阿修羅城の瞳
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
配役:病葉出門 市川染五郎、闇のつばき 富田靖子、 安部邪空 古田新太、 美惨 江波杏子、 鶴屋南北 加納幸和、十三代目安部清明 平田満、桜姫 森奈みはる、望月幸弥郎・祓刀斎 渡辺いっけい
2000.8.10 松竹座にて
まずは松竹座の前で友達と待ち合わせをしていたら、お弁当の予約販売をしているのに気が付いた。うーーん、さすがは歌舞伎の世界。幕間にお弁当を食べるから幕の内ってわけよね。で、1階席なのになぜかエスカレーターにどんどん乗っていかなければいけない仕組みの松竹座。中間点でお弁当を食べ、やはりパンフを買わねばと思ってうろうろと見回すとグッズ売場ではなく売店で販売されておりました。大変豪華な作りのパンフは2800円。でも簡易うちわも入っているし、写真も豪華だから納得です。しかし歌舞伎座の売店って様々なお土産ものが置いてあって面白い。そして劇場の中に入ってそのこじんまりとした作りにびっくり。ただ座席に余り段差がないので、前に座高の高い人がきたら辛いかも。そして私たちのお席は舞台上手の3列目。うひょーーーー、滅茶苦茶舞台が近いです。ただ花道は遠いけど、それでもちゃんと肉眼で見られるからよいよい。
ひゃーーー、いきなりちょっと不気味なスタートでもし怪談系だったらどうしよう?と思ってしまった私。だってそこには頭に角をはやした鬼の童が大きな木の下で手まりをついているんですもの。それも物悲しげな歌を歌いながら。そして十三代目阿倍清明が花道から登場。どうやら何者かに手紙で呼び出されてやってきたんだけど、そこには待ち人来たらず。手紙には歌と椿の花一輪。そして何者かの策略にはめられたことに気づく清明。そこに現れる美惨。江波さん、めちゃくちゃ低音で押さえ気味のセリフがクールで貫禄がありますの。待ち合わせ場所の「かささぎのはし」はこの世と鬼の世界を結ぶ橋。そして清明は巨大都市江戸を鬼から守る「鬼御門」の頭領。清明を亡き者にするために襲いかかる鬼たち。うーーん、ここの鬼の動きも凄いのよね。JACの方たちかしら?しかし清明もみすみすやられるはずがあるまいて、そこは無く子もだまる「鬼御門」の頭領。ちゃーーんと、鬼御門の3人衆が助っ人に現れるのであった。しかーし、美惨のほうが上だったのだ。主要な鬼御門衆がいない江戸の町は今頃鬼どもが襲っているのであった。痩せても枯れても十三代目阿倍の清明。3人衆に江戸の町に戻れと言っているところへ、安部邪空が登場。きゃーーー、新太さんたらズラが怪傑ライオン丸みたい。そしてでかい!で発せられた声がすごくお腹に響くのであった。そして3人衆は江戸の町を鬼から守るべく立ち去るのであった。
ここで繰り広げられる殺陣がすごく迫力がありますの。ただ、松竹座の舞台は若干傾斜がついているので、皆様滑らないようにスニーカーを履いております。そして鬼の方が優勢になると、袂から取り出したるは代々鬼御門の頭領に伝わる鬼退治の切り札の鏡。ぴかーーんと鬼たちの方に鏡を向けると、鬼たちはぎゃーーとのけぞるもすぐにふふんという感じになってしまうのであった。(笑)だって、それは鏡ではなくってお櫃かなんかの蓋だもの。鏡を放り投げて鬼に斬りかかる清明。