「君ならば、大丈夫」
- 842 :報道太郎 :04/06/14 23:43
- 「君ならば、大丈夫」
(第1幕・PURE)
きーんこーん、かーんこーん。
6限目の終了を告げる放送が学校中に鳴り響いた。
あーあ、やっと終わった。
クラスメイトの数人と軽い挨拶を交わし、俺は教室の外に出た。
きょうはさっさと家に帰ろう、さっきまで見てた夢の続きでも見ようか・・・
「あの・・・・」
でも寝てばっかりじゃだめか、何しようかな・・・
「あの!!!!」
ん?俺の後ろから声がするぞ。・・・振り向いたが、誰もいない。
「先輩!!」
ん?あ、いた。俺の目線の下にいた。背が小さくて、分からなかった。・・・知らない女の子だ。
「俺のこと?」
「そう、そうです。あの・・・・・」
「何?」
「あの・・・・」
彼女は口篭もっている様子だ。
とても細い子だ、腕なんか折れそうなくらい。目は切れ長で鋭い印象を受けるけど、
すべての顔のパーツが小さくて、かわいい。美人になるんだろうな。
「私と付き合ってください!!!」
そして、肌がキレイなんだよな、白くて透き通るよう。いや、親父臭いな、こんなこと言って。
「・・・・・・・・・え?」今、何ていった?
- 844 :報道太郎 :04/06/14 23:46
- 「き、きみは?」あ、どもってしまった。
「・・・あ、ごめんなさい。・・・私、1年の田中れいなっていいます。 先輩が転校してきたときから・・・・・・ずっと好きでした。」
俺が仙台から福岡に転校してきたのは・・・、ちょうど1年前。そのころから好き?
「あの、先輩は彼女とか、いるんですか?」
「あ、いや、いないよ。」
「あ、本当ですか、やっぱり!」
「やっぱり???」
何なんだ、微妙に失礼だな。彼女・・・れいなは慌てて訂正する。
「え?え?違うばい、ずっと前から、見てたから、そう思ってててて、 別にそんな意味じゃなかと・・・」
いきなり博多弁を披露したれいなは、赤い顔でまくしたてる。
・・・俺はそんな、なんか頑張ってる、小さな、れいなを心から可愛いと感じた。
「ずっと前から見てたっていうのは別に家までつけたとかそんなんじゃなかと・・・ただ、見てたらなんとなく思ったけん・・・」
「いいよ。」
「え?」れいなの澄んだ瞳が真っ直ぐに俺を捉えた。
「いいよ、付き合おう。というか、こっちからお願いします。」俺は深く頭を下げた。
「え?え?ほんと?」
「こんなこと、嘘は言わないよ。よろしくね、れいなちゃん。」
・・・・・・れいなの小さな顔が、更に可愛く歪んだ。
「やった!!!・・・、先輩、ほんと?ほんと?ほんと?」
れいなはその細い両腕で、俺の腕を掴んで、左右にぶんぶんと振り回す。
「れいなちゃん、ちょっと落ち着いてよ、みんなが見てるよ・・・」
「そんなの関係ない!先輩、大好きたい!」
――――― これが、れいなと俺のはじめての出会いだった ―――――――
- 847 :報道太郎 :04/06/14 23:52
- 「君ならば、大丈夫」
(第2幕・CAT)
中学3年生の俺は、現在帰宅部。
転校してきたのが2年のときだったので、面倒くさくて入らなかった。
れいなは、中学1年生。現在、科学部所属。
でも、全然部活には参加してないらしい。
「そんなことより、れいなには大切なことがあると!」
れいなはそういうが、ただ面倒くさいからじゃないかと思う。
大切なことってなに?と聞いたこともあるが、曖昧な答えだったし。
時間が余っている俺とれいなは、放課後に一緒に過ごすことが多くなった。
「ねえねえ、きょうはどこにいくと?」
れいなの使っている言葉は、博多弁と標準語が微妙に混じっている。
俺の前では標準語を使っているつもりらしいが、けっこう方言は混じってくる。
感情が高ぶっている場合は、特にその傾向は強いようだ。
「ねえ、どこに行くと??そうだ、れいな、きょうは先輩の家に行きたいなああああ」
はあ?そんなの、そんなの出来るわけないだろ。
俺はれいなを引っ張って、近くの公園に連れて行った。
- 848 :報道太郎 :04/06/14 23:54
- 「またここ?飽きたたい」
そんなことを言いながらも、れいなは嬉しそうにきょう学校であった話をする。
そんなれいなの様子を見ると、俺も嬉しくなる。
「そうだ、ねえねえ、先輩の夢って何ですか?」
「えーと、アイドルと付き合うことかな」
「な、なに言ってるんで、で、すか。れいなみたいな可愛い彼女がいるのにーーー」
むくれるれいな。れいなをからかうのも、面白い。
「せんぱーい・・・」
「なんじゃい」
「これから、れいなのこと、『れいにゃ』って呼んでよかよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・。俺も、からかわれてるのかもな。
「お、お前、また変なアニメでも見たのかよ。プリなんとかってやつ」
「違いマース、ネコみたいに可愛いれいなを『れいにゃ』って呼んでよかよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「そ、そ、そんなの呼べるわけないだろ」
「2人の時くらい、よかよか。ほらほら顔が真っ赤ですよ、せんぱーい。」
うううう、痛いところを付かれた・・・・・。
「・・・れ、れいにゃ・・・」
「そうだにゃん、可愛いれいにゃにゃん!」両手でネコの真似つき。
・・・・・・・・・・・・・・・・、悔しいが、かわいい・・・・。俺の顔は更に赤くなったようだ。
―――――――― 2人のこんな幸せな日々は、数ヶ月続いた ―――――――――――――
- 130 :報道太郎 :04/06/16 21:07
- 「君ならば、大丈夫」
(第3幕・PARK)
れいなと付き合っていたこの数ヶ月、俺たちは完全にプラトニックだった。
別に嫌だったわけじゃない、なんとなくそんなムードにならなかったということ。
「お前、それはおかしいよ、あんな可愛い子と付き合ってキスもしてないなんて」
放課後、友人からはこんなことを言われた。
「れいなちゃん、お前に愛想尽かしちゃうかもよ、アブネーゾー」
俺は友人にヘッドロックをかまし、教室を出た。
「れいにゃ、いやれいなに限ってそんなことないだろ・・・・・・」
すると。
「せんぱーい!!!!!」れいなだ。
とてとて、という形容がピッタリ来るような危うい走りを披露しながら、
俺のほうにまっすぐに走ってくる。
「せんぱーい!!!!!れいにゃにゃーーん!!!」
お前、その呼び方は2人の時だけの約束だったんじゃないか・・・・。
俺は素早くれいなの腕を掴むと、校外に出て行った。
「せんぱい、きょうは積極的にゃーん」
違うっての・・・・・。
- 131 :報道太郎 :04/06/16 21:13
- いつもと同じ放課後のデート。公園のベンチ。でも、俺は気になってしまっていた。
そう、さっき教室で話していた、キスのこと。
俺の隣で話しまくっているれいな、その可愛い唇・・・・。
口紅とか、つけてないみたいだな・・・。柔らかそう、キスとかしたことあるのかな・・・
俺たち、バカな話ばっかりしてて、そういう話はしたことなかったよな・・・
れいなったら、たまに肝心なところを隠したがったりもするし・・・・・・
「せんぱい!!!れいなの話、聞いてるんですか???」
「え?・・・ああ、聞いてたよ」
「嘘!・・・それじゃ、きょうれいなが一緒にお弁当食べた友達の名前はなんでしょう??」
「えーーーーっと、あ、あ、さゆみちゃんだったかな・・・・」
「ぶーーーっ!!違うたい、絵里たい、もう先輩のばか!」
れいなはぷい、と後ろを向いてしまった。
「ごめんごめん・・・・」
これは俺が悪い、正直に謝ろう。
「せんぱいなんて、嫌いたい。れいなのこと、ちゃんと見ててくれてないたい・・・・」
「え、そんなことないない。今だって、ずっとれいなのくち・・・・(!!!!)」
唇、と言いそうになったバカな俺。うあああああ、本当、俺の正直者!!!!!!!
