フランク

交響曲ニ短調
 古典派の枠組に収まりきれなくなった19世紀の音楽は、自然・風土や、詩や、文学や、思想や、果ては絵画までを取りこみ、取りこまれ、融合して……などと書き始めては後が続かない。くだけて言うと…。モーツァルト・ベートーヴェンあたりに先を越されて何か新しいことをしなければならなくなった後の時代の作曲家は、標題音楽から交響詩へ、歌劇から楽劇へ……といろいろ新しいことを考えていましたが、教会のオルガン奏者であり、信仰心厚く敬虔な作曲家フランクは静かにバッハやベートーヴェンを研究し、フランスに古典的な純粋音楽を復興させようと努力していました。この、時流に反した努力は当然の事ながらフランクの晩年まで一般に評価されませんでしたが、彼の人間性や芸術観に心打たれた音楽家たちが彼のまわりに集まり、フランキストと呼ばれるようになりました。
 古典派の音楽に何も付け加えずに作曲していたのでは単に時代遅れの作曲家であり、現在まで名前や作品が残っているわけがありません。フランクが付け加えた彼独自のものは、転調と循環形式でした。
 近親調と呼ばれる、五度上の属調、五度下の下属調、調号が同じ長調短調の平行調への転調は最も基本的な転調として以前から多用されていました。しかしフランクは三度の転調を多用しています。そして転調の多さをドビュッシーに非難されたほど頻繁に行なうのです。
 もうひとつの循環形式は、本来、1つの楽章の中だけで使用されていた主題を、各楽章にまたがって使用することで曲の統一を図るもので、有名な例としてドボルザークの新世界交響曲があります。新世界交響曲の最終楽章では全楽章の主題が出そろい、全部同時に演奏される所さえあります。フランクの交響曲では、第1楽章冒頭の、3つの音による主題がそこかしこに現われますし、第2楽章のイングリッシュホルンの旋律が第3楽章で突如現れたりします。
 この交響曲は珍しく3楽章でできています。第2楽章が通常の第2・第3楽章の2つの部分を含んでいて、イングリッシュホルンのソロのある部分が第2楽章で、弦楽器が細かく動く部分が第3楽章にあたります。そして、この楽章の後半ではこの2つの旋律が同時に現れるという凝った構成になっています。
 しかし、このような技術的なことをいくら言ってもこの曲の本当の素晴らしさは分りません。何と言っても随所にちりばめられた美しい旋律や、心の洗われるような澄みきった和音が最高です。
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