だって、こんな舞台登場早々にやられてしまったら、後は楽屋で3時間も寝ているなんて嫌なんだもん。by清明。(笑)なんてアドリブっぽいセリフが入ったので、ああ殺されないんだわなんて安心していたら、助太刀をするはずの邪空が清明を切った。えーーーー、そんなあほな。これだけの出番しか無いのか、平田さん!?不意をつかれた清明は邪空に斬り殺されてしまうのであった。なんと邪空は美惨に手を組もうと言うのであった。なんて悪いやっちゃ、邪空。その声、顔の表情、立ち振る舞いから貫禄がすごく出ておりますの。
そして配置転換。そこはお芝居をする鶴屋南北一座。次の芝居の台本を書いている南北。いやーーん、南北さんて女形なの?というか男だが女装が好きなのか、それとも三輪さんチックなのかと悩んだあげく、時代劇版の三輪さんが近いのかな。しかし所作とかは女だわな。そこに現れたるは花形役者の望月高弥郎。いっぱい女をひきつれて颯爽と登場。台本はまだかと南北に催促しながらちょいといじめておりますわ。花形役者の嫌みっぷりというか高慢ちきな感じがうまい!なかなか満足のいく台本が書けない南北はなんとかうまく望月を言いくるめるのであった。
そしてようやく出門登場。きゃーーー、かっこいい染五郎様。はぁと。そして花道から現れたのは闇のつばき。誰かに追われている模様。お助け下さいましと綺麗なおなごに頼まれれば嫌とは言えない出門。そして椿を追ってやってきたのは鬼御門三人衆。なぜに鬼御門がたかだか椿を追いかけるのか?それは十三代目清明をおびき出したと思われるのが江戸の町で評判の義賊闇の椿だから。でもね、呼び出した理由は椿の肩口にある赤く燃えるような印がいったい何かを知りたかったからだけなの。そして盗人をしているのもこの痣について知りたかったから。椿が両肌脱ぎで肩にある赤い印を見せる様は色っぽいです富田さん。
そして最後に登場は大ボス邪空。早く椿を捕まえないか!と三人衆を叱責。ここ三人衆は邪空の方に振り向き、俺達の仕事は鬼退治だ、お前の指図は受けない。前から清明先生が亡くなったのも腑に落ちないと邪空に言い放つのであった。その隙に逃げる出門と椿。3位一体攻撃で邪空に斬りかかる三人衆。しかし邪空のそばには黒装束に固めた鬼の家来が...ピーーンチ三人衆。だって私は密かに前回のLOST SEVENから阿部龍神役の粟根さんがお気に入りだんだもん。そしてついに邪空に切られてしまう三人衆。死んでしまったと思ったら、邪空は怪しげな物を三人衆の口に押し込むとあーら不思議立ち上がったわ。でも人相が悪そう。とうとう邪空の手下になってしまったのね。ああ、これからどうなってしまうんだろう。
またまた鶴屋南北一座。一度は言いくるめられたもののまたもやご登場の望月。余りにもやいのやいの五月蠅いので南北ったらお前なんかお払い箱よ。鬼にでも食われておしまいと言い放つ。そうしたら周りにいた人間が鬼に変貌し、襖の陰で望月は無惨にも鬼にむさぼり食われてしまうのであった。南無阿弥陀仏。しかし、こんなに早く平田さんといい、いっけいさんといい死んでしまってもったいないと思っていたら素敵なプレゼントが後で隠されておりました。何故に南北の一言で鬼が現れたのか...南北は面白い台本を書くためには魂をも鬼に売っても構わなかったから...
