世辞言わなくてもよかよ!れいなが食器洗うから、月島君は適当にしてて」
「・・・・・」
「なん?どうかした?」

ふと思った疑問・・・やけに高揚していく心臓の音。
「なんか・・・まるで、どっかの新婚夫婦みたいに思えたから」
「なっ!!?な、なん言ってんの・・・そぎゃんのまだ、心の準備ってゆうか、れいなまだ14歳だし・・・・
だけん、そぎゃん風になりたいって気持ちもあって・・・・・」
「田中さん・・・水出しっぱなし、もったいない」
「・・・鈍感!もうよか、あっちいってて」

失くしてしまっていた心の休まる時間。
少しずつ、少しずつ思い出していく。
大切な気持ち、僕の中で再生されていく・・・

でも、忘れていた。幸せが戻ってきたことで忘れてしまっていた。
幸せを得るのは大変で・・・不幸になるのはあまりに簡単すぎるという事を。

442 :「決断」 :04/10/14 04:56

食器洗いを終えた田中さんは、まだ少し寝惚け気味の僕の手を引いて外へと連れ出した。
「それでね、そん時さゆと絵里がね・・・」
「へぇ、そんなことがあったんですか」
話に相槌をうちながら、田中さんの歩幅に合わせて歩いていく。
行き先は僕には分からない。
田中さんには目的地があるみたいだけど『秘密』と言って教えてくれない。

「月島君、歩くのとろかよ。もっと頑張って」
「だったら、行き先くらい教えてくださいよ」
「ダメ!!行ってみてのお楽しみばい」
手をつないだまま、また歩き出す。
行き先は分からない、それでも君と一緒なら何処へでも行こう。
この時間が永く続くように・・・少しでも永く君の傍にいられるように。

それから僕達は、15分ほど歩き何処かの公園に着いた。
本当に小さな、小さな公園で、幼稚園児や小学生くらいの子供たちが無邪気に遊んでいる。
「ここ・・・ですか?」
「うん!月島君とここに来たかったっちゃ」
「僕と?この公園は何か特別な場所なんですか!?」
「そうでもなかよ。月島君と一緒にここに来る夢ば見たから、来たくなったっちゃ」
照れもせずにそんな事を言う彼女を不意に抱きしめたくなる。
でも、小さな子供達がいる前だからしない・・・
それ以上に、そんな姿は彼女だけにしか見せたくないと思う。

443 :「決断」 :04/10/14 04:59

結局そのまま夕方まで公園で過ごす。
仕事の事や友達の事、いろいろな事を話してくれる田中さんの顔は笑顔でとても可愛く見えた。
「そろそろ帰りましょうか?暗くなってきましたし」
「・・・・・あんさ、そん、なんてゆうか、行きたい場所あるんやけど・・・ダメかな?」
「別にいいですけど、何処ですか?」
顔を赤らめながら、モジモジしながら田中さんはそっと呟く。
「・・・ホテル」
「・・・・・えっ?」
「ホテル・・・行きたい」
「――――!?こんな時間にホテルですか?家に帰っても寝れますよ」
「・・・・・と、とにかく行こうよ?ね?そん・・・初めて位ムードがあったほうがよかし」
すいません。僕はまだ捕まりたくないです。

「ダメですよ!誰がなんと言おうと絶対にダメです!!」
「どうして?」
「芸能人がホテルなんて、ましてや未成年なんですから」
「大丈夫ばい!変装するし、れいながまさかホテルに行くなんて思ってなかやろうし」
「・・・行くだけですよ!?夕食したら帰りましょうね」
「・・・・・・」

こうして僕たちは・・・ホテルに向かうことになった。

421 :「決断」 :04/10/25 20:50

「やっぱりまずいよなぁ・・・」
ホテルの一部屋、僕はベットに座っている。
田中さんはと言うと、何故かシャワーを浴びてます・・・何をするんでしょうか?
「何で僕は、田中さんに弱いんだ」
シャワーも音が小さくなる。
「どうする?どうすればいい!?」
「月島君・・・・・」
不意に聞こえる彼女の声。