れいなに気づかれてないよな・・・そんな俺の期待は儚くも崩れ去った・・・・・・・・・・
れいなは俺のほうを振り返って、いたずらっぽく、にやりと笑った・・・・・・・・・・・・
- 132 :報道太郎 :04/06/16 21:16
- 「せ・ん・ぱ・い」
「は、はい・・・・・」何で後輩に恐れてんだ、俺。
「せんぱいは、れいなの口ばっかり見てたと?」
「・・・・・」
「れいなの口、可愛かと?」れいなは俺に擦り寄ってきた。ネコみたい、と俺は少し思う。
「う、うん・・・・」
「・・・・せ・ん・ぱ・い」
「はい?」
「・・・・・・れいなとキス、すると?」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺はれいなを見る。れいなは自分から言っておきながら、恥ずかしそうにうつむいている。
耳まで真っ赤だ。さっきまでの自信たっぷりの表情はどこに行ったんだろう・・・
「・・・れいなははじめてキスするたい、せんぱいは初めて?」
「う、うん。」
「せんぱいはれいなのこと、いつも優しくしてくれて、応援してくれて、待ってくれるたい。
だからキスしてもいいたい・・・・・」
- 134 :報道太郎 :04/06/16 21:22
- 俺は恥ずかしがるれいなの背中を寄せ、口を寄せた。
身長差の分、れいなは顔を上げる。目は閉じられているが、
まぶたが少し震えているのがわかる・・・・・
あ、違う、身体が震えているんだ・・・俺も震えているから、分からなかったよ・・・・
優しい、キス・・・・ほんの数秒だった、不器用なキスだった、味なんて、感触なんて、
分からなかったよ・・・・・・でも、本当に幸せな気分だった・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・。
俺とれいなはキスの後、しばらく無言になってしまった。
- 136 :報道太郎 :04/06/16 21:24
- ・・・口を開いたのは、れいなのほうだった。
「れいなの記念たい、忘れないたい・・・」
「うん・・・」
また、しばらく無言になってしまった。
男の俺が何かいわなきゃ、なんか・・・・・
「・・・・あ、れいな、次はいつ・・・・ゴホゴホ」
いつ映画に行こう、と言うつもりだったが、咳をしてしまった。
あ!!!!やばい、誤解を招いたかも・・・・・・・・・
なむさん、れいなの表情が変わった。
「せせせせせんぱい、何いっとると!次って、次って、・・・・・・せんぱいの変態、不潔、えっちえっちえっち!!!!!」
「ごめんごめんごめん、そんなつもりじゃ・・・・・・・」
・・・れいなは一通り俺を怒ると、また恥ずかしそうにうつむいた。
「でも、せんぱいがれいなのことをずっと好きでいてくれたら、約束してもいいたい・・・」
「れいな・・・」
「でも、ずっと先のことたい、せんぱいはずっとそんなこと考えてたら許さないたい!!!」
「わかったわかったごめんごめん、れいにゃ許してよ・・・・」
―――――――― 約束。それは時折、残酷な現実に変わるらしい ―――――――――――
―――――――― そんなことを考えた、ことも、あった ―――――――――――――――
(第4幕「らんく」に続く)
- 373 :報道太郎 :04/06/17 23:44
- 「君ならば、大丈夫」
(第4幕「らんく」)
朝。
れいなと別れて、自分の教室に向かう俺。
・・・教室には、意外な来客がいた。
「先輩、ちょっといいですか?」
亀井、絵里ちゃんだっけ。れいなと同じクラスで、親友らしい。
れいなの話によく出てくる。
「あのー、いいにくいことなんですけどーー」
亀井ちゃんは、全身をくねくねさせながらそう言った。
亀井ちゃんは、はっきり言って、可愛い。典型的な美少女タイプだ。
どうやら、うちの1年生の美少女ランキングトップ3に入っているらしい。
・・・まあ、れいなも入っているらしいので、そんな大したランキングでもない、とか言ってみたり。
・・・れいなに言ったら怒られるだろうな・・・。
「あの、れいなから聞きましたか、あのこと?(くねくね)」
「あのこと?」
- 380 :報道太郎 :04/06/17 23:48
- 亀井ちゃんには悪いが、俺は気が気ではなかった。
教室中の視線が、俺と亀井ちゃんに集まっている・・・。
トップ3の一角と付き合っちゃってる俺が、亀井ちゃんとも仲良く(?)話してる。
スキャンダルの香りがぷんぷんしてくる、とか思われてるんだろうな・・・・
「あのことですよ、あのこと!(くねくね)」
「・・・何のこと??分からないけど・・・」
そういや、親衛隊もあるらしいな、亀井ちゃんって。
なんか、れいなにもあるらしいって聞いたことあるけど・・・
俺はまだボコボコにされたりはしてないので、そんなに大層な集団でもないんだろう・・・
「『モ』ですよ、『モ』のこと(くねくね)」
「???」
そういや、クラスメートのインテリが、亀井ちゃん、れいな、そして道重ちゃん
(トップ3の一角らしい)の親衛隊の質について変なこと言ってたな・・・・・
「亀井ちゃんは自民党、田中ちゃんは民主党、道重ちゃんは公明党」だっけ?
亀井ちゃんは主流派、ノーマルな奴があつまる。人も多い。
れいなは比較的ライトな奴が多いけど、結構数はいる。
道重ちゃんは濃い奴が多い、だっけ?
- 383 :報道太郎 :04/06/17 23:51
- ・・・・それじゃ、俺がこのまま亀井ちゃんと仲良くなれば、
自民と民主が集まったってことで・・・俺は簡単に総理大臣になれるな・・・
憲法改正くらいできるかもな・・・・
・・・・・・俺はアホか・・・・
「先輩、モーニング娘。のことですよ!」
「はい????」
「れいな、モーニング娘。になるんだって!(くねくね)」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え????
