2006.5.3 山田洋次の原風景 at日本橋高島屋 
出席者:山田洋次、檀れい

                          Special Thanks to 高島屋メモ子様こと誰やろろ様

アナウンサーによるあいさつにつづいて
山田:こんなに大勢の方が沢山来てくださってるなんて、想像も予想もしてなかったので驚いてます。
ほんとに有難うございます。
普通あれですよね、死んじゃった監督の作品展(会場爆笑)。故人を振り返ってというのが、こういう場合普通なんじゃないでしょうか。まだ生きててまだ映画作ってますし、この人と(檀さん)作った映画もまだこれから封切りですからね。まだまだ現役のつもりでおりますけど。
ひとまず今日はありがとうございます、どうも。
アナ:私たちファンはその作品を通して監督に少しでも(よく聞き取れなかった)

さっそく檀さんは初めての映画出演がなんと山田監督の作品で、これはどんなお気持ちで臨まれたんでしょうか?
檀:このお話をいただいたときに、あ〜私の運は全部使い果たしてしまったかなっていうぐらい
やはりすごく素敵な作品ですし、日本を代表する監督ということで、そういう素敵な方とお仕事
ご一緒させて頂くなんて、みなさん山田監督と一緒にお仕事したいと思ってらっしゃる方は
沢山いらっしゃると思うんですけど、ほんとに私はラッキーだったなと。
これでもう全部運を使い果たしちゃったなと、ほんとに思いながら。でも監督のおっしゃる一言、
一言を私の宝として毎日撮影に挑んでいたっていう感じで。ほんとに貴重な経験をさせて頂きました。

ナ:どんな演出を受けられたのか?できれば窺っていきたいと思うんですけど
山田監督がどんな俳優さんを起用されて、その方々とどんな雰囲気をスクリーンの中でかもしだしてくれるのか、ファンにとっては結構楽しみな部分であるんですけど。
今回檀さんと木村拓哉さんを起用され、これは (聞こえず)
山:うん、そうね、よくそういう質問受けるじゃありませんか。とても答えにくい問題ですね。
あなたは何故このバラの花を描くのか、あなたは何故この山を描くんですかって、誰でも絵描きは困っちゃうだろう。或いは何故あなたはこのショパンの曲を選ばれたんですか。
場合によってはいろいろ理屈をつけて言いますけど、
なんていうかな〜、沢山の理由があるし、或いは唯一の理由。さまざまですけどね。
それからどうしてもこういうキャラクターが欲しい。
そういう女優さんが、そういう男優がいないかと思って探す場合と、
あの人素敵だなと。あの人で映画作ったらどうなんだろうかなぁと・・・という場合もありますわね。
まあ寅さんなんかはそうですね。渥美清って人はすごく魅力があってね。この人主演にしたらどんな映画になるだろう。
或いはどんなキャラクターにすればいいだろうというところから始まったということもありますね。
今度の映画の場合は、木村拓哉君のキャスティングが最初にあって、で、木村君が心から愛して
やまなかった妻、若い妻ってのは、何たってこう美しくて気立てが良くなきゃいけないなあと。
観客もみんな素敵だなぁと思う人でなきゃいけないなぁということで。
ちょっとくせのある変わった人、そういうんじゃない(笑)
なかなか綺麗な女優さんて少なくなりました。クセのある女優さんはいっぱいいるけどね。ははは
で、もうほんとに木村拓哉君も言ってましたが、「あんな人いたんですね。深窓に」
で、たまたま彼女が退団されて、お願いして最初にお会いしたのはずいぶん前だけど、なんかちょっと硬い顔して、ちょっとノラないわみたいな顔して(笑)
檀:そんな〜
山:この人、今、何を考えてるんだろ?みたいな
檀:私はずっとお話なっていたことを、一所懸命何をこの監督は伝えたいんだろうって。
一所懸命真剣に聞いていたので、たぶん怖い顔、険しい表情になってしまってたんでしょうね。
山:だから引き受けてくれるのかな〜って心配してましたけどもね。
アナ:そのへんは監督のお気持ちって言うのは、決められる前にも聞いてらしたんですか?美しくて気立てが良くて・・・
檀:今初めてお聞きして。お腹が痛くなってきました(笑)
アナ:そこにピッタリとはまられたのが檀さんだと。
檀:どうしましょう。私は何も言えません。
山:答えにくいね(笑)