「え?」
「月島君も・・・入ってきたら?」
ほのかに石鹸の匂いがする。部屋に田中さんの匂いが染みていく。
「いや、僕はいいです・・・」
田中さんは僕の隣に座る。濡れた髪が年齢に似合わない艶っぽさを出す。

422 :「決断」 :04/10/25 20:51

「あの・・・帰りませんか?こういう事するのは、まだ早すぎますよ」
「やだ!れいな、絶対帰らなか!!」
「わがまま言わないでくださいよ。まだ君の事をよく知らないし、君だって僕の事を・・・」
「じゃあ・・・いつ月島君、自分の事教えてくれるの?れいなが聞こうとしても、いつでん教えてくれなかくせに!!
自分ばっかりれいなの事知って、そんくせ自分の事はなんも教えてくれなかなんてずるいかと!!」

それは、切実なまでの彼女の思いを乗せた言葉・・・
全てを隠している僕の事を少しでも知りたいという想いから彼女はここに来る事を決めたのだろう。
その証拠に・・・彼女の腕は微かに震えていた。

「ごめん・・・本当にごめん。でも・・・・・」
「もうよかよ!!月島君なんか大っ嫌い」
田中さんは、そう言い残すとそのまま部屋を出て行ってしまった。
部屋には僕1人が取り残され、虚ろな気持ちで満たされる。
今ほど、悲しみを感じたことはない。
あっさり過ぎるほど、幸せは去って・・・僕に残されたものは何も無くなった。

そして僕は忘れていた・・・田中さんの体に起こっている変化の兆しを見逃してしまった。

553 :「決断」 :04/10/30 00:49

それから、2日ほど時間が経った。
彼女の家に戻れるはずも無く。僕は、誰も来られないような場所で1人佇んでいた。
(そういえば、謝ってばっかりだよな僕・・・)
切なさが僕の心を絞めつけ、時間の過ぎていくのも忘れ此処に立ち尽くす。

僕はこんなにも弱かっただろうか?
1人でいた時より・・・遥かに心が辛い。
たった、数週間の生活で彼女の存在は僕の中で大きなウェイトを占めていた。
(田中さん・・・僕は・・・・・)
「しけた顔しとるな。月島」

不意に後ろから声をかけられ、振り向く。
その先には・・・男が立っていた。

「田中に振られたみたいやな。全部知っとるで」
「寺田・・・いや、今はつんく♂でしたね」
「まぁ、しゃあないわな。14そこらの子供とお前がつりあうはずもあらへんしな」
「黙れ!!お前に何が分かる。僕は彼女を・・・」
吐き出す言葉。僕は・・・今更何だと言うんだろう?
『好きだ』『愛してる』今頃、そんな事を言っても・・・彼女はここにいない。
それ所か、自分の事を何も教えていない僕にそんな事を言う資格はないのかもしれない。

554 :「決断」 :04/10/30 00:51

「僕はなんや?まさか、田中と一緒に生きていけるとでも思ってたんか!?」
「あぁ、そうだよ。思っていたさ、もう誰も殺さないで済むと思ってたよ」
「お前はバカや!お前と田中じゃ、生きていける時間が違いすぎるんやぞ。
それにその眼がある限り、お前は自分の運命なんて・・・変えられへんのや」
「それでもいいんだ・・・彼女の隣にいられれば」
それは・・・僕の本心。きっと変わらない想い。

「それも、もう無理や。今から5分くらい前に田中が変化したで。しかも最悪な場所でな」
出てきた言葉は、微かな希望すら打ち砕く・・・まさに最悪の一言だった。


「どこだ?どこで変化した!?」
「スタジオや!番組の収録中に急にな」
「なんで・・・なんでこんな事に」
出てくる後悔の言葉。
「わしは、変化する前に始末しろって言ったはずや。それをお前が、無視するからこうなったんや!・・・田中があいつに似てるからなんか?」
「・・・!!違う!そんなんじゃない」
「なら、今から行って始末してきや!大事になる前にな」
「お前は・・・冷たくなったな。そんな事言えるようになるなんて」
田中さんの顔が頭にちらついていく・・・怒った顔、笑った顔、泣いた顔、全てが想い出される。
もう迷わない・・・彼女に僕の全ての罪を打ち明けよう。そして、僕の手で・・・・・全てを終わらせる。