――――――――――――― なんじゃそりゃ??? ――――――――――――――
(第5幕「たーとる」へ続く)
- 515 :報道太郎 :04/06/19 00:31
- 「君ならば、大丈夫」
(第5幕「たーとる」)
「モーニング娘。って、あのアイドルの?」
「そうなんです、れいなったらモーニング娘。の追加オーディションに応募したらしいんですう(くねくね)」
・・・・・なーんだ。・・・これが、俺の正直な感想だった。
「でも亀井ちゃん、れいなは別に合格したわけじゃないんでしょ?」
「そうです、そうですけど」
「そんなの、れいなが合格するわけないでしょ、全国からすごい人たちが集まってくるんだから」
「それはそうですけど・・・・先輩。」
何?あ、亀井ちゃんのくねくねが止まってる。
- 519 :報道太郎 :04/06/19 00:33
- 「先輩は、この話、れいなから聞いてました?」
「え・・・・」
そういえばそうだ、れいなからそんな話は全然聞いてない・・・
いつも一緒にいるのに・・・
「実は私、この話は先輩には言わないように、ってれいなに言われてたんです。
だから、何かあったのかなって思って・・・」
きーんこーんかーんこーん・・・・
1時限の始業の放送が鳴り響いた。
「あ、ごめんなさい、行かなきゃ・・・気に、気にしないでくださいいい」
亀井ちゃんはまたくねくねしながら教室を出て行った。
気にしないでいいって・・・
――――――――――― 気になるな、正直。 ―――――――――――――――
(第6幕「とうるー」へ続く)
- 831 :報道太郎 :04/06/20 23:31
- 「君ならば、大丈夫」
(第6幕「とうるー」)
俺って・・・
結構小心者なんだな。そう思う。
亀井ちゃんからオーディションの話を聞いて3日経った。
でも、まだれいなからその話は聞いていない。
俺も・・・聞けない。なぜか、聞いてはいけないような気がした。
亀井ちゃんによると、れいなは一次選考を通過したらしい。
そのことだけでも凄いらしいが・・・
・・・あと、このことを知っているのは親友の亀井ちゃんだけらしい。
いつもどおり、俺とれいなは放課後に外に出た。
映画見たい、とのれいな様の提案だ。
俺たちは街の中心部にあるシネコンに行った。
シネマ・コンプレックスというだけあって、ここでは今8本の映画が上映中らしい。
「れいな、何見る?」
「えーっと・・・・・せんぱいに決めてほしいたい」
ん?自分で誘っといて、それはないだろ。
まあ、れいなのこんな気まぐれはいつものことなので、俺は慎重に映画選びに入る。
- 832 :報道太郎 :04/06/20 23:32
- 「ハローポッター」「ガジラ2」「世界の端っこで愛を叫ぶ獣」「巨乳地獄」・・・
どれがいいかな・・・・
「よし、『黒い虚像』これにしよう!」
「いやたい」
早っ!
「・・・れいにゃ、それじゃ何がいいの?」
れいなは、一つの看板を指差した。『18歳〜旅立ちのANGEL〜』
(聞いたこと無い映画だ・・・・)
そうれいなに言おうとした瞬間、俺はその言葉を飲み込んだ。
『モーニング娘。石川梨華初主演映画』
看板にはそう書かれてあった。
「たまにこういう青春映画もいいたい。せんぱい、早く!」
そう言って歩き出すれいなの瞳に、俺はいままで見たことが無い真剣な何かを感じた・・・
――――――――――― やっぱり、巨乳地獄にすればよかった ――――――――――
(第7幕「えんじぇる」へ続く)
- 91 :報道太郎 :04/06/21 22:08
-
「君ならば、大丈夫」
(第7幕「えんじぇる」)
映画は・・・ごめん、特段たいしたことのない作品のような気がする。
まあ、おすぎやらピーコやらに聞いてみたらどう言うのかは知らないが。
・・・というか、俺は上映中のれいなの表情ばかり注目していた。
いつもならば頭を俺の肩に乗せてきたり(ただ寝てるだけだったり)
手をつないできたり(ホラー映画の場合高確率)
ポップコーンをばらまいたり(単なる迷惑)・・・・と、いろいろしてるんだが、
きょうのれいなは真剣に映画を見ているようだ。
なんなんだろう、この不安な気持ちは・・・・・。
別に、軽い気持ちでオーディションを受けたんだろうに。
俺はあまりアイドルには詳しくないが、モーニング娘。が頻繁にオーディションをして
数万人が応募してくるくらいは知っている。
だから、心配することは何もないよ・・・・、俺はそう思おうとしていた。
- 92 :報道太郎 :04/06/21 22:11
- 映画館を出て、俺たちは近くの喫茶店に入った。
この店は福岡の中では結構有名らしい。れいなはいつも、一番高いパフェを頼む。
・・・・俺が払うんだけど。
「ご注文は?」お冷をテーブルに置きながら、店員が聞いてくる。
れいなは即答。
「ブルーマウンテン」
「え?れいな、それでいいの?腹でも痛いの?」
「せんぱい、レディに何てこというたい!れいなは大人たい、もちろんコーヒー!」
「・・・そう、・・・・俺はデラックスパフェで」
変だな・・・きょうのれいな。
いや、変なのはいつもか。あえていえば『いつもと違う』んだ。
デラックスパフェを食べながら、俺はそんなことを考えていた。
「・・・せんぱい」「何?」
「そのパフェ、れいにゃも欲しいにゃ」
「・・・あ、そう」
「あーん、してほしいにゃ」
- 94 :報道太郎 :04/06/21 22:14
- ・・・・・・・・・・・。
「いやいや、満員御礼のお客さまの前でそれは・・・」
「何言ってるにゃ、2人の仲を考えれば当然のことにゃん」
「2人の仲?」
「・・・せんぱーい、れいにゃにそんなこと言わせたいにゃん?」
「いや、別に言って欲しいとはこれっぽっちも・・・」
「せんぱいが毎日れいなの唇を求めてきて、れいなが困っちゃったり・・・」
いやいやいやいやれいな、何いってんだよ・・・洒落にならん。
れいなの声はやたらと通る。周りのテーブルにもきこえるっつーの。
「分かった分かった、それじゃ、あーん・・・」
「あーん・・・」
生クリームとチョコと苺を乗せたスプーンを、れいなの口に持っていく。
れいなの小さな口ではぎりぎりの分量だったが、俺は無理やり口にねじ込んでいった。
「せんぱいそれは多いかもにゃ・・・あにゃにゃにゃにゃ・・・・」
- 97 :報道太郎 :04/06/21 22:19
- ・・・・
「もう、せんぱい、ひどいたい・・・・」
帰り道。れいなはまだ怒っている。
「わかったわかったごめんごめん・・・」
とりあえず謝っとこう。
「・・・キスしてくれなきゃ、許さない・・・」
・・・・・。
俺はれいなを見つめ、やさしくキスをした・・・・
!!!!
