LEGOの進化論


翔泳社刊の「MindStorms ロボット開発講座」は内容充実のお勧めの一品です。
(一応宣伝しておきました。)ただ、私の執筆した「LEGOの進化論」は諸般の
事情でかなり整理・短縮されています。私の狙っていたところが必ずしも書き
切れていないと言うことで翔泳社の承諾を得て全長版を公開いたします。
MindStorms ロボット開発講座もお買いあげの上、比較していただけると大変あ
りがたいところです。







M.I.B.スペシャルレポート「レゴの進化論」


再会

 皆さんはもうMindstormsは手に入れましたか。開くことさえちょっと躊躇われるような大きな
箱の中には様々なギアや細かなペグ、穴だらけのビーム、名前の付けようもない奇妙な部品が山の
ように詰め込まれています。「これは本当にレゴなのだろうか?」成人式のために帰省して「懐か
しいのに顔見知りが見つからない」時のような不安を胸に部品をガシャガシャとかき混ぜること10
分、しっとりとしたABS樹脂の感触が甦ってきました。あった、ありました。懐かしい2x4の基本ブ
ロックです。久しぶりに対面したレゴはどうやらすっかり「進化」してしまったようです。随分と
様子の変わってしまったレゴにちょっと戸惑っている、そんなあなたに贈るレゴの進化論の始まり
です。



系統樹 


 私達の心を悩ませて止まないレゴのカタログ、とりわけ毎年年末から年始にかけては新製品の情
報には一喜一憂させられます。さてこのカタログを堆積地層のように何年も積み重ねてみると、ま
るで栄華を極めた恐竜達がわずかな末裔を残して」消えてしまったように、実に様々な製品・シリー
ズが生まれては消えていく事が実感されます。基本的な特徴を継承しつつ環境に対応して変化する
ことを進化と呼ぶならばレゴの辿った変化は確かに進化と呼べる物でした。地球上の生命が共通の
DNAを持っているように変わらぬ事はポッチによって安定して再現性のある結合を行うことだけで
す。そこでレゴの製品シリーズの消長を生物の系統図に当てはめ、生物の進化になぞらえてみました。



生命の起源と古細菌の存在

 温泉や熱水鉱床等の過酷な環境で生存する古細菌類、彼らの持つ耐熱性酵素は現代の遺伝子工学
の基盤となっています。そんな古細菌や星間ガス中の有機分子の発見から、生命の起源が地球外に
由来する可能性すなわちパンゲノミアが否定できなくなっています。生命起源が地動説なみの転換
期を迎えようとしている一方、レゴの起源は明らかでその名を冠したブロック玩具が登場したのは
1953年のことです。古細菌よろしくレゴにもご先祖様があり、プラスチック製でポッチの付いたブ
ロックはオートマチックバインディングブロックとして1949年に登場しています。側面にスリット
が入った構造は初期のレゴも変わりなく単に名前が付いただけのようです。しかしデンマーク語で
「よく遊べ」を意味するLEG GODTから取られたこの名前を与えられ、その願い通りに玩具として人
気を博すようになるのは1957年裏面のチューブの発明によりポッチの結合が安定してからのことで
した。



動物と植物

 レゴファンの聖地レゴランドというテーマパークがデンマークのビルンにあります。最近はイギ
リスのウインドソー、アメリカのカリフォルニアにも出来ました。日本の幕張にも建設予定があっ
たのですが折からの景気低迷で延期となり、ドイツが先行するようです。そこには何万、何十万と
いうブロックを積み上げて作られた世界の名所のミニチュアや動物、人物像等が展示されています。
「こんなに部品がったらなあ」と溜息混じりにモデルにどんどん近づいていくと、整然と積み上げ
られた積分構造とも言うべき基本ブロックのなす壁面に理科の時間に顕微鏡で覗いたタマネギの皮
が思い出されます。細胞壁で区切られた細胞が並ぶ植物のような展示モデル。それに対して感覚器
を備え、外界の状況に対応して動作を変え、動き回るMindstormsは明らかに動物の範疇にあります。



進化の刻印:分子進化と部品進化


 蛋白質には多くの生物種間で保存されている領域と変化している領域があり、アミノ酸配列の変
化を辿って分子進化の過程を推定し類縁関係を定量的に検討することが可能です。レゴにおいても
部品の進化があります。2x4の基本ブロックさえも裏返すとチューブの形状や内縁の滑りどめの
有無などから様々に金型が改良されたことが分ります。素材も1963年にはセルロースアセテー
トからABS樹脂に変わり、70年代には黄色と赤の発色剤に含まれていたカドミウムを含まないよう
にしているためか、古いレゴはちょっと色が違います。
 さてMindstormsへの進化を植物から動物への進化に重ねてみましょう。動物が動くためには何が
必要かというと筋肉やモーターなどの出力装置、感覚器やセンサー等の入力装置、脳・神経やRCX・
接続ケーブル等の情報処理・伝達装置、そして出力装置を支持する骨格構造です。これらの部品進化
とは・・・



