ロッシーニ

スタバトマーテル
 スタバトマーテル(Stabat Mater)は、十字架上の我が子キリストを仰ぐ聖母マリアの哀しみの心を表現した祈祷文です。多くの作曲家がこの曲を作曲していますが、一番有名なのは18世紀前半のイタリアの作曲家ペルゴレージのものでしょう。ロッシーニも若い頃この曲を聞いて、すでにこのような名作がある曲は自分では作曲すまい、と決心したそうです。
 しかし、ロッシーニの自筆譜を欲しいという熱烈なファンから、法外な委嘱料で作曲を依頼されると作曲を始めてしまいます。そして、10曲のうち6曲作曲し終わった時に腰痛のため続けられなくなり、友人の作曲家に残りの4曲を作ってもらいました。個人で秘蔵してしまうのだからいいだろうと思ったからなのですが、その依頼主がまもなく死去してしまい、遺族の手で楽譜が出版者に売却されてしまったから大変です。ロッシーニは出版を差し止めておいて、急いで残り4曲を自分で作曲しなおし、正真正銘ロッシーニ作曲となったのですが、今度はそれを別の出版社へ売ってしまい、裁判沙汰になってしまいます。この顛末を作曲すればりっぱな喜歌劇になりそうな話です。
 オペラの作曲家であるベルディの「レクイエム」はまるでオペラのように華麗でドラマチックですが、この曲も同様にオペラ作曲家らしいものとなっています。
(以下に歌詞)
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「アルジェのイタリア女」序曲
 ロッシーニは、76才という長い生涯のうちの前半の37才までの間に38曲のオペラを作曲してヨーロッパ全域で大人気を博したあと、後半生ではほとんど作曲をしていないという変な作曲家です。最後のオペラが有名な「ウイリアム・テル」で、37才の作品。彼の最大傑作と言われている「セビリアの理髪師」はなんと24才の作品。そして、本日序曲を演奏する「アルジェのイタリア女」は21才の時の作品です。
 こうして見ると、ロッシーニはモーツァルト並みの天才青年であったわけですね。
 歌劇は、アルジェリアの大守のハーレムを舞台に、海賊にさらわれて奴隷として連れてこられたイタリア娘イザベラが巻き起こすドタバタ喜劇です。ロッシーニの歌劇の序曲の常として、序曲は劇中の音楽とは特に関係はありません。美しい旋律の序奏部のあと、軽快で生き生きとした旋律が、劇の楽しさを予感させます。
 余談ですが、ロッシーニの序曲は軽快で楽しい曲が多いのですが、演奏は非常に難しいのです。なにしろ、ウイリアム・テルの序曲などは、その曲を取り上げたアマチュアオーケストラは潰れるという言い伝えまであるほどですから。
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歌劇『絹のはしご』序曲
 ロッシーニは多くの歌劇を作ったために、似た名前の作品もあって、例えば『絹のはしご』と『絹のきざはし』というとても紛らわしい2つの歌劇があって……、というのは真っ赤なウソ。単に歌劇の題名を日本語に訳すときに違う言葉を使っただけで、同じ歌劇のことです。「きざはし」というのは、「刻む」と「橋」の合成語で、階段のこと。でも絹で階段など作れませんよね。実際の歌劇で登場するのは、恋人が入ってこられるように窓から垂らした縄ばしごなんだそうです。ストーカーによる犯罪が騒がれている今の日本では、夜中に窓から縄ばしご(しかも絹製!!)をたらすなんて考えられないことですが。
 この序曲は、ロッシーニの他の序曲と同様に、ゆっくりの序奏のあと、速く軽快な主部がはじまります。でも、言うは易し行うは難し。速度が速いというのはつまり、演奏が難しい、しかし軽快な感じを出さなければならない、ということですから。
(泉11)


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