刹那、俺の身体に電気が走った・・・
れいなの唇が俺から離れようとしない・・・更に激しく唇を重ねてきた・・・
どうしたんだ、れいな・・・
舌を入れるようなテクニックがあるわけではない、ただ俺にすがりつくようにキスを続けた・・・
長い、長いキスだった・・・
そして・・・・「さよならせんぱい!!!!」
れいなは唇を離すや否や、真っ赤な顔をして走り去っていった・・・
俺は、呆然としてそれを見つめていた・・・・
―――――――――――― れいなは次の日、学校を休んだ ――――――――――――
(第8幕「ぶろーどきゃすと」に続く)
- 350 :報道太郎 :04/06/22 23:05
-
「君ならば、大丈夫」
第8幕「ぶろーどきゃすと」
れいなは1日学校を休んで、次の日に登校してきた。
風邪だったとか言っていた。
それかられいなは、時折学校を休んだ。
毎回、風邪だと言っていた。
でも、俺は亀井ちゃんから聞いていた。
れいなは東京に行って、モーニング娘。のオーディションを受けている。
亀井ちゃんには話してくれるのに、何で俺には話さないんだろう・・・・・
ただ、亀井ちゃんからは「私がオーディションのことを先輩に言ってることは
絶対に秘密にしてください(くねくね)」ともいわれている。
亀井ちゃんを裏切るようなことをしたら、親衛隊が怖い、怖い・・・・
ま、実際友情を壊すことはしてはいけないわけで・・・
俺は慎重に事を進めなければいけない。
うーん・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしよう・・・・・・・・・・・
- 353 :報道太郎 :04/06/22 23:08
- 数日後。
そのチャンスは簡単にやってきた。
モーニング娘。のオーディションは、テレビで途中経過を放送している。
ここで、「3次選考に残った女の子」というくだりの紹介があった。
20人くらいの女の子が画面一杯にうつる。
・・・たぶん、たぶん、れいながあった。
小さくてよく分からないが、たぶん、れいなだ。
よし、これを話題にして話を聞き出そう。
れいなは「あすはクラスの用事で早く家を出る」って言ってたから
一緒の登校は無しになっている。よし、放課後だな。
俺は、会話のシミュレーションに余念が無かった。
――――――――――――― でも、ちょっと甘かった ――――――――――
(第9幕 「どーたー」に続く)
- 479 :報道太郎 :04/06/24 13:28
-
「君ならば、大丈夫」
第9幕「どーたー」
朝、俺が登校すると1人のクラスメートの女子に聞かれた。
「あんたが付き合ってる田中ちゃんって、きのうテレビに出てなかった?」
「・・・・・・いや、俺は聞いてないけど・・・・・」
10歩歩くと、2人のクラスメートの男子に聞かれた。
「れいなちゃん、モーニング娘。のオーディション受けてたの?」
「・・・・・・いや、俺は聞いてないけど・・・・・」
20歩歩くと、4人のクラスメートの男子に聞かれた。
「れいなちゃん、モーニング娘。になるの?」
「・・・・・・いや、俺は聞いてないけど・・・・・」
「またまた、知ってるんだろ???もしかして、TV局から口止めされてる???」
やばい空気だ・・・。
れいなのクラスでも話題は出てるんだろう、たぶん。
早くしないと、あのれいなのことだ、家に帰ったりするぞ・・・
- 480 :報道太郎 :04/06/24 13:30
- 1時限目が終わると、俺はダッシュで1年生の教室に向かった。
3階から2階に降り、目的の1階北側の教室へ――――
れいながいた。ちょうど教室から廊下に出てくるところだ。
なにやら焦っている様子だ。
「れいなー」
俺が声を掛ける。れいなは俺のほうを向くと、
嬉しそうな、困ったような表情を見せた。
「せ、せんぱい・・・おはようございます」
なんだその丁寧な挨拶は。初めて聞いたぞ。
「いやれいな、きのうのテレビで・・・」
「ごめんなさいせんぱい、きょう一緒に帰れないみたいです」
「え、いやそんなこと聞いてるんじゃなくて・・・」
「ホントにごめんなさい・・・・これからちょっと用事が」
れいなは俺の隣をすり抜け、昇降口の方向にかけて行った。
俺は、それ以上何も言えなくなった・・・
きーんこーんかーんこーん。
あ、2時限が始まる。
とりあえず、昼に亀井ちゃんのところに行ってみるか・・・・・
―――――――――――― 彼女しか手がかりないし ――――――――――――
(第10幕 「Leave from me」に続く)
- 504 :報道太郎 :04/06/25 00:20
-
「君ならば、大丈夫」
第10幕 「Leave from me」
亀井ちゃんを何とか探し、事情を聞く。
亀井ちゃんも他の人からいろいろ聞かれて、辟易しているらしい。
「困っちゃうんですよね・・・・(くねくね)」
笑顔を絶やさない亀井ちゃん。あんまり困っているようにも見えないけど・・・
「先輩だから教えますけど、れいなはかなりいい線まで行ってますよ(くね)」
「あ、20人だとか・・・」
「あの放送は2週間前の撮影なので、実際にはもっと絞られてますよ(くね)」
「そうすると・・・」
「れいなも良く知らないらしいんですけど、4人とか・・・」
え、そんなに少ないの?
亀井ちゃんは俺の驚いた様子を見て、一言言った。
- 505 :報道太郎 :04/06/25 00:25
- 「ホントに、何も聞かされてないんですね・・・・」
「まあね・・・・・、でもモーニング娘。に追加されるのって何人いるの?」
「まだ決まってないみたいですけど・・・どうやら4人・・・・」
おおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいい!!!!!!!
「かかかか亀井ちゃん、それマジ???」
「そうらしいです、再来週に特番があって、そこで決まるそうです」
「なななな何で、それ知ってんの?」
「私の従兄弟の叔父の子供もその4人に入ってて、叔父さんが説明うけたそうです。
その子、私にそっくりらしいんですよ・・・・名前も一緒で・・・」
いやいや、悪いけど今は「亀井ちゃんのちょっといい話」はどーでもいい。
れいな、ホントにモーニング娘。になるの?