そしてえらく明るい雰囲気で望月のお葬式が行われている時に出門登場。やっぱりおみ足がすごく白いですわ。そして南北の愚痴につき合っていると椿が現れるのであった。そしてその椿を追いかけて邪空も登場。そこで明かされる出門の過去。なんと出門は鬼御門でも「鬼殺し」と怖れられる腕利きの魔事師だったのに、5年前のとある事件をきっかけに鬼御門をやめて南北一座に入ったのであった。そして邪空と出門は鬼御門の中でも突出したライバルで時期頭領を目される中だったのであった。ひゃーーー、殺陣も滅茶苦茶迫力ありまする。しかしやはり5年のブランクはちょいと辛いものが...椿は美惨たちに連れ去られてしまうのであった。そして月に照らされた痣を見て美惨はこれこそが阿修羅の証とつぶやき、そしてそれを問う邪空。そこへ出門登場。やっとのおもいで邪空を倒した出門は椿を救い出すのであった。きゃーーー、かっちょええーーーー!でも切られた邪空も阿修羅の血を口にしていたために、復活を果たす代わりに自分の急所を切りつけるのであった。
江戸の町では鬼どもが暴れて大変な状況に。そこへ鉄砲(バズーカ砲?)をかかえて登場したるは桜姫。父の十三代目清明に成り代わって江戸を守るべく派手にぶっぱなす。そしてこのちょいといっちゃってる桜姫が恋するお方は後にも先にも出門。えらくひつこくつきまとわれて出門はかなり弱っておりましたが...(笑)いやはやすっごく桜姫のハイテンションがチャーミングよ。そして同じく登場したるは十三代目清明の影武者ことにせもの。(笑)ああ、良かった。最初のあれだけじゃもったいないもの。それに自分の父の影武者をついてくるのよ偽物なんぞと言いながら鉄砲を片手にはけていく様はなかなかのものでございます、みはる様。何せキャラに併せるべく歌い方もギャグっぽくしているもんな。
出門の自分への想いを受け入れ、傷ついた出門を看病する椿。そこは寺堂の中。やっと気がついた出門は椿の目を見ていると自分が鬼御門をやめるきっかけとなった事件を思い出すのであった。それは椿の目は出門が切った鬼の一味の中で残された5歳くらいの女の子の目に似ているから。そして仕方なくお堂に火を放った出門。これをきっかけに出門は鬼御門を離れたのであった。そして現れたるは美惨。椿は阿修羅の生まれ変わり。子供から恋をすることによって女になり、そして阿修羅と化す。そのためには力強い男が必要だったのだ。その為に利用された出門。そして傷ついた出門は椿を連れ去られてしまうのであった。
「阿修羅目覚める時、逆しまの天空に不落の城浮かび、現世は魔界に環える。」と美惨の声が夜の闇に響き渡ると、江戸の町は火でつつまれ、空には逆しまの城が...阿修羅城の復活。
出門は「この恋は、俺の手でつける。」と言い、阿修羅と化した椿は「阿修羅城でお待ちしております、出門様。」といい消えていくのであった。
そして阿修羅と対するために刀職人の祓刀斎のところに刀を打ってもらうべく椿の手下2人と訪れる出門。その時の祓刀斎の登場の仕方が強烈。刀を打ちながら登場するんですが、ヤマンバのようないでたち。きゃーー、いっけいさん復活だわ。(笑)そして「刀とはまっこと美しいものよう。」と見栄を切るのであった。そして渾身の刀を打っている時に表れる鬼ども。助けようとする出門に助太刀無用と一人で戦う祓刀斎。それは自分の命を刀に注ぎ込むためのもの。そして十三代目清明のにせものも魔よけの鏡を持って登場。阿修羅を切るためには阿部清明の命を注ぎ込むがよい、わしを切れと出門に言うのであった。そんなニセモノでもいいんか?いや、そんなことは出来ないと言い残し、祓刀斎の打った刀を持って阿修羅城に乗り込む出門。そして祓刀斎はニセモノが本当は本物であることを見破るのであった。だって、ニセモノと言い出してからは引っ込みがつかなくなったんだもん。(笑)
そして椿の手下と共に阿修羅城に乗り込んだ出門は南北と相対することになるのであった。師匠を切ろうとする出門に清明はただ鬼に操られているだけといい、南北を正気に戻すのであった。そして出門が自分の所にやってこられるように美惨や鬼たちに命じる阿修羅。とうとう邪空をも倒し、阿修羅と対峙する出門。敵同士ながらも1度は心を通わした阿修羅と出門。出門は阿修羅を抱きしめて刀をその胸に立てるのであった。ここのシーンがなんとも印象的なんだな。
