「アタマイタイ」
- 107 :「アタマイタイ」 :04/04/13 03:54
- え?ウソだろ?
それは久しぶりの実家からの電話で始まった。
「今年の夏はあいちゃんとれいなちゃんをそっちに行かせることに決めたからね。
母さんと父さんは、愛ちゃんたちのお父さんお母さんと一ヶ月間海外バカンスだから。頼むわね〜オホホホ」
いや、急に言われても…。確かにヒマだけどさ…って頼むわよってオイ!もしもし!?もしもーし!!
ツーッツーッツーッ…
ったく…急にもほどがある。
だいたいあの双子だろ?いっつも二人でケンカしてたイメージしかないぞ?
そりゃちっちゃい頃はよく遊んだけど、確か今女子高生だろ?
…女子高生が、二人も、ひと夏一緒に?
ん〜。…まぁ、いいか。
いとこだしね。うん。仲良くしなきゃね。
そう言ったおれの顔はほんの少しニヤケていた。
- 108 :「アタマイタイ」 :04/04/13 03:55
- …あ、暑い。
今年の夏は本当に暑い。しかもなんで駅前ってのはこんなに暑いんだろうね。
なにもこんなに暑い日に上京してこなくたって…
あ、あの二人かな?
あらら?ずいぶんかわいくなったじゃないか。おにーさんはドキドキしちゃうぞ。
おれは愛車(中古)の窓を開けて顔を出した。
おーい!おー…お?おぉ!?
「あいがノロノロしてるから座れんかったたいっ!」
「あたしは指定席取ろうって言ったのに…れいなが自由席にしてその分お弁当豪華にしようって言ったからやよ!?」
「そんなの知らんたい!あーもーあっつい!暑い暑い暑いっ!」
「それからさっきからうるさいの!暑いって言っても涼しくなんないんだから黙ってて!」
おぉ…い。おにいちゃんだよ〜…。
「あいのあほっ!」
「…(怒)」
あぁ…アタマイタイ…。
- 109 :「アタマイタイ」 :04/04/13 03:57
- 「今日から一ヶ月お世話になります。あ、これお母さんからお土産です…ってれいな!なにしてんの!ちゃんと挨拶しなきゃ…」
「へぇ〜けっこういいとこ住んでるったいね〜。どれどれ、エッチな本はどこかな?っと…」
「れいなっ!…もう、ごめんなさい。でもホント久しぶり!お兄ちゃんと会うの何年ぶりやろーねぇ。・・・ってれいなっ!」
ん?…あっ!れいな何してんだよ!そこはダメだってっ!
「イシシシシ。見つけちゃった〜」
これが一ヶ月続くのか…アタマイタイ…。
- 110 :「アタマイタイ」 :04/04/13 04:01
- ミーンミンミンミンミーンミーンミーンミンミンミーンミーンミーン…
…うるさい。
今日も朝から暑い。夏が暑いってのは誰が決めたんだろう。まぁだからってどうにかなるもんじゃないけど。
あ、おはよう二人とも。
「いや〜暑くて眠れんかった。東京はなんでこんなに暑いんかな〜。」
「ここは神奈川やよ。」
ミーンミンミンミンミーンミーンミーンミンミンミーンミーンミーン…
「似たようなもんたい。さて、今日はせっかくだからどっか行こ〜よ。」
「朝ごはんもまだなのに…まず顔洗ってきなさいよ。」
「セミよりあいのほうがやかましいったい!朝からガミガミ…」
ミーンミンミンミンミーンミーンミーンミンミンミーンミーンミーン…
…あいもれいなもいいから顔を洗ってきなさい。朝ごはんはパンとコーヒーがあるから、
え?あいはコーヒーダメ?えーっと…あ、牛乳あるよ牛乳。なに?れいなオレンジジュースがいい?無いよ!
