シベリウス

交響詩「フィンランディア」
 北欧の国フィンランドは、もともとスウェーデンに従う大公国でしたが、19世紀初めにロシアがスウェーデンに侵入したため、ロシアの支配下におかれました。はじめは大公国としての地位は残っていたものの、19世紀後半、ロシア皇帝ニコライ1世・ニコライ2世の時代になると自由がつぎつぎに奪われていき、急速にロシアの属領と化していきました。そのため、フィンランドでは愛国独立運動が盛んになり、その運動の一環として民族歴史劇の上演が行なわれました。この上演のためにシベリウスが作曲した音楽のうちの終曲が、上演後まもなく交響詩として改作され、今日演奏する「フィンランディア」となりました。
 この曲が、フィンランドの人々の愛国心をあまりに呼び起こしたため、ロシアはこの曲のフィンランド国内での演奏を禁止してしまいました。演奏時間が10分にも満たない、しかも具体的な歌詞もない音楽が、それほどまでに聞く者の心を動かすというのは、まさに音楽の力ということなのでしょう。
 曲のはじめの重々しく、大変厳しい部分は、フィンランドの民衆の苦難と悲嘆を象徴していて、それは闘争と勝利への希望を表す華々しいクライマックスへ続きます。その後、大変美しい旋律が表れますが、この旋律は後に歌詞をつけられ、フィンランディア賛歌として歌われ、現在ではフィンランドの国歌に準ずる曲とされています。
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交響曲第2番ニ長調
 再びシベリウスの作品です。シベリウスは7曲の交響曲を作曲しています。第1交響曲はドイツ・オーストリアの正統的な後期ロマン派やチャイコフスキーの交響曲の影響を受けた作風ですが、徐々に独自の作風を確立して行き、最後の第7交響曲に至っては、たった一つの楽章という凝縮された構成になっています。これは、単に楽章を続けて演奏するといった次元のものではなく、本来の交響曲の4つの楽章が持つ全体の構成の中での役割というようなものを全く捨て去って、1曲の交響詩か幻想曲といった構成になっています。
 まあ、そんな先のことはおいといて、今日演奏する第2交響曲ですが、この曲はシベリウスの田園交響曲とも呼ばれています。ベートーベンの田園交響曲がドイツの森をイメージしているなら、シベリウスの田園はフィンランドの針葉樹と湖の田園です。空気が澄みきっていて、キーンと音がするような。とはいっても、どことなく明るい雰囲気があるのは、この曲を作曲した年に、シベリウスが地中海地方に旅行したからかも知れません。そう聞くと、どことなくメンデルスゾーンの第3交響曲「イタリア」を思いだしたりしてしまいます。
 作曲家によって、たとえその曲を聞いたことがなくても誰の作曲した曲だかわかることがあります。旋律や和声に特徴がある場合もあります。たとえばモーツァルトの曲はその簡潔な美しさで。また、オーケストラの楽器の使い方でも分かってしまうこともあります。ブラームスは中低音、特にビオラの響きでわかります。シベリウスもこの部類です。オーボエとファゴットが、他の作曲家の使い方と明らかに違うのです。使い方というよりも、作曲家にとっての楽器の音色のイメージが違うのかもしれません。中高音域の甘く艶のある丸い音色ではなく、それよりオクターブ下の、より生の音色がシベリウスにとってのオーボエやファゴットの音だったのでしょう。シベリウスの音がいかにも北欧を思わせる涼しげな音なのは、オーボエ・ファゴットを中心に、管楽器の低音域の多用によるものです。
 第1楽章は、弦楽器の単純だが美しい「伴奏」ではじまります。モーツァルトの40番のト短調交響曲も伴奏で始まりますが、こちらの伴奏はそれが主題だといわれても納得できる美しさです。この伴奏に乗ってオーボエの2重奏の軽快な第1主題と、クラリネットによる陰鬱な第2主題、そして伴奏のリズムに似たジグザグの旋律によって強弱・緩急をきわめた展開をし、最後はまた伴奏で終わります。
 第2楽章は、低弦のピチカートに乗ってファゴットが奏でる暗い旋律と、弦楽器の重く冷たい水面を思わせる旋律とが中心になっているゆっくりとした楽章。
 第3楽章は、弦楽器が細かく旋律を刻む高速の部分と、ホルンとファゴットの和音の上でオーボエがゆったりと歌う部分との対比が著しい。そして、続けて演奏される第4楽章は、大胆な楽章だ。冒頭の第1主題は木管の和音とトロンボーンの単純な合いの手と低音の単調なリズムにのって、弦楽器が、トランペットが、ホルンが、まるで日本の石庭の石のように思い思いに、それでいて絶妙の調和をもって登場する。楽章の後半ではラベルのボレロよろしく延々と繰り返される短調の旋律が、最後の最後で長調になる。実際にはたった2つの音が半音上がるだけだ。しかしそれが、重苦しい圧力からの開放のように感ずるのである。
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