あまりにも展開が急すぎて、よくわかんないよ・・・
今までずっと近くにいたれいなが、遠い存在に感じられた・・・・
- 506 :報道太郎 :04/06/25 00:28
- 「きょう、れいなはこのあと飛行機で東京に行くって行ってました。
たぶん、きょうで内定するんだと思いますよ。ご両親も一緒、って話でしたから」
「え、そうなの?それじゃ、俺もこれからすぐ空港に・・・・」
「・・・それはやめてください。」
亀井ちゃんが言った。いつも見たことのない、真剣な表情だった。
「亀井ちゃん?」
「れいなが先輩に何も言ってないってこと。たぶん、れいなには何か考えがあると思うんです。
だって、あんなに先輩のことが好きだっていってたんだから・・・」
「亀井ちゃん・・・・」
「先輩、れいなってもてますよね。よりどりみどり。でも、先輩には自分から告白してる。
本当に、先輩に惹かれてるって分かりますよ・・・」
「・・・・・」
「れいなが一体先輩のどこに惹かれてるのか、私には分かるような気がします。
でも、先輩は多分気づいてないですよ。だから、れいなが自分から言うのを、待ってみてください」
・・・・亀井ちゃんの言っていること。半分は分かるが、半分は分からない・・・。
でも、彼女の真っ直ぐな瞳を見ると、嘘はついていないだろう事は容易に想像できた。
俺は、その言葉を、信じてみることにした。
――――― でも、俺は嘘付きだった。それに気づいたのはもう少し後のことだった ――――――――
(第11幕「 Dream of you… 」に続く)
- 633 :報道太郎 :04/06/26 01:37
-
「君ならば、大丈夫」
第11幕「 Dream of you… 」
れいなは、あまり学校に来なくなった。
来れないんだろう。
たまに来ても、すぐに帰ってしまうらしい。
俺が亀井ちゃんから「れいなが来てる」との情報を得る。
→そして、俺がれいなのクラスに行く。
→れいなはもう帰った。もしくは、オーディションの話を嫌ってどこかに行ってしまった。
そんなことが、幾度も続いた。
・・・電話をかけてみた。れいなは一応、携帯くらい持ってるし。
でも、繋がらない。もともと、れいなは俺と電話で話すのがあまり好きじゃなかった。
「顔を見て話したい」、そんなことを言っていたので。
れいなと話せても、話が成立しなけりゃしょうがない。
俺は電話をかけつづける気にはならなかった・・・・・・
- 634 :報道太郎 :04/06/26 01:40
- そして、10日が過ぎた・・・・・・・・・・・・・・。
亀井ちゃんが言っていた「新メンバー決定の生放送」。
それが明日に迫っている。
当然だが、先週の放送まで、れいなは選考に残っている。
なんだよ、なんだよもうなんでだよ・・・れいなに、れいなに会いたいよ・・・・
会って、話がしたいよ・・・
俺は学校から帰ってから、自分の部屋で引きこもっていた。
そして、いつのまにか寝てしまった・・・
- 635 :報道太郎 :04/06/26 01:44
- 午後8時を過ぎたあたり。
突然、俺の携帯がけたたましく鳴りはじめた。
「・・・もしもし?」
「・・・・・・・・せんぱい?」
「え?れ、れいな?」
「・・・・・・・・せんぱいに、話があるんです。ごめんなさい、夜に・・・」
「いや、大丈夫だよ。で、何?」
「・・・・・・・・ごめんなさい、直接会って話がしたいんです・・・
私の家の前の、あの公園に来てくれませんか?」
――――――――――― 胸の動悸が、激しくなった ――――――――――――
(第12幕「 Fate of two 」へ続く)
- 637 :報道太郎 :04/06/26 01:50
-
「君ならば、大丈夫」
第12幕「 Fate of two 」
俺の家かられいなの家までは、電車で3駅。最寄の駅から徒歩10分。
およそ30分の道のりが、俺には遠く感じた。
れいなの声は平静を装ってはいたが、明らかにいつもとは違っていた。
真実を知りたい。俺は駅から猛ダッシュし、公園に向かった。
・・・れいなは、俺の3分後に公園に来た。
「せんぱい、来てくれたんですね・・・」
れいなは俺に久しぶりの笑顔を作り、話し掛けてきた。
「うん・・・で、話って?」
でも俺は、早く真実が知りたかった。
- 639 :報道太郎 :04/06/26 01:51
- 「え・・・・・・・あの、私、モーニング娘。の追加オーディションを受けたんです」
「うん」
「それで、選考が、進んでいったんです」
「うん」
「それで、20人まで残って、テレビに出たらクラスのみんなも知ってて・・・」
「・・・」
「それで、選考が進んで、4人になって・・・」
「・・・」
「あしたの生番組で、決まるんですけど、たぶん、全員決まるらしくて・・・」
「もう、いいよ」
「・・・・え?せんぱい?」
もういい。俺が聞きたいのはそんなんじゃない。そんなことじゃない。
- 640 :報道太郎 :04/06/26 01:52
- 「そんなのいいんだよ、勝手にしろよ。それより、何で俺に言ってくれなかったんだよ!」
れいなが眼を丸くする。俺のこんな姿、見るのは初めてだろう。
でも、俺にはもう耐えられなかった・・・・
「もう芸能人になるんだから、俺のことなんかどうでもいいのかよ!」
「違う!!!」れいなが叫んだ。
「・・・・・・・・違うんです・・・・」
しかし、俺の感情の昂ぶりはもう止められなかった。
「何が違うんだよ、言ってみろよ!」
「・・・・・・・・・・・違うんです・・・・・・・」
囁くような小さな声で、れいなが呟いた。両目から、涙が2筋つうと流れた。
・・・俺は、今、何かとんでもない間違いを犯したような気がした・・・
居たたまれなくなった俺は、後ろを振り向いてその場から立ち去ろうとした。
―――――――――― ふいに、後ろから衝撃があった ―――――――――
(第13幕 「 Dream Child 」へ続く)
- 711 :報道太郎 :04/06/26 21:41
-
「君ならば、大丈夫」
第13幕 「 Dream Child 」
・・・れいなが、俺に抱きついてきた。
シャンプーの匂いが、俺の鼻をくすぐる。
膨らみかけた胸の感触が、俺の脳を刺激した。
「せんぱい、昔約束しましたよね・・・・キスの次をするって・・・」
「!!!」
れいなは俺の正面に回り込むと、俺の手を取った。
そしてれいなは俺の手を、自身の胸に当てた。
れいなの小さな胸が、激しく鼓動を繰り返していた。
「約束です・・・・ううん、約束たい」
- 712 :報道太郎 :04/06/26 21:42
- いつもの博多弁。
れいなは、自分でブラウスの胸のボタンを外し、俺の手を中に滑り込ませた。
ブラジャーを付けていないのは俺にもわかった。
つまり、薄いブラウスの下は裸。
俺の混乱した頭が、さらに混乱した。
ここは、公園。
俺たち以外に人はいないようだが、それにしても、れいなの行動が理解できない・・・
れいなは懸命に背伸びし、俺の唇を求めてくる。
まるで小鳥のキスだ・・・俺は朦朧とした頭で、そんなことを考えた。
・・・・そして、また俺に衝撃が来た。今後は前からだ。
れいなが俺を草むらに突き倒したようだ。いや、こういうのは押し倒す、というらしい。
- 713 :報道太郎 :04/06/26 21:44
- 「・・・せんぱい・・・」
小さな声でささやきながら、れいなは俺の手を取り、再び胸に導いた。
上半身はさらけ出され、胸の突起のピンクの部分も見えている・・・。
れいなは俺の手で、自身の胸を揉む。
俺が言うのもなんだが、不器用なものだ。
れいなは、このほかに、何をすればいいか、分からないらしい様子だ・・・。
ただ懸命に手を動かしているだけ。
そして、俺も何をすればいいのか分からなかった。
テクニックとかそういうことじゃない、全く何も分からなかった。
何でれいなは俺に隠し事をしていたのか、何で今こんなことをしているのか・・・
たった一つ分かるのは、れいなの気持ちがわかんない俺がバカだってことかな・・・
自嘲気味に口元を緩めた俺の頬に・・・・・・・れいなの涙が落ちた・・・・
- 714 :報道太郎 :04/06/26 21:47
- 「せんぱいなら、信じてくれると思ってたのに・・・
