MADGAME
4.

「あれ?これリョーさんの…なんだっけ?…ま、いっか」
飛んできたキュラクタを一瞥してから、何事もなかったように自分の作業に戻った。
緻密な計算をしているわけではない、唯自分の機械の性能を試そうとしているだけ…つまりは楽しんでいるだけであった。
「あー、もう!じっとしててくんねーかな?…これだと中々…あ、動いてるの捕えられなきゃいけないんだっけ?」
メンドー!!と叫び乍音で認証する自作のPCをセットする。
「あ、発見!あれが今回の標的ってわけだ」
視界に入ってきたのは30代前後の女性。比較的見た目はいいほうだが、よく見れば目のあたりがかなりキている。
事前に亮に送ってもらったデータと合わせてみても間違いはなさそうだ。
「じゃぁ、いっちょヤりますか」
至極楽しそうに言葉を発するとズボンに同化しているヒップバックから何やら取り出した。
手に取ったのは銀色のガーベラ。勿論生花ではなく造花。用途としては…
「まともに使えっかな?これ…」
自分で作っておき乍なんとも無責任な言葉を零すと、標的だと思われる人物の足元に放り投げた。
距離的に届かないと思っていたが、思いのほかちゃんと飛んだため、きっちりと標的の足元に飛ぶ。
其の姿に不思議そうな表情を浮かべた女性は手に取ろうと身を屈めた。
手に取る寸前に何やら手にしたボタンを押す。花は忽ち大きさを変え、標的を包み込んだのだ。
「良っしゃ!なーんだ、使えるじゃん、これ」
円柱状になったそれに近づいて行こうとした時、不意に背筋に寒気が走り振り返った。それと同時に横に飛び退くと何とか体勢を整える。
「な、なんだよ、もう!」
「平気か?宗途」
「え?シンさん?」
現れた見知った姿を不思議そうに見つ、間抜けな声を出した。…けれど、芯哉の緊張した目に気づき吟も辺りを見渡した。
「なんか、いるンすか?」
「一人逃したんだ…多分そいつだ。…宗途、これはなんだ?」
辺りを警戒しつ見慣れない物体を訝しげに見、訊ねる。へっへ〜と吟は得意そうに笑う。
「創ったんスよ、俺。一度捕まえるともう出れませんよ」
「相変わらず、変なもの創るんだな、お前は」
「変て…ヒドいっスよ、シンさん」
「無駄話、してる暇はねぇぞ」
「慧谷さん?」
「リョーさん?」
警戒しているところにまたも聞き慣れた声、それが姿も伴って現れたとなると驚きもするだろう。
「珍しいですね、慧谷さんが動くなんて」
「そんなことはいい、吟!さっさと片付けろ…あいつの目的は標的じゃねぇ…」
「はい?」
「いいから早くしろ」
亮の行動、発言に疑問を持ちつつも判ったっスよ。と円柱に近づいていく。
何があったのか亮に問おうとした芯哉の口はさっと塞がれてしまった。
「GAME OVERっス!」
本当に楽しんだような口調で躊躇無く円柱ごと切り裂いた。その際に散るはずの緋は銀の華となる。
「…なんか、無駄…」
「えー、いいじゃないっスか!綺麗だし!」
いつの間にか緩められた口から、思わず言葉が漏れ、それを吟が反論する。
「いい、とりあえず終わったな…撤退するぞ」
「え?最後のヤツとはヤらないんスか?」
つまらなそうに不満漏らす吟に有無も言わさない表情で咎める。何も言えなくなった吟は渋々と従い、芯哉もそれに続いた。

その場に残されたのは銀の華…否、一体の死体が切り裂かれた状態で転がっていた。


戻る textへ
copyright © kagami All RightsReserved.