そしてその瞬間に雨が降り、江戸の火も収まるのであった。江戸の町に戻った清明は鬼の子を見つけ、今度はお前が鬼の世界を復活させるのかと問うと、私は目撃し言い伝えていくだけと言い去っていくのであった。
出門と椿のシーンで幾度か使われるもの歌が印象的。
「せをはやみ 岩にせかるる 瀧川の われても末に 逢はんとぞ思ふ われても末に」
うーーん、これの出所はなんだったけかな...この頃物忘れが激しくって、椿が上の句を読んだらちゃんと下の句が出てくるんだけど...時間ができたら調べてみようっと。
とにかく染五郎があんなに3枚目がうまいとは...まあFFの第1回ゲストに出られた時に既におっ!と思いましたが...しかも着物の着方がさすがは歌舞伎の御曹司、うまいでいらっしゃる。それに1人だけ草履での殺陣をされるのはすごく足に負担がかかられた(やはりふくらはぎにはかなりのテーピングがされておりました)とは思いますが、それを見せない大立ち回り。さっそうと花道をはけている姿も惚れてしまう。なにしろあの流し目にやられてしまいました。惜しむらくはちょっと声が割れていたことでしょうか...しかし染吾郎丈のサービス精神には感服いたします。最後のアンコールでは袖にはける際にボディビルのポーズを取るわ、大きくお手振りをしてくれるわ、最後は投げキッスの大サービスつき。これでファンにならなければおかしいって。
そして富田靖子さんはちょっと抑え目の言い方ですが、セリフもはっきりと聞き取れましたし、なにしろ目に力がありました。男を惑わす目やその仕草がね、色ぽかった。これでもう少し阿修羅になってから迫力が出れば言うことなしだったんですが...
そして古田さんはああ貫禄でございます。今回はどーんと受けて立つ演技。もう本当に憎まれ役なんですが、でもなぜにそうなったかを語られていくと悲しいのよね。とにかく声がいいんです。
そして江波さんはさすが。がなり立てるわけでもなく、本当に抑えた低音でのセリフなんですがよく聞き取れる。そして演技がメリハリがあって本当にいいスパイスになっておりました。
で、みはる嬢は本当にキュートでちょっといっちゃってる感じのはちゃめちゃなお姫様を上手に演じられておりました。あそこまで恋のために行動できるさくら姫が可愛かったのはみはる嬢のおかげ。
そしていっけいさん美味しすぎ!はっきり言って、出番は少ないかもしれないけど強烈なインパクトがあったのはいっけいさん。ありゃぁーー、あっという間に鬼に食われてしまってもう出て来られないのかと思ったら、祓刀斎という強烈なキャラで復活。しかもお祓いのために踊るシーンなんぞはまだまだ若い。身のこなしが柔らかくて、それでいて凄いハイテンションな演技に目が点状態。凄すぎます。
ちゃんと復活された平田満さんもさすがです。ただ惜しむらくはもっとはじけた感じだったら、もっと面白かったのに。でも舞台でアドリブをちゃんと言えるのはやはりキャリアですよね。
加納さんはネオ歌舞伎の方だったとは存じ上げませんでした。だから女形風な感じがそして歌舞伎風なセリフ回しが上手だったんですね。特に印象的だったのが阿修羅城で狐の面をつけての立ちまわり。その所作が素晴らしいの一言。今度大阪でお芝居があるみたいなので見てみたいけど、スケジュールが...
最後にオープニングとエンディングで重要な役である鬼の子役の新谷さんが光っておりました。それ程セリフも多くないんだけどすごく印象的だったの。しかも何とも言えない摩訶不思議なセリフ回しがグッドでした。
その他新感線のメンバーもちゃんと光っておりました。とにかくすごいエンターテーメントでした。
このお芝居は本当に花道をこれでもか!というくらい良く使っております。前にいるとそのタイミングがちょっとわかりにくいのかな?って心配しておりましたが、のれんを開けるしゃーーっという音で、おっ出てくるな!というのがわかり、そのタイミングを逃さずに済みました。ライティングの使い方の美しさはやはり新感線うまいです。それにセットにもかなりお金をかけているのがよくわかりましたもの。これだけ役者、照明、セット、衣装等がかなりのレベルで揃ったお芝居を見られて幸せでした。こんなことだったら、もう1回くらいチケットを取っておくんだったと後悔することしきりです。
ああ、染様の白いおみ足、流し目、そして投げキッスにくらくら状態になるのも仕方あるまいて!(笑)