いいからまずはそれを食べて、それからどこいくか考えような。うん、そうしよう、な、頼むよ…
…あぁもぉアタマイタイ…。
ミーンミンミンミンミーンミーンミーンミンミンミーンミーンミーン…
- 111 :「アタマイタイ」 :04/04/13 04:02
- ミーンミンミンミンミーンミーンミーンミンミンミーンミーンミーン…
さすがに1週間も経つとこの二人にも慣れてきたなぁ。
「おにーちゃん暑いよ〜。」
…れいな、いくらなんでもタンクトップに短パンだけは刺激的過ぎないか?おにーさんだって一応男なんだぞ…。
「そんなカッコしないの!もうちょっとちゃんとしなよ!」
「だって暑いんだからしかたなかろー?あ、そうだ!おにーちゃん海行こうっ!海海う〜み〜♪」
「今日は原宿にお買い物やよ!昨日決めたじゃない!ね?おにーちゃん。」
「う〜み!う〜み!う〜み!」
「…(怒)」
まぁまぁ…。昨日決めたんだから今日は原宿に行こうな。
海も今度連れてってやるから、な、ホントだって、約束。ほら、あいも泣かないで、もぉ頼むよ…。
前言撤回。やっぱりこの二人にはかないません。
…あぁアタマイタイ…。
ミーンミンミンミンミーンミーンミーンミンミンミーンミーンミーン…
- 112 :「アタマイタイ」 :04/04/13 04:04
- 夏休みの原宿はえらい混みよう。全国から気合入れて遊びに来る場所なんだろうな。
あいもれいなもちょっと緊張してるのかな?
「あそこの店カワイイ〜!おにーちゃん行こっ!」
「あ!クレープ売ってる!食べたい食べたい!」
「ここテレビで見たことあるったい!芸能人ばおらんと?」
「それよりスカウトされたらどーしよー?アイドルデビューやよ!」
…してないみたいだね。まぁいいから迷子にだけはなるなよ。まったく、保育士さんの気分だよ…。
「あい、お腹すいたね!」
「そうだね。おにーちゃんお昼食べない?」
…二人ともテンション上がって欲望のままだな。うん。いいよ。なに食べたい?
「「らーめん!」」
- 113 :「アタマイタイ」 :04/04/13 04:05
-
…変なところで双子なんだね。おっけい。ラーメンなら任せておきなさい!旨い醤油ラーメンの店があるん…
「みそやよ!」
「とんこつったい!」
いや…うまい醤油ラー…
「みそだってば!」
「とんこつが食べたい!」
「みそ!」
「とんこつ!」
「みそ!」
「とんこつ!」
…頼むから原宿ラフォーレ前で「みそ!」「とんこつ!」って怒鳴らないでくれ…みんな見てるでしょうが。
どっちでもいいよ、旨い醤油はあきらめたから…。
…ほら車来てるよ。ふたりとも危ないからこっちによって…けんかするのもいいけど周り見なさいってば。
- 114 :「アタマイタイ」 :04/04/13 04:09
- …って、あの車こっちに向かってきてないか?運転手何やってんだ?あれ?え?寝てる?
え?ヤバイだろ?こっち突っ込んでくるぞ?ほら二人とも早くよけろって、危ないよ。突っ込んできてるよ?
あれ?この映像なんか見たことあるぞ?何だっけ?あぁ101回目のプロポーズだ。
武田鉄也の「死にましぇーん」ってやつ。よくマネしたなぁ。似てないってみんなに言われたっけ。
ぴたっと止まったら二人にも見せてやろう。世代的に知らないかな?あれ?でもこの車止まりそうにないぞ?あれれ?
そういえば母さんたち海外旅行ってどこ行ったんだろ?行き先くらい教えてくれてもいいのに。
ん?なんで母さんとか思い出してるんだ?なんか周りがスローモーションみたいになってるぞ?
あいもれいなもかなりびっくり顔になってるなぁ。
変顔だねそんなに目を開いたら落っこちちゃうよあれ車止まらないあぶないってやばいぶつかっちゃうよ
でもとりあえずふたりはあんぜんなところにいるからだいじょうぶみたいだけどおれはよけラレソウニナイナアブナイッテブツカルヨブツカルブツカルブツ…
― 以上0.04秒 ―
どんっ!!
…アァ…イタイ…
- 136 :15でつ :04/04/14 02:46
- …
…ん…?
…ここ…どこだ?
イテッ!…なんだ?アタマガ…いや、ぜ、全身が…イタイ…。
「…お、おにいちゃん?おにいちゃん!?気が付いたの!?れいな!ほら泣いてないで!おにいちゃん気が付いたよっ!」
「ヴェェェェェン!ぼでぃいぢゃぁぁぁぁん!ヴェェェェェン!!」
…?
「おにいちゃん大丈夫?…よかったぁ…このまま起きなかったらどうしようかと思ったよぉ…。」
「ヴェェェェェン!んっひっく!ヴェェェェェン!」
「ほられいな、もう泣かないの!おにいちゃん大丈夫だから、ね?」
…?
「…おにいちゃん?」
…だ、だれ…ですか?
- 137 :15でつ :04/04/14 02:47
- …というより、ここ…どこです?なんでぼくはここに…えーっと…?
な、なんだ?わからない…!なんでこんな所にいるんですか?
