水中華

ひらり 花が舞う
はらり 花が散る
水面に咲いた花
くるくるとその美しさを纏う

種、芽、蕾、花、実、また種
繰り返し繰り返し
巡るその命の連鎖を以って
花はより美しさを増す


暗転


乱れた画像が流れる
古いふるい記憶が溢れてきた
走馬灯のように駆け抜ける其の風景に、一寸自分は死んだのかと疑った
本当にこの目に映っていたのは古いモノトーンの写真の雨
後から後から降り注ぐそれに不思議な感覚が湧き上がる


「何、してる?」


問う言葉に返事は無い
それでもまだ降るその雨を、飽くることなく見続ける
次第に其れは姿を消していった


「これで、全部」
「…そうか」
「これで、良かった?」
「…ああ」
「後悔、してる?」
「いや」


抱きしめ、抱き返し その温もりを知る
もう、二人しかいない
他はもう何もいらない。二人だけで生きていこうと決めた
父も・母も・誰も要らない
お互いだけで生きていこうと決めたのだ
そのための儀式
舞っていた思い出の数々は全て塵となって消えていた


「信じていい?」
「大丈夫だ、絶対に」
「もう、何も残ってないよ」
「わかってる」
「傍に、いさせて」
「当たり前だ」


この世界で二人っきりで、そうして生きていけたらいい
何度願ったかわからない
それを現実にするために逃げた
私は私、この身一つでこの人と生きていきたい
俺は俺、この身一つでこいつと生きていきたい

これは二人の物語


「お前こそ、後悔してないのか?」
「…聞かないで」
「…おい」
「そんな当たり前なこと聞かないで」
「………」
「傍に居たい」


居させてほしい
心の底から願った
本当に全てを捨てたのだ
互いには互いが居ればいいのだと誓ったから…



蕾が開く
父や母が知らないところで
花が咲く
綺麗な綺麗な花が
実が実る
二人の思いが篭った実が
繋がりを持ったそれが生まれれば、赦しは乞えるだろうか

今は未だ水中に眠る
命の蕾



水中華


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