アナ:さっき映画が終わられたばかりということなんですけども。やはり監督自身が見そめた効果は。
山:目の前置いて言うけど、スタッフもみんなね、とっても驚いたり感心したりしてたんじゃないかな。
ほんとによく頑張ってくれたと思ってましたけどね。
アナ:檀さんは今回映画が初めてということで。これまでは舞台での作品を創り上げていくというところで活躍なされて大きく違う部分はあるんですか?
檀:大きく違う部分・・・ あの全てにおいてやはり全く違う。
ほんとに撮影はいる前は不安でいっぱいでしたし、でも不安がある反面未知の世界ってことで
楽しみでもありましたし、あの〜初めてやってみて、あ〜こういう風に撮るんだなとか、
こういう風に撮影は進んでいくんだなって、ほんとに一つ一つ勉強させて頂いた。
特に監督に全てをお任せして、私は何もできませんので監督について行きますので宜しくお願いします
みたいなことを確か言ったと思うんですけど、全て預けることが私にとって一番だと。
アナ:監督は粘り強く何度も何度もお撮りになるという、監督の演出はどうだったんでしょうか?
檀:私もあきらめないタイプなんですけれども、監督は更に諦めない。雨の雫一つにしても、
大粒に降らせて下さいとか、もっと細かくとか。監督の頭の中でいろんなイメージする映像、監督の
思い描くものがおありで、それを追求する力ってっていうか、それに、周りのスタッフの皆さんが
一所懸命自分の力を駆使して、あの絵を作っていくっていうか。
とても私自身刺激になりましたし、ひとつでも監督の細かな要求とかをクリアできるように必死でやっていきました。

アナ:監督の演技指導についてなんですけども、何回もこう繰り返し繰り返しお撮りになるという。
監督の中で確固たるこう演じるべきものというのがおありになって、そこに近づくために粘り強く
お待ちになるんでしょうか?それとも何回かこうやっていく内に、その俳優さん独自のカラーというか
その方のほんとの部分というか・・・が出てくるんですか?
山:こういう形でなければいけないっていうのを頭に浮かべてるわけじゃないし、
また浮かべようがないものですね。それは。
ただ、演じてもらって何か一つ納得いかないっていうのはね、
納得いかないのか?って言われるととても困っちゃうんですね、なんだか、納得いかないんですよね。
で、いろいろな方法をこうしたらああしたらって考えてもらう。
やっぱりだんだん近づいていく。
それだいぶ近い、最終的には「そう、それでいいんだ」って所になる。
じゃあ何故それでいいんだ?あなたはそれを期待してやったのかって言われる。そういうのは良くないんですよ。
ただそんときに僕もあ〜それでいいんだなと思うし、で、これで俳優さんもあ〜これで自分も人間として生きている。人間としてそこである仕草をしてる。人間として悲しんだり怒ったりしている。
気持ちがふに落ちている。っていうか。
だから俳優さんも腑に落ち、かつ、僕も腑に落ちるという所までもっていく。
何故腑に落ちるかっていうことは、いわく言いがたいですね、言葉で。
特に檀さんは長い間10何年舞台ですよね。いってみれば、浮き世離れをした芝居をずう〜っとしてらした。
だからね、そこのギャップは相当なもんだろうと。
僕のほうは浮き世そのものを描いて演じてもらわなきゃならない。
こういう手触りとか、実際物を飲んだり食べたりすることもあるしね。
すっ〜と浮き世に降りてきてもらわなきゃいけない
あのそんなことをできるかどうかってことをずいぶん心配してましたけどね、そこはやっぱり一番本質の
ところで俳優という仕事はどっかつながってるんですね。必ず。
舞台であろうと僕の映画であろうと。

