「地図にない街:DOHENEKE−HEKISHIN」レポート


出演者:記憶の番人(岸谷五朗)、深海光(寺脇康文)、砂原泉(純名里沙)、調真実(山本未来)、道徳寺倫理(山西道弘)
作・演出:岸谷五朗、寺脇康文


今回初めての関西公演となった地球ゴージャスプロデュース「地図にない街:DOHENEKE−HEKISHIN」を観に行ってきました。前回の「紙のドレスを燃やす夜−香港大夜総会」に是非行きたかったんですが、東京だけだったので泣く泣く諦めたという経緯があっただけに今回はとても楽しみでした。そして今回の作品を見終わった後で、「ああ、東京だろうがどこだろうが香港大夜総会を観に行けばよかったとつくづく思いました。」それ程こぎみ良く、セリフ1つ1つが生きていて観客も一緒に本当にお芝居を楽しめる素晴らしい作品でした。

「地図にない街」はコンピューターのバーチャル・リアリティの世界がテーマとなって話が展開していきます。最初のオープニングから多分このお芝居のテーマである「The Winner Takes It All」を純名里沙が歌い上げて始まります。さすがに宝塚のトップ娘役だけあってうまいです。いきなり場面転換してバーチャル・リアリティの世界である西部の世界へ。そこには現実の世界からちょっと逃げたくなってバーチャル・リアリティの世界をゲーム感覚で楽しもうとする人達が。

コミカルな撃ち合いや現在ヒット中の音楽に合わせてのダンスなど最初から観客を引き込みます。砂原泉はバーチャル・リアリティの世界で出会った男性と現実の世界で会おうとして結局現れなかった男性を捜し求めて、この西部の世界へ。深海光はコンピューター・プログラマーでこのバーチャル・リアリティの世界を作り上げている男。そしてこの虚世界へ迷いこんだ人達はゲームとして「地図のない街」を探すという設定。

しかし、このバーチャル・リアリティの世界でゲーム・プレーヤーが死んでしまうとその時点でゲーム・オーバー。そこは警察の取り調べ室。別のコンピューター・プログラマーの売春斡旋容疑で、調真実と道徳寺倫理から取り調べ中。しかし優秀な犯罪アナリストの調真実はこのバーチャル・リアリティを経験すると、犯罪発生率が落ちるのはおかしい、誰かがゲームを操っていると推理し、またもやバーチャル・リアリティの世界へ。

そこではインディアン対ゲームプレーヤー達との戦いが。それは12レンジャー対インディアン!!そうなんです、ゴレンジャーをもじって12レンジャー。そしてそのアクションシーンはJACかジャニーズかというくらいバク転あり、側転ありという激しいものです。いやー、寺脇さんは私と同じ年齢なんですがそのようなことが出来るとは尊敬いたします。出演者全員によるタップダンス・群舞も見事です。歌、ダンス(群舞)、アクションシーンが見事に合わさった素晴らしいシーンの数々に、驚かされ、笑わされ、本当に楽しませてもらいました。

場面は一転してバーチャル・リアリティの世界にいた人達が全員消えさり、そして最後にはこの世界をプロデュースしている深海、そして好きな男性を捜している砂原、そしてこの世界を追跡してる調、道徳寺も消え去って、異空間へ。そこは時の番人が支配する世界。自分の記憶が書かれた本が置かれている図書館が。この時の番人である岸谷さんが舞台に出てくると、舞台自体がさらにピーンと張った感じになり、更に引き締まった感じになるのはさすがの存在感でした。

それに長年ずっと一緒に舞台をしてきている、岸谷さんと寺脇さんとの掛け合いが本当に見事なテンポで、ぼけ・つっこみといった感じで実に笑わせてくれるんです。それにもしかしたら、この舞台は大阪公演用に少し関西風にアレンジしているかもしれません。というのは、関西でしか流れていない(多分)CMのセリフやらセリフ自体が関西弁になっていたりするのです。うーん、細かいなぁ。

そして異空間では現実で自分が消したい過去を消して、もう一度なんの苦しみのない世界へ戻ることが出来るのです。人間はそれはそれは弱い生き物。だからそう言われるとほとんどの人間は躊躇いも無く、喜んで鉛筆で自分の消したい記憶を消して、都合のいい記憶を書き加えて喜んで現実に戻っていくのでした。もし、私だったらどうするんだろう?うーん、意思の弱い私のことだからやっぱり消してしまうのかな?でもそのほろ苦い思い出も全て自分の人生だしね...きっと、鉛筆持ってうろうろするんだろうね、私。

話は舞台に戻って、自分の記憶を消した人間は希望というものを無くして、時の番人が望むような人間になってしまうのであった。人間だったら、消したい過去の1つや2つは誰でも持っているもの。それは主人公の深海にしても砂原にしても同じこと。更には、警察官である調や道徳寺だって例外ではない。深海は幼少時の辛い体験で対人恐怖症に、砂原は中学時代に友人が自殺した事に対して、調は負け犬となった父親との過去に対して、道徳寺は自分の落ち度のせいで死んでいった部下という消したい過去が。

1番理路整然として冷静だったはずの調がまず、鉛筆を手にしてしまう。そして深海も消そうとするのだが、そこは演出的に面白くするために簡単には消せないのであった。(笑)鉛筆は折れるわ、自分の記憶の本は破れるわ、コンタクトは落ちるわ...そこに、砂原が登場して、深海が消すのを止めようとするのであった。だって、深海が自分が捜している、そして愛している男性だと気が付いたから。そこで一転して、いい奴そうに見えていた時の番人がへーんしん!!

時の番人ブラザーズを引き連れて踊ります。もう、本当に見事な側転、バク転、アクション、激しいダンスを岸谷さんが披露!もう拍手喝さいですわ。そう、奴らは世界をコントロールするために、記憶の書き換えをさせようとしているの。でも、愛するということを知った2人は自分の記憶に嘘をつく必要はない、自分の苦い過去に対峙してそれを愛していこうとします。そうするとあーら不思議、何度も逃げ出そうとした異空間から現実の世界に戻れたのでした。そして、オープニングで歌ったあの歌を砂原が歌うと、そこには赤い傘をさして待っていると約束した深海が...ハッピーエンディング、めでたし、めでたしでした。


とにかく、岸谷さんの存在感のすごさというのを痛感いたしました。岸谷さんが出ることによって寺脇さんの演技も生きてくるんですよね。それにさすが舞台出身の方たちばかりですので、台詞回し、滑舌とも見事でした。笑わせながらも「生きる」ということを考えさせてくれたお芝居でした。

「今日がダメでも、明日は誰かと話せるかもしれない。そう思い続けることが出来る限り、俺にだってまだ生きている意味がある!」BY深海光。「もう一度赤い傘を探すの。毎日約束の場所で探すの。見つけられるまで、今のままでいて欲しいの。あなたが好きだから。」BY砂原泉。「現実が辛く厳しいと思う限り、人は現実逃避を繰り返すわ。でも、自分から逃げ切れる場所はどこにもいない。」BY調真実。「理想という言葉は、便利さやエゴイズムに変る。理想のない世界こそ私が望む世界。欲望を捨て、マニュアルに従えば、ルールが人を守り、正しい道を歩かせてくれる」BY時の番人。

あっという間の2時間でした。また、観に行きたい!!

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