れいなの夢、応援してくれると思ったのに・・・」
れいなは泣きながら、俺の手を強く握った。
でも
「・・・・・・・」
俺には、何も言えなかった。
れいなの眼が悲しく歪み、そして一瞬強い光を放った。
「・・・なんで何も言ってくれんの!れいなは、先輩のこと信じてたと!!」
れいなはそういうと、服も直さず、公園を走って出て行った・・・。
――――――――― 何故か、俺の眼にも涙が流れた ―――――――――
(第14幕「 FLY AWAY 」へ続く)
- 749 :報道太郎 :04/06/27 00:59
-
「君ならば、大丈夫」
第14幕 「 FLY AWAY 」
次の日、田中れいなはモーニング娘。になった。
俺は学校を休み、一日中部屋で引き篭もっていた。
夜、生特番にチャンネルを合わせてみたが、見つづける勇気は俺にはなかった。
1日篭もり、俺は登校した。
学校はれいなの話題で持ちきりだった。
れいなの転校の手続きは完了し、東京に家族ともども引っ越す、らしい。
昼休み、れいなの話を嫌って屋上に出た俺。
すると、先客がいた。
「先輩」
- 750 :報道太郎 :04/06/27 01:01
- 亀井ちゃんか・・・
「何でこんなところにいるの」と言おうとした瞬間、
「先輩!一体れいなに何をしたんですか!」
・・・亀井ちゃんは、普段からは全く想像できない、厳しい表情を見せた。
「何って言っても・・・」
「ちゃんと答えてください!れいな、れいながあんなに泣いて電話してくるなんて・・・」
「電話?」
「おとといの夜、れいなが泣きながら私のところに電話してきたんです!
あんなにれいなが泣いてるのはじめてで、私もびっくりしましたよ。
泣いてて何を言ってるのかはっきりは分からなかったんですけど、
『あしたは大事な日なんだから落ち着いて』って言って、何とか落ち着かせたんです。
そのあと、きのう私の親戚のモーニング娘。になる子に聞いたら、れいなが
『せんぱいとちょっとあった』みたいなことを言っていたらしくて・・・・先輩!」
- 751 :報道太郎 :04/06/27 01:02
- ・・・仕方がない、話そう。俺は、公園であったことを多少オブラートに包み、
亀井ちゃんに伝えた。亀井ちゃんは黙って俺の話を聞いていた。そして。
「そうですか・・・」深いため息をついた。
「ごめん、俺が悪いんだよ。でも、やっぱり分からないこともあるんだ。
亀井ちゃん、俺に教えてくれないかな・・・」
「・・・先輩、私言いましたよね。れいなのことを信じて欲しいって」
「・・・うん」
「それは、れいなが先輩のそういうところに惹かれたからですよ」
「??」
「れいなって、ちょっと変わってるし、変に気の強いところもあって誤解されやすいんです。
そんなれいなが惹かれるのが、優しくて、正直な人。れいなを信じてくれる人。れいなとの約束を守ってくれる人」
- 752 :報道太郎 :04/06/27 01:03
- 「先輩が転校してきたとき、転校生だから結構注目されましたよね。
九州男児とはかけ離れた、のんびりした人。悪く言えば、お人よしな人だったから。
れいなは先輩が転校してきた頃から、ずっと先輩を理想の人としてみてましたよ」
「そう・・・」
「そして、勇気を振り絞って告白。先輩は思ったとおりの優しい、れいなを信じてくれる人・・・
だったと当時の私も思ってました」
「でも正直に言ってしまえば、先輩は本当の意味で『信じてくれる人』ではなかったんですね」
亀井ちゃんははっきりと言った。
- 753 :報道太郎 :04/06/27 01:05
- 「れいなの夢は、みんなに元気を与えることだったんです。
先輩がれいなを見て元気になれるように、みんなにその元気を与えること。
だから、モーニング娘。のオーディションも受けたんです」
「・・・」
「その夢。でも、その夢が叶ったら、折角出会えた理想の人と離れ離れになるんです。
れいな、迷ってましたよ。
・・・でも、決めたんです。だって、先輩はれいなの夢を信じてくれて、絶対に応援してくれるって・・・れいな、信じてたから!」
亀井ちゃんが、いつのまにか涙を流している。
それでも、続けた。
- 754 :報道太郎 :04/06/27 01:07
- 「ここからは私の想像になりますけど・・・・
れいなは、モーニング娘。に決まった時点で突然先輩にそれを告白したら、
絶対に先輩もすごく喜んでくれると思って、隠していたんじゃないかと思うんです」
「・・・」
「でも、正直私は先輩がそこまでの人なのか信じられなくて、先輩に言いました」
「うん・・・」
「先輩はそれを聞いてものんびり構えていて、やっぱりれいなが信じた人なんだと思いましたよ」
「・・・・」
「でも、先輩は・・・・・わかりますよね」
長い、沈黙が続いた。
- 755 :報道太郎 :04/06/27 01:08
- 亀井ちゃんが口を開いた。
「先輩、れいなに何かされました?」
「え?」
「何か、以前の先輩との約束を果たそうとしたり・・・」
俺の脳に、公園でのあられもないれいなの姿が浮かんだ・・・
「い、いや別に・・・」
・・・亀井ちゃんは、きょう初めて、いつもの笑みを浮かべた・・・
「先輩、午後1時10分の飛行機です」
「・・・え?」
「れいな、東京に出発します。もう、会えないかもしれませんよ・・・(くねくね)」
―――――――― 俺は屋上のドアを蹴飛ばし、階段を駆け下りた。
大声で、亀井ちゃんに礼を言いながら ――――――――
(第15幕 「 AIR GATE 」へ続く)
- 824 :報道太郎 :04/06/27 22:37
-
「君ならば、大丈夫」
第15幕 「 AIR GATE 」
現在時刻は、午後12時半。飛行機の出発は、午後1時10分。
学校から福岡空港までは、車でおよそ20分。
搭乗の時間を考えると、厳しい。
タクシーを拾おうと思ったが、学校の周りには見当たらない。
俺は猛ダッシュで大通りまで走っていった。
・・・何でこんなときに、タクシーが来ないんだよ。
要らないときにはすぐに来るのに・・・・
走りながらタクシーを捜す。
れいな、れいな、れいな・・・うわごとのように繰り返しながら、タクシーを捜す。
挙動不審な俺に、タクシーは乗車拒否を繰り返す。
- 825 :報道太郎 :04/06/27 22:41
- ようやくタクシーを拾えたのは、12時50分を少し回った頃だった。
「福岡空港!全速力で!全ての法的責任は俺が取ります!!」
タクシーは騒音を撒き散らし、空港に、れいなの元に向かった―――――。
「れいな、れいな、れいな・・・れいなとの約束なんです、最後の約束なんです・・・
れいなに、会って、会って、謝るんです・・・約束、守らなきゃ・・・・
間に合わせてください・・・神様、神様・・・・」
後部座席で、俺は呟きつづけていた。
・・・「FUKUOKA AIRPORT」の看板が見えると、
俺は5000円札を運転席に投げ込み、車の外に転がり出た。
「れいなあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
俺は走りながら叫んだ。れいなにこの声が聞こえるように・・・・・・
(第16幕「(タイトル無し)」へ続く)
- 862 :報道太郎 :04/06/28 01:07
-
「君ならば、大丈夫」
第16幕 「(タイトル無し)」
「れいなあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
狂ったように叫びながら、俺は国内線ロビーに走る。
平日の空港は人もまばらだ。
人を見渡すことは容易に出来るが・・・・れいなを見つけることは出来ない。
フライトの時間は迫っている。もう機内に乗り込んでいたら、一巻の終わりだ。
でも、俺は走らなければいけない。
れいなの小さな心を傷つけ、喜ぶべきオーディション合格を悲しみの涙で汚した俺は、
走らなければいけないんだ。
- 863 :報道太郎 :04/06/28 01:09
- 空港内にアナウンスが流れた。
「日本航空、羽田空港行き13時10分発ご利用の田中れいな様、
当機はお客様の搭乗をもって出発致します。
お急ぎ、搭乗ゲートへお越しください」
・・・・いた!!