アナ:浮き世に降りてくるためにどんな役作りをなさったんでしょうか?
檀:役作り・・・。一番初めに台本読んだときのイメージだとか、その当時の武家の女性の生活であるとか。
いろんなものからイメージを膨らませていったり、生活そのものをしていったりしてたんですけど、第一セットに入って、木村さんがいらっしゃって監督がいらっしゃって、いろいろやっていく内にどんどん膨らんでいったりする部分がおおかったので、ほんとに変な自分の三村加世に対する強いイメージっていうのはあるんですけど。強いイメージを持ちすぎないように、監督のおっしゃることをただひたすらクリアーしていきたいなっていうところに、自分の意識がありましたので。
アナ:最新作の見所はそういった檀さんのこの内面の葛藤ですとかを、皆さんに注目して頂きたいですね
檀:そうですね。監督にはそのままのあなたでいてくださいって。
生地(きじ)を大切にすることを一番最初に言われて。
山:でちゃう。どうしてもでちゃう。しょうがない。それが映画のいいところだね。
檀:なので、そこであることが大切である。でしたので。なるべく浮き世離れしないように。はい。
ほんとに私がそうすることによってスクリーンの中の三村加世が息づいていくんだろうなって思ってましたので、常に心の中では監督の言葉がありました。

[監督の会場の展示物が感慨深い、忘れてしまった映画はないこと。
ハナ肇主演「馬鹿がタンクでやってくる」についての話は省きます]


アナ:やはり監督というと寅さんの男はつらいよシリーズ。さきほど渥美清さんがいたから生まれたような映画と。
渥美さんの魅力というのはどんなところにあるんでしょうか?
山:もう亡くなって9年たちますけど、渥美さんというのはすごい人だったなと、年月が経てば経つほどだんだん僕の中で美しくなっていくと言いますかね。
あの亡くなった時よりも今のほうがもっと彼を仰ぎ見るような思いでいますね。
どんな風に素敵かっていうと、とても一言や二言で言えませんけど、簡単に言うととても頭のいい人だったなと。
頭の切れ味のいい人だったと。それから粋な人。ああいう人を粋って言うんでしょうね。
生き方とか対人関係とか粋でしたね。江戸前、江戸っ子っていうのはつまりもっと長い文化があの人の中で、ぱぁ〜っと花開いて、かつ、あんな人間をね。
あと渥美さんて品がいいんですよ。48作も作って飽きないってことは、つまり仕草、立ち姿、座った姿、
ふとした笑顔、全体がものすごくカッコいいんですね。
渥美さんはもう四角い顔とかちっちゃな目とか。そして人を笑わす。
だけど観客はほんとに四角い顔だなとか小さい目だなとか笑っているけど、実は彼の全身から
あふれでてくるその上品さみたいなものを気がつかないで受け取って・・・
だから見飽きないんですよね。
上品で粋でそしてすごく頭の切れ味が良くて、優しい。
優しいといってもベタベタしたものじゃないんですよね。一見こう知らん顔してて、
さっと相手の気持ちを推し量る部分というか。そんな人だから47作もこの人と映画作れたのかなぁと
だいぶ経ってから思い出すんです。
アナ:映画の中でのセリフとか口上とか非常にテンポがあって、切れ味のあるセリフ回しをなさる方ですよね。
会場の中ほどに進んでいただきますと寅さんについて渥美さんと監督が対談なされてる映像が。
山:あれは非常に珍しいビデオテープですよ。
アナ:あちらは非常に理路整然と、落ち着いて淡々とお話になる。どちらかという素顔の部分が。
山:あれは非常に珍しい。ああいうインタビューは渥美さん実はあまり受けないんですよね。  
僕もさっき見てこんなことやったけかなぁってびっくりしました。