出力装置の進化:ひかりは西に、電化は汽車に


 レゴの系統樹を見ていただくと、動物系統では我らがMindstormsは当初エキスパートビルダーシリ
ーズと呼ばれていた1977年に登場したテクニックシリーズの流れを組むことは明白ですが汽車セット
とも近縁です。コンピューター制御を特徴とするMindstormsにとってモーターは必需の出力装置です
が、モーターや電気関係の部品の規格はあくまで汽車セットが基本でした。
 1966年にはバッテリーカー用の4.5Vモーターが、また1969年には中央集電式の12Vモータが登場し
ましたがその後電源コネクターの形状、レールの形状なども部品進化を進め、第2期の汽車セットでは
信号、踏切、運転制御まで高度にリモコン化され、メルクリンの旧システムに匹敵する完成度に達して
おりました。第3期では中央集電レールを廃し、金属レールと金属フランジから集電しています。恐る
べきことには60年代にはすでにリモコンが存在し、特殊なホイッスルの音で運行を制御する汽車まであ
ったのです。汽車セット用モーターでは摩擦力を稼ぐためにウエイトが入っており大きくて不格好だっ
たのですが、最近は感動的な小ささで回転速度も手頃に低速のマイクロモーターやRIS付属の#5225コア
レスモーター等独自のモーターが出てきました。
 出力系としてはニューマティックと呼ばれるエアシリンダー機構もあります。ポンプはモーターで回
すことも出来るようになりましたが切り替えバルブのレバーが固いので手動操作となります。パワーと
レスポンスが魅力なので電磁バルブ等が出来ると一層Mindstormsとの親和性が高まと思われます。
 概念的にはライトも出力系ですが1957年にはライト部品が出現しておりレゴの電化の早さに驚きま
す。



入力装置と情報処理・伝達装置:神の見えてる手

 最も単純な入力装置は電池ボックスのスイッチでありタッチセンサーの一種と言えるかもしれません。
そうなると入力装置の起源は1966年のモーターセットの登場に端を発するのかもしれません。1970年に
登場した歯車セットでは特に入力装置の進歩はなく、当時の無骨で頑丈な歯車を現在のスライザーシリー
ズのディスクのように飛ばして遊んでいた記憶があります。
 さて地球生命の誕生に神様の意志が関わっていたかどうかは信心の乏しい私の知るところではありませ
んが、レゴの世界には何人かの神様みたいな人々が関わっております。創造主オーレ・キアク・クリス
チャンセンとその子供でレゴのポリシーを方向付けたゴッドフレッド、孫でシリーズを拡張していったケ
ルに対し、センサーやコンピューターとの接続は、Mindstormsの名前の由来である著書と教育用コンピュ
ーター言語のLOGOの開発者シーモア・パパート、その元でLEGO-LOGOを開発しMindstormsの原型とも言う
べきLOGOブロックを作ったMITメディアラボのフレッド・マーティン、そしてMindstorms展開の立役者オー
フス大レゴラボ所長のヘンリック・ハウトップ・ルンドらによるもので、かれら異世界からやってきた神々
との交流の賜物と言えるでしょう。MindstormsはもともとLOGOを用いてLEGOをコントロールする教育プロ
ジェクトのLEGO-LOGOの延長線上にありました。LEGO-LOGOの成果の一部は3チャンネルのモーターの50ス
テップの動作を記憶する「コントロールセンター」として商品化されました。また動作入力を簡便にするた
めバーコードを利用した物もあります。しかしパパートが目指した教育に必要だったのはマイナーなコン
ピューター言語を習得させることではなく、プログラミングとモデリング、頭と手、バーチャルとリアルの
統合を経験させ、現実に即した問題解決能力をトレーニングすることにあったと思われます。その意味では
LEGO-LOGOでは焦点が絞りきれなかったのかもしれません。そこでMindstormsは課題をロボット製作に特化
し、創造のモチベーションを高めることに成功したのです。



骨格構造:新しい結合様式と内骨格


 ポッチとチューブにより垂直方向に積み上げられた基本ブロックが細胞壁のような構造であることは先に述
べました。しかし1970年に歯車とともに登場した基本ブロックにはシャフトを通す穴が空いていたのです。
それは側面の可動性のある結合を可能し、レゴに全く新しい結合様式を与えたのです。穴あきビームは軸の支
持材となり、内骨格構造を可能になりました。モデルチームシリーズとテクニックシリーズ、ともに精密な自
動車モデルを作っていながらあまりにも違うその様子はまさに植物と動物の違いなのです。