俺の遥か遠くに、金属探知ゲートに入ろうとするれいなが見えた。
周囲にいるのは、れいなの親戚だろうか・・・・
「れいなあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
俺はまた、ありったけの声を出して叫んだ・・・つもりだった。
しかし、涙で、俺の声は思ったほど響かなかった。
- 864 :報道太郎 :04/06/28 01:11
- ゲートに入るれいな。
れいなが・・・・・・・・・・・・刹那、こちらを
・・・・・・・・向いたような・・・・・・・・・気が、した。
しかし、れいなは、すぐに、ゲートの中に吸い込まれていった。
遠い・・・・・・・間に合わない。・・・俺はその場に、座り込んだ。
間もなく、福岡の空を、れいなを乗せた旅客機が、東京に向けて飛び立った。
俺は、もう、立ちあがることができなかった。福岡空港の搭乗ゲート、
俺は泣きながられいなの名前を呼びつづけていた・・・・・・
(第17幕「 WORLDS END 」へ続く)
- 107 :報道太郎 :04/06/30 01:28
- 「君ならば、大丈夫」
第17幕「 WORLDS END 」
今の世界を、真っ白に戻す。
その世界の中心に、れいなを描く。
そして、他の全ての世界を、れいなの回りに描く。
恐らく俺は、れいなの遥か遠くに描かれるだろう。
もう田中れいなは、俺の近くにはいないのだろう・・
「♪愛する人はあなただけ・・・・」
四角い箱の中いっぱいに、ハイビジョンのれいなが映る。
すごいよれいな、やったじゃない。
あのモーニング娘。の中で、センターポジションを取るなんて。
「せんぱい」は驚いてるよ、正直・・・・
- 108 :報道太郎 :04/06/30 01:30
- ごめんれいな、君を応援できなくて。
俺は、君の信頼を、裏切ったんだ・・・・
君は俺を信じてくれたのに、俺は君を信じられなかった・・・
俺は、れいなが遠くに行くのが怖かっただけなんだ・・・
「せんぱいなら、応援してくれると思ったのに・・・」
れいなのあんな悲しい眼、はじめて見た。俺のせいだ。
れいな、れいなには泣き顔は似合わないんだよ・・・・全部俺のせいだよ・・・
「♪結局女、女だね・・・」
曲に合わせ、カメラがれいなをパンアップした。
れいなはカメラに目線を合わせ、曲相応の鋭い表情を作った。
れいなと俺の眼が合った。
俺は思わず、テレビから目線を逸らした。
俺の世界が、涙で滲んだ・・・・・・・・・・
(第18幕「君の小さな、決意」に続く)
- 110 :報道太郎 :04/06/30 01:41
-
「君ならば、大丈夫」
第18幕「君の小さな、決意」
3年と数ヶ月後、俺は仙台の大学に進学した。
教師や親からは福岡の大学を勧められたが、もともと生まれ育った場所が
仙台だったこともあり、大学に通いながら一人暮らしすることを決めた。
・・・別に、れいなの思い出から逃げたかったわけではない・・・ないと思いたい。
ある平日の昼下がり、俺は近所の定食屋で焼き魚定食を食べていた。
客は俺だけ。流行ってない店だ。でも、東北のコメは旨い・・・。
定食屋のテレビでは、なにやら記者会見をやっている。
なになに、「モーニング娘。解散会見」か・・・。
ふーん、もう長いしな・・・もう潮時かもしれないな・・・・
- 111 :報道太郎 :04/06/30 01:44
- でもれいな、いや田中れいなさんはソロでも十分やっていけるし、大丈夫・・・。
・・・やばい、授業に遅れる・・・。俺は急いで飯をかき込み、600円を払って店を出た。
客のいない客席に、テレビだけが流れる・・・
「藤本さん、今後の予定は?」
「そうですね、ソロ歌手として、これからもみんなが元気になれる歌を歌っていきます」
「そうですか、頑張ってください。それでは、田中さんは?」
「私は・・・この芸能の世界から、卒業します」
「え?・・・・そうですか、その理由は?」
「・・・・私のことを、信じて待っていてくれる人のところに、戻ります」
(第19幕「君は、七夕の夜に」に続く)
- 156 :報道太郎 :04/06/30 22:47
-
「君ならば、大丈夫」
第19幕「君は、七夕の夜に」
モーニング娘。は、先月のコンサートで解散したらしい。
俺は、相変わらずの1人もの。
そうだよ、正直に言うよ。・・・れいなのことが、忘れられない。
あの時のこと、何度後悔したか分からない。
じきに忘れると思っていたが、忘れられない。
でも、もうこんな生活にも、慣れてきた。
8月上旬。仙台では、七夕祭りが始まっている。
ただ、地元の人間にはさほど興味ない祭りだ。
単に中心アーケードにでかい飾りが鎮座してるだけだし。
俺は夕方、アーケードを避け、小さな通りに買い物にでかけた。
- 157 :報道太郎 :04/06/30 22:48
- さびれたスーパーに入る。
たまには、明太子でも買ってみるか・・・買おう。
本屋に「モーニング娘。ディスコグラフィー」とか売っていた。
うーん、買ってみようかな・・・買おう。
そして俺は、帰り道、何となくアーケードに足を向けた。
夜の七夕の街は、人でごったがえしている・・・
ふと、俺は背中に視線を感じた。
振り向くが、特に異常はない。こんな人ごみのなかなので、よく分からんが。
もう一度振り返る。
・・・・・・・ん?