スタジオを目指して僕は走り出す。
空は、蒼色から夕焼け色に変わり始めていた。


「でもな、田中のおかげでお前が笑顔取り戻した事は・・・正直嬉しかったんやで」
その呟きは僕には聞こえず、空に消えていった。

232 :「決断」 :04/11/10 04:01

走って、走って、急いで走った。
ただ、一直線にスタジオを目指して。
「速く、もっと速く!!」
響く靴音、開かれるドア・・・そこにある風景は、異常だった。

「これは・・・・・」
壊れたカメラ、粉々に割れている照明。
そして倒れているスタッフらしき人達と少女達。

『もう嫌!・・・みんな、嫌っ!!』
それは、確かに彼女の言葉。同じ声、同じ顔・・・全てが『田中れいな』だった。
「田中さん!!」
僕は、ドアの陰から飛び出し、彼女の前に立ちふさがる。
『月島君・・・?来なかで!!お願いやけん・・・・・来なかで』
その言葉を無視して彼女に近づく。ゆっくり、ゆっくりと

『来なかで!!もう、戻れなかの・・・スタッフさんやメンバーのみんなばれいなが』
「だから、僕が来たんです。全てを終わらせるために」
『れいなのこと・・・殺すの?あん人みたいに』
「!!・・・なんで君がそれを」
出てきた言葉は意外だった。彼女はそれをどこで知ったのだろうか?

233 :「決断」 :04/11/10 04:02

『あん人の夢ば見てから、れいな・・・変な気持ちになって、気がついたらみんなの事』
結局は、僕の不甲斐無さ。何も話せなかった僕自身の弱さ、それが彼女を変化させた。
彼女の運命を狂わせたのは僕だった。
『月島君・・・れいなは代わりなん?似ておるから、それだけなの?教えて・・・・・』
「・・・・・最初はそうでした。でも、君と暮らしていくうちに僕の中で君のほうが大きくなっていって・・・僕は君の事愛してます」
『ありがとう。嬉しい・・・そん言葉がずっと聞きたかったとよ。だけん、遅すぎたね・・・』
「まだだ!まだ、君もスタッフもメンバーの運命も終わってない!!だから、諦めるな」

これが・・・君に吐く最後の嘘。

全てを・・・終わらせる。全てを在るべき形に、本来の運命に・・・
「たくさん笑って、たくさん泣いて、たまに怒ったり・・・楽しかったですよ」
『月島君!?何言って・・・・・』
「僕の全てをかけて、君やスタッフ、メンバー達を在るべき形に戻します。だから、さよならです」
『待ってよ!!れいなが死ねば、そぎゃんことしなくても・・・』
認めるわけにはいかない。彼女を殺しても何も終わらない・・・

234 :「決断」 :04/11/10 04:03

「死ぬなんて簡単に言うな!!たとえ君が死んでも何も変わりはしない。だから、君は人間として生きろ!!
僕はもう充分過ぎるほどの時を生きてきました。それに、君にも逢えましたから」
『月島君・・・・・!!』
風が・・・スタジオの中を駆け抜ける。
倒れているスタッフや少女達、そして彼女を包んでいく。
『月島君!!れいなも・・・一緒に』
「ダメですよ。生きていれば、いつかまた逢えますから」

