「青を頂いたモノは神様に愛された証なのよ」
そう言って彼女、藤崎那知は空を見上げた。
この場所は那知や彼、速瀬亮が通う学校の屋上だ。
「神に愛された証?」
「そうよ。青を与えられたモノは神様の愛し子なの」
別に那知も亮も宗教的なことを言ってるわけではない。
だが、那知はたまにそんなことを言う。
しかも、唐突に。
けれど、亮はそれも慣れているようだ。
「なら、その神に選ばれたやつはどうなるんだ?」
「大切な役目を担うのよ。例えば…空」
「空?」
亮が見上げた空はペンキで塗りつぶしたように真っ青だ。
「あの空はね、神様に死を司るよう定められたモノなの。
どこまでも続くことで無限の連鎖をつくり、死した肉体から離れてしまって彷徨う魂を導くんだわ」
「ふーん。じゃぁ、導いた魂を空はいつまでも抱き続けるのか?」
視線を戻して、那知を見つめる。
「ううん。転生させるために、生を司る海へ、空は魂を還すの。海と空は同じ青を共有する対だから」
「対?」
「(くすっ)さっきから聞いてばっか」
「お前の言うことが理解不能なんだよ」
「そう?」
ふらっ、と那知が立ち上がると、タイミングよくチャイムが鳴る。
「さて、行くか?」
「うん」
返事はしたものの、那知はまだ空ばかり見ている。
「那知?」
「…綺麗ね」
愛しむように呟く。
惜しむように呟く。
「あぁ」
亮も空を見上げる。
那知はそのまま階段ではなく、フェンスに近づいていった。
「那知」
パッと、那知の手を掴む。
掴まなければ那知はどこかへ行ってしまう。
「亮」
やっぱりダメ?と、那知は呟く。
当たり前だろう。と亮は叱咤する。
「私の夢、知ってるくせに」
「理解できないけどな」
「してくれないの?」
「出来るわけ無いだろう」
「そう。でも私は、夢を叶えたいの」
「那知!!」
思わず亮の声が荒げる。
けれど、那知はきょとんとしている。
「やめろ、そんなこと言うのは」
「なんで?だって私の夢だもの。亮はそう思わないの?」
「俺は神のために生きてるわけじゃない」
「じゃぁ、何のため?」
「知らねぇよ」
掴んでいた手を引き寄せ、那知を抱き寄せる。
「亮?」
「お前に夢があるように、俺にも望みがあるんだよ」
「何?」
躊躇せず、那知は尋ねる。
亮は那知を抱きしめたまま動かない。
「亮?」
「お前の夢を叶えさせないことだ」
「なんで?」
「好きだからだ」
「私も好きよ」
二人の唇が重なる。
長いながい口付け。
「お前の夢の相手、変えないか?」
「ダメよ。変えられない」
「俺じゃ、ダメなのか?」
「亮も一緒に行くのよ」
「俺も?」
「そう」
狐につままれたような顔で那知を見つめる。
「だって亮にも資格はあるわよ」
「資格、ねぇ」
亮はその気はあまりないようだ。
「授業サボっちゃったね」
「いつものことだろう?」
「そうね」
また、長いキスをする。
青いあおい空の下。
いつまでも、いつまでも…
「ねぇ亮。一緒に行ってくれる?」
「俺を選んでくれるならな」
「亮は好きよ。でも、一番じゃないの」
「知ってるさ。それでも…」
「愛してるわ、亮」
「俺もだ。」
「だから、私の夢、叶えて」
軽く亮の頬にキスを残す。
沈黙の後、亮は 分かったよ。と承諾した。
「ありがとう」
那知はタブレットを口に含み、口移しをする。
「愛してる、亮」
「那知」
コクリと、二人は薬を飲み込み、静かに横たわった。
青いあおい空の下。
学校の屋上で、
那知の青い髪が風になびく。
亮の青い瞳がゆっくりと閉じる。
神に選ばれた二人。
那知の夢は
神様の6月の花嫁になることだった。
fin.
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