何があったんですか!?え!?ぼくはいったいどうしたんだ!?教えてくれませんかっ!!
「!?お、おにいちゃん!?あいやよ?わからないの?いとこのあいやよ!?」
わからない…わからないよっ!?ぼくはどうしたんだ?何があっ…うっ!い、痛っ!うぐぐっ…!!
「た、大変!おにいちゃんが…!だ、だれか!せ、せんせいぃ〜!!」
…何があったんだ?なんで体中が痛いんだ?
……ぼくはいったい…だれ…なんだ?
- 138 :15でつ :04/04/14 02:48
-
その後のお医者さんの説明で、ぼくが事故にあったこと、左腕と肋骨が折れていること、頭を強く打っていること、そして…
「あくまで一時的に、ですが…」
…記憶を失っていることを知った。
「頭部への強い衝撃が原因なのですが、幸い体への異常は見られません。
あくまで一時的なものと思われますから、落ち着いて、ゆっくり思い出していきましょう。」
…キオクソウシツ。アァ…アタマガ…イタイ・・・
- 139 :「アタマイタイ」 :04/04/14 02:50
-
あい…ちゃんと…れいなちゃん…だっけ。さっきはごめん。混乱しちゃって…。
「ううん。いいの。あたしこそ…げ、元気出して!大丈夫!おにいちゃんの記憶はあたしが絶対に元にもど…」
「ヴェェェェェン!ひっくっ!お、おにーちゃ〜ん!れ、んっく、れいなのこと忘れちゃったのぉぉぉ?」
「れいなっ!そんなに騒がないのっ!お、おにいちゃんが…こ、こ、んっく、困ってるじゃな、ひっくっ、じゃない…。」
「思い出してよぉぉ!もうけんかもしないからぁ…家でもちゃんとするからぁぁ!お、お、ぼでぃいぢゃぁぁぁぁん!ヴェェェェェン!!」
「れいな!な、泣かないでっでば…んひっくっ!ヴ、ヴ…」
「「ヴェェェェェン!!」」
…うーん。よくわからないけどなんか記憶が無いのが非常に悪い気がしてきた。
ほら、泣かないで。うん。大丈夫。すぐに直るよ。…だから泣かないで、ね?
「「ヴェェェェェン!!ぼでぃいぢゃぁぁぁぁん!!」」
…大丈夫だってば、ね?…だ、だから、お願い。二人でそんなにしがみつかないで…あ、アバラが…い、イタッ、イタイ…カラ…
- 140 :「アタマイタイ」 :04/04/14 02:51
-
「○○さ〜ん。お体の調子はどうですか〜?」
ええ、おかげさまで。
「こんなに可愛い妹さんたちに看病してもらってるんだから、おいらたちの看護なんていらないですよね♪キャハハハ!」
「いやぁん看護婦さん、ちっちゃいのに正直者ったい!」
んっ…ゴホンッ。えーっと…。あ、妹じゃなくって、いとこ…みたい…です。
「…まだ思い出せない?」
…ごめん。あいちゃん。なんか頭の中にモヤがかかってるみたいなんだ。
「ゆっくりでいいやよ。ケガもしてるんだし…ね、れいな。」
「ね、あい♪」
…どうしたの?なんか変な雰囲気だけど…。
「二人で決めたの。あたしたちのケンカが原因でおにいちゃんが事故にあっちゃったから…もうケンカはしないって。ね?」
「そうたい。れいなももうワガママ言わないって決めたんだよ。ね?」
…なんか変な感じ。なんで双子の仲が良いだけなのに違和感を感じるんだろう?
…ちくん…
なんだ?ぶつけたところじゃない…アタマガ…イタイ…。
- 141 :「アタマイタイ」 :04/04/14 02:53
-
「やっと退院たい!おにーちゃん早く帰ろ〜!」
「待ってってば!荷物まとめなきゃいけないでしょ?」
晴れて退院になったのはいいけど…まだ、ぼくの記憶は…戻らないまま。
二人ともずっとこんな状態のぼくの看病で疲れたでしょ?