アナ:やはり47作という、私たちにとっては毎年お正月に家族で初詣に行って、その帰りには寅さんを
見ようというのが、年中行事のようにありましたけど、毎年新しい作品を産み出してご苦労は相当なものが
おありになったんではないかと思いますが、如何でしたか?
山:つまり20何年ですからね。やはり調子よく作れたときと、作るのが楽しくてしょうがないときと。
うまくいかないとき。それから特にシナリオ書いてるときがつらいですね。
正月に封切る、封切るのが決まってるわけでしょ。で、もう秋口から始めてるんですから何日にクランクアップしなきゃ絶対間に合わないっていうのが決まっていながら、まだこんな段階で、今俺は苦しんでいる。
もし映画が間に合わなかったらどうなっちゃうんだろうと思うと、夜中に頭がおかしくなることがありましてね。気が狂いそうになっちゃう。そんな体験もありますけど。でも基本的にはやはりおもしろかったんじゃないかな。
アナ:作る作業ということが?
山:そう。レギュラーメンバーに渥美さんはじめ倍賞さん、この家族のような俳優さんたちとそれからチーム・スタッフみんな一緒ですからね。だから秋になるとまたみんなに会えてさぁ作ろうねという、そんなことが楽しくてやってきたんじゃないかなあ。
アナ:前の作品を、こう変更して取り組むというようなことはあったんでしょうか?
山:それはないです。ただ寅さんを作りながら「幸せの黄色いハンカチ」を作る
寅さんが終わって正月に封切りますよね。するとすぐシナリオに取り掛かるんです。黄色いハンカチの撮影を5月1日から6月中旬位までやったかな。で、いったん止めて急いで寅さんの本書いて8月のお盆にそれを封切って、終わるとまた黄色いハンカチに戻る。そんなことまだあの頃は元気だったんですねー。
アナ:何年かがあっという間に過ぎてしまう・・・
山:ははは、まぁね。
アナ:その映画の中で非常に懐かしくもある、セリフの中にちょっとした日本人独特の語呂合わせの言い回しだったりとか、ちゃんとした歌じゃないんだけど、どこか聞いたことのあるザレ歌というか。
山:とくに東京の職人。関西でもあるんでしょうけどね、言葉遊びっていうのがあるじゃないですか。
寅さんの得意なのは、けっこう毛だらけ猫灰だらけ
ああいうのは最近なくなったけれども渥美さんは沢山知ってましたね。
アナ:あれは渥美さんのアイディアもある?
山:どちらかというと、そっちのほうが多いですね。 全部渥美さんが少年時代にテキ屋に憧れて、的屋から聞いて全部暗記してたことなんですよ。ものすごい暗記力の持ち主ですからね。
だからいくらでも出てきたんですよ。
アナ:あれはおもしろいですね。今改めて見ると非常におもしろかったり、又、私の子供の世代には非常に新鮮みたいでお腹抱えて笑っちゃったりとかしてます。そのへんが日本人の心いわゆる今回のタイトルにもなってますけど、原風景的な部分もあるかもしれませんね。
山:渥美さん台本全部頭の中に入っちゃうんです。現場に台本を持って来ない。
アナ:すごいですね。(檀さんに向かって)どうですか?
檀:(台本を)握りしめています。
アナ:あと非常に印象に残るのは、寅さんが色んな所を旅行しますでしょ。旅行というか出かけていって
その土地土地、非常に美しい風景が私はドキュメンタリーっぽい映像で入ってくるなーと感じたんですけどそこは何か意図するところがおありになったんでしょうか?
山:まぁ、ドキュメンタリーじゃないですけども、その土地の景色を寅さんと共に眺めるっていう感じで
景色だけを何ショットかがありましたよね。
きれいな日本の、もうだんだんなくなりますけどね。綺麗な風景と綺麗な女性が寅さんの好きなものでね。
元気だったらマドンナ役を檀さんとね。
アナ:いろいろ懐かしかったりおもしろかったり新鮮だったり、ほんとに一つの映画でいろんな思いをさせてくれたのが寅さんだなと私は感じたのですけど。
お客さん方ご質問ございましたらお受けしますが如何でしょうか?