俺の遥か後ろに、見覚えのあるような影がよぎった。
!!
- 158 :報道太郎 :04/06/30 22:49
- 俺は直感的に、影に向かって人ごみを逆走しはじめる。
影は、俺から逃げようとしている。
俺は追いかける。あれは・・・絶対に・・・・・・間違えるわけがない。
「すみません、通してください・・・」
駄目だ、追いつかない・・・・・
そう思うたびに、俺は気力を奮い立たせる。駄目だと思ったら、終わりなんだ。
絶対に、諦めない。そう思わなきゃ、負けなんだ。あのとき、気づいただろ!!
一番町の端から横断歩道を渡り、俺は名掛丁まで走る。
逃げるほうも流石だ、小さな身体を翻して走ろうとする。
でも、俺の思いには誰も敵わないんだ!!!
- 159 :報道太郎 :04/06/30 22:50
- 仙台駅の近くで影を捕らえる。しめて、300メートル。
「・・・・せんぱい・・・・久しぶりです」
「どうもどうも、元気だった?」
・・・なんて、言うわけないだろ。
「・・・れ、れいな、何でここにいるの?」俺の質問は微妙に的外れだ。
「え、ちょっと休みが取れたから、東北3大祭りの見物をしにきたんですよ」
れいなは通常モードを装い、複雑な笑みを見せる。
「せんぱいはどうしたんですか?あんな必死に追いかけてきて。れいな、ちょっと怖かったですよ」
・・・俺はこれまで、れいなと、すべて受身の恋愛をしてきた。
れいなに、頼りきりだった。だから、あんなことになったんだ・・・。
俺が、俺が・・・・言わなきゃ。
- 160 :報道太郎 :04/06/30 22:52
- 「俺はれいなに会いたくて、謝りたくて追いかけて来たんだ」
「え?」
「会いたくて、会いたくて、3年以上会いたかったんだ。絶対にもう離したくない。
だから、追いかけてきたんだ」
「・・・」うつむくれいな。
「今でも俺はれいなのことを愛してる。れいながもう俺の事なんか忘れようと思っているとしても、
俺は忘れられない、絶対。だから・・・」
れいなが、俺に抱きついてきた。久しぶりの感触だ。れいな、少しは成長したんだな・・・。
「私も・・・・探してた」
(第20幕「君と、笑顔の約束を」に続く)
- 266 :報道太郎 :04/07/01 22:08
-
「君ならば、大丈夫」
第20幕「君と、笑顔の約束を」
とりあえず、ということで、れいなは俺と、俺の家に向かった。
徒歩での道、俺とれいなの会話は少なかった。
3年間の空白、聞きたいことは山ほどある。でも、言葉にならない・・・。
ただ一つ分かったのは、れいなはモーニング娘。解散後、
仙台に俺を探しに来てくれていたこと。探索中、俺を見つけて、逃げてみた、とか・・・。
「もう、探偵まで使って調べたんですよー」
れいなは本気とも冗談ともつかないことを言っていた。でも、それだけで、俺は十分だった。
- 272 :報道太郎 :04/07/01 22:11
- ・・・・・・。
家が近づくと、なにやら考えていた様子のれいなが、口を開いた。
「私、みんなを元気にさせたかったんです」
「そう・・・」
「私、みんなにちょっとは元気をあげられたと思います。でも、先輩には・・・。
一番近くにいてくれた先輩に、悲しい想いをさせてしまったんです・・・。
私のせいで・・・私があんなこと考えたりしたから・・・」
「いいよれいな、もういいよ・・・。れいなの気持ちが分かって、嬉しかった・・・」
男1人暮らしの汚い部屋に、元アイドルが入る。
- 275 :報道太郎 :04/07/01 22:12
- れいなは、ここに来てやっと3年前の雰囲気を、少し、取り戻したようだ。
「せんぱいの部屋、こんなんなんだ・・・。えっちな本はどこにあるんですか?」
「いきなりそれかよー」
俺も自然に笑顔が出る。れいなを見ると、俺も元気が出る。そんな時間が、続き。
「さて!」
・・・れいなが突然、そう言った。座布団に正座した。
「??」
「約束、守りますか!」
(第21幕「君の未来に、花束を」へ続く)
- 279 :報道太郎 :04/07/01 22:15
-
「君ならば、大丈夫」
第21幕「君の未来に、花束を」
「約束、守りますか!」
「え?」
ま、まさか?
「行きますよー!!!」
「ぎゃあああああ!!!」
れいなが俺に襲い掛かってきた。
「れいな、れいな、待ってよ。まだ心の準備が・・・・」
「せんぱい、駄目ですよ、そんなんだかられいなちゃんにも3年前に逃げられるんです!」
むむむむむ。
「よし分かった、受けてたとう!!」
「きゃああああああああ!」
- 281 :報道太郎 :04/07/01 22:16
- 俺はれいなを思いっきり抱きしめると、ベットに押し倒した。
華奢なれいなの体が、ベットに弾む。
「せんぱい、ちょっと強引にゃん・・・・」
「強引に行かないと、れいにゃが逃げちゃうんだよ!逃がさない!!」
俺はれいなにキスを迫る。迫る。顔中にキスの嵐を降らせ、れいなの反撃を許さない。
「にゃにゃにゃにゃ・・・せんぱい、せんぱい・・・・」
れいな、参ったか・・・ってそういうことじゃないか・・・・。
俺はれいなを再び抱きしめ、耳元で好き、と何度も呟いた。
れいなも好き、と答えてくれた。
- 284 :報道太郎 :04/07/01 22:17
- そして、俺はれいなの生まれたままの姿を見た。
そして、俺はれいなの身体が赤く染まるのを見た。
そして、俺はれいなの身体の悦びを見た。
そして、俺はれいなの初めてになった。
俺はれいなと結ばれた。
・・・・・・・。
「れいな、今度は俺と約束してくれないか」
「?」
「ずっと、俺の側にいてくれるって、約束して欲しいんだ」
「・・・うん。・・・・ありがと、せんぱい」
- 288 :報道太郎 :04/07/01 22:20
- 終幕「君ならば、大丈夫」
今の世界を、真っ白に戻す。そして、全ての世界を一から描こう。
それでも、俺とれいなは結ばれる。
いくら離れていても。
俺とれいなには、誰にも負けない絆があるから。
「せんぱい」
「何?」
「きのうの夜のせんぱい、ちょっと怖かったたい・・・激しすぎて・・・」
「そ・・・そうか?今度からは、優しくするよ・・・」
「えっち・・・」
- 289 :報道太郎 :04/07/01 22:20
- 「せんぱい」
「何?」
「れいにゃ、せんぱいのこと、だいすきにゃん」
「・・・れいなさ、もうすぐ17だろ。それはちょっと恥ずかしいぞ」
「むーっ、せんぱいのばか。でも・・・それでも好きにゃん!」
「・・・俺もだよ、れいにゃ。」
(了)
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