潤む月

雨が降っている。
わたしを濡らしている。
空を仰ぐ。
雨を感じる。
「お前とわたしは似ているね。」
ふと口にした言葉。
言ってから後悔をした。
「似てはいないか…お前は疎まれながら木々達を育てる事が出来る。」
けれどわたしは疎まれるだけ、と小さく呟く。
雨が降っている。
わたしを濡らしている。
手を翳す。
雨を感じる。
「雨の匂いがする。」
濡れた大地が放つ土の匂い。
「わたしは求めてはいけなかった。そうしなければきっと。」
違う道が出来ただろう、と小さく呟く。

水無月の水有月『梅雨』。
この月に、わたしの世界は終焉を迎えた。
それなのにわたしは1粒の涙も流さなかった。
それは一体なぜなのでしょう。
わたしは何を思うのでしょう。
雨に打たれながら、静寂の元で…

「あなたは何処にいるの」
ただ、呟きつづけた。
「あなたは何故いないの」
一心に祈る。
「帰ってきて、私のもとへ…」
あなたがいない世界なんていらない。
あなたがいない現実なんていらない。
あなたがいないと、私は駄目になる。
…なのに
それなのに何故、私を置いていってしまったの?
「あなたは何処にいるの」
彷徨いつづける毎日。
「あなたは何故いないの」
一心に祈る。
「戻ってきて、私のもとへ…」
あなたがいないということは、
私には絶えられない。
なのにあなたは私を置いて、
かばってくれなくてよかった。
こんなことなら…
かばってくれなくてもよかったよ!!

雨を感じた。
この上ない優しい雨を…
天を仰いだ。
あなたがいる天を…
突然のことで信じられなかった。
あなたがいなくなるなんて思わなかった。
なのに、それが現実だなんて…
誰が信じろというの!!
私は信じない、
信じられるわけ無いじゃない!!
もう、会えないなんて…
雨を感じた。
この上ない悲しい雨を…
天を仰いだ。
あなたがいる天を…
突然のことで信じられなかった。
手を引かれた瞬間(トキ)
周りのすべてがスローモーションで動いてた。
腕を引かれた反動で
地面に着地したときも
目の前に赤いものが広がったときも
あなたの体が中に舞うときも
全てがゆっくりと動いていた。
それを見ていても
私は信じない
信じられるわけ無いじゃない!!
もう会えないなんて…

あなたがいない世界なんて、
全てが終わってしまったと同じ事。
あなたがいない世界なんて、
世界が終焉を向かえたのと同じ事。
あなたがいない世界なんて、
生きていても何の価値も無いところ。
だから私はあなたのそばに行きたかった。
どうして許してくれないのだろう。
そんなにこの気持ちが罪ですか?
愛している人がいない世界で生きることが
そんなに、そんなに罪なのですか?
それなら私は罪人になります。
それであなたに会えるのなら…
それなら私は罪人になります。
それであなたと一緒になれるなら…

けれど、それは出来ませんでした。
その理由は…
あなたが私を救ってくれたという事実があるからです。
あなたが命をかけて守ってくれたのに
その命を…
捨てるわけにはいかなかったのです。
あなたが自分の命を顧みず
助けてくれたのですから
その分まで生きなければなりません。

けれど…
この胸に傷が残ります。
あなたがいない世界で生きていくということによって、
私がいつか、あなたを忘れてしまうのではないか、と
…………………………
いいえ
決して忘れない
あなたの姿、声、感覚、それこそ全てを…
あなたの最期の言葉も・・・決して
あなたがいない世界は私の世界の終焉でした。
世界が終焉を向かえた日、
私は1粒の涙も流しませんでした。
その理由は1つ。
私は大丈夫です、と
あの人に伝えるためです。
目が覚めたとき、
頬を伝わる涙に気がつきました。
その理由は1つ。
頑張れよ、と
あの人の声が聞こえたからです。
世界が終焉を向かえた日、
それは終りだったかもしれません。
けれどそれが始まりだったのです。
そう、
新たな一歩の…


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