客1、男はつらいよシリーズで酒の量が増えてる件、酒を飲むシーンが多い件について
山:非常に寅は酒飲みであると考えてたわけじゃありません。
ただね、渥見さんはあまり食べ物を口にしないんですよ、撮影中は。演技の中ではね。
演ずるということと、口に実際このジュースが入ってきたりご飯が入ってきたり、異質なもんなんじゃないかしら?その生々しさっていうのはね。
渥美さんご飯を食べながら芝居することがあってもとてもいやがって
お酒もおそらく寅さんしょっちゅう酒飲んでるけど、つまみを口にいれたことは一度もないんじゃないかな。
だからちょっとしたつまみだから口に入れて欲しいなと思うんだけれども渥美さんそれがイヤなんですね。
で、だからお酒もちょっと舐めるくらいの、あんまり口に含まない。
寅さんは家に帰ってくるといつもみんなで晩御飯でしょ。食卓を囲んでワァワァにぎやかに話したり、そのうちけんかしたりするけれども。あれはね、よくご覧になると食事が始まる前かね、食事が終わった後なんですね。その最中はないんですけども。渥美さんこれから呑もうってとこで喧嘩になっちゃう。
或いは食べ終わってお茶なんか。それも飲まない。ただこんなことしてるだけで(湯のみを口のそばに持っててきょろきょろする動作)
テレビドラマなんかみんな平気で俳優さんたちはご飯食べたり味噌汁すすったりしてるけど、渥美さんはね、そういうとこ、とっても潔癖だったというか、この口がね、持ってけなかったねぇ。

客2:檀さんは檀ふみさんの親戚か?名前のいわれは?みたいな質問
檀:檀れいという名前は芸名です。檀ふみさんとは全く関係ありません。(会場爆笑)
檀という字はまゆみと読めるんですけど、まゆみという木がありまして、本名は(ああ〜ん)まゆみで、
その本名のまゆみと木のまゆみをかけて檀とつけまして。れいはおさまりがいいかなという程度で。

