雪が融けたら

「ねぇ。雪が融けたら何になると思う?」
「水。」
本を読んでいる睦に、霞が突然前触れもなく聞いてきたので思わず即答してしまった。
「そう、だよね。」
でも、睦はまだ全部言い終わってなかったのだ。
「まぁ、言うなれば命。ってとこだろう。」
「えっ?」
「だから、命になる。」
「………」
その言葉に霞は驚いた様子でを見やる。
霞の返答がないので、睦は本から顔を上げた。
「ん?俺、変な事言ったか?」
「命に…なるの?」
不思議そうに聞いてきた霞。
睦はまた本に目を戻して言う。
「あぁ。水は言わば生の基本だからな。雪が融けたら水になって、命を育むよ。」
文学少年らしい回答だ。
霞はどうも顔が笑ってしまう。
「へーんなの。」
「変なのはお前だろう?」
「あたし?」
「そうだよ。なんだよ、いきなり変なこと聞いてきて。」
まったく、突拍子もないことを聞くもんだ。
「だって、この前読んだ本にあったんだもん。雪が融けたら何になるか。」
「それで、その本にはなんて書いてあったんだ?」
本から目を離さず、睦は霞に聞いた。
まぁ、『命になる。』なんてことは睦しか言わないだろうが。
「『春』になるって。」
「春?」
その回答に思わず顔を上げる睦。
「そう。寒い冬に降った雪が融けたら、暖かい春になるって。」
「『春』ねぇ。」
呆れたように、ため息交じりで言う睦。
「駄目なの?」
「いや、それもいいんじゃねぇ?ただ…」
「ただ、何よ。」
「ただ、それだと雪が融けなきゃ春にならないみたいじゃん。」
別に、毒があるわけでもなく、さらっ、と答えた睦。
「それだったら、雪が融けなきゃ命もないの?」
「俺は雪が融けたら水になるって言ったんだよ。」
また本を読み始める睦。
まったく、読書家はどういう頭をしてるんだか。
「じゃぁ、否定するの?」
「いいや。回答なんて人それぞれだよ。」
誰が正しくて誰が間違っているなんてありはしないと睦は言う。
「誰だって否定されたくないもんさ。その癖正偽を決めたがる。やっかいだな。」
パタン。と、読み終わったのか、本を閉じ、棚へとしまう。
「ほら、帰るぞ、霞。」
手を差し出される。
その手を取って、二人は歩き出す。
「雪、止まないね。」
「そのうち止むさ。」
広げた傘は空に望むような青。
しとしと。と降っている雪を見ながら、二人は家路を辿った。

雪が融けたら………

fin.


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