生命の寿命:ダークエイジ


 生物は単為生殖による無限の生命に対し環境適応性を高め、繁栄を得るための代償として有性生殖による有限
の生命へと進化しました。レゴもまた無限に近い部品寿命と数年で果てる製品寿命の中で生きているのです。ポ
ップでデジタルな造形素材として高い完成度を誇るレゴですが商品として重大な問題が内在していました。基本
ブロックだけでは量的需要のみに頼らねばならず、やがて購買意欲の減衰は避けれられません。「飽きられるこ
と」を恐怖しているレゴの商売としての肝要はいかにして特殊部品を買わせるかと言えます。そのために幾多の
シリーズを生み、目先を変え、定番を作りなおし続けるのです。そしてあなたが最後にレゴをしまった日、それ
がレゴの命日なのです。レゴコレクターの間では「ダークエイジ」と言われているレゴのコレクションが途絶え
る時期があります。ティーンエイジになるとブロック遊びから離れ、音楽、パソコン、スポーツやデート、塾通
い等に忙しくなってしまうのです。世界の人口が60億を突破する一方、高価なレゴの主要な購買層である先進国
の小児は減少しています。購買層の実質的な減少に歯止めをかけることがレゴ社にとって火急の課題であること
は想像に難くありません。プラモデルに対し形態で挑んだのがモデルチームシリーズであり、ギミックで挑んだ
のがテクニックシリーズでしたが、これらはダークエイジ対策としてローティーンからミドルティーンへのレゴ
愛好寿命の延長を計ったものなのです。更にレゴウォッチを初めとするレゴグッズの拡大もファッションとして
のレゴの可能性を広げようとしています。そして教育現場への浸透とコンピューターとの融和、ハイティーンか
ら成人を巻き込むダークエイジ対策の切り札がMindstormsだったのです。



外部環境との相互作用:レゴドクトリンの変貌

 レゴ進化の年表を外界との相互作用の点から大まかに60年代の黎明期、70年代の自己完結期、80年代の競合期、90年
代の対象拡大期と分類することもできます。レゴの製品開発部門はフツウラと呼ばれ厳重な情報管理で有名です。コペン
ハーゲンとビルンドにしかなかったフツウラはミラノ、東京、ボストン、ロンドンとその数を増しました。そのフツウラ
のぬし、「レゴの宣教師」と称された出版・映画部門担当のオーラフ・ダム氏の1986年の急死とフツウラの増加がレゴを
世界戦略企業に変貌させたのかもしれません。スターウォーズやクマのぷーさん・・・1999年、グローバリゼーションに
耐えるパワーを得るために業界トップ同士が合衝連衡する世紀末の企業再編トレンドに、世界の冒険シリーズによる免疫
も怠りなく遂にレゴはキャラクタービジネスへの参入を明らかにしました。玩具界の雄レゴ社もディズニー、スピルバー
グと組まなければならない時代になったのです。ゲームや映画の関連商品の売り上げがソフト自体の売り上げや興行収入
を上回る御時世に「栄光ある孤立」の時代は過ぎ去ったのです。SWシリーズはダークエイジへのもう一つの切り札でした。
ドロイドデベロップメントキットはMindstormsとスターウォーズの融合と言う意味でレゴ世界戦略の象徴と言えるでしょう。



ウイルス登場:簡素化という道

 本来の購買層である小児の遊びの環境は急速に変化しています。家庭用テレビゲームの普及によりその数千円のソフト
の価格はレゴの価格帯と真っ正面から競合します。自ら創造する作業は楽しいが面倒なことです。与えられた課題をクリ
アするテレビゲームよりも積極的に問題点を見出し解決しなければならない点でレゴは教育的効果はのみならず敷居も高
めてしまうのです。今や多忙な子供達は細かい部品をちまちま組み立てている時間などありません。それが街シリーズの
簡略化や城壁、岩肌など本来は基本ブロックで組み上げていた物の一体化、特殊な形態の部品の頻用につながっています。
あたかも生命の定義に切り込む勢いでウイルスが単純化していったように。



進化の先にあるもの:霊体化?

 街シリーズのウイルス化と複雑化の頂点に立つMindstormsシリーズ、二つの進化の方向を示してきましたが今後レゴ
はどこに向かっていくのでしょうか。パソコン不要の独立コントローラー:スカウトや更に簡略化されたマイクロスカウ
トの登場、pHや脈拍まで測れるセンサーの充実で集中治療室の生命維持・監視装置が再現できてしまいそうです。発売
が延びているマーズパスファインダーは網膜センサーチップを載せて画像認識能力を持つとも言われています。DOS/V
パソコンでも組み立てるようにCPUブロックとかハードディスクブロックは出るのでしょうか。一方ヘッドマウントディ
スプレーとグローブを用いたSGIで人気のバーチャルレゴはお片付けや部品不足から解放してくれるかもしれません。し
かしデジタル時代のリアリティーがレゴの存在意義になりつつあり、スタートレックのホロデッキ並みのVRが完成した
時ようやく私達はABS樹脂のために石油を消費しなくなるのかもしれません。その時レゴ社はバーチャルな部品使用許可
の暗証番号をネットワークで販売し、石油資源保護のためにレゴ部品の資源回収を行っているかもしれません。



生々流転:想像力の遺伝

 レゴの部品達は20年、30年の時を経てなお現役で働き続けます。昨日のトラックの荷台は今日には分解され、また明日
にはロボットの腕になっているかもしれません。親から子へ命を繋ぐように想像力を繋ぐ、そんなことを夢見てレゴの部
品達は押入に眠っているのでしょう。たとえどんなに進化しようともポッチとチューブのある限り・・・。


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