客3:先ほど渥美清さんの人柄について、とても頭の切れが良くて上品でそして粋な方だというふうなことをおっしゃいましたけれども、そういったものは私は木村拓哉さんのファンでして、同じようなものを感じるんですけど監督さんから見てそのへんは如何だったでしょう
山:まぁ、木村拓哉君はなんてったて美男子ですからねぇ〜、到底渥美さんとちょっと違うんですけど、一緒にしたんじゃ渥美さんが「よせよ」って言って笑うでしょうけどね。
でもあの〜僕の中では渥美さんの中に木村拓哉君と同じような美しい男、つまり美男子だと僕は思ってますよ。
客3:内面のほうを
山:やっぱり物を深くきちっと考える青年ですね。木村拓哉君っていうのはね。
僕は初対面で、それまではスクリーンっていうか、主にテレビですよね、ビデオに録って、テレビの画面を通してしか知らなかった。去年会っていろいろ話したときに、こう、いい目をしてるんですよね。
じっ〜と僕を見て、こうきちっと物をしゃべる。いい目だなぁと思ってね。
で、こういう体験は前にしたことがあるんだ。
それは何十年も前なんですけど、高倉健さんと初めて会ったときなんですね。
で、健さんに僕は幸せの黄色いハンカチのストーリーを話しまして「こういう映画を健さん主演で撮りたいんですけど健さんやってくれませんか」って言ったら、僕の顔をじっと見てね、「やります」と。
「いつから撮りますか?」「えっと、何月から何月」「わかりました。」それで全ておしまいなんですよね。
マネージャーが付いてきてガチャガチャこうしろとか全然ない人なんですよね。
カッコいい人だなぁと思って、あの時に健さんの目見てこの人とは仕事できるな。この人は物を考えてる人だなぁ。あの〜単にいい男か、単なるいい男か、そうじゃねえんだって。
そんときのことを木村拓哉君に会ったときふと思い出したのね。
木村さんうんと若いですよ。健さんに会ったとき40過ぎてたからね。それで誰かに言ったのかな?
健さんのこと会ったとき思い出したって。それがまぁ彼に伝わったみたいなのね。
で、あるとき彼が僕に「監督アレ冗談でしょ冗談でしょ」って言うから「何を?何のことよ?」
そしたら言えないの。「ほら健さんのこと」「健さんの何が?」「ホラ!俺が(会場爆笑で聞こえず)」
「あ〜そのことかー。君に会ったとき健さんに会ったことを思い出したけどそのことか?」って聞いたら
「冗談でしょ冗談でしょ?」
「冗談じゃないよ。そう思ったからそう言ったんだぜ」って言ったら「いや〜」なんて彼まっかになってたけど。
あの〜まだ彼は若いんですよね。健さんと比べればね、渥美さんと会ったときも渥美さん40ちょっと超えてましたからね。この人と一緒に仕事したいなぁと思ったのは。
木村君はまだ若いわけだからね。前途洋々たる俳優だなと今、思ってますよ。
アナ:はい高倉健さんの内面に通づるものがあるということ
それではですね、最後にこれから公開されます武士の一分。ひとこと檀さんからメッセージをご覧頂くお客様にお願いできますか。
檀:公開は今年の12月。武士の一分という映画を通していろんなことを皆様感じ取っていただけたらなぁって。きっと気持ちがあったかくなる映画だと思いますので、ぜひぜひ楽しみにしてください。宜しくお願いします。
山:タイトルのとおり武士には決して譲れないひとつの意地というものがあると思う。
それをつらぬいた男の話なんだけれども。まぁ、やっぱり現在一番なくなってきたことじゃあないでしょうかねぇ。
あまりにも経済優先の時代だから。
自分のこころざし、自分の意地というものがあって、人間としてこのことだけは守りたいってことが、段々消えてしまっている。そういう時代にあって、江戸時代だったら、こういう侍がいたんではないのかなというのが一つですね。それとなんて言うのかな、寅さんをはじめ僕のほかの映画と比べて、この映画はかなり激しい物語だと思います。そういう意味で今までの映画とはちょっと違う。そういう映画ができたと思います。
そういう点も楽しみにして頂ければと思います。
アナ:確かに一分という言葉自体があまりもう語られなくなっているような時代になっている様な気がしますね。
〔以後トークショー締めの言葉〕



おまけ 
ワイドショーの囲み取材に対する山田監督のコメント

2006年5月2日
 「山田洋次 原風景展」 於 日本橋高島屋 囲み取材レポ
 初めての付き合いだからね、不安があったけども、 非常に、あんなに真面目な男とは思わなかったですね。
 本格的にきちんと取り組んでくれるっていうか、正確に台詞を理解して正確に言う・・っていうかなぁ。
 とても気持ちのいい仕事が出来ましたね。
 まだ若いのにね、風格があるのね。一種独特のね。
 だから40代になったら素晴らしい・・・になるんじゃないかなぁ。
 彼じゃなきゃ成り立たなかったなあって、改めて今、思いますねえ。
 あの若さであの風格ってのはたいしたものですよね。
 (檀さんと)二人の芝居があって、彼女は分れて台所に行く。
 木村君はこちらに残ってる。で、あと、彼女をカメラが映すという場合
 こっち(木村)はおしまいだから、普通、お疲れ様って俳優さんは
 帰っちゃうんですよ。
 彼はちゃんとそこにいてくれるんですよね。
 「木村君そっちはもう映らないから」と言っても、
 「でも僕はこの部屋にいるわけでしょ、彼女が台所で仕事しているときは」
 ま、そりゃそうだけど。
 「じゃあ僕います」と言ってね。
 あんな俳優、僕は初めてですね。
 魅力があるね彼はね。
 ほんとに素敵な青年だなあ。うん。