ニコライ

歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
 作曲者のニコライは、19世紀半ばにウィーンの宮廷楽長となってウィーン・フィルハーモニーを設立しその初代指揮者となった人です。演奏家としてだけではなく歌劇の作曲家としても活躍し、この「ウィンザーの陽気な女房たち」は彼の代表作です。この歌劇の原作はシェイクスピアの同名の喜劇で、主人公はファルスタッフ。イタリア歌劇の大御所ヴェルディの最後の作品「ファルスタッフ」と同じ原作に基づいた歌劇です。
 ニコライはウィーンの後、ベルリン王立歌劇場の楽長にもなったというベームとカラヤンを足して2で割り忘れたような音楽家ですから、ドイツ音楽、歌劇で言えばモーツァルト・ウェーバーのドイツ歌劇の後継者であるのは当然のことですが、若き日にローマで長く過ごしたこともあって、イタリアの喜歌劇にも充分通じていたのです。従って、彼の作品にはドイツとイタリアの要素がミックスされていて、華麗かつ優美、洒脱かつ荘重という魅力に溢れたものになっています。そしてその特長が充分に発揮されているのが今日演奏する序曲なのです。
 序奏はゆったりとした美しい旋律で始まります。イタリア人なら昼寝しそうな、いかにもドイツ田園風。主部では3つの主要な主題の1つめが劇中のバレエ音楽、3つめが劇のクライマックスの舞曲の旋律です。3つめの主題のあと、トロンボーンの音階が出てきたり感極まった大詰めでは3連符になったりと、まるでロッシーニの序曲かと思うくらいイタリア風なのですが、なんといっても美しいのが序曲だけに現れる第2主題。朗々と歌われるこの旋律は、中間部(展開部)ではちょっと粗野な(下品な?)旋律と交互に現れてその清らかさが一層強調されています。
 ニコライはこの歌劇の初演の直後、38才の若さで死んでしまいます。その後、ほぼ同年代ながら長生きしたワーグナーやヴェルディが次々と傑作を発表していくわけですから、ニコライももっと長生きしてくれたら、もしかしたら元祖名指揮者兼大作曲家の座をマーラーやリヒャルトシュトラウスから奪っていたかも知れません。
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