グリーク

二つの悲しき旋律
 グリークはヴィンイェの詩による12曲の歌曲を作曲し、歌曲集としてまとめました。そのうちの2曲を弦楽合奏に編曲したのがこの曲です。元が歌曲でもあり、また、題名が「旋律」となっているくらいですから、主題を展開するとか、転調するとかの普通の器楽曲のような技法は使わず、歌の旋律を2〜3回繰り返すだけの曲なのです。伴奏の形や、旋律の音域や楽器をかえることで変化をつけています。こう書くとラベルのボレロを連想するかもしれませんね。しかし、ボレロが大管弦楽なのに比べてこちらは弦楽合奏です。グリークは、単純な旋律、単純な楽器編成で聴く人を惹きつける名人なのです。その代表が、ペールギュントの中の「オーセの死」でしょう。弦楽器だけで、しかも楽譜を見ると本当に、ほんとに、単純なのですが、名曲なんですよね。
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ピアノ協奏曲
 グリークはノルウェーの作曲家です。北欧の作曲家と言えばシベリウスが思い浮かびます。2人に共通する印象というと、透き通った美しさではないかと思います。シベリウスの第2交響曲や、ペールギュントの「オーセの死」の透明さには感動します。この2人だけで「北欧の作曲家は…」と決めてしまってはいけないのですが、北欧の作曲家の曲には透き通った美しさがあります。:-)
 グリークはピアノの名手でもあり、「北欧のショパン」と呼ばれていたそうです。ピアニストの分類に「ショパン弾き」というのがありますね。テレビでショパンコンクールの番組を見ていたら、「ショパンはピアノという楽器の能力を最大限に引き出した作曲家である」と審査員が話していました。ピアニストにとって、自分の愛する楽器のすばらしさを存分に表現できる曲は魅力があるんだろうなとその時感じました。実はピアノを弾けない私はショパン曲をあまり聞きません。買ったことのあるピアノ曲のレコードはグールドとグルダのものだけですし。もしもピアノが弾けたなら、ショパンの良さがわかるのでしょうね。
 さて、「北欧のショパン」グリークの代表作であるこのピアノ協奏曲は、北欧的な澄んだ美しさとピアノの特長を生かした表現、そして自身がピアノの名手であって初めて可能な技巧とが曲中にちりばめられた名曲ですが、何といっても一番有名なのが第1楽章の冒頭です。ティンパニのクレッシェンドのあと、全合奏での和音とともに独奏ピアノがカデンツ風に出現するのが衝撃的であり、印象的ですね。
 曲の冒頭から独奏ピアノが出てくるピアノ協奏曲で有名なのものには、この曲の他にベートーベンの皇帝、チャイコフスキーの第1番などがありますが、これらの曲はみんなテレビのCMに使われているんですね(現在放送されているかどうかは知りませんが)。有名な曲だから使われているのですが数十秒という短い間が勝負のテレビCMにとって最初のインパクトが強いというのが大切なのだろうと思います。その点、チャイコフスキーの最初のホルンのメロディーとそれに続くピアノの和音に乗った堂々たる旋律は捨てがたいですし、それにもましてグリークのインパクトはCM業界公認の強烈さなのです。
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ホルベルグ組曲
 この曲は正式には組曲「ホルベアの時代から」と言います(“Fra Holbergs Tid”)。ホルベアというのは、「デンマーク文学の父」と呼ばれる、18世紀前半に活躍したルドヴィ・ホルベア男爵のことで、当時のデンマーク・ノルウェーの啓蒙君主フレデリック5世に寵愛された人です。彼は、晩年に全財産を文学振興のために提供したため、尊敬をうけていて、生誕200年にあたる1884年には記念祭も行われました。その記念祭のために、グリークはピアノ独奏曲としてこの曲を作曲しましたが、翌年には本日演奏する弦楽合奏の形に編曲しています。ホルベアの活躍した時代の宮廷の雰囲気にあわせて、バロック調の優雅な組曲です。
 バロック時代の組曲の形式に倣って、最初に前奏曲があり、第2楽章はゆっくりとした3拍子のサラバンド、第3楽章はミュゼットを中心にはさんで軽快な2拍子のカヴォット、終曲は早い2拍子のリゴードンと、いろいろな舞曲を組合わせています。ただ、第4楽章のアリアは、バロック時代とは違って短調の曲で北欧的な雰囲気を出しています。
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