「大丈夫!家に帰ったら懐かしくてすぐ思いだすったい!」
…れいなちゃん。ありがと。
あいちゃんも、ね。二人には本当にお世話になりました。
「やめてよぉ。こうなったらあたしとれいなのこと思い出すまでずーっと一緒にいるからね?」
…ありがとう…ごめんね。
- 142 :「アタマイタイ」 :04/04/14 02:55
-
「やっと帰ってきたぁ!」
「ただいまぁ」
…お邪魔…します。
ここがぼくの部屋…。なんとなく懐かしいような…。
「…なんか思い出したと?」
「おにいちゃんはここで4年住んでたんやよ。」
だめだ…ごめん。
あ、で、でも大丈夫!すぐに思い出すよ。うん。
「じゃあこのへんお散歩しようよ!何か思い出すかもしれないよ?」
「賛成!なら海行こう!海海う〜み〜♪」
「海って…一緒に行ってないでしょ!それじゃ意味無いやよ!」
「いーじゃん!う〜み!う〜み!う〜み!」
「れいっ……う、うん。いいね。海。海行こうか(ケンカはだめやよ…)」
ちくん。
…なんだ?
アタマ?いや…ココロガ…イタイ…。
- 143 :「アタマイタイ」 :04/04/14 02:55
-
カナカナカナカナカナ…。
ザザ・・・ン
「もうすっかり夏も終わりやね〜。セミの声も変わったねぇ。」
「れいなはあっっつい時に来たかったたい。」
…ごめんね。
「おにーちゃん、さっきからあやまってばっかりたい。」
「そうやよ、せっかく海に来てるんだから、ね。風が気持ちい〜よ〜!」
カナカナカナカナカナ…。
ザザ・・・ン
…うん。たしかに気持ちいい。
この風がぼくの頭のモヤモヤを吹き飛ばしてくれたら…。
「…海見てもダメ?」
「あい!『ダメ?ダメ?』ってしつこいったい!ゆっくり思い出せればそれで…(あ、…けんかはダメたい…)」
「…」
「…」
ちくん。
…ごめんね。ふたりとも。
カナカナカナカナカナ…。
ザザ・・・ン
- 144 :「アタマイタイ」 :04/04/14 02:56
-
「「ただいま…。」」
あの後もいろんなところを歩いて回った。
久しぶりに会った駅のロータリー。
みんなで行った焼き肉屋さん。
大騒ぎで花火をした公園。
ゴメン…。
「謝ることじゃないったい。」
「そうやよ。」
…。
「「…。」」
「…あ、お、お腹空かない?あたし一日中歩き回ってお腹ペコペコやよ!」
「そ、そうだね!お腹空いた!」
そういえば今日は何にも食べてないな。よし。ご飯食べに行こうか!なに食べたい?
「「ラーメン!」」
- 145 :「アタマイタイ」 :04/04/14 02:58
- お!いいねぇ。じゃあラーメン食べに行こう!
「みそラーメンが食べたいな〜」
「え〜?とんこつラーメンったい!」
「みそじゃだめ?(ケンカはダメやよ…)」
「とんこつのほうがいいんじゃない?(ワガママはダメたい…)」
ちくん。
どうする?ぼくはいいから二人の食べたいほうでいいよ。
「やだよぉあんなギトギトなの食べたくないよぉ。」
「(カチッ)こっちこそあんなしょっぱいの食べたくなかよ!」
「(イラッ)もう!いっつもれいなのわがまま聞いてるんだからこれくらいいいでしょ!」
「わがまま聞いてなんて頼んで無いったい!なんかあるとすぐ泣くくせに!」
「それは関係ないでしょ!」
「関係大ありたい!」
ちくん。
まぁまぁ…。そんなラーメンでケンカしないで、ね?ほら、別にラーメンじゃなくてもいいんだよ?
「みそが食べたいのっ!」
「とんこつったいっ!」
「みそ!」
「とんこつ!」
「みそ!」
「とんこつ!」
ずきん。
あぁもぉ…アタマイタイ。
- 146 :「アタマイタイ」 :04/04/14 03:01
-
?なんだ?この感覚?
・・・ ア タ マ イ タ イ ?
…あれ?これって…
ぼくの頭のモヤモヤの中に何か光のようなものが差し込む。
アタマに心地いい痛みが走る。
…今日こそ…
…今日こそ、おれは、旨い醤油ラーメンが食べたい!いいだろ?
「「!?」」
「…『こそ』?…お、おにいちゃん今『今日こそ』って言ったの?」
「え…?『おれ』って…まさか…れいなたちの事…思い出したと!?」
…ただいま。…あい、れいな。
「…『れいな』って、よ、呼んでくれたと?」
「…い、今『ただいま』って言ったの?」
おうっ!『た だ い ま』っ!二人にはずいぶん迷惑かけたね!
「「…お…お…おに…おにぃいちゃぁぁぁぁん!!ヴェェェェェン!!」」
…ただいま。世界一かわいい僕の頭痛のタネたち。
- 147 :「アタマイタイ」 :04/04/14 03:03
〜 完 〜