陽気婢

 黄緑色のえっちマンガ印の2人目は陽気婢である。えっちマンガでぼくがファンな作家で単行本がでたら絶対に買う人は3人いる。みやもと留美と、この陽気婢と、もう一人は次に単行本がでるまでのおたのしみ(だれも待ってないって?(^_^;))
 自分の子どものしつけも満足にできないヒステリー気味のおばさんたちにはひとまとめにされてしまう成人向けマンガではあるけれど、もちろんその中には様々なジャンルがあり、そしてすばらしい作家もいればどうしようもない作家もいる。ぼくは陽気婢を抒情派えっちマンガ家と勝手に読んでいる。そして抒情の面では第1級の作家である。ただ、惜しむらくは、長編ではあまり成功していない(;_;) そのかわり、短編では珠玉の作品をたくさん作っている。
 「弟の鍵」という初期の作品がある。
 病気で入院している中学生の弟が、姉に「机の鍵のかかっている引き出しに入っている本を燃やして」と、鍵をわたす。姉がその引き出しをあけてみると、えっちな雑誌が入っている。弟はもういくばくも生きられない。それを知ってか知らずか、父や母に見せられないからと、本当は恥ずかしいのだけれど姉に頼む。その夜、弟の引き出しから持ち出したえっちな雑誌を見ながら「あほ法男……」とつぶやく姉は、次に病院に行ったとき、弟の病室に鍵をかけ、自分を触らせてあげてさらに口でしてあげたあと、ベッドで弟を抱きしめて「大好きやで……、法男」とささやく。最後のページは、河原で本を焼き、「でも 法男がくれたあの鍵 わたしがずっと持ってるよ…… ずっと……」という姉のモノローグで終わる。たった12ページの小品だが、陽気婢の抒情性があますところなくあふれでた名作である。いま、この文章を書くために読み返したのだが、死の病であることも、実は弟が死んだことさえ、何も書かれてはいなかった。全ては暗黙のうちに示されただけなのだった。あらためて陽気婢という作家のすばらしさを再認識してしまった。
 ぼくが個人的に気に入っているのは「リハーサル」という作品だ。幼なじみの明弘と真紀だが、明弘には年下のガールフレンドが出来てしまう。真紀は泣く泣くあきらめたのだが、そんな気持ちに気づかない明弘は、真紀を部屋に呼んで、このまえ初めてアレしようとしたんだけどうまくできなくて、それ以来彼女とぎこちない。どうしたらいいだろう、と真紀に相談する。まねごとでリハーサルしてみることになり、途中で、相手の名前を呼んであげたり、ぎゅっと抱きしめてあげたらいいよ、わたしを里見ちゃんと思って呼んでごらん、と助言するが、まねごとで服を着たままとはいえ、大好きな明弘と抱き合い、顔を赤らめてベッドに横たわる真紀を見た明弘は、「あかんて…… やっぱり真紀は真紀やわ……」と、リハーサルを続けることができない。幼なじみとして抱きしめる明弘に、真紀は「そうかなあ。わたしは…… あの子になりたいんやけどなぁ」とつぶやき、涙を流す。幼なじみとしてであれ、そして服を着たままとはいえ、ベッドで抱き合っている真紀のモノローグ「このまま…… もうすこしこのままで……」で、16ページの短編がおわる。
 実は、最初に書いたぼくが好きな3人目の作家も、これと同様の作品を書いている。ただし、長編作品の連載のうちの1回としてで、そっちは2人で家を出たところに、後をつけてきた恋人が誤解して待っていて、びんたとともに去って行ってしまうのだけど(^_^;) もしかしてこれで3人目がわかっちゃった人もいるかな?(^_^;)

「えっちーず3」

ワニマガジン社 ワニマガジンコミックス  ISBN4-89829-342-5 505円 1998/03/01 (1)
 月刊コミック誌「COMIC快楽天」に掲載された短編を集めた3冊目。上に紹介した初期作品と比べて、大分線が細く柔らかくなった。今回この文章のために初期の本を読み返して見てあらためて感じた。

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MAN HBE03015@nifty.ne.jp
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