消えていく体・・・最後に見えたものは、泣き顔の田中さんだった。

490 :「決断」 :04/11/23 03:20

おかしな感覚に襲われる。真っ暗な世界で彼が私から離れていく・・・遠く、遠くへ
必死に叫んでも声が出ない。
どんどん離れていってしまう。

真っ暗な世界に光が差し込む。
「眩しい・・・」
ちょこっとずつ、瞼ば開けると。天井の照明がやけに眩しい。
「ここ・・・スタジオ!?」

周りば見渡すと、さっきまで壊れとったはずの照明やセットが元通りになっとると。
スタッフさんやメンバーのみんなも倒れていなか。
「なんで?全部、れいなが・・・」
いつもと変わらなか風景、忙しそうに走り回るもん。
「れいなぁ!!どうしたの?ボーっとして」
「大丈夫?」
「えっ?うん、大丈夫。なんでもなかよ」

491 :「決断」 :04/11/23 03:21

そこには、確かにさゆと絵里の変わらなか笑顔があったと。
「うん・・・なんでもなか、なんでもなかよ・・・・・」
体が震える・・・認めたくなか。いつでん通りのみんなの姿、それは嬉しい。
だけん、彼がいなか。ついさっきまで、傍にいたはずの月島君が消えとると。
「れいな?泣いてるの!?」
「違う・・・違うとよ。ちょこっと、目にごみが入っただけやけん」

「はい!!本番入ります」
そして、収録は始まっていく。

『生きていれば、いつかまた逢えますから』
夏の終わり。季節の変わり目、彼は此処からいなくなった。

492 :「決断」 :04/11/23 03:22

それから3ヶ月の月日が流れた。
どうやら、あの日の出来事を覚えているのは私だけらしい。
季節は秋・・・人恋しいこの季節、私は月島君との思い出を求めて公園にやってきていた。

「このベンチに座って、色んなこと話したよね」
いるはずもない彼に向けて言葉を放つ・・・応えは返ってこない。
彼が最後に言った言葉・・・
『生きていれば、いつかまた逢えますから』

『いつか』なんて決まっていない。また逢えるなんて保証もどこにもない。

『たくさん笑って、たくさん泣いて、たまに怒ったり・・・楽しかったですよ』

本当にそうだったんだろうか?彼は本当にそう思っていてくれたのか?知る事も出来ない。
ただ月島君がいない。彼に出会う前の状態に戻っただけなのに・・・こんなにも苦しい。

本当に彼のことが好きだった。帽子の影に隠れてうっすらと見える涙ではれてしまった目。
「逢いたいよ・・・もっと一緒にいたかったよ」
ヒューーっと優しい風が吹く・・・懐かしい匂い。初めて会ったときに感じた彼の匂い。
とても好きなあん匂い。忘れられなか・・・数少なか彼の面影。

「絶対忘れなかよ。月島君の事、信じてるから・・・いつか約束守ってね」
明日からはいつもの私に戻るから・・・今日だけは泣くのを許してほしい。
もう一度風が吹く、さっきよりも強く。
「あっ・・・」
帽子が風で後ろに飛ばされ、それを拾うために私は振り向く。

493 :「決断」 :04/11/23 03:30

「また、泣いてるんですか?」

聞き覚えのある優しい声。香ってくる風の匂い。
「泣いてなんかなかよ。ちょこっと、目にごみが入っただけやけん」
願いが叶った。嬉しい、また彼に出会う事ができた。
思わず抱きつく。彼は驚きながらもしっかりと抱きしめてくれた。
本当に優しい人・・・あの日、私たちを助けるために自分を犠牲に出来るくらいに。

「もう、絶対放さなかからね!!嫌って言っても、無駄やけんね」
「えっ!?」
突然の私の言葉に彼は、驚いたみたい。
絶対に幸せにしてみせる。
ずっと、ずっと一緒に・・・

彼は此処に帰ってきてくれた。どうやってとかそんな事はどうでもいい。
『帰ってきてくれた』それだけで充分だから。
私は彼にこの言葉を言おう。
「月島君。お帰りなさい」
そして、少し照れくさそうに彼はこう言葉を返してくれた。
「・・・ただいま」

いつかこの日々が終わるときが来るかもしれない。
でも、そんな事を考えてる暇なんて無い。
彼が隣にいてくれる。今はそれだけでいい。
それが今の私にとって一番大切なことだから



从*´ ヮ`)<モドル